僕の一人ぼっち

 僕には好きなことがある。それは、一人でいること。
 みんなで一緒にわいわい楽しむとか、僕には苦手だ。周りに合わせて笑顔を作ったり、適当に笑い合ったり、なるべく目立たないように場の空気を読みとりながら息をしていく。とてもじゃないが正気の沙汰とは思えない。それよりも、一人でいたい。
 幼稚園の頃はまだ良かった。いつもみんなで一緒というわけでもなかったし、一人でこっそり遊ぶこともできた。一緒に歌を歌ったり、最初と最後の挨拶の時だけは、一緒に声を出しておけばそれだけでよかった。
 それが小学校に入ると、四角い教室に押し込まれ、同調を強いられるようになった。それは学年を増すごとに、縛りもきつく増していった。だんだんと耐えがたくなり、周りと違うことをしたくてたまらなくなっていった。真冬に半袖半ズボンで登校してみたり、雨の降る日に傘を差さずに登校してみたりした。そんな日には必ずと言っていいほど、風邪をひいて熱を出した。それでも学校は休まなかった。教室でぐったりしていると、保健室に連行され、強制的に帰宅させられたこともあった。そんなことをしていたから、自ずと嫌われていくのが落ちだろうと高をくくっていたのだが、そんなことはなかった。そこは意外だった。というか、残念だったと言ったほうが正しいのかもしれない。真似をする輩まで現れてしまった。そんな輩からは、尊敬の念すら感じられるようになってしまった。迷惑だった。一人にしてほしかった。
 中学に入ると、制服という衣装を着なければならなくなった。窮屈だった。不良の人達は、だぼだぼでぶかぶかの制服を着ていたが、僕はそれほど喧嘩も強くないし、そんなだぼだぼでぶかぶかの制服を着ることはできなかった。そこで考え付いたのが、お気に入りのバッチをじゃらじゃらといっぱい付けてみた。目立った。大いに目立った。そしてまた、真似をされてしまった。僕の周りに人だかりができてしまうことすらあった。がっかりした。
 どうすれば一人になれるのか、真剣に考えた。僕には何があるのか、見渡してみても大したものはなかったが、そこにはいつも通学で乗っている自転車があった。自転車に乗っているときは、基本一人だ。サドルは一個しかついてないし、そのサドルには一人しか座れない。後ろの荷台に座って二人乗りすることもあるけれど、それを外してしまえば一人乗り専用になると思い、外してしまった。その自転車は、いたって普通のママチャリというやつで、ペダルを漕ぐたびにチェーンのところについているカバーの中で、がしゃらぁんがしゃらぁん、とチェーンが暴れていた。その音が、どういうわけか僕は好きだった。その音を聞き続けていたくて、いつまでもペダルを漕いでいた。そしてある日、知らないところまで走っていってしまった。帰り道も分からなくなってしまい、そのうち暗くなって覚束ない明りのライトを点けてどうにか帰ってはきたものの、散々怒られた。でも僕は、嬉しくてたまらなかった。自転車はいい。ずっと一人でいられる。すっかり虜になってしまった。それからママチャリに乗って、どこまで行けるのか試してみたくなった。前のかごの中におにぎりと水筒を積んで、日の出とともに出発してお昼まで走り、おにぎりを食べて、日が暮れる頃に帰ってきた。帰ってきたときには、へとへとだった。それでも、思ったほどには遠くまでは行けなかった。悔しかった。なにに対して悔しいのか、よく分からなかった。どうしたら、もっと遠くまで行けるのか考えてみたが、一向に結論は出てこなかった。
 それから何度もママチャリに乗って、もっと遠くを目指してはみたのだが、結果はいつも似たり寄ったりだった。そんなことも、そのうち飽きてしまうのだろうと思っていたのだが、そんなことはなかった。かえってそのことばかり考えてしまうようになってしまった。ママチャリの整備も自分でするようになった。回転する部分には油を注し、チェーンのカバーを開けてチェーンにもたっぷりと油を注した。立派な空気入れも小遣いをはたいて買った。そして、ぴかぴかに磨いた。それでも相変わらずペダルを漕ぐたびに、がしゃらぁんがしゃらぁん、とチェーンの擦れる音だけは鳴っていた。

僕の一人ぼっち

僕の一人ぼっち

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-04-07

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