「水月」
水月の…肌に冷たく沁むこと
然れど指は湿らず
然れど白骨に疼ける
銀の矢で諸手は貫かれ
火の血色
月の千尋
頭から空見て倒れけり
雪柳の花ふりまく水飛沫空に飛ばして
銀のしぶきは矢となれり
然れど鏃は青珠
いたづらに 下腹へ刺し
何も貫かぬおもちゃの矢
手慰みの牙子宮に当てたまま
空を見上げて背中は冷たし
虚ろな白眼、黒眼はおぼろ
風無き夜に
水月は甘い蜜のかけらを垂らす
りんごの白露…しづくの肉体の硝子真珠
もたれる頭の黒髪は
水月の膝に抱かれてる
搖れる黒髪…濡れる黒髪
哀しい蛇の焦げた色
とろとろと艶めく宵空の色
水月は白し…水は清し…たゆたう髪のうつくしき
深みに地に地のしたたる
諸手を沈めたほの蒼い腕に白月の掛かる
服は濡れ
肌も濡れ
ちゃぷちゃぶと沈む水月の傍
鮎のように身は軽く
竜宮の使いよりも深く潜る
吐く泡はうたかたの白雪の花
吸うは甘い涙の水
手を刺す銀の矢に導かれて
ようやく辿れた…赤躑躅待つ宵の宮
水月を…今仰ぐ
「水月」