豊臣秀吉が異世界で無双系姫騎士やるってよ〜天才が馬鹿に操られながら秀才と戦ったら可笑しな事になった〜

ムソーウ王国第三王女『オラウ・タ・ムソーウ』に転生した『豊臣秀吉』は、敗戦し壊滅したマッホーウ法国の救援要請を受けて謎の元弱小国エイジオブ帝国と合戦する事になった。
だが、肝心のムソーウ王国とマッホーウ法国がファイアーエムブレム無双やDOGDAYSシリーズの様な戦い方をし、階級が部将以上の将校全員(例外無し)に戦国無双2のプレイアブルキャラクターに匹敵する戦闘力とファイアーエムブレム無双風花雪月やDOGDAYSシリーズの様な戦技か魔法の修得が必須な為、、戦略と戦術が致命的に幼稚化していた……
果たして、前世である豊臣秀吉の記憶と知識を頼りに戦うオラウはエイジオブ帝国に勝利する事が出来るのか……

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第1話:不足尽くしの強国

前回のあらすじ

太閤豊臣秀吉は跡取り息子である秀頼の誕生を大いに喜んだ。
しかし!
この時秀吉は既に58歳。
秀頼が立派に元服する姿を見届けるにはあまりにも遅過ぎた……
そこで、秀吉は優秀な家臣の中から五大老や五奉行を選抜し、秀頼と豊臣家の今後を託して息を引き取った……
享年62歳……

へべく……

ん?……
ワシの目が開く?
何故開く?
ワシは死んだ筈では……
それに……ここはどこじゃ?
天井も……何じゃこの柵は?
牢の割には上ががら空き―――
……
何じゃこれは!?
これがワシの手!?
まるで赤子ではないか!?
ワシは何時の間にこんなに手が縮んだんだ!?
それに……足が上手く動かせん!
何かの束縛を受けていないのに足が動かんとは……
まさか……足も縮んだのか!?
そうじゃ!起き上がる事ぐらいは出来る筈じゃ!
……あれ?……
頭が異様に重いぞ?……
まるで横になって寝る事しか出来ない赤子になったみた……
……はっ!
無い無い!それは無い!
その様な妖術が在るなら既に他の誰かが使っておるわ!
あーははははははははは!
……
そんな冗談を言ってる場合じゃないぞ。
この様な手足でどうやって動けと言うのじゃ?
む?
誰か来た?
「産まれたか?」
「はい。もうお抱きなっても大丈夫です」
う……
産まれたぁー!?
ちょっと待て!
ワシは本当に赤子に戻ってしまったと言うのか!?
そんな馬鹿な!何かの間違いじゃ!その様な異様な妖術がこの世に在る筈が!
それに、ワシを持ち上げようとしている者の姿、どう視ても南蛮人か紅毛人だぞ!
「して、我が子の性別は?」
「姫君にございます」
「娘か」
姫君ぃー!?娘ぇー!?
ワシは男だぞ!
こやつら何処に目を付けておるのじゃ!
「で、陛下、お名前は?」
「名か……」
ワシは秀吉じゃ!関白・大政大臣の!
信長様の許で働き、必死に戦果を稼いで、必死に登り詰め、太閤として死んだ!
つまり、このワシがこんな所で赤子となって女子となって……何を言っておるのじゃワシはぁーーーーー!?
「……オラウ・タ……今日からこの者をオラウ・タ・ムソーウと呼ぼうぞ」
何で……
どうしてこうなったあぁーーーーー!

どう言う原理なのか……
かつて豊臣秀吉だった私は、ムソーウ王国第三王女『オラウ・タ・ムソーウ』に産まれ変わった……様です……
……本当に……どう言う原理……
ま、私をあのままにしていたら、間違いなく病に殺されていたので、まぁ儲けもんと考えてオラウとして生きていこう……
……と思ったのですが……
このムソーウ王国の軍隊……何か変です。
私が聴いた話だと、このムソーウ王国は常勝無敗の無敵の強国……だ、そうですが……
|豊臣秀吉(わたし)が視た限りだと、|祖国(このくに)は常勝軍団が常備するべきモノが1つも無いとしか言えません!
なのに|祖国(このくに)が常勝軍団を維持し続ける事が出来るのは、階級が部将以上の将校全員が……まるで作り話に出てくる一騎当千の様に強過ぎるからだ!
どうやら、|祖国(このくに)の軍隊の階級は対象者に鬼の様な強さを求めておる様で、例え貴族や大臣、王族関係者であろうと定められた強さを下回った時点で例外無く部将未満に降格させられる決まりです。
それが……|祖国(このくに)の戦略や戦術を真っ直ぐで幼稚な御粗末な体たらくに変えてしまった……様です。
ま、1人で数十人の敵を何度も木の葉の様に吹き飛ばせる化物が大勢いると、かなり油断したらそうなりますわな……
が、これがヤバい!
こんな獣の様な大昔な戦い方を続けていたら、|豊臣秀吉(わたし)が|祖国(このくに)に来るまでに見たり聞いたりした戦上手の思う壺だ!
間違い無く!
幸い、私にはまだ前世である豊臣秀吉の記憶や知識が有る!
これを活かせば、いずれは|祖国(このくに)の戦略や戦術は徐々に改善する!……筈……多分……きっと……
と言うか……豊臣秀吉の記憶を|祖国(このくに)の戦術に吸収させる為には、この私が部将以上の将校になって部隊を率いないと!
……私はまた覚える事が増えてしまった……
礼儀作法、語学、音楽、乗馬、ダンス、歴史、文学、芸術……
ただでさえ覚える事が星の数程あるのに……

私は14歳になった。
そして……私の太刀筋を弓矢や鉄砲の弾の様に飛ばせる様になりました。
|祖国(このくに)にとっては一般的な戦技の1つに過ぎない様ですが、|豊臣秀吉(わたし)がかつて居た世界では、これが出来た時点で奇跡です。
「姫様、大分お強く成られましたな?ご立派です」
教官がお世辞を言い、訓練生が拍手で私を迎えた。
と言っても、これで漸くスタートライン……|祖国(このくに)で部将以上の地位を確保するのに10年近く掛かってしまった……
不幸中の幸いなのが、この間に|祖国(このくに)を襲う敵がいなかった事。
いや……恐らくはいたと思うが、そいつらの戦術が|祖国(このくに)と大して変わらないので、|祖国(このくに)のお得意である直接戦闘に持ち込まれてあっさり撃破された可能性が高い。
|豊臣秀吉(わたし)にとってはそれが致命的にヤバい!
つまり……どいつもこいつも戦術のイロハを知らぬ馬鹿ばかりと言う事だ!?
もしこの状態で戦上手な敵に襲われたら、|祖国(このくに)はひとたまりもないぞ!
そして……
……その危惧が現実になりつつあった。
「亡命!?マッホーウ法国の王家が我が国にだと!?」
どうやら、弱小小国にすぎなかったエイジオブ帝国が何故か急に無謀な大規模侵略を開始したと言うのだ。
このエイジオブ帝国、勝率はそんなに高くない筈なのだけど、何故か最後はエイジオブ帝国に有能な戦士を皆殺しにされ領土を奪い尽くされて終わってしまうそうです。
……知りたい!
エイジオブ帝国がどうやってマッホーウ法国に勝利したのか!
「御父様!その亡命して来た者達とお話したいのですが―――」
「聞いてどうする?」
え?
「どうするって、それはエイジオブ帝国の必勝の秘密を―――」
「聞いてどうする?」
え……質問の意味が解りかねますが……
「確かにマッホーウ法国は我が国が誇る戦技に勝るとも劣らない魔法を多く修得している。それが戦技や魔法に乏しい弱小のエイジオブ帝国如きにと言いうのが不思議に思うのは解る」
「解るのならなおの事―――」
「だが!我々にはこのムソーウ王国を支えた数々の戦技が有る!あんな弱小小国如きに敗けはせんわぁー!」
「おーーーーー!」
私の父親が強気な勝利宣言に一同が強気な怒号を叫ぶが……この状況のヤバさに気付いている人……何人いるの!?
敗北者の所業の逆を行うは戦術の基本中の基本……それが出来ないのって相当ヤバいんですけど!
本当に|祖国(このくに)は戦術のイロハを知らな過ぎる!
急がねば……早く豊臣秀吉の記憶や知識を|祖国(このくに)の戦術に吸収させなきゃ……間違いなく|祖国(このくに)はエイジオブ帝国に敗けるぞ!

オラウ・タ・ムソーウ

年齢:14歳
性別:女性
身長:147cm
体重:42.2㎏
体型:B84/W55/H81
胸囲:E65
職業:王女
武器:後期型パルチザン風ショートソード
戦技:光刃、一閃、剣の舞
趣味:日記、女遊び、ティータイム
好物:美女、美少女
嫌物:幼稚過ぎる戦術、醜男
特技:戦略、戦術、豪遊、人たらし
前世:豊臣秀吉

ムソーウ王国第三王女として異世界転生した豊臣秀吉。
ムソーウ王国の王女としての教養を身につける一方、ムソーウ王国の将校必須である驚異的で一騎当千な戦闘力も身につけており、剣から衝撃波を飛ばすなどの戦技を習得している。
直接戦闘の方は文字通りの一騎当千だが戦略や戦術は幼稚過ぎるムソーウ王国の真っ直ぐ過ぎる戦い方に悪戦苦闘しながら、豊臣秀吉の記憶と知識を頼りに謎の弱小小国エイジオブ帝国の野望を打ち砕くべく戦い続ける。
イメージモデルはミルヒオーレ・F・ビスコッティ【DOG DAYS】とミーア・ルーナ・ティアムーン【ティアムーン帝国物語】。

第2話:忍者が足りない……

前回のあらすじ

ムソーウ王国第三王女『オラウ・タ・ムソーウ』に転生した『豊臣秀吉』は、敗戦し壊滅したマッホーウ法国の救援要請を受けて謎の元弱小国エイジオブ帝国と合戦する事になった。
だが、肝心のムソーウ王国とマッホーウ法国がファイアーエムブレム無双やDOGDAYSシリーズの様な戦い方をし、階級が部将以上の将校全員(例外無し)に戦国無双2のプレイアブルキャラクターに匹敵する戦闘力とファイアーエムブレム無双風花雪月やDOGDAYSシリーズの様な戦技か魔法の修得が必須な為、、戦略と戦術が致命的に幼稚化していた……
そこでオラウはムソーウ王国やマッホーウ法国に足りない物を1つ1つ整理しようとするが、その度にこの戦いが前途多難である事を思い知らされて愕然。
こうしてオラウは、ムソーウ王国の完敗を予感しながらもムソーウ王国の部将としてエイジオブ帝国と戦う事にしたのでした。

へべく!

いやぁ……
ムソーウ王国の戦術の立て直しを本格的に始めて初めて気付いたのだが……
|(笑)《くさ》生えるくらい……
|忍者(くさ)が足りない!
じゃあなんだ!?
|祖国(このくに)は今までどうやって諜報を行ってきたと言うのだ!?
|情報収集(それ)だけじゃない!
噂流布、破壊工作、罠設置、暗殺……
|忍者(くさ)の仕事や重要性は多岐にわたる。
それが居ないとなると……
ん?
情報収集がままならない状態で部将としての初仕事をしなきゃいけないと言うのだが、何だこの木材の数は?防御拠点を増やすの?
本陣内に櫓を用意する事はよくある事だが、本当にそれだけなのかが気になる……
「私達は敵の斥候を討伐するのですよね?野営地建設と櫓建設にしては木材が多い気がするのですが?」
すると、私は何故か笑われた。
「姫様は初陣がまだ済まされておられないだけあって、敵が何処にいるのかを知る方法をご存知無いとお見受けする」
それを聴いて……私は愕然としてクラッとした。
ひょっとして……未だに高井楼と望遠鏡に頼った警戒以外の諜報を一切しておらんと言うのか!?
頼む!この嫌な予感が私の見当違いな勘違いであってくれ!
……
……
……
……本当に草原のど真ん中に高井楼を建ておった……
「……これで敵の何が解ると言うのですか?」
「敵がどの方向にいるのかが解ります!」
そう自信満々に言われんでも解るよ。
私が訊きたいのはその先!
つまり、高井楼から見下ろしただけでは解らない敵の中身じゃ!
「……で……敵がどの方向にいるのかを知った後はどうするのですか?」
「勿論、我々はその方向に向かって進軍するのです」
弓兵!仕事しろ!
こんなどデカい高井楼をわざわざ作って、やる事は進軍方向決定だけか?
「おーい、敵が何処にいるか解るかぁー」
なんだこの暢気な会話は?
斥候部隊とは言え、いやしくも敵だぞ!
せめて敵の伏兵の場所を発見せなんだら、こんな諜報のイロハを知らぬふざけた高井楼などぶっ壊して―――
「えー、敵は東の」
その高井楼が敵の攻撃を受けてあっさり転倒・倒壊した。
「砲撃か!?」
はい。あっさりこちらの高井楼の負け。
この様子だと、敵はかなり優秀な大筒をお持ちの様で……
こっちは戦術どころか諜報のイロハすら解らぬ馬鹿揃いだと言うのに……
「何が遭った!?」
「……決まってるでしょ……敵の攻撃です……」
「何を言っているのです姫様!エイジオブ帝国は戦技や魔法に乏しい弱小国!この様な器用な事は不可能です」
あー……
馬鹿だこいつら……
|祖国(このくに)は鉄砲や大筒の事をまったくご存知無い様で……
しかも、敵を過小評価するは愚策の中の愚策。それを平気で行うとは……
「何をしている!早く櫓を直せ!敵の―――」
駄目だ!こんな状態で敵鉄砲隊と戦えば、こちらは間違いなく全滅して皆殺しにされる!
「後退だ……」
「……姫様?何を馬鹿な事を仰っているのです?」
何?その馬鹿を見下すかの様な顔は?
この様な状態で敵鉄砲隊と戦えと?
死にたいのかお前は!
「後退だ!これは命令だ!」
「馬鹿な事を言わんでください!そんな事をしたら敵に逃げる背中を見せてしまいますぞ!今直ぐお考え直しを!」
何で自分達の全滅を避ける為に逃げろと言った私が説得されにゃいかんのだ?
勇猛果敢もこれでは無知無謀よな……
「いいから後退だ!これは勝敗どころか生死すら左右する事だぞ!早く!」

なんとか敵大筒の次の攻撃から逃げ切ったが……
……どいつもこいつも私の後退命令への愚痴しか言わぬ。中には他の将校と私を比べて「そっちの方が良かった」とか言う輩までいる……
とは言われましても、あんな敵の鉄砲や大筒の数がまったく解らずな状態で突撃命令を出せと?
アホか!
そんな事をしたら、私達は全滅だ!信長様が長篠で武田家をコテンパンにした時の様に!
くっ!
|豊臣秀吉(わたし)は信長様の許で多くの戦を経験したと思い込んでいたが、それはただの慢心だったか?
この期に及んで、漸く勇猛果敢で無知蒙昧な部隊を率いながら未知の敵と戦う事の困難さを思い知るとは……
……あーーーーー!
神よ!勝利の女神よ!
この迷えるオラウ・タ・ムソーウに|忍者(くさ)を与えたまええぇーーーーー!
「こんな所で何をやっている!」
「ひゃ!?す、すいません!」
なんだ?
「また貴方でしたか?|戦場(ここ)は貴方が来る場所ではありません」
「でも!僕もマッホーウ法国の―――」
「ですが!」
「どうかしましたか?」
「チッ!」
こいつ!
全力舌打ちじゃなかったか今の……
「ごめんなさい!」
それに引き換え、何でこの子供は謝っておるのじゃ?
「でも……でも、僕もマッホーウ法国の王子だ。だから、マッホーウ法国の役に立ちたいんだ」
そうでしたの―――
「何言ってんだ。大した魔法も使えない癖に」
このバカ!
私が出した後退命令に対する不満もあってか、このガキ……もとい!覚悟を決めたいくさ人に対して客将相手とは思えぬ雑で乱暴な扱いしおって。
でも、今はこの王子様の事に集中だ。
でないと……この馬鹿共への怒りと|忍者(くさ)不足による不安で気が狂いそうじゃ。
「で、実際にどのような魔法を?」
が、この質問が悪かったのか、さっきまでいくさ人の様な顔をしておった王子様の表情が曇った。
「……小動物を操る魔法と……動物と会話する魔法……」
「他には?」
「……以上……です」
あー、なるほどね。
つまり、1発で数十人の敵を吹き飛ばせるほどの魔法が撃てないから……
ん?……小動物を操る……
これだぁーーーーー!
「何でそれをもっと早く言ってくれなかったんだ!?」
「え?……何の事?」
「小動物を操る話じゃ!」
その途端、馬鹿共は「この馬鹿女の頭が遂に狂ったか」だの「こいつは救い難い馬鹿だ」だのと、この|豊臣秀吉(わたし)を馬鹿にしよる。
つまり……私にこの子が小動物を操る魔法が使える事実が伝わるのがこんなに遅くなったのは、この馬鹿共が小動物を操る魔法の戦術的重要性と危険性に全く気付いていないからって訳ね。
|祖国(このくに)の戦術を立て直す取り組み……これでますます困難になったな……こんな致命的な『宝の持ち腐れ』をしでかすとは……
あぁー!もう無視!
「して、どのくらいの大きさの動物を操れる」
「ポメラニアンくらいの大きさの動物が限界です」
かえって好都合!
熊や虎だと偵察じゃなくて強襲になってしまうが、その程度の大きさなら諜報として十分使える!
このオラウ・タ・ムソーウ!漸く優秀な|忍者(くさ)を得たぞ!
「なら!……その前に名前じゃ。何と言う?」
「え?……『アニマ・マッホーウ』」
「ではアニマよ!早速その小動物を操る魔法を私の言う通りに使用して貰おう!」
その途端……救い難い馬鹿共が「やっぱこの馬鹿女に軍を指揮する資格が無い」と抜かしおる。それがアニマの自信を奪ってしまう。
「……やっぱり……みんなの言う通り、僕には姉さんの様な強さは―――」
「違う!」
「……え?……」
この点は早い段階ではっきりさせて修正しないと、このアニマもこの馬鹿共が行う間違った戦術に完全に染まって致命的な間違いを犯す!
せっかくの貴重な|忍者(くさ)に、その様な致命的な間違いはさせん!
「武器を振り回して敵を薙倒すだけが戦争ではない!敵を知り敵に嫌われる、それもまた戦争じゃ!」
「敵を……知る?」
「そうじゃ!お前には敵の全てを知り尽くす才能が眠っている!それをこの|豊臣秀吉(わたし)が見事に開花させ、お望み通りのこの戦争に欠かせない逸材にしてやろう!約束じゃ!」
……その途端……馬鹿共の中からこの|豊臣秀吉(わたし)を見下げ果てて私の許を去る者が出始めおった。
「……駄目だな……この女はもう駄目だ……」
「戦争を何だと思っているんだこの馬鹿女は?ま、あの時の後退を命じた時点で、この女は完全に馬鹿だと気付いていたがな」
無視だ無視!
今はアニマが使える魔法をどう有効活用しようかを必死に考える方が先じゃ!
……と言いたいところだが……私がアニマの魔法に夢中になり過ぎた事が、後でとんでもない形で私の首を絞めようとは……
この時の私は夢にも思わんかった……

一方、エイジオブ帝国側は上官の進軍再開命令に副官が困惑していた。
「ですが中隊長、我々の今回の任務は斥候射撃の筈では?」
「だからこその進軍再開だ」
「と、申しますと?」
「あの敵将が何か変だったからだ」
「変?」
「俺が聞いたムソーウ王国の将校は、その全てが勇猛果敢な一騎当千だそうだ」
「それは私も聞いております」
「だが、実際に戦ってみてどうだ。俺達がちょっと前哨を破壊したくらいであの逃げ足だぞ?」
「確かにあの逃げ足は勇猛果敢とは程遠いですが……あの敵将が唯の臆病なだけでは?」
そんな副官の予想に対し、上官は困った顔をしながら首を横に振った。
「俺にはどうもそれだけには視えない。あの逃げ足……わざとの様な気がしてならんのだ」
副官はそこで漸く上官の言いたい事を理解した。
「つまり、あの敵将が魅せた逃げ足が罠か臆病かを確かめる為に、と言う事ですな?」
副官の言葉に上官がニヤッと笑うが、
「しっしっ!あっち行け!」
「ん?何の騒ぎだ?」
部下が必死に手を振っているので、何が遭ったのかを確かめるべく上官が其処に向かう。
「何が遭った?」
だが、部下は気楽に答えた。
「すいません。この蜂が意外としつこくて……あー、もう!いい加減にしろ!」
その途端、上官が激怒した。
「馬鹿もん!」
「え!?」
「蜂を素手で追い払うな!毒針に当たって体調が崩れてしまうだろうが!」
「え!?ですが―――」
「体調の悪化は部隊の乱れ!体調管理を怠ったら、勝てる戦いに敗けてしまうだろうが!」
「……すいません」
どうやらこの上官は、オラウが慎重に部隊の後退を選んだだけで『救い難い無能』のレッテルを張った戦術知らずのムソーウ王国軍一般兵達とは違ってそこそこ賢い様だ。
が、その賢さ故に蜂を素手で払う行為を止めさせた事が、この上官が率いる部隊の後々の敗因になろうとは……

翌朝……
敵は進軍を再開した様だ。
アニマが操った蜂の話によると、今回の敵将は|豊臣秀吉(わたし)が出した後退命令に罠の気配を感じているそうだ。
実際はただの準備不足なだけだったのだがな。
あの敵将、結果的にではあるがその慎重さに自分の首を絞められたな。
とは言え……もしエイジオブ帝国の将校全員が今回の敵将と同じくらい賢かったら、戦下手過ぎるムソーウ王国の勝ち目はますます減るぞ!
早く何とかしないと!
「む?停まれぇー!」
敵将が立ち塞がる私を発見して部隊を停止させる。
くぅー!ますますあの馬鹿共にこいつの慎重さを見習わせたい!
とは言え、ここで開戦となっては今回の作戦が根底から崩れる。
……攻めて視るか。
「光刃!」
私が思いっきり裏一文字を放つやいなや、光の斬撃が銃弾に様に敵に向かってすっ飛んで往く。そして、それだけで数十人の敵を木の葉の様に吹き飛ばす。
これがムソーウ王国が誇る戦技の1つ。
ムソーウ王国軍にはこの様な1人で数十人の敵を一瞬で討ち取れる戦技が沢山有る。
が、それに頼り過ぎたかどいつもこいつも本物の猪が名誉棄損で訴えてきそうなくらいの猪武者に成り下がりおった。
そうやって過剰な戦力に物を言わせて不要な突撃を行い、気付けば死地に堕ちる馬鹿はごまんといる。
私はそんな馬鹿げた死に方は御免だ。
寧ろ……
「あー!逃げたぞぉー!追え!追えぇー!」
そうだ!
|豊臣秀吉(わたし)は逃げたぞ!さっさと追って来い!
しばらくして、私がとある洞窟に逃げ込むと、敵達も一同に追って来る……だったら良かったんだけどなぁ!
私の後ろの足音が減ったと言う事は、敵全員がこの洞窟に入った訳ではなさそうね……本当にムソーウ王国とエイジオブ帝国の戦術の差がマジで凄い……
とは言え、これだけの敵鉄砲隊をここまで誘き出せば上等か!
敵は、私が反転して攻撃を再開する素振りを魅せた途端、私に向かって鉄砲を構えるが、
「あれ?……なんだ!?炭酸粉がパチパチ言わない!」
「これでは鉄の球を遠くに飛ばせない!」
「何がどうなっているんだ!?」
ここで自慢げに|豊臣秀吉(わたし)が華麗にネタバラシをする。
「フフフ、まんまと引っ掛かったな?」
「な!?……我々の小型投石器に何をした?」
「なぁーに、この洞窟の湿気を利用しただけよ。この洞窟の湿気がお前達の火薬と火縄をお釈迦にしてくれたのよ」
因みに、この洞窟もアニマが近くにいた蝙蝠から訊き出してくれたモノ。アニマには本当に感謝だ!
すると、鉄砲隊を率いていたリーダーが必死に叫ぶ。
「誰か火を持って来い!炭酸粉を温めて湿気を飛ばすのだ!」
おーおー、大慌てですなぁ。
だが、お前達の火縄が正気に戻るのを待つ心算は無い!
ムソーウ王国の自慢の戦技でこいつらを蹴散らしてみるか!
先ずは先程もだした『光刃』!
光の魔力を宿した剣撃を銃弾の様に飛ばす技じゃ!
続いては『一閃』。
高速ダッシュしながらすれ違い様に敵に渾身の裏一文字を浴びせる移動を兼ねた技!
そして『剣の舞い』。
ジグザグに前進しながら裏一文字を3連発する回避にも使える技じゃ!
しかも、そのどれもが一騎当千の破壊力!
あっという間に敵鉄砲隊は全滅だ。
我ながら凄いと思いつつ……これに溺れない様に最新の注意を払わねばな。
……さて、外にいる敵将に遭いに往くか。
敵将は、私の顔を視た途端、中に入った手下の全滅を悟ったのか、勇猛果敢で無知蒙昧な馬鹿共とは真逆な命令を下しおった。
「誰でも良い!早く帝都に逃げ込め!そして、この女がどれだけ危険かを上の連中に正しく伝えるのだ!往けぇー!」
それはつまり……こいつらが私を過剰に危険視している事の表れ。
普通に考えれば誉と思える事なのだろうが、ムソーウ王国の戦略と戦術が完全に死に体の現地点ではかえって困る。
せめて他の馬鹿共と同列扱いして貰わねば!
つまり、私がやる事はただ1つ……
ムソーウ王国自慢の戦技を使ってこいつらを全滅させた。1人も残さずだ。
とは言え……この敵将は本当は欲しかったなぁ……私の周りは全員馬鹿ばっかだから!
さて……そんな馬鹿共を1人も死なせずに完勝したまでは良かったが……
「姫様!今回の愚行の数々に関する出頭命令が出ておりますので、至急国王の許にお向かい下さい!」
何故か私の支持率は大幅に減衰していた……
私達は勝ったんだよ!?こっちは1人も死んでいないんだよ!なのに何で!?
もう嫌だ|祖国(このくに)いぃー!

アニマ・マッホーウ

年齢:10歳
性別:男性
身長:139cm
体重:35.1㎏
職業:元王子
魔法:小動物を操る(ポメラニアン程の大きさが上限)、動物と会話出来る
趣味:動物飼育、魔法の勉強
好物:平和、活躍の場、仲間達の役に立つ事
嫌物:不正、侮辱的発言、無力な自分
特技:動物と会話する
苦手:強力な攻撃魔法会得

姉と共にムソーウ王国に亡命したマッホーウ法国の王子。
祖国を滅ぼした怨敵エイジオブ帝国との戦いで自分も役に立ちたいと考えてはいるが、優しくてお人好しな性格が災いしたのか動物操作系魔法しか習得出来ず、戦力とみなされない日々が続いていたが、そんな彼に諜報員としての才能を見出したオラウに拾われた事で事態は一変、周囲から戦力外と侮辱されつつもオラウに叱咤激励され続けた結果、オラウが率いる部隊に必要不可欠な敏腕諜報員へと成長した。

第3話:ズルの意味を知る人が足りない……

前回のあらすじ

ムソーウ王国の戦術の立て直しに着手したいオラウだったが、早速スパイ不足と言う難題にぶつかり頭を抱えていた。
そこで目を付けたのが、ムソーウ王国に亡命したマッホーウ法国王家の生き残り『アニマ・マッホーウ』。
彼は小動物を操る魔法と動物と会話する魔法しか使用できない為、大規模な攻撃魔法が使える姉と違って戦力外通告を受けていました。
それに対し、オラウはアニマが使用する魔法に戦術的重要性と危険性を感じ取って強引に自分の配下にしてしまいます。
姉の様な強さが無いアニマは自信喪失していましたが、「武器を振り回すだけが戦いじゃない」とオラウに説得され小動物を操って敵の先鋒隊に関する重大情報をゲット!
更に予想合戦地点近くに敵鉄砲隊を弱体化させるのに適した洞窟がある事実もついでにゲット!
こうして、ほぼ無傷で敵先鋒隊に完勝したオラウでした。

へべく!

父上であるムソーウ王国国王に謁見するやいなや、私はいきなり大声て怒鳴られてしまった。
「この大馬鹿者!」
何で私が怒られているの?
私、部下を1人も殺さずに敵に勝ったんだよ!
「櫓を1つ破壊されただけで逃走とは、貴様は我が国の信頼を潰す気か!?」
いやいや!
部下の命を惜しんで撤退を命じるより、部下を無駄に犬死させ続ける方がヤバいでしょ普通!
それが解らぬ様では、長篠で信長様に敗けた武田勝頼の方がまーだ戦上手だぞ。
「それと、戦場での使い道が一切無いアニマを無理矢理戦場に連れて往くとは、貴様の目は節穴か!」
そこまで言うのであれば、高井楼や望遠鏡より優秀な諜報方法を沢山用意して下さいまし。そうすれば、アニマの動物を操る魔法に頼らずとも勝利して魅せますわ!
と言うか……私の父上ながら……アニマの動物を操る魔法の恐ろしさをまるで解っておらぬなこの馬鹿は!
「その上、不要な移動をして労力の無駄使いを犯すとは、お前は本当に部隊を指揮する資格が有るのか!?」
それは全て敵鉄砲隊を無力化する為の策……つまり『逃げるふり』と言う物ではないですかぁ。
そう言えば、九州の島津も『逃げるふり』が大好きだったなぁ……
「まったく、褒める点が1つも無いとは……貴様は我を『無能な愛娘を部将に仕立て上げた親バカ』と罵る心算か!」
馬鹿はアンタだよ。
と言うか、『逃げるふり』が救い難いズルと言ってる時点で、本当に戦争に勝つ心算なのかを疑う。
かつての|豊臣秀吉(わたし)なんか、『逃げるふり』とは比べ物にならない程のズルを沢山してきたんだよ!
墨俣一夜城!
三木城干殺し!
高松城水攻め!
大宴会in小田原城前!
それに比べたら、『逃げるふり』なんて可愛い初歩ではございませぬか!
「と言う訳で」
どう言う訳?意味が解りませぇーん。
「オラウ・タ・ムソーウは降格!以後、トッシン将軍の許で正しい戦い方をちゃんと学ぶ様に!」
しまったぁー!
ツッコミどころが多過ぎて、言い訳や屁理屈を言う暇が無かったぁー!
それより、|豊臣秀吉(わたし)が現地点でもっと気にする事をせめて訊かねば。
「この私が降格した事で、私の部下となったアニマ・マッホーウの配属先に変化はあるのですか?」
だが、その答えが……
「馬鹿者!」
何でじゃ!?
「そんな事だから貴様の目は節穴だと言うのだ!」
いや、だからアニマの動物を操る魔法は使い方によっては物凄く危険な―――
「兵士達がお前の事をなんて呼んでいるか知ってるか?」
そのタイミングでそれを言うとは……嫌な予感しかしないなぁ……
「無能愚行姫だ馬鹿者め!トッシンにはお前に正しい戦い方をちゃんと伝授させるから、ちゃんと正しく学ぶのだぞ!」
正しい戦い方?
そんなものはございませーん。
強いて言えば、『適才適所』と『臨機応変』がそれに該当するのだろうな。

で、トッシンの許に向かう前にアニマを他の部隊に盗られない様に色々と言いくるめようとしたのだが……
「何でだよ!」
ななな何だ!?
「何でオラウさんと一緒に行っちゃいけないんだよ!」
何ぃ!?
そんな事をされたら、|豊臣秀吉(わたし)の諜報手段があの馬鹿共と一緒になってしまうではないか!
そこで私は私からアニマを奪おうとしているあの女を言いくるめようとするが、私の肩を誰かが引っ張った。
ハッキリ言って邪魔です!急いでるんですけど!
「まさかと思いますが、ヌードン様が行っておられるアニマへの説教を妨害する御心算ですか?」
その言い回し……嫌な予感しかいないんですけど……
「説教とは?」
「オラウ様は先程の王の言葉をもうお忘れか?」
まあ……あんな馬鹿げた台詞を覚える理由が1つも無いしな……
ちょっと待て……と言う事は……
「あの様な戦う術が無い者に戦場に立つ資格はありません!その事をアニマにきつく言っておられるのです!」
……頭が痛い……
合戦をなめているのか!
|忍者(くさ)が徹底的かつ致命的に不足している状況でアニマまで失ったら……
まさかと思うが、この馬鹿もアニマの動物を操る魔法の恐ろしさを知らぬと言うのか?
「もし、それでもまだアニマを戦場に連行すると言うのであれば、残念ながらオラウ様に部隊を指揮する資格が無いと判断せざるおえませんぞ」
ムソーウ王国もマッホーウ法国も、強大な攻撃力と防御力に物を言わせて突撃するだけの単純馬鹿なのか?
本当にそうなら、|豊臣秀吉(わたし)はエイジオブ帝国に寝返りたくなるぞ……
結局、ヌードンと言う馬鹿女に無力なのに戦場に立ちたがるアニマへの説教を……
任せとうないのに!傍目から視たら任せる形で出陣した様にか見えない大恥を掻きながら出陣させられた!いや!戦場に連行された!
……
……
……
……また……高井楼……
「では復習といきましょうか」
どうやら、こいつがトッシンと言う男の様だが、まさかと思うが|豊臣秀吉(わたし)に高井楼の必要性を説く心算か?
「先ずは適度な場所に櫓を建て―――」
「そこを本陣とし、敵勢力に備える」
「違います!」
はあぁー!?
「建てた櫓の上に弓兵を登らせ、そこから矢や焙烙玉を投げつける」
「まったく違います!」
はああぁぁーー!?
防御拠点でもなければ攻撃手段でもないだとおぉー!?
じゃあ、この高井楼に何をさせる気じゃ!?
「そこから敵の居場所を見て突撃方向を知る。それすら解らぬ様では、一般兵に笑われて当然ですぞ!」
……また……高井楼に諜報作業を押し付けてる……
大陸に伝わる三国志にて凡将と揶揄されている袁紹の方がまーだ高井楼を正しく使いこなしておったぞ?
「と……ところで敵の中身や正体はどうやって調べるんですの?」
「何を馬鹿な事を言っているのです!どうせ叩きのめすのですから、その様な事を知っても意味がありませんぞ!」
敵を徹底的に完膚なきまで叩きのめす為に正体を知るんだろうが!
あーーーーー!
この馬鹿共の口を縫い合わせたいぃーーーーー!

一方、エイジオブ帝国側は自分達がたった今破壊した櫓を急ぎ修復するトッシン隊に呆れていた。
「おいおい!暢気な者だなぁ」
「今の内にこの投鉄器で穴だらけにしちまうかぁ?」
エイジオブ帝国の鉄砲隊が敵将トッシンを馬鹿にし侮る(実際本当に致命的戦下手だが)中、この第二次斥候部隊を率いる部隊長は困惑していた。
(これは、いつも通りのムソーウ王国の常套戦法!私が読んだ手紙と違う!)
そう、オラウに滅ぼされた第一次斥候部隊は、オラウのムソーウ王国の常套戦法から逸脱した行動を危惧して本国に手紙を送っていたのだ。
が、肝心のオラウがムソーウ国王の理不尽過ぎる怒りを買い、部将からトッシン将軍の部下に降格させられたので、オラウは図らずも第一次斥候部隊に魅せた慎重さを発揮できないのだ。
それが第二次斥候部隊の隊長を混乱させたのだ。
「何故あの者はこんな手紙を帝都に送ったのだ?我々が事前に調べた通りの単純思考ではないか……」
「中隊長、目の前の暢気な敵部隊を如何いたしますか?」
隊長は迷いつつも決断する。
「……1回、当たって視るか。準備を」
「は!」
「だがその前に、例の物を置ける場所を教えて貰おう」
それを聴いた副官は邪な笑みを浮かべながら答えた。
「既に調査済みでございます♪」
「よろしい。では直ぐに手配しろ」
「は♪」
こうして……
ムソーウ王国とエイジオブ帝国の諜報力の圧倒的過ぎる差が、トッシン将軍の首を絞める事になるが、それをエイジオブ帝国以外に予想出来たのは……オラウのみであった……

トッシンとか言う馬鹿が指揮する部隊が、無謀にも勇猛果敢に敵部隊に突撃しおったが、トッシンが強過ぎて誰もトッシンの無謀さに気付いておらなんだ。
トッシンがパンチを連発すれば数十人の敵が宙に浮かび、トッシンが渾身のパンチを撃てば数十人の敵が木の葉の様に吹き飛び、トッシンがパンチを繰り出しながら突進すれば数十人の敵を舞い散らしながら敵部隊内に道を作る……
正に鎧袖一触の一騎当千。
それを観た配下の兵士達はそんなトッシンの強さを疑う事無く付いて行く……
敵が何を企んでいるのかを疑う事無く!
「ちゃんとトッシン様の正しい戦い方を学べよ、馬鹿女」
私の配下だった兵士の1人がすれ違い様に言った嫌味な言葉に、|豊臣秀吉(わたし)のムソーウ王国の戦術に対する不安は更に高まった。
つまりこいつら、自分の強大過ぎる力に振り回される様に自分の失敗に対する恐怖心を完全に失ったのだ。
ズルい卑怯者ほど失敗を恐れ敗北を嫌う。
犯した失敗が自分の首を絞める事を知り勝者に全てを奪われると知ってるからだ。
故に力を欲し、策を弄し、罠を仕掛け、嘘を吐き、甘言を用意する。
失敗しない為。敗北しない為。
失敗を恐れる卑怯者ほどズルに対する罪悪感が薄い!
特に今回の戦の様な敗北が死に直結する場面では特にズルくなる!
だが……
一騎当千と鎧袖一触に慣れ過ぎたムソーウ王国は失敗と敗北の恐ろしさを完全に忘れ、ズルをする余裕を完全に失った。
だから……ムソーウ王国の戦術はどんどん幼稚化して単純化した。
高井楼と望遠鏡に諜報作業を丸投げしたのも、敵部隊との直接対決も突撃一辺倒のみなのも、ズルしなくても必ず完全勝利できると過信し過ぎたからだ!
そして、そんなヤバ過ぎる勘違いを助長しているのが同調圧力。つまり、|豊臣秀吉(わたし)の様なムソーウ王国の強さを過小評価してズルに頼る卑怯者は救い難い馬鹿でしかないのだ。
正に危険過ぎる致命的な悪循環だ!
あまりに盲目!
闘将ではなく愚将!野望ではなく無謀!
「オラウさん!右です!」
ん?右?
何でアニマの声が聞こえるのか解らぬまま、何も考えずに右を向いてしまった私は、漸く敵伏兵の気配に気付いた。
しまったあぁーーーーー!
考え事をし過ぎて周囲への警戒を完全に忘れておったあぁーーーーー!
だが、肝心のトッシンの馬鹿垂れは背後からアニマの声が聞こえた事に不満を感じ、顔を|左に向けながら《・・・・・・・》後ろを見おった……
「右?こんな所にいてはいけない筈のアニマ殿が、何故その様な見当違い―――」
その直後、私達の右脇にいた敵伏兵の銃弾がトッシンの後頭部に命中して眉間を貫通した……
つまり、トッシンは自分の無謀さの代償を支払うかの様にあっけなく死んだのだ。
と、|豊臣秀吉(わたし)が考えていると、更に前にいるトッシンに吹き飛ばされた歩兵隊の後ろに隠れていた鉄砲隊も隠していた牙をむき出しにしおった!
右から前から絶え間なく放たれる銃弾が、何の疑いも無くトッシンの無謀な突撃に同行した兵士達が次々と物言わぬ屍となった……
これは不味い!
どう視てもこちら側の全滅は免れないが、私もそれに巻き込まれて討死するのか?
せめて敵伏兵の居場所が解っておれば―――
「敵は前と右だけだよ!」
背後から聞こえる声が誰なのかを確認すると、そこには、軍を追い出された筈のアニマがおった!
「アニマ!お前は確か!?」
「ごめんなさい!でも、オラウさん以外に馬鹿にされて悔しかったんだ!だから!」
許可無く勝手に私について来てしまった事を誤るアニマだが、今は寧ろありがたい!
「謝る理由は無いぞアニマ!寧ろ愛してるわ!」
「あ!?愛してる!?」
アニマの奴、顔を赤くしおってかわゆい奴よ。
って!そんな場合じゃないな!
「で、敵大将はどっちにおるか解るか?」
「1番偉そうなのは、あそこの方眼鏡の御爺さんだよ!」
上等!
やはりアニマの動物を操る魔法は、|忍者(くさ)不足に悩む|豊臣秀吉(わたし)にとっては救世主よ!
で、私が光刃を放って前方にいる敵鉄砲隊ごとアニマが言ったおっさんを吹き飛ばす。
そうなれば現金なもので、指揮官を失った混乱が早々と敵にも浸透する。
エイジオブ帝国は戦技や魔法に乏し過ぎると言うが、それを数と武器と策で誤魔化そうとした。
が、故にその策を支える指揮官が突然死亡すれば、簡単に敵は混乱する。何をしたら良いのか解らなくなるからのう!
「アニマ!今の内に逃げるぞ!」
その時、|豊臣秀吉(わたし)は自分の部隊に無謀な突撃を強要した報いを受ける様に討死したトッシンの遺体が目に入ったので、こいつの首を持ち帰ってトッシンの間違いを堂々と訴えようと思ったが、
「何故だ……」
先程ズルに走りかけた|豊臣秀吉(わたし)を徹底的に馬鹿にした一般兵の最期の言葉が、|豊臣秀吉(わたし)の目と耳に入った。
「トッシン様の戦い方には全て正しい筈なのに……何故……何故……」
……これは……トッシンが何で死んだのかを必死に訴え、何故戦争にズルが必要かを伝えても、聞く側が理解出来なければ意味が無いと悟り、それなら、まだ使い道があるアニマを生きてこの戦場から助け出す方が得策だな!
こうして、私はアニマを連れてこの敗戦濃厚な戦場を脱出してトッシンの遺体をその戦場に置き去りにした。
そんな事をしたら、敵軍は大将首を得たと喜び士気が上がってしまうだろう……
だが、生きておれば……生還さえ出来れば逆転の可能性がある。
|豊臣秀吉(わたし)はそっちに賭ける事にしたのだ!
幸い、アニマもトッシンを殺した戦場から無事生還した様だしな!それが1番大きい!

私は、自身がムソーウ王国の将校としての実力を有している事を証明する為の決闘に勝利し、アニマを私が率いる部隊に置く事を許可された。
アニマはこの事に首を傾げた様で、
「何でこんな事をしてるんですか?将校に成りたいのであれば素直にそう言えば―――」
アニマの言う事も尤もだが、それは聞く側がそこそこ賢くてそこそこ部下想いな者であればの話じゃ。
「それが1番の近道であればそうするし、それが1番正しい事なのだろうが、馬鹿な頑固者の説得にはかなぁーりの時間が掛かるし、トッシンとか言う突撃馬鹿が戦死したくらいで戦術が180度変わると言うのであれば、とっくの昔に戦術を変えとるわ」
「それじゃあ、トッシンさんの死は何だったの?」
アニマのこの質問に|豊臣秀吉(わたし)は冷徹に答えた。
「無駄死にどころか|祖国(このくに)にとってはいい迷惑じゃ。犬死ですらない」
「じゃあ、トッシンさんの戦い方が間違ってる事をちゃんと言えば良いんじゃないの?」
アニマの言葉は正しい。
強大な力を振り回しながら突撃するだけで戦争に勝利出来るのであれば誰のも苦労しない。
だが、正しい台詞と人を動かす台詞は別物。
言い分がどんなに正しくたって、聞く側が不快となればそこに喧嘩が生まれ不和となる。
「言えるものならもう言ってるよ。だが、私達の国は突撃だけで完全勝利する事に慣れ過ぎてる。突撃以外の方法でも勝てる事を学ばせる為にもじっくり時間をかける必要が有る」
それを聴いたアニマが|豊臣秀吉(わたし)を悩ませる質問をしおった。
「オラウさんて、本当は戦争が嫌いなの?」
……この質問、単純に「嫌い」と言えば済む問題ではない。
置かれている立場によって「嫌い」の理由が変わるからだ。しかも、立場によっては「嫌い」ではなく「好き」になってしまう事も有る訳で……
「連勝し続けられる内は好きでいられるが、それは失うの恐ろしさを知らぬ者の戯言でしかない。|豊臣秀吉(わたし)は既に失う事がどれだけ恐ろしいか知ってるからこそ突撃以外の戦い方に拘る事が出来る。だが、そうではない上に敗北を経験した事が無い馬鹿は、何故下々が失うを過剰に恐れるのかが解らん。それが戦争の罪。戦争など最凶ズル決定戦でしかない」
多くの戦を経験して数多のズルを犯して来たこの|豊臣秀吉(わたし)が言うのだ。間違いない!
「なら、戦争はズルばっかだって事をハッキリ言えば良いじゃん」
そう!その通り!
その通り……何じゃが……
「言っても信じて貰えずに真意が伝わらないのであれば、言った意味は全く無い。だから、かなぁーり時間が掛かっても態度と結果で示すしかない。不器用な事この上ないがな」
そう。悲しかな、どんなに努力や細工を行おうと、結果が届かなければ誰もその努力や策謀は理解されない。
全員ではないと信じたいが、良い結果と悪い結果とでは鍛錬や策謀についての伝わり方が完全に真逆となる。
「アニマ、お前だって何もしていないのに役立たずの汚名を着るのは辛かろう?」
「うっ」
ここでアニマが言葉に詰まるとは……マッホーウ法国もムソーウ王国と同じ穴の狢か?
強大な攻撃魔法をふんだんに使った突撃以外の戦術が一切無く、故にアニマが使用する動物を操る魔法の真の恐ろしさを解らぬ訳か……
この先にある数々の困難が透けて見えて辛いのう……
「だから、私達で思い知らせてやろうではないか!私達の戦い方も間違いではないと!」
これは、優秀な|忍者(くさ)になり得た筈のアニマがマッホーウ法国の間違った常識と戦術への復讐であり、この|豊臣秀吉(わたし)に救い難い馬鹿共を預けて丸投げしたこの世界への|豊臣秀吉(わたし)の逆襲でもある!
「さあ!戦いの始まりだ!」

【戦い方をゲームやアニメなどに例えると】

オラウ・タ・ムソーウ:横山光輝版三国志、ギレンの野望シリーズ、信長の野望・新生、太閤立志伝V DX

エイジオブ帝国:Age of Empires II(トルコ)

ムソーウ王国、マッホーウ法国:DOGDAYSシリーズ、ファイナルファイト、タイムクライシス

第4話:遺族への配慮が足りない……

前回のあらすじ

せっかく勝利したオラウ隊でしたが、褒められるどころか敗走するふりをしながら敵を死地に追いやる戦法が卑怯過ぎると叱責されてオラウは降格。
そんな真っ直ぐで幼稚過ぎて現実離れしたムソーウ王国の戦術に改めて頭を抱えるオラウ。
更に、せっかく配下にしたアニマとも離れ離れとなり、それがアニマと姉との仲違いを更に悪化させる結果になってしまいました。切ない……
その後、ムソーウ王国屈指の闘将の副将として正しい戦い方を学べと命じられたオラウは、ムソーウ王国の今後にますます不安を感じます。
で、今回の戦闘のターゲットはこのおじいちゃん(エイジオブ帝国現場監督官)。
このおじいちゃん、見た目に反して本隊を囮に別動隊を敵軍の右脇に配置して挟み撃ちにするちょっと小狡いお方。
結局、この程度の伏兵攻撃すら予想出来なかった真っ直ぐ過ぎる闘将はあっけなく死亡。
一般兵をかなぁーり失いながらターゲットを辛くも撃破して帰還したオラウは、言葉選びを注意しながら自分の復権を懇願。無事に部将に返り咲く事が出来たのでした。

へべく!

オラウに中隊長を2人も殺されたエイジオブ帝国であったが、エイジオブ帝国には微々たるダメージであり、寧ろ、2度の斥候射撃だけでムソーウ王国が誇る名将である豪腕将のトッシンを討ち斃した事もあってか士気が高かった。
「ほほう……これは幸先が良いですな……」
部下の報告を聴いて邪な笑みを浮かべるマスカレードアイマスクを着た少年は『イナオリ・ネッジー』。エイジオブ帝国王室側近軍師を務める重要人物である。
「それと、例の砦を予定通りの数建築しておきました」
「順調だな」
イナオリにそう言われた斥候兵はニヤリと笑った。
「はっ」
「して……」
「既にその命令は各部隊長にお伝えしております」
イオナリが満足気に頷いた。
「上出来だな?」
「ありがたき御言葉です」

さて……
やって来ましたエイジオブ帝国が領土内に建築した砦前に。
砦を囲む石壁の四隅に大筒を備えた櫓を備え、石壁の内にも複数の櫓が点在。兵舎と倉庫を備えて鉄砲隊が常に砦内を警備している。
この前のトッシンの様な無謀な突撃の様な無策な力押しでは落ちはせん。
幸い、|豊臣秀吉(わたし)の隣に動物を操る魔法を使えるアニマがいるから、この敵砦の本当の目的が解るのだ。
それは、敵地に眠る資源の横取り。
あの敵砦から出てきた者達は明らかに兵士ではなかったので、気になってアニマが操る動物に尾行させてその意味を調べさせた。
その効果は絶大だった。
あの敵砦から出て来た連中は、|祖国(このくに)にある森を無許可で切り倒して木を敵砦に持ち帰ろうとしていたのだ。
ならば簡単だ!
|祖国(このくに)から木材を強奪しようとしている木こりを皆殺しにし、その上であの敵砦を干殺す!
そうすれば、こちら側の一般兵の被害は最小限に抑えられる……筈だったんだけどなぁー……
「オラウ様!貴女様はこの近くにいる木こりの皆殺しを厳命するばかりで、本来行うべき敵城への突撃を怠るとは!本当にこの様な怠惰のままで良いと思っておられるのですか!?」
私の馬鹿親父が、|豊臣秀吉(わたし)の許に馬鹿なお目付け役を送り付けおった……
恐らく……|豊臣秀吉(わたし)を野放しにすればトッシンの様な無謀な突撃をサボると読んでの対策なのだろうが……
寧ろ迷惑だ!
あんなのに突撃すれば、例え落とせてもこちら側の被害も大きいし、寧ろこちら側が敗ける可能性の方が大きい。
城攻めする時は、敵の3倍の数をもって挑むべし!
それくらい解って欲しいモノだが、そんな戦術の常識を|祖国(このくに)に浸透させるのを阻んでいるのは、やはりあの豊富な一騎当千の戦技だ。
恐らくだが、私の光刃を使えばあの大筒を備えた櫓を一撃で破壊出来るだろう。
しかし、本当にそんな事をしたら私達の戦術は遠大な干殺しから短絡的な突撃に移行してしまう。それは避けたい!
「確かに、私の戦技を使えばあの様な小砦を落とすのは容易い!」
我ながら随分見当違いな事を言っておるなぁ私。
「なら―――」
「だが、今はその時期ではない。しばし待て」
「何を言っておられるのです!我々は既に大分待ちました!寧ろ、我々の攻撃が遅過ぎて敵に……嗤われておりますぞ!」
……こいつは確かドウカァーとか言ったか?
この程度待たされるくらいで敵が私達の動きの遅さを嘲笑うって、この|豊臣秀吉(わたし)に徳川殿が三方原で犯した失策をやらせて味方を全滅させる心算なのか?
でも、ドウカァーは悪い人間じゃないし悪人に向いている性格とは言い難い。
そんな彼を間違った方向に向かわせたのは、ムソーウ王国が誇る一騎当千の戦技が蔓延させてしまった突撃至上主義と言う名の悪しき同調圧力。
こればかりはドウカァーだけが悪い訳ではない。寧ろ、致命的な間違いが蔓延している惨状に対して何の対策もしてこなかった王族に責任がある!だからこそ、そんな無責任な王族の1人である|豊臣秀吉(わたし)が蔓延した悪習を払拭する戦術を率先して行わなければならんのだ!
……なのになぁ……
ちょっと突撃を躊躇したくらいで直ぐ無能扱いするのを辞めて欲しいんだけどなぁ……

一方、オラウ大隊に包囲されているエイジオブ帝国の大隊長の『ヨツメ』は困っていた。
エイジオブ帝国の思惑とは程遠いオラウの動きに。
「あいつらぁ……何時になったらこの砦を攻めてくれるんだよ!?」
そう。
エイジオブ帝国の今回の作戦は、ムソーウ王国の無知蒙昧な突撃至上主義を想定しての事だからだ。
だが、肝心のオラウ大隊は突撃至上とは程遠い慎重路線。
しかも、
「それどころか、木を切る人がいっこうにこの砦に戻って来ません」
「戻ってこないだと!?1人もか!?」
「……はい」
部下の報告を聞いて愕然とするヨツメ。
「俺達はムソーウ王国をなめてたと言うのか?」
「と……申しますと?」
「あいつら、俺達の空腹を待っていると言うのか?」
そんなヨツメの嫌な予感を部下は否定する。
「ですが、あのムソーウ王国がその様な時間が掛かる作戦を行うとは思えません」
だが、ヨツメはそんな事前報告に惑わされている部下を叱りつける。
「じゃあ何でこの砦を出発した木を切る人が何時まで経っても帰ってこねぇ?あいつらが木を切る人のみを狙って攻撃してるとしか思えねぇだろ!?」
今回オラウが行っているのは、正にヨツメの予想通りである。

……だが。
オラウの様な慎重な戦いを行うムソーウ王国将校は、オラウだけであった。
その証拠に、戦況報告を受けたイナオリはムソーウ王国のエイジオブ帝国側の砦の落城数に驚愕しつつしてやったりな邪な笑みを浮かべていた。
(想定内ぃ……だが問題は無い!ムソーウ王国侵略計画に必要なのはムソーウ王国一般兵達の疲労とそれに伴う不安だ。ムソーウ王国軍が無茶すれば無茶するほど僕達が用意した毒は力を増す。浴びれば終わり……)
そう!ムソーウ王国は自信過剰な慢心による突撃一辺倒が祟ってイナオリの手の平で踊らされているのだ!
しかも、マッホーウ法国と同じ轍を踏んでいるのだ!マッホーウ法国の亡命を許可しておきながら。
やはり、オラウの言う通りにマッホーウ法国から敗因を訊き出すべきだったのだ。だが、ムソーウ王国もマッホーウ法国も自分達の一騎当千ぶりを過信してそれを怠ってしまったのだ。
故に……
「伝令!」
伝令兵が慌てて駆け込んで、片膝をつくのもめんどくさげに慌てていた。
「ん?どうした?」
「ヨツメ隊、未だに敵部隊と交戦せず!」
さっきまで機嫌が良かったイオナリの顔がみるみる青くなる。
「交戦せずだと!?それは本当か!?」
イオナリは必死に祈りつつ伝令兵の報告を聴くが、伝令兵の報告はイオナリの都合の悪い物ばかりであった。
「はい!1度も……しかも!それ以来、木を切る人がヨツメ隊が警備する(フリをしている)砦に戻って来なくなりました!」
「戻ってこないだと!?1人もか!」
伝令兵は沈黙した。これは、消極的な肯定でもあった。
それがイオナリにある嫌な予感を抱かせた。
「まさか……その敵部隊はヨツメ隊の空腹を待っているのか?」
奇しくも、ヨツメとイオナリの見解は一致したのだが、イオナリと一緒に伝令兵の報告を聴いた者はそれを否定した。
「それは無いと思いますよ」
そんな楽観的な意見に対してイオナリは激怒した。
「根拠は!?」
「いや……ですが、それだとムソーウ王国らしさとは明らかに違います」
「それくらい解っとるわ!だが現実を視よ」
楽観的な意見を言った部下を一喝すると、伝令兵に質問した。
「で、そのヨツメ隊と戦う気が無い部隊の名は?」
「オラウ・タ・ムソーウ……ムソーウ王国第三王女との事です」
そう、オラウはムソーウ王国恒例の単純過ぎる戦い方とは真逆過ぎる慎重でズルい戦術に拘り過ぎて、エイジオブ帝国最強の駒の警戒心を買ってしまったのだ。
「オラウ……」

さて……
あの砦と対峙してからまだ1週間。この程度ではあいつらはまだ参らんだろうな。
それに、今まで戦ってきたエイジオブ帝国の将校のあの賢さから考えて、そろそろ自分達が兵糧攻めを受けている事に気付いておるだろう。
……ん?
ドウカァー達が並んで私の前に立っている?
まさかと思うが……嫌な予感しかせんのう……
「オラウ様!」
うん……嫌な予感が更に増したのう……
「兄君であるカミカゼ様やマッホーウ法国から亡命なされたヌードン様は、既にエイジオブ帝国の砦を8つ以上も落としております!」
1週間で砦8個おぉーーーーー!?
これって、エイジオブ帝国が弱過ぎるだのって感じじゃないぞ!
まさか無人の砦……いや、流石に無いか。
無人の砦とは言え、砦は砦。落とせればそれだけこちら側の士気が上がる。
なら、やはりエイジオブ帝国が弱過ぎるからか……いや、前回の戦いから考えてそれも考えにくい。
では、ムソーウ王国やマッホーウ法国が強過ぎるからか……それではエイジオブ帝国に敗れたマッホーウ法国の生き残りがムソーウ王国に亡命した話と矛盾する。
ドウカァー共が今からやろうとしている馬鹿げた事とは、別の意味で嫌な予感がする。
「それに引き換え!我々は未だに砦を1つも落としておりません!」
おいおい。敵の砦を落とす速度と落とした数しか観ておらんのか?
たった1週間で砦を8つは流石に敵が弱過ぎると不思議に思わんのか?
数々の城を落として来たこの|豊臣秀吉(わたし)の勘が、ムソーウ王国が死地に足を踏み入れかけていると必死に訴えていると言うのに!
「ですので!我々にも敵砦への突撃命令を、お願いします!」
ドウカァーがそう言うと……私の配下の一般兵全員が深々と立礼しおった。
これが非常に困った。
かつての|豊臣秀吉(わたし)なら速攻で却下するのだが、私のオラウとしての初陣が却下してはいけないと訴えておる……
そう!
こやつらはこうやって私の将校としての技量を試しておるのだ!
これはつまり、こやつらに突撃を下知する程の度量が有るかを計っておるのじゃ!
だが!|豊臣秀吉(わたし)の様なズルを主体とする卑怯な智将にとっては愚の骨頂!迷惑の極み!
かと言って、こやつらの説得に失敗すればムソーウ王国は|豊臣秀吉(わたし)に司令官不向きの烙印を再び容赦無く押すだろう。
さて……
どうしたものか―――
その時、|豊臣秀吉(わたし)は何故か菊子(淀君)と拾(秀頼)の事を思い出してしまった。
何故このタイミングで?……
そうか!|豊臣秀吉(わたし)が突撃至上主義のムソーウ王国第三王女として再び生を受けたにも拘らず、未だにズルい戦術を繰り返したがるのはそう言う事か!?
拾(秀頼)よ!私は初めてお前に命を救われたぞ!

「君達、家族いる?」
私の予想外の言葉にこやつらがキョトンとしておる。それだけ私の第一声は予想外過ぎたのだろう。
「何故です?なぜこのタイミングで家族の話を?」
「この私がお前達の家族の恨みを買いたくないからだ」
……こやつら……私が言ってる意味が理解出来ずに首を傾げておる……
「何故です?オラウ様が我々に突撃命令を出したくらいで我々の息子達がオラウ様を恨むのです?寧ろ、オラウ様が突撃命令を出すのを躊躇して我々の名誉を傷つけた事の方が、我々の息子達の恨みを買う可能性が非常に高いのでは?」
……こやつら……本当に馬鹿過ぎる!
こんな簡単な事すら|豊臣秀吉(わたし)が丁寧に教えないと解らぬとは!
こやつらの家族は堪ったもんじゃないのおぉ!
「違うな!愛する者を失った遺族の恨みの前では、その様な戦い一辺倒の綺麗事は効かぬ!」
その途端、突撃命令を得るべく私に頭を下げた連中の中から不満の声が次々と叫ばれる。
「では何か!?俺の妻はこの戦いの重要性を理解出来ないくらい馬鹿だと罵るか!?」
「俺の親父が聞いたら!必ず怒り狂うぞ!」
「我が娘が何の戦果も揚げず逃げ帰った我を見て喜ぶと本気で思っておるのか!」
「やはり貴様は、私や私の息子に恥を掻かせるだけの汚物じゃ!」
本当にこやつらの家族は堪ったもんじゃないのおぉ!待たされる側の身にもなれ!
「そんなの!お前達の勝手な想像だろ!いや、綺麗事だろ!」
この舌戦、絶対に負けられぬな!この馬鹿共の帰りを待つ家族の為にも!
「突撃大好きなお前達の言う『戦死』と愛する者の帰りを待つ者の言う『戦死』とでは、重さが違い過ぎるんだよおぉーーーーー!」
「何を言っておる!?名誉の討死を愚弄するか!?」
「愛する者を失った遺族にその様な言い訳が効くか!遺族共は愛する者を失ったんだぞ!」
ここで、|豊臣秀吉(わたし)は一気に畳み掛ける!
「遺族にとって、無知蒙昧で無謀愚策に突撃命令を出して愛する者であるお前達を無駄死にさせた私は、愛する者を殺した敵なのだ!そして、遺族達はお前達を犬死させた愚かで馬鹿な私に向かってこう言うだろう……『こいつさえいなければ私の夫は死なずに済んだのに!』、『俺の父が死んだのに何で貴様がのうのうと生きている!?』、『俺の恋人を返せ!この馬鹿女が!』、『貴様を殺してわしも死ぬぅー!』などとな!」
|豊臣秀吉(わたし)の熱弁にキョトンとするドウカァー達。
まあそうだろう。
お前達の家族がお前達の言う名誉の戦死を完全否定したと言っておるのだからな。
「……では……オラウ様は我々に……どうしろと言うのです……」
|豊臣秀吉(わたし)はハッキリと言ってやった。
「そんなの決まっている。お前らが死なずに敵に勝利すれば良いだけの事じゃ」
ま、|豊臣秀吉(わたし)は本当にその様な事が出来るとは思っておらんがな。
戦場に進んで立つ事は死に急ぐと同義じゃ。
だが!だからと言って味方の損害を最小限に抑える努力を怠って良い理由とも思っておらん!
味方の損害を最小限に抑えながら敵に最大限の損害を与える!|豊臣秀吉(わたし)のズルはその為にあるのだ!
「だからお前達に今この場で誓おう」
そう言いながら私の首に|豊臣秀吉(わたし)の刃を突き付ける。
「私のこの命に賭けて!お前達の家族に愛する者を失う苦痛を絶対に与えないと!」
そんな|豊臣秀吉(わたし)のズルいワガママにとっては、『兵を損なわずに敵を皆殺しにする方法など、決して存在しない』と言う残酷な現実など知った事か!
私は|豊臣秀吉(わたし)の戦い方で戦う!ムソーウ王国やマッホーウ法国の戦いの流儀と言う名の無謀に素直に付き従う義理は無い!
味方の損害を最小限に抑える為に!

ドウカァー

年齢:50歳
性別:男性
身長:181cm
体重:70.5㎏
職業:オラウ大隊中隊長
武器:ロングソード、ショートスピアー
趣味:演武、模擬戦
好物:突撃、勝利、勇猛
嫌物:臆病、卑怯、遅延
特技:突撃
苦手:高等戦術、慎重、腹芸、深読み

ムソーウ王国百人隊長。ムソーウ王国らしさが不足しているオラウのお目付け役としてオラウ隊に配置された。
最初の内は一騎当千と鎧袖一触に慣れ過ぎたムソーウ王国に所属する兵士特有の突撃至上主義に完全に染まっており、オラウの慎重で遠回りな戦術に不満を抱く事も多かったが、オラウの真意を知って以降は少しずつだがオラウに心酔する様になっていく。
イメージモデルはドゥーガ【王様戦隊キングオージャー】。

第5話:裏切り者対策が足りない……

前回のあらすじ

兵力を温存しながら勝利して魅せると啖呵を切る事で部将に復権したオラウでしたが、相変わらずアニマの小動物に関する魔法を使った情報収集と敵砦が放った木こりの抹殺ばかりで一向に敵砦を攻めないオラウに副将兼お目付け役の『ドウカァー』はイライラ。
一方、エイジオブ帝国王室側近軍師で物語の黒幕の『イナオリ・ネッジー』はムソーウ王国軍の資源収集用砦破壊速度の速さに多少驚きつつも「想定内……だが問題は無い」と余裕を保っていたが、オラウの資源収集用砦破壊速度の遅さを知った途端に想定外だと言って急に慌てふためき始めた……
その後も他の部隊が敵砦を次々と攻略する中、オラウは慌てる事無くただひたすら敵砦が放った木こりを皆殺しにする事に没頭。ドウカァーは遂にオラウに指揮官の資格が無い事をオラウに告げ、それを王都に報告しようとします。
それに対し、オラウはドウカァーをどうにか説得しようとしますが、その時脳裏に浮かんだのは産まれたばかりの秀頼の顔。
その直後にオラウが口にした言葉が、
「君、家族いる?」
残された遺族の悲しみや怒りをドウカァーに伝えたオラウは、ドウカァーに自分の部隊に所属する兵士の家族を絶対に悲しませないと誓う事でドウカァーをどうにか説得し、王都への怠慢報告を取り下げさせます。
とは言え、本当は友軍の連勝報告の連続に焦るオラウ。だがそれは功を焦っているからではなく、自分達が敵の手の平で踊らされているのではないのかと言う不安と恐怖からくるものでした……

へべく

昨日はどうにか私達の部隊の無謀な突撃を阻止する事が出来たが……
他の部隊はたった1週間で敵の砦を8ヵ所も落とすとは、1日に幾つのペースで敵の砦を落としておるんじゃ……
部隊を複数に別けて1度に複数の砦を襲撃しておるのか?
……いや、それでは単純に砦を攻める兵力が減るし、部隊を多数の小隊に別ける程の兵力を与えられた様子は……ありえなくもないか。率いているのがムソーウ王国の第一王子とマッホーウ法国の第一王女だし、もしもの為にかなりの兵力を与えて万が一の……
いやいや!
|祖国(このくに)に関して言えば、身分や家柄が人事を左右するとは思えん!寧ろ、|祖国(このくに)の人事は戦闘力と無謀さに左右されている……
……あれ?
これだと、かえって1週間で敵の砦を8ヵ所も落としたに信憑性が失われるぞ?
突撃一辺倒な馬鹿に、自分の部隊を複数に別ける程の知恵が有るのか?|豊臣秀吉(わたし)的には有って欲しいとは思っておりますが。
まさかとは思うが、律義に全軍前進だけで敵の砦と戦っている?
まさか!
つまらない夢ですわ!子供っぽくって、|豊臣秀吉(われ)ながら呆れてしまいますわ!
……あれ?
自分で言ってて……なんか物凄い不安を感じてるぞ!?
「でんれえぇーーーーーいぃーーーーー!」
何じゃ何じゃ!?
伝令兵のいきなりの涙声は!?
不安しか感じんぞ!
「どうした!何が遭った!?」
滝の様な涙を流しながらスライディング土下座する伝令兵を見れば、ドウカァーでなくとも、事情を問い詰めたくなるわな……
「カミカゼ・ダ・ムソーウ様ぁーーーーー!不可解な死を遂げられましたあぁーーーーー!」
え?……
死んだ?……
カミカゼって、|祖国(このくに)の第一王子だよ!跡取りだよ!
その人が死んじゃったら、|祖国(このくに)不味いでしょ!
と言うか、ドウカァーの奴、完全に黙っちゃったよ。
これこそが一騎当千の名将に指揮権を与える事のデメリット。
もしその一騎当千の名将が討死すれば、敵軍の士気が爆上がりし、自分達の士気が消滅するのは火を見るより明らか!
故に、一騎当千の名将の使いどころは意外と難しいのだが、|祖国(このくに)はそんな事も考えずに一騎当千の猛将を惜しげも無く突撃させたがる。
寧ろ、「階級が部将以上の将校全員が一騎当千の猛将であれ!」とか抜かす狂った一面があるからのう……
……にしてはどうも引っ掛かる……
何故『討死した』と言わずに『不可解な死』と言ったのだ。
と言うか、
「カミカゼ兄上は、いったいどの様に亡くなられたのです?」
|豊臣秀吉(わたし)の質問に対し、伝令兵は未だに滝の様な涙を流して涙声で告げる。
「解りません!」
え……
「解らない……とは?」
「エイジオブ帝国が勝手に設置した砦を23ヵ所も落とし、エイジオブ帝国の手に堕ちた植民地を見事に奪還なされたのですが―――」
「あー、もういい。今ので全て理解したから」
しまったなぁ!その手があったか!?
と言うか、そんなに急に敵国の領域を攻め落としたら、同行した一般兵が疲れ果てたり、再起不能な程の大怪我をしたり、戦死したりするだろ?
エイジオブ帝国はそれを見越し、疲れ果てている部下共に甘い邪な囁きを与えて裏切りを促す。
エイジオブ帝国にとっても損害が多い戦略ではあるが、上手く嵌れば手に余る強敵が勝手に自滅してくれる。
鎧袖一触と一騎当千を重んじる|祖国(このくに)と戦う上で、これ以上的を射ている戦い方はあるまい!
「何だと!?何時の間にかカミカゼ殿下の頭が無くなっていただと!?何でそうなる!?」
「我々にも解りません!カミカゼ様は野営地でおやすみなされていただけなのに、朝起きてカミカゼ様を呼びに往ったら、何故かカミカゼ様の頭が消えて無くなっておりました!」
伝令兵とドウカァーはこの状況を不思議そうに首を傾げておるけど、|豊臣秀吉(わたし)は最後まで聴かずとも事件の詳細が解る。
「カミカゼ兄上が率いる部隊に裏切り者がいて、その裏切り者が夜中の内にカミカゼ兄上を―――」
「ありえません!」
ドウカァーの奴、何を馬鹿正直に否定しておるのじゃ?
どっちにしろ、その寝静まった深夜に何かが遭ったのは確実だと言うのに。
「根拠は?」
「オラウ様!我々のムソーウ王国への忠誠心を疑って―――」
「その忠誠心や罪悪感を抜きに根拠を述べてみろ?カミカゼ兄上が率いる部隊に裏切り者が1人もいない理由を」
この点は徹底的に正さねばならん!
「ドウカァーが言う根拠無き楽観的な推測程、戦場にとってとてつもなく邪魔な物は無い!だからこそ!部隊を率いる指揮官は様々な事態を事前に予測し、敵軍が意表を突こうと卑劣なズルをしても即対応出来ねばならんのだ!それこそ!自分が率いる部隊を護る為の指揮官の責務だ!」

ん?
アニマの奴、どうも顔色が悪いぞ?
「どうしたのだアニマ?」
「……似てるんです」
アニマのこの言葉に、ドウカァーの馬鹿垂れは言ってる意味が解らないとばかりに首を傾げおった。
「似ている……何の事ですかな?」
すると、アニマが急に私に謝罪し始めおった。
「ごめんなさい!この事をもって早くに言えば良かったんだと思うけど、僕と一緒にこの国に逃げた人達から『祖国の恥を軽々しく口にするな』と釘を刺されていたから……言い訳だよね?そんなの」
何?そのふざけた釘は?
|豊臣秀吉(わたし)にとっては、助け舟を出した者への恩を仇で返したとしか思えぬ愚行よ。
と言うか、敗北だけが愚者の証ではないぞ。
お陰でマッホーウ法国がどれだけ弱いのかがハッキリと解ったわ!
|マッホーウ法国(こいつら)……強大な魔法に溺れ過ぎて反省の仕方を完全にド忘れしておるのじゃ!
だから、マッホーウ法国は何時まで経っても敗北者の逆が出来んのじゃ!
常敗無勝の愚者の証。
それは、何の反省もせずに同じ失敗を何度も繰り返す事じゃ!
で、アニマがやっと語ってくれたマッホーウ法国敗北の顛末は、ほとんど|豊臣秀吉(わたし)の予想通りじゃた……
最初の内は鎧袖一触の一騎当千に相応しい常勝無敗の快進撃を続けていたが、2週間ぐらいから将校の不可解な突然死や行方不明が相次ぎ、とうとう法王自ら出陣せねばならぬ程将校不足に陥り、兵力をほとんど失ってマッホーウ法国と同様の鎧袖一触な一騎当千を誇るムソーウ王国に頼る以外の勝算を完全に失った……
これ……
「もっと早くに言って!」
だが!|豊臣秀吉(わたし)のこの文句を聞いて、ドウカァーは何故か首を傾げおった!
「それを聴いてどうするのです?」
「アホかァーーーーー!」
自分達がそうならない様に対策を練る為だろうがぁー!
寧ろ、何も知らずに戦う方が恥じゃ!
と言うか、アニマがこんな大事な事をこの土壇場で言う理由に呆れたわ……
正に、ダメな大人に囲まれた子供の気の毒さの体現だな……
「ん?待てよ?」
「どうか致しましたか?」
「我々ムソーウ王国参戦前からあったカミカゼ兄上の裏切られての死の予兆、このムソーウ王国に逃げ込んだマッホーウ法国生き残りの中に気付いた者はおるか?アニマ以外で?」
……その後のアニマの説明を聴いた|豊臣秀吉(わたし)は、その小さな体がゆっくりと傾いていき、傾いていき……
その後の私の記憶が無かった……

一方、ムソーウ王国撃破の為のある作戦を実行するべくムソーウ王国領土内に造った資源強奪用砦に駐屯しているヨツメは焦っていた。
「何いぃーーーーー!?他の部隊は既にカミカゼ・ダ・ムソーウ討伐を完遂しただとおぉーーーーー!?」
カミカゼ・ダ・ムソーウと言えばムソーウ王国第一王子であると同時にムソーウ王国有数の強豪将校である。
それが、同僚がエイジオブ帝国から賜った作戦を使って殺し、カミカゼが指揮している部隊もエイジオブ帝国から賜った作戦によってほぼ|解散状態(・・・・)である。
それだけではない、他の同僚達もムソーウ王国自慢の将校達をエイジオブ帝国から賜った作戦を使って死地に追いやっているのだ。
それに引き換え、肝心のヨツメ隊はオラウ隊をエイジオブ帝国から賜った作戦に|誘き寄せる《・・・・・》どころか……一戦も交えていないのだ……
それどころか、オラウ隊は他のムソーウ王国将校とは違って、ヨツメ隊の空腹を待っている様にしか視えないのだ。
「不味い不味い不味い!このままでは……」
とは言え、エイジオブ帝国から賜った作戦はムソーウ王国将校の様な無知蒙昧な特攻しかしてこないマヌケとの戦いを想定した物であり、決してオラウの様な敵の空腹を気長に待てるズルい卑怯者には効果が薄いのだ。
「敵がこの砦を襲うのを待ち、防戦するふりをしながら撤退し、敵に砦を落としたと勘違いさせて更に敵の冷静さを奪う。それを繰り返しながら敵の疲弊を待ち、その間にこちら側の聖職者が敵の下っ端を次々と言葉巧みに転向を促し……の……筈だったのだあぁーーーーー!」
そこへ更にヨツメにとっては凶報がこの砦に届いてしまう。
「イナオリ様、イェニチェリを率いてこちらに向かって来るとの事です!」
「何でだよ!?奴は、イナオリは王室側近軍師だろ!なら、あのまま帝都に籠ってただひたすら作戦を考え……」
ヨツメのこの言葉は、イナオリ如きに手柄を横取りされたくないと言う思いがあった故に言った陰口の様なモノだったが、言ってる内に自分の言い分にある種の矛盾がある事に気付いてしまう。
「待てよ……帝都に籠ってひたすら作戦を捻り出し続けたから気付けたのか……あいつらが俺達の空腹を待っている事に……だから、イオナリの奴があいつらを危険視した?」
しかも、マッホーウ法国を攻め滅ぼした時ですら1度も使用しなかった特殊部隊イェニチェリを自ら率いてだ。
だが、これを悪く言うと、マッホーウ法国はイェニチェリを引き摺り出す事すら出来ず、まんまとエイジオブ帝国の作戦に簡単に引っ掛かって惨敗したのだ。
「つまり、イナオリはイェニチェリを使ってあいつらを一気に滅ぼし、後顧の憂いを消し去る事で、自分が考えた作戦が失敗した事を揉み消す魂胆か?」
それはつまり、ヨツメ隊がオラウ隊をイナオリが考えた作戦に引き摺り込めなかった事を意味する。ヨツメにとっては屈辱だ。
「これは不味い!何とかせねば!」

だが、焦ったヨツメが出した答えは……
「出撃じゃぁ!」
先ずは自分達が突撃をしてオラウ隊の突撃欲を刺激し、そのままエイジオブ帝国から賜った作戦に引きずり込むと言う……戦術に明るい者なら「無策」と口にしそうな本末転倒な作戦であり、就き合わされる部下達は不満げである。
「大隊長」
「なんじゃ!」
「これでは、我々の被害も甚大なのですが」
だが、帝都からイナオリとイェニチェリを引き摺り出したオラウに翻弄された無能な司令官と烙印を押される事を過剰に嫌がるヨツメには届かなかった。
「じゃあどうしろと言うのだ!?このまま俺達が空腹になってイナオリに手柄を奪われろと言うのか!?」
「それで勝てるなら」
本当にエイジオブ帝国に忠誠を誓っている兵士にとってはどうでも良い話である。つまり、勝てはよかろうなのだ。
しかし、オラウが図らずも植え付けた屈辱に耐えられなくなったヨツメにとってはどうでもよくない事だった。
だが……

ついさっきまでオラウ隊の野営地があった筈の場所にいたのは……何も無かった……
「何で……奴らはどこじゃ!?」
ヨツメ隊はオラウの罠に嵌ったと思って円陣を組んで鉄砲を構える。
が……
1時間待っても、2時間待っても、4時間待っても、8時間待っても、16時間待っても……
「敵伏兵の奇襲は……ありませんでしたな?」
副官からの嫌味な報告に歯軋りするヨツメ。
「何でじゃあぁーーーーー!あいつら、どこまでこの俺達をおちょくれば気が済むのだあぁーーーーー!」
故に、ヨツメは何でオラウ隊がここから立ち去ったのか?その理由に気付く事は無かった。
オラウ隊がこの場を去った最大の原因が、エイジオブ帝国の作戦に何度もまんまと引っ掛かったムソーウ王国とマッホーウ法国の無知蒙昧で無茶無謀な戦術である事を。そして、オラウにその選択をさせたのがエイジオブ帝国がカミカゼ・ダ・ムソーウを謀殺した事だと。

この時の|豊臣秀吉(わたし)は完全に焦っていた!
「急げぇー!大返しじゃぁー!」
|豊臣秀吉(わたし)は自分達の部隊にアニマの姉であるヌードン・マッホーウを救助しようと野営地を払い、大急ぎで反転した。
ドウカァー共は|豊臣秀吉(わたし)のこの行動の意味を全く理解しておらなんだが、機転を利かせてヌードンを裏切ろうとしている者に突撃すると言って説き伏せた!
と言うか、何でヌードンが窮地なのかが未だに解らん時点で、ムソーウ王国は色々と末期やもしれんな……
「このままでは、ムソーウ王国はエイジオブ帝国の魔の手からヌードン殿下を護りきれなかった敗北者として罵られてしまうぞぉー!必ず……必ず間に合わせるのじゃー!」

だが……
散々急いだその結果が……
「ヌードン様ぁー!何処にいらっしゃるのですかぁー!?」
「ヌードン様ぁー!出てきて下さぁーい!」
「ヌードン様ぁー!ヌードン様ぁー!」
肝心のヌードンが率いていた部隊が必死にヌードンを探している姿であった……これはつまり……
私は藁にも縋る思いで質問した……
「これはどう言う事じゃ?ヌードン殿下はどちらに?」
だが……兵士達の返答は|豊臣秀吉(わたし)の予想通りであった。
「それが……一昨昨日の朝から行方不明なのです!」
その返答に、アニマは蒼褪めて倒れ、ドウカァーが慌てて受け止める。
「アニマ殿?アニマ殿!?」
これってつまり……アニマも私と同じ見解を示したって事か……
……遅かったかぁー……
……取り敢えず……点呼をとろう。
そうすれば、私の予想が当たっているか外れているかが解る筈……
ま……大体想像は付くがな……
その証拠に、点呼をとる前に不届き者がもう尻尾を出しおった!
「さて……私の後ろにいる者は、何をしているのかなぁー?」
背後から私を殺そうとしている裏切り者を簡単に返り討ちにした私は、やや棒読み気味に裏切り者に訊ねるが、ドウカァー達やヌードンの部下達にとっては予想外の展開の様で、
「オラウ様!貴女は味方に何をしておるのです!?」
「その者は我々マッホーウ法国の兵士!何故その者にその様な無礼を!?」
「事と次第によっては、我々にも考えがある!」
あー……
つまり、現行犯逮捕にも拘らずこいつに裏切られる事をまったく想定していないと言う訳だ。
これは困ったぞ……これ、|豊臣秀吉(わたし)が居ようが居まいが、どの道ムソーウ王国はエイジオブ帝国に完敗するぞ!
と、私が思いかけたその時、
「この俺が、とっくに終わったマッホーウ法国に忠誠を誓う?この俺がそこまで現実を知らぬ馬鹿に視えるか……俺への侮辱もいい加減にしろよ!」
この裏切り者が馬鹿で良かった……
このままこいつが沈黙を守っていたら、私は乱心者として扱われて何も手出しが出来ない状態になってしまうところであった。
しかし、この馬鹿な裏切り者が頼んでもいないのに勝手に自白しおったわ。
「……お前……一体何を言っておるのじゃ……」
一方のドウカァー達は、まるでこの世に存在しない筈の物を見るかの様な感じで固まっておる。
……こりゃあ、本当の本気でムソーウ王国の戦術を根本から叩き治さなきゃならんなぁ……
「だが、賢い俺は違う。俺はちゃんとこの戦いがエイジオブ帝国の勝利で終わる事をちゃんと知っている。だから、ヌードンとか言う馬鹿女は生け捕りにしてエイジオブ帝国にくれてやったわ!」
……この裏切り者、本当に馬鹿だな!
本当に賢い奴は逆に自分の頭の悪さを目立たせるわ!能ある鷹は爪を隠すと言うしな!
それに、この場で自分の大将を敵に売ったって言うアホが何処の世界にいる!?あ、ここにいるか。
「何故だ……何故裏切った!?」
皆さん、さっきこの馬鹿過ぎる裏切り者が言いましたやん。
「どうせエイジオブ帝国が勝つから、エイジオブ帝国と組んだ方がましって考えていたでしょ?」
「そうだ!お前達の様な、マッホーウ法国の愚かさに気付いていないアホとは違ってな!」
それを私に組み伏せられている状態で言いますか?
|豊臣秀吉(わたし)的には、今の|裏切り(あなた)の方がとんでもない馬鹿ですよ?
ま、とにかく……
|豊臣秀吉(わたし)が予想していた最悪の事態は回避ならずと言う訳だ……ただ、ヌードンの生死を除いては。
「それはそうと、ヌードン殿下を生け捕ったと言ったな?それはつまり、まだ生きている事を意味するのだな?」
「ああ……あの馬鹿女を意味も無く殺せば、かえってこのアホ共の士気が上がっちゃって、エイジオブ帝国を敵に回す事がどれだけ自殺行為かが解んなくなっちゃうからな。俺って、優しいだろ?」
馬鹿はお前だよ。
「だ……黙れえぇーーーーー!」
その証拠に、我慢の限界に達したドウカァーがこの口が軽過ぎる裏切り者の頭をかち割ってしまった。

行きは大急ぎだったが……
私の今回の判断は完全に後手だった上に完全に無駄足じゃなぁ……
……完敗じゃ……完璧に……
「許せん!あの者はムソーウ王国の恥だ!」
ドウカァーさん、アンタの怒りは解りますが、所詮は人間ですよ。
欲深い人間程、自尊心や罪悪感より利益や損得を優先する。
その証拠に、かつての|豊臣秀吉(わたし)は、そんな利益や損得で物事を考えて下剋上に走った馬鹿を沢山見聞きして来たし、|豊臣秀吉(わたし)も出世の為に色々な物を利用して来た。清州城での信長様の跡取り決めで三法師を推薦したしね。
「それが人間だよドウカァー君。先程君に殺されたヴァカは、マッホーウ法国に就くよりエイジオブ帝国に就く方が得で正しいと思ったのだ。確かにドウカァー達が言うムソーウ王国への忠誠心は立派だよ。でもね、何を正しいと捉えるかは人々それぞれだし、損得勘定に溺れて損する正しいより得する誤りを選択するんだよ」
当然ドウカァーは|豊臣秀吉(わたし)の言う正論に反対する。と言うか、そう言う自尊心や罪悪感を優先する馬鹿が居ないと私も寂しいし辛い。
「何ですかその得する誤りって!そんなの、ただの恥ではありませんか!?」
得する誤りは恥……か。
人間全員がそんな良い意味で馬鹿ばっかならどれだけ楽な事か……
「ドウカァー、お前の心は案外綺麗なのかもな」
「変な事を言ってごまかさないで下さい!」
「そうだな……と言いたいところだが!」
その後に続く言葉はちゃんと念を押さねばならん事だ!
戦争には得する誤りと損する誤りしかなく、戦争に正しいが入り込む余地は無いのだからな!
「得する誤りで利益を得て味を占めた愚か者には、他人からの軽蔑の視線や正論に言わされた悪口は通用しない!得する誤りで得た利益を捨てたくないし、得する誤りを辞めた事で被る損害を恐れているからな。それが人間が本来やるべき正しいを蝕む邪な欲だし、その究極体が戦争なんだよ」
ドウカァーは以外にも黙った。てっきり、「ムソーウ王国の正しいを否定する気か!」と言って私を叱りつけるかと思ったのだが。
それだけ……あのマッホーウ法国を裏切ってまでエイジオブ帝国に利用された馬鹿の裏切り行為が余程ショックだったと言う事か?
でも……
「本当に正しい事をしようと思うなら、不要な殺しは極力避ける筈だ!寧ろ、これが正しい事だと周囲や大衆や世論に言い聞かせながら不要な殺しを続ける者こそが邪悪な偽善だ!」
ドウカァーは未だに沈黙を守っていた。
……不気味な程に。
「それにな、今回のヌードンへの裏切り行為はヌードン自身の罪でもあるんだ」
「ヌードン様が!?……ヌードン様はエイジオブ帝国を蹴散らしてマッホーウ法国を奪還する事を望んでいた筈では?」
ドウカァーがようやく喋り始めたが、|豊臣秀吉(わたし)がここまで言ってやって、未だにムソーウ王国やマッホーウ法国が誇る一騎当千の将校による突撃一辺倒な考えにまだ囚われておる様じゃな……
「ヌードンはその心算でエイジオブ帝国に無謀な突撃を繰り返したが、それに付き合わされる一般兵は別じゃ。ムソーウ王国やマッホーウ法国が掲げる無謀な突撃について行けず、戦いに虚しさを感じたり死の危険を感じ始めた一般兵もいた筈じゃ」
「つまり、あの愚者は死にたくないからエイジオブ帝国に寝返ると言う誤りを犯したと言うのですか?」
やっとか……
ここまで言わんと気付かんか?
「つまりそう言う事だ。だから、カミカゼ兄上やヌードンが1週間で敵の砦を8ヵ所も落としたと聞いた時は焦ったよ。今回の様な裏切り行為が何時か起こってしまうのではないかと」
ドウカァーは再び黙った。
そりゃそうだ。
ムソーウ王国やマッホーウ法国が正しいと信じて行って来た戦法を、裏切りと言う最悪な形で完全否定されたのだからな。
「それと、今回の話はアニマに言わないでくれ。アニマには辛過ぎる現実だし、私はまだまだアニマを失いたくないからな」
「……解りました」
ドウカァーの力無い返答に、私は改めて戦争の非情さを知った気がした……

ヨツメ

年齢:42歳
性別:男性
身長:165cm
体重:81.6㎏
職業:エイジオブ帝国軍大隊長
武器:レイピア、火縄式ピストル
趣味:ボードゲーム
好物:出世、勝利、名声
嫌物:敗北、汚名、屈辱
特技:変装、忍び足、逆恨み
苦手:逆恨みを中止する

エイジオブ帝国軍大隊長。出世欲旺盛で好戦的な性格で執念は誰にも負けない。
ムソーウ王国崩壊計画『クーデタードア』の実行の為にムソーウ王国領内に造られた資源強奪用砦の内の1つを任されたが、肝心のオラウが前世である豊臣秀吉の記憶と知識を頼りにムソーウ王国本来の戦い方とは真逆の戦術を繰り返したせいで、クーデタードアの為に動員された他の大隊長との戦果差が歴然となってしまい焦っている。が、再三にわたってオラウ隊を陥れようとするが、ことごとく失敗に終わって、その度に酷いしっぺ返しを食らってしまう。でも、いつもめげずに悪巧みを働かせるあたり、どこか憎めない人である。
イメージモデルは四井主馬【花の慶次 -雲のかなたに-】。

第6話:再起経験か足りない……

前回のあらすじ

友軍が次々と敵砦を次々と破壊する事態に完敗の足音を感じずにはいられないオラウ。
そして早速敵軍師イナオリの思惑通りの凶報がオラウの許に届く。
何と、敵砦破壊速度が最も速かった第一王子が野営地内で死亡……しかもその頭部は行方不明……怖っ!
ドウカァー達は予想外の展開に驚き動揺する中、この展開をある程度予想していたオラウはまったく驚く事無く目の前の敵砦に対して行っていた干殺しを中断し、急遽アニマの姉が率いる部隊を救助する事を決断します。
だが、既に敵の砦を8か所も破壊しており、アニマの姉に関するオラウの不安は更に募ります。
そして……
アニマの姉が率いる部隊の野営地に到着した時には既に遅く……アニマの姉はエイジオブ帝国に寝返った一般兵達に拉致されて既に数日が経っていました……
一方、オラウ隊が未だに資源収集用砦を1つも墜とせていない事態に危機感を抱いたイナオリは、指揮官のオラウの賢さを危険視。
オラウと言う危険要素を排除すべくエイジオブ帝国特殊精鋭部隊『イェニチェリ』の前線投入を決意し、それを自分自ら指揮する事を決意するのでした。

へべく!

|豊臣秀吉(わたし)達は、ヌードン救助に失敗したその足で私達が落とす予定だった砦の前に戻った。
とは言え……失敗したとはいえヌードン救助を理由に1度はその場を離れたのだ。それってつまり……敵への兵糧攻めは1からやり直し……
「オラウ様!敵襲です!」
「敵襲!?奴らは既に兵糧の補充を終えた筈ではないのか!?」
|豊臣秀吉(わたし)は理解に苦しんだ。
色々と準備万端な時の|豊臣秀吉(わたし)が相手なら兎も角、守りが硬くて兵糧がたっぷりある砦を早々に放棄して野戦を選択する理由が思い浮かばない。
突撃上等なドウカァー辺りが喜びそうだが、嫌に不気味なのでそれは避けたい。
なにせ、こっちは奴らを砦の外に誘き寄せる事はなに1つしていないからだ。
……
……
……
またドウカァー達に臆病者とどやされるが、ここは背中を見せながらゆっくりと下がるか。
「全員、ゆっくり後退」
だが、今回はドウカァー達に何も言われなかった……
どうやら、エイジオブ帝国に寝返った元同胞に裏切られた事を未だに引き摺っておる様じゃな……
とは言え、それが自分達が目の前の敵に殺されても良い理由とはならん!
しかも!相手はどう言う訳か砦を捨てて私達に野戦を挑んでくれたのだ!下手に奴らに「砦に帰りたい」と言わせる道理は無い!
だが!だからと言ってこっちが兵を無駄遣いする道理も無い!
でも……これが意外と難しい!
鉄砲を持っている敵軍相手に付かず離れずを保ったままゆっくりと逃げるフリをするのは怖いし疲れる。
それに、
「あっ!?テメェ逃げてんじゃねぇ!さっさとお得意の突撃をしろよ!テメェらはそれでもムソーウ王国の軍隊かぁー!」
相手からの挑発が非常にムカつくものだ。いつものドウカァー達ならここで突撃していた事だろう。
しかし、
「逃げるな!戻れ!さっさと砦を攻め落とせ!」
よく聴いてみると……どうもただの挑発には聞こえない……
本来、挑発する側は堂々とする筈だ。
なにせ挑発とは、相手の誇りを刺激して相手の冷静さを奪う事を言う筈だ。故に、挑発はもっと悪口じみていなければならない筈だ。
だが、今回私達が受けている挑発はドウカァー達の怒りを買うと言うより……何かこう……何だったけ?
「敵の砦が目の前に有るんだぞぉー!お前達もムソーウ王国軍人の端くれなら、さっさと目の前の砦を落とせよぉー!」
そうだ!
逃げる味方に突撃を命令する無謀で非情な大将の見当違いな命令だ!
逃走を禁じ、敵に投降する事を禁じ、ただひたすら戦う事のみを強要した、情け容赦無い無謀な……
ってあれ?
アイツ、私達の敵だよね?
何でアイツに命令されなきゃならんのだ?意味が解らんわ!
「こんな小さい砦相手に何日掛かっている!?さっさとこの様な弱々しい砦、さっさと落とせよ!お前達はそれでムソーウ王国軍人かあぁー!」
それに……アイツ何か焦ってないか?
……
……
……
「後退は一旦中止。今日はここで野営する」
|豊臣秀吉(わたし)のこの命令に、ムソーウ王国やマッホーウ法国を裏切った連中にされた事が余程ショックだったドウカァーも、流石に反発する。
「ですが、敵軍は目の前ですぞ?」
……いつもより弱々しいがな……
とは言え、今回のドウカァーの言い分は間違ってはいない……筈……
だが、どう言う訳かあいつらに襲われる心配が全く無い!何故かは知らんがな。
でも、取り敢えずは交代で見張りを立てるぐらいはしておこう。

ドウカァーの言う通り目の前に敵軍がいると言うのに、何故か|豊臣秀吉(わたし)は目の前の敵軍に襲われない予感がしていた……
いや、確信していた!
その証拠に、あいつらは無謀で無慈悲な命令の様な挑発擬きを繰り返すばかりで、威嚇射撃すらしない。
……恐らくだが、|豊臣秀吉(わたし)にカミカゼやヌードンと同じ過ちを犯させようとしているのか?
……こういう時にアニマの動物操作を使いたいところだが―――
「調べて来たよ」
調べた!?
アニマがか!?
ヌードンが……仲が悪かったとは言え実の姉が敵に捕まってショックな筈のアニマがか!?
あのドウカァーですらあんなんなのに……
「……気持ちはありがたいが無理はするな……アニマだって辛い筈だろ?」
だが!アニマの意志と志気は意外と高かった!
「確かに敵に捕まったお姉さんの事は心配です。でも、此処で立ち止まったら何も変わらないですから!」
アニマ……お前はそこまで強い人間だったのか!?
「このまま敵に勝ち続ければ、もしかしたらお姉さんを助けられるかも知れない。もしお姉さんが既に駄目だったとしても、ある程度勝っておけばある程度は無念を晴らせるかもしれません」
エイジオブ帝国の戦術に姉を奪われた少年の勇気を振り絞ってのこの言葉……当然腑抜けになったドウカァー達に響いておるだろうな?
「だから……僕は僕が出来る戦い方をします!オラウさんが信じてくれたこの力で」
アニマ・マッホーウ見事なり!正にマッホーウ法国屈指のいくさ人よ!
すると、今までアニマの事を馬鹿にしていたドウカァー達が一斉にアニマの前で膝を屈した。
「アニマ様!お見事にございます!このドウカァー、感服いたしましたぞ!」
ここまで来たら、私は是が非でもアニマを手放せなくなったな。
「解った!アニマ・マッホーウ!その力、改めて私達の為に使ってくれ!」
その時のアニマは、年相応の笑顔を魅せてくれた。
「はい!」
私は本当に、ムソーウ王国やマッホーウ法国の中にいた味方の中では非常に頼もしい仲間を運良く手に入れられたものじゃ!
ただ、このお涙頂戴劇に水を差す様で悪いが、アニマのこの演説のせいで、ムソーウ王国が『突撃一辺倒で柔軟性が無い』に逆戻りだけは勘弁な。

で、アニマの報告によると、私達の野営地の前にいる敵軍の大隊長は焦っているとの事。
そこで、彼らは砦から出て野戦を挑むフリをして私の中に眠る突撃欲を刺激して突撃命令を出させ、私達の突撃に耐えられずに敗走するフリをして最初の砦を放棄、そのまま第二次砦まで撤退して私を勝利に溺れた状態にし、そのまま私をズルズルとカミカゼやヌードンと同じ轍に引き摺り込む。
それが奴らの作戦らしいとアニマは言うのだ。
「なるほどな……道理で|豊臣秀吉(わたし)が後手に回る事への危機感が欠如していた筈だ」
「と……申しますと」
やっぱりね。ドウカァーはこの程度の回りくどい説明だけでは理解出来ないのだ。ま、慣れましたけどね。
「つまり、この戦いは私達にあの砦を落とさせる為の、|接待(・・)みたなもんですわ」
「接……待……何でエイジオブ帝国が、今更我々の御機嫌取りを?」
やはり首を傾げるドウカァー。
そりゃそうだ。戦術が乏しい者にとって敵にわざと自分の城を落とさせる行為は、自殺行為以外のなにものでもないだろう。
だが!ヌードン救助に失敗した今の|豊臣秀吉(わたし)には解る!エイジオブ帝国が行っている接待合戦の本当の意図を!
「それは、私達が強いと勘違いさせて無謀な突撃を繰り返させる為だ!そんなエイジオブ帝国お得意の接待戦法にまんまと引っ掛かったカミカゼ兄上は、気付いた時には就いて来た一般兵達がエイジオブ帝国の甘言に絡め盗られてカミカゼ兄上を……」
|豊臣秀吉(わたし)の説明を聴いて難しい顔をするドウカァー。
「となると……我々はどうすれば?」
だが、|豊臣秀吉(わたし)にとってはこれは好機!
どっちにしろ、今のアイツらは砦の防御力を自ら捨てた状態。この機を逃す馬鹿はいない!
「大丈夫だ!|豊臣秀吉(わたし)に良い手がある!」

一方、一向に自分達への攻撃を行わないオラウ隊にイライラするヨツメ。
「くそぉー!俺が聴いた話では、既にムソーウ王国の攻撃を受けている筈なのにぃー!」
だが、オラウ隊は他のムソーウ王国軍将校とは違って慎重な戦術に徹底しているのだ。
これは正直、ヨツメに運が無かっただけなのだ。
なにせ相手は、エイジオブ帝国にとっては異世界と言える日本を掌握した天下人『豊臣秀吉』の生まれ変わりである『オラウ・タ・ムソーウ』だからだ。
豊臣秀吉は勇猛果敢で無謀で柔軟性が無い突撃一辺倒なムソーウ王国とは違うのだ。寧ろ逆だ。
戦わずして勝つ!
使える資金や人材を最大限に使用し、敵も味方も多数死者が出る直接的な戦闘は避け、味方を温存しながら敵を下す。特に城攻めに関しては、長期戦に持ち込んで敵方の餓死者を悪戯に増やしていく。
豊臣秀吉はそう言う男であり、オラウ・タ・ムソーウに生まれ変わっても『戦わずして勝つ』路線を頑固なまでに変えないのである。
だが、対するエイジオブ帝国は、ムソーウ王国やマッホーウ法国の得意戦術は熟知しているが豊臣秀吉の必勝戦術をまったく知らないのだ。だから、エイジオブ帝国はムソーウ王国やマッホーウ法国の得意戦術を参考に、わざと連敗を重ねながら敵軍を疲労させ、下っ端を巧みな甘言で転向を促し、敵軍の上層部を暗殺か捕縛する。真綿で首を締めるかの様な接待戦法『クーデタードア』を生み出したのだ。
が、そのクーデタードアが実行者であるヨツメから武運と悪運を奪う結果になってしまったのだ。
しかも、このクーデタードアがマッホーウ法国を滅ぼし、ムソーウ王国軍将校を次々と捕縛か殺害しているので、クーデタードアの欠点を指摘してくれる傑物に乏しいのも、長期戦思考なオラウと戦うヨツメを更に追い詰めたのだ。
「他の部隊は既に敵部隊を次々と壊滅させたと言うのに……何で俺だけ……何で俺だけえぇーーーーー!」
ヨツメにとっては屈辱だった。
このままだとヨツメは無能な指揮官と言う烙印を押されてしまう……ヨツメの出世街道が完全に閉ざされてしまう……
それだけでもヨツメを焦らせるには十分な要素だが、ヨツメが焦ってイライラしている原因はそれだけではなかった。
「あの馬鹿ガキは、イェニチェリは今どこだ!?」
「既に我が部隊の第四次砦で待機中です」
副官の報告を聴いて焦るヨツメ。
「もうそこまで来ているのか!?」
エイジオブ帝国王室側近軍師であるイナオリ・ネッジーは、オラウ隊が木こりだけ殺していると言う報告を聴いた時点で既にヨツメが実行しているクーデタードアの失敗を察し、その事実をオラウ隊諸共歴史の闇に葬り去ろうと特殊部隊イェニチェリを率いてやって来るのである。
このままでは、例えオラウ隊を撃破してオラウを捕縛または殺害してもイナオリの手柄になってしまう。
「クソオォーーーーー!早く、早くさっさとお得意な突撃しろよ!でねぇと……俺に恥を掻かせる心算かあぁーーーーー!」
故に、ヨツメは油断して致命的なミスを犯した。
「大変です!」
「今度は何だ!?」
「敵襲です!奴らが遂にこちらに突撃しました!」
報告を最後まで聞かなかったヨツメは、久々に……もとい、オラウ隊との戦いで初めて万遍の笑みを浮かべた。
「そうか♪予定通りだな♪では、早速撤退するぞ!」
そう言ってオラウ隊の野営地に背を向けるヨツメだったが、
「お待ちください!それでは敵軍と激突してしまいます!」
「何でだよ!?敵はどう視てもあっちだろ!」
そう言いながら背後のオラウ隊野営地を指差すヨツメだったが、
「ぎゃあぁー!」
「うっわぁぁ。何で最後尾である俺達が敵の突撃を受けているんだ?」
「敵が退路からやって来るなんて……聴いて無いぞおぉーーーーー!」
予想外だらけの報告に狼狽するヨツメ。
「何が……どうなっているのだ?」
だが、予定通りにオラウ隊が自分達に向かって無謀な突撃をしてくれたのだ!それを活かさねばとヨツメは判断した!
「撤退だ!第一次砦を通過しつつ第二次砦に向かうぞ!」
しかし、
「どうやって!?敵は第一次砦へと続く道から突撃しておるのですぞ!」
「……何!?」

やっぱりねぇ♪
奴ら、私達が前方から突撃した途端に即撤退して私達が勝ったと錯覚させ、そのまま私達に砦への無謀な突撃を促す作戦だった様だ。
だから、|豊臣秀吉(わたし)達は野営地の反対側から出て、アニマの動物操作魔法を使って相手に気付かれずに背後に回り込んだ。
上手い事背後を盗った|豊臣秀吉(わたし)達は、遂にドウカァー達待望の命令を下した。
「突撃!」
効果は絶大だった♪
背後からの攻撃を想定していなかった敵は、無抵抗で|豊臣秀吉(わたし)達の攻撃を受けてくれた。しかも、|豊臣秀吉(わたし)達が意参る所が敵の予定退路だからか、逃亡も蜘蛛の子散らすかの様に無秩序でデタラメ。
今回はまだまだこちら側の戦死者が出る可能性が大きい戦い方だが、今までの無知蒙昧で無茶無謀な突撃を繰り返して敵の接待戦法にまんまと引っ掛かったムソーウ王国にしては大きな1歩じゃ。反撃されずに攻撃する術を身に着ける為の第1歩となる事を祈るぞ!
と、ここで気を緩めてはいけない事態が発生した。
とは言っても、無秩序に混乱するのみだった敵が遂に反撃した……ではなくて!
手前味噌ながら、私が強過ぎるからだ!
何度も言っていると思うが、私が所属しているムソーウ王国の将校は、鎧袖一触が容易に出来る一騎当千でなければ部将以上に昇格出来ない。
当然、ムソーウ王国軍部将である私も一騎当千でい続けなければならない訳で……
「はあぁ!」
ムソーウ王国御自慢の戦技を使わずとも、私が軽く剣を振るだけで十数人の敵兵を木の葉の様に吹っ飛ばしてしまうし、ついつい敵兵を遠投してしまうし、戦技の1つである『光刃』を使えば遠くにいる鉄砲隊を近づく事無く簡単にまとめて斬り殺せる……
我ながら化物だなぁ……ムソーウ王国がムソーウ王国軍将校に求める戦闘能力と身体能力が人間離れ過ぎる……
これでは、有頂天になって戦術を疎かにした突撃に傾倒すると言う間違いを犯すのも無理は無いな。
だが、ここで反転の機を見落とす訳にはいかない。
「反転だ!砦を盗るぞ!」
「背後の砦に向かって突撃ー!」
ここまでは|豊臣秀吉(わたし)の予定通り。問題は、私達がどれだけあの砦に辿り着けるかである。
で、|豊臣秀吉(わたし)のこの言葉を聴いて慌てるのは当然敵大将。
「いい加減にしろよおぉー!それでもお前は、ムソーウ王国将校か!?この、臆病者オォーーーーー!」
……幼稚な挑発。必死だねぇ。
でもま、とっくに恥を掻かせているとはいえ、この馬鹿を無傷でほっとくのも癪に障る。
だから、私は「本当に|豊臣秀吉(わたし)か?」と言いたくなる程の速度で先程私を挑発した男に近付き、死なない程度にかつ跡が必ず残る程の斬撃を奴の顔に叩き込んでやった。
「ぎゃあぁーーーーー!」
|豊臣秀吉(わたし)がした事はそれだけであり、敵の砦に向かって突撃させたドウカァー達の許に戻る事にした。
一方、大混乱して無秩序にバラバラに逃走する敵兵達の中に私達がさっきまで使っていた野営地に逃げ込む者もおったが、そこは生憎、既に無人よ。
その後、|豊臣秀吉(わたし)達は敵が戻ってくる前にエイジオブ帝国がついさっきまで使用していた砦に入城し、アニマ達が既に砦を落としてくれていた事を確認した。
「アニマ、無事だった様だな?」
アニマの明るい笑顔が、この砦を容易に落とせた事を物語っていた。
「はい。僕達が辿り着いた時には、既に誰もいませんでした。正直言って不気味だったので、この近くに暮らす蟻達に周囲を探索させたけど、今のところはこの砦に危害は無いらしいよ?」
確かに、無人の砦を落とすのは意外と勇気がいるし、アニマの言う通り逆に不気味だ。だから、アニマの今回の過剰な警戒はあながち間違っていない。
が、今回は杞憂と徒労に終わった様だ。
「だとすると……アイツはこの砦の戦力を全てあの野営地に向けたのか……」
カミカゼやヌードンの失態を考慮すれば、この砦を捨てて今回の挑発に賭けたのも頷ける。
だが無謀だ。今回の様に捨てた砦が敵に利用される事態もあり得る訳で……
「ま、考えてもしょうがない。せっかく手に入れた砦だ。有効利用させて貰うよ!」

一方、ヨツメは誰もいないオラウ隊野営地に駆け込み、そこで残り僅かになった部下達の治療を受けていた。
「ふがもがけだぁーーーーーあ!」
ヨツメは顔半分が包帯で覆われて口が塞がっている状態なので副官が代わりに集合の合図を掛けたが、ヨツメと合流出来たのは10人にも満たない。
ある者はオラウ隊に討ち取られ、ある者は一目散に逃げる事に夢中になり過ぎて大隊とはぐれて行方不明。
正にヨツメ隊の完全敗北である。
「ふがげがぁーーーーー!」
ヨツメは激痛と屈辱にもがき苦しみながらオラウに復讐を誓った。
それもただの復讐ではない。オラウを生け捕りにして永き生き地獄に堕としてやると誓った。そう、エイジオブ帝国の他の部隊に捕縛されたヌードンの様に。

第7話:適度な恐怖心が足りない……

前回のあらすじ

結局、エイジオブ帝国に寝返った裏切り者の魔の手からヌードンを護りきれなかったオラウ隊は、意気消沈しながら自分達が攻撃中の砦に戻る事になりました……
しかし、ヌードンの弟アニマの一喝によって自分達が同胞の死を悲しんでいる場合じゃない事に気付かされ、再び奮起します。
一方、オラウ隊と戦うヨツメ隊は、エイジオブ帝国の十八番であるクーデタードアがまったく通用しないオラウ・タ・ムソーウに対してイナオリが率いるイェニチェリをもって一気に駆逐する事が決定されたと聞き、功を焦って野戦に方向転換します。
この展開に、兵糧攻めを始めからやり直しを覚悟していたオラウは大喜び!
上手い事ヨツメ隊の背後に回り込み、後ろから奇襲してヨツメの顔に消えない傷をつけて大勝利!
しかも、砦も無傷でゲット!
踏んだり蹴ったりなヨツメ大隊は、兵力を10人未満に減らしてしまってもなお、オラウへの復讐を固く誓うのでした。

へべく!

イナオリ・ネッジー。
この少年は強運の男だった。
事の発端は、故郷の村の近くの洞窟に興味本位で入って、そこで手に入れた粉を持ち帰った事だった。
この粉は火を点けるとポンと破裂する事から『炭酸粉』と名付けた。
最初の内は少量の炭酸粉を破裂させて驚かす程度の悪戯を繰り返していたが、ある日、炭酸粉が破裂した衝撃で小石が勢いよく飛んだのを観て、とんでもない事を思いついてしまった。
「|炭酸粉(これ)を使ったら、大きい投石器をもっと小さく出来るんカモ?」
そう思ったが吉日とばかりに炭酸粉を使った石飛ばし実権を繰り返し、その結果、投石器の小型化に成功。豊臣秀吉がかつて居た世界で言うところの『鉄砲』や『大筒』を完成させた。
だが、直ぐには売れなかった……
その原因は二大強大大国、ムソーウ王国とマッホーウ法国が強大過ぎて一騎当千による突撃が最強の戦術と言う常識が根付いてしまったからである。
故に、遠くから石や鉄を飛ばすだけの鉄砲や大筒の有効性を伝える新たなる戦術を提示する必要が有った。
その時、行商達がクマに襲われる事件が多発した。
被害者である行商達にとっては凶災だが、イナオリにとっては吉兆だった。
先ずは、逃げ切った行商と死亡した行商の差を分析した。
すると、逃げ切った行商には荷物の奪還を早々に諦めたと言う共通点がある事を発見し、この分析が『執着心を逆撫ですれば敵を誘き寄せられる』と言う結論をイナオリに与え、これが後に接待戦法『クーデタードア』へと発展する。
次に、加害熊との戦いで鉄砲や大筒のを立証し、後にエイジオブ帝国となる弱小小国の目に留まり、多くの行商達を襲った熊との戦いで得た戦術をふんだんに発揮した。
鉄砲や大筒を使って遠くから安全に攻撃出来る事と、敵の闘争心と執着心を利用して冷静さを奪う戦法が的を射た事で、イオナリはトントン拍子に出世し遂には王室側近軍師に就任した。
そんなイナオリを雇ったエイジオブ帝国もまた、当時の世界の常識にとっては異彩過ぎる戦術が功を奏してトントン拍子に勝利を重ね、遂には二大強大大国の一角であるマッホーウ法国にすら勝利した。
だが、そんなイナオリの強運はある日を契機に終焉を迎えた。
豊臣秀吉の生まれ変わりであるオラウ・タ・ムソーウが、もう一角の強大強国であるムソーウ王国の第三王女として生を受けたのが原因であった。
つまり、オラウにはクーデタードアがまったく通用しなかった……
それどころか、指揮している部隊をほぼ無傷でヨツメ大隊が担当する砦の第一次をほぼ無傷で占拠してしまったのだ。
「で……砦を占拠しているオラウ・タ・ムソーウは?」
「まったく動きません」
イオナリはその報告を聴いて頭を抱えながら天を仰いだ。
「……そこら辺の馬鹿な将校とは違うと言う事か……早急に討たねばとんでもない禍根になるな……」
そこへ、
「ヨツメ大隊長の救助と送迎、たった今完了しました」
「……どこにいた?」
「ムソーウ王国の野営地です。既に無人でしたが」
イオナリは溜息を吐きながら顔を青くする。
「何をやっているんだ?エイジオブ帝国の将校がクーデタードアに引っ掛かってどうするんだ?」
呆れたイオナリはヨツメを呼ぶが、
「お呼びかな?軍師殿?」
「ヨツメ隊長、君は……」
ここでイオナリが口を閉じる。
そうでもしないと……場違いな大笑いをしてしまいそうだからだ。
ヨツメの口はオラウの斬撃のせいで両耳元まで裂けてしまい、そしていつも笑っている様な顔になってしまったのだ。
「うんぐっ!……こ、怖がっても……良いのか?」
笑いを堪えながら質問するイオナリにムカつきながらも、ヨツメは大人の余裕を魅せる様に冷静に答えた。
「それで軍師殿の気が晴れるのであれば……」
その途端、イオナリは笑いを堪えながらわざとらしく怖がった。
「うわぁー、怖ぁーい。そんな大口で迫れたらー、食べられちゃうぅー」
完全に棒読みである。
「何を言っているのですか軍師殿ぉー。私は人食いなどと悪趣味、しませんよぉー」
口ではそう言っているが、ヨツメは心の中でオラウを食い殺す勢いで恨み狂っていた。
(おのれオラウ・タ・ムソーウめ!必ずや『全裸で地下牢生活』を堪能させてくれるわ!)
大人の余裕とか……全然無かった!

さて……
敵の指揮官が功を焦ってくれたお陰で、思ったより早く1つ目の砦を落とす事が出来たが、その敵指揮官が焦った理由についてちょっと困った事になってもうた。
「『いぇにちぇり』……とは何ぞ?」
アニマの動物を操る魔法で敵の焦りの理由を調べたら、いぇにちぇりと言う何者かが到着する前に決着を付けようとしていた様だが、肝心のいぇにちぇりの正体が解らぬのでは意味が無い!
マッホーウ法国の残党に訊ねようにも、どいつもこいつもエイジオブ帝国の接待戦法に完全に翻弄されていぇにちぇりを引き摺り出す事が出来ない体たらく……
実際にエイジオブ帝国と戦った連中ですらいぇにちぇりについて知ってる事はこの程度でしかないので、致命的に|忍者(くさ)が不足しているムソーウ王国がいぇにちぇりの正体をまったく知らないのも無理は無い。
ここに来て、未知の敵の正体が解らぬ状態で戦うとは……頭が痛いのう。
そうやって|豊臣秀吉(わたし)がいぇにちぇりについて悩んでいると、ドウカァーが慌てた様子で進言しに来た。
「オラウ様、急ぎ次の砦を落とす必要性が出てきました」
「|ムソーウ王国王室(わたしたち)は人の味を知り過ぎた熊か?」
「熊?それはどう言う意味です?」
「執着心に溺れて恐怖心を失った熊ほど厄介な存在はいないと言う事だ。そうなってしまった熊は警戒心が無いから逃げると言う選択肢が無い。ただ真っ直ぐ己の欲望に向かって進むのみ。例えそこに罠や待ち伏せが遭ってもな」
過剰に敵を恐れ過ぎて好機を逃す臆病者も馬鹿だが、警戒心が欠如した勇猛果敢のみの愚者も馬鹿じゃ。恐怖心や警戒心を完全に失った味方は敵よりも怖い。何時味方の足を引っ張るか解らぬからのう。
が、ドウカァーは完全に困り果てている。どう言う事じゃ?
「ですが、今の我々に寄り道をしている余裕はありません」
「ん?何でじゃ?」
「国王陛下がもう直ぐこの砦にお越しになるとの事です」
「ぶーーーーー!」
|豊臣秀吉(わたし)いま、口から大量のお茶を噴射しなかった!?
いやいや!それどころじゃない!
私の父上が来る!?ここに!?
「なんでも、我々だけが敵砦を壊すスピードが異常に遅い事を陛下が前々から気になっていた様で―――」
「父上は!カミカゼ兄上の不審死や客将ヌードンが裏切り者拉致された事を何も聴いていないと申すか!?」
「いえ!寧ろ、エイジオブ帝国に寝返らんとする不届き者に一喝するべく、エイジオブ帝国の砦を壊す速度を数段階引き上げろとのお達しが―――」
「ああ、もう!この忙しい時に人の味を知り過ぎた熊を味方に回す羽目になるとは!」
|豊臣秀吉(わたし)は頭を抱えながら天を仰いだ……
勇猛果敢な突撃至上主義を掲げる国のトップがここに来る……これってつまり、突撃以外の選択肢を完全に失う事を意味するからだ!
人の味を知り過ぎて人を恐れなくなった熊は、例え鉄砲を構えた猟師達が待ち構えても恐れず前へ進むからねぇ!ムソーウ王国がエイジオブ帝国の接待戦法に完全に翻弄されている戦況で来て欲しくなかったのよ!
ムソーウ王国には獰猛な熊がおってさ♪ 
それをエイジオブ帝国が大筒で撃ってさ♪
煮てさ♪
焼いてさ♪
食ってさ♪
危険ワードがモリモリではありませんか!
そんな中、ドウカァーが恐る恐る私に訊ねる。
「で、如何いたしましょうか?」
「私は父上には遭わんぞ」
「……どうやって?」

そして、ムソーウ王国国王が率いる大部隊が私達が落とした砦を訪問した。
だが、国王は|豊臣秀吉(わたし)に会う事は無かった。
「誰もおらぬだと?」
「はい!オラウ様はこの砦を拠点にエイジオブ帝国に奪われた国土を取り戻さんと思案していたのですが―――」
「何故直ぐに動かなんだ?何を迷う事がある?さっさと敵を叩き潰せば済む話に迷う理由が有るか?」
「……ございません!」
「ならば行くぞ。わしからカミカゼとオラウを奪った不届きな連中を捌きに」
……
……
……
あ……あっぶねぇー!
本当に敵の木こり共を皆殺しにしておいて、本当に良かったぁー!
お陰で、父上の目から私達を全て隠す事が出来たのだから。
それと、『裁き』の漢字が微妙に間違ってない?|捌き《それ》だと肉や魚を料理するって意味になっちゃいますけど!
正に恐れを知らぬ熊!
あんなのの部下になったら……命が無尽蔵に有っても足りぬぞ!
そこへ、ドウカァーが予想通りの質問をする。
「やはり直接直談判すべきでは?」
……ドウカァーの言い分はよく解る!|豊臣秀吉(わたし)だってそれで済めばそうしたい!
でも……
「それだと、私はおろか、ドウカァーさんまで降格してしまいますわ」
「私が!?何で!?」
「この|豊臣秀吉(わたし)の突撃嫌いと慎重思考を矯正出来なかったからですわ。そうなれば『ドウカァー、お前がついていながらなんて様だ』と仰る筈ですわ」
「うっ……」
ドウカァーは反論出来なかった。
確かに、ドウカァーが|豊臣秀吉(わたし)の慎重思考とズルを矯正出来なかった。寧ろ、ヌードンを拉致した裏切り者との戦いによって突撃思考が萎えてしまった時期さえあった体たらくだ。
その様なドウカァーの姿を、人の味を知り過ぎた熊の様な父上が見たら何と言うか……
……本当に……説得だけで事が済めばどれだけ楽か……
だが、悲しかな人の味を知り恐れを忘れた熊に、人の都合や言い分は通用しない。
一方通行のままどちらかが敗北して終わり……後に残るは陰惨な血だまりのみ……
悲しくてかなわんなぁ!
つまり……こうなってしまった時点で、お互い遭わない事こそが両者の幸せであり最良な行動なのだ。
……ん?
「如何なさいました?オラウ様?」
「最後尾のあの白い服を着た連中は何だ?どうも戦いに不向きな様に見えるが?」
「いや……その様な話は聴いておりません」
「何だと!?」
ドウカァーの返答を聴いた途端、あの謎の白服軍団が熊を殺そうとしている狡猾な猟師に見えたぞ!
だとすると……これはヤバいな!

一方、伝令からの報告を聴いたイナオリが勝ち誇ったかの様に邪な笑みを浮かべた。
「……そうか……そぉうかぁ」
どう言う訳か笑っているイナオリを観て不気味がるヨツメ。
「な!?……何が起こってるんだよ……」
イナオリが子供の様に大喜びする。
「やはりムソーウ王国は調査通りの単純馬鹿だったんだよ!」
本当なら「何言ってんだお前!」と言いたかったが、階級はイナオリの方が圧倒的に上なので何も言えないヨツメ。
「……どう言う意味です?」
「僕達は遂にムソーウ王国の国王を引っ張り出したんだよ!」
ムソーウ王国の大物中の大物の名を聞いて仰天するヨツメ。
「何ぃー!?国王ぅー!」
「しかもだ、君をあんな顔にしたオラウとは違って、国王は他のムソーウ王国軍将校と同じだよ」
「お……同じ!?」
ヨツメが不都合な報告に驚き蒼褪める中、イオナリがどんどん芝居の様な動きをする。
「しかもだ!その国王様がこっちに攻めて来るんだとぉー♪」
「なんだとぉー!?」
つまりだ、ムソーウ王国国王が突撃至上主義特有の失敗をイナオリの目の前で犯したのだ。
このままでは、敵国王の討伐の功績がイナオリの物になってしまうのだ。
それに引き換え、ヨツメはムソーウ王国国王より討伐価値の低いオラウ・タ・ムソーウに文字通り口が裂ける程の深手を負わされたのだ。
(これは不味い!このままでは俺はただの無能者だ!くそぉー!何で俺だけぇー!)
運悪くオラウと対峙したヨツメは、ズルズルとギャグ担当へと堕ちる状況に悶え苦しむのであった……
(ちくしょぉー!降格コースだぁー!)

そんなヨツメを尻目に、ムソーウ王国将校がエイジオブ帝国のクーデタードアに嵌って、次々と殺害または捕縛された。
「ぐっ!放せ!お前達、何をやっているのか判っているのか!?」
「勿論ですとも。ムソーウ王国第二王女をエイジオブ帝国を差し出したんです。あぁー、もう直ぐ祖国がムソーウ王国を滅ぼすから、『元ムソーウ王国』が正解でしたなぁ」
ムソーウ王国一般兵の無礼千万な台詞に怒り狂うムソーウ王国第二王女だが、既にを両手両足を縛られている為、何も出来なかった。
「何が『祖国がムソーウ王国を滅ぼす』だ!お前達はそれでも誇り高きムソーウ王国の戦士か!?」
それに対し、エイジオブ帝国将校が、やれやれポーズで体をクネクネさせながら第二王女に近付いて来た。
「いけませんねぇ。場違いな誇りなんて、延命になぁーんも役にも立ちませんよ」
非常にウザい敵将校の態度に激怒する第二王女。
「ふざけるな!何で誇り高きムソーウ王国の戦士達が、こんな無礼者に従う!目を覚ませ!」
「やーれやれ、|皇帝陛下(あのかた)の賢く正しい戦術を理解してくれないとは……悲しいですなぁ」
体をクネクネさせながらわざとらしく悲しがる敵将校に、悔しそうに歯軋りする第二王女。
その時、無数の鳥が一斉に飛び掛かり、第二王女を裏切った一般兵達を混乱させた。
「うわ!」
「なんだこれは!?」
第二王女はこの隙に逃走を計ろうとするが、エイジオブ帝国将校がそれを発見する。
「あ!?逃げる!」
だが、無数の鳥が煙幕代わりとなって第二王女を庇い、その代わりに今度は無数の蜂が裏切り者達を襲った。
「ぐわぁー!追え!追えぇー!」
「駄目です!蜂が邪魔で先に進めません!」
どうにか逃げ切った第二王女は、無数の鳥に導かれる様にある者の許に向かう……鳥や蜂を操っていたアニマの許へ!

イナオリ・ネッジー

年齢:13歳
性別:男性
身長:160cm
体重:50㎏
職業:軍師
趣味:炭酸粉(火薬)を使った悪戯、悪巧み
好物:自分を理解してくれる人、マヌケな敵
嫌物:未知の強敵、マヌケな味方
特技:炭酸粉(火薬)取り扱い、悪知恵

エイジオブ帝国王室側近軍師。常に着けている舞踏マスクはただのカッコつけで深い意味は無い。寧ろ、ギャグマンガの様に喜怒哀楽が激しい性格。
偶然炭酸粉(火薬)採掘に適した洞窟を発見した事で人生が好転。最初は炭酸粉を使った悪戯をして遊んでいたが、その内、炭酸粉を使えば投石器を劇的に小型化出来る事に気付き、後にエイジオブ帝国となる地方自治体に拾われ、炭酸粉を使った投石器を用いて熊を退治した事を機に接待戦法『クーデタードア』を開発してトントン拍子に逆転勝利を重ねてきたが……
イメージモデルはネジル・ネジール【ヘボット!】。

第8話:あらゆる意味で足りない……

前回のあらすじ

エイジオブ帝国の十八番である『クーデタードア』にまったく引っ掛からないオラウ・タ・ムソーウに危機感を抱いたイナオリ・ネッジーは、エイジオブ帝国特殊部隊イェニチェリを率いてヨツメの許を訪れます。
しかし……
イナオリが見たオラウに敗けたヨツメの姿は、まるで口裂け女ー!(古!)
ヨツメはオラウへの復讐を誓います。
一方のオラウ……
ただでさえムソーウ王国が窮地だって時に更にムソーウ王国を追い詰める凶報がオラウの耳に届きます。
それは……人の味を知り過ぎた熊の様な戦術しか出来ない国王が、遂に重い腰を上げて出陣を決意します。
内心「来るな!」と思いつつ対策を練るオラウ。
それは……国王に遭わない事!
国王が率いる部隊に合流する……どころか視界に入る事無く、国王が率いる部隊を観察し、その背後にいる謎の不吉な白服集団を発見するオラウでした……

へべく!

|オラウ《わたくし》の父上は……正に人の味を知り過ぎた熊でしたわ。
立ち塞がる敵を全て襲い、逃げる敵をしつこく追い回し、ただひたすらに前に進む……
こんな奴を誘き寄せるのに失敗する方が難しいわ!
しかも、父上が乗っている馬も物凄く恐ろしくて、倒れた敵をまるで雑草の様に踏み歩いていましたわ。
熊って死んだフリに弱いと聴くが、あれでは逆効果だな……寧ろ、|ムソーウ王国(こちら)の評判が悪くなりそうで怖い!
|父上(あれ)を本気で全力でなんとかしないと、マジでムソーウ王国はエイジオブ帝国に滅ぼされるぞ!
それに……
「やはり国王陛下は素晴らしい……やはり国王陛下と合流して―――」
「声が大きい!父上に|豊臣秀吉(わたし)達の居場所がバレてしまうでしょ!」
ゴクリ……
……不味いな……
ヌードンの惨敗とそれを成し遂げた裏切り者によって萎えておったドウカァー達の突撃至上主義が、|父上(あのアホ)のせいで息を吹き返しかけてる……よくない兆候だ!
上が馬鹿だと下が苦労するとばかり思っておったが、やはり上の馬鹿は下に伝染するらしい……滅びの常套手段じゃ!
「ん?」
「どうかしましたか?」
「あの白いの……今、笑わなかったか?」
「と言うか、あの白服は何なんです?ただ付いて行くだけで何もしない……意味が解りません」
……意味なら……ある!
|豊臣秀吉(わたし)の見立てだと、あ奴らがエイジオブ帝国が用意した……裏切り者製造機!
あ奴らは突撃の連続で一般兵達が疲れるのを待ち、突撃を命じるだけの無能な上司への不満が溜まったところで甘い囁きで裏切りを促す……
ああ……(涙)
私達ムソーウ王国は、こんな子供騙しの様な作戦に敗ける程、クッソ弱かったんですね……
そこへ、アニマから更なる追い討ちの様な報告を受けてしまう。
「何?……いぇにちぇりが帰った?」
「はい。なんでも、もうイェニチェリの手を煩わせる必要が無くなったとか言って」
……なるほどね……
つまり、エイジオブ帝国は自分の十八番である接待戦法に邪魔な|豊臣秀吉(わたし)を排除したかっただけの話ね。
が、そこへ|父上(あのアホ)がやって来てしまい、この|豊臣秀吉(わたくし)を突撃至上主義に引き摺り戻したと勘違いして、油断していぇにちぇりを下がらせたと……
どんだけエイジオブ帝国に馬鹿にされとんじゃムソーウ王国は!?
「……ま……あんなの魅せられたら、そこら辺の戦上手はそう思うわな……」

父上がどれだけの数の砦を落としたのか……数えるのを忘れていた……
ま、元々父上が落とした砦の数などどうでも良い話だ。
問だ!?
……父上がこちらを見た?
まさかとは思うが、熊は犬並みに鼻が良いと聴く。それってつまり……
「改めて見損なったぞ……オラウ!」
あー……やっぱりかぁー……
こうなってしまっては、コソコソ隠れて付いて行く事が出来ぬ。
しかも、父上はムソーウ王国の国王だ。知らぬふりして静かに逃げるって手は使えない……
ここは……駄目もとで説得するしかない!
「父上!」
「ドウカァーもドウカァーじゃ!お前がついていながら、何じゃこのオラウの体たらくは!」
|豊臣秀吉(わたくし)の話を聴けぇーーーーー!この馬鹿熊ぁーーーーー!
|父上(こいつ)……その耳は飾りか!?
人間は口と目と鼻だけでは生きていけないと言うのに!
が……そんな|豊臣秀吉(わたし)の心の声は、|豊臣秀吉(わたし)の口から外へ出る暇を与えてくれる事は無く……
ひたすら突撃とは真逆な戦術を繰り返して来た|豊臣秀吉(わたし)と、それを止められなかったドウカァーへの説教に没頭する父上。そこに異論を挟む暇無し……
こりゃあ……エイジオブ帝国の様な魂胆見え見えな接待戦法だけで圧勝出来るのも無理ないわ……
で……その結果が……
父上が複数の銃声に押される様にうつ伏せに倒れた。
その銃声を指示していたのは……やはりあの白服!
「エイジオブ帝国の新たなる住民方!狙うはオラウ・タ・ムソーウですぞ!アレを倒せば、エイジオブ帝国の安泰は100年増えましょうぞ!そうなれば、貴方方の幸福は一生続くのです!」
白服のその言葉に……かつてムソーウ王国の兵士だった裏切り者達が一斉に|豊臣秀吉(わたし)に銃口を向ける。
「やはりこうなったか……だから|豊臣秀吉(わたし)は無謀な突撃をしたくなかったんだ!」
まさか、ここまで|豊臣秀吉(わたし)が予想した『最悪』をここまで忠実に再現するとは……父上、貴方はやはり無知な愚将です!
しかも、
「何をしておるのじゃ……何故この様な事を……」
まーだこの状況を呑み込めておらんのか父上は?
白服もそれを察したのか、父上を嘲笑う様に言い放ち追った!
「何って、この我々が間違った道を進んでしまった者達を説得し、正しい道へと導いたのです」
「導いただと……そんな馬鹿な……」
父上は目の前の最悪をまだ信じておられぬ様だ。が、これが単なる悪夢であったらどれだけ良かった事か……
で、私がやる事はと言うと、
「導いた?そそのかして不義を犯させたの間違いでは?」
私のこの言葉に反応したのは、白服ではなく裏切り者達の方だった。
「不義だぁ?こっちはお前達の正義のせいで、何回死にかけたか知ってんのかぁ!ただの箱入り風情がぁ!」
その直後、|豊臣秀吉(わたし)はある者を発見して勝ち誇った笑みを浮かべてしまった。
「とにかく……|豊臣秀吉(わたくし)を裏切った代償は、必ず支払って頂きますわ」
その直後、巨大な光球から無数の矢の雨が放たれ、裏切り者達を一掃する。
その光球を放ったのは、私の姉上でムソーウ王国第二王女の『ギョクサイ・ヨ・ムソーウ』であった。
「父上!」
予想外のタイミングで現れたギョクサイ姉上の姿に驚く白服達。
「馬鹿な……あの部隊は既に!」
だが残念でしたぁー。
これがアニマが事前に用意してくれた作戦なんだよねぇー。
「ギョクサイ様!何故貴女様がこんな所へ!」
「僕が呼んだんだ!ムソーウ王国の将校さんの中に、まだエイジオブ帝国に捕まっていない人がいればなと思って!」
アニマ……超グッジョブ!
「大義であるぞ!アニマ!」
一方、何がどうなっておるのか解っておらん憎き白服達は大混乱じゃ!
「な!?……こんな馬鹿な!こやつらの転向は……容易な筈では、なかったのか!?」
その途端、ギョクサイ姉上が白服達を射殺そうとしていたが、
「お待ちください姉上!この者達には、まだ訊きたい事が沢山在ります!それにこのままでは父上の容体が!」
ギョクサイ姉上が|豊臣秀吉(わたし)の説得を聞いて渋々弓を下した。

私達は、負傷した父上を連れて王都まで戻った……
完全敗北だった……
鎧袖一触の圧勝していた筈の国王が傷付き、自分達から多数の裏切り者を輩出してしまったのだ。
|ムソーウ王国(こっち)には浮かれる要素は何1つ無い。
「まさか……父上までこの様とは……」
「マッホーウ法国から亡命した魔導士達の尽力により一命はとりとめましたが……」
「まだ……戦える状態ではないと?」
皆が沈んだ表情を魅せてしまっている中、この|豊臣秀吉(わたし)だけが、不謹慎にもウキウキしていた!
だって!この|豊臣秀吉(わたし)を散々苦しめていた突撃至上主義と言う名の足枷から漸く逃れるチャンスが転がって来たのだ!この好機を逃して良い筈がない!
「ならば姉上!」
「どうしたのだオラウ?」
「父上にはこのまま後見人となって頂き、直ぐに次の国王を決定してしまってはどうか!?」
勿論、周りの誰もが驚く事。
「父上に引退しろと申すか?」
だが、|豊臣秀吉(わたし)には突撃至上主義と言う名の足枷と弱点をムソーウ王国に填めた元凶にしか視えぬ国王をそのまま頂点に置いて置く事は、致命的なリスクにしか感じない。
そんな事より……
「今なすべき事は父上の復活を待つ事ではありません!この国を復活させる事です!幸い、この王都はまだ無事!ならばもっと賢き者にこの王都の運営を任せるのが賢明かと!」
ギョクサイ姉上は目を閉じて少し黙ったのち、
「……オラウの……言う通りかもしれないわね」
「それはどう言う意味でしょうか?」
「もしかしたら……我々が得意だった突撃以外の戦い方が必要になってしまった……のかも知れませんね?」
ギョクサイ姉上のこの言葉を合図に、ドウカァー達は一斉に|豊臣秀吉(わたし)の方を見た。
「オラウ様は、もしかして最初からこうなる事を知っていて、その上で動かれていたと?」
ここで嘘を言っても意味が無い……と言いたいところだが……
「まあ……ね。欲を言えば、ここまで追い詰められる前に|豊臣秀吉(わたし)が信じる方法で決着を着けたかったけどね」
これは、私の嘘偽りが無い本音だ。
「オラウ……私達はもっと……ちゃんとオラウの話を聴いてやれば良かったな」
そこへ、アニマがしゃしゃり出て来て、
「それに、さっき捕まえた人、拷問しようとした人を言葉巧みに騙そうとしていたよ」
アニマの報告に頭を抱えるギョクサイ姉上。
だが、ドウカァーはふと大きな問題に気付いてしまった。
「で、どちらが国王の代理を務めるので?順当に行けば、ギョクサイ様だとは思いますが」
そこである。つまり、誰がムソーウ王国の国王になるかである。
ここをドジれば、権力争いによる内乱に発展してしまう大事な問題だ。
が、|豊臣秀吉(わたし)は既に目星を付けて唾を付けている!
「いや、順当に行けば私でもギョクサイ姉上でもない」
それを聴いてドウカァーはハッとする。
「オラウ様まさか……ですが!あの方は国王が務まる程、お強くはありません!」
「それは、ただ単純に戦闘力が低いからだろ?だが、|豊臣秀吉(わたし)が求める強さは、知力の方じゃ」
そう言いながら、|豊臣秀吉(わたし)は自分の頭をトントンと叩く。
「あらゆる物を見抜き、全てを照らし、隅々まで支配する。それが出来る程賢い者、それが今の世に求められる王の素質。少なくとも、|豊臣秀吉(わたし)はそう思うぞ」
ギョクサイ姉上が以外にも納得した。
「そうだな」
「ギョクサイ様!?」
「現に、私や父上はエイジオブ帝国との戦いの最中に裏切り者に騙された。もしもその裏切り者の嘘にもっと早く気付いていたらと思うと……」
「だから、あの方に国王代理を務めて頂くと?」
|豊臣秀吉(わたし)は力強く頷いた。
「そうだ!ムソーウ王国第二王子、サカシラ・ガ・ムソーウ兄上こそが、ムソーウ王国国王に相応しいと判断する!」

結局、ムソーウ王国国王の参戦によってオラウはいつもの戦法が出来ないと判断したイナオリは、せっかく出撃させたイェニチェリを引き連れながらさっさと王都に帰ってしまった。
しかし、残されたヨツメに届いた凶報は、イナオリの想定外だらけの物であった。
「取り逃がしたぁーーーーー!」
「はい。国王を背後から攻撃する事に成功し、オラウをあと一歩まで追い詰めたのですが、ヤコフ大隊が取り逃がしてしまったギョクサイ・ヨ・ムソーウの乱入を受け―――」
ヨツメは怒りに任せてコップを破壊した。
「あの気色悪いだけが取り柄の役立たずめ!俺のせっかくの手柄をドブに捨てる気か!?」
「ひいぃーーーーー!」
伝令兵は怯えながら困惑した。
(何と言うお姿!?これが、エイジオブ帝国の必勝作戦である『クーデタードア』の実行役を任された大隊長のお姿か?)
「くっそおぉーーーーー……あれもこれも、全部オラウのアホアマのせいだ。アイツがアホを晒さずにクーデタードアに早々と引っ掛かる程の賢さを魅せてくれればぁーーーーー!」
ヨツメは怒りに任せてテーブルを破壊した。

ギョクサイ・ヨ・ムソーウ

年齢:16歳
性別:女性
身長:157.7cm
体重:49.5㎏
体型:B93/W63/H82
胸囲:G67
職業:王女
武器:鉄製の強弓、レイピア
戦技:曲射、ホーミングショット、狙撃
趣味:ボディビル鑑賞、アーチェリー、フェンシング
好物:筋肉、愛国心
嫌物:虚弱体質、卑怯、裏切り者
特技:突撃、一騎当千

ムソーウ王国第二王女。
一見すると眼鏡をかけた地味な少女に見えるが、彼女もまたムソーウ王国の部将以上の将校の必須である鎧袖一触な一騎当千を身に着けている。が、それが仇となってエイジオブ帝国のクーデタードアに嵌って自身が指揮する部隊に生け捕りにされかけたが、アニマの機転によって逃走しオラウと合流する。
イメージモデルはちひろ【フィジカル≒ラブなHONEY】。

第9話:王位継承を拒否する術が足りない……

前回のあらすじ

国王の鎧袖一触な突撃の連続を観たオラウは……改めてムソーウ王国の弱さを思い知ります。
そして、オラウの予想通り、国王が率いる部隊の後を追う白服達は、一般兵を誘惑する反乱誘発要員!結局、国王までエイジオブ帝国のクーデタードアに敗れ、裏切り者達の攻撃を受けてしまう。
そして追い詰められるオラウ……の様に見えましたが……
そこはアニマが事前に助けたムソーウ王国第二王女の『ギョクサイ・ヨ・ムソーウ』が裏切り者達を撃破!とってもいい気味。
その後、負傷した国王を連れて王都に戻ったオラウは、新たな国王を擁立すべきだと進言!
その候補として、オラウは自分でもギョクサイでもなく、ムソーウ王国にとっては予想外の者を推薦しました。
「ムソーウ王国第二王子、サカシラ・ガ・ムソーウ兄上こそが、ムソーウ王国国王に相応しいと判断する!」

へべく!

ギョクサイが矢を5本同時に放って反乱分子100人程を失神させると、たったそれだけで反乱軍は蜘蛛の子散らす様に一目散に逃走した。
「あ!?コラ!早く戻れ!このまま無謀な突撃にお前達を使い潰されて良いのかぁー!?」
エイジオブ帝国の刺客と思われる例の白服が必死に逃げる反乱軍を呼び戻そうとしているが、立ち塞がるギョクサイの圧倒的過ぎる強さの前に、命賭けで戦おうと考える者は、反乱軍の中にはいなかった。
「後は……お前だけだ」
敗北した白服は、ギョクサイにあっさり捕まって牢獄に連行された。
「……オラウの言う通りだったな」
ギョクサイの言葉にドウカァーは首を傾げた。
「それは、この似非聖職者が国民の反乱を誘発している……と言う事でしょうか?」
それに対し、ギョクサイは頭を横に振った。
「いや、それだけではない」
実は、反乱に参加した国民はムソーウ王国の現状に対してそこまで不満じゃなかったのだ。
それは、ムソーウ王国国王の善政と人徳がなせる技である。ただ、極端な突撃至上主義と戦術不足が問題だった。
つまり、ムソーウ王国の国民は、反乱を強く決意する程追い詰められていなかったのだ。
「だから……ちょっと脅して実力差を魅せてやれば、反乱軍は命を惜しんで直ぐに瓦解する。『頑強な美学か野心を持たぬ者は、自分の命をドブに捨てる程の頑固さは無い』。オラウの言う通りだったな」
そこへ、アニマが補足する。
「反乱や革命には敗北の危険を伴います。そして、敗北すれば反乱や革命に参加した人達の多くは見せしめの為に殺されます。だから、現状維持ですら命の保証が無い状態でなければ、反乱軍は本気で戦わないんです」
そんなギョクサイやアニマの説明を聴いて鼻で笑うドウカァー。
「所詮は強引な放火では大火災は不可能と言う訳ですか?」
だが、アニマはそこまで楽観的ではなかった。
「でもそれは、まだ誰も死んでいないからですよね?」
そんなアニマの言葉に、ギョクサイは困惑しながら頭を掻いた。
「そこだな……今回の作戦の1番難しい所は」

で、アニマに百姓一揆擬きの説得を任せた|豊臣秀吉(わたし)は、サカシラ・ガ・ムソーウ兄上を連れ戻しにチュウオウ学国にある巨大学園都市、ガッケン学園を訪れた。
「はー。ムソーウ王国王都も壮大であったが、ここも凄いなぁ」
なんでも、チュウオウ学国は建国初期の時代から学問と言うモノを重視し、世界中の書物が集まっている学問の中心点だそうだ。
だから、他国から多くの者達が更なる知識を得る為に集まり、それがチュウオウ学国の経済を自然と押し上げていた。
そんな学問の総本山と言える学園都市に、この世界における|豊臣秀吉(わたし)の兄であるサカシラが送り込まれたのだ。
「まさか……人の味を知り過ぎた熊の様な父上に、そこまでの知恵が有ったとは……」
本人に聞かれたら必ず血が流れるぼやきをつい言ってしまった|豊臣秀吉(わたし)は、チュウオウ学国がまだエイジオブ帝国の攻撃を受けていない事に感謝したと同時に、エイジオブ帝国の思慮深さに気が滅入る。
「この学園には、他国の貴族の子供や王族の子孫が多く送り込まれているから、流石のエイジオブ帝国もチュウオウ学国侵攻を焦って連合軍の様な存在を生む様な愚策は避けるか……」
だがそれも……マッホーウ法国やムソーウ王国の様な強大で有名な大国が滅びれば解らない。
「父上も……もっと思慮深く戦ってくれれば……」
そう思うと、無性に腹が立った!
「他の国にも迷惑なんだよ!エイジオブ帝国の思う壺なんかしやがって!」
そして、|豊臣秀吉(わたし)は一斉に白い目で見られた。
「あ……失礼しましたぁー♪」
|豊臣秀吉(わたし)はそそくさと目的地へと向かう。
……恥ずかしいぃー!

ガッケン学園の図書館に到着したが……下手な城よりデカいぞ!
流石に世界中の書物をかき集めたら、必ずこうなるか……目的の物を探すのも苦労するぞ!
と言うか、それ|豊臣秀吉(わたし)だぞ!探しているのは本じゃなくて兄だが!
「失礼しまぁーす」
が……改めてガッケン学園の大きさに私は圧倒された……
は!
豊臣秀吉であるこの私がか!?
|豊臣秀吉(わたし)がかつて造った大阪城はガッケン学園とは比べ物ならないくらい大きいわ!
……だよな?
……何だか不安になって来た……
「オラウか……お前も遂にムソーウ王国を追い出されたか?」
幸い……私の探し物は直ぐに見つかったらしい。

ムソーウ王国第二王子、サカシラ・ガ・ムソーウ。
ムソーウ王国の部将以上の将校は鎧袖一触な一騎当千でなければならないので、王族は必然的に厳しく武術を教え込まれた。
この|豊臣秀吉(わたし)、オラウ・タ・ムソーウも鎧袖一触な一騎当千であり続ける事を周囲に求められ続けた。
だが、サカシラ兄上は違った。
サカシラ兄上はムソーウ王族にしては武勇に疎く、学問の方が性に合っている人だった。
だからなのか、誰もサカシラ兄上に敬意を払わず、寧ろ一騎当千の域に到達できない事を嘲笑ったのだ。
当時の私もその事に違和感と|危機感(・・・)を感じてはいたが、この世界では右も左も解らない|豊臣秀吉(わたし)にサカシラ兄上を助ける勇気が湧かなかった……サカシラ兄上の力が必要だと解っていながら!
だからなのか……日ノ本から来た|豊臣秀吉(わたし)を加護すべきムソーウ王国は、今まさに滅びの道へと突き進んだ。
故に、|豊臣秀吉(わたし)はサカシラ兄上の前で片膝をついた。
「兄上、貴方様をムソーウ王国に連れ戻しに来ました」
だが、当のサカシラ兄上は私の言葉に首を傾げていた。
「呼び戻す?ムソーウ王国を追い出され、ガッケン学園しか行く場所が無い私をか?」
「何故そう思うか?」
「父上に直接そう言われたのだ。武勇無き者に国王の資格無しと」
あの馬鹿熊ぁーーーーー!
百害あって一利なしな事を言いおってぇーーーーー!
……ん?
「ちょ!?ちょっと待って下さい!サカシラ兄上!」
「さっきの怒りで解ったよ」
え?……何が?
「君も、本当は武勇無き私に国王は務まらない事に気付いているのだろ?」
「いいえ!違います!」
「どう違うのだ?先程の怒り、私が武勇無き事への怒りであろう?」
本当にあの馬鹿熊は……
「では逆に訊きます。何故国王に武勇が必要なのですか?」
「それは当然、国を率いるからだ。それくらい―――」
「武勇以外の方法で国を率いる方法があるとしたら?」
「……何?」
あー……やっぱこの人もムソーウ王国育ちだわ。
武勇以外の統治方法がまったく思い浮かばんとは……
「国を率い統治するには、寧ろ武勇以外の物こそ最重要!と、|豊臣秀吉(わたし)は確信しております」
「……たとえは?」
「知恵と胆力。目の前の問題に真摯に取り組み、思い浮かんだ最善を迷い無く行えるか。それだけでは?」
「知恵?それが戦場に何の役に立つのだ?」
「知恵の使い道は山ほどあります!それに逆に訊きます。武勇が戦場以外に何の役に立ちますか?」
ん?あれ?サカシラ兄上、考えこんじゃったよ。
「……1つ訊く。君が総大将の後を追う形で進軍するが仕事である一般兵として考えて欲しい。もし常に先頭にいて軍を率いるべき総大将が敵に敗れた時、君は目の前の混乱をどう切り抜ける?」
来たね?ムソーウ王国育ちらしい質問が。
「答えはたった1つ!総大将が敵に討たれる前に、一般兵達が総大将の前に出るのです!」
「では何か?本来なら軍の先頭に立つべき総大将が、本来なら総大将の後ろにいるべき一般兵の背中に隠れろと?」
「その理由は……サカシラ兄上が既に申しました。万が一総大将が敵に討たれて軍が混乱したらどうすんだ!……と」
「つまり、本当に軍の行く末を案じている総大将は、何が遭っても生きて軍を率いて混乱を治めよ!……と」
「それだけではありませぬ!総大将を護る一般兵を1人も死なせぬ様知恵や策を絞り出す事もまた、一般兵の背中に隠れる者達の役目!」

ここでサカシラ兄上が遂に折れた。
「負けたよ。他の将校と同じ道を歩んでいた筈のオラウが、ここまで知恵に傾倒するとは思わなかったよ」
……前半部は正直言って心外だ。
この|豊臣秀吉(わたし)が、人の味を知り過ぎた熊と同列扱いされる程の愚勇を奮っている愚者と間違われるとはね。
「ただ」
「ただ?」
「そこまで聡明であれば、私なんかの力を借りずとも、ムソーウ王国を立て直す事が出来るのではないか?」
しまった!調子に乗り過ぎた!
大誤算じゃ!
じゃが、ここで折れる訳にはいかぬ!
「なら……こちらをご覧ください!」
「これは……先週の試験の順位表?」
「サカシラ兄上は成績優秀者と聞きます。故に連れ戻しに来たのです。貴方なら、私と違って戦場に行かされる心配は無いと判断しました」
「つまり、王はむやみやたらに戦場に往くなと?」
「はい。王や大臣の様な政治を司る者の戦う場は、命を容易に奪い消してしまう場所ではけしてならない。寧ろ、命を尊い敬うこそが政治の役目で御座いましょう!」
これ……自分で言ってて|豊臣秀吉(じぶん)の心を痛めてるんだからな……実に痛い!
あの男に秀次を殺させた時の|豊臣秀吉(わたし)なんか……さっき言った『命を尊い敬う』とは完全に真逆だからな……
「本当に敗けたよ。白状するとな、私は国王になりたくなかったから武勇を捨てて知恵に傾倒したのだ」
あー、そうだったのかぁー。
やっぱ、以前のムソーウ王国と|豊臣秀吉(わたし)は性に合わんわ!
「本来なら逆なのです。国を統治する者は、戦争が終わって武勇が無用となった時の為に知恵を蓄えるのです」
「武勇は戦場でしか使い道が無いが、知恵はどこでも使える……か。確かに国王の座を避ける意味では、権力を捨てる為に知恵に傾倒する私は矛盾だらけだったな」
その後、サカシラ兄上はムソーウ王国の新たなる国王になる事を決意してくれました。
めでたし。めでたし。

サカシラ・ガ・ムソーウ

年齢:17歳
性別:男性
身長:170cm
体重:57.8㎏
職業:王子 → 国王
趣味:勉学、読書
好物:静かな場所、親切、礼節
嫌物:悪意に満ちた権力、醜い政争
特技:知恵、無武勇

ムソーウ王国第二王子。
国王に任命される事を避ける為、武勇を捨てて知恵に傾倒し、思惑通りチュウオウ学国ガッケン学園都市への出向を命じられたが、ムソーウ王国がエイジオブ帝国に苦戦している事に加え、オラウに今までの行動の矛盾点を指摘された事で、彼は遂に覚悟を決めて国王になる事を決意した。

第10話:外交と罠

前回のあらすじ

エイジオブ帝国自慢の作戦『クーデタードア』。オラウへの恨みからその意味を履き違い始めたヨツメをアニマ達に任せ、オラウはサカシラ・ガ・ムソーウを迎えにチュウオウ学国にある巨大学園都市、ガッケン学園を訪れます。
しかし、ガッケン学園の規格外の大きさにオラウが驚く中、当のサカシラはと言うと、
「父上に直接そう言われたのだ。武勇無き者に国王の資格無しと」
と言われて王位継承を拒否されます。
相変わらずのムソーウ王国国王への怒りを抑えつつ(全然抑えていない)、知恵と胆力の必要性を訴え、サカシラから「国王に成りたくないから武勇を捨てた」との白状を得ます。
その後もオラウの説得は続き、サカシラは遂に折れてムソーウ王国の新たなる国王になる事を決意してくれたのでした。

へべく!

サカシラ兄上と共にムソーウ王国に帰って来たのは良いが……
「お帰りなさいませ、オラウ様!」
ドウカァーの出迎えを見て、王都はまだ無事だと確信した。
「どうやら護り切れた様だな?」
「は。ただ、革命を誘発する者の逮捕に奔走させられましたが」
やはりそう来たか……
「で、その革命をさせられた国民達はどうなっている?」
「は。ギョクサイ様が軽く捻るだけであっさり逃亡しました。1人も殺しておりません」
アニマ……本当に頑張ったな!
「どうやら……本当にガッケン学園に引き篭もっている場合じゃないらしいな」
「サカシラ様!?オラウ様、貴女様はやはり」
そこで驚くか?
ドウカァー、お前もしや、サカシラ兄上の顔を忘れたな?
「と言う訳なのです。なので」
|豊臣秀吉(わたし)はサカシラ兄上の方を向き、改めて片膝をついた。
「サカシラ兄上、ガッケン学園にて蓄えたその知恵、この国の為に御使用して頂きたいのです」
そう言いながらサカシラ兄上を視ると、その顔はいくさ人の様に凛々しくなっていた。
「解った。早速問題点の洗い出しにかかろう!」

で、実際にエイジオブ帝国との戦争を始めてから今日までの状況変化を改めて確認してみると……
「こうして客観的に視ると……父上が提唱していた戦い方は随分穴だらけだったんだな?」
でしょ!そうでしょ!
やっぱ視る人が視ると、ムソーウ王国の戦術がどれだけ馬鹿か直ぐ見抜けるんだよねぇ。
「追えば逃げ、追い過ぎれば待ち伏せに遭うか……オラウ、この罠を破る為に知恵が必要だと?」
「……ええ……頭が痛い話ですよ」
「せめて敵が何処で待ち伏せしているかが判れば、それを避けて突撃出来るのだが」
「それを誰が調べるかですが、父上は敵の罠を事前に知る術を怠っておりましたから」
心なしか……サカシラ兄上の顔が引き摺った様な気がする。
「オラウ、ギョクサイ、お前達はそんなんでよくこの王都を護り抜いてきたな?」
「……ええ……耳が痛い話ですよ」
ですよねぇ!
|豊臣秀吉(わたし)もそう思います!

「オラウ!」
サカシラ兄上と共に今後のムソーウ王国の戦術について話し合ってる場にギョクサイ姉上がやって来てしまった。
「どうしましたか?ギョクサイ姉上」
「ベネット男国から会食のお誘いが届いたぞ」
ベネット男国。
その名の通りベネット男爵家が統治する国だそうだが、男爵が爵位の中でも低い方と聞かされているせいか、どうも男国と言う単語が言い辛い。
だが、本当に突っ込むべきは、
「何故?このタイミングなんだ?」
こっちはエイジオブ帝国との戦いで忙しいって時に―――
「行きたくなさそうだな?」
は!
解るの!?顔に出てた!?
「エイジオブ帝国とベネット男国が裏で繋がっていると?」
同感ですサカシラ兄上。
「それだと矛盾があるだろ?ベネットが我々と仲良くしている姿を観て、エイジオブ帝国が良い顔をするか?」
ギョクサイ姉上は甘いです。
「それに、隣国に冷たい態度を示し過ぎれば、他国の信頼は地に堕ちるぞ」
そこなんですよねぇ。今回の罠の痛いところは。
「結局のところ……往くしかないと言う訳か。ベネット男国からの会食の誘いを」
あ。結局行くんだ?
罠だと解っていながら……
「問題は……誰に行かせるかと言う訳ですか?」
「……俺が行こう」
はい!?
サカシラ兄上はこの国の王ですよ!サカシラ兄上を失った時のダメージを考えての事ですよねぇー!
「何故ですサカシラ兄上!?」
「確かに罠の可能性は高いし、ベネットがエイジオブ帝国に寝返る可能性も高い」
そこまで解っているなら何故!?
「だが、下手に隣国を失えば、ただでさえ連敗によって信頼を失墜している我が国は……」
退くに退けない状況って訳ですか……本当にあのアーバンベアめ!かつての|豊臣秀吉(わたし)なら、もうとっくに殺してるぞ!?
「それに、俺は実績が無い。そう言う意味では、今回の会食はある意味願ったり叶ったりだよ」
「ならば!この|豊臣秀吉(わたし)とドウカァーの同行をお許しください!」
「この私が、サカシラ様の護衛をせよと?」
「そうだ。今はまだ、サカシラ兄上を失う訳にはいかん!」
「解った。では、俺とオラウ、それとドウカァーの3人でベネット男国の会食に応じる。それで良いな?」
ここでギョクサイ姉上は漸く折れてくれた。
「妥当だな。解りました。皆さんがベネット男国との交渉を終えるまで、この王都を護り抜いて魅せましょう。アニマと共に」
ん?
アニマと共に?
「アニマ?その者は一体?」
「マッホーウ法国から亡命した王子です。戦力としては心許無いですが、相手の動きを事前に知ると言う意味では心強き者です」
良かったなぁアニマ。
ちゃんとお前の本当の価値に気付いて貰えて。

さて……
やって来ましたベネット男国。
「いやぁー、よくぞお越しくださいましたぁー。誇り高きムソーウ王国の屈強な英傑の皆様方!」
領主自らお出迎えとは……
……ますます怪しいな。
「会食の前に幾つかお伝えしたい事が幾つか有るのですが―――」
「その様な難しい話は明日にしましょう!それより!我が国が誇るコックが腕によりをかけて作り用意した豪勢な料理が待っております!ささ、冷めない内に!」
何?そのあからさまに怪しい急かし方は?
かえって食欲を無くすんですけど……
で、強引に会食の場に連れてこられた私達ですが……
こいつら……|豊臣秀吉(わたし)を上座に据えようとしただろ?
つまり、こいつらはサカシラ兄上の話を聴く気が無いと言う事か……
やはり罠だな!この会食は!
サカシラ兄上もこいつらの解りやすい罠を察してか、目で合図して|豊臣秀吉(わたし)を上座に座らせようとしている。
もう……自分がムソーウ王国の新しい国王になった事をベネット男国に教える気は無さそうだなサカシラ兄上。
そして、いちいちドウカァーの様子を視ながら出されたコース料理を食べるサカシラ兄上。
……許せドウカァー。
恨むなら、お前が毒味役を買って出なければならない程ムソーウ王国を窮地に追いやった、あの人の味を知り過ぎた熊の様な無戦術な旧国王を恨め。
ん?
なんだこの視線は?
敵意や殺気とは……ちょっと違う……
……なんだあの槍兵……なんて悲しそうな顔をするんだ……

で、
無事に出されたコース料理を完食する私達ですが、正直言って、味の感想を訊かれても困る!
緊張感のせいで舌の感覚が完全に麻痺していたんで!
サカシラ兄上も似た様なモノらしいのか、会食が終わった途端に疲労感満載の溜息を吐きおった!
ただ……ドウカァーだけは満足気だった……
前言撤回!
貴様を毒味役に決定じゃ!今日決めたぁー!
幸い、出されたコース料理に毒は入っていなかったが、今度は風呂に誘われた。
何を狙ってるんだか……
と言うか……随分豪勢な風呂だなぁー……
この風呂場を造る際に支払った金額は……|豊臣秀吉(わたし)がかつて造った黄金の茶室の金額とどっちが高いんだろうぅ……
と言うか……
満足感が減って疲労感が増す入浴なんて、生まれて初めてだぞ!

ここでふとあの男の事を思い出した|豊臣秀吉(わたし)
あれは……|豊臣秀吉(わたし)がまだ関白だった頃か?
前田慶次。
こやつがある日この|豊臣秀吉(わたし)に謁見したのだが、その際、|豊臣秀吉(わたし)に平伏しながら顔を右隣にいる前田利家の方を向いて、利家の目玉を危うく飛ばしかけたよな?
しかも、|豊臣秀吉(わたし)の目の前で猿ダンス。既にあっちの世界の住人ではなくなった今なら兎も角、関白の時にそれをやるか!?
あの時、|豊臣秀吉(わたし)は不満げな表情を浮かべていたが、白状するとね、あの時笑いを堪えるのに必死だったんだぞ!
おまけに利家が滝の様な冷や汗を掻くと言うダブルパンチだったからな……「あの場でよく笑わずに不機嫌な表情を保ったな!」と当時の|豊臣秀吉(わたし)を褒めたいくらいだわ!
だからなのか……慶次に向かってこう言っちゃったんだよな……
「気に入った。今後、どこでもその意地を立て通せ。余が許す」
て。
懐かしいな……
……あの男が今回のベネット男国のこの罠を観たら、何と言うであろうか……

で、結局夕飯までご馳走になって……用意された客室で就寝……
……出来る訳ねぇだろ!
「ドウカァー、起きとるか?」
「はい?」
はい?って……こいつ本当に大丈夫か?
「気が変わった。ベネット卿を殺せ」
「え?」
何故そこで驚く?もしかして、気付いていない?
「何故その様な事を?ベネット男国との関係が拗れますぞ?」
……やはり気付いていなかったんだ……
本当にアニマの動物を操る魔法に感謝だな!
「理由なら……|豊臣秀吉(わたし)よりベネット卿の方が詳しくのではなくて……出てきなよ!」
すると、案の定……
「本当に解り易い罠だったなベネット!お陰で、気が休まる暇が無かったわ!」
「ふ!今さら言っても遅いわ!貴様等は既に我々の手の平よ!」
こいつ、本気で言ってるのか?
あんな見抜き易い罠で本当にこの|豊臣秀吉(わたし)を騙させるとでも?
とは言え……こんなに敵兵に囲まれたら、そう言いたくなる気持ちも解るがな……
「やはり……既に寝返っていたのか!?」
サカシラ兄上もやはり怪しいと思っていたんですね?
とは言え……当面の問題はこの大量の敵兵をどうするかだな?
ってあれ?
あの会食(?)の時の槍兵のあの寂しそうな顔は?

第11話:贅沢が足りない……

前回のあらすじ

サカシラ・ガ・ムソーウがムソーウ王国の国王になる事を決意した時、隣国ベネット男国に会食に誘われた。
しかし、オラウは既にベネット卿の罠を見抜いており、就寝中にベネット男国の兵士達に囲まれても冷静だった。
と言うか……解り易過ぎでしょ!(笑)
そんなオラウが思い出したのは、まだ関白の時の豊臣秀吉に謁見した前田慶次の恐れ知らずの傾いた態度であった。
それに……会食の時に寂しそうな顔をした槍兵の心境とは……

へべく!

「遂に本性を現しましたな?ベネット卿」
「くっくっくっ。全く気付かずに『美味い美味い』と言ってたくせにか?」
あれでバレていないと、本気で思っておったのか?
|豊臣秀吉(わたし)はベネットのくだらない自信過剰に軽く呆れた。
「貴様ぁー!今まで我々の加護下にいながら、今更エイジオブ帝国に下るかぁー!」
……|豊臣秀吉(わたし)は……ドウカァーのマヌケさに激しく呆れた……サカシラ兄上もドウカァーを馬鹿を見る様な視線を送る。
って、そんな場合じゃなかったな。
「当然です。落ち目である貴方方ムソーウ王国と、最早最強であるエイジオブ帝国、どちらに就くのが得か?……解るでしょ?」
「貴様ぁー!損得の問題かあぁー!」
そこが、己の信念だけで戦う者と政を優先した戦い方をする者との違いだな。ドウカァーは未だにムソーウ王国が理想とする戦い方に拘っているのに対し、ベネットは戦いが終わった後の事まで考えおる。
だが、本当にそれだけであろうか……
それに……どっちが美しいかもだ!
「確かに、自国を戦火に巻き込まないと言うお考えはご立派です。国を燃やされるなど百害あって一利無し。ですが―――」
「続きはエイジオブ帝国の地下牢で聞きますので結構です……捕らえなさい!」
ベネットは既に|豊臣秀吉(わたし)の話を聴く心算は無くなったのか、兵士達に私達の捕縛を命じおった。
「触るな外道の僕。まだ王族同士の神聖な会話の途中だぞ」
「ぐええぇーーーーー!?」
よよよよ弱ッ!
|豊臣秀吉(わたし)が私を捕らえようとした兵士の手を軽く払いのけただけなのに、敵兵が盛大に吹き飛んだぞ!?
こいつらちゃんと鍛錬を積んでおるのか!?
「無礼であるぞ!サカシラ様とオラウ様をその様な叛旗の手で触れようなどと!」
ドウカァーが私達を捕らえようとしている兵士達相手に善戦してる……
これってつまり、ただ単にムソーウ王国が部将以上の将校に求める戦闘力が高過ぎるってだけの話なのね。
……慣れって怖いわ。
それに……会食の時から何か変だったあの槍兵。今だに全く動かん。何を考えておる?
とは言え、このままこやつらを一掃して終わりでは芸が無い。
ここはやはり、私の話術がモノを言うな!
「双方!そこまでにして貰おう!」
「何をしておる!?早くそこにいるエイジオブ帝国に逆らう愚か者を捕らえぬか!」
「ベネット!お前も王族を騙る者であるなら、王族同士の神聖な会話に不要な下僕の侵入を許すな!下僕が犯す無礼となるぞ!」
「何を偉そうな事を言っておる!この俺の術中に嵌った貴様達は、既にエイジオブ帝国に囚われた囚人!俺と貴様等との間には神聖な会話など無いわ!捕らえよ!」
完全に話が平行線だな?
「トクミツ!何をしておる!せっかく覚えた戦技を使うのは今だろ!」
あの槍兵、トクミツって言うんだ?
で、そのトクミツの奴、何かを見比べて品定めをしている様に視えるぞ?
静のトクミツと動のベネット。
どちらが冷静そうに観えるか……美しく観えるか……
こうして視ると、ベネットって|豊臣秀吉(わたし)より背が高い癖に小っちゃいなぁー。
「だから!王族同士の神聖な会話に余計な者を入れるな!いい加減にしろベネット!」
|豊臣秀吉(わたし)の文句に対し、トクミツは片手で兵士達を制した。
「何でじゃトクミツ!?」
「オラウ殿の言い分、確かにごもっとも!この者をどうするかは、この者の言い分を聴き終えてからでも遅くはないか―――」
「遅いわ!おっそいわ!さっさとこの無知な愚者を捕らえてエイジオブ帝国に明け渡さんか!」
……本当に小さいなぁベネット……|豊臣秀吉(わたし)はベネットの顔を見る為に顔を上にあげているのに……

ま、少なくとも|豊臣秀吉(わたし)の言い分が真面である内は、トクミツは私達を攻撃する事は無いだろう。
が、トクミツが私達を敵と判断した時が怖いがな。
「私がベネット殿に訊ねたいのは、エイジオブ帝国が我が国であるムソーウ王国に勝利した事で得られるベネット男国の損得についてです」
ん?
今、トクミツがピクっと動かなかったか?
「つまり、お主達の言葉を聞くに値しないと言う事。話は終わった。捕らえろ!」
早いなお前。
せめて、お前がどんな条件でエイジオブ帝国に下ったかくらい言えよ。
トクミツもそう思ったのか、不機嫌そうな顔はすれど、戦う意志は無し……そんなに気になるか?私達ムソーウ王国が出そうとしている条件が?
その証拠に、トクミツが遂に口を開いた。
「して、ムソーウ王国がエイジオブ帝国の侵攻に耐え抜いた際、我々ベネット男国は何を得られ―――」
その途端、ベネットが慌ててトクミツの口を塞いだ。
「ば!?馬鹿!今の台詞がエイジオブ帝国に聞かれたら不味い事になるだろ!」
あー、そう言う事ね。
本当に小さいねベネット?|豊臣秀吉(わたし)は後先まで考えて戦っている者と君を同列に扱った事を恥に思うよ。
それに、今の小声をちゃんと聴き取ったぞ!
「確かに!自国を戦火から遠ざける事は美徳であり聡明な行いだ。国民を無粋な戦火から護り、国民を無駄死にさせなかったのですから。だが!死ねない事が必ずしも幸福かと言えば、|豊臣秀吉(わたし)は違うと思います!」
「……死なないが不幸だとぉー!?所詮は全てを失った哀れな囚人の考えよ!」
この言葉に対するベネットの反応が凄いな。
お陰で、ベネットがどの様な条件でエイジオブ帝国に下ったかがよぉーーーーーく解った!
「つまり、その先に贅沢をしたと言う実感が有るか無いかです!」
「なるほど……貴方達は既に囚人。贅沢とは無縁の存在。だから私達の生活環境改善を求めると?……身の程を知れ囚人!」
やはりね……
こやつはベネット男国の命運がどうとかを考えているのではなくて、|豊臣秀吉(わたし)をどうやってとっ捕まえるかを重視しているのね……
……自分が助かる為だけに!
「違う!|豊臣秀吉(わたし)が問うているのは、ベネット男国がこの先どれだけ贅沢するかだ!たとえ自国を戦火から護り抜いたとしても、自国が1度も贅沢出来なければ、それでは自国を護った事にはならん!」
ドウカァーは力強く頷き、トクミツの目は大きく見開いた。
あとひと押しだな?
「民が!国が!そして王が!1度も贅沢出来ない国!贅沢した気分になれない国!その様な無様な国が!本当に幸せな国と本当に言えるのか!」
そうだろ?前田慶次!
「……バカ……アホ……トントンチキ……」
ん?
トクミツさん、何か言いまし―――
「俺達がどれだけ我慢したか……どれだけ自分の意見を圧し殺したか……知らない癖に!」
こいつ!……|豊臣秀吉(わたし)を殴ったぞ。
「オラウ!?」
「オラウ様!」
私は……私の心配をするサカシラ兄上とドウカァーを片手で制した。
ここで反撃したら芸が無い……そんな気が……したからだ。
その間も、トクミツさんは私を殴り続けた。
「俺達だってなぁ……本当はエイジオブ帝国の無礼な侵攻に対して徹底抗戦したかったよ!でもなぁ―――」
「わー!わー!わー!この人は違いますからねー!ただ酒に酔ってるだけですからねぇー!」
ベネットとか言う小さい男が何か慌てている様ですが、あえて無視しました。
そんな事より……
「元はと言えば、お前達ムソーウ王国が不甲斐無いからこうなったんだろうが!?俺はな!お前達ムソーウ王国に憧れて必死に戦技を覚えたんだぞ!それなのに……それなのに……お前達がくだらない連敗をしたせいで、俺達は戦わずしてこの国を明け渡さなければならなくなったんだぞ!どいつもこいつも……もっと真面目に戦えよな!お!」
熱い!
こいつの涙が熱い!
この熱さが、トクミツがどう言う人物かをきめ細かく丁寧に説明してくれる。
……それに引き換え……
「おい、おい!何をしている!あの馬鹿|4(・・)を捕縛せぬか!早くしろぉーーーーー!」
遂にトクミツまで切り捨てたか……本当に解り易い小ささだな……

気付けは|豊臣秀吉(わたし)はトクミツにハンカチを差し出していた。
「鼻、出てるよ?」
|豊臣秀吉(わたし)に指摘されたトクミツは、私のハンカチで鼻をかんだ。
そして……
「急に良い顔になったじゃない?」
私は少しだけ背筋が冷たくなった。
この時のトクミツは笑顔だからだ。怖いくらいに。
「今のでスッキリしました。まるで便秘が完治した気分です」
そ……そうなんだ……それは良かった……
「して!」
「……はい?」
「もしこの包囲を突破したのち、エイジオブ帝国をどうする御心算か?」
ベネットがギャーギャー騒いでおる様だが、トクミツの静か過ぎる気迫の方が気になり過ぎて耳に入らぬ。
で、代わりに答えてくれたのがサカシラ兄上だった。
「私は、エイジオブ帝国の侵攻は度を越えていると考えております」
「度を?」
実際の音量はベネットのギャーギャーの方が圧倒的に大きい筈だが、精神的にはトクミツの低音の方が耳に響く。
「私達ムソーウ王国は、これからも自分達の力をひけらかす事無く、他国の安寧に一切手出しせず、他国への救援にのみ心血を注ぐ事を誓いたい」
頑張れサカシラ兄上!
「でも、それではエイジオブ帝国も護る事になりますぞ?」
「確かに。ですが、エイジオブ帝国とて拡大し過ぎた領土を完全に見通す事は出来ないと判断します。故に、エイジオブ帝国は過剰な侵攻で得た手に余る領土は捨てるべきと考えます。向こうがそう簡単に決断するとは思えませんが」
「手に余る……か」
トクミツさん……マジで怖いです……
お陰で……ベネットの超大音量のギャーギャーがまったく聞き取れません……
「確かに手に余るな。エイジオブ帝国のあの領土は」
「何いぃー!?」
あ。やっとベネットの声を聴き取れた。
「貴様等は馬鹿か!どうあがいてもエイジオブ帝国には絶対に勝てぬ事ぐらい容易く解るだろ!」
「ですが、この広き世界をたった1人の王のみで全て面倒を看ろと?不可能です」
「だからお前は馬鹿なのだぁー!エイジオブ帝国に勝利する方が不可能の中の不可能じゃー!」
そして……トクミツの殺気が遂に解き放たれた!
「私のかつての王よ!この態度を視てもなお、このトクミツが反逆を否定出来る者が……いようか!」
その直後……
トクミツがベネットを殺していた……
「おーーーーー!?」
ベネットはトクミツが投げた槍が自分の腹を貫通している事に軽く混乱しておる様じゃが、周りの者は誰もベネットを心配していない。
つまり、ベネット以外は誰も本気でエイジオブ帝国に下る心算は無かった訳ね?

で、|豊臣秀吉(わたし)は一計を案じてトクミツに捕まったフリしながら今回の絵を描いた黒幕の許へやって来たが……
「あれ?ベネット男爵は如何いたした?」
あれ?こいつは確か、あの口の傷は|豊臣秀吉(わたし)が付けた筈の。
「オラウ・タ・ムソーウが無駄な抵抗を行い、我らが王は……」
「そうか……それは残念だ」
まさか、ベネットの安否を最も案じておったのは敵国の中にしかいないとはね。なんたる皮肉。
「それよりも……オラウ姫、やっとその重たい鎧や衣服を脱げますなぁ。良かったですなぁ」
この弩助平が。
が、こやつは何も知らないから怒る気にもならんわ。
で、トクミツが目の前の敵将の護衛を全員殺した。
「……え?」
「そう言う事だ」
「……え……」
こいつ……完全に時間が止まっておるわ。
その間に、トクミツが敵将を羽交い絞めにした。
「本当にアレをやるのか?」
「……ああ」
そう言いながら、|豊臣秀吉(わたし)は敵将のズボンとパンツを脱がし、恐々と敵将のアレに触れた。
「て!?え!?」
この世界の|豊臣秀吉(わたし)は女なので、殿方のアレを扱えなければならぬ訳だが……肝心の|豊臣秀吉(わたし)はこいつのアレを恐々と舌でゆっくりとチョンチョンと触る。
我ながらもどかしい!
でも……
|豊臣秀吉(わたし)はこいつのアレを恐々とゆっくりペロペロと舐めるのみ。
そんな事ではいかんと解っていながら……
恐れるな|豊臣秀吉(わたし)!朝になる前にこやつのアレを|勃起(たた)せなきゃいけないのにいぃーーーーー!
でも……
やはり恐々とゆっくりペロペロと舐める事しか出来ぬ……

翌朝。
ベネット男国のとある十字路では、4つの立て看板が道を塞いでいた。
「なんだこの看板は?邪魔だなぁ」
「何を考えてこんな物を?」
「ん?『この者、ベネット卿がエイジオブ帝国に寝返る事を催促した罪により、エラ寸止めの刑に処す』?何を言ってるんだ」
で、民衆が邪魔な立て看板を片付けようとした時、彼らの目にとんでもないモノが飛び込んで来た。
「あ!あれを視ろ!」
それは、全裸で仰向け大の字をさせられているヨツメの姿であった。
「おー!●●●う丸出し!」
「しかも、●●●いが真上を向いておるぞ!」
「エラ寸止めってまさか!?」
大衆が騒ぐ中、全裸のヨツメは滝の様な涙を流しながら、実行犯であるオラウへの復讐を誓った。
「堪能させてやるからな……全裸で地下牢生活を堪能させてやるからなあぁー!楽しみにしていろよおぉーーーーー!」

トクミツ・ミツナリ

年齢:39歳
性別:男性
身長:166cm
体重:60.6㎏
職業:兵士
武器:ブージ風ピルム
戦技:幻月、葬騎の一撃、突槍
趣味:勉学、鍛錬
好物:勇猛果敢、不屈の精神
嫌物:不戦敗、醜い政争、不義
特技:槍投げ

ベネット男国に所属していた槍兵だったが、肝心の主君ベネット男爵が自分勝手にエイジオブ帝国に寝返り、オラウにその事を指摘された為、部下達と共にムソーウ王国に寝返った。
ムソーウ王国の鎧袖一触な一騎当千に憧れていた時期があり、それが高じて戦技を独学で身に着けた。
イメージモデルは石田三成【影武者徳川家康】。

第12話:農村搭載機動キャノンガリオン船『スイゲン』登場!

前回のあらすじ

バッレバレの罠でオラウ達を包囲するベネット男爵。と言うか解り易過ぎ……
既に見抜かれている罠を自信満々に語りつつオラウ達を捕らえようとするベネット男爵に対し、豪遊のなんたるか、国の幸せのなんたるかを語ってベネットが自分だけ助かりたいが故の事だと指摘します。
そうすると……
「俺達だってなぁ……本当はエイジオブ帝国の無礼な侵攻に対して徹底抗戦したかったよ!でもなぁ……元はと言えば、お前達ムソーウ王国が不甲斐無いからこうなったんだろうが!?俺はな!お前達ムソーウ王国に憧れて必死に戦技を覚えたんだぞ!それなのに……それなのに……お前達がくだらない連敗をしたせいで、俺達は戦わずしてこの国を明け渡さなければならなくなったんだぞ!どいつもこいつも……もっと真面目に戦えよな!お!」
ベネットの配下であるトクミツ・ミツナリがムソーウ王国の連敗に対して逆ギレし、溜まってた鬱憤を全て吐き出し、ベネットを殺してムソーウ王国に寝返ってしまいました。
そして、ベネットがエイジオブ帝国に寝返るの黒幕であるヨツメを捕らえ、十字路の真ん中で全裸仰向け大の字にするのでありました。

へべく!

ベネット男国から帰って来た私達ですが……
「つまり……成果は無しと?」
ギョクサイ姉上の笑顔が歪む。
ま、隣国に助けを求めに往って既にその隣国が敵になっていたのだから、顔が歪むのも無理は無い……
「トクミツ・ミツナリです。今日からムソーウ王国でお世話になります」
「あ、わざわざどうも」
一応トクミツとその部下達を得たものの……と言った感じだからなぁ……
「それより、アニマが変な物を見てしまったらしくてな」
「変な物?」
ただでさえ隣国ベネット男国がとんでもない役立たずだと言うのに、エイジオブ帝国は今度は何を企んでおる?
「オラウさーん!」
噂をすればだ。
「アニマ、いったいエイジオブ帝国の何を視た?」
「水源が、水源がこっちに向かってるんだよ!」
「……水源?」
「信じられないかもしれないけど、エイジオブ帝国が作った戦艦の甲板に町が在るんだよ!」
……街?
船の真上にか?
三国志には楼船と言う馬鹿デカい船が在ると聴くが、それだって船の上に楼閣が有る程度の筈じゃ。
それなのに街って。
「確かに嘘に聞こえるかもしれないけど、甲板に町の中心が1つ、粉ひき所2つ、家が10個、畑が6つ、港が2つ、射手育成所が1つ、包囲攻撃訓練所が1つ、防衛塔が4つ、砲台が8つ在るんだよ!」
あのアニマが何故この様な事を?
でも、|豊臣秀吉(わたし)達はアニマの動物を操る魔法に何度も救われた。
それに、仲が悪いとは言えエイジオブ帝国は姉の仇だ。
アニマがムソーウ王国が不利になる様な嘘を言うとは思いたくない。
「で、その町の名前が水源だと言うのか?」
「そう。その船に乗っていた農家がそう言っていた」
んーーーーー。
色々と謎が多い報告だのう……

一方、全裸で晒し者にされたヨツメがクーデタードア実行用資源収集用砦に戻ると、
「ヨツメ隊長。本国から指令書が届いております」
「指令書!?」
嫌な予感がするヨツメは慌ててその指令書を奪うと、
「……なんだと……なんだと……なんだと何だと何だと何だとおぉー!……これは……本物か!?」
「はい」
その途端、ヨツメは愕然とした。
「そんな……あの糞女めぇ……」
本当ならこの忌々しい指令書を破り捨てたいヨツメだが、その程度で今回の命令が覆るとも思えない。
でも……
「行きたくねぇぞ。それに―――」
その瞬間、背後から殺気を感じたので慌てて振り返ると、伝令兵が吹き矢を構えていた。
「本当に行かない御心算か?」
嫌な予感がしながら訊ねるヨツメ。
「行かないと言ったらどうする?」
「その時は、貴方様を殺せとの仰せです」
「もし……この俺に返り討ちにされたら?」
「この私が1ヶ月以上も本国に帰らなかったら、次が来るだけです」
「次……」
つまり、ヨツメに今回の指令の拒否権は無いと言う事である。
「だが―――」
「つべこべ言わず、ここで死ぬか指示された場所に向かうかしてください」
無慈悲な伝令兵にドン引きするヨツメ。
でも……
「しばし待てとお伝えください。必ずや敵将オラウを捕らえますので」
ヨツメにとって、この指令書に書かれている内容は、懲りずにウジウジグダグダブーブー言いたくなる程気に入らない内容だった。
「つまり、この俺が敵将―――」
「駄目です。殺しますよ」
「お主が『ヨツメ大隊長が必ず敵将―――」
「これはイナオリ様の勅命です」
「俺が敵―――」
「いい加減に出発の準備をしてください!」
諦めの悪いヨツメと忠実で融通が利かない伝令兵の長々と続く押し問答に、当の伝令兵は我ながらドン引きした。
「テメェが本国に帰って、この俺が敵将ヨツメをとっ捕まえるのを心待ちしていれば良いだけの話だろ!いい加減にしないと殺すぞ!」
(いい加減にして欲しいな。指令書に書かれた場所に向かえば良いだけの話なのに)

その後、|豊臣秀吉(わたし)はサカシラ兄上と共にムソーウ王国軍の現状を再確認していたのだが……
「ものの見事に……|空っぽ《・・・》か」
そうなのだ。
人の味を知り過ぎた熊の様な父上のマヌケな戦術に賛同した部将以上の将校は、その大半がエイジオブ帝国の接待戦法にまんまと引っ掛かって……
寧ろ、父上とギョクサイ姉上がまだ生きている事が奇跡と言える程の……
……
……
……
……考えるだけで気が滅入る……
そこへアニマがやって来て、
「オラウさん!大変だよ!」
「どうしたアニマ?」
「水源がやって来た!今!水源がカイジンニキス港国を襲ってる!」
「水源って、アニマ殿が言っていた街を内蔵したキャノンガリオン船の事ですか?」
「そう!その水源!」
と言われても、皆は半信半疑。|豊臣秀吉(わたし)ですら信じ切ってやれない。
だが、あのアニマが今更|豊臣秀吉(わたし)に嘘を言うとも思えない。
「……私が行きます!」
「行くって……カイジンニキス港国にか?」
「はい。やはり実際に視ないと真相は解りません」
で、アニマの言う水源を視に部隊を率いてカイジンニキス港国へと向かうが、その途中に当のカイジンニキス港国の使者と思われる人物に出会い、
「貴方方はまさか、ムソーウ王国の軍勢か!?」
「如何にも。|豊臣秀吉(わたし)はオラウ・タ・ムソーウ。水源なる謎の船がカイジンニキス港国に向かっていると聞いて向かっているところです」
|豊臣秀吉(わたし)の言葉に使者は大喜びする。
「おー!天の助け!今直ぐ我が国に漂着した|()の投石を止めて頂きたい!」
え?……島!?
船じゃなくて?
私は船って聴いていたんだけど!
それとも……
いやいや!
流石にそれは非常識過ぎるだろう!

だが……|豊臣秀吉(わたし)は自分の目を疑った……
水源に襲われたと思われる港町近くに櫓を築かせてそこから望遠鏡で覗いて視たが……何じゃこの大きさは!?そして非常識さは!?
敵船の甲板の上に乗っていたのは、正に農村だった!
「あれが……水源?」
甲板に農村を乗せた鉄甲船が備えた大筒で港町を砲撃しているのだ……悪夢かこれは!?
しかも……
「お願いです。ムソーウ王国自慢の突撃戦法をもってあの島を!」
あの馬鹿デカい鉄甲船の頭は北条氏政より賢い様で、
「何をしているのですか!早く、早くあの島を沈めて下さい!」
あえて自分達の破壊力を魅せ付ける事で、籠城戦が得意だと過信する堅城の欠点である長期戦を封じて短期決戦に持ち込んで来おった!
現に……例の使者は|豊臣秀吉(わたし)にさっさと農村を乗せた鉄甲船を沈めろと叫ぶ。
いや……流石にそれは……
「ごめんなさい……時間を下さい」
その途端、|豊臣秀吉(わたし)を役立たずと見下した使者からの罵声が飛ぶ。
「あんた……あんたはムソーウ王国の誇り高い将校じゃなかったのか!この期待外れの嘘吐きー!」
腹ただしくはあるが……あんな化物相手に無策で突撃して配下の兵士達を無駄死にさせる訳にはいかんのだ……
許してくれ!

結局、カイジンニキス港国の港町の惨劇を聞かされ、農村搭載機動キャノンガリオン船『スイゲン』に行く破目になってしまったヨツメ。
「流石……仕事が遅いだけあって到着も遅いですねぇ?」
「ふざけるなメッガーネ!貴様はのうのうとスイゲンの市長をしてりゃあ良いんだよ!」
「ふざけるな?ベネット男国で行われた『エラ寸止めの刑』が悪ふざけじゃないと?」
その途端、ヨツメが悔しそうかつ恥ずかしそうに両手で股間を隠す。
「ど……どの道あの糞女は俺に取っ捕まって全裸で地下牢生活なんだ。テメェがしゃしゃり出る程の隙間はねぇんだよ!」
だが、メッガーネと呼ばれた男性はヨツメの言い分を一蹴する。
「その割には負けが過ぎませんか?ベネット卿戦死の噂もありますからね」
返す言葉も無く、ただ悔しそうに両手を力強く握るだけのヨツメ。
「あぁー、忘れていました。既に指令書に書かれていると思いますが―――」
ヨツメは、スイゲンに到着してしまってもなお、指令書に書かれたある事だけは認めたくなかった。
「あれは!……無効だ!あの話は!無い!」
「その言葉、イナオリ殿の前でも言えますかな?」
諦めの悪いヨツメは、指令書の内容に対するある疑念を口にした。
「あの指令書、本当はお前が偽造したんじゃねぇのか!」
だが、メッガーネはそれを否定する。
「だとしたら、何でわたくしが『代理』なのです?」
「ぐっ!」
「それに、あのハンコをどうやって盗めと?」
「ぐっ!」
それでも諦めの悪いヨツメは認めないが、メッガーネは冷酷に指令書の内容を復唱する。
「今日より!ヨツメをヨツメ大隊所属中隊長とし、メッガーネをヨツメ大隊大隊長代理とす!」
「ぐおおぉーーーーー!」
ヨツメが悔しそうに咆哮する中、待たされた状態の伝令兵が苦言を呈する。
「ヨツメ様にメッガーネ様!急ぎ指令書通りの人事を遂行して下さい!」
「ああ、そうでしたそうでした」
無論、その様な事をすれば自分の降格に繋がりかねないので猛反対するヨツメ。
「だあほかお前は!?この偽りの指令書を誰が捏造したか知ってて言っているのか!?」
だが、伝令兵はきっぱりとヨツメの悪足掻きを一蹴する。
「その指令書、イナオリ殿より直接預かった物です。つまり、この人事もイナオリ殿の作戦―――」
「ちっがあぁーーーーーうぅーーーーー!この贋作はなあそこのメッガーネが―――」
「いい加減にしてください。その様な事をしている暇が有ったら、さっさとその指令書に書かれている通りの人事を行ってください」
ヨツメの悪足掻きと伝令兵の正論がぶつかる中、メッガーネが高らかに宣言する。
「と言う訳で、これからはわたくしめが仕切ります……お覚悟を!」

メッガーネ・グシラ

年齢:46歳
性別:男性
身長:172.6cm
体重:74.4㎏
職業:市長
趣味:園芸、品種改良
好物:野菜、海鮮料理
嫌物:生肉料理
特技:演説、町内会運営

エイジオブ帝国農村搭載機動キャノンガリオン船『スイゲン』の市長。だったが、失敗続きのヨツメに痺れを切らしたイナオリの命令でヨツメ大隊大隊長代理を兼任する事になった。因みに、当のヨツメは中隊長に降格した。一人称は「わたくし」あるいは「わたくしめ」。
丁寧な言葉遣いながらもマッドサイエンティスト染みた雰囲気を持っている。オラウ曰く「北条氏政より賢くて戦上手」。が、ヨツメ大隊大隊長代理を兼任以降はヨツメに翻弄される苦労の多い指揮官に成り下がってしまった。
イメージモデルはキャノンボーグ【爆上戦隊ブンブンジャー】。

今後について

毎週ごひいきに愛読してくれて、まことにありがとうございます。

ですが、そろそろ『色々と間違ってる異世界サムライ』(https://slib.net/120442)の連載再開を果たしたいと思い、『豊臣秀吉が異世界で無双系姫騎士やるってよ〜天才が馬鹿に操られながら秀才と戦ったら可笑しな事になった〜』の連載ペースを週刊から隔週刊にしたいと思います。

第13話の掲載は2024年(令和6年)7月9日(火曜日)を予定しております。

大変ご迷惑をおかけしますが、今後ともごひいきにして頂ける事を、よろしくお願い申し上げます。

登場人物紹介その①

オラウ・タ・ムソーウ

年齢:14歳
性別:女性
身長:147cm
体重:42.2㎏
体型:B84/W55/H81
胸囲:E65
職業:王女
武器:後期型パルチザン風ショートソード
戦技:光刃、一閃、剣の舞
趣味:日記、女遊び、ティータイム
好物:美女、美少女
嫌物:幼稚過ぎる戦術、醜男
特技:戦略、戦術、豪遊、人たらし
前世:豊臣秀吉

ムソーウ王国第三王女として異世界転生した豊臣秀吉。
ムソーウ王国の王女としての教養を身につける一方、ムソーウ王国の将校必須である驚異的で一騎当千な戦闘力も身につけており、剣から衝撃波を飛ばすなどの戦技を習得している。
直接戦闘の方は文字通りの一騎当千だが戦略や戦術は幼稚過ぎるムソーウ王国の真っ直ぐ過ぎる戦い方に悪戦苦闘しながら、豊臣秀吉の記憶と知識を頼りに謎の弱小小国エイジオブ帝国の野望を打ち砕くべく戦い続ける。
イメージモデルはミルヒオーレ・F・ビスコッティ【DOG DAYS】とミーア・ルーナ・ティアムーン【ティアムーン帝国物語】。

アニマ・マッホーウ

年齢:10歳
性別:男性
身長:139cm
体重:35.1㎏
職業:元王子
魔法:小動物を操る(ポメラニアン程の大きさが上限)、動物と会話出来る
趣味:動物飼育、魔法の勉強
好物:平和、活躍の場、仲間達の役に立つ事
嫌物:不正、侮辱的発言、無力な自分
特技:動物と会話する
苦手:強力な攻撃魔法会得

姉と共にムソーウ王国に亡命したマッホーウ法国の王子。
祖国を滅ぼした怨敵エイジオブ帝国との戦いで自分も役に立ちたいと考えてはいるが、優しくてお人好しな性格が災いしたのか動物操作系魔法しか習得出来ず、戦力とみなされない日々が続いていたが、そんな彼に諜報員としての才能を見出したオラウに拾われた事で事態は一変、周囲から戦力外と侮辱されつつもオラウに叱咤激励され続けた結果、オラウが率いる部隊に必要不可欠な敏腕諜報員へと成長した。

ドウカァー

年齢:50歳
性別:男性
身長:181cm
体重:70.5㎏
職業:オラウ大隊中隊長
武器:ロングソード、ショートスピアー
趣味:演武、模擬戦
好物:突撃、勝利、勇猛
嫌物:臆病、卑怯、遅延
特技:突撃
苦手:高等戦術、慎重、腹芸、深読み

ムソーウ王国百人隊長。ムソーウ王国らしさが不足しているオラウのお目付け役としてオラウ隊に配置された。
最初の内は一騎当千と鎧袖一触に慣れ過ぎたムソーウ王国に所属する兵士特有の突撃至上主義に完全に染まっており、オラウの慎重で遠回りな戦術に不満を抱く事も多かったが、オラウの真意を知って以降は少しずつだがオラウに心酔する様になっていく。
イメージモデルはドゥーガ【王様戦隊キングオージャー】。

ヨツメ

年齢:42歳
性別:男性
身長:165cm
体重:81.6㎏
職業:エイジオブ帝国軍大隊長
武器:レイピア、火縄式ピストル
趣味:ボードゲーム
好物:出世、勝利、名声
嫌物:敗北、汚名、屈辱
特技:変装、忍び足、逆恨み
苦手:逆恨みを中止する

エイジオブ帝国軍大隊長。出世欲旺盛で好戦的な性格で執念は誰にも負けない。
ムソーウ王国崩壊計画『クーデタードア』の実行の為にムソーウ王国領内に造られた資源強奪用砦の内の1つを任されたが、肝心のオラウが前世である豊臣秀吉の記憶と知識を頼りにムソーウ王国本来の戦い方とは真逆の戦術を繰り返したせいで、クーデタードアの為に動員された他の大隊長との戦果差が歴然となってしまい焦っている。が、再三にわたってオラウ隊を陥れようとするが、ことごとく失敗に終わって、その度に酷いしっぺ返しを食らってしまう。でも、いつもめげずに悪巧みを働かせるあたり、どこか憎めない人である。
イメージモデルは四井主馬【花の慶次 -雲のかなたに-】。

イナオリ・ネッジー

年齢:13歳
性別:男性
身長:160cm
体重:50㎏
職業:軍師
趣味:炭酸粉(火薬)を使った悪戯、悪巧み
好物:自分を理解してくれる人、マヌケな敵
嫌物:未知の強敵、マヌケな味方
特技:炭酸粉(火薬)取り扱い、悪知恵

エイジオブ帝国王室側近軍師。常に着けている舞踏マスクはただのカッコつけで深い意味は無い。寧ろ、ギャグマンガの様に喜怒哀楽が激しい性格。
偶然炭酸粉(火薬)採掘に適した洞窟を発見した事で人生が好転。最初は炭酸粉を使った悪戯をして遊んでいたが、その内、炭酸粉を使えば投石器を劇的に小型化出来る事に気付き、後にエイジオブ帝国となる地方自治体に拾われ、炭酸粉を使った投石器を用いて熊を退治した事を機に接待戦法『クーデタードア』を開発してトントン拍子に逆転勝利を重ねてきたが……
イメージモデルはネジル・ネジール【ヘボット!】。

ギョクサイ・ヨ・ムソーウ

年齢:16歳
性別:女性
身長:157.7cm
体重:49.5㎏
体型:B93/W63/H82
胸囲:G67
職業:王女
武器:鉄製の強弓、レイピア
戦技:曲射、ホーミングショット、狙撃
趣味:ボディビル鑑賞、アーチェリー、フェンシング
好物:筋肉、愛国心
嫌物:虚弱体質、卑怯、裏切り者
特技:突撃、一騎当千

ムソーウ王国第二王女。
一見すると眼鏡をかけた地味な少女に見えるが、彼女もまたムソーウ王国の部将以上の将校の必須である鎧袖一触な一騎当千を身に着けている。が、それが仇となってエイジオブ帝国のクーデタードアに嵌って自身が指揮する部隊に生け捕りにされかけたが、アニマの機転によって逃走しオラウと合流する。
イメージモデルはちひろ【フィジカル≒ラブなHONEY】。

サカシラ・ガ・ムソーウ

年齢:17歳
性別:男性
身長:170cm
体重:57.8㎏
職業:王子 → 国王
趣味:勉学、読書
好物:静かな場所、親切、礼節
嫌物:悪意に満ちた権力、醜い政争
特技:知恵、無武勇

ムソーウ王国第二王子。
国王に任命される事を避ける為、武勇を捨てて知恵に傾倒し、思惑通りチュウオウ学国ガッケン学園都市への出向を命じられたが、ムソーウ王国がエイジオブ帝国に苦戦している事に加え、オラウに今までの行動の矛盾点を指摘された事で、彼は遂に覚悟を決めて国王になる事を決意した。

トクミツ・ミツナリ

年齢:39歳
性別:男性
身長:166cm
体重:60.6㎏
職業:兵士
武器:ブージ風ピルム
戦技:幻月、葬騎の一撃、突槍
趣味:勉学、鍛錬
好物:勇猛果敢、不屈の精神
嫌物:不戦敗、醜い政争、不義
特技:槍投げ

ベネット男国に所属していた槍兵だったが、肝心の主君ベネット男爵が自分勝手にエイジオブ帝国に寝返り、オラウにその事を指摘された為、部下達と共にムソーウ王国に寝返った。
ムソーウ王国の鎧袖一触な一騎当千に憧れていた時期があり、それが高じて戦技を独学で身に着けた。
イメージモデルは石田三成【影武者徳川家康】。

メッガーネ・グシラ

年齢:46歳
性別:男性
身長:172.6cm
体重:74.4㎏
職業:市長
趣味:園芸、品種改良
好物:野菜、海鮮料理
嫌物:生肉料理
特技:演説、町内会運営

エイジオブ帝国農村搭載機動キャノンガリオン船『スイゲン』の市長。だったが、失敗続きのヨツメに痺れを切らしたイナオリの命令でヨツメ大隊大隊長代理を兼任する事になった。因みに、当のヨツメは中隊長に降格した。一人称は「わたくし」あるいは「わたくしめ」。
丁寧な言葉遣いながらもマッドサイエンティスト染みた雰囲気を持っている。オラウ曰く「北条氏政より賢くて戦上手」。が、ヨツメ大隊大隊長代理を兼任以降はヨツメに翻弄される苦労の多い指揮官に成り下がってしまった。
イメージモデルはキャノンボーグ【爆上戦隊ブンブンジャー】。

第13話:長期戦が足りない……

前回のあらすじ

ベネット男国の裏切りを裏で操っていたヨツメを徹底的に辱めたオラウであったが、そんなヨツメにとんでもない指令がやって来ます。

今日より!ヨツメをヨツメ大隊所属中隊長とし、メッガーネをヨツメ大隊大隊長代理とす!

なんとかして指令書に書かれている降格指令に従う前にオラウを捕らえて辱めようと何度もダダを捏ねますが、メッガーネが市長を務める農村搭載機動キャノンガリオン船『スイゲン』が圧倒的な破壊力でカイジンニキス港国を大混乱に陥れ、ヨツメの異論と反論を完全に封じてしまいました。

へべく!

で……カイジンニキス港国を襲った『水源』に対してどう突撃しようかと話し合っているのだが……
|豊臣秀吉(わたし)はあんな化物の様な城相手に正攻法なんかしとうないぞ!
「ですが!このままあの島を野放しにすれば、カイジンニキス港国が灰燼に帰してしまいますぞ!」
「だが、あの島に近付くのはかなり難しいかと」
「では何か!?あの島を野放しにしろと言うのか!?」
「あの島を野放しにするなと言ったのは貴方ですぞ?だからこそ、今回の突撃は慎重かつ丁寧に―――」
「その間も、カイジンニキス港国はあの島からの投石によってどんどん壊されておるのですぞ!」
「だからこそあの島に絶対に勝たねばならないんでしょうか!」
ドウカァー、アンタ少しうるさい。
あれは間違いなく多数の大筒を備えた鉄甲船!しかも、甲板に農村を乗せているから兵糧攻め対策も完璧!
正に……海の上を移動する小田原城……
アニマが必死に例の鉄甲船の弱点を探しておる様じゃが……流石に今回ばかりは期待がまったくできん!
エイジオブ帝国にその様な切り札が有るとはねぇ……
……駄目だ……|豊臣秀吉(わたし)ですら良いアイデアがまったく浮かばん!
「トクミツ殿、其方の慎重論もよく解りますが、やはりカイジンニキス港国を破壊して回っている島を急ぎ倒して欲しいのだ」
サカシラ兄上!?アンタいったい何を言ってんの!?
「何でそんなに急がれるのですか!?あの島に敗ければ、今までの戦いは全て無駄になりますぞ!」
トクミツの言葉に、サカシラ兄上は困った感じで溜息を吐いた。
「時間が無いのだ」
「時間とは?」
「このままでは、カイジンニキス港国がエイジオブ帝国に下るかもしれんと言う事だ。そうなる前にあの島と決着を着けねば、我々ムソーウ王国は今度こそジリ貧になる」
……その手があったか……
あの化物の様な馬鹿デカい鉄甲船相手に短期決戦なんかしとうないのに……

ムソーウ王国が農村搭載機動キャノンガリオン船『スイゲン』とどう戦うかを悩んでいる中、当のスイゲン市長のメッガーネが自信満々に自身の自己分析をヨツメに聴かせていた。
「つまりです。オラウ・タ・ムソーウが他のムソーウ王国将校とは比べ物にならない程強敵なのは、彼女が長期戦が得意だからなのです」
「何を言っておる?ムソーウ王国の常套手段をもう忘れたか?」
「もう忘れたのはオラウの方です。その証拠に……ヨツメさん、貴方が滞在していた砦は何度オラウに突撃されましたか?」
「ぐ!……」
確かに、メッガーネの言う通りオラウはムソーウ王国伝統の無謀な突撃戦法を無能だと忌み嫌っていた。
「だ……だが、突撃以外の戦法が出来ない状態で砦に長期戦を挑んで、オラウの奴に何の得が有る?」
見苦しい言い訳を繰り返すヨツメに対し、メッガーネは皮肉を込めた質問をした。
「それを最も知っているのは……実際にオラウの長期戦戦法を何度も味わったヨツメさんの筈ですが?」
「だ……黙れ!どの道、オラウはこの俺に取っ捕まって全裸で地下牢暮らしなんだよ!」
「それに」
「『それに』!?」
「ムソーウ王国国王出陣を理由に不要となって本国に強制送還となったイェニチェリが、オラウ・タ・ムソーウを討伐すべく再びムソーウ王国に進撃するそうです」
その途端、ヨツメは目玉が零れ落ちそうな程瞼が全開になった。
「なななななにぃー!?スイゲンだけでは飽き足らずイェニチェリまで|ムソーウ王国(ここ)に来るのか!?」
そんなヨツメとメッガーネの口論を聞かされている伝令兵は、呆れながら口を挟んだ。
「そんな事より、いい加減命令書通りの人事を行ってください!イナオリ軍師の勅命ですぞ!」
「私はヨツメ大隊大隊長代理を務めている心算―――」
「|()げえよ!ヨツメ大隊大隊長はこの俺!ヨツメ様なんだよ!」
「違います!御2人ともいい加減にしてください!ヨツメ様がヨツメ大隊所属中隊長で―――」
「|()げえのはテメェの方だよ!ヨツメ大隊の大隊長はこの俺!ヨ!ツ!メ!様だ!」
「だから!いい加減に命令書通り」
その途端、ヨツメは生真面目でしつこい伝令兵を斬首した。
呆れるメッガーネ。
「何で事を……後でどうなっても知りませんよ?」
「知るか!こいつが悪いんだ!ヨツメ大隊の大隊長はこの俺だ!」
「あ、そうですか。では」
ヨツメの激怒など気にせずにヨツメに命令するメッガーネ。
「このチラシをカイジンニキス港国全土にばら撒いて下さい」
「この俺に命令するなメッガーネ!ヨツメ大隊所属と言う事は、お前がこの俺に従うんだよ!」
対して、メッガーネは気丈に答える。
「『栄えあるスイゲンの市長を務める私を脅して来た』と、エイジオブ帝国本国に報告させて頂きますが、よろしいのですね?」
「本国だと!?」
と権力で脅し返されて脂汗を流して狼狽えてしまうヨツメ。
「本国は駄目だ!」
「ならば……このチラシをカイジンニキス港国全土にばら撒いて下さい。何としてでも、オラウ・タ・ムソーウに短期決戦を挑むのです!」
ヨツメは渋々チラシの内容を見た。メッガーネに体よく使われている事に悪態を吐きながら。
「クソが!」
が、肝心のチラシの内容に驚愕するヨツメ。
「……これは!?」
「言った筈ですよ?私はオラウの長期戦戦法を封じると」
改めてメッガーネに自分の地位を奪われるのではないかと不安になるヨツメであった……

「3日後だと!?」
|豊臣秀吉(わたし)は愕然とした……
「はい。オラウ様が先日慰み者にして辱められた者が、カイジンニキス港国内でばら撒いていたチラシです」
アニマから渡されたチラシを視て、|豊臣秀吉(わたし)は更に愕然とする。
そこには総攻撃の予定日が書かれており、それまでにムソーウ王国かエイジオブ帝国かを決めよと……
「事実上の降伏勧告ではないか!」
サカシラ兄上もギョクサイ姉上も頭を抱えている……お気持ちお察しします。
「ならば!あの島を倒して我々ムソーウ王国の―――」
ドウカァー君、ちょっと黙ってくれるかな。
「そんな事は言われんでも解っている!」
サカシラ兄上の怒号がドウカァーの言い分を遮った。それくらいサカシラ兄上が焦っていると言う事なのね……
元寇への対応に当たった北条時宗殿の苦労が、今なら手に取る様に解る。
ああ、拾は無事だろうか?海の向こうから来る連中に……
って現実逃避してる場合ではありませんわ!今はそれどころでなくって!

結局、水源に対して大した対策を思う浮かべる事が出来ず……
アニマにカイジンニキス港国の事を調べさせながら、|豊臣秀吉(わたし)はカイジンニキス港国の中を散策していた。
勿論、私を観る目も非情に厳しい。あわよくばこの私を倒してエイジオブ帝国からの評価を良くしようと考える輩さえいた。
結局……どんなに策を弄しようと、今回の水源の様な巨大かつ強大な力の前では無力と言う事か……
その時、アニマからとても小さい情報がもたらされた。
「山賊が暴れてる?」
カイジンニキス港国の中で略奪を繰り返す山賊がおり、その者達に奪われた砦は1つや2つではないらしい。
エイジオブ帝国にとってはそんな山賊の方が戦い易いだろうな。
奴らは|豊臣秀吉(わたし)と違って砦を奪う事に躊躇しないから、砦を奪われると見せかけて敵を死地に追い込む作戦には最適な敵だろう。
ただ、あのアニマが行う報告だ……何かあるのだろう……
いや……
何かあると信じたいだけなのか?
「ってえぇーーーーー!エイジオブ帝国が使う変な鉄の棒の様な武器を使ってるだってぇーーーーー!?」
それってつまり、その山賊は鉄砲を知ってる!
エイジオブ帝国から奪ったのか!?
それとも自力で鉄砲の存在に辿り着いたのか!?
ま、明らかに前者だろうが、それでも構わない!
サカシラ兄上同様にこのムソーウ王国に新しい風を吹かせる逸材かもしれないその山賊に逢いたい!
そして仲間にしたい!

その後、丸1日使ってその山賊を探し出して|豊臣秀吉(わたし)は彼らと面会した。
エイジオブ帝国がカイジンニキス港国を総攻撃するまであと2日。
この面会―――
「ん?お前、女のクセに我が知っている猿に似ているな?」
え……こいつ……もしかしてあいつの生まれ変わりか!?
「……信長様?」

第14話:まともな名君が足りない……

前回のあらすじ

エイジオブ帝国農村搭載機動キャノンガリオン船『スイゲン』によるカイジンニキス港国蹂躙まであと3日!
外交面でも外聞面でも窮地なムソーウ王国でしたが、全く答えが出ず……
その後、カイジンニキス港国がスイゲンだけではなく山賊にも悩まされていた事を知ったオラウが、実際に山賊に出遭うも、オラウの口から出た言葉は、

「……信長様?」

へべく!

「……信長様?」
まさか……信長様もこの世界に転生して……
「のぶながさま?誰だそいつ?」
「え?違うの?」
「と言うか、誰よお前?」
あれ?
違うの?
「でも、|豊臣秀吉(わたし)の事を猿と呼びましたよね?」
「猿?」
あれれ?
話が何時まで経っても噛み合わんぞ?
「もしかして、こいつの事か?」
「こいつって?」
そこにいたのは、まるで猿の様な小男であった。
「ちょっと待て、つまり|豊臣秀吉(わたし)はそいつと間違われたのか?」
「んー……でも、こいつには無い美貌が有るか?」
何なんだよもう!
もしかして、信長様がムソーウ王国の代わりに水源と言う小田原城の様な鉄甲船と戦ってくれると思っておったが……
うん!……|豊臣秀吉(われ)ながら完全に人任せだな……
ま、でも、エイジオブ帝国以外に鉄砲の有効性に気付いた人物をこのまま野放しは勿体無い!
「私は、ムソーウ王国国王、サカシラ・ガ・ムソーウの妹、オラウ・タ・ムソーウ」
その途端、目の前の山賊頭が少し困った顔をした。
「ムソーウ?あの恐ろしい突撃をする軍勢でお馴染みの?」
……どんだけ突撃が好きなんだ?我が国は。
「お恥ずかしながら、今はその勢いはありませんよ」
その途端、山賊頭は首を傾げおった。
「そうか?この便利な武器だって、えいじおぶなんとかが捨てた砦から奪った物だが、お前達ムソーウ王国のお得意の突撃が無かったら、こうはならなかったぞ?」
結局、その鉄砲はエイジオブ帝国から奪った物だったか……
しかも、エイジオブ帝国が捨てた砦の本当の目的には気付いていない様だ。
エイジオブ帝国が囮にした砦を次々と嬉々として落として、馬鹿みたいに死地に突っ込んで敵の罠に嵌ったのが……我が国であるムソーウ王国ですけどね!
「もし、本当に我が国の突撃が全てを打ち砕ける程の力が有るなら、カイジンニキス港国は今頃、我が国に助けを―――」
その途端、山賊頭の目が鋭く光った。
……何を考えておる?
「そのカイジンニキス港国なんだが、アンタはどう思う?」
ほう。
|豊臣秀吉(わたし)を試す気か?
「救えるものなら救いたいのですが、正直言って、今の我が国にはそこまでの力が無い。悔しい事であるが―――」
「本当に悔しいの?」
ん?
この|豊臣秀吉(わたし)とした事が、不正解を口にしてしまったか?
「あんな糞みたいな国を護りきれなかった事が、アンタはそんなに悔しいのか?本当に?」
こやつ、カイジンニキス港国への未練がほどんど無いと視える。
「悔しいと言うより、恥ずかしいかな?エイジオブ帝国に好き勝手されて、それを阻止出来ない私が……本当に憎いよ」
その途端、山賊頭がポンと手を叩いた。
「あ、なるほどね。えいじおぶなんとかに敗けるのが嫌なだけであって、カイジンニキス港国の様な糞国に未練が有る訳じゃないって事ね」
それを聴いて、|豊臣秀吉(わたし)は腹を立ててしまった。
思い起こしてみれば……|豊臣秀吉(わたし)は戦ってばかりの人生だった。
今川に拾われるまでただの農民だった私が、今川や織田を渡り歩きながら様々な戦場に赴き、領地を得てからは、その領地を護り広げる為に様々な大名と戦い。出世する為に朝廷に媚を売り、欲深い部下共を黙らせる為に大陸に攻め込んだ。
そして……ムソーウ王国の王女として再び生を受けてもなお領地争奪戦の様な人生は続いた……
それをこいつは……こいつは……
気付いた時には、|豊臣秀吉(わたし)はこの腹ただしい男の顔を蹴っていた。
「何が糞国だ!?己の事のみを考え、利だけは敏感で、犠牲を嫌い、国を守る事にすら興味を持たぬ。お前……」
冷静になった途端、|豊臣秀吉(わたし)は「しまった!」と思った。
そうだった!
かつてのムソーウ王国の部将以上の将校は、まるで作り話に出てくる一騎当千の様に強過ぎたんだった!
だから、ムソーウ王国王女、オラウ・タ・ムソーウである|豊臣秀吉(わたし)も、ムソーウ王国の部将になる為にムソーウ王国が求める強さに達する必要が有る訳で……
大丈夫かアイツ!?
なんか……壁にめり込んでいる様に見えるんですけど……
「すまんすまん。つい怒って冷静さを失っておった」
だが、|豊臣秀吉(わたし)に蹴られて壁にめり込んだ男は……笑っていた。
「なんだ……ちゃんと自分の意思を持ってるじゃないの?」
「……何?」
「それに引き換え、カイジンニキス港国の元老院共ときたら……お前の言う、『己の事のみを考え、利だけは敏感で、犠牲を嫌い、国を守る事にすら興味を持たぬ』だらけだよ」
「やはり|豊臣秀吉(わたし)を試したな?」
「奴らは、あの小島の様な船に対して|何もしておらん《、、、、、、、》。お前達ムソーウ王国に助けを求めておきながら、それが叶わむと視るや、手の平を返す様にあの船に媚を売る術を探っておる」
悔しいが、返す言葉はこれしかなかった。
「だが、私達ムソーウ王国はカイジンニキス港国の救助要請に応える事が出来なかった。そんな薄情な国を同盟国扱いするのは、流石にお人好しが過ぎるだろ?」
「で、そのお人好しなムソーウ王国があの船に敗けてる間、奴らは何をしていた?俺達やあの船がこの糞国で好き勝手やってる時、奴らは何をしていたと思う?」
……この男は、|豊臣秀吉(わたし)の返答に何も期待していない。
だがら、|豊臣秀吉(わたし)は黙った。
「|何もしておらん《、、、、、、、》!ただの様子見じゃ。自分の意志で選択した訳じゃない。戦う訳でも媚を売る訳でもない。『民草に偉そうに命令する』すらしない。ただの風見鶏じゃ。こんな腐った連中に上に立つ資格が有ると思うか?」
……|豊臣秀吉(わたし)は考え過ぎたかな?
なら……もうこの男と話す事は何も無い。
「失礼したな。私は国に戻る。とは言え、君の言う糞国じゃなくてな」
そう言って|豊臣秀吉(わたし)は山賊頭に背を向けたが、1つだけ訊き忘れておった事があった。
「そう言えば、名は?」
「……ノブナ」
ノブナ!?
……まさかね。
「その名、忘れぬぞ」
結局、鉄砲の存在を知る山賊を仲間に加える事は出来なかったが、得る物は多かった。
と言うか、ムソーウ王国の常識に飲まれ過ぎて、自分を見失っていたらしい。
それが判っただけでも儲けものだ。

オラウが去った後、部下がノブナに訊ねた。
「信長様、もしかして?」
ノブナは笑顔で答えた。
「だな。あ奴は|秀吉(さる)だ。まさか、アイツまでこの糞国で人生2周目をしておったとは……よほど天は元老院の糞共がお嫌いと視える」
そう。
オラウの最初の予想通り、ノブナは織田信長の生まれ変わりだった。
だが、ノブナはそれを悟られない様に道化を装っていたのだ。多少のヒントを混ぜながら。
「だが、秀吉の奴、大殿の中身が何者かをすっかり忘れておる様ですぞ」
「それはどうかな?|秀吉(さる)めの顔、最初と最後でまるで別人だった。まるで憑き物が落ちたかの様にな」
それよりも、ノブナ率いる山賊も実際は進退窮まれりの状態であった。
「……さて、で、あの元老院の糞共はあの船に対して何をしておる?」
ノブナの質問に対し、部下達は呆れながら答えた。
「先程の信長様と秀吉様の会話通りです。カイジンニキス港国元老院めは、ムソーウ王国とエイジオブ帝国、どっちが勝っても|自分が《、、、》得する為の外交策に尽力するのみです」
それを聴いたナブナがつまらなそうに質問する。
「で、この糞国に暮らす民草の反応は?」
対する部下も残念そうに告げた。
「申されませぬ。ただ、何も聞かされぬままあの船に翻弄されているのみ」
「何も聞かされていない?」
それが何を意味しているのかを、前世の頃から知っている山賊達は驚いた。
「やはり……あの糞共の将の器は無かったな。なら……」
その途端、ノブナが率いる山賊達が冷や汗を掻いた。
「カイジンニキス港国元老院も、大殿に企まれちゃ気の毒なものですな」

結局、ノブナをこちらに引き摺り込めなかった|豊臣秀吉(わたし)は、例の水源との戦いに備えて出張っているムソーウ王国の兵士達と合流するが、
「オラウ様!よい所へ」
「ん?どうかしたのか?」
「サカシラ様があの島との戦いに備えて民衆を安全な場所に避難させよと命じましたが、カイジンニキス港国の兵士達がそれに賛同してくれず―――」
何じゃこれは!?
これでは、あのノブナの言った通りではないか!
「で、まだ避難しておらん民衆はどこじゃ?」
「未だに町から脱出出来ておりません。それどころかカイジンニキス港国が戒厳令を強いて民衆の外出が禁じられています」
敵が目の前にいるのにか?
いや……待てよ?
「元老院は既に、エイジオブ帝国と手を組んでいる」
|豊臣秀吉(わたし)の予想に対し、ムソーウ王国側の兵士達が首を傾げている。
「それでは話が違います。エイジオブ帝国がカイジンニキス港国の安全を保障しているのであれば、何故戦場に民衆がおるのですか?しかも大勢」
「お前は甘いな」
「と、申しますと?」
「エイジオブ帝国が組んでいるのは、カイジンニキス港国ではなく元老院だ。恐らく、今回の戦にエイジオブ帝国が勝利すれば、カイジンニキス港国の元老院の生命と地位を保障する」
「な!?」
「つまり、最初から筋書きが出来ておったと言う訳よ」
ムソーウ王国の兵士達が怒りで震えていた。
|豊臣秀吉(わたし)から見れば『甘い』のだが、その甘さがムソーウ王国の良い所なのだろう……
で、民衆の避難が大幅に遅れている街の1つに案内されたが、そこでは、避難の準備をしている民衆に対して兵士達が帰宅を強制していた。
「何をしている!?早く家に帰らぬか!」
「あの馬鹿デカい船がもう直ぐここを攻撃するって、ムソーウ王国の兵士達が―――」
「その様な話は聴くな!お前達はさっさと帰宅して、ずーと家に引き篭もれ!」
「本当にあの馬鹿デカい船がこの街を攻撃しないと言う保証は有るのかよ!?」
話は完全に一方通行である。
寧ろ、邪魔である。
「逃がしてやれ。寧ろさっさと逃げてくれ」
その時、兵士達のリーダー格が私の顔を見て少し蒼褪めた。
それに対し、民衆達は|豊臣秀吉(わたし)に向かって津波の様な質問攻めにした。
とは言え、言ってる事はただ1つ……どうやったら自分達は助かるのかである。
ならば、カイジンニキス港国の兵士に対する最初の質問はこれだ。
「で、例のエイジオブ帝国ご自慢の巨大戦艦と戦う上で、避難せずに家に引き籠ってる民衆がどう役に立つと言うのだ?」
その途端、兵士達は首を傾げながら仲間と話し合い始めた。
ただし、リーダー格だけは御怒り気味に怒鳴った。
「五月蠅い!お前達はただ、国民の帰宅と外出禁止を徹底させれば良いだけだ!」
「で、理由は?」
「そんな事はどうでも良い!」
「良くない。理由も無しに家に引き籠れと言われても、民衆は納得せんぞ」
こいつ……舌戦下手だなぁー。
言い訳の1つでも考えておけよ。
なら、ちょっと先手を打ってみるか。
「我々ムソーウ王国がお前達の避難の催促をした理由についてだが、お恥ずかしい事に、今の我々は君達を護りながらあの巨大戦艦と戦う力は無い。ならば、戦う力無い者にここに残られるより、急ぎ安全な場所に避難してくれた方が戦い易いと考えた次第である」
「じゃあ、俺達が邪魔だからさっさと逃げろと言うのか?」
「そうだ。お前達だって死にたくないで―――」
「ばかもぉーん!誰がこの街から出て良いと言ったぁー!」
あのリーダー格、必死だな。
カマをかけて視るか。
「我々ムソーウ王国はあの巨大戦艦と戦う事を宣言し、そして、民衆の避難を催促した理由を言ったぞ。なら、お前達も外出禁止を強要する理由を申してみよ。さあ」
「黙れぇー!元老院の決定に異論を申す気かぁー!」
舌戦下手のクセにしつこいな。
なら……攻め方を変えるか。
「なら、質問を変えよう。ただ、その前に言っておく、今から言う質問への台詞は『はい』と『いいえ』の2つのみとし、それ以外の台詞を申した者は作戦漏洩罪の名目の下……殺す!」

第15話:命令する側の度胸が足りない……

前回のあらすじ

カイジンニキス港国内で大暴れする山賊のボス『ノブナ』と対面するオラウ。
が、どうも織田信長の生まれ変わりっぽいのですが……証拠不十分で有耶無耶になりました。

一方、サカシラはカイジンニキス港国国民の強制疎開を決定!
スイゲンが動き出す前に国民を避難させようとします。
ところが!

「お前達はさっさと帰宅して、ずーと家に引き篭もれ!」

なんとなんと、
既にメッガーネ・グシラと裏取引していたカイジンニキス港国元老院が、既にカイジンニキス港国国民に避難禁止を命じていたのです!
そんな事されたら、ムソーウ王国とスイゲンとの戦いにカイジンニキス港国国民を巻き込んでしまいます。
そこで、

「なら、質問を変えよう。ただ、その前に言っておく、今から言う質問への台詞は『はい』と『いいえ』の2つのみとし、それ以外の台詞を申した者は作戦漏洩罪の名目の下……殺す!」

オラウは、カイジンニキス港国国民の命とムソーウ王国の誇りを賭けて、カイジンニキス港国元老院傘下の兵士達との舌戦に挑むのでした。

へべく!

「なら、質問を変えよう。ただ、その前に言っておく、今から言う質問への台詞は『はい』と『いいえ』の2つのみとし、それ以外の台詞を申した者は作戦漏洩罪の名目の下……殺す!」
「馬鹿もぉーん!そんな事をしてる暇が有ったら―――」
|豊臣秀吉(わたし)は、目の前の兵士を思いっきり殴った。
「大事な事なのでもう1度だけ言う。今から言う質問への台詞は『はい』と『いいえ』の2つのみとし、それ以外の台詞を申した者は作戦漏洩罪の名目の下……殺す!」
それでも、目の前の馬鹿隊長は|豊臣秀吉(わたし)の言葉を無視して、ただひたすら民草に帰宅を強要するのみじゃ。
この場所が何時凄惨な戦場になってもおかしくないと言うのにだ。
「そこぉー!何をしているぅー!?外出禁止だぁー!早く帰宅せんかぁー!」
|豊臣秀吉(わたし)は、余計な事を言ったら殺すとハッキリ言った。
ならば……
「た!……たいちょおぉーーーーー!?」
あー、スッとした。
だってこいつ五月蠅いんだもん。
しかもこいつ……ほとんどの民草はこの隙に一目散に逃げだしおった。
心配するのは一部の兵士のみ。
こいつ、人望無いなぁー?
こいつ、普段から権力に物を言わせて威張ってたのが目に見えるわい。
で、こいつの事を対して心配しなかった男が|豊臣秀吉(わたし)の方を向いた。
「先程の質問の答え、ハッキリと言おう。『いいえ』だ」
「ちょっと待てちょっと待て。私はまだ、何も言っていないぞ」
どうやらこの男……先程|豊臣秀吉(わたし)に殺された馬鹿隊長よりは元老院に毒されておらず、それでいて芯が通っている様じゃな?
「君の質問の内容なら、既に知っている……我が軍からエイジオブ帝国が送り込んだあの島を倒す方法を訊き出そうとしたのだろ?」
この男、度胸もあるし搦手にも強そうだ。
ここまで言われたら、「言った」としか答えられないな。
「故に、この俺の口から出る言葉はただ1つ……『NO』だけだ」
呆れたな……
カイジンニキス港国元老院とやらが出した今回の強制帰宅命令、自国の民草を生贄にしてまで私達ムソーウ王国の足を引っ張り、その上でエイジオブ帝国相手に有利な交渉を行おうと言う……
領地のなんたるかを何も解っていない臆病マヌケ政治家が考えそうな愚策よ。
お陰でほれ、強制帰宅命令を無視して逃げ出す民草がどんどん増えておる。
「そんな事より、お前の所の民草、お前達の帰宅命令を無視して逃亡しておるぞ?」
「……そうだな」
「追わんのか?」
「はい!」
ここに来て、『はい』と『いいえ』の2つのみと言う制約が効きおった!
本当に意地悪なやっちゃなぁ。
「ならば、この質問に対しては『はい』と『いいえ』以外の言葉でハッキリと言ってくれ」
「……解った」
「お前にとって、軍隊とは何だ?」
男は、少し残念そうな顔をしながら少し悩み、そして、こう歯切れの悪そうな台詞を述べた。
「国の財産と利益を護る者……と信じて戦ってきたのだが、今回の元老院の強制帰宅命令により、私の中の最後の信仰は、今日、死に絶えました」
やはりこいつ……忠臣としての芯がちゃんとしっかり通っている。
豊臣秀吉だった頃の私なら、即スカウトしていたのだがなぁ。
カイジンニキス港国元老院の馬鹿共が自分だけを守ろうとした結果、とんでもないお宝をドブに捨ておったわ!
「で、今度はこちらが質問したい」
「なんだ?」
「何故我が国の国民に疎開を強要した?」
「ふっ。理由は2つじゃ。1つは、あの船と戦う上で民草が邪魔だからじゃ。民草を庇いながら戦うと言う事は、その分こちらの動きが制限され、前に突き進めずに大胆な戦術も出来ない。だから民草には勝手に逃げて貰う事にした」
「かなり乱暴で傲慢な言い方だが、確かに道理であり辻褄が合うな……で、もう1つは?」
「土地を耕す民草が1人もいない領地を貰ったところで、ただの足手纏い。とんでもない粗大ゴミじゃ!」
「変わった子だな君は。かなり乱暴で傲慢な言い方なのに、つい頭を縦に振りたくなる」

で、この忙しい時に信長様に酷似したあの男が……ノブナの馬鹿が来おった!
「何故逃げる?逃げた所で上の糞共に奪い尽くされるだけだと言うのに!」
それは、アンタが強いから言える事!
そう言う無責任な事を言われた民草が何をしでかすか、解って言っておるのかこいつ。
先程の男もそう思ったのか、ノブナに食って掛かる。
「ここに残って戦えだと?それは我々軍人の仕事であり国民に強要する事ではない!勝ち目が無い戦いに国民を参加させる事こそ、自国を辱め堕とす愚行よ!」
「つまり御2人さん、戦いたい奴だけ残り、それ以外はさっさと逃げろと言うのか?」
ノブナとあの男とで、意見が真っ二つに割れおった。
「その通りだ」
「違うな」
「なんだと!?」
そして、ノブナが無責任に持論を口にした。
「つまりお前は、戦う力が無い弱者は強盗の愚行を観て見ぬフリをしろと?そう言いたいのか?」
「その強盗に敗れ殺されたらどうする?死者にとって金は無用の長物。貴様のその言葉、命を失う事がどう言う意味かを知らぬ者の言葉よ!」
「では、その強盗を野放しにするのかお前は?」
「その強盗に勝てる者が、その強盗をたっぷり懲らしめてやれば良い事!それこそが強者の役目であり責任だ!」
つまり、強者が悪党を叩きのめせば済むって事か?
私達ムソーウ王国と同じ事を考えおるな。
だとすると、あのひねくれ者のノブナの次の言葉が容易に想像出来るな。
「で、その強者が強盗だったらどうする?」
「な!?」
あの男は遂に言葉に詰まった。
ノブナもそれを察したのか、ここぞとばかりに畳み掛ける。
「つまり!今目の前にいるカイジンニキス港国元老院は、強盗に成り下がった強者よ!」
「ぐぬぬぅ……」
自国の政治家がノブナに散々馬鹿にされているのに、あの男は返す言葉を失ってだんまりしている。
どうやら、カイジンニキス港国元老院が自国の民草に命じた強制帰宅命令に対し、こやつも思うところは有ったと言う事ね?
だとすると……本当にご愁傷様。
で、もうこの男と話す事は無いと感じたノブナが、今度は逃げ惑う民草達に話しかける様に怒鳴った。
「いいか!戦とはそう言う事ぞ!家が焼かれ、家族が殺され、弱い者は土地を奪われる!戦を無くすにはどうすれは良いか、何故戦が起きるか考えろ!」
ここで漸く、ノブナに言い負かされた男が口を開いた。
「この戦いの原因だと……そんなの決まっている!あんな化物の様な島をこの国に送り付けたエイジオブ帝国が悪いのだ!」
が、へそ曲がりなノブナはそこを曲げて答えを出した。
「お前達の上に立っている元老院が呑気で遅過ぎるから、あんな馬鹿デカい船が堂々とここまでのこのこと来れたのであろう?戦が起きるのは、それは上に立つ者が馬鹿者だからじゃ!」
ノブナの奴、本当にあの信長様の様な事を言ってくれる。
だが、現実はそこまで甘くない。
現に、信長様は天下統一を成し遂げる事が出来ず、信長様の部下だった|豊臣秀吉(わたし)が永い年月を掛けて漸く成し遂げたものじゃ。
ノブナよ、現実を知れ!
「で、その人の上に立つべきではない馬鹿を皆殺しにするのに、いったいどれだけの年数が掛かるか本当に解っておるのか?」
「オラウとやら、天下統一は戦を無くす方法に非ず!……とでも言う心算か?」
「いや、|豊臣秀吉(わたし)は天下統一そのものを否定する心算は無い。それに、国をひとつにまとめる考えは間違ってはおりますまい。しかしながら、力で押さえ込めば、新しい敵が次から次へと蛆虫の様に湧いて出ましょう」
ノブナの奴、この|豊臣秀吉(わたし)を鼻で笑いおった。
「なるほど。お前の様な奴がか」
で、ノブナはふとスイゲンの方を視る。
「ま、どっちにしろあの馬鹿デカい船をどうにかせんと……何も始められん。その事実に、嘘偽りは有るまい?」
「つまり、このお話の続きは、あそこに有るスイゲンを沈めてからと言う事か?」
その時、ノブナはニヤリと笑った。

一方、カイジンニキス港国元老院との密約を終えたメッガーネが意気揚々とスイゲンに戻って来た。
「さて、ムソーウ王国はカイジンニキス港国全国民の疎開を決定したそうですが、これで、ムソーウ王国とカイジンニキス港国元老院との激突は決定的でしょう」
それを聴いたヨツメが首を傾げた。
「何で?」
「『何で?』!?ヨツメさん、貴方はもっと、欲深い政治家の生態を勉強した方が身の為ですよ」
そこへ、伝令兵がやって来て、首を傾げながら報告した。
「報告します。カイジンニキス港国元老院が突然戒厳令を敷き強制帰宅命令を下しました。如何いたしましょう?」
メッガーネにとっては正に計画通り。
意気揚々と指示を出した。
「慌てる必要はありません。予定の時刻になったら、予定通りに砲撃を開始します。それまでに、出来るだけ多くの機動キャノンガリオン船を完成させなさい」
「は」
伝令兵が退席すると、ヨツメが嫌な予感がしながらメッガーネに質問する。
「メッガーネ……お前、その元老院とやらに何をした?」
だがはぐらかすメッガーネ。
「さぁー。わたくしめはただ、元老院の皆様方に生存の秘訣をお教えしただけですけど」
「……本当にそれだけか?」
そこへ、さっきとは別の伝令兵が慌ててやって来て、片膝すらもどかし気に報告した。
「伝令!カイジンニキス港国の各町でデモが発生しております!如何いたしましょう!」
その途端、メッガーネが怒りに任せて怒鳴った。
「あの役立たず共ぉーーーーー!これでは話が違うではないか!」
カイジンニキス港国がメッガーネの思惑通りに動かなくなった事を察したヨツメは、これを復権のチャンスと見た。
(これは……このタイミングでオラウの馬鹿女を倒せば……)
ヨツメは叫びたい気持ちを抑えながら、静かに退室して急ぎ出撃の準備をするのであった。

豊臣秀吉が異世界で無双系姫騎士やるってよ〜天才が馬鹿に操られながら秀才と戦ったら可笑しな事になった〜

豊臣秀吉が異世界で無双系姫騎士やるってよ〜天才が馬鹿に操られながら秀才と戦ったら可笑しな事になった〜

ムソーウ王国第三王女『オラウ・タ・ムソーウ』に転生した『豊臣秀吉』は、敗戦し壊滅したマッホーウ法国の救援要請を受けて謎の元弱小国エイジオブ帝国と合戦する事になった。 だが、肝心のムソーウ王国とマッホーウ法国がファイアーエムブレム無双やDOGDAYSシリーズの様な戦い方をし、階級が部将以上の将校全員(例外無し)に戦国無双2のプレイアブルキャラクターに匹敵する戦闘力とファイアーエムブレム無双風花雪月やDOGDAYSシリーズの様な戦技か魔法の修得が必須な為、、戦略と戦術が致命的に幼稚化していた…… 果たして、前世である豊臣秀吉の記憶と知識を頼りに戦うオラウはエイジオブ帝国に勝利する事が出来るのか……

  • 小説
  • 長編
  • ファンタジー
  • 時代・歴史
  • 青年向け
更新日
登録日
2024-04-02

Public Domain
自由に複製、改変・翻案、配布することが出来ます。

Public Domain
  1. 第1話:不足尽くしの強国
  2. 第2話:忍者が足りない……
  3. 第3話:ズルの意味を知る人が足りない……
  4. 第4話:遺族への配慮が足りない……
  5. 第5話:裏切り者対策が足りない……
  6. 第6話:再起経験か足りない……
  7. 第7話:適度な恐怖心が足りない……
  8. 第8話:あらゆる意味で足りない……
  9. 第9話:王位継承を拒否する術が足りない……
  10. 第10話:外交と罠
  11. 第11話:贅沢が足りない……
  12. 第12話:農村搭載機動キャノンガリオン船『スイゲン』登場!
  13. 今後について
  14. 登場人物紹介その①
  15. 第13話:長期戦が足りない……
  16. 第14話:まともな名君が足りない……
  17. 第15話:命令する側の度胸が足りない……