「絵」
此処に一つの絵があった
古い、何かのぼやけた絵
フィルムのやうでありながら
町のような影が見える
その絵は誰がはこんだろう
あの哀しい川に連れられたか
身投げの精霊に手を引かれたか
油絵のやうな水彩画
水に溶けることも無く
一度染みついた哀しいなつかしさは
どこに歩けど日向の後ろを付いて来る
寂しい背中にもたれかかる
さうしてこの世に二人きり
じっと佇んで黄昏の光に滲みだす
此処に一つの絵があった
古い、何かのぼやけた絵
古い、何かのぼやけた絵
「絵」