からくりカラスのお楽しみ
内臓を抜かれ、死を待つばかりだった少年は叔父の小波旅愁(こなみりょしゅう)に改造され、少女型のサイボーグになった。身体のことを説明される前に学校へ行ってしまった少年は多くのハプニングに見舞われ、脳を含む重要な部品をいくつも損傷してしまう。人間と偽って社会に戻ることが出来ないほどに……その過程で自分を見つめ直し、叔父と和解し、友人と再会を約束出来たのは不幸中の幸いだった。
少年こと小波黒羽(こなみくれは)が修理を終えて一週間ほど経った日の夜、黒羽は浴室で叔父の身体を洗っていた。
『痛くない? 上手く力加減できてる?』
「ああ、上手くできてるよ」
旅愁が腰掛け、黒羽が背中を洗っている。提案したのは黒羽だった。
『実は今、ヒューマンエミュレーターをオフにしてるんだ。自分で加減できるようになれば人間モードにならなくても生活できるからね』
電子的で耳に響く声で機嫌良く笑う黒羽の言葉に旅愁はため息で応える。
「それで声にフィルターがなかったのか、機械に寄りすぎると生身の感覚がなくなってしまうぞ」
過去の実験からサイボーグは人体の割合が少ないほど、人間ではなく機械として行動するほど意識がAIに侵食されることが分かっている。そして黒羽は生身がほとんど残っておらず、脳は半分以上が機械に、残った部分も何かしらの加工がされていた。
『だからー、何度も言うけどオレはサイボーグに憧れてたんだって。自分が人間じゃなくなってく感覚って、すごいドキドキするし』
旅愁は意識が消えてしまわないか心配しているが、当の黒羽は自分の意識を保つことより電子頭脳に制御されることを楽しんでいた。
「お前はまだ子供なんだ、気が変わることもある。そのときになって後悔するぞ」
『もー、おじさんは理屈ばっかり。夢が叶って喜んじゃいけないの?』
黒羽は洗う手を止め、旅愁の前に回り込んだ。低く屈み、旅愁の腹を持ち上げいちもつを露出させる。それは勃起していた。
「わ、お前……」
『おじさん、また太ったんじゃないの? 昔っから不摂生なんだから。たまには運動しようよ、ね?』
黒羽は旅愁の竿に手を添え頬を擦り付けた。人間への擬態を止めた黒羽の頬に弾力はなく、金属のような触り心地だ。
「やめろ、洗ってる最中だ」
『ねえおじさん、オレはサイボーグだから、石けん食べても大丈夫だよね?』
「大丈夫だが、そういう問題じゃ……おおう!」
黒羽はペニスに口づけ、泡と汚れを舌で絡め取り飲み込んでいく。旅愁は払いのける手を弱々しく下ろし、黒羽の拙いが一生懸命な舌使いに身を任せる。黒羽は叔父が射精するまで舌を動かし続け、精液を全て飲み込んでやっと口を離した。
『へへ、飲んじゃった。ヒューマンエミュレーターがオフだと味しないんだね、でもデータがいっぱい……オレ、ドキドキしてきちゃった』
「黒羽、お前なぁ」
黒羽のセンサーは直接味覚を感じるのではなく、データから味覚を再現している。人間のフリを止めた今、電子頭脳にはデータだけが送られている。少女型のサイボーグになって慕っているおじさんの精液を飲んで、解析したデータを自身のメモリーに保存する行為があまりにサイボーグ的で、黒羽の電脳を快楽に誘っていた。
◆
風呂から上がった旅愁は裸のままベッドに腰掛け、裸の黒羽に向かって手招きした。
「もう我慢の限界だ、今日は好きにさせてもらうぞ」
『もー、オレは最初から好きにしていいって言ってたじゃん』
黒羽はおじさんと向き合うように膝の上にまたがった。股の間からローションを溢れさせ、いつでもおじさんを受け入れられる体制だ。旅愁は先走る黒羽を制して右腕で支え、左手を胸に当てる。
「動力炉は冷却できている、激しくしても問題はないな」
『オレはおじさんにだったら壊されたっていいんだ。早くしてよ、もう我慢したくないよ』
甘えた声でねだる黒羽に旅愁は懐疑的な目を向ける。
「小太りの中年に欲情するのか、電脳の異常だろうか」
言葉を否定するように、黒羽は旅愁の腹をさすりながら息を荒げる。
『異常じゃないよ、実を言うと人間の頃から気になってたんだ。絶対おじさんの影響だから、責任とってよね』
黒羽は幼い頃、おじさんに好かれたいという気持ちがとても強かった。黒羽にとって旅愁は死んだ父親以外で、唯一信頼できる大人だった。思いだけで実ることは無かったし、同性か異性かなんて感情はかけらもなかったが、黒羽がサイボーグを夢見て自らの人格を電子頭脳に明け渡したこと、旅愁が万が一叶うならとセクサロイドプログラムを入れたこと、電子頭脳の故障が重なって、混ざらないはずの思い出とプログラムが混ざってしまった。黒羽はコンピューターに制御される自分に酔い、望んで性的な奉仕をする。想定外とはいえ望みが叶った旅愁は後ろめたく思っているが、誘惑してくる黒羽に気持ちが抑えきれなくなっていた。
「なら、わたしは痩せることにしよう。まずは運動と食生活だな」
『ちょっ、おじさん! オレ本気なんだって、痩せるなんて言わないで……おっ!』
旅愁は黒羽の右乳首の周りを指でなぞり、少しずつ乳首に近づけていく。乳首をこすり、つまみ、爪でひっかき……乳首の中に隠れていた電線を押し出した。
『お、おっぱいから何か出る』
「耐屈ケーブルだ。感度が高いから、指ですり潰す程度の電位差でも……ほら」
『あっ、な、中、中が直接コリコリされて……』
「本来触れない、胸の内側を揉まれるような感覚が味わえる」
旅愁は左乳首の電線も同じように露出させたあと、黒羽を自分に寄りかからせ、空いた両腕で黒羽の両乳首の電線を指の腹ですり潰した。
『うっ、うっ、うう!』
黒羽は旅愁の背中に手を回し、より乳首が弄りやすいよう体勢を変えた。気持ちよさに身を任せ、大好きなおじさんの肩によだれを垂らす。目をつぶり、電子頭脳をセンサーの刺激に集中させる。
◆
『はあはあ、気持ちいいよおじさ……ん?』
黒羽が目を開けると、いつの間にか仰向けに横たわっていた。隣に座る旅愁はノートパソコンを操作しており、伸びるケーブルは黒羽の頭と腹部に繋がれていた。
「おはよう黒羽」
『あ、あれ? オレ、どうしたの』
「過負荷を起こしたんだ、気持ち良くて気絶したと言えばわかりやすいか。通常モードなら発生しないはずの負荷だから、保護回路が作動してしまった」
頭頂部を外され剥き出しになった黒羽の電脳と、胸から下腹部に向けて開けられたハッチにケーブルが繋がれている。操作するパソコン、優しく微笑むおじさん。黒羽はサイボーグ扱いされること、サイボーグとして修理されること、修理してくれるのがおじさんであることがあまりに嬉しくておじさんに抱きついた。
「動くな黒羽、まだ修理中だぞ」
『壊れても修理してくれるでしょ? オレ、ケーブルを繋がれたり自分の中身を見たりするのが好きなんだ。ね、このままでもいいよね?』
「構わんが、まるでロボットのような発想だな。経験上、サイボーグは脳に負担がかかる行為は嫌がるのだが」
『そうなの? サイボーグになりたくてなるんだから、機械の身体を見るのだって、脳を機械みたいにされるのだって嬉しいと思うんだけど』
旅愁は機械が剥き出しの状態を喜ぶ黒羽を見て深いため息をつく。
「はあ、まったく……留め具を外すから動くなよ、わたしまで怪我をするからな」
『へへへ、ありがと』
旅愁は黒羽仰向けに横たわる黒羽からいくつかの部品とケーブルを外し、待ちきれないといった顔の黒羽に微笑みかけた後、何も言わず股間に指を滑り込ませた。
『わ、ちょっ、そんな急に』
「すぐ性処理モードに切り替える必要があるからな、悪いが前置きはなしだ」
『ん~~~~~!』
黒羽の膣が旅愁の指を包み込む。センサーは敏感に反応し、脳の中に取り付けられた制御装置が黒羽をセックス用のサイボーグに変える。
「わたしだって我慢の限界なんだ」
『あっ、う、いー!』
黒羽の女性器は人間の指で感じ、応え、絶頂するよう作られている。人間の指のサンプルとして旅愁は自分の指を使ったため、黒羽の膣は旅愁の指を入れられたとき100%の快楽を感じるようになっていた。旅愁の意図した仕様ではないが、今の二人には都合が良かった。
「顔は男のままなのに、AV女優みたいな顔をするんだな」
『おじさんが、そういうふうに、かいぞうしたん、でしょ……』
セックス用のプログラムが起動すると、黒羽の電子頭脳は生身の脳よりプログラムの指令を優先するようになる。黒羽の意識は余ったリソースのみで再現されるため、端からは朦朧としているように見える。
「そんな改造はしていない、偶然そうなっただけだ」
指でされ、身をよじりながらも黒羽の電子頭脳は旅愁を楽しませようと働き、彼に口づけしたり、乳首を刺激したりしている。機械の身体でプログラムに弄ばれながらも、気持ちよさそうにする黒羽を見て旅愁は美しいと思った。
『おじさん、ちょうだい……』
「こんな状態でねだるのか、エロガキめ」
旅愁は膣から指を引き抜き、亀頭で黒羽の割れ目をなぞる。
「これが欲しいのか?」
『そう、それ』
黒羽のだらしない顔に微笑みながら、旅愁は自身のそれをゆっくりと黒羽の中に沈める。二人の行為は初めてではないし、黒羽の割れ目はよく濡れている。が、黒羽の入り口はビリッと音を立てた。
『痛っ!』
人間なら出るはずのない、鉄の処女膜を突き破る音。黒羽は自分の腹が処女に戻されていることを知らなかった。
『な、なん、で』
旅愁のそれが黒羽の奥へ進むと、破れた膜を引きちぎるようなブチブチという音を立てる。黒羽は戸惑い、戸惑いはデータになって黒羽の電脳を圧迫した。
『あ、うあ、あーーーーー!』
黒羽の意識に異常がある。そう判断した電脳はセックス用プログラムの優先度を下げ、黒羽の思考レベルを引き上げようとしたが……。
カチリ。
旅愁のそれが黒羽の一番奥を突いたことで、プログラムが電脳に割り込み、黒羽の身体の制御を奪う。手や口の愛撫に加え、膣の締め付けと腰の動きも積極的に行い始めた。
『す、すい、スイッチ、が』
腹部が開かれたままのため、内側で動くモーターがウインウインと大きな音を鳴らす。腹部に納められた回路がピカピカ光り、見えてはいけない部分が露出していると警告している。
『しょ、しょ……』
リソースを奪われ黒羽の意識はさらに薄くなる。剥き出しの電脳は激しく点滅しており、高負荷の処理を行っていることが分かる。黒羽の意識を飲み込んだ制御装置が不規則に光っており、プログラムと意識が同化すると明るく、分離すると暗くじんわりと輝いた。
「どうした黒羽、処女みたいな反応じゃないか」
旅愁も、甥っ子の顔をした機械人形がモーターを鳴らしながら腰を振る姿に盛り上がり、挿入したまま口づけしたり、乳首を囓らせたり、ケーブルを挿したままの、黒羽の意識に合わせて色とりどりに光る電子頭脳に頬ずりしたりして楽しんだ。
『おじさ、おっ、おあ、ああ!』
「こんなに腰使いが上手いのに、なあ」
『だ、だって初めてに……おじ、さぁん!』
「うっ!」
旅愁の射精を確認したプログラムは黒羽の動きを停止させ、余韻を楽しむ時間を作った。動きが止まったことでリソースが回復し、黒羽の言葉数が増える。
『おっ、おじさん……さっきのオレ、処女みたいじゃなくて処女だったよね?』
「さて、どうだろうな。形が処女でも、初めてじゃなければ偽物かもしれん」
旅愁は黒羽をうつ伏せにし、足をベッドから床に下ろす。尻を突き出すように寝かせ、再び竿を突き入れた。
「だが、お前は本物の処女より可愛いという確信がある!」
『はっ、あ、いい!』
プログラムが再起動し、黒羽は再びセックス用のロボットに変わる。腰を浮かせ、緩急を付けて動かし、膣の締め付けも調節する。旅愁の竿に最適化された黒羽の人工性器は中に残った精液をすべて吸い上げ、代わりに清潔なローションを流し込む。温かい膣の中に少し冷たいローションが注入される温度差に旅愁が唸り、自分の意識で動かせない女性としての部分をフル稼働させられた黒羽は電子頭脳の中で叫びを上げた。
『お、おじ、さん……』
「うっ!」
再び注がれた旅愁の精液を、黒羽は膣の中に備えられたポンプから飲み込む。センサーは精液が先ほどより薄くなったが、量が増えたことを黒羽に教える。今の黒羽は膣を突く竿の固さも、おじさんの精液の味もデータとしてしか認識できない。しかし黒羽は嬉しかった。人間の感覚では分からない微細な変化を数字として読み取り、理解できるよう改造された脳のおかげでおじさんが決して口に出さない心の動きを読み取れるような気がした。それが機械仕掛けになったから、憧れのサイボーグになったから理解できるという事実が、黒羽の電圧を上げさせる。
『おじさん、すき……』
身体だけでなく、心まで機械仕掛けになっていく自分を電子頭脳で感じながら、おじさんのための可愛いサイボーグになれたことを喜ぶ……暇はなく、黒羽の電子頭脳はパンクし、停止してしまった。
「本当に壊れるヤツがあるか、いつまで経っても手がかかる……小さかった黒羽が可愛いまま大きくなってしまった」
性欲を吐き出し、気持ちが落ち着いた旅愁は黒羽の幼い頃を思い出した。兄の息子らしく、気の回る優しい子供だった。父親の死がよほどショックだったのか、小学校に上がっても夜泣きが治らなくて大変だった。
「すき、か。黒羽が女の子ならと、邪な想像をすることはあったが」
一呼吸置いて、裸のまま壊れた黒羽を持ち上げて浴室に向かう。冷たい床に下ろしても、スポンジで身体をこすっても、腹を開いてタンクを取り出しても、黒羽は動かない。
「本当に、わたしのために」
タンクの中には精液とローション、石けんに加えて、旅愁のものと思われる毛や垢が入っていた。スポンジを握る手に力が入る。
「しかし、わたしが欲しいのはロボットじゃない。黒羽には気の毒だが、電脳を……」
物言わぬ人形になった甥を洗いながら、旅愁は吐き出した欲望が再び湧いてくるのを感じた。
からくりカラスのお楽しみ