「殺し屋」

 満月の逆行に立て()れる
 風は口を押さへられて声出でず
 黒雲の翳りすら
 晴れる闇空には差さないで
 白い 白い 満月背中に朱雀大路に立て居れる
 そびらの矢籠
 ひともと抜けど身まじろぎの搖れも失せ
 すり硝子の如き鏑矢つがえ
 入水の飛沫のように
 未練無く
 名残は胸に
 放つ

 鏑矢は鳴らず
 鳴らぬまま何処へか消えた
 せめて逃げろと言えたなら
 おまえを殺さでいたものを
 (くれなゐ)たばしる雨はいやに甘く
 古びた林檎の味がする

 あの湖に身を投げたって
 あの川に沈んだって
 この日増に濃くなる林檎の匂いを消しはしない
 一縷の音はさよならも無く消えたのに
 月は白い
 涙も白い
 花は紅い
 手は紅い

「殺し屋」

「殺し屋」

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-03-27

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