「紫陽花の君」

 陽に焦がれ乍ら
 (あま)つゆに愛されしをとめ
 なつかしい濃縹の紋
 一度だけ背中を抱いたとおり雨
 霞むことなく…隠れることなく…塵を払って
  輪郭は冴えていた…
 光のおぼろに甘えぬ濃藍(こいあい)よりも深い水の色
 なつかしい…千尋で待つと紅い彼岸花胸にさし
 雪の彼岸花さしてくれた
 黒髪の契りの形見は枯れぬまま
 紫陽花の心で枯れぬまま
 今に汀の草履残して
 季節外れの秋の君…紫陽花は淡く咲けり

「紫陽花の君」

「紫陽花の君」

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-03-13

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