音響

変わらず好きな『四月は君の嘘』に捧げます。




あなたがそれに気付いた時。
それが何なのか、
私には分からなくなった。


だって、
あなたが気付く前から
あなたはそれに
包まれて生きていたから。


だってそうでしょ?
あなたが大好きな
晴れた夜、
あの輝きをあなたは遮らない。


袋から出したアイスが
自然に溶けてしまう。
その前に、あの子と一緒に
端っこを齧った。


あなたは、ずっとそうだったよ。
半開きの窓を
風の通り道にして、
練習曲に寄り添っていた。


絶望の淵にあって、
どこも向けない。
その子の近くで
日常の影を踏んでいた。


そこにあるものは
毒だったからね。
あなたはお腹を壊すぐらい
また、冷たいものを食べた。


あの子の顔を見れて
そこに浮かんでいた心配とか
涙目の音を聴いて、
あなたはいくつ謝った?


黒とか白とか
よく知らないし。
届かないペダルだって、
何回も踏まなきゃいいって。


一所懸命だった。
あなたも、あの子も
羽を畳んだ天使が、
歩く方法を学ぶみたいに。


あの、
誰も座らない長椅子と
何も鳴らない景色。
私がそれをスケッチして


心配事も減ってきて
日向の中をたった二人、
時には三人で
戯れあっていられた。


なのに、
風はそれでも吹いたよ。
あの子を想う
嘘つきみたいに。


覚えてる?
髪の短いあなたが
私の方を見て
泣くか笑うか、迷ったのを。




新しくなった朝。
コップから水は溢れて
逆さまのまま、
午後に向かって乾く。


いつも通り、を心掛ける
あなたの計算が
早まる歩数に現れる。
それを私は追いかけない。


練習に励む、
汗を流す。
あの子とあなたの中で
譜面がいくつも捲れていく。


帰り道で出会えば
軽口と、
ほっとした顔。
愛用の自転車が間を取り持つ。


さりげない演出は
街頭が得意としたから。
私は空を
もっと高くに遠ざけた。


手元にある
画面が真っ暗な予定も、
気持ちのままに
記録できる日々も。


決して失敗できない
本番になって、
瞬いて、
消えて行く。


あの子の口から聞く
音楽も、
あなたが得意な
口笛も。


平仄は確かに合っていたね。
ズレていたのは
立ち止まるタイミング、
拍動のテンポ感。


地面に降り立った私は
猫のように隠れて
あの子の思い出の中に
色を添えた。


黒くて赤い痛み。
丸くなる背中を撫でたり
一緒に眠ったり、
歌ったりできなかった沢山の事。


それを慈しみ、讃え合い
君たちという日常は
小さく、小さく萎んでいく。
泣いても笑っても、そこは変わらない。


流れるもの一つない
天上を仰ぎ見て
反射的な優しさに
身を包んで。


その時の裏返った声は
あの子のでも
私のでもなかった。
残る選択肢は、一つ。


見つけられたんだね、
良かったね。
弦楽器みたいに
跳ねたり、踊ったり。


先輩がねって、
言えなくなった頃だよ。
あなたの方から
終わりは始まった。




ソフトボールの試合は
来週に組まれて
あなたの履いていた
土汚れの目立つスパイクが


踏んで、
打って、
走って、跳んで、
途絶えた。


痛みを覚えて涙し、
大好きな光を歪ませて
あなたは気付いた。
その手のひらを返して


視界を遮った。


独り占めというには
余りにも稚拙で、
けれど、
子供と笑えない真剣さ。


ある詩人は
愛を謳い、
恋を変態と評したけど
私はどうかな。


あなたの側にあって
あなたの言葉を拾い、伝え
あなたの戸惑いや
あなたの決意を感じ続けた。


醜い嫉妬も
唐突な告白も
離れてやらないっていう
大切な誓いも


集約された力の結果。
好きに晴れた夜、
天辺に昇って
もう降りて来ない決意の塊。


だから
理解はできないんだね。
私のそれは
この地にあり過ぎている。


聴かれずに奏でられて
感動だけを齎す。
あの指の運び、
あなたより流す心、動き。


理解する。
別たれる道は浅く、
すぐそこの
静かな波に消されるけど


もっと遠く
ずっとその先で
煌々と灯り、
再帰を繰り返し促す。


坂巻く風も穏やかに
そして
凪の状態からまた吹いて。
私の出番が終わる。


無事に、
どうか健やかに。
椿の花に似て
潔い恋路を歩んでおくれ。


音はただの音。
その間に繋がりを見つけて
語れるのは
あなただった。人だった。




クレッシェンド。
どうか、そのままに。

音響

音響

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-04-10

Copyrighted
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