Requiem~ヴォルケーノ・タワーAnother Story~

ヴォルケーノ・タワーに登場した、柾哉くんの昔の話。

丘の上に立ち、音楽を奏でる。
村や山にこだまして、音は僕のもとに返ってくる。
今なら胸を張って言える。
「僕は君を愛している」と。
僕のためにいなくなった、僕がいたから消えていった君の為にに贈る精一杯の気持ち。
ラブレターという名のその意味は
「requiem」



よく晴れた日の昼下がり、今日も森へと向かう。
「柾哉、遅い!!」
目の前にいるのは、金髪に碧眼の美しい大人の女性。
「修行に遅刻してくるなんて、いい度胸してるわね。」
僕の音楽の師匠。
「でもさ、ミカエラ。こんな森の奥深くでレッスンする方がおかしいよ。」
「ごちゃごちゃ言わない!何年前から通ってるの?そろそろ地理くらい覚えなさい!」
そんなこと言ったって、この森は結構広いんだぞ。
「大体、どうして毎回レッスンする場所が違うのさ。誰にも言わずに出てこいとか言われても無理があるよ。僕だって、もう14歳なんだよ!」
「うるさいわね。この村では神様の化身扱いされる私が、こっそりあんたにレッスンしてるなんて知られたら騒ぎになるでしょうが!」
まあ、確かにそうだけれども…

彼女…ミカエラは、正真正銘の「音使い」である。
使者である彼女に年齢を聞くのは、庭の砂粒の数を数えるよりも無駄なことだから聞かないけれど。
使者の中ではかなり長生きなんじゃないかと思っている。
その長く生きているという事実、病気や怪我を治し、心までも音楽で安らかに出来るという音使い特有の能力から、ミカエラは村の中では「神様の化身」扱いされているのだ。
もしここでの会話(主には僕の言葉づかい)を聞かれようものなら、即刻非難の対象にされることは間違いない。
でも、レッスンするって言い出したのはミカエラなんだぞ…


幼い頃から、楽器を演奏するのは好きだった。
音が出て、メロディを奏でて、楽しい気分になれるのが好きだった。
たまたま森で笛を吹いていたら、突然現れたミカエラに言われたんだ。
「ねえ、柾哉。音楽好きなの?」
「うん、大好き!だって、幸せな気持ちになれるでしょ?」
「そっか。うん。じゃあ柾哉、私の弟子になる?私の知ってること、持ってるもの全部教えてあげる。じゃあ決まりね。私の仕事が無い日は、森でレッスンするから。」

ごくごく小さい頃にそんな約束をして、で、今に至る。
レッスンは楽しいし、ミカエラのおかげで音楽の力はどんどん上達している。
ミカエラに音楽を習って、ずっと一緒にいられたら…
「ちょっと柾哉、レッスン中にぼーっとして、何考えてんの?」
「いや、なんでも無いよ。」
「じゃあいいけど。とりあえず今日のレッスンは終わりね。…ねえ柾哉、もうすぐ私が、いなくなるとしたらどうする?」
いつになく神妙な趣で聞いてくるミカエラ。
「嫌だよ。もっとミカエラと演奏したい!」
「でも柾哉、音使いであり大人になりきった私は不老不死なのよ。いつかはあなたの方からいなくなるわ。」
…確かに知り合ってから何年もたっているのに、ミカエラの容姿は変わらない。
いや、僕のお婆ちゃんも、自分が子供のころからミカエラはほとんど変わってないと言っていた。
「柾哉、私が柾哉に教えることはもう何もない。あなたは大人になるべきだわ。」
「嫌だ!ミカエラと一緒にいられないのなら、僕は大人になんてなりたくないよ!」

気づいたら、ミカエラを置いて走り出していた。
走って、走って、やってきたのは村を見渡せる丘の上。
知らず知らずのうちに涙が溢れる。
どんなに頑張ってもどんなに足掻いても、僕が大人になっていくのは事実で。
ミカエラが老いていかないもの事実で。
それなら僕は、大人になんてなりたくない。
…どれくらいの時間が経ったんだろう。
顔を上げると、目の前の空が夕焼けで真っ赤に染まっていた。
そしてその赤と溶け合うような、森から昇る炎…
直感的に嫌な感じがして、森の前に走る。

もりの前には既に、大勢の村人が集まっていた。
そんな人々のざわめきに混じって、歌声が聞こえる。
この歌声は…ミカエラ!
まるで自分自身の魂を清めているような、ミカエラの歌声。
その歌に合わせるように、僕は笛を吹き始めた。
周りは僕の行為に驚いているが、そんなことは関係ない。
この奥から響いてくる音楽、この音色…この炎の中心にいるのはミカエラだ。
僕の笛とミカエラの歌声がリンクする。
混ざり合い、響きあって、共鳴する。
その音が、炎を包んでいく…
不意に燃え盛っていた炎が、一瞬にして消えた。
「良かった…」
安堵の言葉を吐いた途端、僕も緊張の糸が切れたのか意識を失っていき…

気づいた時には、自室のベッドに寝ていた。
「あら、気が付いたの?柾哉。」
「母さん…森は!?ミカエラ…様はどうなったの!?」
「落ち着きなさい。丸一日は眠ってたんだから。森は無事よ。あれだけ炎が広がってたのが、嘘みたいに何ともないの。不思議な話よね。」
あれだけ燃え盛っていたのに…
「ミカエラ様はね、どこを探しても見つからないの。旅に出るか、神様のもとへかえったのかしら…」
いや、違う。ミカエラは絶対にあの炎の中にいた。
「そういえば昨日、火事の前にミカエラ様が家に来たの。それで、柾哉にこれを渡して下さいって。私はもう必要ないものだからって。」
そう言って渡されたのは、ミカエラがいつも被っていた帽子と手紙だった。

確かに森は、いつもと少しも変わっていない。
よくレッスンした場所や、苔生した木など、いつもと全く変わってはいなかった。
帽子をかぶり、切り株に腰掛ける。
飾り気のない真っ白な封筒を開けると、そこにはまた真っ白な便箋が一枚入っていた。




柾哉へ
私は、今日いなくなります。
それは旅に出るとかではなく、死ぬ、存在が消えるということ。
音使いは、他の使者とは違う、とても特殊な能力です。
後継者を自分で決めて、自分で育てて、能力を受け継いでいかなくてはいけません。
柾哉を弟子にしたのはその為でした。
私の全てを教えるために、柾哉に音使いになってもらうために、柾哉に音楽を教えました。
そして、もう私から柾哉に教えることは何もありません。
私がいなくなった今、柾哉が世界でたった一人の音使いです。
これからは自分で修行して、私よりも立派な音使いになってください。
私も若い頃は、ここではない所で生まれ、修行してきました。

ここからは、柾哉の仕事。
音使いは不死身です。自分から死ななければ、命は終わらないのです。
これから長い長い時を生きていく中で、次の音使いを見つけてください。
次の音使いを育てて、その子が一人前になった時、「同じ能力の使者が同時に力を使った時、古い力は命を落とす」という同時存在第五条によって柾哉はいなくなります。
では、頑張ってください。
                        ミカエラ=ブエンディア


―あれから何百年経ったんだろう。
あの後外国の学校へ行き、音使いの能力を磨くために各地を転々とした。
さまざまな人との出会い、そしてあの戦い…
その中で分かったこと。
僕はミカエラのことが大好きだったと。
だから、この地に帰ってきた。ミカエラに思いを伝えるために。

僕は君が好きだった。君に誇れる立派な音使いになった。
君にはまだまだ敵わないだろうけれど。
僕を音使いにするために死んでいった、そしていつかは誰かの為に死んでいく僕のための
最高の「requiem」


                                 FIN

Requiem~ヴォルケーノ・タワーAnother Story~

柾哉は結構お気に入りのキャラクターだったので、主役の話が書けて嬉しかったです!
同時公開の悠奈の話ともリンクしています。

使者の中でも異質な「音使い」というキャラクターの始まりというか、どうやって生まれるのか…
みたいなことを書きたかったんです。
これだけは、持って生まれた才能だけではなく、探し出して育てるものという。

読んでいただき、ありがとうございました。

Requiem~ヴォルケーノ・タワーAnother Story~

今更だけど、大好きでした。 長い時間をかけて、やっと初恋に気付いた少年の話。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-01-18

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