ギガントゥ〜義眼to〜
プロローグ
悪夢を見た。
小学生の頃の話だ。
私は片目だけ青色だった。
幽霊が見えた。
皆気持ち悪がった。
私はいじめの対象になった。
ある日。
その青色の目に瞬間接着剤を無理矢理入れられた。
失明する確率は少ないのに、私は失明した。
セピア「っはあ!はあ!」
幻肢痛。
久々にきた。
飛び起きて、ないはずの右目をこする。
…。
落ち着いた。
気づいたらシャツからパンツまで汗びっしょりだ。
セピア「…入学式か。」
明日は高校の入学式。
私は失明の慰謝料と、国の金で生きている。
両親は飛行機に乗っている中、テロで亡くなった。
ちょうど中学2年生の頃だ。
祖父のもとで静かに中学生活を送り、今や一人暮らし。
セピア「…。」
私はおもむろにイヤホンを耳につけ腹筋をし始めた。
頼る人なんていない。
自分が強くならなければならない。
朝、昼、夜と野菜ジュースとプロテインのみ。
それ以外は口にしない。
金がもったいない。
いつからか趣味が音楽鑑賞、筋トレになっていた。
時計を見ると夜中の1時。
軽いストレッチをして鏡を見る。
セピア「…ん」
左目も青くなってきている。
ここ最近また幽霊が見えると思ったらそういうことか。
セピア「くだらない。」
布団に入って目を瞑る。
さあ今日も夜を楽しもう。
クラス
ここが1ーAか。
「あの人身長高いね…」
「凄い…」
私のことだろうか…。
確かに…高校一年で170センチぐらい。
高いほうか。
席は…。
前から二番目。
色恋セピア(いろこいせぴあ)の文字が机に貼られていた。
ガラガラとドアが開く。
ん。
ヤンキー女二人組か。
その後ろから私よりも背の高い女子が入ってきた。
顔立ちからしてハーフ。
凄いな180越えてるんじゃないのか?
その巨体は私の真後ろに座った。
マジかよ。
後ろを振り返ると机には
都築あーもんど(つずきあーもんど)の文字。
あーもんど「あ!よろしくね!」
美人だなぁ。
セピア「ん。」
私は軽く手を上げた。
前を見ると私達をギョッとした目でオチビが見ていた。
千尋「お、おわ。相川千尋(あいかわちひろ)です。」
そりゃそうだよな。
自分の後ろに高身長が二人もおると怖いわな。
「おまえさぁ」
セピア「ん?」
なんだ?さっきのヤンキー女の一人が話かけてきたぞ。
「…見えるっしょ?」
セピア「え?」
そこで担任が入ってきた。
「はいはいはい!みんな席に座ってねー。」
ニヤニヤしながらヤンキー女は席に戻る。
見えるって?
まさか…幽霊が見えるってわかったのか?
いや、そんなはずはない。
ここで担任の自己紹介が入る。
真矢「私の名前は立花真矢(たちばなまや)!今日からよろしくね!」
優しそうな先生だ。
うおおお!!!と声を上げたのは…もう一人のヤンキー女
「わ、私と同じ苗字っス!」
真矢「あら!なんていうの?」
美鶴「立花美鶴(たちばなみつる)ッス!」
真矢「元気な子ね!」
美鶴「ウッス!」
…朝から暑苦しい。
真矢「これから入学式だから廊下に並んでねー!」
あーもんど「ねえねえ!」
セピア「ん?」
あーもんど「右目どうしたの!?怪我した!?」
…ッコイツ…まいいか。
セピア「昔の怪我でね。」
あーもんど「そ、そうなんだ。」
どうするか…入学式のあと自己紹介だよなこれ。
あーどうしよ。
自己紹介
千尋「相川千尋です!えっと!字が上手いです!書道大好きです!嫌いなのは身長マウントです!!!」
本当に小さいなこの子。
椅子座る時地面についてるのか?
真矢「次!」
私か。
う〜ん。
セピア「色恋セピア。趣味は音楽を聴くこと。筋トレです。よろしく。」
私は席に座った。
右目の事…言えなかった。
真矢「次!」
あーもんど「都築あーもんどです!えっとオランダの血が流れてます!趣味は…えっと?遊ぶ事?よろしく!」
なる。
オランダの血か。
あと気になるのはあのヤンキーだな。
順番に流れていきニヤニヤしたヤンキーが席を立つ。
紅葉「柳紅葉(やなぎくれは)。婆っちゃの古い本屋受け継いでやってる。色んな面白いもんあるから見に来て〜。高校から近いから。よろ」
…。
店 の 宣 伝 。
自己紹介を聞き次は身体検査だ。
さてどうなることやら。
身体検査
千尋「あ〜っ!!!」
138センチしかないのかこの子。
あ、いかん。
目があった。
千尋「何見てんだセピアちゃん〜?んう?」
セピア「なにも。」
とりあえずスルーして私の身長を図ってもらう。
真矢「ん〜!172センチ」
2センチ伸びたか。
さて、あーもんどはどうだろうか。
真矢「186センチ!」
でかすぎたろ。
しかし、驚いたのはここからだった。
足の速さは千尋が一番早い。
体の柔らかさはあーもんどが一番柔らかい。
セピア「やるじゃん。」
千尋「そっちも!体力なかなかあるじゃん!」
あーもんど「千尋ちゃんだっこしていい?」
千尋「子供扱いするな!」
セピア「アハハ!」
私、今笑ったか?
気付いたらこの二人と打ち解けていた。
今日は午前中終わりだ。
あーもんど「ご飯食べにいこうよ!」
私は固まる。
野菜ジュースとプロテインがかばんに入ってるからだ。
私が悩んでる中、背中を叩かれた。
後ろを振り返ると紅葉と美鶴がいた。
紅葉「ファミレス行ったあとよ。私んち寄ってけよ。てか一緒に行こうぜ〜」
めんどくさ。
まあいいか。
この四人にだけ。
目の話をするか。
お前だけ。
あーもんど「そうなんだ…」
セピア「まあね。」
私は野菜ジュースを飲み干した。
四人に目の話をしたのだ。
しばし暗い空気が流れる。
が、
紅葉「セピア〜!寄ってくだろ?私んち!てかお前しか呼ばね〜!一人ずつな。」
千尋「なんでぇ!」
紅葉「色々あんだよ。色々。」
初日から色々なんてねぇよ。
紅葉「奢るから許せや?な?」
千尋「え…いいの…?」
伝票を紅葉が見て固まる。
紅葉「誰こんな食ったの?」
千尋が静かに手を上げるのであった。
三人と別れ、紅葉についていく。
セピア「相棒はいいの?」
紅葉「美鶴?あいつこれからゼミだろ。以外とガリ勉女なんだぜ〜」
へえ。
頭いいのか。
紅葉「で、見えるんだろ。幽霊。」
セピア「あっさり言うな…。そうだよ右目の話をした通り。左目にも同じ症状が出てきた。」
紅葉「使えるなそりゃ。」
セピア「なにか使えるんだ。」
目の前を見ると、柳本屋書店が現れた。
紅葉「入りなよ。面白いもん見せてやるからさ。」
私は本屋に上がる。
セピア「お婆ちゃんは?」
紅葉「…。」
聴いてないふり。
恐らく亡くなっているんだろう。
椅子に座ってると目の前にアイスが飛んでくる。
セピア「ごめん。私プロテインあるから。」
紅葉「なんだよ〜。まいいや。お前さこれ見ろよ。」
と1枚の紙を渡された。
紙だ。
うん。
紙。
それしか言えない。
紅葉「どうだ?」
セピア「紙」
紅葉「いいか?これはただの紙じゃねえ。清めた水で作られてる。」
セピア「清めた水?」
紅葉「つまり…御札の紙だ。」
セピア「へえ。」
紅葉「婆ちゃんが文字?書けたんだけどさ、私書けなくて。」
セピア「私にどうしろと?」
紅葉「書けるやつを探してきてほしい。」
無理だろ。
セピア「幽霊に、頼むのか?」
紅葉「なんでもいいんだ!表向きは本屋、裏では色んなモン売ってるこの店が潰れちまう。」
セピア「んな簡単に…。あ。」
いた。
紅葉「ん?」
セピア「いた。」
紅葉「誰?」
セピア「千尋。」
結成
あれから約数カ月立った。
千尋は御札の字を書き、
私は幽霊がますます濃く見えるようになった。
あーもんどは幽霊に取り憑かれやすい質であり、紅葉から教えてもらった祓い方で一日5人幽霊を祓った。
あーもんどの猫背はみるみる治り、身長がまた伸びた。
千尋が嫌な目で見てきた。
ある日のことだ。
紅葉「肝試し行こうぜ!」
セピア「うわ。」
あーもんど「そろそろ夏だもんね」
千尋「えーっ。」
美鶴「ゼ…ゼミがあるッスので!無理ッス!てかなくても無理!」
紅葉「幽霊調査隊!結成!これで店の御札が売れるぞ!」
千尋「私に8割はよこしなさい!効果あるんでしょ!」
紅葉「ああ!特級品らしいぜ…お前の字はよ…でもさ…私達は使ってない…使おうじゃねえか…なあなあなあ!」
このノリで私と紅葉とあーもんどが肝試しに行くことになり…
千尋と美鶴は断念した。
今思えばこの肝試しが、私の始まりなのかもしれない。
プロローグはもうおしまい。
物語が動き始める。
序章
セピア「で?今行く所はどんな所?」
紅葉「廃墟の神社だぜぇ。」
あーもんど「一番危ないやつじぁん!」
紅葉「ウチの婆っちゃってさ、結構有名で。色んな霊媒師アイテムをレンタルして稼いでたんだ。んで、ここの神社は…婆っちゃのレンタルしたものを返却せず潰れちまったって話さ。」
セピア「お婆ちゃんはなんか言ってたのか?」
紅葉「なんも。でも婆っちゃブラックリストに載ってた。」
セピア「未練たらたらだったわけか。それならしょうがない。元々返してもらうだけだからな。問題はあーもんど。取り憑かれないでよ。たまたま強い霊がついてなかったら私でも祓えたの。」
あーもんど「ど!どうやって!?無理だよ!」
紅葉「ここで!守護の御札の出番だ!一枚3万円!安いよ!効くよ〜!」
全く。
紅葉の商売魂なんとかならないのだろうか。
あーもんど「なんでぇ!頂戴よ!」
紅葉「嘘嘘。あげるあげる。」
セピア「持っとくだけでいいの?」
紅葉「おん。」
セピア「私が先頭行くわ。紅葉そのレンタルした物の場所は分かってるわよね?」
紅葉「分かんねぇな正直。あるとしたら祭壇。てか盗まれてる可能性はあるっちゃある…」
歩き出した紅葉の言葉が止まる。
異様な鳥居だ。
あーもんど「すごく…綺麗な鳥居。普通だったら落書きー!みたいなあるよね?」
紅葉「ああ…綺麗すぎる。」
嫌な予感がした。
私達は鳥居をくぐり、歩みを進める。
セピア「そのレンタル品って神主が持ち出して逃げたはないの?」
紅葉「…神主っていうか…神主のリーダーの事を宮司(ぐうじ)って言うんだが。まあ正直に言うと神社の中で死んじまった。ここからは噂なんだけど…死に方が異様だったらしい。」
あーもんど「やだやだ!どんなだったの!?」
紅葉「…禰宜(ねぎ)…ああ補佐の人な、その人が言ってたらしいんだ。金縛りが起きた用に固まって全身の骨がバキバキと折れて…最後内蔵やらなんやら全部口から吐き出して死んだらしい。」
あーもんど「やだー!」
セピア「気持ちが悪いな。科学的には証明できない。」
紅葉「皆も分かってると思うが…呪いだと思う。」
セピア「レンタルしたもんを返さないやつだ。恨まれたりしたんじゃないのか?」
紅葉「ありそ〜。」
しばらくするとあーもんどが何かに気づいた。
あーもんど「な、なにか光ってない!あそこ!」
目の前が少し光っている。
いや…ライトだ。
紅葉「まずい!パトロールだ!一旦隠れろ!」
紅葉はライトを消し私達の手を引いて大樹に隠れる。
物凄い速さで光が近づいてくる。
100%人だ。
しばらくすると光は遠のいていった。
紅葉「ここからはできるだけ懐中電灯使わんようにしないとな…」
あーもんど「どうすんの〜!?」
紅葉「ふん。小さい懐中電灯も持ってきてんだよな〜これが。皆、足元に充分気をつけろよ。」
しばらく歩いて数分。
私の気持ち悪さが段々と大きくなっていった。
セピア「気持ち悪い…。」
紅葉「大丈夫か?吐くか?」
セピア「いや、霊的なものじゃない…。今歩いても霊が一体もいない。ただ…この禍々しい空気は何なんだ?」
紅葉「やっぱり祭壇っぽいな…それ。」
あーもんど「あー!ついてくるんじゃなかった!怖すぎ!」
セピア「一人で引き返す?」
あーもんど「もっとこわいじゃん!」
ジタバタしてるあーもんどの見るのがせめてもの癒やしだ。
あーもんど「た、楽しい話をしようよ!ほら!私が中学校の頃たまごっちが授業中に苦しみ始めて…」
紅葉「ついた。」
…!?
セピア「見える。この閉ざされた祭壇に…黒いオーラを感じる…」
あーもんど「無視かい!」
紅葉「…開けるのやめようか?」
セピア「いや、何だろうか。夜だからこそこのオーラというか…昼間の方が危険なような気がする。」
祭壇の扉がガタガタと震え始める。
あーもんど「ヒッ…」
紅葉「外に出たいみたいだぞ?どうする…」
…私は二人の顔を見る…。
セピア「一番危ないのはあーもんどだな。紅葉。一緒に下がっておいてくれ。」
紅葉「…分かった…。セピア…これ…」
紅葉がまた違った御札を渡してくる。
紅葉「これが祓う用。こっちは取り憑かれ内容にする御札だ。破られないようにな。」
セピア「分かった。」
私達は息を整え、ついに。
セピア「行くよ。」
祭壇の扉を開けた。
逃亡
祭壇の扉を開けると。
飛ばされそうなくらい強い風が吹いた。
これ、ホラー映画でよくある展開だな。
セピア「…。」
祭壇の中を見渡すと…何もない。
セピア「失礼します。」
あーもんど「ちょ…ちょっと!入ってっちゃったよ!」
紅葉「…。」
セピア「うっ…」
禍々しいオーラの場所がわかった。
セピア「この地面の血痕は…」
どす黒いそれから、手が生えている。
私は背後を取られないよう、後ろを向かずゆっくりと祭壇の扉を閉じた。
紅葉「どうだった…?」
セピア「モヌケの殻だったよ。でも下にべっとりついてた血痕から、手が生えてた。恐らく悪霊。」
私は急な目眩でゲロを吐く。
あーもんど「大丈夫!?」
セピア「ええ。これくらい大丈夫よ。生理の方が酷いから私。」
紅葉「一旦出ようか。」
そう紅葉が言った瞬間。
ビリビリと一斉に音がなる。
手に持っていた御札を見ると破れていた。
あーもんど「キャア!」
紅葉「なんだ!まずいぞこれ!全部御札が破れてる!走れ!」
私達が走り出した瞬間、祭壇の扉が強い音を立て開く。
黒い何かが出てきた。
セピア「うっ…走れ!」
私達は全力で走った。
確実にその黒いものは私達を追ってきている。
途中で紅葉がコケてしまった。
紅葉「痛った…ね、捻挫…」
あーもんど「おんぶしてあげる!早く行こう!」
私は自然と笑いがこみ上げてきた。
セピア「あーもんどはピンチになると頼りになるな!」
あーもんど「もっと頼って!これからも!」
そうして数分走っているとまた小さな明かりが見えた。
パトロールの人が帰ってきたのだ。
セピア「!?おーい!」
???「何やってる!車に乗れ!」
斎服(さいふく)を来た男のようだ。
???「嫌な感じがしたんだ!車にあったお守りが燃えるなんて!」
紅葉「ぐっ…な、名前は?」
斎藤「斎藤!ここの補佐をしていた者だ!」
セピア「禰宜の人か!」
走って数分後車についたが…黒い影が前からも来た。
斎藤「クソ!取り囲まれた!」
どこを見渡しても360度黒い陰、陰、陰。
私達はピンチにたたされた。
しかし、斎藤の車が突然光りだした。
夜光
斎藤の車が突然光りだすと黒い影が止まった。
セピア「よくある。生存ルートってやつか!?なんだ!?」
紅葉「斎藤!見てこい!」
斎藤「歳上に呼び捨てとはね!今頃の子は全く!」
あーもんど「早くぅ!ちょっとずつ押されてきてるぅ!」
セピア「クッ!」
私はそこらへんの石を投げるが全く持って意味はない!
紅葉「おい!破けた札を石と一緒に丸めてぶつけてみろ!」
セピア「わかった!」
私はすぐさま石を紙に包み込む。
セピア「ぶつけるぞ!」
紅葉「後ろだ!」
後ろの影に私は掴まれた!
セピア「うっ…」
全身に悪寒が伝わってくる!
セピア「触ん…なぁぁぁ!」
私は石でぶん殴るように振り上げた!
しかし全然効いていないようだ!
セピア「クソ!」
紅葉「セピア!」
こんな奴に負けてたまるか!
離せ!離せ!離せ!
影が上ってくる!
斎藤「光ってたのはこれ…だ…」
その時世界がスローモーションに見えた。
セピア「…なんだ!?」
私はすぐさま影を振り解いた。
???「おい。」
斎藤が持っていた光が私に話しかけてきたのはすぐに分かった。
セピア「誰だ!」
???「この状態で見事な活気。素晴らしい。」
セピア「誰だって聞いたんだよ!」
???「私に名前などない。一言で言えば。龍だ。」
セピア「龍!?」
???「なあ?私と契約しないか?このまま呪い殺されるのは嫌だろう?」
セピア「…」
死。
父と母を思い出す。
セピア「なんでいじめられちゃうんだろうね」
母「あなたが正直で強くて良い子だからよ。」
父「なあ。学校なんかやめて音楽の道に進まないか?」
セピア「うん!」
父と母はいつも味方だった。
片目が無くなった時もそうだ。
母「…」
病室に見舞いに来たいじめっ子を黙ってひっぱたく母。
父「二度と面見せるな。出てけ。」
優しかった父が鬼のような顔をしていた。
私は学校で勉強と音楽をするようになった。
私は恵まれていた。
親が金持ちだったから。
でも、この世にはもっと酷い目にあってる仲間がいる。
ここでおっ死んで母と父に会うのもきっと幸せなことだ。
だけどきっと、いや絶対に怒られる。
母と父ではない。
この私自身に怒られるのだ。
ここで契約をしなかったら死ぬのは私だけではない。
皆も死ぬ。
一生だけじゃ足りないぐらい後悔する。
来世もきっと後悔する。
セピア「皆を守れるのなら。私はお前と契約する!」
???「良い返事だ。眼帯を取れ。」
ん?何をする気だ?
私は言われるがままに眼帯を取るといきなり光が飛び込んできた。
セピア「うおおおおお!?」
目の前に青白く光ったきれいな龍が現れる。
???「さあ。刀を取れ。」
!?懐に刀がある!いつの間に!
刀を抜くと光が漏れ出す!
斎藤「あれ!ない!なんだ!?」
時が元の流れに戻ったようだ。
何だ?いつもより見やすい。
???「ふん。これだけではない。自由に動き回れ。」
頭の中で龍が話しかけてくる。
セピア「!」
走ったらまたスローモーションになったぞ!
いや違う!
セピア「私!動きが早くなっている!」
あーもんどと紅葉を見ると影に掴まれているのが見えた!
???「斬れ!」
セピア「うおおおおお!はあああああっっっ!!!」
二人の周りについていた影を斬ったあと周りを一周するように刀を振り回しまくった!
???「奥義!」
セピア&???「影喰い!」
セピア「どりやぁぁぁぁっっっ!!!」
斬った!
影を全て切り刻むと暖かい風が吹いた。
あーもんど「え?何!セピア!何なの?」
私は笑った。
セピア「なんだと思う?」
雷
私達はいつも通り登校して。
真矢「コラァァァァァ!!!!」
いつも通り怒られた。
斎藤の野郎が電話しやがったのだ。
助けてやったのに。
許さん…!
セピア「まあまあ。みんな無事だったしいいじゃん。」
真矢「不法侵入だって!」
紅葉「それは違うって!私達はレンタルしてたやつを返しにもらいに来ただけ!」
真矢「だからって夜中に言ったらだめでしょうがぁ!」
あーもんど「先生♪肩もみします♪」
真矢「あ〜…」
あーもんどのおかけで先生の怒りはスッと収まったようだ。
あーもんど…流石…だ…。
あれ?
私なんでこんな身長が縮んだんだ?
視界が横だ。
真矢「セピアちゃん!」
セピア「…」
喋れな…あれ?
私、倒れてる?
???「おい。」
セピア「何?」
???「契約の説明だ。安倍晴明を殺せ。」
セピア「は?もう死んでるでしょ。」
???「安倍晴明が自分で行った封印を解いて回っている。何故かは知らないが…止めなければ百鬼夜行だ。」
セピア「…ふ〜ん」
私は昨日のことを思い出す。
無くなった右目から目玉が飛び出してきた時は驚いた。
紅葉「…龍の目…。良かったらお前に貸すよ。」
セピア「くれるんじゃないんかい。」
紅葉「金。私も生きてくのに苦しくてね。」
セピア「御札で稼ぎまくっとるやないかい。」
はあ…。
???「そうだ。私の能力は加速。そしてお前の義眼を増やす。安倍晴明は強い。手数を増やせ。」
目を開けると病室だった。
横を見ると真矢先生がパソコンを見ながらプリントの採点をしていた。
真矢「ゲッホ!ゲッホ!」
セピア「…風邪ですか?」
真矢「…自分の心配をしな…あ…!」
真矢先生は大粒の涙を目に浮かべ抱きついてきた!
真矢「…もう!もう!もううう!!!心配したんだから!」
セピア「何で私ここに?」
真矢「栄養失調だって!貴方全然食べてないでしょ?」
セピア「毎日朝昼晩、野菜ジュースとプロテイン飲んでるから。」
真矢「足りないよ!」
んだよ…。
てことは昨日のゲロも霊じゃなくて栄養失調のせいか。
真矢「ゲッホ!ゲッホ!」
セピア「他人の心配よりも自分の心配をしたほうがいいんじゃないですか?」
真矢「うるさい!もう!バツとして今日は先生と一緒にご飯食べること!」
セピア「私魚と肉嫌いですから…」
真矢「嫌いでも食べなさい!」
セピア「…へ〜い」
私は財布からクレジットを持って会計をした。
セピア「…奢るよ。真矢ちゃん…。」
真矢「ありがとうございます〜…じゃない!とにかく車乗りなさい!スーパー行くわよ!あと泊まっていきなさい!」
セピア「ああ…今日金曜日か…筋トレして〜」
私は真矢先生の車に乗せられスーパーへと向かった。
嫌いなもの
真矢「はぁ…嫌いなものは?なんだっけ?」
セピア「肉と魚。特に油っぽいのは無理。」
真矢「好きな物は?」
セピア「これといってない。強いて言うなら野菜。」
真矢「へえ。ベジタリアンなのね。」
他愛のない話をしながらスーパーを回る。
真矢「よし。アボガドサラダにしようか。あんまり嫌いなもの食べさせてもね。自分の料理で人の苦しむ顔見たくなんかないし。」
アボガドか。
初めて食うな。
真矢「安心して、味はクドくない大トロみたいなもんだから。」
セピア「せんせは嫌いなものあるの?」
真矢「う〜ん。消化に悪いものかな?」
セピア「お婆ちゃんじゃん。」
真矢「歳とると食えるもんも減ってくんの!」
セピア「まだ若いでしょうに。」
真矢「いいの!私は…うどんにするかな。」
真矢先生の家は一人暮らしの家より大きいくらい。
私の家と同じぐらいの大きさだった。
セピア「にしても…ちょっと殺風景じゃない?」
真矢「先生やってるとね。部屋のアレンジなんか考えられないのよ。さて先生シャワー浴びるから。」
と服を脱ぎだす。
先生の身体についた傷跡を私は見逃さなかった。
なにか理由はありそうだが女というものはそういうものに触れたら傷つくものだ。
他の話をしよう。
セピア「先生ってスタイルいいよね。」
真矢「腹筋割れてる女の子にそんな事言われてもね…」
先生はシャワー室に入った。
私は筋トレでもしようか。
丁度かばんにプロテインも入ってるし。
セピア「先生は何で教師に?」
真矢「一人っ子だったからさ。妹とか弟が欲しかったのよ。」
セピア「教師ってすごい大変だって聞くけど…金少ないとか。」
真矢「大変だよもう〜。セピアちゃん採点手伝ってよ〜。って言うと思った?」
セピア「ん?」
真矢「私はね。お金のためにやってないの。妹と弟の為に何かをしてあげてるって思ってるのよ。毎日毎日人の為に。こうやったらセピアちゃん達喜ぶかなぁとかさ。ゲッホゲッホ!」
セピア「身体張りすぎじゃない?」
真矢「咳の事?心配しなくていいのよそんな事。いつもの事だから。」
シャワー室から真矢先生が出てきた。
凄いニコニコしてる。
私と話すのがそんなに楽しいのか…。
真矢「何やってるの…?」
セピア「腹筋。」
真矢「倒れたあとにそんなことしないの。たまには休みなさい。」
セピア「せんせもね。」
真矢「くぅ…また手痛いカウンターを喰らった!シャワー入りなさい。私ちょっと採点してるから。」
セピア「おお…。お借りします。」
人のためにできる人。
私はシャワー室に入る。
うん。
先生は綺麗好きなのか。
ピカピカ風呂が輝いている。
いつでも人が来られるようにしてるとか?
シャワーを浴びながら考える。
真矢先生は人のために身体を張る。
私は自分の為に身体を張る。
先生はとても凄い人だ。
正直言って憧れる。
私にできること。
それは霊や呪いと戦うことだ。
もし先生が襲われたら、私が前に出て戦うのだ。
そうしよう。
先生のように傷ついても傷ついても前へ。
シャワーから出ると真矢先生の声が響く。
まだ彼女は咳をしている。
真矢「あ。出た?ほら!一緒に料理するよ。」
セピア「えぇ…」
真矢「面倒くさがらないの!ちゃんと教えるから!ほら!野菜洗って!」
野菜はレタスとプチトマトだけ。
真矢「はい!まずはレタスを千切ります。」
セピア「千切ったー。」
真矢「プチトマトを切って盛り付ける!」
セピア「千切ったー。」
真矢「千切るな!なんでもパワープレイか!包丁で切りなさい!真ん中に切るのよ!」
…なんかうるさい姉ちゃんができたみたいだ。
真矢「できた?ほらアボガドの切り方教えるから…。」
こうしてやっとアボガドサラダが完成した。
セピア「ドレッシングは?」
真矢「シンプルに醤油もいいけどチョレギソースがおすすめよ。」
セピア「チョレギソースね。」
私は一口食べてみる。
真矢「どう?」
セピア「…旨い…。」
真矢「でしょ!まずはそういったサラダを作って栄養失調にならないようにするのよ。じゃ。私はうどん作ってくるから。食べたら皿そのままにしといて。歯磨きしたあとパジャマに着替えなさい。机貸してあげるから宿題してからゴロゴロしないね。」
セピア「姉ちゃんかよ。」
真矢「ああ…。良い響き…。姉ちゃんか…。もっと言って!」
セピア「真矢姉」
真矢「ああ!」
こうして宿題を済ませ、いよいよ寝る時間になった。
以外と先生って早く寝るんだな。
セピア「で。なんで先生と一緒のベッド…。」
真矢「フフフ…。」
先生は私に抱きついたあと頭を撫でる。
真矢「長生きするのよ。元気でね。」
セピア「せんせもね。」
真矢「や〜ん!真矢姉って言ってよ〜」
セピア「分かった分かった!真矢姉真矢姉!」
その日は1度も途中で起きることもなく寝れた。
こんなにぐっすりと寝られたのは久しぶりだ。
セピア「ううう…」
背伸びをする。
隣を見ると真矢先生が幸せそうに寝ていた。
…久しぶりに二度寝でもするか。
猿の手
紅葉「依頼持ってきたぜ!」
とある日、学校で紅葉がニヤニヤしながら話かけてきた。
紅葉「なあ…猿の手って知ってるか?」
あーもんど「ああ…その話不気味で苦手だなぁ…」
美鶴「あ〜わかるっす!勉強してると猿の手も借りたい!ってなるんすよね〜!」
紅葉「何も私の話聞いてねぇじゃねえか!何がおま…あ〜わかるっす!だ!私達と話すときは単語帳を開くな!」
美鶴「何を言ってるんスカ…。勉強しながら友達と話せる。効率が良いじゃないっすか!」
千尋「だめなのぉ!もっと私達に集中しなさいよぉ!」
またわちゃわちゃし始める。
美鶴「猿の手って…あれってフィクションすよ?」
紅葉「正直に言おう。実現可能だ。もっと正直に言うと人間の手でもできる。」
セピア「まさか…人間の手ならデメリットなく使えてた。猿の手だから上手く3つの願いが発動しなかったっていうんじゃないだろうな?」
紅葉「鋭いな。猿の手持ってる奴がいる。放課後向かうぞ。」
放課後私達は…。
セピア「なんで理科室なんかに…。」
紅葉「持ってんのはこの学校なんだよ。百目(ひゃくめ)先生!」
百目「はいはい。」
百目先生は1年の理科を担当している。
新米教師だが以外とさっぱりしてしっかりしているで有名だ。
百目「あんまり見せたくないから物置室にきて。」
千尋「あわ…あわ…」
セピア「まあお前は怖いわな…人体模型。」
千尋「ちょうどでかいのが目の先に」
セピア「ナニに怯えてんだよ。」
千尋「ナニだよ!にしてもホルマリン漬けのカエルとか色々ある…」
百目「人間のホルマリン漬けもあるけど見る」
千尋「やだぁ!」
百目「嘘。」
千尋「おぉい!」
百目先生は少し深呼吸して話を戻す。
百目「ここからが本番。これが猿の手。」
小さい木箱を差し出して来た先生。
紅葉が無言で受け取る。
紅葉「う〜ん開かない。」
あーもんど「鍵というか接着剤でしっかり止めてあるね。」
百目「その箱。よく音がなるんだ。カタカタね。」
美鶴「箱のサイズからして小さい。子供サイズというより赤ちゃんサイズっすね。てかその噂は誰から聞いたんスカ?こんなに何も書いてない木箱の中身が猿の手だってなんでピンポイントでわかるんスカ?」
百目「前にいた社会科の先生がインドで買ってきたらしいんだ。その時猿の手が入っているってさ。」
セピア「キショい先生だな。」
百目「んで。うるさいからあんたらにあげる。」
紅葉「くれるのか!」
百目「科学的に証明できるものをここに置いておきたい。他は興味ないんだよ私は。校長先生にはキモいから捨てといたって言ってあるから。あとはよろしく。」
百目先生はあくびをしてどっかへ行ってしまった。
紅葉「…セピア。貸すぜ。」
セピア「冗談で言ってるならまだ許すが?」
紅葉「嘘だって。持ってて。」
セピア「やめろそんなキモいもの。」
あーもんど「私の家なら…置いてもいいよ。」
セピア「お前は取り憑かれる体質だからだめ。」
美鶴「あー!もう!私が持って変えるっすよ!」
美鶴が単語帳を振り回しながら叫んだ。
千尋「願い事しちゃだめだよ?」
美鶴「しないっすって!」
美鶴と猿の手
美鶴「痛い!」
クソッ!また電柱に頭ぶつけた!
私、立花美鶴は看護師が将来の夢だ。
美鶴「お父さん!お母さん!ただいまっす!」
線香を焚いて写真を拝む。
私の父と母は私を守って死んだ。
飛行機のテロに巻き込まれた。
乗客で生き残ったのは私だけだった。
左の腕にできた傷は今でも私を蝕む。
フラッシュバックと言うやつだ。
それを失くすためにも看護師を目指している。
美鶴「さて猿の手さんはここに置くっすよ!」
寝室に置くことにした。
私はこれでも変なもの集めが大好きなのだ。
集めた石が外に沢山置いてある。
さて。
勉強しようか。
ブドウ糖を食べて机に向かう。
よく言われる。
ヤンキーっぽい見た目、ギャルっぽい見た目。
でも医学大学に入ったらこんなことはできないのだ。
美鶴「…。」
飛行機が墜落したのは海だった。
父と母はまだ生きていた。
でもだんだん衰弱死していった。
あの時私がもう少しちゃんとしてればと悔しくなる。
それに私は恵まれている。
飛行機会社から毎月使えきれないほどのお金が入ってくるのだ。
勉強できる環境が整っているからこそやらなくてはならないのだ。
美鶴「う〜ん。英語のここわかんないな…明日先生に聞いて見るスネ…。」
ぐ〜っと私のお腹がなる。
行きつけの店でチャーハンステーキ丼を食べる。
家に帰りまた勉強。
美鶴「2時か…」
気付いたら2時だ。
そろそろ寝よう。
明日は塾もあるんだ。
異変
美鶴「おはようっす…」
セピア「おはよう。何か異変はあった?」
美鶴「いや…なんかいつも見てる夢の電車が止まったんすよ。」
紅葉「いつも見てる夢?」
美鶴「いや、よく言う猿夢ってやつなんすけど」
あーもんど「それってやばいやつなんじゃないの〜!?」
千尋「いつから見てるのさ!」
美鶴「う〜ん。一人暮らしをし始めたぐらいからっすね。でも…前がつまって全然進まないんすよ。」
セピア「それで今回は電車が止まっていたと…紅葉どう思う。」
紅葉「猿の手が電車を止めたってのか?だとしたらどうしてだ…。」
あーもんど「答えが見えないね…う〜ん。」
セピア「泊まるか…」
美鶴「え?」
セピア「ん?今日泊まるわ。」
美鶴「今日塾があるから…」
セピア「休んだらどう?」
美鶴「べ、勉強はルーティーンナンスよ!」
セピア「私の筋トレと同じか…でも心配だ。対処するって言っても私しかいない。何が何でも泊まるからな。」
美鶴「も〜!」
紅葉「も〜!じゃない!何かあったらどうする!猿の手の仕業じゃない現象がお前に起こってんだぞ!このチームで頭脳派が消えたらどうする!あとはバカしかいないぞ!」
セピア「頼むよ。アンタは私の数少ない友達なんだ。いなくなったら寂しい。」
美鶴「わ、わかったっすよ!でも色々見てビックリしないでくださいっすよ!」
こうして私は美鶴の家に行くことになった。
美鶴が塾の間は私は家で筋トレでもしておこう。
秘密
セピア「お邪魔します」
美鶴「いきなりっすけど手を合わせてもらうっすよ。」
セピア「え…」
そこには父と母だろうか?
写真が供えられていた。
美鶴「飛行機のテロで亡くなったんすよ。私も乗ってて。」
セピア「!?ちょ…ちょっと待って!その事故って…」
聞いたことがある。
たった一人だけ生き残った女の子がいると。
セピア「じゃ、じゃあえっと…」
私は知ってしまった。
美鶴は私よりも年上なのだ。
セピア「美鶴さん。」
美鶴「やめてよ。美鶴いいから。はあ…セピアには隠す気ではあったんすけどね。」
セピア「私の事は…」
美鶴「勿論、紅葉から聞いたっすよ。…その後調べて、セピアのお父さんとお母さんの顔を思い出したっす。」
セピア「その…私の両親はどうやって…」
美鶴「火災が発生した近くで…私が見たときはもう…溶け落ちた感じですかね…座席がなかったっす…」
美鶴が手を動かして説明してくれる。
私が肩を落としていると、優しく手をかけて美鶴は話し出す。
美鶴「何年か項垂れながら生きてきたっすよ。高校は一年ずれてしまったっす。私にとって皆は先輩なんすよ。左腕の軽いやけどだけで済んだこの命。一生無駄にできないっす。」
セピア「今日だけは先輩ヅラしてくださいよ。」
美鶴「ダメっすよ!もう決めたことなんで!」
強い人だな…美鶴は。
ぐ〜と美鶴のお腹がなる。
美鶴「お腹減ったっす!…?」
美鶴は立ったあと立ちくらみを起こす。
セピア「寝てなさすぎでしょ。今日ぐらい寝て。」
美鶴「でも私…」
セピア「無駄にできないんでしょ?誰にだって限界はある。私だって。限界を知るのは怖いことかもしれない。だけど知っておかないと命の危険がある。」
美鶴「わかったっすよ…ただ塾の復習だけはさせてくださいっす。」
セピア「布団でしなさい。ご飯食べに行くの?」
美鶴「ああ!行きつけのお店があるんす!チャーハンステーキ丼っていうのが…」
セピア「や、野菜にしておくわ。」
寝る時間
私は満腹サラダとかいう山盛りのサラダを食べ、美鶴はいつも食べているらしいチャーハンステーキをペロリと食べた。
どうなってんだ美鶴の腹は。
脳はカロリーを消費するが…脂肪燃焼するわけではない…。わけではないが…絶対に燃焼してるだろコレ。
じゃないとこんなスレンダーじゃない。
それかうんこだ。
うんこがすごいのかもしれない。
脂肪を吸収せずにうんこと一緒に流れる人がいるらしい。
美鶴「どうしたんすか?」
セピア「うんこ。」
美鶴「!?トイレならあっちっすよ!」
セピア「あ…いや…考え事。それより寝ないの?もう12時だよ?」
美鶴「うーん…やりきれないと寝れないっす…もう少しなんで…」
結局夜中の1時半だ。
私は呆れて音楽を聴きながら筋トレをしていた。
美鶴は私のお腹をポンポンと叩く。
セピア「終わった?」
美鶴「終わったっす…あ〜スッキリしたっすよ…。」
美鶴がほっこりと笑う。
そのまま目をつむって眠ってしまった。
セピア「すごい人だなほんと。」
私もゆっくりと目をつむった。
悪夢
ガタンゴトンと音が聞こえる。
私はハッと目を覚ました。
やられた。
セピア「ここは!?」
私も猿夢の中に入った!
セピア「美鶴!」
美鶴「ここっすよ」
後ろを振り返ると美鶴は突っ立っていた。
美鶴「ここから全然動かないんすよね。金縛りみたいな。」
どうやら私は動けるようだ。
セピア「おい!龍!聞こえるか?」
???「ああ。しかし助けはできない。お前がいるのは夢の中。現実世界ではない。」
セピア「クソッ!」
美鶴「…?誰と話してるんスカ?」
セピア「ああ…ごめん。何にもない。とりあえず私は先に進んで見る。一体前で何が起こってるか確認しないと。」
???「おい。」
セピア「何?」
???「用心しろ。」
セピア「分かってるって。」
私は電車の扉を開く。
誰もいないな…
何車両あるんだこの電車は。
美鶴「危なかったらすぐ戻るッスよ?私もこの金縛り解けるか試してみるっす。」
セピア「分かった。お互い気を付けて。」
私は扉を閉じ次の車両へ向かうが…何も変化はな…。
アナウンス「次は〜右耳〜右耳〜」
セピア「!?」
何かが始まったぞ!
私は慎重に少しずつ前へ進む。
その度、変な匂いと、鉄の重なる音が響いてくる。
???「おい。次の車両。」
セピア「何!?人?」
沢山の人が詰め込まれている。
次の扉開けるかどうか…手が震える。
その時だった。
???「セピア!なにか来るぞ!」
龍が叫び声あげる。
私の後ろに何かいる。
肩を叩かれたのだ。
しかし、
炎猿「あっしの名前は炎猿(えんえん)…。お二人ともふせてくださえ。」
私がゆっくりと振り返るとそこには火を纏った可愛い猿が私の肩を叩くどころか座っていた。
セピア「おわ…!」
炎猿「しっ!静かに!しゃがんで!」
私は言われるがまま扉にもたれかかってしゃがむ。
炎猿「この先に兄上と弟がおる。」
セピア「嘘でしょ…まさか…」
炎猿「そのとおり、前で拷問をしている…!」
セピア「どうして分かるの!?」
炎猿「匂いでっせ。一体何を考えているのやら。安倍晴明の褒美とやらが欲しいのかね。」
セピア「安倍晴明?」
炎猿「へえ。成仏できない魂に呪いをかけるとか言っておってな。至る所で呪いをかけていたみたいで。あっしは聞か猿なんでぇ。安倍晴明に封印されてたんですわ。」
…封印…?まさか!
セピア「箱に入ってたのって…炎猿なの?」
炎猿「そのとおりで。なんとも運がいい。お嬢さんのおかげでこの世界にたどり着けた。」
セピア「ってことは前にいるのは…見猿と言わ猿って事ね…」
一体どうすれば…。
炎猿「見猿は見ないふり、言わ猿は余計な事は言わない。そして私は聞かない。」
…そういう事か。
私は扉を開けた。
炎猿「何を!?」
セピア「アンタが話を聞かないなら…私も聞かない!」
ギョッと車両にいた人達が私を見る。
「外に出せ!」
「危ないぞ!」
セピア「ちょちょちょ…」
意外な反応に困る私。
「いい!絶対に来ないようにね!貴方は生きてるんでしょ!」
私は車両の窓から突き落とされる。
セピア「おわぁぁぁぁ!!!」
…私はそこで起きた。
戦闘準備。
!?
私は跳ね起きる!
横を見ると美鶴は寝ていた。
セピア「美鶴!美鶴!」
揺すっても全く起きない。
時間を見ると夜中の2時半。
約一時間しか経っていない。
私は美鶴の机にあった猿の手の木箱を無理やりこじ開ける。
そこには猿の手ではなく…。
セピア「猿の…目?」
目だ。
???「どうやって封印を解いた?」
龍が驚いた声で話しかけてくる。
セピア「…は?手でこじ開けただけだって。」
すると炎猿が美鶴の腹の上に乗って出てきた。
炎猿「おおっとこれは!封印が解けた!お嬢さんがやったのかい?」
セピア「ええ!みたいね。私はそこにいる友達を助けたい。貴方は兄と弟をどうしたい?」
炎猿「あっしは殺してでも止めなければいけないと思う。」
セピア「私と契約しない?これから一緒に戦ってよ…」
炎猿「あっしは聞か猿。誰の命令も聞かんよ。」
私は無理やり右目に猿の目をはめた。
セピア「ギカントゥモンキー!」
私は強制的に炎猿と一つになる。
???「なんだその掛け声は」
ちょっぴり恥ずかしいが…
セピア「わ、私が考えた。」
???「んがぁ…」
龍があんぐりと口を開けた。
しにしても、体全身が暖かい。
拳が燃えている。
炎猿「何じゃ!一体何が!?」
セピア「申し訳ないけど…もう一度猿夢に乗り込む…!」
美鶴の頭に手を添える。
私は目を閉じた。
トレインデュエル。
ガタンゴトンと音が聞こえる。
私は電車の中で美鶴の頭を撫でていた。
美鶴「うお!セピアがいきなり!出てきたっす!てかなんスカその身体。」
電車の窓に反射した自分を見ると、炎のようなオーラが私に纏っている。
そして拳には、燃え上がる甲冑がついていた。
セピア「炎猿。どうやらアンタの能力は夢の中で攻撃できるのと、接近戦の攻撃みたいだ。」
美鶴「何一人で喋ってるんスカ?」
セピア「美鶴を置いてけぼりにするのは申し訳ないけど…。ちょっと片付けて来るわ。」
美鶴「ちょ!?また先進むんスカ!?」
美鶴を置いて先ほどの渋滞した車両まで走って進む。
炎猿「勝機はあんのかい?お嬢さん?」
セピア「あるかどうかじゃない。勝たないとだめなの。」
ガラガラと渋滞した車両の扉を開ける。
セピア「みんな。ありがとうね。もう大丈夫だから。私がカタをつけるから。私に触ると火傷するわよ?」
「おお!」
「どうしたんだ!?」
この人達は亡くなっている。
すべて見慣れた顔だ。
亡くなった方の顔写真を私は見たことがあるからだ。
やっぱりか。
飛行機の場所自体焼け落ちた私の父と母はいない。
しかし、少なくとも美鶴の両親はこの先にいる。
私は確信していたのだ。
扉までと進むと手術室、と書かれた札を見つける。
「気を付けて」
「頑張れよ」
私は少しばかりの応援を肩にかけられ、勇気が湧く。
扉に手をかけ開けると、手術用の台が2台。
そして猿が2体。
炎猿「兄上、弟よ。堕ちましたな。」
兄猿「ああ?」
弟猿「なんだなんだ?」
セピア「ちょっと待て。手術台に人が…」
「おいおい?これで終わりかよ。つまんないな。」
「私達をばらばらにするんじゃないの?まだ片目残ってるわよ?」
強気な言葉が手術台から聴こえる。
兄猿「うるせえ!お前ら歯が硬すぎなんだよ!」
どうやら解剖に失敗し続けていたみたいだ。
弟猿「胃を切ったら生えてくるし!」
幽霊になったら生えてくるものなのだろうか?
でもドラマだと、若くて化けて出るよな。
なんて考えてたら、メスが3本飛んでくる。
私には今まで培ってきた、筋肉がある。
更に今は両目だ。
避けれないわけない。
私はニヤリと笑う。
セピア「そんなものか?」
弟猿「くぅわ!」
弟猿が突っ込んで来た。
試してみるか。
セピア「炎猿!」
炎猿「行きまっせ!」
炎をもっと纏わせる!
炎猿&セピア「承拳(しょうけん)!炎突(えんとつ)!」
見事に弟猿の腹に拳がめり込んだ。
兄猿「な…」
セピア「ただのものすごいカウンターパンチだよ。」
弟猿「きびぁ!」
猛スピードでぶっ飛んでいく弟猿。
セピア「楽勝!」
更に私は兄猿に飛び蹴りを食らわす。
当っても外れても良い。
手術台に近寄れれば。
兄猿は後ろに引き下がる。
掛けに勝ったぞ。
セピア「美鶴さんのお父さんとお母さんですよね。」
手術台に縛られた二人の器具を取る。
「君は…」
セピア「美鶴さんは車両の奥にいます。行ってあげて。」
兄猿が構える。
そろそろ攻撃が来る!
セピア「早く!」
「…分かった!」
兄猿が二人に飛びかかろうとするが。
セピア「させるか!」
近くにあったメスを投げて反撃。
上手く二人は逃げ切ったようだ。
弟猿「痛ってえ…」
弟猿が起きた。
これでまた2対2になったな。
炎猿「なぜそこまで安倍晴明にこだわるのかね!?」
兄猿「永遠の力だ!強き力を分け与えてくださる!あの方こそ!この世界を救う救世主!」
セピア「救世主…だって?」
弟猿「人々を地獄に送り…鬼の力を得る。その力が欲しい!」
セピア「地獄の閻魔様は…無駄な仕事が増えてさぞ可哀想だな…」
弟猿「ほざけ!」
セピア「お前らが落ちるべきだって言ってんだ!無実の人をこれ以上地獄に落とすってんなら!」
私は走り出す。
セピア「私が死神になってやる!」
弟猿、兄猿は同じタイミングで向かってくる。
クソ!組手は1対1でしか無理だ!
兄猿のチョップを手で交わすが、弟猿のパンチか私の腹をえぐった!
セピア「ぐうう!」
炎猿「お嬢さん!」
目では見えているが圧倒的戦闘力の差!
戦い慣れてないのが私の弱点だ!
なら!
一対一に持ち越すまで!
私はメスを持ち弟猿へと投げる。
ここでそのまま攻撃を叩き込む!
兄猿が来るだろう。
そこでもう一本のメスを投げる!
これで弟猿と一対一!
炎猿&セピア「承拳!岩砕(がんさい)!」
腹に拳をめり込ませる!
更に弟猿をブチ上げる!
そこで兄猿から飛び蹴りを喰らう!
兄猿「…なっ!」
セピア「ここで!耐える!」
飛び蹴りは私の胸のあたりに当たり息ができなくなる!
耐えろ!
私は兄猿を手で払い退け、飛び上がる。
セピア「喰らえ!弟猿!」
手に力を吹き込む!
炎猿&セピア「承拳!炎翼広乱手(えんよくこうらんしゅ)!」
弟猿に拳をめり込ませる。
反動で後ろに下がる弟猿。
逃しはしない。
セピア「うおおおおお!!!!!」
私は弟猿の首を引きちぎれるぐらい持ち、何度も顔面に拳を叩き込んだ!
弟猿「グッ…ギャアアアア!」
セピア「これで!終わりだ!」
そのまま弟猿を兄猿にぶつけた。
私の足から炎が立つ。
セピア「ん?何これ?」
炎猿「弟猿を倒したから甲冑が増えた。」
セピア「蹴り技ができるようになったってこと!?」
よし!蹴り技なら得意だ!
しかし、私はその場から崩れた。
急激な横腹の痛み。
見てみると青アザになっており、腫れている。
ってことは折れてはいないのか。
炎猿「お嬢さん!」
セピア「スー…痛っつ!」
私はゆっくり身体を持ち上げる。
どうせだ。
足の甲冑よ。
私を立ち上がらせろ。
視界が更に揺らぐ。
私は兄猿に殴られていた。
手術台に身体を強く打つ。
目も開けられないぐらいの衝撃が身体全身に響き渡る。
夢だよな?
夢なのになんでこんな痛いんだ。
背中を足で押しつぶされる。
セピア「どけよ…私の背中を踏むな。」
兄猿「お前たちの負けだ。弟を良くも殺したな。」
セピア「殺してない。地獄へ送ってやっただけだ。」
私には勝機があった。
背中で兄猿をふっ飛ばした。
手の力と足の力に集中していたのだ。
天井に身体をぶつける兄猿。
降りてきた瞬間に私は最後の力を振り絞った。
セピア「承蹴(しょうきゃく)…太陽日食(たいようにっしょく)」
ただのものすごいオーバーヘッドキックだ。
炎猿「黒炎!?爆発するぞ!」
セピア「…へ?」
兄猿「ギィアアアアアア!!!」
奇跡的に当たったキックで吹っ飛ぶ兄猿。
しかし途中で炎猿が言ったとおり、黒い炎が全身を包み爆発してしまった。
私の身体の周りにまた甲冑が現れる。
炎猿「…そうか…この鎧は黒陽鎧(こくようがい)安倍晴明…この鎧を狙っていたのか…どちらにしろあっしら3匹殺すつもりだったなあやつ。」
セピア「美鶴…の元に戻らな…!」
その時目が回る。
何だ?
目を開けると私は飛行機のど真ん中に立っていた。
数多の光
セピア「何が起こった!?」
美鶴「セピア!」
あたりを見渡すと、美鶴が飛行機の椅子に座っていた。
隣には…。
美鶴「お父さん!お母さん!」
「そろそろお別れだな。」
「こんなに大きくなって。」
家族の再会というわけか。
私は美鶴父に話しかける。
セピア「ねえ?私のお父さんはどこ?」
話しかけるしかなかった。
「そこにいた人はもう…」
見ないふりをしていたが…。
指をさされたほうを見ると…。
どう見ても機内に穴が空いていた。
セピア「私はお父さんお母さんに会えないんだね…」
美鶴のお母さんは優しく笑って答えた。
「大丈夫。また会える。もう一度事故現場を調べてみて。」
「さあ。行ってらっしゃい。」
美鶴「ちょっ…ちょっと!」
美鶴の父は美鶴のシートベルトを解除した。
「天国までフライトだからね。お前達はまだ早いだろ?」
セピア「そうね…美鶴。待ってるから。沢山話して。」
美鶴「お父さん…お母さん…私勉強頑張ってる。あの時の自分を未だに呪っているけど。知識的にも身体的にも、二人を助ける事は難しかった。今出来ることをコツコツやってる。全力で。」
「無理して早死にしないでよ。それは怒るからね。」
美鶴「分かってるって。無理せず無茶するよ。」
美鶴は…しばらく天井を向いていたが、泣き出した。
ずっと涙を我慢していたのだ。
美鶴「寂しい…。寂しいよ!お父さんお母さん…ありがとう!大好きよ。」
「うん…行ってらっしゃい。」
美鶴「行ってきます!」
涙を拭ってこっちにやってきた。
私は美鶴の手を繋ぐ。
このできた穴から、飛行機を脱するのだ。
セピア「いい!?飛ぶよ!」
美鶴「OKっす!1…2…」
セピア&美鶴「3!」
だんだんと飛行機が小さく見える。
どんどん遠くなる。
飛行機は光に包まれ、やがて小さな粒になり飛び散った。
皆…成仏…できたのか…。
私は目を閉じた。
帰還
目覚ましの音が聞こえた。
セピア「…ぐっ…腹が…」
痛い。
どうやら美鶴の家に戻ってきたみたいだが…。
腹を見るとアザが酷くなっていた。
片目もまた見えなくなっている。
身体が元に戻ってはいるが…。
セピア「龍。夢の中で喰らったダメージが現実でも起きてる。」
龍「一種の呪いだな。よくあることだ。よく戻ってきたな。」
セピア「くう…動けん…。」
龍「今日は休め。」
木曜日。
普通に学校がある日だ。
早速電話だ電話。
セピア「もしもし。」
真矢『はい。どうした?』
セピア「せんせ…ごめん…ちょっとお腹怪我しちゃってさ…痛くて休む。」
真矢『またなんか危ない筋トレしたんでしょ!』
セピア「ケガ=筋トレと結びつけるな。大体危ない筋トレって何だよ。」
真矢『ふ…腹筋しながら二階から落ちるとか…?』
セピア「なんやそれ…兎に角休むからね。」
真矢『病院必ず行きなさいよ?全く!』
セピア「ほいほい。じゃあね。」
電話を切り、美鶴を起こす。
セピア「美鶴。うお。凄い熱。」
美鶴「ん…。よし…学校…。」
フラフラと立ち上がる美鶴。
セピア「ちょ!無理すんな!」
美鶴「こんなところでね。休んでいられないの。私は。」
セピア「…ったく…。」
このあと私は病院へ行き、美鶴は学校へと向かった。
流石美鶴お姉さん。
といじりたくなってしまった。
ゴールデンウィーク
セピア「…。」
私はいま海にいる。
事故現場の確認だ。
セピア「酒井さん。」
酒井「あいよ。セピアちゃん。」
酒井さんはテロ事件からお世話になっている刑事だ。
セピア「ここに破片が落ちたんですよね?」
酒井「ああ。」
セピア「その…ですね…私のお父さんとお母さんの亡骸がそこにあると考えたんです。」
酒井「って言ってもね…今頃掘り出しても…」
セピア「犯人の死体もあるかも。」
そうだ。
父と母が抜け落ちた。
そしたら私の父と母が犯人というわけだ。
ありえないのだ。
犯人の顔はもう出ている。
しかし死体は見つかっていない。
必ずなにかのヒントになるはずだ。
セピア「テロリストは団体か、個人か分かったんですか?」
酒井「何も分からず終いさ。テロはテロ。犯人が分かったらそれまで。警察はそれ以上は動かないよ。」
セピア「…酒井さんは違うよね。」
酒井さんは笑い出す。
酒井「俺が船を買ったのは…定年退職をして漁師をするためさ。」
セピア「あれ?いくつだっけ?」
酒井「66歳だよ。」
もう事件からそんなにかかったのか…。
酒井「そろそろ破片が落ちた箇所まで…何だ?」
指を指す坂井さん。
その先には大きな船があった。
乗り込み
セピア「酒井さん…見えてる?」
酒井「あ、ああ…」
近づけば近づくほど鮮明に見える。
海賊船。
いや…。
酒井「ゴーストシップ…か…。」
セピア「酒井さん。霊感は?」
酒井「全然ないぞ」
セピア「霊感がない人でも見える幽霊船…。」
私は少し考えた。
セピア「酒井さん。緊急ボート貸して。」
酒井「ダメだ。俺も行く。」
セピア「相変わらず怖いもの知らずね。」
酒井「長年刑事やってるとね。怖いもん見ても怖くなくなるんだよ。行こう。」
幽霊船はどんどん大きくなる。
セピア「私、乗り込んできます。」
酒井「どうやって。」
こうやってさ。
セピア「ギカントゥ、モンキー!」
両目で物が見えるのは繊細だ。
いつもこのままでいいと思ったが。
炎猿「お嬢さん!霊力を使いすぎだ!」
セピア「…まだ大丈夫だよ。」
私は自分を蹴り上げて幽霊船へと吹っ飛ばす。
酒井さんの船が大きく揺れた。
酒井「おおっと!」
セピア「あー、ごめんごめん。」
身体全体をジェット機のように燃やす。
幽霊船まで届いた。
セピア「よっと。」
どうやら誰も乗ってないように見えるが…。
セピア「幽霊船に誰も乗ってないってのは流石に変だ。」
こういうのは運転席に誰が乗ってるはず。
私は上を目指した。
この幽霊船。
海賊船であるなら乗組員もいるはずだが…。
本当にガランとしている。
あっさりと運転席についてしまった。
扉を開くと女性が舵を取っている。
セピア「…こんにちは。」
「…やあ。」
女性はニヤリと笑った。
セピア「この近くに飛行機の破片が沈んでるの。知らない?」
「知ってるよ…。でも…。」
女性は銃を手に持った。
「教えない。」
女性はまたニヤリと笑う。
セピア「貴方名前は?」
「そっちから名乗るべきじゃ?」
セピア「…。セピアよ。貴方はここの船長さん。」
ティータニア「本名は捨てた。ティータニアだ。よろしく。」
ティータニア…。
妖精の名前だ。
セピア「いきなりお邪魔してごめんなさいね。」
ティータニア「許すわけないでしょ。私の船に勝手に乗った。」
ティータニアは引き金を引いた。
少し古い銃だ。
弾が一発発射されるタイプで良かった。
私は寸前でかわす。
セピア「…クッ…!本物…!」
ティータニア「弱っちいな…もう少しで当たる所だったじゃん。じゃあ今度は剣といこうか?」
ティータニアは腰についていた剣を手に持つ。
セピア「ギカントゥ!ドラゴン!」
すぐさま私も刀を手にもつ。
このモードならスローに見え…。
セピア「…なっ…!」
私の首元に剣が当たっていた。
いくらなんでも早すぎる。
ティータニア「遅い。というかその力に頼り過ぎだな。自分より早い奴がいた。ただそれだけだ。元が弱すぎる。」
セピア「…そうね。私は弱い。」
私は刀をしまった。
セピア「戦いに来たんじゃない。お父さんとお母さんを探しに来た。貴方はここで何をやってるの?」
ティータニア「あー。沈んでんのお前の父ちゃんと母ちゃんか。」
セピア「知ってるの!?」
ティータニア「安倍晴明って奴が私を雇ったんだよ。下に沈んている魂を成仏させないように私が見張ってろってね。」
セピア「…じゃあ…貴方は死んでいるの?」
ティータニア「ずっと昔にね。この船と一緒に海に沈んだ。私はそんなに有名な海賊ではない。なぜか成仏できなかったのよね。今はこうやってぼーっと海を漂っている。」
セピア「…ティータニア。力を貸して。お父さんとお母さんに会いたい。」
ティータニア「嫌だね。少なくとも私より弱いやつにつきたくなんかない。信頼できないもの。」
…ごもっともだ。
私でも同じことを言う。
セピア「安倍晴明の側につくっていうの?」
ティータニア「ああ。そうだ。」
私は再び刀を手に取った。
ティータニアを斬りつけに行ってもすぐかわされる。
当たらない。
一太刀も当たらない。
ティータニア「うーん。当てずっぽうに来すぎ。確実な攻撃がなさすぎる。だから遅い。弱い。」
ティータニアに蹴り飛ばされ私は幽霊船から転げ落ちた。
セピア「…クッ…」
ティータニア「出直してこい!小娘!つまらん!私をつまらせろ!」
私は海に落ちた。
ゴールデンウィーク明け。
今日から学校だ。
眠すぎる。
真矢「こら!休みボケしてんじゃないの!朝の会始めるよ。寝ない!」
朝からダラダラしようとしたら真矢先生に怒られた。
セピア「ああ…お腹痛いなぁ。」
真矢「もう治ったでしょうが!ゲッホゲホ!」
相変わらず真矢先生の咳はおさまってないんかい。
あーもんど「ねえ!セピア!目のクマ酷くなってない?」
セピア「強さを研究している…。カンフーマスターになりたい。」
千尋「何言ってんのよ!」
セピア「一対二でも戦えるようにしたい。」
紅葉「無双ゲーのやりすぎだろ…」
やってねえよ。
ちらりと美鶴の方を見ると、朝の会なのにも関わらずドリルと真剣に向き合っている。
いつか私は美鶴を目標の一人にしていた。
美鶴は勉強。
千尋は文字。
あーもんどは高身長のスタイル。
紅葉はコミュニケーション。
なら私は強い人間になりたい。
一時間目から体育だ。
ダルすぎる。
しかも他のクラスの男子と合同にやる。
着替えてると千尋が話しかけてきた。
千尋「おいセピア。」
セピア「ん?誰か喋った?」
千尋「キシャー!本当は見えてるだろ!目線を下に向けろ!」
セピア「…ハイハイ…。何?」
千尋「なんか習いたいの?格闘技。」
セピア「そうだな…筋トレばっかりじゃ強くなれないんだよ。」
千尋「太極拳習ってるはとこがいるんだけど。」
セピア「マジで?」
太極拳か…なんか暗殺術で有名だったよな…。
セピア「どこに?」
千尋「男子に梅林(うめばやし)ってやつがいる。そいつがはとこ。うじうじしててもじもじしててなんか女みたいなやつ。」
セピア「クセが強いな…今日の体育ドッチボールだったか?ちょっと話しかけてみるか。」
千尋「多分すぐわかるから。私と同じチビだし。」
セピア「いじりがいがありそうだなぁ。」
私はニヤリと笑った。
メイリン
いた。
絶対にアイツだ。
アイツ以外いない。
千尋と同じ身長。
長い髪。
恥ずかしがり屋なのかボケーッとしてるのかわからない顔。
スラスラ走るのに効果音がモッチモッチしてる奴。
セピア「先生。男子の梅林ってあのチビ?」
「あー。メイリンのことな。」
メイリン?
「あいつ太極拳やってるから梅林でメイリンって名前でいじられてるぞー」
そういやこの人担任だったか。
お互い変な担任持ったな。
話しかけてみるか。
セピア「あの…メイリン…くん」
メイリンはビクッ…!と震え木に隠れた。
メイリン「…ははは…はは…は…はい…。」
ヤバい。
コイツおもろい。
女の魅力というものを見せてやるか。
私は暑いふりをして服をパタパタさせ、自慢の腹筋を見せびらかす。
メイリン「ゴクリ。」
分かりやす。
まあ高校一年生男子ってこんなもんだよな。
セピア「暑いねー。」
メイリン「そ、そそ、そですね。」
セピア「ところでさー。太極拳やってるんだっけ?」
メイリン「う、うん。」
セピア「ちょっと私と戦ってみない?」
メイリン「そ、そんな…セピアさんみたいな…綺麗な人には…」
惚れてんのかコイツ。
可愛すぎだろ。
セピア「大丈夫…私も結構強いから…。一戦だけ…」
メイリン「お、女の子相手に…」
セピア「おねがぁ〜い」
メイリン「ぐ、ぐぬぬ…」
放課後
セピア「痛ってえ!!!」
メイリン「あ、あわわ…ごめんなさい!」
一対一だぞ!
強すぎる!
ティータニア以上の強さだ!
千尋「ほら!立て!セピア!」
なんでいんだよ。
太極拳ってこんなに遅いものなのか?
いや…スピードの問題じゃない。
的確な攻撃場所、方法。
全てが完璧に当てはまってるのか!
メイリン「も、もうやめようよ…」
セピア「まだまだぁ!」
千尋「殺れ!殺せ!」
千尋はメイリンに恨みでもあるのだろうか…。
私は本気の飛び蹴りをメイリンにお見舞いする。
メイリン「わわ…。」
しかしメイリンは片手で止めてしまった。
メイリン「あ…」
更に私の身体は回転し地面に叩きつけられる。
メイリン「…や、やりすぎちゃった…」
セピア「負…負けた…!」
千尋「ヘッ!ざまあみろ!」
セピア「お前さっきから日頃の恨み晴らしてるよね!むちゃくちゃだぞ!」
千尋にツッコミを入れて立ち上がった。
メイリン「セピアちゃんは強いよ…片目でこんなに動けるなんて…しかも独学でここまでパワフルなキックを出せる…」
私は笑った。
両目なら勝てると。
しかし…。
炎猿“霊力を使いすぎだ!”
炎猿の言葉を思い出す。
ティータニア“遅い。というかその力に頼り過ぎだな。”
ティータニアにもそんなことを言われた。
セピア「メイリン君。私はね…片目で君よりも強くならないといけない。それが太極拳じゃなくても…」
メイリン「は…はわ…」
セピア「君に勝ちたい…!」
メイリン「か…かっこいい…!」
謎の友情が芽生えた瞬間だった。
パンダヒーロー
私は道場に来ている。
メイリンの家だ。
メイリン「お、女の子が僕の家に…あ、あわ、お、お茶…。」
セピア「…君…緊張しすぎでしょ…」
土日休みにしっかりと太極拳の極意は教えてもらうつもりだ。
メイリン「千尋ちゃんから聞いたよ…。一対二でも勝ちたい。もっと強くなりたい。って。どうして?」
セピア「お父さんとお母さんを助けたい。からかな。」
メイリン「…それだけ…?」
意外な回答が返ってきて少し驚いた。
確かに、強くなりたい理由の一番はこの気持ちだ。
セピア「後は…わからない…。」
メイリン「強さっていうのはね…一つの理由じゃ収まらないんだ。結局は自分も守らないといけない。強くなりたい願いは無限大なんだよ。」
メイリンはスマホでパンダヒーローを流す。
セピア「おお…パンダヒーローじゃん!」
メイリン「僕はピンチヒッターになりたい。一人一人の。恥ずかしがり屋でも、その人その人の枠に綺麗に収まるような…。完璧なピンチヒッターになりたい。」
セピア「ピンチヒッター?」
メイリン「強さだけじゃない。そこには優しさがある。相手を分かろうとする。気持ちがある。それが強さに変わると思う。」
モチモチと歩き項垂れ始めるメイリン。
どうやら私になにか伝えたいようだ。
そしてウン…と頷き、私の前で正座した。
メイリン「セピアちゃんは…自分に厳しすぎるんだと思う。無理をしすぎなんだと。」
セピア「私よりも苦労してる奴なんて…」
メイリン「その気持ちが君を弱くしてるんだと思う。」
セピア「弱くしている?」
メイリン「焦っちゃだめだよ。できた事をコツコツと積み上げることも大事だよ。」
メイリンはニッコリと笑った。
熊猫の目
学校でメイリンが何かを手渡してくれた。
あーもんど「セーラー服着せたい。」
紅葉「メイド服だろ。」
美鶴「ナース服っすね。」
千尋「裸でいいだろ。」
皆のボケが始まるが私はメイリンに質問する。
セピア「これは…」
メイリン「千尋ちゃんが…持ってきてって…」
千尋はニンマリと笑った。
千尋「ほう…私には見せてもくれなかったのにセピアには見せるんだ〜てかあげちゃうんだね〜。」
メイリン「死んだおじいちゃんの形見なんだ。でもセピアちゃんの力になると思って…」
セピア「まさか…何かの目…?」
メイリン「パンダの目だよ。古い古い。パンダの目。このパンダがおじいちゃんのお師匠のお師匠のお師匠らしいんだ。」
セピア「な、なんかめちゃくちゃだな。」
メイリン「喋るパンダって言われてたって伝説があるんだよ…。」
セピア「こんな大切なものを私にくれるの?」
メイリン「…セピアちゃんの力に…その…なりたくて…」
あーもんど「あら〜」
紅葉「ラブラブじゃん。」
無視だ、コイツらは。
セピア「ありがとう。必ずお父さんとお母さん。救ってみせる。」
メイリン「うん。頑張って。じゃあね。」
メイリンはモチモチと走っていった。
修行開始。
セピア「ギカントゥ!パンダ!」
グラッと視界が歪む。
「なんじゃ…?寝てたのに…」
セピア「こ、こんにちは」
上手く立てない。
そうか。
パンダって目が悪いからかえってバランスが取りにくいのか。
セピア「私の名前はセピア。貴方の名前は?」
トカジ「わしの名前はトカジじゃ。」
セピア「トカジ。私に修行つけて。他人数相手でも戦えるように。強くなりたいの。」
トカジ「暇してたしいいぞ。」
こうしてあっさりと修行が始まった。
トカジ「うむ。よく鍛えておる…。しかし筋肉や身体の使い方を誤っておるな。いいか?集中しろ。目に頼るな。チャクラを全身に張り巡らせろ。空気を感じるのではない。操るのじゃ。」
セピア「空気を感じるんじゃなくて操る…。」
ギガントゥ〜義眼to〜