zoku勇者 ドラクエⅢ・その後編 エピ25~28

エピ25・26

英雄達の忘年会


 
4人は小島に船を留め、夜間の休憩をしていた。
 
「さて、次は奇跡の扉ね……、……誰でも思いつきそうな単純な
ネーミングだな……、……それにしても今夜は冷えるなあ……」
 
宝石から変化した謎の鍵をプラプラさせながらジャミルが呟く。
 
「ジャミル、それおもちゃにして無くさないでよ?大事な物
なんだからね……」
 
本を読みながらアルベルトがジャミルの方を見、注意する。
 
「……分ってるよ、相変わらずうるせーな!」
 
「何処にあるのかな?その扉の場所……」
 
「それがわかんねーから只管探すしかねんだろ!バカ!」
 
ベッドに寝っころがった状態のまま、毒舌言葉でダウドを突っつくジャミル。
 
「なんだよお!機嫌悪いなあ!!」
 
「なんだよお!」
 
「……チビ?お前、いつ来たんだ?」
 
「押忍!さっき」
 
「……オス?」
 
「チビ、漢字覚えたんだよ!」
 
突然、男衆の部屋に現れたチビ。きゃっきゃっと尻尾を振ってお愛想する。
 
「チビちゃん……、又賢くなったんだねえ~……」
 
ダウドが感動してチビにスリスリする。
 
「本当だよ……、ますます頼もしくなったね……」
 
「チビ、凄い?凄い?」
 
「凄いよおお~!!」
 
「……」
 
どんどん成長していくチビを……、何となくジャミルは複雑な思いで見つめる。
 
(もう、いつ俺達と離れても……、大丈夫だな……)
 
「ジャミルー!遊ぼー!!」
 
「……うわっ!?」
 
突然チビがジャミルにジャンプしてドスンと腹の上に乗っかってきた。
 
「……重くなったな……、おい……」
 
「遊んでー!遊んでーえええー!」
 
チビはジャミルの腹の上でバタバタとじゃれて暴れる。
 
(けど、こういう処はまだ全然子供なんだよな……)
 
何となく安心して……、ジャミルはチビの首筋をひょいっと
摘んで持ち上げる。
 
「きゅっぴ!?」
 
「でも、もう夜だから……、今日は駄目だぞ!ほれ、寝るんだよ!」
 
「……やだーっ!ジャミルのバカーっ!遊んでくれなきゃやだーっ!!」
 
摘まれたままチビは羽を動かし、バタバタ暴れる。
 
「……いう事聞かねえと、このまま摘まれストラップにするからな!」
 
「やだやだやだーーっ!!」
 
「……成長してきてる分、わがままも最近凄いよねえ……」
 
「仕方ないんだよ、精神面は人間の子供とまだ何ら変わらないんだから……、
ジャミル……、少しだけ遊んであげたら……?」
 
「……俺だってさあ、眠……」
 
         ブッ
 
「……チ~ビ~いいいい……!」
 
「きゃはははは!」
 
チビは面白がってきゃたきゃた笑い転げる。
 
「……やっぱりさあ……、変なとこ親に似るんだよ……」
 
「ねえ……」
 
アルベルトとダウドがこそこそ話す……。
 
「ねえ、チビちゃんこっちに来てる?」
 
アイシャがひょこっと野郎の部屋に顔を出した。
 
「……来てるよ!たく……、暴れてしょうがねんだよ、早く
連れてってくれや!」
 
不機嫌な表情でムスッとし、摘んだままチビをアイシャに
差し出すジャミル。
 
「仕方ないでしょ、チビちゃんは皆が好きなんだもの……、
何怒ってるのよ!」
 
「きゅぴ、何怒ってるのよ!」
 
「……チビ……、いつまでもふざけてると本当に怒るからな……」
 
「わ、わー!ジャミルも落ち着いてよお!穏便に、穏便に……」
 
ダウドが慌てて仲裁に入る。
 
「……きゅぴ?」
 
「あ、チビっ!……こら待てっ!」
 
「チビちゃん!」
 
チビは急にジャミルの手から離れると甲板の方に飛んで行ってしまった。
 
「ほら、ジャミルが怒ったりするから、チビちゃん
いじけちゃったじゃない!」
 
「俺の所為かよっ!」
 
「……だから……、二人も……、やめてよお~!」
 
「でも、それ程、いじけてる顔でもない様に、僕には見えたけどなあ……、
今の顔……」
 
 
……それから暫くして……、チビがまた部屋に戻って来たが。
 
「ねえ、お空から何か降って来たよお!」
 
「空から……?何が?」
 
恐怖の大王でも降って来たのかと思い、ジャミルが首を傾げた。
 
「早くー!みんなー、来て来てー!」
 
チビが尻尾を振って甲板まで先導し、皆を呼ぶ。
 
「たく、仕方ねえな……」
 
文句を言いつつも、ジャミルはチビの後に続いて甲板に上がる。
 
「……くく、本当はうるさい時もウザ可愛くてしょうがない癖にね……」
 
「ねえ……」
 
「本当よねえ……」
 
と、上がったと思いきや、又ジャミルが下に戻って来て、部屋に顔を出す。
 
「何してんだよ、お前らも来いよ!早くっ!!」
 
「はーい、今いくよー!」
 
4人もジャミルの後に続いて、甲板へと上がる。……其処で見た物とは。
 
 
「見てみ、……雪だよ……、どうりで寒かったわけだ……」
 
「わあ~、綺麗ね……」
 
「雪……?」
 
「そうよ、チビちゃんは生まれて初めての雪よね」
 
「小さくて……、触ると、とっても冷たいよ……?」
 
チビが落ちてくる雪にそっと触れる。
 
「……寒いよおおお~、ここにいたら凍っちゃうよお~……」
 
鼻水を垂らしながらダウドがガクガク震えだす。
 
「……氷の全裸ダウド像、出来上がる……か」
 
「な、なに、しみじみ言ってんのさあ!てか、何で全裸なんだよお!!
バカジャミルっ!」
 
「きゅぴ、雪って……、お空からのおくりもの?」
 
「うふふ、そうかも知れないわね……」
 
チビを抱いてアイシャが微笑んだ。
 
「そういや今年も、もう終わりなんだな……、早いよな……」
 
「そうだね……」
 
「あっという間よ……、1年なんてね……」
 
「……寒いよおおお~!、へくしっ!」
 
舞う雪を眺めながら、4人はそれぞれ好き勝手ぶつぶつ呟く。
 
「……折角だから、年納めに一杯やろうや、来いよお前ら!」
 
「いいね、飲もう!飲もうよお!」
 
「仕方ないなあ、……もう……」
 
「本当よ、もう、しょうがないんだから……、チビちゃんは
ホットミルクよ?」
 
「きゅぴ!」
 
4人は休憩室へと移動し、年越し宴会の準備を始める。
 
※それでもこの話では皆一応、未成年設定なので……、シャンメリーです。
 
「ん~っ、うめえ……」
 
「あ……、フライング馬鹿!!」
 
「……駄目だよっ!たく……!」
 
アルベルトがジャミルから慌ててシャンメリーの瓶を取り上げる。
 
「もう、遅いから、あまりお腹に負担掛けない物だけど、
作って来たわよ」
 
アイシャがお皿に盛り付けた軽いおつまみをテーブルの上に置く。
 
「お~、あいしゃあ……、きがきくじゃん……、あいしてるよお~、ちゅっ!」
 
ジャミルがアイシャに向って投げキスをした……。
 
「ちょ、やだっ……、ジャミルったら!もう出来上がっちゃって
るの……!?って、飲んでるの……、アルコール入ってないわよね……?」
 
「……アルコール無のお酒で、酔うんだよお、この人……、
おかしいでしょ?」
 
「ひっひっひっ……、ひっく……」
 
「宴会の余興用にも……、便利な体質ね……」
 
「アイシャー、チビにもチーズのおつまみー!食べたいー!」
 
チビがアイシャにきゅぴきゅぴおねだりする。
 
「はいはい、きちんとお座りしてね?でももう夜だからね、
チビちゃんは少しだけよ?」
 
「きゅっぴ!」
 
「……ん~、あいしゃあー、俺にもー!ちゅう、ちゅうのおつまみー!!」
 
「其処の人……!きちんとお座りしてね!!」
 
アルベルトがジャミルに向けてパンチングボックスを発射した。
 
「……はい……」
 
「もう……」
 
「……えーと、んでは、気を取り直してと、とにかく……、来年も皆で
一緒に頑張ろうや!つーこと!……以上……、改めてカンパーイ!!」
 
いい加減に適当に話を纏めて、ジャミルが乾杯の音頭を取った。
 
 
「カンパーイ!!」
 
 
4人が声を揃え、グラスを合わせた。
 
「……ああ~、美味しいよおおー、幸せー!」
 
グラスに接がれたシャンメリーをダウドが一気飲みする。
 
「あー、おいしいよおー!」
 
チビも皆の真似をし、ホットミルクをごくごく、美味しそうに飲む。
 
「ふふっ、チビちゃんたら……、もう……」
 
チビの様子を見ていたアイシャがくすっと笑った。
 
「……んばああああ~、おいじいよおお~……」
 
「ジャミル……、オイラそんな濁声じゃないよ……」
 
「いいんだよおおおお~!」
 
「……また酔ってるね、てか、本当にアルコール入ってないので
酔う人も珍しいね……」
 
「でしょ?ジャミルおかしいから、まあおかしいのは
いつもなんだけどさ……」
 
おかわりのシャンメリーを飲みながら急にダウドが開き直った表情になった。
 
「……うひ、うひひひひひ!ダウドちゃ~ん、あーそびーましょー!」
 
「なんだよお!エセ酔っ払い!向こう行け!」
 
「そんな事いっちゃいや~ん!」
 
「あ、アル……、助けて……」
 
「はあ……、久しぶりにこれ使おうかな……」
 
アルベルトがスリッパを取り出した……。
 
「……ジャミルっ!いい加減にしなさいよっ!」
 
アイシャが腕組みをし、ジャミルを睨んだ。
 
「はい……、すみません……」
 
「もうっ!」
 
「やっぱりこれが……、一番効果覿面みたいだね……」
 
「ねえ……」
 
 
一頻り騒いで夜は更ける……。
 
「……きゅぴ~……」
 
「あら……、チビちゃん寝ちゃったわ……」
 
「ん~、良く寝たわ……」
 
酔って暫く倒れていたジャミルが目を覚ました。
 
「……うひ~……、オイラ強いんだぞお……、ジャミルめ……、
この野郎、どうだまいったか……」
 
「……ねえさーん、むにゃ……」
 
「何だ、奴らも寝ちゃったのか……」
 
「ジャミル、私もそろそろ、チビちゃん寝ちゃったから、
もう寝るね、よいしょ」
 
アイシャがチビを抱き上げると。チビはむにゃむにゃと寝言を発した。
 
「……きゅぴ~、みんな……だいすき……」
 
「チビちゃん……?」
 
「寝言だよ、たく、この後生楽面は、産まれた時からずっと
変わんねえや、おいっ!」
 
ジャミルが軽くチビを突っつくと、チビは小さく声を出す。
 
「きゅぴ……」
 
「ふふっ、そうね……」
 
アイシャが笑う。
 
「俺、今日はこのまま此処で寝るわ、こいつらも起きねえし」
 
「そう?冷えるから風邪だけは注意してね……」
 
「ああ」
 
「……ジャミル」
 
「ん?」
 
「……私ね、本当は……、このまま……、ずっと……チビちゃんと……」
 
「アイシャ……?」
 
「ううん、何でもないわ…」
 
あどけなく眠っているチビの表情を見てアイシャが何か言い掛けたが
すぐに口を噤む。
 
「そうか……?」
 
「うん……、……来年も宜しくね、ジャミル……」
 
「……あ?」
 
アイシャがジャミルの頬にそっとキスをした。
 
「……おやすみー!」
 
チビを抱え、照れ臭そうにアイシャが船室まで慌てて走って行く。
 
「……」
 
一瞬何が起きたのか分からず……、ジャミルは暫くぼーっとしていたが
すぐに我に返る。
 
「……来年もいい年にしねーとな!」
 
この先に待ち受ける更なる困難の事も……、今はまだ何も知らない4人であった……。


夢の国のヘタレ 前編

年が明けて……。此処アレフガルドでも新しい年、新年を迎える。
 
 
「チビっ、待てっ!逃げるなっ!!」
 
「チビちゃん!駄目よっ!」
 
「ふわあ……、朝から騒がしいなあ……」
 
早朝から船内に響き渡る騒がしい騒音に目を覚まし、目を擦りながら、
アルベルトが休憩室から出て来た。……年が明けようが、この4人+αは
相変わらずだった。
 
「ぴいーっ!歯磨き嫌いっ!」
 
「観念しろっ!虫歯になっても知らねえぞっ!そっち逃げたぞ、
アイシャ、頼む!」
 
「おっけー!チビちゃんっ、大人しくしなさいっ!」
 
ジャミルとアイシャで二人がかりでやっとこさチビを捕まえる。
捕獲され、ようやくチビは観念し、大人しくなった……。
 
「びいい~……」
 
「はあ~、漸く今日も朝の歯磨きが終わった……」
 
「疲れた……」
 
「ご、ご苦労様です……、二人とも大丈夫かい?」
 
アルベルトが気遣い、心配する。冷える朝にも係らず、走り回った所為で
ジャミルとアイシャはもう汗だくになっていた。
 
「あー、しっかし、最近チビも歯がでかくなってきたからな……、
大変だわ……」
 
「うん、もう少し……、大きめのブラシの方がいいのかもね…」
 
「ぴゅぴ~……」
 
チビの口の中を覗き、点検するアルベルト。
 
「……アル、処でダウドはどうしたい?まだ寝てんのか?」
 
「うん、まだ爆睡してるみたい」
 
「たく……、年明けからしょうがねえな……、叩き起こしてくるわ」
 
ジャミルがドタドタ休憩室に走って行った。
 
 
「……」
 
「ダウドっ!起きろっ!」
 
「……」
 
「おい、聞いてんのか!もう新年だぞ、起きろってば!年明けたぞ!」
 
「……」
 
無理矢理に、ダウドに掛けてある毛布を引っ剥がすが……。
 
「……ダウド?」
 
ダウドは返事をせず、昨夜の状態のままテーブルに顔を伏せ
眠ったままである。
 
「おい、ダウド……?」
 
さすがにジャミルも心配になり、ダウドの身体を揺さぶってみる。
しかし呼吸はしているものの……、一行に目を覚ます気配がない……。
 
「ねえ……、どうしたの……?ダウドはまだ起きないのかい……?」
 
アルベルト達も心配して休憩室にやってくる。
 
「本当に……ダウドが……起きねえんだよ……」
 
 
「……けっけー、あけましておめでとりゅ、新年から失礼りゅ、そうりゅよ、
あのヘタレにこそっと魔法掛けたのリトルりゅよ、悪夢の夢の魔法りゅ!
これでヘタレは永遠におねんねしたままりゅ、いい夢見ろよりゅ!
……本当はあのクソ猿と全員に掛けるつもりだったのに……、
間違えてヘタレだけに集中して掛けちゃったのりゅ……、
まあいいりゅ、一人でも厄介者がいなくなればいいのりゅ、けけっけけのけー!」
 
……この小悪魔が何故チビを付け狙うのかは未だ不明だが、もはや
本来の目的よりジャミル達に悪戯を仕掛け反応を楽しむ方が小悪魔の
日常になりつつあった。こそっと様子を見ていた小悪魔は嬉しそうに
何処かへ飛んで行った。
 
「けけっけりゅー!屁がでりゅー!」
 
 
「ダウド、起きて……、ねえ……、冗談よね……?」
 
アイシャも心配そうにダウドの頬を触るが、ダウドは何も反応しない。
 
「こんな……、事って……」
 
「ぴゅぴ……?ダウ……?どうして起きないの……?」
 
チビも不安そうにダウドの側を離れずパタパタ飛び回る。
 
「死んでるわけじゃねえのに……、本当、どうしたんだよ、おい……」
 
「?ぴゅぴ……、ジャミル、ポケット、……光ってるよお……?」
 
チビが不思議そうにジャミルの顔を見て首を傾げた。
 
「鍵か?……これは……」
 
ジャミルは上着のポケットに入れてある竜の涙から変化した鍵を
取り出す。鍵が光りを放ち、ダウドの身体を包み込み照らすと、
ダウドの側に又、旅の扉が出来る……。
 
「また……、旅の扉よ……!」
 
「もしかして、此処からまた……、ダウドの心の中に行けるとか……」
 
「……行ってみるか…、俺達がダウドの精神の中に入って直接
ダウドを連れてくるんだ、何でダウドがこうなっちまったのか……、
原因はわかんねーけどな……」
 
「ぴゅぴ!チビも行く!」
 
チビがジャミルの肩にぴょんと飛び乗った。
 
「このままお前だけ此処に置いておけねえしな……、
よし!皆行くぞ!」
 
 
トリオとチビは旅の扉の中へ……。
 
 
「ん?……此処、何処だ……?」
 
周りを見ると、まるで見た事の無い不思議な田舎の
景色が広がっている。
 
「此処がダウドの心の中……?あるいは見てる夢……、なのかな……」
 
アルベルトも目で周囲を追う。
 
「何だか不思議な感じねえ……、懐かしい様な……」
 
アイシャも首を傾げた。
 
「ぴゅぴ!ねー、みてみて!あの人たち、みんな頭面白いよ!
つるつるの頭から少しだけおけけが生えてる!」
 
チビが異様に興奮して喜びだした。
 
「あー?あ……」
 
周りに広がる田園風景……、と、せっせと畑を耕し働く
異様な頭の人々、いわゆる、……ちょんまげであった……。
 
「頭の後ろに……、バ、バナナつけてる様な髪型ね……」
 
「あいつ……、どんな夢見てんだよ……」
 
……ダウドの思考回路を今一理解出来ず、ジャミルが呆れて頭を抱えた。
 
「あっ!ダウだよっ!いたよっ!」
 
「……えっ!?」
 
チビの声にトリオが一斉に反応し、同じ方向を見ると
ダウドがぼーっと……、あさっての方向を向いて突っ立っていた。
 
「……」
 
「ダウドっ!」
 
ジャミルが声を上げてダウドを呼ぶ。
 
「……!」
 
「ちょっ、待てよ!何で逃げんだよ!おいっ、待てったら!!」
 
慌てて逃げ出すダウドを追おうとするジャミルだが……。
 
「こらっ!ジャミ朗っ!!」
 
「……え……」
 
驚いて、思わず聴こえてきた別の声に耳がいってしまう……。
結果、ダウドは走って何処かへそのまま逃げて行ってしまった。
 
 
「……何だよ、おかあ、うるせーな!おらあ働きたくねーんだよ!」
 
「冗談じゃねーよ、今月の年貢納め日が迫ってんだよ、
とっとと働いとくれ!」
 
「いてっ!」
 
母親らしき人物が草鞋で息子の頭を引っ叩いた。
 
 
「ぴゅぴい~?」
 
「あの親子さん……、何だかジャミルとアルにそっくりなんだけど……」
 
アイシャがジャミルとアルベルトを見た……。
 
「!!」
 
頭はちょんまげではないものの、髪はぼさぼさ……、姿は汚い着物で
ジャミル似の若者が道端にねっ転がって鼻糞をほじくっていた……。
 
「な、な……」
 
自分……?のあまりの情けない姿にジャミルが唖然とする……。
 
「あーあ、やってらんねーな、よいしょっと!」
 
ジャミル似の若者が立ち上がってぽりぽり、尻を掻いた。
 
と、其処へ……。
 
「……父ちゃん、一回、びしっと言ってやって下さいよ……、
もうあたしの言う事なんかまるで聞かなくて、この馬鹿息子は
どうしようもないんですよ……、うう、あたしゃ情けなくて……、
涙が出ますよ……」
 
アルベルト似の母親が誰か連れて来た様だった……。
 
「わかったわ、私が怒ってあげる!もう~っ!全く、本当に
どうしようもないんだからっ!ジャミ朗ったら、ぷんっ!」
 
「まさか……、この声……」
 
今まで騒動を見ていたアイシャが今度は顔面蒼白になる……。
 
「ぴ?ぴ?」
 
チビがアイシャの方を見たり、ジャミルとアルベルト達の方を見たり……。
 
「……きゃ、きゃあ~!?」
 
思わず大声を出しそうになったアイシャの口をジャミルが慌てて塞いだ。
 
現れた、何故かアイシャ似の親父……?は、頭に麦わら帽子を被り、
顔にはカールおじさんの様な……、丸い髭が生えていた……。
 
「……プ、プププププ!!」
 
アイシャの口を塞ぎながら、堪らずジャミルが吹きだす……。
口を塞いでいる手が震えている……。
 
「……ぷはあ!酷いわっ!幾ら何でも酷いわっ!!」
 
涙目になってアイシャがジャミルの頭をポカポカ殴りながら
ギーギー抗議する。
 
「お、落ち着いて、アイシャ……、これはダウドの見てる夢だからね……」
 
「幾ら夢だって酷いわよう!……ダウドったら!!失礼よっ!一体どういう
神経してんのよっ!!」
 
「……むかついたけど、何か面白えから、もう少しこのまま見てるか……」
 
「全然面白くないわよっ!!」
 
「きゅぴ?チビは出てこないの?……どこかにいるのかな?」
 
自分が出て来ないのをチビが不思議がる。
 
「……もういやっ!早くダウドを追いましょっ!!」
 
アイシャがジャミルとアルベルトをせっついた。アイシャが怒って
ぐずり出した為、仕方なくその場を退散し、ダウドの後を追掛ける。
……と、トリオが一歩踏み出すと、又風景が変わった……。
 
「ありゃ?又違う場所だぞ……?この家……、何だい?」
 
「ピンク色のお屋根のお家ね……」
 
「あ、あそこにもジャミルとアルがいるよ?」
 
「……は?」
 
トリオが再びチビの声に耳を傾け、正面を見ると……。
 
「……」
 
「ジャミ太っ!もうっ、お庭の草むしりして頂戴って
何回言ったら判るのっ!まだお使いも済んでないでしょっ!宿題はっ!?」
 
「あーっ!?これから全部するんだよ!うるせーな!」
 
やけに反抗的な……、の〇太である。
 
「それからまだ、この間の算数のテストの答案、ママに
見せてないでしょっ!見せなさいっ!!」
 
ジャミルとアルベルトはあいた口が塞がらず……。二人してアゴが
外れたままの状態になる……。
 
「お、面白い……、ね……」
 
アイシャが苦笑いした……。しかし、数分後には、彼女もそんな事を
又言っていられなくなる状況になるのである。
 
「面白くねえっ……!!大体さっきと変わり映えしてねえじゃねえか!!」
 
「じゃあ、私は……、しずかちゃん……?」
 
と、アイシャが言った時……。
 
「……パパっ、何とか言ってあげて下さいよっ、大体あなたがきちんと
叱らないからダメなんですよ!!」
 
アル玉子ママがハンカチで顔を拭いた……。
 
「……わかったわよっ!せっかくの会社のお休みの日にジャミ太ったら!
本当にしょうがないんだからっ!ぷんっぷんっ!!」
 
家の中から又……、甲高い声がした……。
 
「何だかまた嫌な予感がするわ……、何でかしら?ねえ、ねえっ!!」
 
顔が真っ青になってアイシャがジャミルとアルベルトを突っついた。
 
「きゅぴ?誰かお家から出てくるよ?」
 
「……きゃあああ~っ!!やめて~っ!!出てこないでえ~っ!!」
 
又アイシャが大声を張り上げそうになるのをジャミルが何とか阻止する。
 
「……プ……、プププププ!!」
 
顔はアイシャだが……、何故か体型だけが……、の〇太のパパ状態の
親父が……家の中から……、のそのそ出て来たのである……。
 
「いや~っ!!何でこうなるのーっ!!何とかしてえーーっ!!」
 
ジャミルを拳でドスドス殴りながら絶叫するアイシャ。
 
「どうにもこうにも……、ダウドの夢だから……、ねえ……」
 
呟いて、アルベルトがお手上げのポーズを取った。
 
「……きゅぴ、またチビ、いないねえ、どこにいるのかな……?」
 
まだ自分の出演だけないのをチビが淋しがる。
 
「とにかく、ダウドの野郎を捕まえねえと……!このままじゃ、
まーた変な役に
されちまう!!」
 
「……ハア……、そうだねえ……」
 
「そうよっ、……冗談じゃないわよっ!!」
 
アイシャは激おこぷんすかぷん状態である……。

エピ27・28

夢の国のヘタレ 後編

「あっ、ダウ、めーっけ!」
 
チビが早速、ウロウロとそこら辺を徘徊していたダウドの姿を見つける。
 
「……!」
 
チビの声に驚き、またもダウドが後ずさり……、逃げようとする。
 
「ダウドっ!てめー……、んなろ、好き勝手な夢見やがって……!
こっちゃ冗談じゃねえぞっ!!さっさと一緒に帰んだよっ!!」
 
「やだよ、オイラずーっと此処にいるんだよっ!!」
 
「!?」
 
そう言うなり、ダウドは頭にタ〇コプターの様な物を着け、
空を飛んで逃げて行ってしまった。
 
「♪きゅぴっ!ダウドもお空飛んだよお!すごいねえ!!」
 
チビがきゃっきゃと無邪気に喜ぶ。
 
「あいつ……」
 
「……この世界はダウドの夢だから……、もうやりたい
放題なのかものね……」
 
「早く追いかけなくっちゃ!!これ以上勝手な夢
見させないわよっ!!」
 
もはや悪夢を見ているのはダウドではなく……、
トリオなのであった……。
 
「自由な夢の世界なら……、僕達も自由にさせて
貰えないのかな……」
 
「アルっ、それだっ!そっちがその気なら……、俺らだって勝手に
やらせて貰うぜっ!……ピンク色の通行ドア出ろっ!!」
 
「おおっ……」
 
「凄いーっ!」
 
ジャミルがそう言うと……、例の有名なドアが目の前に現れた……。
 
「よし、行こう!ダウドの処まで通してくれ!」
 
ジャミルがそう言って有名なドアを開けた。トリオとチビが
ドアを潜ると、其処には……。
 
「……今度は何だ?」
 
「わあっ、お花畑……、綺麗……」
 
出た場所は……、一面の花が咲き乱れる所で……、
さっきまで機嫌の悪かったアイシャを一瞬で笑顔にさせた。
 
「……あいつ、こんな少女趣味だったのか???」
 
「きゅぴ?誰かくるよ!」
 
「ダウドか!?」
 
「違うよ、女の子みたいだよ……」
 
アルベルトがそう言うと、ツインテールの幼女がこちらに
近づいて来た。
 
「きゅぴ、こんにちは!」
 
幼女はスカートの裾を摘み、ジャミル達に挨拶をする。
 
「……きゅぴ?どっかで聞いた様な口調だなあ……」
 
ジャミルが首を傾げた。
 
「あたち、きゅぴ子よ!よろしくね!」
 
「はあ……?」
 
「普段はきゅぴ!だけど、たまにぴゅぴって言ったりするのっ!」
 
きゅぴ子はそう言いながら嬉しそうにくるくる回ってダンスした。
 
「……もしかして、あなた……、人間になった……チビちゃん……、
なの……?」
 
戸惑いながらアイシャが目の前のきゅぴ子を指差した。
 
「きゅぴっ?わかんない!」
 
「ぴゅぴっ!チビもわかんない!きゅぴっ!」
 
きゅぴ子とチビは踊りながら楽しそうにくるくる回っている……。
 
「……何て癒される光景なのかしら……」
 
「うん……、そうだねえ……」
 
「……」
 
噴火状態だったアイシャはもう完全に機嫌が直っていた……。
と、其処へダウドもちょこちょこ歩いてくる……。
 
「きゅぴちゃーん、おやつ一緒に食べようよお、あっ……!」
 
「ダウドっ!来たな……、今度こそ逃がさねえぞ……!」
 
ジャミル達の姿を見てダウドが身構える。
 
「やだよお!オイラ……、ずっと此処から出ないよーだ!」
 
「もうっ、小さい子みたいなわがまま言うんじゃないのよっ!」
 
「チビを擬人化させたり……、ねえ、ダウド、君ってそう云う
趣味だったの……?」
 
アルベルトにじっと見つめられダウドがたじろいだ……。
 
「うっ……、い、いいんだよお!ほっといてよお!!
オイラなんか……!!」
 
「……よかねえよっ!!大事なダチだから……、お前が心配だから……、
わざわざこんなとこまで迎えに来るんだろうがっ!!」
 
顔を赤くしてダウドに向かい、ジャミルが大声で叫んだ……。
 
「ジャミル……、うっ、オイラ……」
 
「きゅぴ、おにいちゃん……、おにいちゃんのいる処は
ここじゃないよ……?」
 
「きゅぴちゃん……」
 
「ぴ?だから……、皆と一緒に帰って?ね?」
 
 
余計な事言うんじゃないのりゅ~……
 
 
「っ!この声はっ……!!」
 
「……スーパーカップ1・5倍……、キーングベビーサタン参上りゅ~……」
 
ジャミル達の目の前に…またも巨大化したベビーサタンが現われる……。
 
「ちゃちいな……、今、それ以上の大盛りサイズあんぞ?
せめてぺ〇ングぐらいにしとけよ……」
 
「うるせーりゅっ!馬鹿山猿めっ!!こいつらは頂くりゅ!!」
 
「きゅぴっ!?」
 
「ぴいいっ!!」
 
「……きゅぴちゃん!!チビちゃんっ!!何て事するのよっ!」
 
キングベビーサタンがチビときゅぴ子を捕える……。
 
「お年玉は頂いたりゅーっ!!けーっけっけっけっけっ!!」
 
きゅぴ子とチビを両手に掴んだまま握りしめ、キングベビーサタンが
バカ笑いする。
 
「やめろおっ!」
 
「……ダウドっ!」
 
キングベビーサタンの前にダウドが飛び出していった。
 
「……此処はオイラの夢の世界だぞっ……!きゅぴちゃんと
チビちゃんを放せっ!!人の夢の中まで出てくんなよっ!!」
 
「なーにを言ってるりゅ……、お前のその夢のショバを提供して
やってるのはこのリトルりゅよ……、ショバ代ぐらい払えりゅ!!
このバカチンがあ!」
 
「え……、えっ……?」
 
「なーる、そう言う事かい……、と言う事は、まーたお前が魔法で
悪さしやがったんだな!?」
 
「ご名答りゅよっ!けけっ!」
 
そう言うと、キングベビーサタンがトリオに向かって持っている
フォークを翳した。途端にジャミル達の身体が石化してしまう……。
 
「みんなあーーっ!」
 
「けけっ、……このまま石ごと砕いてやるりゅ……」
 
「きゅぴ~……」
 
「ダウ……、助けて……」
 
きゅぴ子とチビも捕えられたまま……、絶体絶命である……。
 
「ここはオイラの夢なんだ……、ショバなんか関係ない……、
好き勝手させない……」
 
「りゅ?」
 
ダウドが強く祈ると……、ダウドの身体が輝きだす。
 
「りゅっ!こっ、これは……」
 
「……ひぃっ、ひぃっ、……我は大魔王ダウドなり……、
ひぃっひぃっ……」
 
「りゅーーーっ!?」
 
「この世界はすべてオイラの物……、滅びよ……下等生物めが……!
メラゾーマ……!!」
 
「……お、お前ーっ!実は内面めっちゃ暗黒……りゅーーっ!?」
 
ダウドが放ったメラゾーマがキングベビーサタンに命中し、
キングベビーサタンは消滅した……。
 
「ひぃっ、ひぃっひぃっ……」
 
「……あ、元に戻った……」
 
ジャミルが自分の身体を見回した。
 
「ジャミル!あそこ、大変だよ!ダウドが!!」
 
アルベルトがダウドを指差す。
 
「ハア?な、今度は何だよ、何が起きてんだ!?」
 
「……あっ!きゅぴちゃん、チビちゃん!二人とも
大丈夫だった!?」
 
アイシャがチビときゅぴ子の元へ駆け寄る。
 
「きゅぴっ!アイシャ~!チビ、大丈夫だよお!」
 
「……きゅぴ子もだいじょうぶ、でも……、おにいちゃんが……」
 
キングベビーサタンは消滅したが、大問題と化した
ダウドが残っていた……。
 
「ダウドっ!一体どうしたの!?もうっ、しっかりしてよっ!!」
 
「この世界は……、大魔王ダウド様が支配する~、ひぃっひぃっ……」
 
「はやくおにいちゃんを元にもどさないと……!このままじゃ本当に
大魔王になっちゃう!!」
 
「うーん、こりゃやべえな、マジでキテるかもしんねえ……」
 
「……どうすればいいんだい……?」
 
アルベルトがきゅぴ子に聞いてみる。
 
「わからない……、でも、いちばん大切なことを……、おにいちゃんが
思い出してくれれば……」
 
「……ダウーっ!」
 
「チビちゃんっ!!」
 
チビがパタパタとダウドの側まで飛んでダウドに近づいて行く。
 
「……邪魔をするな、毛等め……」
 
「チビっ!あぶねえっ、こっち来るんだっ!!」
 
「ジャミル、大丈夫だよ、ダウ……、いい子ね……、よしよしだよお……」
 
「チビ……、お前……」
 
「チビが淋しい時も……、ダウ、いつもこうやって側で
慰めてくれたよ……、今度はチビがダウを慰めてあげるね……」
 
そう言ってチビがダウドにすりすり……、顔を舐めた。
 
「……チビ……ちゃん……?」
 
「きゅぴっ!ダウっ!」
 
「チ、チビちゃん……、くすぐったいよお~……」
 
「ダウっ、ダウっ、きゅぴ~!チビの大好きないつものダウだあ!」
 
嬉しくて嬉しくて……、正気に戻ったダウドの顔をチビが
更にペロペロ舐め捲る。
 
「はあ~……」
 
安心したのかトリオが揃って安堵の溜息をつく……。
やがてチビを連れ、ダウドがおずおずと皆の所に戻って来た。
 
「あの……、みんな……、ごめん……、ね……」
 
「……ダウドっ!!お前な……!!」
 
「ひいっ!!」
 
「ジャミル、ダウ怒っちゃ駄目っ!!チビも一緒に
ごめんなさいするよお!だから……、ダウ怒らないで!!」
 
チビがダウドの正面に飛んで、必死にダウドを庇う……。
 
「チビ……」
 
「チビちゃん……」
 
「チビちゃん……、どうして君って子は……、こんな情けない
オイラの事なんか……」
 
「きゅぴ!チビのだーいすきなダウだもん!」
 
そう言って仲良しの印で、再びダウドの顔をチビが舐めた。
 
「……うん、ありがとう……、チビちゃん……」
 
「きゅぴっ!」
 
「しょうがねえな……、けど、帰ったらそれなりにだぞ……?
覚悟しとけよ……」
 
「わかってるよお……」
 
ダウドが素直になった途端、花畑が光り出す。……一面の花畑の中に、
帰りの旅の扉が出来た。
 
「あっ……、旅の扉だわ……」
 
「やっと帰れるみたいだね……」
 
「おにいちゃんたち、これでさよならだね……」
 
両手を後ろで組んできゅぴ子が皆を見つめた。
 
「きゅぴちゃん、君も一緒に行けないのかい……?」
 
ダウドも淋しそうにきゅぴ子を見つめた。
 
「……ううん、きゅぴ子は夢の国の住人だから……、
現実にはいないもん……、ここから出られないよ……」
 
「きゅぴい~……、チビもきゅぴ子ちゃんと
お別れさみしいよお~……」
 
「ありがとう、でもね、時々でも、おにいちゃんたちが
きゅぴ子の事を思い出してくれたなら……、きゅぴ子は消えないよ、
遠くはなれてもいつも側にいるよ……」
 
「うん……、オイラ、忘れないよお、絶対……」
 
ダウドがきゅぴ子に手を差し出し、きゅぴ子もその手を握り返した。
 
 
(……遠く離れても、いつも側に……)
 
 
「うんっ!ありがとう!」
 
 
そして……、4人とチビは元の世界へと……。
 
 
「……これ、本当に全部切るの……?」
 
ダウドの目の前に置かれた大量の玉葱の山……。
 
「そうよっ、夕ご飯の支度どんどん遅れちゃうんだから
早く全部切ってね!間に合わないわよ!?今日はカレー
なんだから!!」
 
腰に手を当て、アイシャがダウドを監視する。
 
「……とほほ~、やっぱり現実逃避したい……、
帰るんじゃなかった~……」
 
「しっかり切れよー!ダウドー!」
 
監督椅子に座ってジャミルがダウドを茶化す。
 
「……ねえ、ジャミルも手伝ってよお……」
 
「やだよー!散々心配掛けた罰だっ!誰が手伝うか!」
 
「現実は厳しいんだよ、ダウド……」
 
読書しながら呑気にアルベルトもダウドを諭す。
 
「きゅぴっ!ダウ~、がんばれー!」
 
ダウドの肩越しからひょっこりとチビが応援する。
 
「チビちゃん……、うん……、でもやっぱり、皆がいるって
いいなあ……、心があったかい……」
 
「なあに?ダウド、何か言った?」
 
「何でもー!」
 
アイシャが聞き返す。ダウドはくすっと笑みを浮かべ、
玉葱を切るのであった。
 
「ハア、奴らに付いてったら、夢の中とはいえ……、
まーたエライ目にあったりゅ、冗談じゃねーりゅ……、
どうにかして奴らにギャフンと言わせる方法はないもんか
りゅねえ……」
 
 
……ふう~……、漸く半分切れたよお~……、目が痛い……
 
きゅぴっ!?ダウが泣いてる~!!
 
ご苦労様!じゃあ、休憩してお茶にしましょっ!
 
僕がクッキーの用意するよ、お皿に移そう
 
うわーい!やっと休めるー!疲れたよおー!
 
おーい、まだジャガイモの皮むきも残ってるかんな!
 
……え、えええー……?
 
それはいいわよ、後、残りは皆で一緒にやりましょ!
 
 
休憩室から聴こえてくる楽しそうな声に耳を傾ける小悪魔。
又こっそり船に潜入して4人のやり取りを偵察しようと
していたが……。
 
「……仲間……、フン、リトルは、偉大なる悪魔族の王子りゅ……、
友達なんていらねーのりゅ、ウンコでもクソでもブリブリ喰らえやがれりゅ、
ま、精々、今のうちに馴れ合ってろりゅ……」
 
嫌味を言いながら小悪魔は又何処かに飛んで行ったが、その姿は
今までと違い何処か淋しそうでもあった……。


凍りつく心

「……びいいいい~っ!!」
 
夜中……、4人はチビの盛大な鳴き声で一斉に目を覚ました……。
 
「チビちゃん、どうしたの?大丈夫よ、ほーらよしよし……」
 
「びいっ、びいっ……」
 
「アイシャ、チビがどうかしたのか!?」
 
男衆も心配ですぐに起き、アイシャのいる船室にやってくる。
 
「……うん、また怖い夢を見たのかな……」
 
アイシャが優しくチビを撫でて摩る。
 
「……みんなが、知らない所にチビを置いていなくなっちゃったの……、
怖いよお……」
 
「チビちゃん、どうしたのよ、そんな事ないわよ、ほらほら、
いい子だから……、ね?何も心配しなくていいのよ……、
皆いるでしょ?」
 
「びいい……」
 
「……」
 
暫くアイシャに抱いて貰い、落ち着きを取り戻したチビは
漸く又眠りについた。
 
「皆ごめんね、起こしちゃって……、でももう大丈夫だから……」
 
……しかし、チビが見た夢はもうすぐ本当に現実になるかも
知れないのだと思うと4人はやり切れない思いでいっぱいだった……。
チビの様子が落ち着いたのを確認するとジャミル達男衆は自分らの
船室へと戻った。
 
「……何とか……ならないかなあ……」
 
ダウドがぼそっと口を開く。
 
「何がだよ……」
 
「……このままチビちゃんとさよならなんてオイラ嫌だよ……、
ずっと一緒にいたいよ……」
 
「んな事出来る訳ねーだろ!チビは竜の女王の……」
 
「わかってるよお!……例えもしそうだとしてもさ、どうにかして、
チビちゃん……、ずっとオイラ達の側に……」
 
「無理なモンは無理なんだよ!黙ってろバカダウド!
ただでさえ眠いんだっ!」
 
ジャミルはそう言うとベッドに入りそっぽを向いてしまった。
 
「なんだよお……、それでもジャミルは何か別の方法を考えようと
思わないの……?チビちゃんの為に……」
 
それまで黙っていたアルベルトが口を開いた。
 
「ダウド、もう寝ようよ、なる様にしかならないんだから、
今から色々考えても不安になるだけだよ……」
 
「……このまま、奇跡の扉なんか見つからなければいいのに、
そうしたら……」
 
そこまで言ってダウドは口を噤んだ。
 
「ごめんね、変な事言って……、オイラももう寝るよ……」
 
しょぼくれたままダウドも目を閉じた……。
 
(……本当にチビが……、竜の女王の正式な跡継ぎじゃなけりゃ
いいのにな……、けど……、どう考えたってチビは普通の
ドラゴンとは違う……)
 
どうにもならない複雑な思いはジャミルも同じなのだった……。
 
 
翌朝……、4人はチビを囲んでいつもの様に普通に朝食を取る。
 
「きゅぴっ!いただきまーす!」
 
「はい、どうぞ、チビちゃん、よく噛んで食べるのよ?じゃないと
何処かのお兄ちゃんみたいになっちゃうからね……」
 
アイシャはそう言ってジャミルの方をチラ見する。
 
「あんだよ……」
 
チビは夢中でハムエッグに被りつき、あっという間に
一枚目を平らげた。
 
「きゅぴっ!おいしーい!!」
 
「もう食べちゃったんだね、よーし、オイラのハムもあげるね、
オイラ卵だけでいいからね、いっぱい食べて大きくなるんだよ」
 
「きゅぴっ!ありがとー!」
 
ダウドがハムをチビにおすそ分け。
 
「僕のもあげる」
 
「私のも食べてね」
 
「みんなありがとー!チビ嬉しいよおー!!」
 
「……」
 
ジャミルを除くメンバーが一斉にジャミルの席の方を見る……。
 
「わかったよ、たく……、ほらよ、チビ、俺のも食えよ」
 
「うわーいっ!嬉しいよおおー!チビ幸せー!!」
 
チビは喜びながら皆から貰ったハムを頬張る。
 
「どうして皆で食べるご飯てこんなに美味しいのかなー?
チビだけで食べても全然美味しくないのにね、ふしぎ、ふしぎー!!」
 
「……チビちゃん……、そうね、皆で食べるご飯はとっても
美味しいわよね!」
 
「ぴい~っ!」
 
「……」
 
アイシャの言葉にチビが嬉しそうにお返事。この光景も、
いつかは遠い日になるのだと思うと再び4人にやるせなさが
募る……。……そして、休憩の為、船もリムルダール近くの
岸に着け、チビが昼寝を始めた午後の出来事であった……。
 
「何だよダウド、急に休憩室に集まれとか言ってさ」
 
「オホン……、それなんだけど、オイラから提案があります……」
 
ダウドが咳払いをする。
 
「何だい?」
 
「何よ……」
 
アルベルトとアイシャもダウドの顔を見た。
 
「……奇跡の扉なんか探すのもうやめようよ……」
 
「!」
 
「ダウド……」
 
「急に改まったと思ったらやっぱりそれか……」
 
やれやれと言う様にジャミルが頭を抱えた。
 
「このまま女王様のお城に行かなければ何もわかんないよ!
……これ以上オイラ達が余計な事に踏み込んだりしなければ……」
 
「……悪ィけど、その提案は受けいれられねーわ……」
 
そう言ってジャミルは速攻で休憩室を出て行こうとする。
 
「ちょっ!待ってよお……!ジャミルはチビちゃんとずっと
一緒にいたくないの!?」
 
「バカっ!……大声出すなっ!チビが起きるだろ!?」
 
「ダウド、辛いのは皆同じだよ……、だけど、このまま僕らが
チビをお城に連れて行かなければ……、竜の女王様は遠い未来の
繁栄を失うかもしれないんだよ……」
 
「も、もしかしたら……、チビちゃんは女王様と直系の
血の繋がりが無いかもしれないじゃん……、そもそも、
そんなのどうやって調べるの……?」
 
「それは……」
 
言葉が思いつかず、アルベルトは顔を伏せて黙ってしまう……。
 
「いいんだよ、んなのは城の奴らに任せとけよ、どうにかして
調べる方法があんだろ、よし、この話はもう終わりだ……」
 
「……やだよーーっ!オ、オイラ絶対……、チビを城になんか
返さないよーーっ!!」
 
ダウドはジャミルの腕にしがみ付いて抗議する。
 
「いい加減にしろよ!お前……、この間の話からやけに
自己主張がしつこくなったなあ!!」
 
「……」
 
「アイシャ……?」
 
「あ、私……、チビちゃんが心配だからちょっと様子見てくるね……」
 
「アイシャ、あの……、そのう……、オイラ……」
 
「……」
 
何も言わず、顔を曇らせたままアイシャは休憩室を出て行った。
 
「はあ~、俺……、頭痛してきたわ……」
 
「なんだよお……」
 
「みんな、落ち着こう……、冷静になろうよ……、色々あり過ぎて
疲れてるんだよ……」
 
「……ふんだ」
 
「ダウド?どこ行くの……?」
 
「頭、冷やしてくるよお……」
 
「……」
 
ジャミルの顔を横目で見ながら……、不貞腐れてダウドも
休憩室を出て行った……。
 
そんな4人の話を、いつも通り船に潜伏し、こっそりと隠れて
聞いていた者が一人……、いつもの小悪魔だった……。
 
「何やら険悪な雰囲気りゅね……、けけっ、仲間割れかりゅ……?
これはチャンスかも知れないりゅ……、奇跡の扉?……気になる話りゅ、
おっ……」
 
小悪魔の目に……、一人船を離れてダウドが何処かに歩いていく
姿が目に留まった。
 
「ビッグチャンスは逃がさないりゅよ……」
 
小悪魔はそう言って外に飛び出すと、空からこっそりダウドの
後を付けた……。
 
 
……そして、船室に戻ったアイシャは、静かに眠るチビの姿を見、
堪えていた涙を溢した。
 
「何よ、ダウドのバカ……、私だって我慢してるのよう、
バカバカバカ……」
 
「ぴい~……、うきゅ……」
 
「!チビちゃん起きちゃう……、こんな顔見せられないね、
笑顔、笑顔……!」
 
そう言って鏡の前に立ち、無理に笑顔を作ろうとするが……。
 
「……やっぱり、駄目……」
 
 
独り、森の奥へと姿を消したダウド……、その後を再びリィトと
化した小悪魔が後を付いていく……。
 
「……」
 
ダウドは森の奥に在る泉の側で……、泉に映る不貞腐れた不機嫌な
自分の顔を只管眺めていた。
 
「……最初から……チビちゃんと出会わなければ良かったんだ……、
出会わなければ……、こんなに辛い思いもしなくて済んだのに……、
だけど、もしもオイラ達と出会っていなければ……チビちゃんは今頃……」
 
そう考えて、一人俯き、膝を抱え込むと、ダウドは泉に石をほおり投げた。
 
「……いっその事……、竜の女王様のお城が……、……爆弾級の
ジャミルのおならで爆発して消飛んじゃえばいいのに……、
はあ……、何でオイラ下らない事ばっかり考えちゃうんだよお……」
 
 
ガサッ……
 
 
突如、後ろで草をかき分ける音がし、ダウドが慌てて振り向くと、
其処に立っていたのは……。
 
「……だ、誰だっ!?……あ」
 
「やあ……」
 
「リィト……?、また君かい……?本当、何処にでも出てくるね……」
 
「偶々この辺りを散歩してたら、あんたが独りで森に入って行くのを
見かけたからさ……、どうしたのかなと思って……」
 
実にいい加減な言い訳であるが特にダウドは気にせず
黙りこくったままだった。
 
「……」
 
「ん?今日は機嫌悪いみたいだね……」
 
リィトはそう言ってダウドの隣にしゃがみ込む。
 
(いいりゅ、いいりゅ……、これは最高ムードりゅ……)
 
「……大事な……」
 
「……ん?」
 
「友達と……、もうすぐ離れ離れになっちゃうかも
知れないんだ……、……どうにもならない事は頭で
分かってるんだけど……、淋しいんだよ、辛いんだ……」
 
ダウドはぽつりと呟くと再び膝に顔を埋めた。
 
「僕はね、あんたが何で悩んでるかなんて知りたくもないし、
どうでもいいんだ、だけど、あんたがどうしても何か不満な
事があるなら、強引な手段にでも踏み込むんだね、うじうじ
こんなとこで悩んでるよりは行動を起こした方がすっきりするだろ?
何でもいいから、取りあえず思いつくまま何でもやってみれば?
……あんたの気の済むまで……」
 
「……リィト?」
 
リィトはそう言って立ち上がり歩き出した。
 
「じゃあね……」
 
「……強引な……手段……」
 
(あいつの夢の中での自己中カオス面は結構凄い物があったりゅ……、
さてさて、少しだけ背中を押してやったけど……、一体何を
してくれるのか……、楽しみりゅね……)

zoku勇者 ドラクエⅢ・その後編 エピ25~28

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スーファミ版ロマサガ1 ドラクエ3 続編 オリキャラ オリジナル要素・設定 クロスオーバー 下ネタ 年齢変更

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-04-05

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work
  1. エピ25・26
  2. エピ27・28