辷り寄る死に濡れたゆびさき

 死を想え? ──ぼくは墓の如く睡ってもみただろう?
 されどこの歪な躰というガラクタは 依然として、
 愛する者等の不在したこの世界に黒蜥蜴の傘とし張っていた。
 嗚 所属なぞ生涯するまい、ぼくは何にも属さないために──

 ぼくの霊を憧れさせる領域を 愛と美を──天に撰んだのだ!
 こいつはけだし躰という容れものを裂くように揺らすが
 官能でない其処より深みの失意のグルーヴ──
 切れ切れに泡噴き轟々と憐憫の豪奢な惨めになられるわが霊は、
 
   愛すべき死者への甚だしい敬愛に──
 どっぷりとアルコホルに漬け込まれている、わが霊は! わが霊は!
   わがゆびさきは嘗て書物の美しい詞をなぞるように

   天蓋の硝子盤を一途に辷った──
 ぼくはそのゆびを生活に利用するくらいなら、詩作という自殺に遣う。
   それはわが頸を絞めるためにゆったりとすべること幾たびだ。

  *

 死の薫りはいつもすり寄る如くゆったりと辷り来るが、
 死という無化へ切断される永久の片恋のぼくは生の側にある。

辷り寄る死に濡れたゆびさき

辷り寄る死に濡れたゆびさき

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-04-06

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