「雨鏡」
はだけた寝巻かき合わせ
とろとろ眼を窓へ向ける
紅殻格子を透かして見る
わたしの眼は外を見る
しづかなる卯辰山のあじさい
雨ふる故郷
しらゆきの名残の浅野川
姉さまの白い紅差指
わたしの唇に赤くいたづらなさった
わたしを連れてお墓参り
相合かさの紫の下
幼いわたしの手をにぎる
町を歩く影は見えず
およそこの世に二人きり
お墓は深い山の中
あじさいはなまめき濡れて泣くばかり
墓の前で佇む姉
わたしは何も分らずに
雀を探して首かしげ
だけれど手からは離れずに
姉の横顔を見なかった
お墓は深い山の中
姉さまのおうつくしいお顔には
白い夕顔一輪かさなって
姉さまは傘をさすけれど
夕顔は傘をささないから
あじさいみたいにしとしと濡れて
だけれどお墓は静かでした
「姉さま、だれのお墓なの?」
問うたわたしに顔見せず
姉はわたしを抱きしめた
姉は雨に打たれてた
わたしも雨を浴びていた
傘はお墓にもたれかかって
刻まれた文字は紫の下…
「雨鏡」