zoku勇者 ドラクエⅢ・その後編 エピ29~32

エピ29・30

対立……

「……」
 
何かを決意した様に、ダウドは船までの道を歩き出した……。
 
「な~お……」
 
「あれっ?……君、確か、リムルダールの宿屋にいたシャム猫かな?
こんなとこまでお散歩に来るのかい?」
 
「なあ~ん……」
 
ダウドは猫を抱き上げるが……。
 
「……うわっ!……口臭っ!うっかり忘れてたよお!」
 
「ぎゃ~お!」
 
口の臭いシャム猫はダウドの手から逃れると逃げて行った……。
 
「気が緩むなあ、もう……、ふらふらしてないでちゃんとお家に
帰るんだよ……」
 
「ふぎゃ~お……」
 
シャム猫が振り返ってダウドを見、返事をした。
 
「ちゃんとお家に……、か、チビちゃんの帰る場所は……」
 
 
船の近くまで戻ると、甲板でジャミルがダウドを待っている
姿が見えた。
 
「ジャミル……」
 
「……あ、ダウド!何処行ってたんだよ!!」
 
ダウドの姿を見つけるとジャミルが甲板から身を乗り出し
大声を出した。
 
「ごめん……」
 
ジャミルから目を反らしてジャミルとは対照的にダウドが
小さく声を出す……。
 
「はあ……」
 
ダウドは自分が戻って来て安心しているらしい、ジャミルの姿を
見上げながら……、船内へと戻り、ジャミルのいる甲板へと上がる。
 
「ジャミル、……その……」
 
「俺の方も悪かったよ……、きつく言い過ぎた……」
 
「ううん、悪いのはオイラだから、どうにもならない事でうじうじ
悩んだりして……、本当、ごめんね……」
 
「ダウド戻って来たの!?」
 
二人の声を聴いてアイシャとアルベルトも甲板に上がって来た。
 
「うん、アルもアイシャもごめんよ、心配かけて……、処で
チビちゃんは……?」
 
「まだお昼寝中よ……」
 
「そうなんだ、今日はよく眠るね……」
 
「あっ……、おやつに苺のジャムサンドが作ってあるから、
良かったら食べてね」
 
「有難う、アイシャ、気を遣ってくれて、でも今はいらないや、
後で食べるよ」
 
「そう……?」
 
アイシャにそう言いダウドは甲板を降りてチビのいる
下の階に行った。
 
「どうも……、まだ何か様子がおかしい感じがするよ……」
 
「……アル、心配し過ぎよ……」
 
「だな、あの面は頭ん中に色々詰め込んで考え過ぎて、何か良くねえ事
考えてる時だな……」
 
「アルもジャミルも……、二人とも考え過ぎだってば……、
大丈夫よ……」
 
「いや……、俺には判るよ……、長年の付き合いだし、
あいつの悪い癖さ……」
 
 
ダウドは甲板を降り、チビの寝ている船室、……アイシャの寝室まで
勝手に入って行く。
 
「お邪魔します……、チビちゃん……」
 
「ん~?きゅぴ……?ダウ……?」
 
「あはっ……、チビちゃん!!」
 
ダウドは寝ていたチビを無理矢理起こすと抱っこする。
 
「ダウ……、チビね……」
 
「チビちゃん、チビちゃん!チ~ビ~ちゃん!!」
 
ダウドは異様に興奮してチビを更にぎゅうぎゅうと抱きしめる……。
 
「……ダウ……、やめてえ~……、苦しいよおお……」
 
「あっ、ごめんね……」
 
ダウドは慌ててチビから手を放すとベッドの上に置いた。
 
「きゅぴ……」
 
「ダウド、何してるの……?」
 
アイシャが心配して寝室に様子を見に来る。
 
「あっ、ごめんね、勝手に入っちゃって……、チビちゃんと
コミュ中……」
 
「もう……」
 
「またね、チビちゃん!夕ご飯食べたら遊ぼうね!!」
 
ダウドはニコニコと笑顔でチビに手を振り、船室を出て行く。
 
「……やっぱり、様子が変かしら……、何だかいつもと違って
不自然だわ、わざとらしいと言うか……」
 
「……きゅぴい~……、あつい……よ……、お……」
 
ベッドに座っていたチビがコテンと音を立て、ベッドに倒れた……。
 
「……チビちゃん……?」
 
アイシャが慌ててチビに駆け寄り、そっとチビに触れる……。
チビのその身体は熱く、汗が大量に流れ出ていた……。
 
「!すごい熱だわ!……大変っ!!皆ー!!は、早く来てーっ!!
チビちゃんが……チビちゃんがーーっ!!」
 
 
……
 
 
「……チビちゃん……」
 
「どうも今日は異様に昼寝し過ぎだと思ったんだよな……」
 
ジャミルもチビのおでこに触る。身体は熱いままの状態である。
 
「今朝はあんなにご飯食べてたのに……」
 
「どうしよう……、お医者さんに見せるわけにいかないし……、
どうしたらいいの……」
 
「……処で、ダウドは……?」
 
アルベルトがジャミルに聞く。
 
「知らねえ……、アイシャが俺達を呼びに来た時にはもう姿が
見えなかったよ……」
 
「そう……、いつの間にか又何処か行っちゃったんだ……」
 
「チビちゃん……、私の管理不足だね、ごめんね……、
苦しい思いさせて……、本当にごめんね……」
 
「きゅぴ……」
 
熱にうなされながらもチビが小さく返事をし……、アイシャはそっと
チビの手を握った。
 
「……違う……、アイシャの所為じゃねえよ、やっぱりもう……、
限界なんだよ……」
 
「ジャミル……?」
 
「……本来なら……、この時期はきちんとドラゴンの親が育てる
期間なんだ……、俺達はドラゴンの病気なんか全然解んねえし、
もう人の手で面倒見るには限界がありすぎんだよ……、人間世界
独特のウイルス、変な伝染病にだって感染するかも知んねえし、
これからは腹痛薬飲ませてるだけじゃ済まねえよ……」
 
「僕達が……、甘すぎたんだね……」
 
「かもな……、一刻も早く……、竜の女王のお城へチビを
連れて行こう……、あそこなら本当にチビにとって何の心配も
ない、安全な場所の筈だ……、女王様に使えていたホビット達が
守ってくれる……、人間の俺らなんかよりも遥かに頼りになる筈さ……」
 
「ねえ……、今夜は皆でチビちゃんの傍についていてあげましょ?
その方がチビちゃんも安心すると思うの……」
 
「ああ……」
 
 
しかし、次の日の朝、チビは何事も無かった様に熱が引き、
すっかり元気になっていた。だが、ダウドはあの後、船を
降りたまま、結局戻って来なかった。
 
「きゅぴっ!チビ、お腹ぺこぺこ!」
 
「まあ……、大事じゃなくて良かったけどな……、ホント、
ドラゴンの身体の仕組みってわかんねえモンだなあ……」
 
「結局……、あれからダウド、何処へ行ったんだろう……、
出て行ったまま、一晩戻って来なかったし……」
 
と、言っている処に……。
 
「……ただいま……」
 
数時間ぶりにダウドが帰って来、ジャミルとアルベルトのいる甲板に
顔を出した。
 
「お前……」
 
「ダウド、昨日は帰って来て、またすぐに何処に行ってたの……」
 
アルベルトが問い詰めるがダウドはすぐに開き直る。
 
「別にいいじゃん、そんなのオイラの勝手だよお……、オイラだって
一人になりたい時ぐらいあるよお……」
 
「……チビが熱だして大変だったんだぞっ!!お前、船室で
チビを無理矢理抱いたんだろ、そん時に様子がおかしいのに
気が付かなかったのかよ!」
 
「チビちゃんが……!?いや、オイラが抱っこした時には、
別に身体、それ程……、熱くなかった様な気もするけど……」
 
「きゅぴっ!チビ、でももう平気だよお!」
 
手をパタパタ振ってチビが皆に愛想を振りまいた。
 
「うん、何事も無かったんだね、よかったよお!元気に
なったのならいいじゃない!」
 
「きゅっぴ!」
 
「……そういう問題じゃねえだろうが!!」
 
最近のダウドのあまりの身勝手さに又ジャミルが怒鳴ってしまう……。
 
「び……、びいい……?」
 
「ジャミル、やめるんだ……、チビが脅えちゃうよ……」
 
「黙っててくれや、アル!」
 
チビがまたショックで体調を崩してしまうかも知れないのを恐れ、
アルベルトがジャミルを注意しようとするが、それでもジャミルの
怒りは収まらず等々爆発してしまう……。
 
「……一体、二人ともどうしたのよ!ねえっ!」
 
いつもの馬鹿喧嘩とは明らかに様子が違う深刻な事態に堪らず、
下にいて、騒ぎを聞き付けたアイシャも甲板に飛び出して来た。
 
「アイシャ、チビを船室に連れてってくれ、頼む……」
 
「でも……」
 
「頼む……」
 
「……分ったわ……、おいで、チビちゃん」
 
「きゅぴ~……」
 
チビを抱いてアイシャが船室に移動し、甲板には気まずい
雰囲気の男衆だけになった……。
 
「ダウド、お前が何考えてんのか全然解りたくもねえし、
理解する気もねえ……、けど、チビは絶対に竜の女王の城まで
連れて行くからな、分ったか……?」
 
「……勝手にすればいいじゃん……、出来るものならね、
ジャミルはさ……、チビちゃんの面倒をもう見るのが嫌で
厄介だから他に預けてお世話を押し付けようとしてるだけじゃ
ないの……?」
 
「お前……、いい加減にしろよな……、今度はマジで殴るぞ……?」
 
「安全な処で一生を守って貰うだけが……チビちゃんの幸せとは
限らないよ……」

「!!」
 
「……二人とも……!お願いだから冷静になってよ……!
どうしたの、本当に……」
 
アルベルトも間に入って必死で二人を止める。ジャミルとダウドは
互いに睨み合ったまま、重い沈黙が流れる……。
 
 
 
「……びいっ、びいっ……、チビの所為で……また皆が……
ケンカしちゃったよお~……」
 
「チビちゃん……、大丈夫だから……、お願い……、もう泣かないで……」
 
アイシャは必死でチビを抱擁し、慰める……。
 
「……チビの所為だよお……、ごめんね、チビが……、ぴい、
いるから……、チビがいなくなればもう皆ケンカしないよ……」
 
「そんな事ないのよっ……!お願いだからそんな悲しい事言わないで……、
怒るわよ……、チビちゃんっ!!」
 
「きゅぴい……」
 
「ジャミルもダウドも……、本当にチビちゃんの事が心配で
大好きだからケンカしちゃうのよ?」
 
「……ぴいい~?」
 
「私もアルも同じなの、いつだって皆、チビちゃんがどうしたら
本当に幸せになれるのか……、迷ったり悩んだり……、私達、気持ちは
皆同じなのよ……」
 
「……チビも皆が大好き……、ジャミルもアルもダウもアイシャも……、
皆、皆、大好き……、ずっと……、皆と一緒にいたいよお……」
 
「チビちゃん……、うん……、そうね……」
 
アイシャは母親の様に、再びチビを優しく抱きしめると、
そっとチビの頭を撫でた。
 
 
そして……、睨み合ったままのジャミルとダウドのケンカの現場は……。
まだ重い沈黙が流れていた……。
 
「……オイラ、また、出かけてくるよ……」
 
ダウドの方が先に口を開き、沈黙は解除されたものの……。
 
「また逃げんのか……?勝手にしろよ……」
 
「ふんだ……、言われなくても勝手にしますっ!」
 
ダウドはさっさと船を降りて、また何処かに姿を消す……。
 
「……ああ、ジャミル、ダウドがまた行っちゃうよ…、僕らも
後を追った方がいいんじゃないかなあ……、ダウドを置いたまま、
このままじゃ船も動かせないし……」
 
「好きにさせておけよ、アル、もう面倒見切れねえのは
チビじゃなくてダウドの方だ!」
 
「はあ……」
 
……結局、ダウドの反乱分子、チビの体調の変化で、船は昨日の
停泊場所から留まったままになり、出発する事も出来ない状態に
なってしまった……。
 
 
(……もう少し、もう少し……、今夜決行だ……、チビちゃんの
為にも……)
 
森に静かに身を潜め、ダウドが空を見上げた……。


戸惑い

暫くの時間が過ぎて朝が来た。アイシャが朝食を作り、船室まで
ジャミルとアルベルトを呼びに顔を出した。
 
「おはよう、ジャミルもアルも、朝ご飯にしよ?今日はね、
チビちゃんのリクエストでフレンチトーストよ!」
 
アイシャが数時間ぶりに、二人に笑顔を見せた。
 
「……どうにもフレンチっつー気分じゃねえな……、う~ん、
もやもやしまくりだわ……」
 
「そんな事言わないのよっ!ほらほら、チビちゃんがお腹空かせて
待ってるわ、アルも早く休憩室行きましょっ!」
 
ジャミルの背中を押しながらアイシャがアルベルトに声を掛ける。
トリオが休憩室に行くと、チビが専用の椅子に腰掛けてトリオを
待っていた。
 
「さあ、召し上がれ、チビちゃんもどうぞ、あっ、サラダも
ちゃんと食べてね」
 
テーブルの中央にアイシャが山盛りのフレンチトーストの皿を置く。
 
「きゅぴ……、ダウがいないよ?ダウも一緒にご飯食べないと……、
ダウがお腹空いちゃう……」
 
「……」
 
「ちょっと、お散歩行ったのよ、すぐに帰ってくるから大丈夫よ、
先に食べていましょ!」
 
「ぴい~……、わかった……」
 
しょんぼりと、淋しそうにチビが下を向いた。
 
「……一週間ぐらい食わなくても大丈夫だ、死にゃしねえよ……」
 
不貞腐れた表情でジャミルがフレンチトーストを一口齧った。
 
「……うわっ!何だこりゃ!?……アイシャ、これすげー
しょっぱいぞ……!!」
 
「えっ?そんな事ないわよっ!きちんと卵とお砂糖と牛乳混ぜた液に
漬けたわよ……」
 
「じゃあ、お前も食ってみろよ!」
 
仕方なしにアイシャもフレンチトーストを一口齧る……。
 
「……うっ、しょっぱ……、ごめんなさい……、お砂糖の処が
お塩でした……」
 
「はあ~、ジャミルが毒見してくれて助かった……、チビ、
これは失敗だから食べるのはよそうね……」
 
アルベルトがチビに注意する。
 
「きゅぴ~?」
 
トリオとチビは仕方なしに残ったサラダだけ平らげる。……アイシャは
サラダも玉に失敗する事があるので、今日の朝食は比較的真面な方かも
知れなかった。そして、ずっと船出中?の、ダウドは昨夜、ある事を
決行しようと心に決めていたものの……。どうしても行動に移せず結局
そのままでいた……。
 
「……」
 
「何だい、なんかまだ迷いがあるみたいな感じだけど、戸惑ってるの?」
 
「リィト……」
 
「まだ、気持ちが行ったり来たりしてる様な感じだね……」
 
「別に、今更悪いとか思わないよ……、思い立ったら、
もう実行するだけだよ……、今夜こそ……」
 
寝っころがっていたダウドが起き上がり、リィトの方を見る。
 
「ふふん……」
 
「それよりもリィト、君もいつまで散歩してるの……?」
 
「ふ、ふん……、もう帰るよ……」
 
(……意外と突っ込んでくる奴りゅ……)
 
「ねえ……」
 
「な、何り……、何だよ……!」
 
ダウドがいきなり、リィトの服の袖を掴むと同時に真剣な
表情で彼を見る。
 
「もう、もしかしたら……オイラ……、皆の処に戻れなくなるかも
知れない……、そうしたら……、リィト……、それでも君だけは
オイラと友達でいてくれる……?」
 
(気持ち悪いりゅ……)
 
「……あ、あんたと友達になった覚えはないよ……、悪いけど……」
 
またジンマシンが吹き出そうになるのをリィトが必死で堪える。
 
「そっか……、それならそれでいいよお……」
 
「……」
 
「まあ……、取りあえず……、検討を祈ってるよ……、何するか
知らないけど……」
 
ダウドは再び黙りこくり、リィトはその場から姿を消した。
 
(大丈夫、誰も判ってくれなくても……、チビちゃんがオイラの側に
ずっといてくれるなら……、オイラは大丈夫……)
 
 
そして結局そのまま時間はまた巡り、あっという間に夕食の
時刻になった。
 
「お湯は入れた、3分立ったら食ってくれよ、頼む」
 
「カップラーメンかい?」
 
「ジャミル……、手抜きしたわね……?」
 
「だってさ、気力がねーんだよ……、勘弁してくれや、とりあえず、
メーカー品だぞ……」
 
「わあい!チビ、カップラーメン大好き!」
 
「チビちゃん、何て偉い子なの……、でも、成長期のチビちゃんに
インスタントばっかり食べさせる訳にいかないわ!明日は私が
夕ご飯の食事当番だから、うーんと美味しい物作ってあげるわね!」
 
「チビ、クイズだ、朝、飯作るの失敗したのだーれだ?」
 
「きゅぴ?アイシャ!」
 
「正解!」
 
「……なあに?ジャミル、何か言ったかしら?」
 
「くくっ……」
 
アルベルトが急に笑い出す。
 
「何だよ……」
 
「……いや、大分前にダウドが食事当番の時、手抜きでインスタント
カレー出した時あったろ?……やっぱり、性格は全然違うけど、君達は
コンビなんだなあと思ってさ……」
 
アルベルトが笑いながらジャミルの方を見た。
 
「フン……、似、似てねーっつーの……!何処がだよ……!」
 
「ふふっ、そうよねえ……、のほほんとしてて……、意外とダウドも
玉に頑固な処、あるしね」
 
アルベルトに釣られてアイシャも笑いだす。
 
「ぴゅぴ……、ねえ……、ダウの分のラーメンもちゃんとある……?
ダウ、もうずっとご飯食べてないよ……」
 
どんな時でもダウドを心配する優しいチビ。
 
「心配すんなよ、あるよ、ちゃーんと、あいつの分もさ」
 
「きゅぴ!良かったー!」
 
「但し……、あいつには罰だ……、新製品の……、甘ーい苺ミルク
味噌味だ……、うひひっ……、それとも、生クリーム風味
焼きそばがいいかなあ……」
 
「……悪魔……、やっぱり君達はデビルコンビだ……」
 
「アルに言われたくねーのっ!」
 
 
しかし、チビと皆の心配を背中にダウドは夜遅くなっても
まだ戻らなかった……。
 
「出来た……」
 
そんな中、アイシャは夜の休憩室で一人、黙々とある作業をしていた。
 
「アイシャ、まだ寝ないのか?」
 
アルベルトも先に寝てしまい、こっそり甲板でダウドを
待っていたジャミルが休憩室に顔を出す。
 
「ジャミルこそ……、まだ寝ないの?」
 
「中々な……」
 
「……ダウドが心配なんでしょ?」
 
「べ、別に……、全然!心配じゃねーよ!」
 
顔を赤くしてジャミルが横を向いた。
 
「もうっ!変な処で意地張らなくていいんだったら!
……二人とも、本当にいいコンビで、おかしなコンビよねえ……」
 
呆れつつも、アイシャが笑う。
 
「チビは、寝たのか?」
 
「うん、……眠る直前まで凄くダウドを心配してたけど……、
きゅぴ~、ダウは?ダウはまだ帰らないの……、って……」
 
「そうか……」
 
「これ、お豆腐のドーナツ……、作ってみたの、
もしもダウドが帰って来たら食べて貰える様にと思って、
油で揚げてないからカロリーも控えめでヘルシーなのよ」
 
「ふーん……、また塩と砂糖間違えてないだろうな……」
 
そう言ってジャミルが横からひょいっとドーナツを摘み口に入れた。
 
「あっ……、幾らカロリー控えめだからって……!
それにジャミルはちゃんと夕ご飯食べたんだから!もうっ!」
 
「ん~っ!意外とうめえ……!お前、本当に上手い時と
下手な時に差が出るな……」
 
ドーナツをもぐもぐ頬張りながらジャミルがアイシャの顔を見た。
 
「……失礼ね!意外とって言うのは何よ!あ、朝は気分が
落ち着かなかっただけよ……」
 
「あー、うまかった!さて、俺ももう寝るわ、お前も早く寝ろよ……」
 
「うん、明日にはきっと……、ダウド、帰ってくるわよね……」
 
「どーだかな、じゃっ!」
 
背を向けてアイシャに手を振り、ジャミルが船室へ戻って行く。
 
「……私ももう寝よう……、悪い事ばっかり続かないわ、
きっと大丈夫……」
 
作ったドーナツに手紙を添えてアイシャも船室に戻って行った。
 
 
そして深夜……。
 
「……流石にもう皆寝てるよね……、大丈夫かな……」
 
自分達の船なのに、ギスギスしながらやっとダウドが戻ってきた。
 
「……なんか、甘い匂いがする……、もふ……」
 
お腹の空いたダウドがついふらふらと……、匂いに釣られて
休憩室に入って行く。
 
「うわあ、ドーナツだあ、おいしそう……」
 
堪らず、ドーナツにダウドが一つ手を出した。
 
「……おいしい……、暫く何も食べてないんだもん……、
お腹ぺこぺこだよお……」
 
幸せそうにダウドがドーナツをぱくつく。
 
「……でも、凄く美味しいのに、何でだろう……、
何だか美味しくない……、どうしてだろう……」
 
 
どうして皆で食べるご飯てこんなに美味しいのかなー?
チビだけで食べても全然美味しくないのにね、ふしぎ、ふしぎー!!
 
 
途端にチビの言葉がダウドの頭の中を過った……。
 
「……チビちゃん……、ん?手紙……?」
 
 
※ダウドへ……、お腹空いちゃうからドーナツを作りました。
カロリー控えめドーナツだから少しだけなら夜遅く食べても
大丈夫よ、でも、ご飯もちゃんと食べなきゃ駄目よ!
……それから……、チビちゃんが凄く心配しています……。
明日にはちゃんと元気な顔を見せてあげてね……。
もちろん、アルも私も……、ジャミルも……、凄く心配です……。
どうか早く機嫌を直してまた笑顔を見せてね。おやすみなさい……。 

アイシャより
                   
 
 
「……今更、なんだよお……、もうオイラはやるって決めたんだもん……、
考えは曲げないよ……、あの鍵さえなければ……、鍵さえ無くなれば……、
チビちゃんとずっと一緒にいられる道が出来るかも知れないんだ、
それに、鍵を盗んだのがばれなければ、普通に又皆といつも通り
過ごせるんだから……」
 
そしてダウドはそのままジャミル達がいる船室へと向かった。
 
「夜は鍵をタンスにしまう筈だ……、まさかジャミルもオイラが
盗むなんて思わないだろうからね……」
 
覚悟して、船室に足を一歩踏み入れた、その瞬間……。
 
「ここだ……、このタンスの……」
 
「中に何か用か!?」
 
「!?いっ、ジャミルっ……!!」
 
突然部屋の明かりがついて、部屋の中にはジャミルとアルベルトが
突っ立っていた。
 
「そんな……、もう、ね、寝たんじゃ……!?」
 
「ちゃんと、お前を待ってたんだよ、寝たふりしてさ、心配だからな……、
アル……」
 
「うん、……ラリホー!!」
 
アルベルトがダウドにラリホーを掛けた。
 
「……そんなあっ!?二人とも……、ひ……ど……い……」
 
ダウドはパタッとその場に倒れ、寝てしまった……。
 
「ごめんね、一応……、念の為なんだ……」
 
……そして朝方……、ジャミルはチビが目を覚ます前に早く、
アイシャも起こして、自分達の船室に呼び、帰って来たダウドから
事情徴収する事に……。
 
「アイシャ、チビはまだちゃんと寝てるか?」
 
「うん、大丈夫よ……、ぐっすり……」
 
「なら心配ないな……、どういう事かきちんと説明して貰うからな……」
 
「……とほほ~、わかりましたよおお~……」
 
あぐらを組んでダウドが座ったまま下を向いた……。
 
(……ハア、やっぱり、敵わないよ、ジャミルには……)
 
そう心で思うダウドの表情は……、硬い表情が崩れ、いつの間にか
普段の様に綻んでいた。

エピ31・32

消えたダウド

ジャミル達はダウドから延々と事情聴取をする……。
 
「……んで?この鍵がなきゃ、上の世界へ戻れなくなるから……、
チビとずっと一緒にいられると思ったのか?」
 
「そうだよお!……悪い?」
 
怒られるのをもう覚悟しているのか、ダウドが開き直って
ジャミルの方を見た。
 
「バカだなあ、お前……、いや、バカなのは判ってるけどさ……」
 
怒るどころか……、開き直るダウドにジャミルは呆れる。
 
「どうせオイラはバカですよ……、ジャミルだって……、
バカじゃん……」
 
「よし、バカを怒ってもしょうがねえや、朝飯の準備すっか、
チビが起きねえうちにな」
 
「私も手伝う!」
 
「僕も手伝うよ」
 
「?ちょ、みんな……、オイラの事何で怒らないの……!?
それだけ……!?」
 
「ん……」
 
「え……?」
 
お前も来いと言う様にジャミルがダウドの方を見、顎をしゃくった。
 
「……何で……」
 
そして、4人は休憩室に移動し……。
 
「またあ……」
 
ダウドの目の前に……、大量の玉葱の山……、しかも前回の
3倍の量であった……。
 
「ほれ、後1時間で6時になる、それまでにこれ全部切れー!以上、
7時までに朝飯の準備を終わらせるんだ、分ったか?」
 
「……とほほ~、何でこうなりゅの~、……うう~、小悪魔みたいに
なっちゃったよお~……」
 
ダウドが唸って首を曲げた……。
 
「ダウド……」
 
アイシャがダウドの側にやってくる。
 
「あっ、アイシャ……、あの……、昨夜はドーナツ……、
ありが、と……、美味しかったよ……」
 
照れながらダウドがアイシャにお礼を言う。
 
「……もうっ!私達もチビちゃんもどれだけダウドの事心配したと
思ってるのよっ!!二度と勝手な事しちゃ駄目だからねっ!
……バカバカバカっ!!」
 
「……とほほ~、アイシャにまで……、うーん、結構傷つくなあ……」
 
「でもね……、ダウド……、ダウドの気持ち、判るの……、
本当は私だって……、チビちゃんとお別れしたくないもの……、
それが正直な気持ちなの……」
 
「アイシャ……」
 
ダウドの方を見ず、俯いたままアイシャが喋り終える。
 
「本当に……、チビちゃんにとって、どの道が一番幸せに
なれるのか……、……それはこれから私達が真剣に考えないと
いけないのよ、限られた時間の中で……」
 
「……チビちゃんの……、本当の幸せ……」
 
そして、無事に朝食の準備も終わり、ジャミルがチビを
休憩室に連れてくる。
 
「さあ、陛下、あなたの大好きなフーテン召使いのお帰りですぞ、
何なりとお申し付けるがよいぞ!」
 
「……何なんだよお、その口調……、それにフーテン召使いって……」
 
「きゅぴ?あっ!ダウだっ!」
 
「……チビちゃん……、ただいま……」
 
「わあい!ダウっ!ダウっ!お帰りーっ!」
 
「……チビちゃん……、そんなに……、オイラを待っててくれたの?」
 
チビは喜んでダウドに飛びつき、顔を舐め、とびきりの愛情表現をする。
 
「ぴい~っ!」
 
「有難う、チビちゃん……」
 
「ダウドも、玉葱切りご苦労様……、疲れたろ?さあ、座って、
一緒に朝食を食べよう」
 
アルベルトがダウドの肩に触れる。
 
「アル……、うん、有難う……」
 
4人と一匹が席に着き、いつもの顔ぶれが揃い……、これで
いつもの通り元通りの様になり、喧嘩騒動も終わるかの様に
見えたが……。
 
 
駄目りゅよ……、もうお前は決めたのりゅよ……?約束は
ちゃ~んと守れりゅ……、けっけけけ……
 
 
「……あうっ……!?」
 
「ダウド……?」
 
突然ダウドが頭を抱え、屈み込む……。
 
「頭……、頭が……いたいよ……」
 
「ダウドっ!!どうしたのよっ!!」
 
「……ダウド、どうした!?……おい!返事しろよっ、
おいってばっ……!」
 
ジャミルが必死にダウドに声を掛け、呼びかける。
 
「……オイラは……、もう決めたのりゅ……、チビは……
連れて行く……」
 
「きゅぴっ……、ダウ……?」
 
「りゅ……?その変な口調!まさか……、おいっ!ダウドっ!」
 
 
少しだけ……、お前に力を貸してやるりゅ……、早くチビドラゴンを
連れていくりゅ……
 
 
「……」
 
「ジャミルっ!ダウドは何かに洗脳されてるっ!!近寄っちゃ駄目だっ!!」
 
アルベルトが必死で叫び、ダウドを助けようとしたジャミルを
止めようとする。
 
「ご名答りゅ、……こいつの身体は乗っ取ってやったりゅ、
けけっ……」
 
「その喋り方……!?やっぱテメエ、小悪魔かっ!!」
 
「……ダウ~、ダウ~……?」
 
チビも心配してダウドに近づきそうになるのをアイシャが
必死で止める。
 
「チビちゃん……!駄目っ!!あれはダウドだけど
ダウドじゃないのよ!」
 
「きゅぴい~……、放して~、アイシャー!ダウが……、
ダウが……」
 
「最近のあいつの様子がおかしかったのはもしかして……、
テメエが何か唆したのか……!?」
 
「フン、簡単に気を許してアホみたいにやたら色々とベラベラと
喋ってたりゅよ?……こいつは本当に悪の素質があるのかも
知れないりゅね……」
 
「……んな事ねえよっ、ちょっと臆病で気が弱ええから……、
隙を見せただけだっ!!誰よりも優しいんだよっ、ダウドは……、
オメーなんかに何が判るんだっ!!」
 
(知ったこっちゃねえりゅ……、結構暑苦しい奴りゅ……)
 
「う……、ジャミル……、皆……、チ……、ビちゃん……、オイラ……、
なんで……?身体が……、身体が動かないんだ、自由がきかないん
だよお……、まるでオイラがオイラでなくなってるみたいだ……」
 
ほんの一瞬だけダウドが自我を取り戻しそうになるが……。
 
「ダウドっ!!負けんなっ!!自分を取り戻すんだっ!!」
 
「頑張るんだっ、ダウド!」
 
「お願い……、いつものダウドに戻って!……どうか負けないで……!!」
 
「ダウ~……」
 
(本当、うるさい連中りゅね……、……少し口塞いで
やるかりゅ……、またこいつの夢の中の時みたいに、
チビドラゴンが動くとやっかいりゅ……)
 
「……これでも、喰らえ……、……ラリホーマ……」
 
「うっ……!ダ、ダウ……、ド……、……ちくしょ……、う……」
 
小悪魔ダウドは更に強力な上級魔法を使い……、ジャミル達
全員を一発で深い闇の眠りへと叩き落とす……。
 
「……上級魔法で眠りの魔法しか使いたくないとは……、
折角力を貸してやったのに……、やっぱりこいつは臆病の
ヘタレりゅね、まあいいりゅ……、けど、心にまだ少しこいつの
意志が残ってるのかりゅ?」
 
自分の意志を洗脳され、小悪魔に取りつかれたままのダウドは
独り事の様にブツブツ呟く。そして、当然の如くチビも
眠らされたのである。
 
「さあ、ヘタレ……、お前の言っていた鍵とやらはどこりゅ?」
 
心で小悪魔がダウドに呼び掛けると、感情が無くなりレイプ目に
なったダウドは無言で船室まで歩いていく。
 
「ここかりゅ……、けけっ、これが鍵かりゅ?……一体この鍵が何なのか
お前の記憶から教えて貰うりゅよ……」
 
小悪魔はダウドの記憶から、竜の涙から変化した鍵と奇跡の
扉の記憶を探し当てた……。
 
「ふ~ん、……この鍵が……、異世界への扉のカギりゅ……、
けど、リトルは今はそんなとこ興味はないし行きたくないし、
どうでもいいのりゅ、こんな物いらんりゅ、目的はただ一つ……」
 
そう言って鍵をほおり投げ、再び休憩室へ……。
 
「……目的はこれだけりゅ……」
 
倒れているチビを抱え、船を後にする。
 
「けーっけっけ!けけけけ!……やっと、やっと……、
手に入れたのりゅ……、……この身体はどうすりゅかね……、
まあもう少しだけ利用してやるりゅ」
 
 
結局、トリオが魔法から解放され、目を覚ましたのは
夜遅くなってからの事であった。
 
「……やられたね……」
 
「ああ、ダウドの事ばっかり気にかけてたから……、油断し過ぎたな……、
クソっ……!また丸一日時間潰しちまったな……」
 
「どうしよう……、又チビちゃんが……、今度はダウドまで
連れて行かれちゃったわ……」
 
「諦めるのは早いよ、アイシャ、すぐに小悪魔を追いかけよう!」
 
「ええ!」
 
「いい加減であの小悪魔ともケリつけなきゃな!
何でチビを狙ってるのかこの際、はっきりさせてやる!」
 
「……だけど、どうやって後を追えばいいの?……」
 
「そうなんだよなあ……、大分時間立ってるしなあ、
今からじゃもう間に合わねえ……」
 
「……?ジャミル、ジャミル達の船室の方が光ってるわ……」
 
「えっ!?本当か?」
 
トリオが急いで船室に向かうと……、小悪魔がほっぽり出した
鍵が転がっていた。
 
「これか……、あいつ鍵を持っていかなかったのか……、
まあいいけど……」
 
そして、鍵はいつもの如く光を放ち、皆を救うべく、
旅の扉を作って進むべき場所へと導いてくれたのである。
 
「本当、毎回助かるわ……、……これですぐにダウド達の処に
行けるな!」
 
「急ごう!チビとダウドを助けに行こう!!」


小悪魔の記憶

(此処、何処……?)
 
まるで見た事のない景色の中をゆっくりと……、精神体だけになった
ダウドは歩いていく。
 
(そう言えば、オイラ……、小悪魔に取り込まれたんだっけ……、
何かもう、どうでもいい様な気がしてきたよ、何もかも……)
 
 
リトル……
 
 
(声が聴こえる……、リトル……?)
 
やがて……古い大きな廃屋屋敷がダウドの目の前に現れる。
 
「リトルっ、リトルっ!」
 
(なっ!?)
 
顔も真っ黒で服もボロボロだが、容姿は何とあのリィト、
その姿、そのままの少年が何故か小悪魔と一緒にいるのである。
 
(あの男の子……、リィトじゃん……、それにどうして、
小悪魔と一緒にいるの……?)
 
「お前は何でリトルに近寄ってきたのりゅ?怖くないのかりゅ?
リトルは悪魔族の偉大なるプリンスりゅよっ!そこにひれ伏せりゅっ!」
 
「どうして?別に全然怖くないよー!ふふっ!」
 
「おかしな奴りゅね、人間つーのは皆何処か頭がおかしいのりゅ」
 
「そんな事ないよー!」
 
少年はそう言ってぴたっと小悪魔にくっつき抱き着いた。
 
「こ、こらっ!離れろりゅ!あっち行けりゅ!……ヌッ殺すぞりゅ!」
 
「やだよー!あはははっ!!」
 
(……何なんだよお、この光景、小悪魔とリィトがじゃれてる……、
それに……、小悪魔、嫌がってる割には凄く楽しそうな……、
あんな顔見た事ない、これはオイラに一体何を見せようとしてるの……)
 
「……ごほっ……」
 
急に少年が苦しそうに胸を押さえてしゃがみ込んだ。
 
「……お前、どうしたりゅ?何処か苦しいのかりゅ?」
 
「大丈夫……、いつもの発作だよ、すぐに治まるよ……、
僕、生まれつき、持病があるから……」
 
「フン、そうなのりゅ、まあリトルには知ったこっちゃねえりゅ……」
 
(……なんつー態度だよ……、相変わらずむかつく奴だなあ……、
でも……)
 
「ねえ、リトルはどうして人間界に来たの?」
 
「リトルは以前から魔界を離れて、あっちこっち、人間界と魔界を
行き来してたりゅ、リトルが魔界に戻って来た時、……父上はすっかり
ヘタレ化していたりゅ、ゾーマが消えてから、父上はもう人間界なんぞと
関わり合いになりたくない言って引き籠ってしまったのりゅ……、
最近では悪魔族も一歩引いてしまって……、このままではイカン思って、
リトルはもう一度、本格的に修行の旅に出て来たのりゅ、未来の魔界の
栄光の為に……、人間共を怯えさせ、いずれは魔界のキングとなる、
このど偉いリトル様に全ての人間共はひれ伏すのりゅー!」
 
……と、長い台詞で、小悪魔はこれまでの自分の足跡を少年に
丁寧に説明した。
 
「そうなんだ……、はあ~、凄いねえ、リトルに出会えて嬉しくて……、
僕、少し興奮しすぎちゃったかな!」
 
少年がリトルに向けて笑顔を見せた。
 
「お前……、医者には見せてるのかりゅ……?早く医者行けりゅ……、
じゃないと、もしもリトルの所為で興奮して死んだらなんて、こっちが
後味わりィりゅ……」
 
「お父さんとお母さんはもう死んじゃっていないから、お金もないし、
……僕一人だし……、あちこち移動しながら、此処の古いお家見つけて、
今はこっそり住んでるんだよ」
 
「フン、お前の素性なんか知ったこっちゃねえりゅ……」
 
「でもいいんだよ、此処に来たらリトルに出会えたから!
もう淋しくないよー!」
 
「……だから、やめろりゅ!はなれろりゅ!しつけーんだりゅ!
ヌッ殺すって言ってりゅ!」
 
小悪魔はそう言って少年を突き飛ばし、何処かに飛んで逃げた。
 
「あっ、……リトル……」
 
そして……、一人になった少年が延々と小悪魔を待ち続ける光景が
ダウドの目の前に映し出される……。
 
(……あの子、可哀想だな……、何であんな変なの信じてずっと
待ってるんだろう……、もうすぐ夜になっちゃうよ、寒いだろうに……)
 
そして、風景はまた変わり、夜を映し出す。
 
「リトル……?」
 
「……お前?バカかりゅ……?」
 
「戻って来てくれたんだ!リトルーーっ!」
 
「……別にお前が心配だから戻って来たんじゃねーりゅ!
ちょっとこっちに忘れモンが……、あーー!」
 
「リトルーっ!リトルーっ!」
 
少年は喜んで小悪魔に抱き着く。
 
「だから、はなれ……?……お前……、手も身体も冷たいりゅ……、
仕方ないりゅ……、メラ……!」
 
小悪魔は魔法で小さな火を起して冷えた少年の身体を
温めてやるのであった。
 
「あったかいよ、ありがとね、リトル……」
 
「……フン、知ったこっちゃねえりゅ……、に、しても、
汚ねーツラりゅねえ、鼻水まで垂らして……」
 
「えへへー!」
 
(あの小悪魔にあんな一面があったなんて……、びっくりだよお……、
……それにしても……、あの男の子は本当にリィトなのかな……?
小悪魔と知り合いだったのかあ……、しかし、随分性格も
違う感じするけど……)
 
「ねえ、リトルは……、ドラゴンの伝説って知ってる?」
 
「ドラゴン?んなモン、どうでもいいりゅ……、興味ねえりゅ……」
 
小悪魔はそう言って鼻をほじほじしようとする。
 
「あはっ、何処に鼻があるんだよ!」
 
「……うるせーりゅ、ほっとけりゅ!バカチンがあ!!」
 
小悪魔に何を言われても嬉しいのか少年は平気で笑う。小悪魔は
顔を赤くして悪態をついた。
 
「この世界の何処かに、どんな願いも叶えてくれる、伝説の
ドラゴンがいるんだって……、……凄いなあ……、会ってみたいなあ……」
 
「フン、そんなもん、いる訳ねーのりゅ、おとぎ話りゅ……」
 
「そんな事ないよ!僕、信じてるんだ!きっと伝説のドラゴンは、
いるよ……」
 
(そう言えば、大分前に、伝説の神竜の話を聞いたっけ……、結局……、
いつの間にかその話も何処かに流れてて忘れてたけど……)
 
「お前は何か願い事があるのかりゅ?金でも欲しいのかりゅ?」
 
小悪魔が少年の方を見た。
 
「うん、あるよ、沢山……、でもこれは……、伝説のドラゴンに
頼む願い事じゃなく……、すぐに叶えたい願いなんだよ……」
 
「はありゅ?」
 
「……ドラゴンに生まれ変わって、又君と巡り会いたい……」
 
「お前……」
 
「駄目かな……?、そうしたらずっと……、リトルと一緒に
いられるよ……、ドラゴンに生まれ変わって……、そうしたら、
うん!リトルの遣い魔になるよ!!」
 
「本物のバカかりゅ?普通なら、もっと別の……、てか、
何でドラゴンりゅ?本当訳判らん奴りゅ……、第一、んな簡単に
都合よく生まれ変われる訳ねーだろりゅ」
 
「バカでもいいんだ、だって、僕はもう……、いつ死ぬか
判らないんだもの……、病気持ってるこんな身体だからさ、
……願い事ぐらい叫んだっていいじゃない、それに僕、ドラゴンが
小さい頃から大好きなんだ、強くてかっこよくて、憧れなんだよ!」
 
身体は小さいが少年は心に大きな夢を持っている様で、
小悪魔に自分の夢を喋り終えた後、顔を赤らめる。
 
「……最初から死ぬ死ぬ考えてないで、生き残る様に方法
考えりゃいいりゅ、それぐらい考えろりゅ、テメーの人生は
テメーで切り開けりゅ!お前の事なんかリトルは知ったこっちゃ
ねーのりゅ、生まれ変わったお前なんか何でわざわざリトルが
さがさにゃいけんのりゅ!御免こうむりゅ!!甘ったれた事言ってねーで、
さっさと長生きしろりゅ!」
 
「リトル……、うん、僕……、病気治す、リトルと一緒に生きたい……、
何処までも……」
 
「うるせー糞め、勝手にしろりゅ……、うるせーから最初はヌッ殺して
やろうかと思ったけど、アホ過ぎてそんな気も失せたりゅ……」
 
「うん、勝手にする、でもね……、もしも僕が死んだら……、
……僕を探し出して見つけてね、僕、必ずドラゴンに
生まれ変わるからね……、でも、生まれ変わったら……、
僕は多分君の事忘れてると思うから……、もしも僕の事、
見つけてくれたら……、記憶を思い出させてね……」
 
「……アホかりゅ……、ドリーム野郎め……、だから
無理言うんじゃねーりゅ……」
 
(……本当に信じらんない……、あの小悪魔があれでもあの子を
励ましてる……、嘘みたいだ……)
 
精神体だけのダウドが只管ぼーっと状況を見つめる中……。
 
(あれ……?又違う場所だ……、ん?又小悪魔……、あれはお墓……?)
 
薄暗い……、誰も近寄らないような荒れ果てた畑の傍に……。
木の枝が刺さった小さなお墓がぽつんと立っていた。
 
「やっぱりお前はバカりゅ……、出会ってから数日であっさりと……、
又突然発作起こして急に死にやがって……、根性なしめ……」
 
(……そうか、あの子……、やっぱり死んじゃったんだ……、
でも、だとしたら……、いつもオイラ達の前に現れるリィトは……)
 
「もうお前の事なんか誰も知らないし、覚えてないりゅよ……、
ルンペンの野垂れ死にりゅ、けど、リトル様だけは覚えていてやるりゅ、
お前のその哀れな姿と存在、……惨めな一生を……、この身体の中に
取り込んでおいてやるりゅ……、お前を人間でリトル様の一の
子分に認定してやるりゅ……、有難く思えりゅよ、人間なんぞ
反吐が出るほど嫌いだけど……、お前だけは特別りゅ……」
 
(……あっ!?)
 
小悪魔はそう言うと……、自身の姿を少年そっくりに変えた……。
 
(リィトだ……、リィトは……小悪魔が化けてたんだ……)
 
「せめて……、名前ぐらい教えてから死んでくれよ……」
 
少年の姿の小悪魔はそう言って墓に背を向け何処かに
歩き出す……。
 
「……このクールな悪魔族の王子が……、変なのと出会ったばかりに
心揺すられて……、フン、全く迷惑な話だよ……」
 
(……涙……?)
 
そして……、更に又景色が移り変わり……。
 
(!?こ、今度は何処……、酒場……?)
 
「何にしますか?」
 
「ミルクを……」
 
一人で孤独に酒場の中、飲み物をオーダーする少年の姿の小悪魔と、
周囲には荒くれ者の男達が数人いて酒を飲んでいた。
 
「どうだい?景気はよ」
 
「駄目だ、さっぱりだ……、クソ勇者共がゾーマを成敗してから
最近モンスター共もすっかり大人しくなっちまったし、もうドラゴン
なんざドの字も見かけねえさ……」
 
「だろうな、ゾーマが居た頃にはドラゴンも腐るほど徘徊
してたからな、俺ら密猟で稼いでる奴らにゃ全く景気のねえ
世の中になっちまった!」
 
「返って迷惑さあ、全く!余計な事しやがってよ!」
 
「そうさい、密輸商売の俺らにとっちゃ平和なんざ
どうでもいいのさ、畜生め!」
 
(……こいつら、密猟者か……)
 
「おい、同僚よお」
 
其処へ、男達の側に別の密猟者らしきグループがやって来る。
 
「そう悪い話ばかりでもないぜえ?……最近な、どうやら、
ゾーマが死んでから、奴が生きてる時に封印してた塔や洞窟らが
ぞくぞく見つかってる話だぜ?」
 
「へえ……」
 
「中にはどうやら……、相当の当りも隠れてるらしいぞ……、
あくまで噂だがな……」
 
「これか……!?」
 
「だ、そうだ……」
 
密猟者グループは揃ってむさ苦しい顔を近づけて
嫌らしい笑いを浮かべる。
 
(……当りって、ドラゴンの事だな、なんつー汚い奴らなんだ……、
顔も汚いけど……、許せないよお……)
 
「そういや、通常なら今の時期は、奴らの産卵期だな……、
おい……」
 
「いっちょ、儲け探してみるか…?厄介なのもいるかもしんねーがな」
 
「構わねえさ、金になるのならよ、命がけでやるだけやるだけだ、
それが俺らの生きざまよ!」
 
「だな……」
 
「いひひっ……」
 
「マスター、勘定……」
 
それまで黙っていた少年の姿の小悪魔が立ち上がった。
 
「あ、はい……」
 
小悪魔……、少年は金を払うと酒場を後にする。
 
「……全く、余計な約束させてくれるよ……、ドラゴンに
生まれ変わるから探せとか……、無理に決まってんだろ、
本当にバカだ、そんなの判る訳ないだろ……」
 
そして、少年の姿の小悪魔は独りで又何処かに歩いていく……。
 
(……もしかして……、小悪魔がチビちゃんを狙うのは……)
 
見ていた光景が歪みはじめ……、ダウドの精神体は又、意識が遠のき、
ダウドの周囲は真っ暗になり、何も見えなくなった。
 
そして、ダウドに成り変った小悪魔ダウドがチビを抱えて
辿り着いた場所、其処は……。
 
「!?」
 
 
「……うわーーーっ!!」
 
 
「お、お前ら……、何で……!?」
 
小悪魔ダウドの頭上に旅の扉が出来上がり、其処の中から
光に包まれたジャミル達が揃って姿を現し……、小悪魔ダウドの
上に揃って落下した……。
 
「いてててて!」

zoku勇者 ドラクエⅢ・その後編 エピ29~32

zoku勇者 ドラクエⅢ・その後編 エピ29~32

スーファミ版ロマサガ1 ドラクエ3 続編 オリキャラ オリジナル要素・設定 クロスオーバー 下ネタ 年齢変更

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-04-06

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work
  1. エピ29・30
  2. エピ31・32