あと4分と26秒で僕は22歳の誕生日を迎える。

学生さんです。バイトをしても何をしても学生だからで済まされますが小説に関しては年は関係ない
厳しい意見待ってます
お褒めの言葉も待ってます

あと4分と26秒で僕は22歳の誕生日を迎える。

あと4分と26秒で僕は22歳の誕生日を迎える。



 といっても、なんてことはない。しがない大学に行ったが、そこには自分の求めていたものなどなく、いや正確にはなにかを求めようとしていたがそれが見つからなかった。

 何事も優柔不断で決められない僕がなぜか退学の決断だけは早く、留年が決まってすぐ退学も決めた。

 堂々たる様子で退学した日の夜は、 自分も友人と共にフルーツの名前をとった会社を興すのではないかと目をつむりながら拳を握りしめたが

 昼頃目覚め自分にはそんな 能力 も 勇気 もましてや友人さえいないことを思い出して
 昨日散らかしたままだった期待感を拭き残しがないようにしっかりと拭き そしてティッシュごとまるめて捨てた。
 握った拳は もう一度ひらくのも  恥ずかしいので意識しないようにしてズボンの中に入れた


 もし仮に60年代の大学紛争の時代に僕が大学生であったならばなにかが違かっただろうか。いやきっと僕はその渦中の中でもきっとつまらなく暮らしていただろう。

 他の同級生たちが途方もない大きなものに怒りをぶつけている中、僕が怒りを向けるのは 隣の部屋の住人の汚いあえぎ声 とか妙にすぐ靴擦れを起こすテカテカの革靴程度だろう。

 しかし人間その先がどうなるかなんて誰にもわからない。

 ちょっとしたきっかけ、例えばいつも行くパン屋でいつもは絶対に食べないパン(僕はこれからの人生で パン屋に行き、ちくわパンを手に取ることはないと誓う)を食べるとかでこんな僕でも学生運動に加わるかもしれない。

 もし誰も気づかぬ間に机や椅子で築かれたバリケードが少しずつ増えていることに気付いたらそれは僕の仕業だからわざわざそれを口に出さなくても   いい。
 ただ僕に向かってまっすぐな親指を立ててくれれば、僕はそれに負けじと自慢の気持ち悪い笑顔を同志に返すだろう。

 そんなことを続けていたらいずれは日本一平和的な学生運動家として機動隊員から表彰を受けるかもしれない。

 そうして満足し元の自堕落な生活に戻るだろう。

 どれだけ良い走りをしても結局は元いたスタート地点に戻ってくるF1レースのように僕は今いるこの場所に落ち着いてしまう。そして僕の走るサーキットは最悪な走り心地であるとして評判になっている。

 こんな妄想はほんとうの意味で意味のないものである。
 わざわざパラレルワールドに自分を誕生させ、育て、住まわせて違う視点から自虐する暇つぶし。

 この歪な自傷行為は中学生の頃から始まり今に至るまで続いている。何をやっても長続きしない僕にこんなにも続けられているものがあったと知ったら両親も涙目であろう。

 この無数に及ぶ試行のなかで僕が学んだのは、 革靴の靴擦れはインソールを入れればいくらかマシになるということと人が想像によって手に入れることができるのは ほんの僅かなやる気 とそれらをあっという間に消し去ってしまうほどの 無力感 だけだということだった。


 そして今僕は一人、部屋で22歳を新たに迎え入れ、そして死のうとしている。


 死のうと思った理由は特に何もなかった。

 ただ22歳の誕生日が来たら死のうと数ヶ月前から考えていた。

 22という数字にも特に意味はなかった。

 退屈な人生が意味ありげな終わり方をするのはなんだかおかしい気がした。

 本編がB級映画とも言えないようなひどい出来なのに終わったあとのエンドロールの演出だけがやけに凝っている映画のようなそんな違和感だった。

 とはいえ君の人生には意味がなかったのかと聞かれれば、僕は首を横にも縦にも振ることはなく、ただ前をぼーっと見つめるだろう。
 あくびををするかもしれない。

 ただ退屈だった。

 どんなくだらない話でも長編小説に仕立て上げる事ができる小説家でも僕のこれまでの人生を小説にしてくださいと頼んだら新聞のコラム欄に掲載されているようなものが出来上がるだろう。

 もっともコラム欄にさえ僕の人生を載せるのはスペースがもったいないのだが

 とはいえ僕にもこれまでで変化はあった。 成長もした。

 子供の時の僕が大学に入った僕を見たらちょっとは尊敬するかもしれない。

 ただ綿棒がどれだけ進化しても耳を掃除する以外の役割がないように、僕がどれだけ成長し進化したとしても 僕に与えられた役は変わらなかったし

 唯一僕が綿棒と違う所は

 僕は誰のなんの役にも立たないということだった。

 自殺にはいろんな方法があるが僕は 首吊り にしようと思っていた。

 飛び降りなどは注目を集めてしまいそうだし、 ニュースなどにもなりかねない。

 死んだあとに話題にはなりたくはないし、騒ぎになることで両親などにも迷惑をかけたくなかった。

 ホームセンターに行けば ロープ などはすぐ買えたし、部屋にはちょうど天井付近に横から柱のようなものが通っているためそこに結びつけることで うまくロープを固定することができた。

 首を吊るときのロープの結び方を知らなかったので、ネットで調べたところ 動画付きで解説されてあった。

 その動画はとても丁寧に説明されていて、素人の僕でも簡単に理解できた。

 あまりにわかりやすかったので、僕は初めてYouTubeでコメントをして感謝を伝えた。

 チャンネル登録もしておいた。

 いよいよ椅子に登り死ぬ準備に入った。

 ロープに手をかけ、椅子を足元からどかす用意をする。

 死を前にしてカウントダウンする様はさながら 

  
   ロケットの発射準備     

 
ただ僕はだれの 希望 も背負っていないし、それを見守る人も誰もいないのだが。

 ロケットには宇宙という行き先があるが、僕はどこにいくのだろう。

 良いこともせず悪いこともしていない人間は 天国 にも 地獄 にも居場所はないのだろうか。

 発射準備!!
  5

  4

  3

  2

  1

  Lift Off!!!!

 その合図と同時に僕は足を踏み出す。

 椅子から足が外れると同時に首にロープが当たる。

 管制塔から拍手が聞こえたような気がした。


  意識を失っていたようだった。

 目を覚ましたのは床の上で外は少しばかり明るくなり始めていた。

 頭を強く打ったようで、鈍く痛む。
 天井からはロープがぶら下がっていて、首をかける部分がほどけていた。

 誰かがこの経緯を見ていたなら、天からの思し召しだと思わず手を合わせるような状況かもしれないが僕には神様からの嫌がらせにしか感じなかった。


 が、面白かったほんとうに。


 大きな声で笑った。


 声がかれそうだったが関係なかった


 こんなに笑ったのは久々のことだった。

 その後猛烈に喉が乾いていることに気付いた。

 これから死ぬにしても生きるにしてもまずは熱いコーヒーが飲みたかった。

 頭痛はありながらも、足取りは軽かった。


 コーヒーを淹れる手際だけがいつもと変わらなかった。

 コーヒーを飲みながら少しずつ明るくなる部屋を眺めた。


 小さい頃美術館で見た抽象画のように思えた。

 僕は自分が朝太陽が昇るのが嫌いだったことを思い出した。

 街が次第に明るくなり、どうしようもない焦燥感が僕を襲うのだ。

 何をすればいいのかわからないのに何かをしなくてはという気持ちになる。

 ふと横にあったリモコンを取り、テレビをつけた。ニュース番組が映った。

 ぼんやりとした部屋の中に音と映像が混じり明解度が増して、        

 そこはもう現実だった。


 先程までの興奮は止み、そのバトンを新たに受けとったのは
 
  いつもの退屈だった。

 
 音が聞こえづらくなった。
 音量が小さくなったというより、僕の耳が拒否しているという感じだった。

 
 星座占いのコーナーが始まった。


 信じたことは一度もなかったがそのシステム自体は好きだった。

 運勢が良い順にランキング形式で発表され、僕の星座は呼ばれることなく、
      
 


 僕の順位は最下位だった。

 こんなもの信じるはずもないのにちらっと天井にかかるロープを見てしまう。

 と、ラッキーアイテムの紹介。


 僕のラッキーアイテムはちくわパンだった



 今度は大笑いすることはなく、ただ自分にだけわかる程度にニヤリとしただけ           だった。

 軽く手を合わせようと思ったが、くだらないと思いやめた。

 ひとまずこのあとの予定は決まったわけだ。

 唯一持っている革靴にはインソールを入れてあるからそれを履いていこう。


 もう少しもう少しだけ生きていようと思う

あと4分と26秒で僕は22歳の誕生日を迎える。

ちくわパンはうまい!

あと4分と26秒で僕は22歳の誕生日を迎える。

純文学的な大衆文学的な ハルキスト

  • 小説
  • 短編
  • サスペンス
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-04-02

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