zoku勇者 ドラクエⅢ・その後編 エピ49~52

今回より物語も後半突入、舞台も再び上の世界へと移ります。

エピ49・50

再び、上の世界へ

「悪しき者……、栄える城……」
 
「これはゾーマ城の事じゃないかなあ……、そうとしか考えられないよ……」
 
「けど、もうあそこも廃墟だぞ……」
 
「でも、アルの言う通り、悪しき者、栄える城って、私も
ゾーマがいた城しか思い浮かばないわ……」
 
「……」
 
「結局、この本て何なんだろう、不思議な本だねえ……」
 
 
不思議な本の詳細は判らずじまいのままだったが、取りあえず
4人は一旦、宿屋へと戻り、漸くの経過報告を宿屋の夫婦に話す。
 
「そうでしたか、やっと手掛かりらしき物が見つかったのですね……」
 
「やだっ……!嫌だっ……!!」
 
ペースケが急にジャミルの服の袖を強く掴み、引っ張った。
 
「イテッ……、コラ!何すんだよ!いてててて!やめろ、こら!!」
 
「だって、そうしたら兄ちゃん達……、上の世界へ戻っちゃうんだろ……?
チビだって……、おれ……、そんなの嫌だよ……」
 
「仕方ねえんだよ、俺らは元々上の世界の人間なんだ、それに……、
やらなきゃいけない事もあるんだよ、……判ってくれや……」
 
「……嫌だっ……!短足親父……!!短足ウホッゴリラ!!……う~っ、
短足ひょっとこ!!」
 
「……何と言われても、俺達は上の世界に戻る、そう決めたんだ……」
 
と言いつつも……、少しジャミルの顔に青筋が……。
 
「……ペースケちゃん、もうやめなさい……、ね?」
 
おかみさんがペースケを慰めるが、我慢出来なくなったのか、
等々ペースケの目から大粒の涙が溢れだす……。
 
「……ううう、うわあああ~んっ!!」
 
「……ペー君っ!」
 
「よせ、アイシャ……」
 
「でも……」
 
泣き出して外へと走って行ってしまったペースケの後を追おうとした
アイシャをジャミルが制した……。
 
「大丈夫ですよ、後は私達が……、ね?あなた」
 
「ああ、ペースケはもうわしらの大事な息子です、
後は任せて下さい……」
 
「うん、ありがとう、おじさん、おばさん……」
 
夫婦がリビングルームを出て行き、外へと二人でペースケを
迎えに行った。
 
「……辛いよ……、ね……、もうすぐチビちゃんとも……、
本当にさ……」
 
これから先、自分達にも待ち受けている時を考えてダウドが
ぎゅっと唇を噛む……。
 
「ダウド、お願い……、今は何も言わないで、お願い……」
 
「……うん、ごめんよ、アイシャ……」
 
「……」
 
「僕らも、部屋に行こう、チビがそろそろ起きるよ……」
 
それから、4人は無言でチビが寝ている部屋までの
廊下の道のりを歩く……。複雑な思いを抱きながら。
 
「……チビちゃん……?」
 
アイシャが部屋のドアを開けると、ベッドの上では既に目を覚まし、
4人を待っていたらしいチビの姿があった。
 
「きゅぴっ!お帰りなさーい!!」
 
「……あはっ、チビちゃん……!!」
 
部屋にはいつもと変わらぬチビの笑顔……。
 
「アイシャ、ちょっといいか?俺にもチビ抱かせてくれ……」
 
「うん?いいけど、自分からなんて、珍しいわね……、はい」
 
アイシャがチビをジャミルに手渡す。
 
「チビちゃんが産まれた時以来だねえ……」
 
「きゅっぴー!」
 
「よいしょ、……んとにお前、重くなったなあ……、
このデブドラゴン!!」
 
「ちょ、ジャミル……」
 
「ぎゅぴ~っ!!ジャミルのバカ~っ!!」
 
チビがジャミルの顔をぺちぺち叩く。
 
「……こら、鼻の穴に爪を突っ込むのはやめろ!!」

「ぎゅっぴぎゅっぴ!!」
 
「皆さん、夕ご飯の用意が出来ましたよ……」
 
と、珍獣親子がじゃれている処へおかみさんが4人を呼びに
部屋へとやってくる。
 
「おばさん……、あの……、ペースケは……」
 
「ええ、大分落ち着いたので、大丈夫ですよ……」
 
「そっか、良かった……」
 
どうやらペースケも気持ちが落ち着いたらしい。そして、4人は
チビを連れ個室へ……。今日の夕飯はおかみさんお手製の魚肉の
ハンバーグ。無論、此処での食事は今夜が最後となるのだった……。
 
「……明日には、行ってしまわれるんですね……」
 
4人にお茶を注ぎながらおかみさんが淋しそうに喋る……。
皆がいなくなれば、火が消えた様に此処の宿屋も静かに
なってしまうであろう事をおかみさんは心で悲しんでいた……。
 
「うん……、今まで長い間、本当にありがとな、おばさん……」
 
「いいえ……、私達もお会い出来て本当に嬉しかったです……、
またいつか……、きっと会えると信じておりますよ……」
 
「……ああ、そうだな……、きっと……」
 
「母ちゃん、いい……?」
 
ドアを静かに開けてペースケがちらっと中を見た。
 
「ペースケちゃん?いいわよ、入りなさい……」
 
「うん……」
 
「ペースケ……」
 
「ジャミ兄ちゃん、話があんだあ、飯終わったら、
ちょっと外来て……」
 
ペースケはそれだけ言うと、又部屋の外に出て行った。
 
「それでは、私も……、どうぞごゆっくりなさって下さいね……」
 
おかみさんも皆に頭を下げ、部屋を出て行く。
 
「何だろ?もしかして、愛の告白……?プ……」
 
「……バカ言うなっ!バカダウド!!」
 
「いったっ……!」
 
「♪きゅぴー、お魚のハンバーグおいしいね!」
 
「チビちゃん……、うん、そうね……、おかみさんのハンバーグは
とっても美味しいわね!ゆっくり味わって食べましょうね!!」
 
「きゅっぴ!」
 
「んじゃあ、俺、ペースケに挑戦状送り付けられたから、
ちょっくら行ってくる……」
 
「行ってらっしゃい……、けど、君もモテる事……」
 
ハンバーグを口に運びながら、アルベルトが笑いを堪える……。
ジャミルはアルベルトとダウドに舌を出すと部屋の外に出て行く。
……宿屋の外では入り口でペースケがジャミルを待っていた。
 
「兄ちゃん、さっきはごめんよ、取り乱したりしてさ……、でも、
……おれの話、聞いてくれる……?」
 
「あまり長くない話ならな……、明日出発だから、風邪ひくと
困るしよ……」
 
「大丈夫だよ、なんとかは風邪ひかないっていうじゃん」
 
「……お前なあ!」
 
「えーっと、真面目な話……、おれ、大きくなったら
密猟者と戦うんだ……、そう決めたんだ!」
 
「……あのな、おばさんとおじさんを悲しませる様な事
言うなよな……、ふざけてんのか……?」
 
「ふざけてないよ、おれ……、本気だよ……」
 
ジャミルの顔を見つめてペースケが言った。ペースケの
表情は冗談ではなく、真剣そのものの様で、ジャミルは又、
コイツは一体どうしたらいいモンかと……。
 
「おれも、兄ちゃん達みたいなヒーローになりたいんだ、悪い奴らを
やっつけたいんだよ……!本気だよ……!!」
 
(……まあ、夢見るぐらいいいだろ、もう少し大きくなりゃ、
色々現実を知って考え方も変わるかもしれないからな……)
 
「ま、いいんじゃね?やれるだけ頑張ってみろよ……」
 
「本当に?応援してくれる……?」
 
ペースケがジャミルに顔を近づける。
 
「あ、ああ……」
 
「……けど、お前は今はガキなんだから、きちんと此処で
おじさんとおばさんの手伝いしろよ……?それからちゃんと
勉強もな、折角学校にも行かせて貰える事になったんだからよ」
 
「わかってるよっ!よし、おれもいつか大人になったら、
ダーマ神殿行って職業の力を貰うんだ!だから、おれも絶対に
上の世界に行くよ!待ってろよな!」
 
「は、ははは……」
 
焦ってジャミルが苦笑いする……。
 
(遠い未来……、本当にこいつも勇者になったりしてな、
まさか、な……)
 
「うおー!燃えてきたあー!!」
 
「……糞寒い中、暑苦しい奴だなあ、ほれほれ、もう中入れっつーんだよ!」
 
「うおおーー!」
 
ジャミルが興奮するペースケを無理矢理、宿屋の中へと押し込んだ……。
 
 
そして、翌朝……、ラダトームの皆とも別れの時が来た……。
 
「それじゃあ、皆、俺達もう行くよ、色々本当に有難う……」
 
「お気をつけて……、どうか皆さんもお元気で……」
 
「又、いつでも来てくれよ、儂ら皆で又会える日を待ってるよ……」
 
ペースケが最後にじっと4人の顔を見つめる……。
 
「あばよ、兄ちゃん達、チビも元気でな……」
 
「きゅぴ、ぺー、ペー……、またね……、いっぱいチビと遊んで
くれてありがとうね……」
 
チビが名残惜しそうにペースケの顔を触った。
 
「……へへ、だから、鼻の穴に爪突っ込むなって……、
広がっちゃうよ……」
 
「ぴきゅ……」
 
この頃は、鼻の穴に爪を入れてみるのがチビのマイブームの
様であった……。
 
「本当に、お世話になりました……」
 
「ううう~……、又絶対来ますよお~……、うわあーーん!」
 
「おじさん、おばさん……、ペー君も元気でね……、ペー君……、
ちゃんとおじさんとおばさんの言う事聞いてね?」
 
「うん、姉ちゃんもな、今度会う時までに……、胸がもう少し
大きくなってるといいな……、はは……、ブラジャーが
似合うぐらいにペチャパイ卒業しろよ……」
 
若干9歳にして既に大物、これである……。
 
「ちょ……、余計なお世話よっ……、プンっ!……もうっ!!」
 
アイシャがぷうっと膨れ、……見ていたジャミルは吹きだし、
一発ブン殴られるのであった……。
 
「んじゃな、名残惜しいけど……、皆……、またな!」
 
「「お元気でーー!!」」
 
 
そして、4人とチビは、一路ゾーマ城の跡地へと向い、船を走らせる……。
 
「……はあ~、もうすぐかあ……、いよいよなんだね……」
 
「♪きゅぴきゅぴきゅっぴ~」
 
「……」
 
ジャミル達はこれからの事を何も知らず、いつも通り甲板で
呑気に歌を歌うチビを見つめた……。
 
「……この船も大分お留守にしちゃったからね、私お掃除するわ!」
 
掃除道具を持ってアイシャが甲板に上って来る。
 
「おい、もうすぐ……」
 
「ジャミル……」
 
アルベルトが舵を取りながらジャミルに声を掛けた。
 
「……体、動かしてないと、落ち着かないの……、何かしてれば
気が休まるから……」
 
「アイシャ、オイラも手伝うよ……」
 
「あ、ダウド……、ありがとう!」
 
「僕も手伝うね……、ちょっと舵止めるよ……」
 
「ぴいー、チビもお掃除のお手伝いするー!」
 
歌を歌っていたチビがちょこちょこ皆の側まで来た。
 
「あはっ、チビちゃん、ありがとうね!」
 
「きゅっぴ!」
 
「何か、集団掃除屋みたいになっちまったな、しゃーねえ、
俺もやるか……」


さようなら……

ジャミル達はチビを連れ、かつて大魔王が蔓延っていた地へと
再び足を踏み入れた……。
 
「ここだ、……玉座があった場所だ……」
 
見てみると、地下への入り口は無くなって塞がれており、内部には
入る事は出来ない様である。
 
「本当に、此処に奇跡の扉が有るの……?嘘……、
なんじゃないの……?……だったらいいのにな……」
 
「また往生際座が悪いぞ、ダウド……」
 
「だってえ……」
 
ダウドがアイシャに抱かれたチビの方を見る……。
 
「きゅぴ?ダウ……?お鼻にはなくそついてるよ、きゅぴ~、
チビが取ってあげる!」
 
「え?ええっ!?」
 
「こら、チビちゃん!駄目でしょ、もう~!近頃、やたらと
鼻ばっかりいじりたがるのよね、どうしてかしら……?」
 
「ぴきゅ、ぴきゅ……」
 
アイシャが注意するが不満そうなチビ……。
 
「鍵はどう?反応しない?」
 
「……鍵か?」
 
アルベルトに言われ、ジャミルが鍵を取り出してみる。
 
「うわ!?あっちっ!!」
 
ジャミルが慌てて鍵を地面に落とした。
 
「ど、どうしたの、大丈夫……!?」
 
「鍵が急に……、熱くなってる、どうなってんだよ……」
 
「鍵が……、光ってる……」
 
ジャミルが地面に落とした鍵が光を放ち……、
水晶色の空間が出来た……。
 
「これは……」
 
「これが……、奇跡の扉……、なの?」
 
「此処を通れば……、遂に上の世界へ……、だけど……、
オイラ……、やっぱり……」
 
「ぴいい~?」
 
息を飲み、出来た空間を見つめる4人……。チビはそんな4人の顔を
不思議そうに眺めていた……。これから先、何が起こるのかも知らずに。
 
「若き冒険者達よ……」
 
「誰だっ……!?」
 
突然、不思議な声がジャミル達の耳に届いた……。
 
「私は時空の扉を管理する者……、よくぞここまで辿り着いた……」
 
「管理?……管理人か?」
 
「そうだ……、さあ強く願え……、お前達の行きたい場所に……、
そしてこの空間を通るが良い……」
 
姿は見えないが、ジャミル達4人は微かに声のする方向を見た。
 
「本当に……、この空間を通れば思った場所に出られるんだな…?」
 
「そうだ、但し……、お前達、皆の心を一つにしなければ……、
失敗してしまうぞ……」
 
「それって……」
 
「次元の狭間に放出されるかもしれんぞ、それでも覚悟は
出来ているのか……?」
 
「あうわ!……あわわわわ!」
 
やはりダウドが一番先に慌てる……。
 
「だとさ、どうする……?」
 
ジャミルが他の3人を振り返る……。
 
「僕は、大丈夫……」
 
「私もよ、皆を信じてる……」
 
「お、オイラは駄目だよお……、だって、ぐす……、
やっぱり……嫌だ……、……本当は……離れたくないよお……、
チビちゃん……」
 
「ダウド……、気持ちは皆同じなのよ……、私だって怖いわ……、
チビちゃんと離れ離れになる事……」
 
「……アイシャ……」
 
アイシャが項垂れて座り込んでしまったダウドを支える……。
 
「ダウ~?チビ、ここにいるよ?」
 
「チビちゃん……」
 
チビがダウドを安心させる様、優しく……、ペロッと顔を舐めた……。
 
(遠く離れても……、心はいつも……)
 
ダウドが立ち上がり、皆の顔を見る……。
 
「大丈夫だよお……」
 
ダウドの返事にジャミル達も頷く……。
 
「もう一つ、念を押しておくが……、通常は上の世界から又、
此処に訪れるのであればギアガの大穴を通れば間違いなく
来れるが……、今後は下の世界に訪れる事が不可能になるかも
知れぬぞ、よく覚えておくが良い……」
 
「それって……」
 
「間もなく……、上の世界と下の世界を結ぶギアガの大穴が
完全に閉じる日が訪れる、さすればどんな手段を使っても二度と
お互いの世界を行き来出来くなるのだ……」
 
「その日はいつになるんだ……?」
 
「明日になるのか、今日かも知れぬ……、そのタイミングは
誰にも判らぬであろう……」
 
「……そうか……」
 
「さあ、今こそ奇跡の扉を通り、強く念じた場所へ……」
 
「行こう、皆で念じるんだ……」
 
ジャミル達4人は心を一つにし、気持ちを通い合わせる……。
 
 
……竜の女王の……城へ……!!
 
 
「……此処は……?」
 
ジャミルが目を開ける……。以前、この場所を訪れた時は
僅かではあったがそれでも此処から感じ取れる、覚えている
懐かしい空気……。
 
「竜の……、女王の城だ……」
 
「……僕達、等々戻って来たんだね、上の世界に……」
 
「信じられないわ……」
 
「本当に……、帰って来ちゃったんだねえ……」
 
「……ぴきゅ?ここ……、何だかとっても優しい匂いがする……、
あったかいねえ……」
 
チビは懐かしそうに部屋の中をパタパタ飛び回る……。
 
「……チビちゃん、感じるのね……、やっぱり……、
あなたの……本当の……」
 
「勇者殿……?」
 
「あ、あんた達……」
 
以前と変わらぬ容姿のホビットの門番達がジャミル達を見る……。
 
「その、ドラゴンは……」
 
「……」
 
「ぴきゅ?こんにちは!」
 
「お、おおお、おお……」
 
チビがホビットに近づき、そして……。
 
「ぴきゅぴきゅきゅ!」
 
「……おお、おおおおお……!」
 
鼻の穴に爪を入れた……。
 
「チビちゃんたら!駄目って言ってるでしょ!もう~!!」
 
アイシャが慌ててチビを取り押さえ、ホビット達に謝罪する……。
 
「ぴきゅ~!!お鼻~!!」
 
「……女にはやらねんだよな、アイシャにもしねえし、宿屋の
おかみさんにもしなかったし……」
 
「フェミニストなんじゃないの……?」
 
「チビは性別ないよ……?でも、分んなくなってきたなあ……」
 
どうでもいい事で悩む男衆……。そして、4人とチビは
城の中にある特別な部屋へとホビットの案内で通される。
 
「そうですか……、おお……、あの、幼きドラゴンが……」
 
「何か、感じるものはあるかい……?チビから……」
 
「微かに……伝わります……、お亡くなりになった女王様と同じ……、
聖なるお力を……」
 
チビは不思議そうに部屋の中をパタパタと飛び回り、あっちへ
行ったりこっちへ行ったり……。
 
「分るモンなのか?」
 
「勿論ですとも、女王様は世界を守るお力を神からお預りになった
聖なるドラゴン……、凄い波動のエネルギーがこの我々にも
ひしひしと伝わるのです、チビ様も恐らく同じ力を宿している
筈です……」
 
「そっか、じゃあ……、チビの事はあんた達に任せるよ、頼むな……」
 
「……ジャミル!?」
 
……いよいよ来るときが訪れ、アイシャが反応し……、アルベルトと
ダウドも下を向く……。
 
「宜しいのですか……?」
 
「ああ、元々チビはこの場所に卵として存在していたんだからな……、
それが判ればもう安心だよ、帰ろう、これで俺らのお役目は終了だ……」
 
「きゅっぴ!?皆、何処行くの……!?チビも連れて行ってよ……!」
 
「チビちゃん……」
 
事態に気づいたチビが皆の処に慌てて飛んでくる……。
 
「あのな、チビ……、よく聞けよ……、此処は元々お前の
本当の故郷なんだ……、卵の時に誰かに盗まれてあの洞窟で
ずっと眠ってたんだよ、お前の本当の親は……、今はもういない
此処の城の主だった、竜の女王なんだ……」
 
「きゅっぴ!判んないよ、だって……、チビのパパとママは
……皆だよ……」
 
「お前は頭がいいんだから、理解出来るだろ?お前は将来、
竜の女王の跡を継ぐ存在なんだ……」
 
「……そんなのどうでもいいよおーっ!!チビは皆とずっと
一緒にいるんだよおーっ!!」
 
チビは怒って、又ジャミルの鼻の穴に爪を突っ込もうとした……。
……そんなチビに、ジャミルは突き放す様に……、強い口調で
言い放つ……。
 
「いつまでもふざけてんな!……子供はいつか親から離れるんだよっ!!
もう、俺らがお前の面倒を見る時期は終わったんだ、正直、もう……、
うんざりなんだよ、うるせーお前の面倒なんか看るのはよ……、
これで清々すらあ……」
 
「……っ!」
 
状況に耐えられなくなったアイシャが堪らず、部屋を飛び出す……。
 
「アイシャっ……!」
 
「アル、駄目だ……、堪えてくれや……」
 
「ジャミル……」
 
「じゃあ、……チビ……、いい子になるから、だから……、
皆の側に……ずっと、置いて……?お願い……、ぴい~……」
 
「……アル、頼む……」
 
チビの方を振り返らず、ジャミルが静かに口を開いた……。
 
「判ったよ……、……ラリホー!!」
 
「……ぴきゅ……」
 
アルベルトがチビに魔法を掛けると……、チビはそのまま
静かに目を閉じ、眠った……。
 
「あはは……、赤ちゃんの時と……、同じ顔して眠ってるよお……、
チビちゃん……、これでさよならだね……、楽しかったよお、
ありがとうね……」
 
ダウドが眠っているチビの顔にそっと触れる。……ダウドの目からも
涙が一滴、チビの顔の上にぽたりと落ちた。
 
「じゃあ、俺らは本当にこれで……、チビの事頼むな?可愛がって
やってくれよ?こいつは本当にいい子だからさ、俺達の自慢の子供だよ……、
まあ、馴れないうちはどうせ我がまま言うから大変だと思うけどさ……」
 
そう言い、ジャミルが眠っているチビをホビットに手渡す。
 
「もちろんですとも……、我らホビットも今は亡き女王様の志を
受け継ぐ者として、この子を大切にお預り致します……」
 
「今までチビ様をお守りして頂き本当に有難うございました……」
 
ホビット達が深々とジャミル達に頭を下げた。
 
「本当に頼むぜ……?もう盗まれる事なんか絶対無い様に
してくれよ……?」
 
「御意!強化を警備致します!!」
 
「しかし、最後の最後まで……、眠らされちゃったね、チビは……、
しかも最後は僕らにだったもんね、はは……」
 
切なそうにアルベルトもそっと口を開いた。
 
「さあ、行こう……」
 
後ろを振り返らず、ジャミルが最初に部屋をそっと出ていく……。
 
「……」
 
男衆が部屋を出るとアイシャが無言で立ちつくし、ジャミル達を
待っていた……。
 
「アイシャ……」
 
「チビちゃんは……?」
 
「ああ、アルの魔法で眠らせたよ……、大丈夫だ、これで本当に
終わったんだ……」
 
「そう……、あはっ、良かった……、これで……、チビちゃんも……、
……うっ、ひっ……」
 
「おい……、もう無理しなくていいぞ……?」
 
「何よ、私は泣かないって前に言ったでしょ!泣いたりしないわよ、
泣くもんですか……!」
 
「無理しなくていいっつってんだろ、……んな、顔くしゃくしゃにしてよ……」
 
「……泣かないったら!泣か……ひっく、ぐす……」
 
「バカだなあ……、たく……」
 
……アイシャはそのままジャミルの胸に顔を埋め、
嗚咽し、泣き崩れた……。
 
「……これから、オイラ達、どうするの……?」
 
「アリアハンに戻ろう……、俺も久々にファラにブン殴られてくらあ……」
 
覚悟した様に困ってジャミルが頭を掻いた……。
 
「そうだね……、僕のルーラで戻れるから……」
 
「行こう……」
 
 
                                       1部・完

エピ51・52

第二部

英雄達、帰る

ジャミル達は漸く、懐かしいアリアハンの土を踏んだ。
そして、ジャミルが自分で予想した通り……。
 
 
帰宅した直後、ファラにフルボッコで殴られる……。
 
 
「なあ、まだ怒ってんのかよ……」
 
「……当たり前だろっ!冗談じゃないよっ!こっちは一体、どれだけ
あんたの事、心配したと思ってんだい!!ちょっとは反省しなっ!!」
 
ダウドは自宅に一旦戻り、アルベルトは宿屋、そしてアイシャは
ジャミルの自宅に迎えられたが、ジャミルは暫くの間、ファラの
お怒り攻撃を食らう羽目になる……。
 
「だってよ、中々こっちに帰る手段が見つからなかったんだぜ、
仕方ねーじゃん……」
 
「そうよね、結果的にチビちゃんのお蔭で、私達、上の世界に
戻ってこれたんだもの……」
 
「あら?アイシャ、あんた随分元気ないね?ジャミルに
虐められたのかい?」
 
「……」
 
「……ファラっ!!たくっ、アイシャ、もうチビの事は忘れろよ……」
 
「何?何?チビって犬かい?」
 
「……!」
 
「アイシャっ……!」
 
「お願い、少し一人にして欲しいの……、すぐに戻ってくるから……」
 
事情を知らないファラがアイシャに発した言葉にアイシャは
外へ飛び出して行ってしまう……。
 
「あら?あたい何か、悪い事言った?」
 
「空気読めよな、たく……」
 
「……あんたがちゃんと説明してくんないと……、空気読めも
何も解らないだろっ!!」
 
ファラがジャミルにコブラツイストを……。
 
 
「……うっぎゃあああーーっ!!」
 
 
ジャミルは大魔王ゾーマよりも何よりもこっちの方が怖いのであった……。
 
「ジャミル……」
 
ダウドがひょっこりと家に顔を出した。
 
「おー、ダウド、どうした?」
 
「寝る前に、話したい事があってさ、ちょっと……」
 
「ふ~ん……、ま、いいや……、入れよ」
 
「えへへ、お邪魔します……」
 
「ダウド、あんたも久しぶりだねー!元気だった?」
 
「まあ、それなりにね……」
 
「アルはどうしてる?」
 
「うん、明日……、実家に戻るみたいだから、宿屋で
支度してるよお……、アイシャは?」
 
「ちょっとな……」
 
「そっか、……辛いよねえ……」
 
「で、何だよ、話って……」
 
「うん……、チビちゃんの事なんだけどさ……」
 
ダウドは側にあった椅子に適当に腰掛ける。
 
「お前まで……、いい加減にしろよ!もうチビの事は
終わったんだよ!」
 
「怒らないで聞いてよお、どうせ怒るんだろうけどさ……、
もう怒ってるよね……、はあ……」
 
「だから、あんたら、さっきからチビチビって何?あたいにも
判る様に説明してくれる……?」
 
ファラが腕組みをし、ジャミルとダウド、二人を睨んだ……。
 
「ハイ……、すみません……」
 
「ごめんなさい……」
 
「もうっ!!」
 
大魔王ゾーマよりも怖い存在、それがアネゴ肌のファラである……。
 
その頃、一人、外に出たアイシャは夜空の星を眺めながら、
スラ太郎だけになってしまったバッグの中を探る……。
 
「元々、この中はスラちゃんだけの場所だったんだもんね、
そう考えると淋しくないわ、そうよ、すべてが前に戻っただけよ……」
 
そう言ってバッグの中からスラ太郎を取り出す……。
 
「でも……、心の中に何だか空洞が出来ちゃって……、
埋まらないの……、チビちゃん……、会いたいなあ……」
 
 
 
「そう、それで落ち込んでんだね、アイシャは……」
 
「……」
 
「あーっ!それにしても苛苛すんね!本当にあんたは!!
この、馬鹿ジャミルっ!!」
 
話を聞いたファラがいきなり椅子から立ち上がり、ジャミルを伐倒する。
 
「……ななな!?何だよ!!」
 
「女の子が落ち込んでんのにあんたは慰めてもやれないのかい!!
このヘタレ!!」
 
「ひ……!?」
 
一瞬、自分の事を言われたのかと思い、ダウドが飛び上がる。
 
「そう言うけどよ……、俺にだってどうにもならねえ事だって
あるんだよ……、……どうしようもねえじゃんか……」
 
「それがあんたらしくないって言ってんの!どうしたんだい……、
いつもだったら……、例えどんな状況だって……、無理矢理にでも
いい方向に変えようと頑張るじゃないのさ……、結果がどうあれ……、
やるだけやるのがあんたじゃないの……?」
 
「けど、俺にどうしろっつんだよ……、チビをまた誘拐でもして
連れて来いっつーのか……?」
 
「あ、あのね……、オイラが言いたかった事なんだけどね……」
 
この場の状況で、更にジャミルの機嫌が悪くなるのを覚悟で
ダウドが話に割り込んでくる。
 
「何だよ……」
 
「うん、やっぱり、あのままじゃ……、チビちゃん可哀想かなと……」
 
「!!!」
 
ジャミルが噴気し、椅子からまた立ち上がろうとするが……。
 
「だから、怒らないでってば!確かに、あそこの場所は、
竜の女王様がいた場所で……、天空に一番近い、聖なる場かも
知れないよ……、けどさあ……、馬とホビットのおじさん達だけ
しかいないじゃない……、そんなとこ、置き去りにされたら……、
オイラだったらとてもじゃないけど……、耐えられない……、まだ
小さいチビちゃんが可哀想だよ……」
 
「お、おい……」
 
「う、うっ……、ううう……」
 
真面目な意見なのか、ふざけているのか……、ジャミルには
分らなくなった為……、ダウドに対し、怒る気にもならなく
なってしまった……。
 
「確かに、女王も今はいないし、警備は手薄で不安な面は
あるな……、何せ、うっかり卵を盗まれるぐらいのすっとぼけ
連中だからな、その辺は俺だって心配してんだよ……」
 
「でしょ、でしょーーっ!?」
 
目を輝かせてダウドも椅子から立ち上がる。
 
「だからって、それは向こうがこれから管理と護衛の強化を
どうにかする事だ、俺達が口出しする事じゃない……」
 
「あう……、オイラ、もう帰るね……、おやすみ……」
 
「ダウド……?ちょっ、ジャミル……」
 
「ほっとけっつーの……」
 
ダウドはしょぼくれて肩を落とし、家に帰って行った。
 
「はあ……、やっと暫らくぶりで皆の顔を見れたと思ったら……、
何なのさ、この状況……」
 
ファラも大きな溜息をついた、其処に……。
 
「ただいま……、えへへ……」
 
「アイシャ……」
 
ダウドが出て行って数分後、入れ替わりでアイシャが
帰って来た。
 
「……この馬鹿から話きいたけど……、あんた大丈夫なのかい……?」
 
「うん、私は平気よ!もう終わった事をいつまでもくよくよ
してても仕方ないもん、私達はチビちゃんのこれからの幸せを
願うだけよ、ね?ジャミル!」
 
「あ、ああ……」
 
「それより、ファラ、明日の朝ごはんの準備しよう!
私、手伝うから!」
 
「え?う、うん……」
 
「さあ、行こう行こう!」
 
アイシャがファラの背中を押した。
 
「俺も……、立ちションでもしてくるかな……」
 
女の子達を見ながらジャミルも、のそのそと立ち上がり、
外に出て行った。
 
 
「♪らんらんらーん、うふふっ」
 
「……」
 
アイシャが楽しそうにじゃがいもの皮を剥いているが、
皮を厚く剥き過ぎである。ファラは特に何も言わず、アイシャの
手つきをじっと見ていた。
 
「あはっ、おいも、剥き過ぎちゃった……、こんなに食べたら
またジャミルがおならしちゃうね!」
 
「いいよ、余ったのはまた何かに使えるからね……」
 
「そう?ごめんね……」
 
「うん、その内、ポテトグラタンでも作るよ」
 
「わあー!楽しみー!ファラって本当、お料理上手だもんねー!!」
 
「あんた、あんまり自分に嘘つくんじゃないよ……、
あたい、心配だよ……」
 
「え?どうして……?私、いつもどうりだよー!ほら元気元気ー!」
 
「バカだねっ、全く……、本当に……、あんたもジャミルも……」
 
アイシャの無理している気持ちがファラにはちゃんと分かっており、
ファラはアイシャをそっと抱きしめる……。
 
「ふぇっ、ファラ……、うっ、ひっ……、ごめんなさい……、
うっ、うわあああーん!!」
 
と、その時……。
 
「えっ……?な、何だい、この変な光……」
 
「……何……?床が……、光ってる……?」
 
「え?えええええ?」
 
光の中から……、其処に現れたのは……。
 
「……きゅぴ~……」
 
「……チビちゃんっ!?」
 
「はあああっ!?マジで……?」
 
「きゅぴ……」
 
「嘘でしょ……、チビちゃん……、どうして……?」
 
「きゅぴ~、アイシャ……、会いたかったよお……」
 
「チビちゃんっ……!」
 
アイシャが思わずチビに駆け寄る……。
 
「チビ……、寂しくて、とっても悲しくて……、皆に会いたくて……、
もう一度……、皆に会いたいって思ったら……、気が付いたら
ここに来たの……」
 
「……チビちゃん、チビちゃん……!チビちゃんっ!!」
 
状況は全く理解出来ないままだったが、アイシャはただ、
目の前に突然現れたチビを力いっぱい抱きしめた。
 
「きゅぴ~……、ごめんなさい……、チビ……、悪い子だね……」
 
「そんな事ないわよっ……!チビちゃん、私だって……、どんなに
会いたかったか……!ごめんね、ごめんね……、寂しい思いさせて……、
本当にごめんね……」
 
「きゅぴ~……、アイシャ……、ママあ~……」
 
「あはっ、可愛いー……、うわあ、この子がチビなんだ……、って、
んな場合じゃないね、あたい、ジャミルに知らせてくるっ!!」
 
ジャミルに知らせるべく、ファラが慌てて外に飛び出していった……。


小さな休息

ジャミルを探しに外に出て行ったファラが戻って来た……。
 
「どこ行ったんだろう、本当にもう……、馬鹿なんだから!
ジャミルは……」
 
アイシャに再び会えたチビはご機嫌でいつも通り、椅子にきちんと
ちょこんと座って尻尾をフリフリ。
 
「あーっ、それにしても、本当に可愛いねえ、この子……、
いやーん!」
 
ファラまでチビの虜になりそうであった。
 
「こんにちは、新しいお姉さん、チビです、宜しくね、きゅぴっ!」
 
「……きゃーっ、やだーっ!挨拶したあーっ!きゃああーっ!!」
 
「うふふ、私達が愛情を込めて育てたんだもん、ね?チビちゃん?」
 
「きゅっぴ!ねーっ!」
 
「……はあはあ、チ、チビちゃんが……、も、戻って
きたんだって……?」
 
「ダウド……?」
 
自宅に戻った筈のダウドが血相を変えてすっ飛んで来た。
 
「あたいが知らせたんだよ」
 
「う……、うわあああーっ!チビちゃんチビちゃん……!
チビちゃああーんっ!!」
 
ダウドは顔中くしゃくしゃでチビを抱擁する。
 
「バカだね……、たく、ダウドも男の癖に……、顔拭きなよ、
あーっ!もうっ!!」
 
「だってえ、……ぐしっ……」
 
呆れてファラがダウドにタオルを渡す。
 
「チビがダウのお顔拭いてあげるね、ふきふーきだよお……」
 
「あ、チビちゃん……、ありが……って、鼻の穴にタオル
突っ込まないでェーーっ!!」
 
「また始まったわ、チビちゃんたら、もう~……」
 
「オイラ、アルにも知らせてくるねーっ!」
 
鼻の穴を押さえてダウドが外へと走って行った。そして、数分後に
アルベルトも急いで宿屋から駆けつけ、ジャミル以外のメンバーが再び
顔を合わせた。
 
「……本当に……、チビが自分の力だけで此処に来たって言うのかい……?
信じられないよ……」
 
「チビちゃんは凄い力を秘めたドラゴンなのよ、又新たな力が
覚醒したのかもしれないわね……」
 
「みんな、余ったジャガイモで軽くサラダ作ったよー!」
 
ファラがアイシャが剥き過ぎたジャガイモでポテトサラダを作り、
話のつまみに出した。
 
「美味しそうだねえ!食欲そそる~!いい匂い~……」
 
ダウドが思わずテーブルに身を乗り出した。
 
「きゅぴ?これなあに?」
 
チビが珍しそうに首を傾げ、マヨ山盛りのポテトサラダを眺める。
 
「あたい特製のお芋のサラダだよ、沢山食べてね、チビちゃん!」
 
「きゅぴっ!おいしーーい!」
 
野菜嫌いのチビが夢中になってサラダを頬張る。
 
「あはは、良かったー、チビちゃんに喜んで貰えて、
あたいも嬉しいーっ!」
 
「ところで、ジャミルはどうしたの?何処かに出かけたのかい……?」
 
「あいつ、立ちションに行ったまま戻ってこないんだよ……、
チビちゃんが帰って来たのを知らせに、あたいも外を
探したんだけどさあ」
 
「随分長い用足しだよねー、ギネスブックに載るかもねー!世界一の
長ション猛者あらわ……」
 
 
……ごんっ!
 
 
「……いったああ~っ……、何でこういう時タイミングよく
戻ってくるんだよお~……」
 
ジャミルに殴られたダウドが頭を押さえた……。
 
「あ、お帰り、ジャミル……」
 
「何だよ、アルまで、皆して集まって、何し……」
 
「きゅぴ……」
 
「ジャミル、あのね……、チビちゃんは……」
 
ジャミルは、通常ならその場にいない筈の……、チビの姿を
見て呆然とする……。アイシャが急いで説明しようとするが……。
 
「何で、お前……、此処にいるんだよ……」
 
「ジャミル……、チビちゃんは寂しくて……、どうしても
皆に会いたくて……、どうしてなのか、チビちゃん自身も
よく判らないのだけれど……、気が付いたら此処に来て
しまったみたいなの……」
 
アイシャもどう説明していいのか分からず話をするが、
ジャミルは放心状態のまま、暫く無言で立ちつくす……。
 
「きゅぴ……、ジャミル……、ごめんなさい……」
 
チビがトコトコとジャミルの側に寄って来て切なそうに
ジャミルの顔を見上げた……。
 
「チビ……」
 
「……ジャミルは……、チビの事嫌い……?チビ……、悪い子……?」
 
「バーカっ……、んな訳ねえだろっ!!」
 
ジャミルがチビのおでこを突っつく。先程まで険しかった
ジャミルの表情はいつもの表情に戻っていた。
 
「きゅぴっ!ジャミルっ……、ジャミルっ……!ぴいい~!」
 
チビはそのままジャミルに抱き着き、顔をペロペロ。
 
「良かった……、チビちゃんたら……、本当にいつまでたっても
甘えん坊さんなんだから……」
 
アイシャが指で涙を擦る……。
 
「あははっ、もしもジャミルがチビちゃんにきつい事言ったら、
あたい、もう、ブン殴ってやろうかと思ったよ!」
 
「……何か……、後ろで恐ろしい言葉が聴こえるんですけど……」
 
そして、チビは皆に見守られながら幸せそうに今日の眠りについた。
 
「寝ちゃったわ……」
 
「ねえ、このままチビちゃん、此処に置いといたら駄目なの……?
世界を守る力とかさ……、もうどうでもいいじゃない、だって、もう
平和になったんだから……」
 
ファラがジャミルの顔をちらっと見る。
 
「……そういう問題じゃねえんだよ、チビだっていずれは
大人になるんだぞ……」
 
「だけどさ……、こんなに幸せそうな寝顔見てると……、
可哀想じゃない……」
 
「とにかく、もう一度……、女王の城に行かないとな……」
 
「や、やっぱり……、返しちゃうの……?チビちゃん……」
 
折角また会えたのに、再びチビと別れなければならないのかと思い、
ダウドが涙目になる。
 
「今後の事を、ちゃんともう一回、ホビットのおっさん達と
きちんと話合うんだよ、警備の事についても、なーんかなあ、
のほほんとしてるし……、どうにも奴らは心配で……」
 
「そうだね……、故郷に帰ろうと思ったけど、そんな場合じゃ
なくなったね、もう一度僕も一緒に行くよ……」
 
「うん、逃げてちゃ駄目よね、これからも私達とチビちゃんの
交流を許して貰えるのなら……、それならチビちゃんも平気よね……」
 
「……やっぱり、行っちゃうんだね…、あたいを置いて……、
や~っと戻って来たと思ったのにさ~……、……あたいも付いて
いっちゃおうかな~、チラッ……」
 
ファラがジャミルを横目で見る……。
 
「おいおい、ファラ~……」
 
「嘘嘘、冗談だよ、あたいは健気な待つ女の役目だもん、行っておいでよ、
今回は魔王討伐とかじゃないもんね……、だから、大丈夫だとは思うけど……、
また数年も掛る様だったら……?」
 
「ひいっ!ちゃんと早目に帰りますっ……!!」
 
「よろしい、皆……、この馬鹿の事、くれぐれも頼むよ、お願いね……」
 
「たく……、馬鹿馬鹿言うなよ、ンモ~……」
 
 
そして、翌朝……。
 
「きゅぴ~」
 
「あら?……チビちゃん可愛いー!そのリュックどうしたの?」
 
「ファラに貰ったの、これにおやつを入れるの、ほら!」
 
チビが背中に背負ったリュックをくるんとアイシャに見せた。
 
「あはは、似合うでしょ?元はお人形のだけど、背負わせて
みたら可愛くて……」
 
「わーっ!やっぱりチビちゃん可愛いわあー!」
 
「たく……、あれじゃ完全に幼稚園の遠足だよな……、
呑気な奴らだなあ……」
 
そう口では言いつつ、何となく、女の子達のやり取りに頬を
緩ませるジャミルであった。
 
「ねえ、チビにはちゃんと、僕らが又お城に行く事を話してあるの?」
 
「ああ、おじさん達に黙って出て来てごめんなさいするとさ……、
一度は逃げたけど、あいつも段々、自分の本当の居場所を取り戻して
いけるかも知れないな……」
 
「そう……、それで…、僕らのこれからの進路も、問題が
山積みなんだけど……」
 
「面倒くせー事は……、あっしはあんまり……」
 
アルベルトから顔を背け、ジャミルが耳を塞ぎたがる。……が、
アルベルトはそんなジャミルを見て、のしのし迫って来た……。
 
「とにかく聞いて、まずは此処から再スタート、女王のお城に
行く場合には……、ルーラじゃ行けないから、又ラーミアの力を
借りなきゃいけない……」
 
「うえ……」
 
「でも、ラーミアはもう恐らく、レイアムランドの神殿に
帰ったと思うし……、神殿まで行くには、船が必要で……、でも、
船はナイトハルト様に借りっぱなしのをあのまま放置したままだし……、
また、新しい船をお借りする為にまずは徒歩でポルトガへ向かわないと……」
 
「待てよ、ポルトガぐらいなら……、大概一度行った場所は……、
お前のルーラで行けるだろ……?」
 
「僕のMPを大量に消費する事になります、嫌です、節約するんです!
それに、全部の場所にルーラで行ける訳じゃないんだよ、苦労して
目的地に辿り着くのもまた旅の醍醐味でしょ……?ゴールド節約の為、
キメラの翼も駄目だよ!」
 
今度はアルベルトがジャミルから目線を反らし、そっぽを向いた。
 
「……頑固だな、このシスコンめ……、俺もMPあんまり多様出来ねえし……、
ま、仕方ねえか……」
 
「大体の話聞いたよお!まずは新しい船を借りにポルトガだね!」
 
ダウドが二人の会話に割り込んでくる。
 
「おい、お前、やけに張り切ってんなあ……」
 
「ホント……、生き生きしてるね、どうしたの……?」
 
「だってねえ、またチビちゃんと一緒にいられるんだもの、
嬉しいよねーえ!」
 
「ぴっきゅ、ダウ~、大好きー!」
 
「やれやれ、又、親馬鹿炸裂野郎か……」
 
 
それが4人の新しい旅への始まりだった……。

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  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-04-26

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