狐月の継承者
1st mission : 日常
ーーただ 平凡な毎日。
人の人生なんて変わりない。
変わらない朝 変わらない昼 変わらない夜。
私の人生なんてそんなものだと
思い始めていた....。
そんな他愛のないある日
....あの日から変わっていたんだ。
何もかも...アイツらのせいで...。
お父さんもお母さんも
すべて奪っていった...
...「狐月」のやつらのせいで...。
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「いらっしゃいませっ!」
「いつも元気だねぇ、陽ちゃんは」
常連さんのおばあさん。
この人が並んでくれると
心がなごむんだよなぁ…。
「おばあちゃんに元気
分けてあげようか?」
「ううん、いらないよ。
陽ちゃんの笑顔が見れたら
おばちゃん元気になれるから」
「そっか...じゃあずっと笑っててあげるねっ!」
「ありがとうね」
笑顔でおばあちゃんを見送ったあと
私はカウンターに戻って
仕事を終えることにした
「お疲れさまでしたっ!」
「「おつかれー」」
従業員の皆に挨拶したあと
外に出ると、チラチラと
粉雪が降っていた。
電灯の光に当たって
降る雪はとてもきれいだったが
ただとても寒かった。
「うぅ...寒い..」
手に息をかけながら
店の裏に回り、裏口から店に入った。
「んっ、もう終わったのか?」
「はい、今日はこの時間まででして」
この人はこの店の店長で
いまはこの人「達」と暮らしている。
「あれ?奏太達は?」
「あっ?今買い物に向かってるみたいだぞ?
もうすぐ帰ってくると思うがな。」
その言葉が言い終わると同時に
女性と子供が入ってきた。
「たっだいまー!」
「奏太と女将さんおかえりなさい」
「ただいま」
そう、いまの私はこの「家族」で
暮らしている。
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カーテンの隙間から
心地よい光が差し込む...
「...朝...か」
気だるい体を起こしながら
眠たい目を擦りながら
裏口を出て正面の入り口に向かった。
「カフェ...伝書鳩」
そう、それがこの店の名前。
いまの私がお世話になっている場所で
仕事先でもある。
「おっ、陽ちゃん早起きだね」
「彰さんっ」
私の二つ上の男の人。
同じ高校の先輩で
卒業もしている。
あのときは泣いたなぁ。
「まだ開店時間じゃないけど?」
「うんっ、冬休みだし手伝いたいなぁって」
「そっか、偉いな」
私の頭を撫でて、彰さんは
店に入っていった。
私もそれを追いかけて
入っていった。
別々に更衣室に入って
作業着に着替えた。
頭には緑のバンダナ
白のワイシャツに緑のエプロン
白のリースのついた紺のスカート
彰さんは当たり前だけど
スカートじゃなくてズボン
「まだ時間があるし、掃除でもしておくか」
「そうだね」
カウンターにある掃除道具を手に取り
椅子をテーブルにひっくり返して乗せて
その下を手早く掃除していった。
「最近ニュース見る?」
「えっ?」
「最近夜中に通り魔が出るらしいぜ?」
「こんな町にも出るんだね...」
そんなに豊かな町でもない
この町にそんなのが出るんだ...。
「だから陽ちゃんも気を付けろよ?」
「私は大丈夫だよ?」
手を止めてほうきで構えた
「護身術を店長に叩き込まれたからねっ」
「振り回したら怒るよ」
「...。」
「あの事件からか? 店長に護身術を叩き込まれたの」
ほうきをもとの場所に戻しながら
彰さんは聞いてきた。
「...ですね。」
「...ごめん、悪気はないんだ」
気づいてなかったけど
私はいつの間にか涙目になっていた。
「あ、おつかれー」
そういいながら階段から
誰かが降りてきた。
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階段から降りてきたのは
ラフな格好の女性。
「雫さん、今日は朝からですか?」
「まぁねー、休日ぐらい働こうかなって」
すると彰さんは冷静な顔で
「雫さんは毎日休日みたいな
ものじゃないすか」
「んー、細かいこと気にしなーい」
雫さんは人柄とか性格とかは
好きだけどこんな大人にはなりたくないな...
「陽ちゃんも私みたいに
ならないように.「なりません」...だよね」
苦笑いをして、雫さんが
更衣室に向かった。
「まぁ...そのうちここ以外に
仕事を見つけるよ。けどね...」
更衣室のドア越しから
さっきとは違う
真面目で優しい声が聞こえた。
「あたしはここが大好きだからね...
どうも離れたくないのさ...」
「...それはここで働いている人みんな
思っていることだろ?」
「...そうだったね」
暫く心地いい沈黙が流れた。
それぞれの思いを考えながら。
その沈黙を破るように
更衣室のドアが勢いよく開いた。
「さぁーって! ジメジメした空気はおしまいっ!
今日も頑張るよっ!」
「先に切り出したの雫さんじゃないですか...」
「気にしない気にしない♪」
狐月の継承者