ぼくは老ジュリエット
1
ぼくは名もなき ジュリエット、
隣に死せる恋人の 後追いしなかったジュリエット
ぼくは名もなき ジュリエット、
青春の孤独の真空に、左足うずめてじたばた躍るジュリエット
かれは名のある かのロミオ、
若さに殉じた青春の詩人 それ信じないのがジュリエット
かれは名のある かのロミオ、
水晶にかの名が吐息する 憐れへ火と荒げ噴くのがジュリエット
ぼく等 追憶で恋人だった、ロミオは素敵な御方であった、
生きて愛してかれは死に、醜く生き抜くジュリエット
垂れ流された 宴の姫なぞであるものか!
されどかの名のかの死への 侮辱を許さぬジュリエット
*
幾度もかの名を蹴ろうとしたが、抱き睡り泣くのがジュリエット
その俗悪の火に爛れてる、右足引き摺り歌い転げる老ジュリエット
2
ジュリエットよ 右足で蹴ろ、硝子盤の非情を
ジュリエットよ 左足のいたみをいつまでもいため 愛していたのなら
ぼくは老ジュリエット