普通の彼女に告白した彼の結末は

告白

歓迎会

「ここを、最後の会社にしたいと思います」
拓也・35才
「クスっ」
美咲早苗・29才は、頬を少し赤らめて笑みをこぼした。
平成・10年・春
「今度・中途入社で入社してきた、藤原、俗に言う・シュガー社員じゃないか、工場長もよく採用したな、どうせ、すぐやめるぞ」
50代になる、課長の怒鳴り声が事務所に響き渡った。美咲早苗は、1ヶ月前に、知人の紹介で入社してきた。大学を出て、中堅の企業の経験を買われての、採用である。歓迎会の席。
「私も・がんばります」
早苗と拓也は、テーブルを挟んで向かい合って座っていた。早苗の隣には、今年短大を卒業して入社してきた、女性が座っていた拓也は、ほろ酔い気分で、この女性の新卒で入社してきました。宜しく・お願いしますと言う言葉が、脳裏に焼き付いていた。
「あの・美咲さんも今年卒業で」
「えっ」
早苗と拓也のふたりが初めて交わした言葉であった。
早苗には、気になる存在。と、一言早苗に言葉をかけた拓也は、みんなの輪の中に去って行った。藤原拓也、たしかに、俗に言う・シュガー社員かもしれない。しかし、ダテに転職を繰り返していたわけではなかった。
九州は、福岡県の北九州市の町外れにある、自動車の部品を作っている会社。これまでに、派遣や下請けの工場で働いていた拓也は、給料の少なさにやりがいを見つけられなく、幾度の転職をはかり、自分をレベルアップしていた。この会社を選んだのは、ボーナス4ヶ月、これに決まり。まさか、採用されるとは夢にも思っていない。工場長は、この業界は、入ってからが勝負だと言う。
「工場の扉は広く開けています。しかし、入社してからは、きびしいですよ」
しかし、拓也は、歓迎会が終わり日曜日が過ぎ、月曜日に仕事を、風邪が理由で休んだのであった。拓也は、職安にやってきていた。食品工場の仕事に応募しようとしていた。株式会社・ミノダ製作所での仕事は、部品のバリ取り作業。嫌になった訳ではないが、面接を終え帰宅した。翌日・会社へ出勤した。三日後、親友の井田克弘から電話があった。
「どうだった。面接は」
「家へ電話が会社からあったみたいだが、留守してたんだよな。ハガキで不採用だったよ」
「あそこの会社は、電話した時にいないと、採用を取り消すんだよな」
「そうか」
翌日、会社へ出勤してきた、拓也の作業着の胸ポケットには、退職願いの封筒が、しまってある。
「あの・課長・話があります。時間は空いてますか」
「なんだ」
「会社をやめます」
「そうか、で、次の仕事は決まったのか」
「いえ」
「だったら、もう少しがんばってみないか」
哲也は、前日の会社の不採用でもあり。
「そうですね、また、がんばってみます」
課長は、拓也の言葉に、とまどったが、退職願いを受け取るのをやめた。また、現場に戻って仕事をしていた。高卒の拓也は、現場で工員として働いている。早苗は、パソコンのスキルや大卒での経験で現場ではなく、管理課で生産管理の仕事をしていた。たまに、事務所から、出て行く姿を遠くから、眺めていたが、会社で顔を合わせる事は、殆どなかった。しかし、早苗の部署では、風変わりな哲也の行動は、会話のネタになっていた。とは、拓也は想像もしてなかったのである。拓也の現場では、不具合が発生していた。

   係長のプロポーズ

「ここ、バリが残っているだろ」
リーダーの怒鳴り声が、工場内に響き渡った。拓也は、ハイとうなづいてはみたものの、何を言っているのか理解に苦しむ。現場では、バリ残りの不具合が、メーカーで発生していて、社内の在庫のチェックが行われていた。拓也も、検査・修正に追われていたが、見よう見まねで作業をやっている。会社から、五名が四国の高知県に、メーカーでの在庫の検査に抜擢されて出張する事になった。拓也も、メンバーに加わっていた。拓也は、生まれてから初めての、仕事での出張に、ワクワクしていた。五名は、リーダーの車で、明日の夜明けと共に出発である。現場へ到着すると、今日は、旅館に泊まり、明日はメーカー内での在庫の検査に追われるその日は各自、部屋でくつろいだ。‪翌朝・目が覚めると、昨日の晩はやたら、どこかの部屋で一日中テレビの音が大きくて寝付けなかったと、リーダーのいない時に話題になった。‬‬‬‬原因は、リーダーの部屋であった。‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬
「あの、リーダー知ってるか。たまに、会社で休憩前になると、便所に行くけども、十分はやってるぞ。あのリーダーには、腹が立つよな」
現場に到着した。拓也らは仕事にとりかかった。
そこで、拓也は作業をやりながら、不具合の状況を把握した。
「これが、原因か」
不具合を出したのは、拓也が原因であったが、この事は、胸の中に閉まって置くことにした。2日間の在庫の検査を終えて、無事会社へと帰ってきた。拓也は、成人式を迎えたばかりの、金村鉄平と仲がよかった。今日は、鉄平と、女に目のない同僚と三人で、繁華街に飲みに行く約束の日である。若い2人は、軟派目的であった。35才になる拓也はこれまで、軟派などはやった事はなく、これから起こる出来事にチョッピリ期待していた。三人は、まづ居酒屋に出向いた。ジョッキーで軽く一杯を飲み干した。鉄平の目は、向のテーブルに座っている女性に釘付けになっていた。様子を伺っている。拓也は若い2人の、ひそひそ話を聞きながら、なんか行動に出るのかなと期待していた。しかし、‪一時‬間が経過し女性たちは帰っていった。拓也らも店を後にした。今度は、2人はテレクラに行くらしく、車を降りて電話している。‬‬‬拓也は期待に胸を膨らませていたが、結局・軟派出来ずに戻ってきた。三人は、夜の繁華街を後にした。拓也には、彼女はいない。彼女と付き合うよりも、パチンコ三昧の日々を送っていた、‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬ 入社から、半年あまりがあっという間に過ぎていった。‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬
美咲早苗とは、週に一回程事務所から出て来るのを目撃する位であった。拓也らが、休憩所で休んでいると、同僚が話のネタをもってきた。
「おいっ・事務所の美咲さんが係長の、プロポーズを断ったんだとよ」
拓也は、あの女性の話しかと、上の空で聞いていた。翌日、ひとりで、工場の外で黙々と仕事をしていると、例の美咲早苗が横を通り過ぎていった。独り言なのか
「かわいそう」
と言う声が耳に入った。しかし、気にせず仕事に没頭している拓也であった。終了間際に、拓也は事務所に用があり、入り口の扉を開けようとしたら、女性陣の話し声が聞こえてきた。
「係長の、プロポーズ断って」
早苗の声が聞こえてきた
「やがて、30と言っても、誰でもいいわけではないわ」
「じゃ何・玉の輿、狙ってるの」
「ガチャン」
「あっ失礼」
拓也と早苗の目が合った。入社してから半年振りに声をかけた。
「お疲れ様」
週末は、別府への社員旅行である。

   社員旅行

工場の入り口で、キィーという車の急ブレーキの音が響き渡った。美咲早苗の登場である。みんなは、バスの中でひとり遅れていた、早苗を待っていた。「早苗嬢の到着です」拓也は、工場長の嬢を付けた言葉に、笑いを吹きだそうとした。「嬢なんて、ソープランドに女でもいるのかね」バスは、15分遅れで発車した。拓也は、缶ビールを開けた。突然・高校の修学旅行を思い出した。拓也は、バスに酔いつぶれて、散々な目にあった高校の思い出であった。‪一時‬間程経ち、トイレ休憩という時に、拓也は気分が悪くなった。バスの停車と共に急いでトイレに駆け込んだ。次の予定は、昼飯をいただいてから、大人の秘宝館の見学である。入り口から入ると、映画を上映していた。拓也が、中へ入ろうとした時に早苗達・女性陣とぶつかった。拓也と早苗の目が合った。その先の映画では四十八手が上映されていた。拓也は、照れくさそうに中へ入らず去って行った。どうも、美咲さんと目が合うといかん、背が小さいせいか、見上げる眼にドキッとするのであった。ここを後にして、土産物屋に立ち寄り、 ‪6時‬までは自由行動となった。拓也は、部屋で・アダルトビデオを鑑賞していた。宴会になると、副社長とやらも来ていた、会話をする事はなかったが、なんか、立派に写った拓也であった。抽選で、バスタオルが当たった拓也は、隣に座っていた早苗に、「これ・プレゼント」と言って渡した。「ありがとう」言葉を交わすことはなかった。‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬
宴会が終わり、各自・自由行動となり、拓也達七人は、夜の別府の繁華街ではなく、パチンコ屋に出向いた。
藤森さんが、わずか‪一時‬間で五万の大勝ちである。七人は、藤森さんの一声で‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬
「寿司だよ・トロを食べに行くか」
みんなは、賛成して寿司屋のノレンをくぐった。七人は、トロという寿司を深く味わいながら、しみじみ幸せな気持ちで口にした。おまけに、フグ刺を食べたのだが、みんな贅沢に、味はイマイチだな。拓也達一向は幸せそうな笑顔で、ファミレスで、コーヒーでもいただこうかとなった。受付にいると、向こうから早苗達女性陣がやってきた。「えっ・トロ・いただいたの」
早苗はびっくりした顔で叫んだ。
「これから、私達も連れて行って」
すると、藤森さんが
「拓也、おまえも少し稼いだろ、おごってやれよ」
拓也も、二万位勝っていたのだが、愛想のない声で、
「もう、寝ますよ」
すると、早苗が
「じゃ、カラオケに行かない」
拓也は
「俺は行かないよ」
みんなは、とりあえず、コーヒーでもいただくかとなった。拓也の隣に早苗が座ってきた。藤森さんが
「おいっ拓也、どうしたんだ」
拓也の額から汗が、ドクドクと流れ落ちてきた。拓也は、なにか知らないが、汗が流れ落ちる。そこへ、早苗が、ハンカチを差し出した。早苗から、恋のオーロラが出ていたのだろうか。拓也は、この時は想像する事も出来なかった。恋の予感であったのだろうか。

    噂

社員旅行も終わり。また忙しい仕事が待っていたが、拓也のやっている部品の生産がやがて生産中止になるらしい。拓也達は、リストラでもあるのかなと噂していた。
「この、弁当屋の弁当はあまり、おいしくないな」
拓也は、昼休みの食事時間が唯一の楽しみである。そういう意味では、会社に食堂がある、社員食堂にはいろんな思い出があった。そんな、愚痴が言いたくなってから数週間が経過して、拓也は弁当の替わりに、パンをコンビニで牛乳と一緒に持ってくるようになり、ロッカー室に入れとくのは、腐るかもしれないので、エアコンの効いた食堂のテーブルに置いていた。
「これっ誰のパン」早苗は言った。
毎朝・食堂の清掃を仕事を始める前にやるようになった女性陣は、毎日、置かれているパンは誰のと。それも、毎日同じチョコレートパンは必ず買ってきてある。すぐさま、犯人は拓也だと、わかった。拓也は、久しぶりに事務所に用事があり入り口を開けた。そこには、美咲早苗が一人机に座って仕事していた。
「藤原さん、チョコレートパンばかり食べてると太るよ」「いや、会社の弁当よりいいよ」早苗と拓也は、入社してから、やがて一年。2人は、初めて会話らしい話を交わした。
「美咲さん、朝礼で二等級に給料の査定が上がったね」「俺は、学歴もないし、退職するまで一等級かな」「会社なんて、実力主義よ、がんばれ」
その日、拓也は珍しく‪2時‬間の残業をやっていた。もう、‪7時‬だと外は暗くなっていた。拓也は会社の玄関の前の駐車場へ向かっていた。その時。拓也の第六感、いや、テレバシーなのか。工場の横から誰かの足音が聞こえていた。突然、拓也の口から‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬
「美咲さん、音楽好き」そう、聞こえてきた足音は早苗であった。
早苗も残業していたのだ、帰りが同じ時間になったのも偶然であった。拓也の口から、まったく、意識してない言葉を発した。
「これっ・リックマーティンの・アチチ・郷ひろみよりいいよ」
拓也は、車の中にある、音楽CDを探していた。早苗は、あっけにとられて、拓也の車のドアに立っていた。
「これ、あげるよ」「ありがとう」早苗は、この・CDはどうでもよかった。拓也の口から、郷ひろみの言葉を聞くとは、思ってもいなかった。早苗は、ひろみの大ファンなのである。もう、必ず・コンサートには行くし、ディナーショーだって足を運ぶ熱の入れ方であった。そうとも知らない、拓也であった。拓也は、すぐ、車のドアを閉め、帰って言った。思わぬ・拓也からの・プレゼントに早苗は、うれしいというか、少し・拓也の事が、気になりはじめたのであった。翌日、拓也が仕事をしていると、早苗が横を通ってきた。拓也は声をかけた。
「昨日の・CD、‪郷ひろみ‬より、よかったでしょう」‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬
早苗は、「でも、私・ひろみの・ファン・でも、全部の曲がよかったよ」拓也は、カラオケで、ひろみの歌は得意としていた。レパートリーでもあった。「何が一番好き、俺は、マイレディ」「私は、バラード」しかし、拓也は、この後、何も行動を起こさなく、やがて、3ヶ月が経とうとしていた。
「おい拓也、品質の仕事をやらないか」
年配の長居さんが、声をかけてきた。拓也はこれまで、工員のような仕事しか経験がなかった。といっても、現場での製品の検査であった。しかし、一応・身分は品質管理部である。工場にとっては、命の部署である。拓也は朝から夜まで自分で、フォークリフトを使って製品を降ろし検査をやっていた。一日の仕事が終わると、その日の日報を事務所にいる早苗に提出する。拓也は毎日、早苗と顔を合わせ、会話するようになった。
「それじゃ、帰ります」
「えっ、もう帰るの」
拓也は、‪5時‬の時報と共に早苗に日報を渡し退社していた、‬‬‬これからは、閉店まで、パチンコである。今日は、朝から事務所に、早苗がひとりいた。‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬
「拓ちゃん、焼肉行かない」
「じゃあ、今度、招待するよ」
「うん・ありがとう」
「じゃ、来週の土曜日に」
「OK」
拓也は、長居さんからいろいろ仕事を同行して教えてもらっていた。毎日、残業の日々が続いていた。今日は、早苗さんとの約束の日である。朝から、事務の女性が休んでいた。お父さんが亡くなったそうである。
拓也は、‪4時頃‬、早苗に用事を作って事務所にやってきた。‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬
「早苗さん、今日大丈夫」
「今日は、佐藤さんのお父さんがなくなってたいへん。私、凄く行きたいけども今日は駄目。キャンセル」
拓也は、葬式じゃ仕方がない。しかし、この時、ふたりの運命は、変わっていたかもしれない。
数日後
「拓ちゃん、最近、どうしたの」
早苗は拓也に尋ねた、
「最近、仕事が面白いんだ」
「がんばれ」
よく、会話をしたり、お互い、誘いもかけるのだが、一向に恋は進展しそうになかった。しかし、拓也は、生まれてはじめての、やりがいというものを見つけたようであった。
世間では、携帯電話なるものが、いろいろ姿を見せ始めていた。拓也も、仕事上で必要になっている。電話と、メール機能がついた機種を選んで買ってきた。早速、やり始めたのは出会いサイトであった。この頃は、現代に比べたら純粋に会話が成り立ってもいた。拓也には、彼女はいない。メールといっても、100文字数での会話のやりとりであった。拓也は、会社では、パソコンを使って、同僚の女性陣達との会話を楽しんでいて、メールの会話は慣れていた。そんな中で、ある日、携帯の電波を通して、大阪にいる、理佳という女性と知り合った。
なんでも、沖縄の海でのスキューバーダイビングが趣味という事で、拓也は苦労しながら文章を打ち込んでいた。最初の頃は、毎日のメールのやりとりがあったが、数ヶ月続いて、だんだん返事が来るのが遅くなってきてやがて、メール交際も終わった。そんな、矢先に会社の女性から、パソコンでの・ポストペットなる・メールでの楽しみを教えられて、ある日。なかなか、相手の異性から誘ってくるのは至難の技であったが、福岡に住んでいる、23歳の看護婦さんから、よかったら、メル友になって下さいとなったのだ。拓也は、毎日・原稿用紙・5枚程度に書いてくる文章の長さに圧倒されていた。
会社でも、拓也のメール病は有名であった。数日経って、拓也は会社の事務所にやってきた。そこには、早苗がいた。パソコンの画面を叩いている早苗の近くにやってきた。
「拓ちゃん」
「そのうち、パソコンから、彼女がやってくるかもね」
「うん」
拓也は、毎日、早苗を恋愛相手に想像した事はなかった。仕事の方は、順調で出世には縁がなかったが、会社の顔として外回りでの仕事が多かった。メル友相手とも、携帯アドレスを交換したり楽しんでいたが、拓也には、ただの、話相手という意識しかなかった。最近、会社で、早苗の姿をみなくなった。殆ど、社内にはいないので見当たらないのか、そこへ、同じ部署の藤森さんがやってきた。
「最近、美咲さん見ないですね」
「あ、風邪で3日ばかり休んでいるよ」
拓也は心配になってきた。
仕事で移動中に、早苗に電話してみた。
「早苗さん、風邪はこじらせると、やばいから気をつけて」
「うん」
と、一言電話した拓也であった。その後、早苗の風邪は悪化して、3ヶ月の入院となった。
しかし、拓也は、連日。出張が続いて、見舞いにいけないでいた。いそがしさから、やがて、看護婦さんとの、メールもやめていた。早苗が退院してきても、拓也は今度は、長期に渡る出張で会社には、殆ど姿をみせなかった。そんな折、藤森さん達と、飲み会に誘われた。いきなり、話は、早苗さんの事になった。
「なんでも、早苗さん、会社の人と結納をかわしたとか」
「そうなんですか」
「拓也も、がんばらないとな」
この時、拓也は、そうかと感じただけであった。翌日、早苗を見つけたが、声はかけなかった。数日後、拓也は事務所の外でバッタリ顔を合わせた。とっさに、拓也の口から、美咲さん
「携帯の番号を教えて」
「うん、いいよ、でも、変な電話しないでね」
「それは、わかってるよ」
二人は、番号を交換した。
拓也は、結納は、ただの、噂だったのかなあ」
早苗に、尋ねたりはしないでいた。

告白

告白

この頃、いろいろな方とのメール友達にはまっていました。彼女の加入しているのは、ショートメール。拓也は、自分の経験から、男性と女性は、メールや携帯を通した出会いは、むづかしい。はじめてのコール。直接電話すれば、同僚のままでいられたかも。その後、彼女と会話しなくなり、一方的なメールになってしまいました。タイムマシンがあるなら、この時に、もう一度もどりたい。本当は、彼女と出会いたくなかった。こんなに、好きになるとは。 
「君の事が好きで好きでしょうがありません」
そして、返事がきました。
「会社の同僚としか思っていません。もうメールしないで下さい」
そして、次の日から今まで、彼女との会話。テレパシーであるかのよこうだった会話を出来なくなりました。拓也は、ソッポを向かれてしまった。入社以来、仕事はせいいっぱいがんばってきました。でも、頭の中は毎日彼女の面影でいっぱい。彼女に、恋人がいるのかどうか知りません。この時、妄想である病気は完全に治っていました。21世紀の新年を迎えてただの同僚だった拓也を変えたのは、彼女の一言からでした。
ある日、彼女と顔を合わせたら「拓ちゃん」
彼女、俺のこといつの日からか、
「拓ちゃん、拓ちゃんって」呼んで来るようになりました。
「コーヒーおごって」
一杯、ごちそうしました。その後、頭の中の閃きは彼女へ差し入れしたり、会話したりと、顔を合わせれば彼女を捕まえていました。彼女が思わせぶりな性格かなあと思ってたら、案外、拓也の方かもしれません。あと一押ししないんです。彼女よりも、仕事でがんばる事のほうが強くて、彼女がどうしても、ほしくなった時。ちょっと、遅かったようです。アプローチのはじまりは、
2年程前のダイエーホークスが初優勝した時からでした。彼女に、チケット買いに行くから君も行く。
「うん、2枚買ってきてって」
ダイエーホークスの大ファンなんです。チケット発売の日、有休をとって公衆電話の前に6時間ねばりました。
もちろん、彼女とふたりで行く為に。第7戦目に、アクセスできましたが、結局取れませんでした。この時、彼女の心を少し揺るがした気がします。チケット買いに行く前日の日彼女に、2枚買ってくるよといったら、
「あ、どうしようどうしようって」
「龍ちゃん。返事、あとでいい」って、そのあと、ほったらかしにしてしまいました。なんで、彼女と顔を合わせると、あと一押ししないんだろう。あと一押ししていれば、この先、こんなに悩む事はなかっただろうと思います。彼女は、会社を、3日休んでいて拓也は、
彼女へ電話しました。
「風邪だいじょうぶですか。こじらせるとやばいから体調に気を付けて下さいと」
その後、彼女、2ヵ月程入院してしまいました。見舞いに行きたっかたけども、とうとういけなかった。退院後、私は、広島、大分、倉敷、福岡と出張ばかりの日を送っていました。会社に、帰ると彼女へ、おみやげを買っていきました。
「いつも、ありがとう」って言って、受け取ってくれました。広島のお好み焼き、広島のお酒、大分のプリン、福岡の明太子私は、この時、やましい気持ちは、全然ありませんでした。どうしても、彼女に食べてもらいたい気持ちでいっぱいでした。そして、数日後に
「会社の同僚としか思っていません」
人生、最大のあやまちをやってしまいました。その後、彼女はとうとう私に笑顔を見せてくれませんでした。
仕事の方も、凄い仕打ちが待っているとは、正式に品質課の一員になって、やる気をだしてがんばっていたのに、不景気の影響もあって、品質課から加工課へ飛ばされました。又、一から出直しです。拓也も、彼女へ近づく事が出来ずに、もう、彼女の存在に耐えられなくなっていきます。ある日、薬を貰いに病院にうかがった時です。何気なく、先生に自分の病気は何ですかと尋ねてみました。
「精神分裂病」
この言葉を聞いた時に、全身の力が抜けていくのを感じました。次の日、会社に行っても仕事をする力がでてきません。それで、2日程休みました。そして、会社の上司に、病気の事を隠さずに打ち上げました。これで、又、退職かあと思っていましたが。みんな、あっさりと受け入れてくれました。このあと、異動があったので、「?????」本当は、仕事はどうでもよかったのです。ただ、彼女に対して凄いあやまちをしてしまって、

     拓也の気持ち

この世から消えても好きな気がする
でも、こんなに好きになって
やばいよなあ
男と女って片思いで
こんなに好きになるのかなあ
違うと思いたい
俺の知ってる人と君が
結婚でもしたら俺どうしようか
君の前から完全に
姿を消すしかないね
だって、耐えられないから
やってみたい仕事あるし
俺、営業の仕事
やりたいんだよ本当は
好きだから
君と俺
あの日から会話してないからんな事に
なってしまった
君も笑顔見せなかったけども
俺も君に対して
笑顔みせてないものね
俺、毎日
君の事ばかり考えてるから
元気いっぱい
連休明けから
秒読みにはいるね
辛い日々が
又、はじまる
絶対
掛ける勇気ができない
携帯の電話番号
君からもし掛かってきたとしても
受話器にでる勇気は
沸かない
この会社に入社しなければよかったよ
こんな事になるなんて
人生最大のあやまちだった
拓也の決断
拓也は、埼玉県へ自ら希望して転勤を希望し受理された。失恋の傷を癒すためである。そして、手紙を旅たつ前に送った。親愛なる君へ
お手紙貰って、嫌がる人はめったにいないと聞いて、書いてしまいました。先日、お手紙差し上げました。その時に本当は、同じ手紙を作業着の胸ポケットに持っていました。当日、会社の事務所に‪1時‬間程、早苗さん来てましたが、昔の私だったら直接渡していたと思います。‬‬‬でも今の自分には、早苗さんに面と向かって言う事ができません。自分にとっては、‪1時‬間が24時間にも思える程の長い時間に感じました。‬‬‬どんなに相手の人が好きでも、自分の気持ちを素直に伝えない事には、先に進む事が出来ません。いつ頃から、こんなに早苗さんを好きになってしまったのか。ファームランドで、一緒にパットゴルフやったけども、あの時は恵子さんと同様に、なんてうるさい女性だろうと思ってました。この時に、得意の転職してたら、こんなに苦しむ事はなかったかも。別府に社員旅行に行った時に、ファミリーレストランで一緒になった時、冷や汗がダラダラ出たのが脳裏に焼き付いています。この時からかなあ、でも、いつも仕事している横を通って「かわいそう」と言って通り過ぎる、浩美さんを見て、嫌な女性だなあと思っていました。今から、3年程前、ダイエーホークスが初優勝した時。浩美さん、「いつもチョコレートパン食べてたら太るよって」、話してたっけ、あの時からよく話すようになって。俺、本当は、日本シリーズのチケット取れたら、早苗さんと二人で行くつもりでした。いつの間にか、気がついたら無茶苦茶好きになっていました。だって、好きなタイプの女性なんだから。‪都はるみ‬の、「惚れちゃたんだよ」じゃないけども、たかが女といっても、惚れてしまったんだから、しょうがないじゃない。‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬知り合ってから、4年半、今日になってもう我慢出来なくなってしまいました。そんなに好きなのに、希望して埼玉に行くなんて、バカだよなあ。うまく交際する事が、出来るとでも思ったのかなあ。早苗さんを幸せにしたくて、行こうと本当は思いました。早苗さんの顔と、女優の藤原紀香の顔が俺。ダブって見えるんだけど。観てましたか、1年位前の金ドラ。しがないピアノ弾きが、歩道橋の上を歩いて来るのを、待っていた紀香ちゃん。その顔の表情が、早苗さんにそっくりでした。早苗さん背が低いせいか、俺見る時に見上げたり、小さくうつむいたり、あの表情の写真撮ったら、優秀賞取れる様な気がします。この会社に入社して、4年半、俺、厚い辞書に書いても足らない位の、思い出がいっぱいあるよ。早苗さん、凄いと思ったのは、いつだったか大雨が降ってた日に、雨を利用してたの見てて、感心しました。拓也は、昨日、手紙で繁華街の手前にある公園に、待ってますと手紙を書いたが、とうとう来てはくれなかった。あの日から、半年間。とうとう、会話する事はなかった。飛行機は、東京は羽田に着いた。‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬

手紙

好きか嫌いかどっちかだと思います。もし、好きなんだったら、絶対この先、俺の人生成功すると思います。だって、早苗さん。落とす事に成功したから。男と女って、付き合うまでが、一番たいへんなんじゃないかなあ。俺、早苗さんを好きになった事で、いっぱい勉強になったよ。もっと、人生を生き抜く為に、勉強したいけども、この先は、俺、経験したことないから。もう、頭の中に早苗さんの面影が、焼き付いてしまったよ。今日は、こんな事書いてるけども、昨日はなかなか寝付けなかったよ。早苗さんの事。いろいろ考えていて、涙がいっぱい出てきたよ。もう、俺、早苗さんじゃないとイヤだよ。早苗さん、御免なさい。埼玉へ来て、何度も会社やめようかと思ったけども、なんとかがんばっています。別に、やましい気持ちはないし、ただ、知り合ってから、俺、早苗さんの顔見ると、疲れがどっと取れるような感じで、気持ちを手紙にぶつけてしまいました。きっと、いっぱい早苗さんに、思いを告げたのは、失いたくなかったからだと思います。不器用な表現だったけども、ひょっとしてと思って、赤い糸をたぐったんだよ。でももう、生きる力が湧いてきました。知り合ってから。5年に及ぶ間、とても充実した会社生活を、送る事が出来ました。ありがとうございました。りんごの話ししたのが、最後の会話だったね。サラリーマンで、会社勤めしている以上は、向上心を持って仕事をして行きます。自分の人生は、自分で切り開いていかないといけないので、この会社で、あと20年無難にやっていくのではなくて、毎日をせいいっぱい生きていきます。とにかく、思いついたら、即行動する事によって、人生は思うようになると信じています。いつの日か、もう一度、早苗さんの顔が見たい。ずっと、元気でいて下さい。

ラブレター
敬具

拓也は、抑えられない彼女への衝動を必死に我慢していた。このままでは、病気になってしまう。とにかく、ストレス発散。その、影では、普通通りの人間関係を営んでいた。すべて、自分の心と葛藤している。そんな、矢先に、NHKの・のど自慢がやってくるらしい。拓也は、応募した。選曲は、‪郷ひろみ‬の・素敵にコンプレックス。‬‬‬拓也の脳みそが爆発したのだろうか、予選出場のハガキが届いた。2週間後の日曜日、そして、この日は、彼女の誕生日である。拓也は、とにかく返事の来ない手紙を、出した。ステージで、「今でも・好きだと・わめくつもりなのか」‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬
しかし、予選までで、本出場には選ばれなかった。ついでに、愛を歌った、音楽CDを買ってきて、彼女宛に送った。それから、一ヵ月後、拓也は、これが最後だと手紙を送った。そして、2週間後に、受け取り拒否で返ってきたのだ。拓也は、これで、もう、彼女を追いかけるのはやめる。手紙もやめる。あれから、2年が過ぎたな。
拓也の、目から、大粒の涙がこぼれてきた。そして、けじめをつけようと、便箋を買ってきた。拓也は、届かない、ラブレターを書いた。
「ラブレター」
早苗さんへ、又、君の家のポストの中に投げ込んでしまいました。君から見れば、銀河の彼方よりも遠い果てに僕は存在するのかもしれない。だけども、僕にとっては、君の唇に届きそうな存在なんだ。僕は君の家から1500キロも離れた所で生活しています。君の事を忘れようと思って、転勤を志願してしまったけども、大事な物を田舎に忘れてしまった気がします。たった、10秒だけ携帯のボタンを押す勇気があれば、君の声が聞けるかもしれない。でもダメなんだ。僕にはそんな勇気がないや。もう、君の事が好きで好きでしょうがないんだ。
どうして、こんなに君の事が好きになってしまったのだろうか。遠い遠い昔に結ばれていたのかもしれない。この会社にこなければよかった。君にも出逢う事は永遠になかったかもしれない。僕の頭の中には、君の一番魅力的な瞳が、脳裏に焼き付いていて、離れないんだよ。
俺、君にこんなに手紙書くのは、もしかしたら、俺の言葉を待ってるのかなあなんて、思ってしまうからなんだ。俺、君の事はあまり知らないけども、俺、君のかわいい、しぐさに惚れてしまったんだなあ。君の魅力を書いたら、分厚い辞書にも収まらないや。もし、神様が存在するならば、なんで君に出逢ったのかなあ。人生最大のあやまちをする為かなあ。やっぱり、永遠に会社の同僚だったらよかったね。こんなに、君の事で苦しむなんて、俺にはメールで「君の事が好きです」と伝える事がせいいっぱいなんだ。でも君に出逢った事で俺、転職ばかりしてたのに、7年もがんばる事ができたから、やっぱり君と出逢ってよかったんだね。満足、満足。こんなに一緒に暮らしたい女性に出逢ったのは、はじめてかもしれないや。もしも、もう一度逢うことがあったら、知らん振りしていようね。大好きな早苗さんへ。これで、悔いは残らない、近くのポストに投げ込んだ。
 拓也は、抑えられない彼女への衝動を必死に我慢していた。
このままでは、病気になってしまう。
拓也は、彼女に思い切って電話した。
しかし、留守電であった。
とっさに、クリスマスの日に、北九州は小倉のホームで待ち合わせの
伝言をした。
拓也の血管が波を打ってくる。
冷静に、この2年間を思い返した。
こんなに、悩む必要があったのだろうか????
失恋なんて、ものは、星の数ほどあるのが、世の中である。
たかが、女性ひとりに、こんなに、溺れるなんて。
拓也は、上司に強引に有休をお願いした。
やがて、正月の連休なのに、一週間前から休みをとった。
新幹線の中、はたして、来てくれるだろうか。
思いあぐねたが、これで、拓也の恋も白紙にもどしたかった。
また、新しい恋に挑戦だ。
新幹線は、小倉の駅のホームにはいりかかった。
窓から、ホームを見渡すがそれらしき女性は見当たらない。
拓也は、2年間の出来事を走馬灯のように頭をめぐらせた。
やっぱり、こなかったか。
改札口」までやってきた。
なんか、拓也は、自分を自分に大声で笑った。
「拓ちゃん」
なんか、空耳か、はたまた幻聴か、拓也を呼ぶ声が聞こえた。
そこには、早苗がたっていた。
「拓ちゃん、どうしたの、あんなに、手紙を書いて」
「一言、電話すればいいのに」
「知らない仲じゃないじゃない」
「あたし、いつ、電話するかと待っていたのに」
拓也は、その場に、座り込んだ。
俺は、何を悩んでいたのだろうか。
「焼肉・食べに行きますか」
「そうね」
思えば、焼肉から始まった、拓也の恋であった。

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普通の彼女に告白した彼の結末は

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登録日
2024-04-03

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