zoku勇者 ドラクエⅢ・その後編 エピ41~44

エピ41・42

謎が謎を呼ぶ……

「あ、ボス……、お帰りなさいやし……」
 
「ああ……、俺の留守中に何か変わった事は……?」
 
「……?……!?」
 
無精髭の男がゆっくりと酒場に入ってくる。そして、子供をじっと見る。
子供はびくっとし、一瞬たじろぐが、勇気を出し、男に話し掛けた。
 
「……おっさん……、何で……!?」
 
「コラ!クソガキ!!ボスに向かって何だ、その口のきき方は!?」
 
「この、汚い子供は……?」
 
「はあ、つい最近、この町に辿り着いた時に拾ったんです、
金をくれくれとしつこく近づいて来まして……、孤児の様です……」
 
子分の一人が酒場に入ってきた男の側に近寄り耳打ちする。
……子供の耳に届かない様に。こっそりと。
 
「何か、鉄砲玉ぐらい利用出来ないかと思いましてね……、
どうせ誰も文句言う奴もいねーんですし、へへ」
 
「……うーむ」
 
男が目線を反らさず、子供をじっと見た。
 
「だ、だって、おっさん……、あんた……、密猟者を追ってんじゃ
なかったのかよ……、おれ、外でこっそり見てたけど、ロビーから少し話が
聞こえてたんだぞ……」
 
子供が尻込みして後ずさりする。男はそれでも尚も子供の顔を見るのを
止めない。……何か考えがある様であった。……そして、場面は再び
ラダトームの宿屋……。ジャミル達を待つアイシャはいつの間にか部屋の
ベッドで眠ってしまっていた。
 
「う、うっく……、ひっく……」
 
「きゅぴ……、アイシャ泣いてる……、怖い夢見てるのかなあ……、
大丈夫だよ、チビも皆もいるよ、よしよしね……」
 
チビがアイシャの涙をぺろっと舐めた。
 
「……?あ、や、やだっ!私ったら……!いつの間に……!?」
 
アイシャが慌てて飛び起きる。既にもう外は暗くなり夜になってしまっている。
 
「きゅぴ~?アイシャ、起きた?大丈夫……?」
 
「え?私は別に大丈夫よ!どうしたの、チビちゃんてば!それよりも、
ジャミル達は部屋に戻って来たかしら……、行ってみましょ!」
 
「きゅぴ……、うん……」
 
 
「やっぱり、金の問題もあるし……、これ以上此処の宿屋に世話に
なるんも心苦しいな……、そりゃ、此処の宿屋の夫婦は嫌な顔は
しないだろうけどさ……」
 
「だよね、何とか城の方での情報集めも早期でケリをつけて
しまいたい処だね……」
 
「うえっ……、オイラ目まいしてきた……」
 
「皆ー、戻ってきた?」
 
「きゅぴー?」
 
アイシャがジャミル達のいる部屋のドアをノックする。
 
「お?アイシャとチビか?いるぞー!入れよ」
 
「えへっ、お邪魔しまーす!何だかね、寝すぎちゃったのー!
気付いたらもうお外が真っ暗!あははー!」
 
(……?)
 
「あのおじさんは帰ったの?」
 
「ああ、用があるんだとさ、此処じゃねえとこに暫く泊まるらしいぜ」
 
「そうなの、優しそうな感じのおじさんだったね……」
 
「……その話なんだけどね、アイシャ」
 
アルベルトがちらっとダウドに目配せ……、合図する。
 
「あ、チビちゃん、オイラと一緒にジュース飲みに販売機行こう!」
 
「きゅっぴ!ジュース♡」
 
ダウドがチビをバッグに入れ部屋の外に出て行った。
 
「……また、チビちゃんがいたら駄目な話……?」
 
「うん……、チビに聞かれたくないんだ……」
 
「アイシャ、あのおっさんな、タチの悪い密猟者組織を追ってる
らしいんだ、しかも一人で……、んで、最近ラダトームの近くにも、
厄介なのが潜伏してんだと……」
 
「そう、この近くにも……」
 
「でさ……、俺らもあのおっさんに協力する事にしたんだ、
死んだドラゴンの……、仇討ちになるか分かんねえけどさ、
そう思ってさ……、少しでもアホが減る様にな……」
 
「やりましょっ!そうよ!ぜーったい、……ぜーったい!
やらなきゃ駄目よっ!!」
 
「……アイシャ……?」
 
アルベルトが不思議そうな顔でアイシャを見た。
 
「いや……、今回はお前は駄目だ……、宿屋で待機だ……」
 
「ど、どうしてよ……!私だってドラゴンさんの仇討ち出来るのなら……、
私だって、い、一緒に戦うわよっ……!!」
 
「お前……」
 
身を乗り出し、アイシャがジャミルに抗議する。昼間と違い、
どうしたのか、アイシャは異様に噴気している。ジャミルは
そんなアイシャを見て、一言言葉を洩らす。
 
「……チビがいるんだぞ!」
 
「あっ……」
 
はっとして、アイシャが慌てて下を向いた。
 
「だからさ……、カタが付くまでチビを宿屋で守っててくれや、
なーに、モンスターじゃねえんだし、多少厄介な相手だとしても
屁にもなんねえから、すぐ終わらせるよ……」
 
「うん、……分ったわ……」
 
「これで、話は纏まったね……」
 
 
ジュース美味しかったかな?チビちゃん!
 
きゅっぴー!いちごミルク甘くておいしいねー!
 
 
「おっと、能天気変コンビが戻って来たな……」
 
「じゃあ……、この話はこれで……、ね」
 
「うん……」
 
 
「こんこん、オイラとチビちゃんですよー!入りますよー!」

「入りますよおー!きゅぴー!」
 
「大丈夫だぞー!」
 
ダウドとチビが部屋に入って来た。
 
「アイシャー!ダウに甘ーい、いちごミルク買ってもらったー!」
 
「そうなのー、良かったねー、チビちゃん!」
 
「きゅっぴー!」
 
アイシャがまるで我が子の様に幸せそうにチビをぎゅうぎゅうと
ハグする。
 
「悪ィな、ダウド……、いつもいつも……」
 
「ん?別にいいよお、オイラもチビちゃんと一緒のお出掛けは
好きだし……、正直……、このままずっと一緒に……、何処までも
逃走したくなる……、う、うっ……」
 
「ちょ、ちょっと、ダウド……?……どうしよう、あの、
泣かないでよ……」
 
「おーい、何だよ……、急に泣きだすなよ……」
 
突然号泣しだしたダウドに、顔を見合わせ困るアルベルトとジャミル。
 
「……ぎゅぴいー、ぷう……ぴ……」
 
「チビちゃん……?」
 
アイシャに抱かれたチビがゲップをし、急にコテンと眠ってしまった。
 
「……疲れたのかしら、そうね、おねむの時間だものね、それじゃ私、
部屋に戻るね……」
 
アイシャとチビは部屋に戻って行く……。
 
「アル、俺も、ちょっと何か飲みに行ってくるわ……、ダウド頼む……」
 
「ん?うん……、行ってらっしゃい……、暗いから気を付けて……」
 
「……」
 
一人、廊下を歩くジャミル。……ふと、思いついた事が有り、
アイシャがいる部屋の前で立ち止まる。
 
「……アイシャ、まだ起きてるか……?」
 
今度はジャミルがアイシャのいる部屋のドアをノックする。
 
「ジャミル……?ちょっと待ってて……、今、開けるね……」
 
「チビは寝てるか……?」
 
「うん、ぐっすり……、ほら……」
 
ジャミルが部屋の奥をちらっと覗くと、ベッドで丸まり、すやすや
眠っているチビの姿が。
 
「ぷーぴーぷー……」
 
「今夜も幸せそうな顔して寝てるの、苺ミルクが美味しかったのね、
よっぽど……」
 
「そうか、なら大丈夫だな……、ちょっと部屋に鍵かけて外行こうや……」
 
「えっ……?うん、いいけど……、どうしたの……、こんな夜遅く……」
 
「いいから……」
 
チビを起こさない様、ジャミルがアイシャに目でそっと合図した。
 
「……ジャミル?」
 
そして、二人は宿屋の外へ……。
 
「う~、寒いね……」
 
アイシャが手を擦りながら、はあ~っと息を吐いた。……ふと、
前を歩いていたジャミルが立ち止まり、アイシャの方を振り返る。
 
「ジャミル?どうかした……?」
 
「……お前さあ、絶対なんか無理してるだろ……」
 
「えっ?どうしてよ……、別に無理なんかしてな……!?
んっ、んんっ!?」
 
ジャミルがアイシャの口に急に強く吸い付いた。……突然のジャミルの
思わぬディープキス……。息が出来なくなりアイシャがもがく……。
 
「……ぷはあっ、ジャミル、お願い……、やめて……、苦しいよ……、
息出来な……んっ……!」
 
一旦はアイシャの口から離したものの……、ジャミルは再びアイシャの
口をキスで強く塞いだ。
 
「んっ……!んんんん……!……んん~っ!!」
 
(苦しい……、本当に息出来ない……、このままじゃ私……、
窒息しちゃう……)
 
「……正直に言わねえと、よさねえぞ……、何か俺、今日、妙に
ムラムラしてんだ……、俺だって男だからな……、甘くみんなよ、見てろ……」
 
「……い、言うわよ……、だからお願い……!許してえーーっ!!」
 
あまりにも苦しかったのと、突然の攻めでびっくりしたのとで……、
涙目になってアイシャが訴えた。
 
「よし……、俺もやっぱり事前に苺ミルク飲んどきゃ良かったかな……」
 
ようやくジャミルがアイシャから唇を遠ざけた……。
 
「はぁっ……、もう……、ジャミルのバカ……、死んじゃうわよ……」
 
……アイシャがほっと胸を撫で下ろした。
 
「……妙に不自然に無理して喋ってる様な気がしてさ、気になってたんだよ……」
 
「あのね……、ジャミル達を部屋で待ってた時……、うっかり眠っちゃって……、
その時に、怖い夢を見たの……」
 
「……夢……?」
 
「……うん、あの時の……ドラゴンさんが……殺される……、
瞬……間の……、それで……、卵だった……筈の……チビ……
ちゃんも……、撃たれ……て……、粉々に……なっちゃ……っ……」
 
そこまで言い掛けてアイシャがブルブル震えだし……。それ以上は
もう喋れない様であった……。
 
「アホっ……!んな夢見んなよ……、バカだな……、もう一回
口絞めるぞ……?」
 
……ジャミルがアイシャを強く抱きしめる。
 
「……やだあ……、意地悪……、してくれるんなら、もっと優しくしてよ……、
ジャミルのバカ……、そうしたら今夜はもう怖い夢見ないよ……、大丈夫……」
 
「よし……、微温湯モードだ……」
 
「……何がよ、もう……」
 
二人だけの夜が過ぎてゆく……。
 
 
そして、再び場は酒場へ……。
 
「なあ、どうして教えてくれないんだよ、あんた正義の
味方じゃないの……?」
 
いつまでも酒を飲み、酒場から一行に離れようとしない男達を
子供が不思議がって突っつく。
 
「大人は大人の事情ってモンがあるんだよ、特に俺達みたいな……、
ワル商売で生きてる奴らはな……、坊やはまだ知らなくていいんだ……」
 
「や、やっぱり……、おっさん……、悪い奴だったのか……」
 
そう言って、あの時……、自分は密猟者ハンターだと言い、ジャミル達と
親しげに会話をしていた男は……、強い酒を一気に飲み干し、子供を見た。
 
「そうだ、お前……、一つ、頼めるか……?」
 
「え?ええ……」
 
「俺の知り合いだと言えば、奴らも安心する、もうしっかり信頼してやがるからな、
あの馬鹿ガキ共は……、しかし、ラッキーだったな、まさかドラゴンを匿っている
連中と出会えるとは、これ以上の運はもうねえな……」
 
「別に、いいけどさ……」
 
「金が欲しいんだろう?ドラゴンを捕まえて来れるチャンスだぞ、
この仕事、お前に特別に任すぞ……、どうだ?」
 
「や、やるよ……」
 
「よし、いい返事だ……」


迷いし小さき心

翌朝……。
 
「たのもー!たのもー!」
 
早速、宿にあの薄汚い身なりの子供が訪ねて来る……。
 
「はい?あら、可愛い坊や、何かご用ですか?」
 
それでも、優しいおかみさんは追い払う事はせずに子供と向き合い応対する。
 
「えっとね、昨日、ここの宿屋に密猟者追ってるおっさん来たでしょ?」
 
「ええ、いらっしゃいましたけど……」
 
「そうそう!おれ、その人と知り合いなんだよ!」
 
「まあ……、そうなの……、ちょっと待っててくれる?」
 
おかみさんはいそいそと中に引っ込んで行き、ジャミル達を呼びに行った。
 
(早速、上手くいったぞ、これで、おばちゃんがあの兄ちゃん達、
連れてきてくれるはずだ……)
 
「密猟者ハンターのおっさんの?知り合いの子供だって……?」
 
「ええ、そうらしいんです…、外でお待ちしていますよ」
 
そして、4人が宿の外へ出ると……。
 
「……よお」
 
「?……あ、お前!あん時のひったくりの糞ガキじゃねえか……!!」
 
「何しに来たんだよお!」
 
ダウドまで目くじらを立て怒り出す。
 
「わ!ちょっと、待ってよ!ここのおばちゃんからも話聞いてると思うケドさ、
おれ、あんた達が知ってる密猟者ハンターのおじちゃんと知り合いなんだよ!
今日は、おじちゃんから用を頼まれて……、あんた達の処へ来たんだよ!!」
 
「本当に……?」
 
「嘘臭いんだけど……」
 
ダウドが子供をじろじろ見た。アルベルトも疑いの眼差しで子供を見る……。
 
「本当なんだってええ!おじちゃんに頼まれたからわざわざ来たんだろう!」
 
「ご用は何なの?簡単に教えて……」
 
「アイシャ……」
 
小さな子供の面倒を見たりするのが好きなアイシャだけが、唯一、子供と
コミニュケーションを図ろうとする。
 
「姉ちゃん!話わかるう!この間はひどいことして、本当にごめんなあ!」
 
子供がアイシャに嫌らしくすり寄る。……子供はクンクンとアイシャの
匂いを嗅いだ。
 
(……うわ、いい匂いだあ……、石鹸の香りと、何とも言えない
ふわふわしたこの感じ……、なんか、母ちゃんみたいだなあ……)
 
「別にもういいわよ、けど、……もう悪い事しちゃ駄目よ……?」
 
「うんっ!」
 
「で、何頼まれたんだよ、早く言えよ……」
 
「……ああ、短足親父もいたんだ、忘れてたよ……、ひゃはは!」
 
「なっ!?だーからー!……俺は短足じゃねえっつってんだろ!!
親父も余計なんだ!馬鹿ガキーーっ!!」
 
「ジャミル……、通る人が皆見てるから……、それで、君も早く
要件を教えてくれる?」
 
ジャミルを押さえつけながら、アルベルトが子供に尋ねる。
 
「うん、ここじゃ何だから、出来れば兄ちゃん達の部屋でゆっくり話したいんだけど……」
 
「……どうする……?」
 
「チビちゃんがいるよお……?」
 
アルベルトとダウドは心配するものの、アイシャは動じず、子供に話し掛ける。
 
「……大丈夫よ、……その、密猟者を追っているって言う、おじさんの
知り合いなんでしょ?なら、心配ないわよ……」
 
「う~ん……?何だかなあ……」
 
ますます不満そうな顔になり、ジャミルが考える。
 
「中に行きましょ、お話聞かせてくれる?」
 
「うんっ!いこっ、姉ちゃん!」
 
アイシャが子供の手を取ると、子供も喜んでアイシャの手を握り返した。
……孤児の子供はアイシャに母性本能を感じたのか、彼女にはすっかり
懐いてしまった模様。
 
「……」
 
「ジャミル、面白くないんでしょ……?」
 
ジャミルの方を見てダウドが含み笑いをする。
 
「バカ言えよっ、あんなのいちいち相手にしてらんねっつーの!」
 
ブツブツ言いながらジャミルも宿屋の中に入る。
 
「嘘だよね……、絶対……」
 
「ねえ……、いらっとしてるよお、あれは絶対……」
 
 
そして、4人は子供をジャミル達の部屋に入れ、話を聞く事に。
 
「ねえ、あなた、お名前は?」
 
「えっ?おれかい?おれは、ペースケって言うんだ」
 
「プ、おもしれえ名前……」
 
「う、うるせーな……、短足!」
 
「……俺は短足じゃねえって何回言ったらわかんだっ!それに
ちゃんと名前があるんだよ!きちんとジャミルお兄様っつえ!判ったか!!」
 
「わかんねーよっ!うんこつんつんだ!」
 
ペースケは見た目、9歳ぐらいの感じだったが、ジャミルの
精神レベルが同様だった為、他のメンバーはやり取りに呆れる……。 
ちなみに、チビはまだアイシャの部屋ですやすやお眠り中である。
 
「それで、さっきから言ってるけど、君の要件は……」
 
「ああ、それなんだけどさ、奴らが今潜伏してる場所が分かったんだって……」
 
「……本当かよ!?」
 
ジャミルが椅子からガタッと立ち上がり、身を乗り出す。
 
「わ……、ツバ飛ばすな……、これ、地図みたいだよ……、
おじちゃんから預かってきた……」
 
ペースケがジャミル達に地図を渡す。
 
「密猟者達がいる場所なのね?どこどこ!?」
 
「見せてよー!」
 
ダウド達も地図を覗き込む。
 
「えーと、此処が今ラダトームだから……、とすると、この方角だと、
北の洞窟がある方向か……」
 
「今じゃ、あそこ、魔王の爪痕って言われてるよお……」
 
「そこじゃないみたいだ、ほら……、其処の近くに家のマークがある……、
空家だろうか……、密猟者達が潜伏してるとなると……」
 
「成程、其処の空き家に隠れてんだな、奴ら……」
 
「やっぱり、行くんだねえ……、はあ、しょうがないか……」
 
ダウドが覚悟を決めた顔をした。以前に比べると、多少は行動に積極的に
なった様であるが、それでもヘタレ属性がないとダウドではないのである。
 
「おじちゃんは今夜、先に空家の近くまで行って皆を待ってるって言ってたよ……」
 
「そうか、……んじゃ、今日の夜決行だな……」
 
「うん、そうだね、夜に備えて色々準備しておかなきゃね……」
 
「ひえええ……、モンスターじゃないけど、久々の戦い、なんかドキドキだよお……」
 
「……」
 
アイシャが心配そうな顔でジャミル達男衆を見つめた。
 
「大丈夫だって言ったろ?、少し、力授かったくらいの三流密猟者集団なんか
ゾーマに比べたら、月とスッポンさ!」
 
「ゾーマ……?もしかして、あんた達、まさか、あの大魔王ゾーマを……?
た、倒したって言う……、勇者軍団……なの……?」
 
ペースケがおずおずとジャミル達の方を指差す……。
 
「何だ、今更か……、ま、もう皆忘れてんだけどよ……」
 
「うわあああああっ!」
 
(こ、こりゃ大変だ……!早くおっさんに知らせないと……!)
 
「何だよ、そのリアクション、おかしな奴だな……」
 
「……んじゃ、お、おれ……、これで一旦帰るよ……」
 
「ねえ、ペー君」
 
急いで戻ろうとしたアイシャがペースケに声を掛けた。
 
「え?ぺ、ペー……?」
 
「プッ……」
 
「なんだよ、笑うなよっ!短足!!」
 
「帰る前に、チビちゃんに会って行く……?」
 
「チビちゃん……?」
 
ペースケがきょとんとし、目を丸くする。
 
「ドラゴンの子供なのよ、とっても可愛いのよ!お喋りも出来るの!」
 
「うわっ、みたいみたい、みたいよー!」
 
(き、来たっ……)
 
「お~い、アイシャ……」
 
「大丈夫よ、この子なら、もうそろそろ起きる時間だと思うから……、
連れてくるね、待っててね」
 
「むう~……」
 
ジャミルが不満そうな顔をした。裏事情を知らないアイシャはペースケを
完全に信頼してしまっていた……。そして、暫く立ち、アイシャが自分の
部屋からチビを連れ、戻って来る。
 
「はい、お待たせ、チビちゃんよ、宜しくね!」
 
「ぴきゅ……?」
 
まだ眠たそうな、不思議そうな顔でチビがペースケを見た。
 
「わ、本物だ……、マジで……、すげえ……」
 
「抱いてみる?」
 
「いいの?」
 
アイシャがチビをペースケに渡し、ペースケがチビを恐る恐る抱っこしてみる。
 
「きゅぴ!」
 
「……う、うわ!おれの顔なめたよ!?」
 
「仲良しの印なんだよ、ふふ……」
 
アルベルトが笑う。
 
「一応……、気に入られたみたいだな……、良かったな……」
 
「うるせーやい!短足親父……!!」
 
「きゅぴー!きゅぴー!」
 
チビは嬉しそうにペースケの顔を小さな手でぺちぺち触った。
 
「は、はは……」
 
(どうしよう……、金が欲しかったとはいえ……、おれ……、
この子を悪いおっさん達に渡そうとしてる……、皆もだまして……、
何だか胸がズキズキしてきたよ……)
 
チビの愛らしい姿に触れるうち……、ペースケの心の中にある良心が
痛みだしたのだった……。
 
(……こんな、はずじゃ……)
 
「ぴきゅ~っ!!やっ!いやっ!!」
 
「う、うわあ!な、何するんだよ!?」
 
急にチビがぐずりだし、ペースケの鼻の穴に爪を突っ込んだ。
 
「お腹空いたのよ……、もう朝ご飯の時間だからね……、
チビちゃん、おいで……」
 
「きゅぴーっ!」
 
チビはペースケから離れると、再びアイシャに抱っこして貰う。
 
「はあ、腹が減って機嫌悪くなったのか……、びっくりしたあ……」
 
「……つーことで……、俺らも朝飯だからさ……」
 
「今夜に備えて……、ふわあ……、今からもう何もしたくないよお……」
 
ダウドが口に手を当て大欠伸する……。
 
「あの……、さ……」
 
「ん?」
 
「お願いが……その……、あるんだけど……」
 
ペースケが自分の指と指をちょんちょん突っついて、モジモジする……。
 
 
そして、密猟者の男共は相も変わらず酒場を拠点として朝まで飲み明かしていた。
 
「では、今夜……、ですね……」
 
「ああ、相手はまだ浅知恵の子供連中だ、時間掛らずさくっと
消してやるさ……、フン……、闇組織なんぞと関わり合いに
ならなければ長生き出来た物を、可哀想にな……」
 
「あのハナタレ……、ドラゴンをちゃんと連れて来られるんでしょうか……?」
 
「まあ無理だろう……、どうせ、途中で報告があるだの、
なんのかんの言って、理由つけて逃げ帰ってくるだろうからな、
ガキなんぞに期待しても時間の無駄だ……、まあ、最初から
期待なんぞしとらんがあのガキは引き続き鉄砲玉様に温存しておけ、
ドラゴンは俺達で捕まえてやる、目障りな餓鬼集団を始末した後にな……」
 
「へえ……」
 
「それよりも、対、今夜用に戦力をスカウトしてきた……」
 
「へ……?」
 
「もう、そろそろ来る頃だがな……」

エピ43・44

二度ある出会いは三度ある?

「遅くなったのねー」
 
「ねー」
 
「なのねー」
 
「……どうやら、来たみたいだな……」
 
酒場に入って来たのは……、何と……。
 
「お待たせなのねー、途中で道に迷ったのねー」
 
「でも、ちゃんと来たのねー」
 
「えらいのねー」
 
「ボス……、本当にこいつらをスカウトしたんですか……?
まさか、冗談ですよね……、は、ははは……」
 
「……いや、本気だ……、それにこいつらは、あのガキ共と因縁が
あるそうだ……、奴らの事も色々と詳しいらしい……」
 
男はそう言い、再び酒に口を付ける。男が雇った助っ人とは、
あの基地害馬鹿トリオだった……。密猟者だけならジャミル達も
簡単に粉砕出来た物を……、こいつらの加入により状況は混乱し……、
4人は窮地に追い込まれる事になる……。
 
「はああ……」
 
「僕ら、炭鉱でコキ脅されたので、もう嫌になって逃げたのねー」
 
「そしたら、このおじさんに拾って貰ったのねー」
 
「助かったのねー、おじさんいい人なのねー」
 
自分達も充分おっさんである。
 
「てめえら、ボスに向かって……!何つー馴れ馴れしい
口の訊き方しやがんだ!?」
 
子分共が馬鹿トリオに向かって一斉に銃を向けた。
 
「……よさねえか、馬鹿野郎!!利用出来るモンは例えゴミでも
糞でも再利用するんだ!!」
 
「は、はい……、すみません……」
 
「さてと、俺は今夜の戦いの場の総仕上げに行く、よし、お前らも来るんだ……」
 
「なのねー」
 
「のねー」
 
「のねー」
 
「……マジでかよ……、ボス……」
 
子分達は事態に信じられず……。自分達はただ黙って上司の命令に
従う他はなかった……。
 
 
そして再び、ラダトームの宿屋……。
 
 
「で、何だよ、はっきり言えよ……」
 
「うん、チビと……」
 
「……」
 
「一緒に……、散歩いきたい……」
 
「……」
 
「だめ……?」
 
ペースケが恐る恐る……、皆の方を見て表情を覗う……。
 
「速攻で、駄目だっ!!」
 
「……けちい~!いいじゃねえかよ~!」
 
「大丈夫よ……」
 
「アイシャ!バカ言うなよ、お前まで何だよ!!」
 
「少しの間だけなら良いと思うの、ダウド、一緒に行ってあげて?」
 
「え?べ、別にいいけど……」
 
「!?」
 
(か、監視つきかよ……、こりゃまいったなあ……)
 
「ジャミル、ダウドが一緒なら大丈夫だよ……、チビと一緒に行っておいで……」
 
アルベルトがペースケに優しく声を掛けた。
 
「うん、あ、ありがと……」
 
(一人で行きたいなんて言っても、駄目だろうなあ、よし……、何とか
こいつをケムにまこう……)
 
「きゅぴ?ペー、チビとおさんぽ行きたいの?ねえ、ジャミル、
チビもペーと行きたい……」
 
「ぺ、……チビまでおれをペーかよ……、まあ、いいけど……」
 
何となく、照れ臭そうにペースケがチビを見た。
 
「仕方ねえ……、但し、時間は10分、ダウド、しっかり見ててくれよ……」
 
監視付き、時間制限ありの条件付きで、ようやくジャミルも折れた。
 
「ふふ、よかったわね、チビちゃんも、さあ、朝ご飯の時間も押してるから
急いで行ってらっしゃい」
 
「じゃあ……、行こう、宜しくね、ペー君」
 
「うん……」
 
そして、チビを連れたダウドとペースケはラダトームの町を歩く。
 
「ねえ、おれにもそのバッグ持たせてよ」
 
「え?いいよ、はい」
 
ダウドがチビの入っているバッグをペースケに渡す。ペースケは嬉しそうに
バッグを身体に掛けた。
 
「ありがとー!えへへ!」
 
「ねえ、ぺー君はずっとラダトーム滞在?」
 
「ん?一年前かな、おれ、親もいないし、あちこちの村とか町を
ふらふらしてんだよ、どこ行っても嫌われるよ、おれみたいなのはさ……、
でも、ここの町は結構広いし、ゴミ箱とか漁っててもあんまり誰も何も
言わないから、居心地がよくて……」
 
「そう……」
 
孤児としての複雑な心境と苦悩をダウドは即座に理解する……。この子も
小悪魔の友達である、亡くなった本物のリィトと同じ境遇なのだと……。
 
「zzz、きゅぴ~」
 
「あ、あれ?チビのやつ、寝ちゃったけど……」
 
ペースケがバッグの中を覗きこむとチビはすやすや眠ってしまっていた。
 
「ありゃー、しょうがないなあ、もう、チビちゃんてば、
二度寝しちゃったのかあ……」
 
(こ、これは、チャンスだ!後はどうにか、このダウドのお兄が
何とかして離れてくれれば……)
 
「じゃあ、悪いけど……、そろそろ宿屋に戻っていいかな?あんまり遅くなると、
ジャミルが噴火するからさあ……」
 
「あ、うん……」
 
(困る、それじゃ困る……、どうにかしなきゃ……)
 
「もし、そこのお兄さん、ちょっといいかのう……?」
 
「あ?はい……」
 
見知らぬおばあさんがダウドに声を掛けてきた。
 
(!こ、これは……、最大級のチャンス!!……なんつー
お約束展開なんだっ!!)
 
「ここの村は、年寄りでも安心して入れる、あたたかい温泉があると聞いて
来たんじゃが……、しっとるかのう?」
 
「あ、それは多分、マイラの方じゃないですか?それに此処は町ですし、
ですが、オイラ達も何回も温泉に入った事有りますけど、あそこは結構、
熱湯でしたよお?」
 
「それは、困ったのう……」
 
「でしたら、この町の宿屋のお風呂の方がですねえ……」
 
ダウドとおばあさんはすっかり話し込み始めてしまう……。
その様子を見ながら、ペースケは一歩、二歩、そろそろと後ずさり……。
 
「ごめんっ……!!兄ちゃんっ!!」
 
ペースケは猛ダッシュで一目散に駆け出す……。
 
「悪いのう、兄ちゃん……、忙しいところをお邪魔してしもうて……」
 
「いいえ、オイラでお役に立てれば……、良かったですよお~……」
 
非常事態に気付かないダウド……。一方のペースケは、バッグの中で
眠っているチビを抱えたまま、只管、町の出口目指し、突っ走っていた……。
 
「……大丈夫だよ、おれ、このままお前を悪い奴らになんか
渡したりしないよ、だから、誰にも見つからないところで、
おれと一緒にこのままくらそう、な?」
 
「ぴきゅ~……」
 
伸びをしながらチビがバッグの中でころっと丸まった。
 
「……ははっ、かわいいなあ~……」
 
猛ダッシュしつつも眠っているチビの顔を見つめ、癒されながら
ペースケは逃走を続けた……。
 
 
そして、宿屋……。
 
「んで?……で、それが一時間も遅れた理由か……?」
 
両足を組んでジャミルが椅子に座り、ダウドを睨む。
 
「ごめんっ!……ほんとにごめんっ……!!気づいてから慌てて追掛けて、
町中探したんだけど……、もう本当に何処にも姿が見えなくて……」
 
ダウドは皆の顔を見ず、只管俯いたまま謝り続ける……。
 
「ダウドだから……、信頼して任せたのに……、でも町中探しても
いないって事は、もう外に出ちゃった可能性も高いよ……、どうするんだよ……」
 
どうすればいいのか、ダウドを信頼し、ペースケにチビを預けるのを
許してしまったアルベルトも責任を感じて困り果て、頭を抱える……。
 
「……どうしよう、オイラ……、どうしたらいいんだよお……」
 
「ダウドばかり責めないで……、本当に悪いのは全部私なんだから……、
あの子を完全に信用しちゃったんだから……、だからダウドにお守を
お願いしたの……、それにしても、どうしてこんな酷い事するのよ……、
チビちゃん……」
 
ダウドを傷つけない様、フォローするが本当はアイシャもどうしていいのか
判らず俯き、ぽろっと涙を溢した……。
 
「ジャミルさん……」
 
おかみさんがそっと部屋のドアをノックする音が聞こえた。
 
「あ、今行くよ……」
 
すっ飛んで行って急いでジャミルがドアを開けた。
 
「あの方が、いらっしゃいましたけど……」
 
「そっか、わざわざ知らせてくれてありがとな、おばさん」
 
「いいえ……」
 
おかみさんはニコニコしながらロビーへと戻って行く。
 
「ジャミル……」
 
「俺がちょっと話してくるわ、アルは二人を頼む……」
 
「うん……、分ったよ……」
 
ダウドもアイシャも……、すっかりしょげた状態のままに
なってしまった……。
 
「……ったく、あんの糞ガキっ……!何かやらかすかと思ってたら、
案の定だっ!!」
 
怒りながら、ジャミルが廊下をドスドス歩いていく……。ロビーまで行くと、
早速、あの無精髭男が待っていたが……。
 
「ああ、ジャミルさ……」
 
「よお、おっさん……、ちょっと話があんだけどよ……」
 
唯ならないジャミルの機嫌の悪さに、男は眉を顰める。
 
「な、何か……、あったのですか……、随分と……」
 
「ああ、お二人とも、大事なお話なら、こちらへどうぞ……」
 
「はあ……」
 
おかみさんが機転を利かし、二人を個室へ通し、ジャミルは
男を睨んだまま、不機嫌状態で話を始める……。
 
「そうでしたか……、私の連れが、いや、本当に申し訳ない事を……、
どうお詫びしてよいか……、誠に申し訳ありませんでした……」
 
男は只管頭を下げ、謝罪するがジャミルの怒りは収まらない。
 
「謝って済む問題じゃねーんだよ!あんた、あのアホが行きそうな
場所とかわかんねーのか!?」
 
イライラが収まらず、ジャミルは側に置いてあった輪ゴムの束を
意味もなくびょんびょん伸ばしてみたり、引きちぎる……。
 
しかし、ジャミルに謝罪しつつも、男の腹では……。
 
(あのガキめ、やっぱり裏切りやがったか……、変な処で
智恵の働くガキだ……、フン、裏切り者の末路は……、即、
射殺だ……)


愛の逃走奇行

「もう、今日も半分以上時間が過ぎちゃったわ、此処で立ち止まっていても
チビちゃんがどんどん遠くにいっちゃうだけ……、皆は今夜の準備をして?
あの子とチビちゃんは私が探すわ……」
 
「アイシャ、君一人だけに任せるのは、負担掛け過ぎるよ……」
 
「大丈夫、チビちゃんの為なら例え何処へだって飛んでいくわよ……」
 
アイシャとアルベルトが話していると、そこへ不機嫌全開
バリバリのジャミルが部屋に戻って来る。
 
「どうだった……?」
 
「駄目だ、あの糞親父、申し訳ありません、私にも状況が
全然分らなくなって来ています……、だとよ……、んでもって
さっさとどっか行っちまったよ!今夜の事で用があって
来たんじゃねえのかよ!」
 
「そうなんだ……、困ったね……、本当に……」
 
「どうしよう……、いつもいつも、オイラの所為で迷惑掛けて、
本当にごめんよ……」
 
「ダウド、起きてしまった事は仕方ないよ、それよりも、
もう前を向かなくちゃ、落ち込むよりも今は最善の方法を考えないと……」
 
アルベルトが下を向いたままのダウドを励ました。
 
「……あ、ねえ、ジャミル……、鍵はどう?光ってない?」
 
思い出した様にダウドがやっとか細く、声を絞り出した。
 
「ん?ああ、鍵か!」
 
ジャミルが鍵を取り出してみるが……、今回は何の反応もない。
 
「……」
 
「光らないね……」
 
「マジで駄目だぞ……」
 
「今回は、鍵の力でも無理かなあ、竜の涙だった時も何回も
助けてくれたのに……」
 
再びダウドが向いて落ち込んでしまった……。
 
「そう何回もご都合主義じゃな、そんなに甘くないのさ……」
 
そう言ってジャミルは鍵を見つめると自身の腰のベルトに
着けているポーチの中に鍵を慎重そうにしまった。
 
「ジャミル、二人にも言ったんだけど、チビちゃんとぺー君は私が探すわ、
だから、ジャミル達には今夜の準備をして欲しいの……」
 
「だけど、お前……」
 
「私に探させて、お願い……、約束する、チビちゃんもペー君も
絶対見つけてみせるから……」
 
「皆さん、お集まりですか?」
 
おかみさんがドアをノックする。
 
「あ……、いるよ……?」
 
ジャミルが返事をすると、お盆にコーヒーとロールサンドを乗せて
おかみさんが部屋に入って来た。
 
「おばさん……」
 
「これ、召し上がって下さい、余計なお世話かとも思ったんですが、
皆さん朝も召し上がっていない上に、色々と大変な状況の様でしたので……」
 
「うう、おがみさあん……」
 
落ち込んでいたダウドの目から一気に涙が滝の様に流れ出る……。
 
「私達には、本当に何もお手伝い出来ませんけど、まずはお腹を
いっぱいになさって、元気を付けて下さいね、主人もとても皆さんを
心配してます、満腹は元気の元ですよ」
 
4人はただ、おかみさんの優しい気持ちが嬉しくて、おかみさんが
部屋を去るまでおかみさんに何回も何回も頭を下げた……。
 
「よしっ、腹減ってるから苛苛すんだなっ!」
 
「そうさ、そうだよ……!!」
 
「うわあ、美味しそうだな……、何か、本当に凄く嬉しいね……、
ううう~……」
 
「うんっ!これ食べて元気出さなきゃね!!密猟者も何のそのよっ!」
 
4人はおかみさんからの優しい励ましと美味しい食事で再び活力を
取り戻したのだった。
 
 
一方、……チビを誘拐し、逃走中のペースケは……。
 
「ここ、どこだろう?おれ、どの辺まで走ったのかな……、
全然わかんない……」
 
「ぴ……、きゅ~っ!!あふああ~……」
 
状況を知らないチビが目を覚まし、呑気そうに欠伸した。
 
「お、おきたのかい?」
 
「……ジャミル……?違う、ジャミルじゃない……、ぺー?」
 
「そうだよ、おれだよ」
 
「チビ、いつまでお外にいるの?ここ何処……?誰もいないし、
ダウもいないよ……」
 
チビがバッグから顔を出してキョロキョロ辺りを見回す。
 
「うん、ダウ兄ちゃん、先に宿屋にもどったんだよ、もう少し
一緒に遠くまで遠出してきていいってさ……」
 
「ダウがそう言ったの……?」
 
「うん、……お前、何でそんなに悲しそうな顔してんだよ、おれといっしょに
遠くまで行けるんだぜ?うれしいだろ?」
 
バッグからチビを出し、ペースケがチビを高い高いする。
 
「……でも、チビ……、皆も一緒じゃなきゃ……、嫌だよ、さみしいよお……」
 
(大丈夫、すぐに忘れさせてやる、チビはおれのモンだっ……)
 
「そーら!高い高いーだぞ、チビー!!」
 
「ペー……、やめてえええー!」
 
「なんだよ、お前、空飛べるんだろ?案外こわがりだなあ!ははっ!」
 
「ぴきゅ~……、あれ?」
 
「雨……か?」
 
「きゅぴい~、濡れちゃうよおお~!」
 
「大変だっ!チビ、この中に入れっ!」
 
「ぴい~……」
 
ペースケが慌ててチビをバッグに押し込める。
 
「さっきまで、あんなに天気良かったのに……、くそっ、どこか
雨宿りできる場所を探さないと……!」
 
雨宿り場所を求めて、ペースケは再び走り出した。そして、夕方になり、
漸く雨も止んだが……。
 
 
 
「本当に、大丈夫かよ、心配だなあ……」
 
チビの捜索はアイシャに任せる事となったのだが、
暴走アイシャにジャミルはどうしても不安が拭えない……。
 
「大丈夫っ!ママは強いのよ!絶対にチビちゃんを探してみせるんだから!」
 
「そら、強いのは判るけどよ……、怒れば女子プロ並みに……」
 
ジャミルがぼそっと呟いた。
 
「なあに?何かしら!ジャミル!?ねえねえねえっ!?」
 
「何でもねーですよ……」
 
「プッ……」
 
横を向いてアルベルトが吹く。
 
「それよりも、私は皆の方が心配よ、絶対、どんな相手でも油断しちゃ
駄目だからね……?特にジャミルは……、すぐ調子に乗るんだから……」
 
「わ、分ってるよ……、たく、心配性だなあ……」
 
「お互いさまよ、もう……」
 
あっちの方を向いてアイシャが顔を赤くした。
 
「気を付けてね、アイシャ……、大変な事になっちゃった分、オイラも
全力で頑張るから……」
 
相当責任を感じているのか、いつもとは違い、真剣な目でダウドが
アイシャを見つめた。
 
「うん、大丈夫よ、でも、あんまりダウドも自分を追い詰めちゃ駄目よ、
お願いね?」
 
「分ってるよお……」
 
「それじゃ、私、そろそろ行くわ!じゃあ……」
 
「気を付けるんだよ、アイシャも……」
 
「ええ、アルもジャミルとダウドをお願いね……」
 
それだけ言うと、アイシャは後ろを振り返らず一目散に
町の外へと駈けて行った。
 
「さて、俺らもそろそろ準備しねえと……、アイシャが抜けた分、
魔法の方はアルに任せっきりだけど、頼むな……」
 
「うん、さっさと終わらせてしまおう……」
 
 
そして、町の外に出たアイシャは……。
 
「そうよ、私がドラゴンになってみれば……、チビちゃんの気を
感じとれるかもしれない……、……ドラゴラム……!」
 
自身の姿をドラゴンに変え、気を集中させる……。
 
「感じるわ……、チビちゃんの気……?」
 
 
雨宿り場所にペースケが見つけたのは、かつて、あのサバイバル親子が
暮らしていた場所だった。今はどうやら親子は無事にラダトームに
戻っており不在で姿は見えずであった。
 
 
「きゅぴ~、お腹空いたよお~……」
 
「そうだな、朝から何も食ってないんだっけ、ごめんな、もう少し……」
 
「……やだ~っ!アイシャの作ったミルク粥食べたい、カップラーメン
食べたいよおーっ!!」
 
お腹の空いたチビが暴れ出し、ペースケに抗議する。
 
「いててて!お前、腹が減るとあばれだすのかよ、困ったなあ……」
 
「びーっ!びーっ!帰るーっ!!」
 
「も、もう……、暗くなってきたし、今日は無理だよ……」
 
(明日も戻る気ないけどさあ……)
 
「……何が、無理なの……?」
 
「ん?帰るのがさ……、……?げ、げっ!!」
 
「ぴい~!アイシャ!!」
 
漸く、二人の場所を探し当てたアイシャがペースケの前に突っ立っていた。
 
「な、何で……、姉ちゃん……、ここが……」
 
「何処にいたって絶対見つけるわよ……、私達はチビちゃんの
親なんだからっ!!」
 
「親……?」
 
「ペー君、おしりを出しなさい……」
 
「な、なんでだよ、嫌だよ……」
 
「……出しなさいっ!今すぐ早くっ!!」
 
「うげええええーーっ!!」
 
「出さないのならこっちから行くわよーっ!」
 
物凄い剣幕でアイシャがペースケに掴みかかった。そしてアイシャは
ペースケの半ズボンを下ろし半ケツをべしべしと、尻が赤くなるのにも
構わずしこたま叩いた。
 
「どうしてよっ!悪い事はもうしないって約束したでしょ!?」
 
「……いてててて、いてーよ!やめろったら、いてーっ!!」
 
「ぴい~、アイシャ……、もうやめて……」
 
「チビちゃん……?」
 
「これ以上、ペーのおしり叩いたら……、ペーのおしりが可哀想だよお……」
 
「わ、分ったわ……、私もつい、ムキになりすぎちゃった……」
 
チビに言われてアイシャが漸くペースケの半ケツから手を離した。
 
「はあー、助かったあ……」
 
「ペーのおしりさん、いい子いい子ね……」
 
チビが赤く腫れたペースケのおしりを優しく撫でた。
 
「チビい~、嬉しいけど……、ケツの方心配されてんのかあ?おれ……」

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スーファミ版ロマサガ1 ドラクエ3 続編 オリキャラ オリジナル要素・設定 クロスオーバー 下ネタ 年齢変更

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-04-19

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二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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  1. エピ41・42
  2. エピ43・44