忘れ人-ワスレビト-
僕は神に願った死にたくないと―――。
そんな死に際の僕の願いを神は聞き入れてしまった。
「ならば生かしてやろう」
その一言で全てが変わった。
変わってしまった。
「これが生きるための代償だ」
神が僕に与えた生きるための代償は―――。
全てから忘れられることだった―――。
これは忘れられる少年と忘れることが出来ない少女の忘れられない物語
プロローグ ー忘れられた少年ー
7月30日今日をいれて後二日で今月も終わる。
僕と同じぐらいの年齢の子は(僕は永遠の17歳だ)夏休みを楽しく謳歌しているだろう。
僕は謳歌していないのかと言うとまあ楽しんではいる。
みんなにとっての夏休みは有限だが僕にとって夏休みは永遠だ。
「暇だ…」
公園にある時計台を見る。
時計台の針が9時30分を示そうとしている。
公園には子供をつれた奥さんたちが子供たちと遊んでいる。
僕はベンチに座りながらそれを眺めていた。
すると足元にボールが転がってきて一人の少年が走ってくる、それ取ってと言わんばかりに少年の足が目の前で止まった。
「はいよ」
「ありがとう!」
少年は無垢な笑顔でお礼を言った。
「どういたしまして」
僕もできる限りの笑顔を作り少年に返事をする。
すると少年は友達と遊んでいた方へ走っていくのかと思ったがこちらに近寄ってきた。
「ねえ、お兄さん」
「ん?」
僕は首をかしげる。
どうしたんだろう?そう思ってそっけない返事をしてしまった。
少年はてくてくと歩いてきて僕の隣のベンチに座った。
「友達のとこに行かないのかい?」
「行くけど…お兄さんも一緒にサッカーしない?」
「え?」
僕は突然のことで少々、いやかなり驚いた。
「お兄さん寂しそうだったから一緒に遊べたらなと思って…」
少年は僕の顔をチラチラとうかがいながら言った。
僕は取り敢えず時計台を見た。
時間はあれから15分ぐらいしかたっていない9時45分。
まだ時間はあるか。
僕は少年に振り返り、
「いいよ」
と答えた。
それから少年を含めた少年の友達たちと一緒に結構な時間サッカーをしていた。
時間を見る。
後少しで12時になろうとしていた。
僕は誘ってくれた少年呼んだ。
「これぐらいで僕は帰るよ」
「え!もう帰っちゃうの!?」
まあまだ昼になったばかりだからこの反応は正しいものだ。
でも僕には時間がないそろそろ時間が来てしまう。
後数秒で時計の針が12時を指そうとしている。
僕は少年の頭の上にてをおいた。
「バイバイ。元気でな」
そう言って僕は踵を返して少年から離れって言った。
その時ちょうど時計の針が12時を指した。
時計台から音が鳴る。
すべてを終わらせる音が―――。
ごーんごーん
鳴り響く。
そして全てがリセットされる。
少年は去っていく背中を見て首を傾げた。
―あの人は誰だろう?ー
時計台の音よりもその言葉は僕の心に響き渡った。
僕は世界に置いてかれた忘れられた少年。
この世の全てが僕を忘れる。
そう世界にさえも僕は忘れられる。
続・プロローグ ー忘れられない少女ー
駅前で私は地図を見ていた。
「んー、広場は…ここね。ついでだから他の場所も覚えておきましょ」
私は5分ほど地図を見てその場を離れた。
頭に地図を思い浮かべながら歩く。
ここを右、次左、ここの店を右に曲がってまっすぐ歩くと…。
「ん、着いたね」
そこの広場と言うより少し小さかったのでここは公園だろう。
道を間違えたか?
と私は思ったがその懸念は直ぐに解消された。
公園の名前は私の記憶している広場の名前と一致していたからだ。
その公園では小学生ぐらいの少年たち(こちらをA君としよう)と私と同じ年齢ぐらいの少年が(こちらをB君としよう。あ、私は17歳よ!)サッカーをしていた。
実は私はA君のことは知っている、私の家の近所に住んでいる子だ。
でもここではA君としよう(そういう気分なのだ)。
私はそれを遠くから眺めていた。
時計はもうすぐ12時になろうという時にB君がA君を呼んでB君がA君の頭の上に手を置いて話している。
私は見ないようにしようと思ったがどうしても気になって横目で見てしまっていた。
時間は後数秒で12時になるというところだ。
B君がA君の頭から手を離して振り返った。
B君がこちらに歩いてくる。
私はこちらに歩いてくるのが分かって少し焦ってしまった。
何を焦る必要があるんだろう?
そう思いながらも身だしなみを整える、自分の顔が赤いのが分かる。
自分はどうしてしまったんだろう?
駄目だ頭が回らない。
そんな時ちょうど時計が12時を指す。
鐘の音が鳴る。
ごーんごーん
私は近づいてくる少年に顔を向ける。
少年が悲しそうな顔をしているように私には見えた。
少年が私の横を通り抜ける寸前に私は少年の腕を咄嗟に掴んだ。
少年は驚いたように私に顔を向けてくる。
間近で見てさらに顔が赤くなった気がした。
「え…あの…」
言葉につまる。
こんなはずじゃない。
だけど少年を直視できない。
少年は首をかしげて私が掴んでいる腕を離そうと前に進みだした。
「待って!」
ここで諦めたらいけないと私は大きな声を出して少年を止めにかかった。
少年があからさまに困った顔をしている。
だけど私は離さない。
言わなくちゃいけない事があるから、これがきっと最初で最後のチャンス。
彼を助けれる最後のチャンスだ、そう思って疑えなかった。
理由なんてわからない、顔も赤い、耳の裏まで真っ赤なのも関係ない。
私はこの気持ちに逆らえる気がしない。
だから私は言う、
「初めまして、私は時風 結羽(ときかぜ ゆう)です。友達になりませんか?」
始まりの言葉を。
忘れ人-ワスレビト-