恋した瞬間、世界が終わる 第76話「メトロポリス1-羅針盤-」

恋した瞬間、世界が終わる 第76話「メトロポリス1-羅針盤-」


ーー頭脳と手の仲介者は心



日々繰り返されるシフト労働って、現代と同じね。
これは、労働がテーマなんですか?
チャップリンのモダンタイムスみたいなテーマもある。
エンデのモモも連想させるのよね。
上層階との比喩は、エデンと、地獄とを思わせるよね。
最初のフレーダーの表情には狂気が浮かんでいるわ。
そこに偽りのエデンであることを認めさせる。
そこにマリアたちが入ってくるのよね。
純白の象徴としての鶴?もいる。
マリアの表情のアップと、フレーダーの自分を守るための表情。
フレーダーは、マリアに偽りのエデンにはないものを見てしまうのね。


 
 “優れた機械は下に、労働者たちはそのさらに下”


機械よりも、人間の地位が下になっているということ。
そこに何故か簡単に迷い込んでしまったフレーダーは機械化した人間たちを見る。


フレーダーは、エデンという上層から、下界に降りる弥勒菩薩みたいなものなのかしら?
そして何故か簡単に一人の労働者が欠陥を生んでしまう。
嫌味よね。
フレーダーはモレクをそこに見て、かつての古代にあったモレクに捧げる生贄の儀式が、ここでは機械に人間を捧げる儀式になっていることを見てしまう。
モレクの口に向かう大量の機械人間は、代替えできるということでもあるわ。
これはいけないと思ってなのか、父親のところへフレーダーは向かうのね。

幻覚があるけれど、モノクロ映画の特に初期の頃の良いところは、水墨画のようにそれを表せられるところよね。
遠近感が出て、輪郭がはっきりしないというのか、チープさはあるけれど、そこに暗喩が発生して、奥深さになる。
幽玄さというものかしら?


父親の元へと来たら、モレクという悪魔の別な極面のような、使用人たちに神のような立ち位置で指示を送る父親がいることを見て、そこに厳格さも見る。
このモレクと、父との対比というか、同じものという流れがよくできているわ。
神のような存在の父に圧倒されたフレーダーは秘書に事故?というか犠牲のことを打ち明けるのよね。
良心の葛藤を感じたということ?
それを聞いた父は、それはただの事故として処理するのだけど、まさに社会の運営としての必要な生贄という感じだ。
父が秘書にフレーダーが機械室に入れた理由を問うけど、とばっちりよね。
秘書がかわいそう。
フレーダーは、下に降りた理由として、父に兄弟たちを見たかったからと言う。
キリスト教の香りがまたするのよね。
さらにフレーダーは、この大都市が造られたのは「人間」たちの努力であったのに、その彼らが、カーストの序列で機械よりも下になっていること。
街などの造型物というか「偶像」たちが上にいること。
自らが作り出したものよりも下になっていること。
まるで、現代ではSNSやらに隷従し、自らの行動や考えが定められてしまっている私達のようね。
そして、父親はそれがふさわしいことだと言うのね。
フレーダーは、いつか彼らと敵対したらどうするのかと父親に問うのだけど、背中を向け合うカットとしても表されているわ。
そこに緊急の要件があって、一人の労働者が通され、ある図が出回っていることを報告する。
労働者の男は、事故で亡くなった2人が持っていたと報告するわ。
これを聞いた父親は、それは秘書の手落ちであるとアクロバティックなパワーハラスメントを極めて、秘書を解雇するの。
フレーダーは、ドン引きの後退りをするのよね。
重たそうなドアにも何か暗喩があるのかしら?
重たいドアから出て行った秘書は、極まったパワハラ効果で心と身体の力が抜けて、足の筋トレ後の階段を下りるような不安定な足取りを見せた後、ピストル自殺をしようとしたら、止めに入ったフレーダー。
そんな秘書に手を貸してくれないか?と、新たな役割を与える声かけをするフレーダーさん。
秘書の顔が一瞬で明るくなったのは、居場所や役割という依るべきことが人が生きる支えであることを示唆しているわよね。


シーンは飛んで、フレーダーは再び機械室?へと足を踏み入れる。
このシーンの前は何かがカットされたのかしら?
そこで再び、機械のコマとして支配される人々を見るの。
羅針盤のような何かの制御装置の管理を身体いっぱい使っての操作で担っている人物を目にする。
太極拳をしているかのような動きに見えるのよね。
羅針盤というものの表すところも何かを伝えたいようにも見えるわ。
操作していた男が疲労で倒れかかったところをフレーダーが助ける。
男は、誰かが監視しなければと言うと、僕が見るからと言って、男との役割を交換するの。
如何に、社会の役割というものに取り憑かれてしまっているかを考えさせられるわ。

急遽、大都市の真ん中に古い家があったという話題になり、発明家が紹介される。
その発明家の古い家に、あの父親が訪問するの。
発明家は、ついに発明の準備が整ったと告げる。それは人間の形をした機械で、疲れ知らずで、間違いも犯さないと、狂気に憑かれた表情で伝えるわ。
そして、生ける労働者など必要ないとも。
それを聞いた父親の表情は、どう解釈したら良いのだろう?
労働者を切ること、人間が不必要になることへの迷いがあるということなの?
完全に、機械が全てを担うことへの懸念なのかしら?
発明家は螺旋階段を昇って、発明した機械の下へと案内する。
螺旋階段には、象徴的なDNAの二重らせんや呪術的な何かを想像させられるわね。

いよいよ、発明された機械が姿を表すのだけど、最初はアップではなくて、やや遠目でのカットなのよね。
この距離感は、異質さや特異さを醸し出すことに繋がってる。
近すぎると吊り上げている線か何かが見えてしまうリスクを避けたのかもしれないけれど、却ってこれが良かったのね。
それにしても、この機械のデザインは異様なものだ。
あの父親も恐れ慄いている感じだわ。
さらっと、発明家が右腕を代償にしたことを話しているけど。
発明家は、未来の労働者を作ったと言っているけど、この機械は、だたの人間が担っていた労働の役割を交代するだけのものだと思っていたのかもしれない。
まだ、その上に支配層としての人間が成り立つと錯覚していたのでしょうね。
あと24時間で完璧な機械人間に仕上がると、時間のリミットを知らせる。
これが、父親や人間に残された考える時間という訳ね。
機械室にいるフレーダーが、羅針盤の管理をしているカットが入るのが物語っている。

唐突に、父親が発明家の下に来る理由は、何か助言を求めるときであり、今回は出回っている地図についての助言を求めてのことだと告げるの。
再び、機械室の羅針盤のフレーダーのカットが入り、足下に落ちている地図に気づく様子が描かれるわ。
そこにタイミングよく降りてきた労働者が、羅針盤に悪戦苦闘しながら地図を拾うフレーダーに2時に彼女の会合があると告げる。

発明家が地図の解読をするカットに移り、父親が腕時計でタイムリミットを確認するかの様子が映り、また、フレーダーが羅針盤を操作するカットに流れる。
これは、心理的な展開を見せているのね。
10時間労働の過酷さを身をもって知るフレーダーは、10という十字架になってゆく。
シフトの交代の時間になり、解放されるフレーダー。

シーンは変わり、発明家が古代の地下墓地の地図ということを解読する。
それは、労働者の街(優れた機械は下に、労働者たちはそのさらに下)より地下深くに存在すると父親に告げるの。
黄泉の国を連想させるわ。
意外なことに、メトロポリスという映画は、未来的な、機械に支配された話の中に、過去という機械の支配と離れた時間までも汲んでいる。
次のカットでは、その古代の地下へと降りてゆく労働者たちの姿になったわ。
この映画では、上の階層と、下への階層との行き来が重要な暗喩であることがわ分かるのね。

なぜ彼らはそこに関心がある?と、父親が発明家に訊ねる。
発明家は、その理由をと、父親を地下へと案内するわ。

恋した瞬間、世界が終わる 第76話「メトロポリス1-羅針盤-」

次回は、5月中にアップロード予定です。

恋した瞬間、世界が終わる 第76話「メトロポリス1-羅針盤-」

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  • 掌編
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-04-14

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