浦島の唄
死に向かう時計の針に導かれ 竜宮城を抜け出せば
ここはいづこの国なりや 遥けし遠き唐国か
彼岸の花も夢うつつ 来し方たって見やれども
村の牛舎も田畠も 苫屋の裏のお地蔵も
あとかたもなく消え失せて 誰が住む里を厭いしや
鉄屑積みたるトラックの 消え行く先に聳え立つ
雲を貫く摩天楼
夜になれども陽は暮れず 見上ぐる空に舟はなく
泣きつ笑いつありし日の おもかげ今や捨て去りて
いつしか日々の生活も 不安と恐怖に統べらるる
陽当たり悪き根無草
風の言葉を辞書で引き 重たき地球儀抱え込み
ものをも言わぬ鉄屑の 一部となりて加速する
急行電車の窓ガラス 映りし白髪ののっぺらぼう
窪んだ目玉の奥底を 彷徨う黒蝶ほほえみて
一目散に地下鉄の 迷路の外へと飛び出せば
われらを生みし太陽を 憎む男に囲まれて
鋭き言葉の切れ味に 彼岸の花も血で染まる
畦道駈ける少年の 後ろ姿を眺めつつ
途方もなきまま野辺の露
汀を誘う風吹けば そこはいつかの浜辺にて
暮れゆく赤き地平線 渇かぬ涙の沖つ波
崩れず湧きつひた寄りて 舟を漕ぎいてやってくる
陽炎まといし黒影は 若きあの日のわれと覚えし
浦島の唄