「絵」

 此処に一つの絵があった
 古い、何かのぼやけた絵
 フィルムのやうでありながら
 町のような影が見える
 その絵は(たれ)がはこんだろう
 あの哀しい川に連れられたか
 身投げの精霊に手を引かれたか
 油絵のやうな水彩画
 水に溶けることも無く
 一度染みついた哀しいなつかしさは
 どこに歩けど日向の後ろを付いて来る
 寂しい背中にもたれかかる
 さうしてこの世に二人きり
 じっと佇んで黄昏の光に滲みだす

 此処に一つの絵があった
 古い、何かのぼやけた絵
 古い、何かのぼやけた絵

「絵」

「絵」

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-04-11

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