もう一つの世界
高校の教室内…。
休み時間…。
「ねぇ松山君、もう一つの世界って信じる?」
と僕の前の席に座る、長い黒髪の安藤沙紀は後ろを振り返るなりそう話しかけてきた。
「は?
もう一つの世界って?」
「ん…
じゃ、今日の朝何食べた?」
「えーっと…」
「昨日の夕飯は?」
「ん…
何だったかな…」
「じゃ三時間前は何してたか覚えてる?
誰と会ってどんな話をして…」
「三時間前…」
「三十分前は?」
「一緒に、授業受けてたろ」
「うん。
受けてた。
じゃ、三十分は教科書何ページ目だった?」
「覚えてるわけないじゃん。
忘れたよ」
「でしょ。
もう一つの世界で起こってる事を私たちは見て経験してるはずなのにそれを細かく聞かれても思い出す事ができない。
つまり、忘れてる…。
決して人が悪いわけじゃないの。
覚えてる必要がないから忘れてしまうんだと思うの…」
「じゃもう一つの世界っていうのは俺たちが忘れてる事ってコト?」
安藤沙紀は綺麗に整った唇で微かに笑った。
- end -
もう一つの世界