歌集 聖と俗
【一 聖性と墜落】
天蔽うおもたき瞼は避妊具で打ち上げる精液、撥ね墜ちる歌
ふと堕ちて──そとはいちめん雪景色、血そそがん真紅に純化してみて
かれはない かれはわたしを愛さない さればわたしは貴方を恋うの
神話めく身振りの影絵と善くうごく、少女が恋するひと模すように
蒼穹はがらすの張りモザイクのごと、わが身其処にて磔の刑
魂は曰く虚数で実在は睡り不在とめざめる、信じる
むこうがわ見せてわたしの想い人 唇割れ熱き吐息洩れるごと
高貴なる仮面を切って薙げ出され、俗に吹き飛び、果ては空無
天降らす巨大なゆびに薙げられたい、わたしは「わたし」として生きたい
美と善の青き翳にわが鮮血を──愛せよamethystに照る恋情
【二 頽廃と燦爛】
蒼銀の憂鬱の砂に腹うずめしろく剥がれる背骨を想う
血飛沫のどぎついビルに彗星と青みの刺して燦くネオン
湯女揺れてゆらめきに結う百合花は悠と遊宴ulalume往く
汝が霊は優美にしなる頸でなく硬きカットのonyxに宿る
Yunaという娼婦の詞に刻まれた少女の名簿に聖性の射す
腕折られ美の疵ひらくビラビラは醜く爛れた薔薇の切口
奥行なぞいらぬなべてを呑み照らせ、身振で語れよ光の辷る
くび墜つるはらはら堕つるくち紅を曳き落つる椿天蓋に吊る
死産児は幸福でした閉ざされて夢歌い絶つ我が歌に似る
腹切のために鍛えたかれを模し犬死のため日焼けどめ塗る
【三 郷愁と呪詛】
裏切の閃光投げし星霜が雪の衣装の我が背を伝う
腐敗した不在の爛れたはらわたに少年の我あり抱けよいまさら
呪わしき二千年代基督と授業中天にわが身を磔
磔の天空にわが身浮ばせて現世でえられぬ安息をえる
わたくしは苦しい少年の日を過ごし幸福と裁かれ詞軋んで
閃光と銀の暴力降る幾日我姫と夢み絵画へと剥く
殉教に焦がれ削がれて犯されて信仰なきて「愛」天に置く
紗の音を立てて蝿音絶えません死にたい気持は銀照る衣擦れ
ふるさとに安息なぞなし海来れば劇しき非情に躰を寝そべる
「ニ十歳でね一緒に死のう」と約束せしimaginary friendが絞め殺す明晰夢
歌集 聖と俗