「水月」

 水月の…肌に冷たく沁むこと
 ()れど指は湿らず
 然れど白骨に疼ける
 銀の矢で諸手は貫かれ
 火の血色(ちいろ)
 月の千尋
 頭から(そら)見て(たふ)れけり
 雪柳の花ふりまく水飛沫(みずしぶき)(くう)に飛ばして
 (しろがね)のしぶきは矢となれり
 然れど鏃は青珠(びいず)
 いたづらに 下腹へ刺し
 何も貫かぬおもちゃの矢
 手慰みの牙子宮に当てたまま
 空を見上げて背中は冷たし
 虚ろな白眼、黒眼はおぼろ
 風無き夜に
 水月は甘い蜜のかけらを垂らす
 りんごの白露…しづくの肉体(からだ)硝子真珠(スワロフスキヰ)
 もたれる頭の黒髪は
 水月の膝に抱かれてる
 搖れる黒髪…濡れる黒髪
 哀しい蛇の焦げた色
 とろとろと艶めく宵空の色
 水月は白し…水は清し…たゆたう髪のうつくしき
 深みに(つち)に地のしたたる
 諸手を沈めたほの蒼い腕に白月(しらつき)の掛かる
 服は濡れ
 肌も濡れ
 ちゃぷちゃぶと沈む水月の(そば)
 鮎のように身は(かろ)
 竜宮の使いよりも深く潜る
 吐く泡はうたかたの白雪(しらゆき)の花
 吸うは甘い涙の水
 手を刺す銀の矢に導かれて
 ようやく辿れた…赤躑躅待つ宵の宮
 水月を…今仰ぐ

「水月」

「水月」

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-03-12

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