魔法少女

魔法少女ってどんなお仕事か知ってる?

 フリルの付いた柔らかいドレスは、膝丈のかなり上までしか隠してくれない。そもそも、女の子の大事な所は何故か布が分かれて開かれている。でもね安心して、ふんわりドロワーズ履いてるから。未発達な胸元も肩を出すデザインの衣装のせいで、布一枚で隠されている。何かの衝撃でペラリと捲れてしまえば、野次馬の視線を遮るものがない。だからね、乳首に絆創膏を貼っているの。薄くて頼りない布でできたユニフォームを着て、私を守ってくれるのは愛と正義と純粋な心を支えにした魔法だけ。だからね、深いことは考えないようにしているの。可愛い衣装を着て、華奢な手足を惜しげもなく曝け出し、ドロワーズとは言え下着を晒し、死と紙一重の戦場で戦う私たちを「応援する」という大義名分の元に群がり興奮する大きなお友達のこと。エゴサで見つけた私たちをモデルにしたやけに生々しい濡場シーンの多い漫画のこと。命がけで戦う私たちをモデルにした子供向け玩具やグッズで生計を立てる寄生虫のこと。全部、考えないようにしているの。だって魔法が消えたら、私は死んでしまうから。文字通り死ぬの。国家権力が背後にいる警察でさえ手に負えない化け物の手で。もしかしたら、死ぬ前に弄ばれるのかも。あの汚らわしい漫画の私たちのように。毎日怖くて仕方がない。でも辞められないの。だって私が助けにいかなかったら、きっとあそこにいる人たちが今度は私を懲らしめるという大義名分を盾に熱狂するから。魔法少女に憧れる女の子は私たちの本当の戦闘は見たことないと思う。だって、大きなお友達が安全圏ぎりぎりで群がって、肉の壁を作ってしまうから。私たちの戦闘シーンは、コンプライアンス違反でそのまま映像としてテレビには流せないということらしいから。だから私たちの活躍は、子供が見ても安心な形に加工されて流される。そして私たちに憧れた子供たちが、私たちのようなものを真似るため、寄生虫が生み出す商品を父母にねだる。本当の私たちは傷だらけ。見た目は綺麗なの。魔法で傷が塞がるから。でもそれは表面だけ。見た目だけ。本当はものすごく痛い。学校にも行けないし、遊びにも行けない。次の出動があるまでは、暗い部屋の中でじっとしているの。傷が癒えるのを待つために。お母さんは毎日泣いてる。お父さんは私が出動するのを止めようとして、酷い目にあった。それからは、家に帰ってこない。

 気が付いたら、どす黒くて禍々しい色をした悪臭を放つ触手が私の体に巻きついていた。魔法の力で抜け出そうとして、魔法が使えないことに気が付く。鍾乳洞のような牙がびっしりとはえた魔物の口が気が付けば目前だ。もう一度、魔法を使おうと試みる。やっぱり使えない。私は全身の力を抜いた。ナマケモノは敵に襲われたとき勝ち目などないから、せめて楽に逝けるようにと体の力を抜くらしい。私も最期はそうしようと決めていた。視界に入り込んだ仲間はこちらを羨まし気に眺めていた。ごめんね、お先に失礼するわ。それが私の最期の記憶。

魔法少女

魔法少女

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青年向け
更新日
登録日
2024-03-17

CC BY-ND
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