恋した瞬間、世界が終わる 第75話「向こうから来る」

恋した瞬間、世界が終わる 第75話「向こうから来る」


あの頃ーー雨を身近に感じられる建物(庵)があった


屋根の薄さや弱さなのか、雨音が近く、空間を集中的に包(くる)む。
空間の薄情な耳打ちに似た、小さな雨粒が大きな集まりとなって際立たせる。
不揃いの拍子での一体感があった。
その屋根の上で、全て形を変えながらーー出逢いーーその声を聞きーー初めて交わした会話がありーーきっかけーー心が通いあう瞬間ーー瞬く間の幸せーー口づけーー愛したと分かる時ーー心が跳ね返ってーー粉々に割れるー別れーー
遠ざかったはずの季節の雨が、ここまで辿り着き、再び、タクシーの屋根を打ち、映した。


 水のおとーー


  (余韻)


余韻として開けると、何を、開けるのか

それとも、その場を空けるのか 

千年に一度の一滴を拝む


ーー  空ける音  ーー



  粒来に 声を埋める 閨の奥


粒は雨、来は往来を意識したこと
声は反響するもの全て 
閨(ねや)は芭蕉や日本的な感性にとって重要な『闇』という字の持つ厳かであるものへの稜威、深淵にある隠されたものの静かさ 
奥は屋根の屋(おく)という読みを含め、閨は根屋でもあり、闇というものを伺えさせている、喚起させると云っても良く、闇を覗くという行為に
声を深める だと、遊び心を失う
声の届かぬ だと、安っぽい
声後ずさり とするのも良い
こういう時、何を言いたいのか、何を伝えたいのか、自分の感覚を追ってゆくのも良いが、それよりも、出てきた言葉の風向き自体を反らすのではなく、沿ってゆくことに焦点を当てるこのこと

しかし、それを 声空けて見る とすると
日本的感覚を集約させたものになる
空ける 開く というその間であり魔と真を伺わせることができる
見る とすることで、いったん、自分が何を言いたいかを置いたはずが、
再び、自分に帰り、それから、一体自分に訪れた(往来した)ものは何だろうか? それを見てみよう、取り出して見ようとする、いや、見てみたい
という自分に気づく

これって、一体何だろう? いや、何“だった”だろう? そう言う懐かしむこと

そう言う『帰り(還り)』のこと
リバースという感覚、両面性、転生
自分をあえて転ばせて見る、こと
自分に返り、見ること


 粒来に 声空けて見る 閨の奥

 (つぶらいに こえあけてみる ねやのおく)



先ほど、自分に返り見ることを伝えましたが、さらにここから先があるのです。
それを説明するかは…今はやめておきます。

「運転手さん、さっきから何を言っているの? メトロポリスのビデオは観ないの?」

わたしは、運転手の独り言をそのままにしておくのも可哀想で傾聴の仕草を見せました

「いえいえ、まあ、言えることは、これは今の私たちの状況を表そうとした句であり、情景の描写で、そこからの追加として、短歌化させて見ようと思うのです」



粒来に 声空けて見る 閨の奥 後ずさるきみの 顔を見るかな



字余りですが、これも良いと思えるのです
自分だけだったものに、別な人が立ち現れてくる
自分を見ていたはずが、それは別な誰かを見ることでもある
そう言うことに気づいてくる
それもまたリバースで、両面的なもので
向かう方向のことだと
こうやって、文章をループさせることはできる
立ち返らせることができる
荒ぶり、鎮め、荒ぶり、沈め

黄泉(よみ)を読むこと

黄泉にあるものを読む、こと

そして、闇の中では自分も他人もなく、内混ぜである

その闇を潜って、出て来たものが自分ではなく、他人だったとしたら


「運転手さん、わたしの眼が見えるうちにビデオを観せて下さらないかしら?」


「さあ、みなさん、お待たせしました
 メトロポリスを観る時間ですよ」




閨の奥


黒いマリア

古代ギリシャからの魂が

何かを感じました

それはサッポーと答えました

念のようなものが飛んだ

古代ギリシャとつながる

時空を越えた何かと

「あなたは誰?」

恋した瞬間、世界が終わる 第75話「向こうから来る」

次回は、4月中にアップロード予定です。

恋した瞬間、世界が終わる 第75話「向こうから来る」

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  • 小説
  • 掌編
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-03-14

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