ドライ



小皿を舐める猫の音。
床に座った私たち。
返した傘は濡れていた。
初めて晒した日のように。


古い映画になりたかった。
棚の奥に並べられて
こんな感じの題名って
よく間違われる。
ただ、
心に残る場面でなら、
正しく、熱く語られる。
名作みたいな愛人。
伝説的な恋人。
廃墟みたいに冷たい壁で
機械の強い光を浴びて、
焼き付く。
顔のないまま、
すれ違いで終わる運命。
だから、
大人をできたのに。
ズルリと抜けた靴下。
それはもう、
ただの埃と足跡じゃない。


逃げるみたいな雨脚。
叩かれてばかりの生音。
反射的に語り出す、
あの日々と二人。
周囲のビルが建つ事情。
埋まらない空き部屋。
それでも使える機能たち。
突かれながら思う。


「あの名優は最後、
何て言ったのかなって。」


すぐに現実に戻ってきて
その耳元で訊く。
彼も、彼女も
辛く悲しい恋に負けて
ありのままの想いで口にした。
輝ける台詞。
雷鳴のように轟く。
誦じられたら悔しくて。
涙が混じって苦くなる。
それは誰の思い?
ふと、我に返ったら?
立ち上がりながら思う、
指紋だらけの窓辺に
熱く手をつけて、
この続きを待てるのか。
感覚的になる意識、
向こうに見える遠い星。
また軋むソファーの骨組み。
その柔らかい所と、
固い箇所。


「およそ、
生活圏には入らないねって。」


宙を見上げて笑ってた。
両手みたいに広げて、
フレアスカートを回して。
雨が上がってすぐの、
反射的な景色。
腕を伸ばした数秒間。
止まったみたいに素敵で、
快感なんて忘れてた。
花束みたいに贈られて、
何度も洗浄されていく記憶。
暗室の中の写真たち。
そこに交じり合う、
季節の節目。
空っぽのケース。
潤んだ声。
シルエットの『わたし』。
この、近くの身体。


灰色になって抱きつき、
少し離れて。
ただ写るなんて耐えられない、
そう思ってたのに。
時間は人を変える。
あなたは、


やっぱりあなた。
わたしは
こっちのわたし。


両手をついて熱くなる、
柔らかい所と
固い箇所。
どんなに突かれても、
乱れたりしない。
簡単じゃない、
何度も捻られる
あの蛇口みたいに
窮屈な、
悦びの声を上げて。
雷鳴は去らない。


何もかもが乾くまで、
一人ずつ。一枚ずつ。

ドライ

ドライ

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-03-21

Copyrighted
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