カノン~ヴォルケーノ・タワーAnother Story~

ヴォルケーノ・タワーに登場する幻術使い、中谷悠奈ちゃんの話です。
同時公開の、柾哉くんの話とリンクしております。

本編で倒れてしまった悠奈ちゃんの、後日談を書きたかったんです。
ちゃんとハッピーエンドで終わらせてあげたかったもので。
基本的に、悲しい思いをする人は出したくないんです。

いつからだろう。声を殺して泣くようになったのは。
気づいたら一人だった。
悠奈はずっと小さなままなのに、お父さんもお母さんもお兄ちゃんも死んでいった。
村の人にもみんなに無視されて、苛められて、悠奈にはおうちも無い。
いつの間にか、木に向かって話すようになった。

「あのね、悠奈は忌み子なんだって。変な力を使うから、いつまでも子供のままだから。ねえ、どうして、幻想を見せたらいけないんだろうね。」
こんな風にされるんなら、こんな訳の分からない力なんていらなかった…
「ねえ、こんにちは。あなた、一人?」
この人…誰?
金髪に碧眼の、綺麗な女の人。
「悠奈。中谷優奈だよ。あなたは誰?」
「私はミカエラ=ブエンディア。使者の一人、音使いよ。」
久しぶりに、人と会話した気がするな。
「ねえお姉ちゃん。使者って…なあに?悠奈と話していいの?悠奈は忌み子だから、お姉ちゃん殺されちゃうかもしれないよ?」
「大丈夫よ。私は旅の途中だから、殺されたりしないわ。使者っていうのはね、特別な能力を持った人のことよ。私は音使いだから、音楽で怪我を治したりするのが役目。悠奈ちゃんはどうして忌み子なんて呼ばれてるの?」
「悠奈には、変な物を見せる力があるから。それに、もう何年も何年も大きくなれないんだ。だから気持ち悪いんだって。」
「…悠奈ちゃん、それはね、気持ち悪くなんかない。それは、使者の力なの。悠奈ちゃんは多分、幻術使いね。」
幻術使い…?
「幻術使いってなあに?」
「古い能力よ。人に幻想を見せたり、使い魔を呼び出したり出来るの。そんなに小さいのにもう成長が遅くなってるってことは、かなり使者の力が強いのね。」
「悠奈…幻術使い?」
「そう、幻術使い。その能力を恥じることなんかない。素晴らしい能力なんだから。この本あげるわ。ここに、使者の色々なことが書かれてる。幻術使いについても載ってるはずよ。私はもう必要ないから。」
そう言ってにっこりと笑い、お姉ちゃん…ミカエラは、静かに笛を吹き始めた。
傷ついた心に染み入ってくるような、優しい音。
しばらくして、お姉ちゃんは吹くのをやめた。
「もう大丈夫。音使いの力で、心の傷は浄化しておいたから。さあ、私はもう行かなくちゃ。旅の途中だしね。」
「…また、会える?」
お姉ちゃんはふっと微笑んで、悠奈の頭を撫でた。
「私自身には、もう会えないかもしれない。でも、私の音楽には、いつかきっと会えるわ。」

「ん…」
どれくらい長く眠ってたんだろう。
あの時のお姉ちゃんはと同じ、静かで優しい音色が聞こえる。
自分が幻術使いであると自覚してから、ずっと忘れていた記憶。
やっと思い出せた、お姉ちゃんのこと。
そして、グラステイル併合、ゴルシーダとの戦い…
あのヴォルケーノ・タワーの戦いで気を失ってから、どれくらい経つんだろう。

ふいに音がやんで、柾哉が入ってきた。
「…!悠奈!?気が付いたの!?」
「おはよう柾哉。ここは?柾哉の家?戦いはどうなったの?」
「うん、そう。戦いは終わったよ。もう何十年も前に。君は本当に優秀な幻術師だから、治癒するのに苦労したんだよ。」
「…もしかして、柾哉がずっと治癒してくれたの?」
「当たり前だろ?どんな傷でも癒すのが、音使いの仕事だから。心の傷も、魔術の傷もね。」
にっこりと笑う柾哉の顔に、お姉ちゃんの顔が重なった。
「ねえ柾哉。ミカエラって知ってる?」
「僕の音楽の師匠だよ。それがどうかしたの?」
不思議そうに首をかしげる柾哉。 
「ううん、なんでもない。それより、あの戦いがどうなったのか聞かせてよ。」
「それはね…」
柾哉の話を聞きながら、お姉ちゃんの言葉を思い出す。

お姉ちゃんには会えなかったけど、お姉ちゃんの「音」には会えたよ。
そしてそれは、誰より大切な仲間だったよ。
ねえお姉ちゃん、悠奈はもう、忌み子じゃないよ。

                                 FIN

カノン~ヴォルケーノ・タワーAnother Story~

同時公開の、柾哉くんの話とリンクしております。
ちなみにカノンとは、追いかける…みたいなニュアンスでつけております。
ミカエラを目指して、ミカエラに救われた2人が、今度は誰かを救う、連鎖みたいなものをイメージしました。
とか言いつつ、結構適当です(笑)

本編で倒れてしまった悠奈ちゃんの、後日談を書きたかったんです。
ちゃんとハッピーエンドで終わらせてあげたかったもので。
基本的に、悲しい思いをする人は出したくないんです。

この話で、本編と直接関係する話はいったんおしまいです。
大好きなキャラクターたちなので、またヴォルケーノ・タワーの話を書くかもしれませんが(笑)
それでは区切りとして、いろいろ語らせてください(笑)


作者の戯言~制作秘話という名のあとがき~

田藤柚奏です。
ヴォルケーノ・タワー、お楽しみいただけましたか?
ここからは私の勝手な話なので、スルーして頂いて結構です。
今回は本編、柾哉の番外編、悠奈の番外編の三本を書かせていただきました。

全体を通して一番苦労したのは、7人いる場面をどう進めるかです。
大人数を書いたことが無かった上に、苦手な冒険ものですからね。
気をつけたのは、お互いに恋愛感情が一切無い状態で書くことです。
まあ、夏美と樹なんかは誤解されそうですが、いい友達でありパートナーです。
将来は、別々の人と結婚して幸せに暮らす…という後日談(笑)
ちなみに、鈴香、樹、夏美、悠奈、光牙、柾哉の6人にはそれぞれモデルになった人物がいます。
名前は本人たちから、アナグラムなんかで作りました。
それでは、個人ごとの裏話をさせていただきます!

鈴香
なるべく大人っぽく!を心掛けたキャラです。
アリシアと絡んだり、柾哉と仲が良かったり、美味しい立ち位置なのですがどうも影が薄くなりがちでしたね。
使者の能力「風使い」に関しては遺伝性のものなので、あんまり苦労してないんです。
ご先祖様への劣等感とかは持ってるかもしれませんが。
基本的には、色んなところを旅してます。

夏美
とにかく、ミニスカートをはいて欲しかったんです!(力説)
ショートパンツなどではなく、あえてミニスカート。
特殊な能力があるわけではないので、戦いの場面ではもうちょっと戦わせてあげたかったです。
あとは、言いたいことは言う!したいことはする!という、とにかく元気っ子。
この作品においては、いい空気の入れ替えになったと思います。


夏美とセットで動かそうと思っていたので、夏美と同じく制服姿。
この子も、もうちょっと戦わせてあげたかったです。
セット扱いされてますが、いい子なんですよホント。
でも、夏美の行動力と樹の適当加減がいい味出してくれたんじゃないかと。
基本的には自分に厳しく、とっても努力家なんです。

悠奈
モデルになった子に、ゴスロリを着てほしいと思ったから生まれたキャラです。
それまではクールな子だったり激情家だったり、結構迷走しました。
忌み子だったり幻術使いという変わった能力だったりと、なかなかに面白いキャラでした。
悠奈ちゃんのゴスロリは、自分自身を保つための盾なんです。
だからブレないし、自分に自信を持って行動してる。
かなり美味しい立ち位置にずっといました。

光牙
唯一、普通(?)の人間です。
また、一番設定を生かせなかった惜しい人物でもあります。
星を見るのが趣味という伏線から、星を見て今の状況を把握し、それを元に「時見」である紗雪ちゃんが未来を見る…
なんていう案もあったのですが、出す機会がありませんでした。
いずれ光牙の番外編も書こうかな~と思っています。恋愛物語で(笑)

柾哉
最初の段階では影が薄かったのに、手直しされて一番出番が増えました。
美味しいところを上手く持って行ったキャラですね。
ちなみに悠奈を家に連れて帰ったりしてますが、恋愛感情は一切ありません。
師匠のミカエラが初恋の相手であり、今もずっと思い続けてます。
ちなみに番外編のrequiemは、「鎮魂歌」という意味があるらしいですが、あえて柾哉がミカエラに贈った恋の歌ということにしておきましょう。

他にも色んなキャラが登場しましたが、いかがでしたか?
どの子も、味のある面白い子に仕上がったかなと思います。
苦労も多かったんですが、その分原稿の重みには感慨深いものがあります。

ここまで読んで下さり、どうもありがとうございました!

カノン~ヴォルケーノ・タワーAnother Story~

同じ孤独を味わう2人が出会ったら… 忌み子と呼ばれた少女と、かつて神子と呼ばれた女性が出会った話。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-01-18

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