流れ星

 ダイスケが転校してきたのは、僕が小学4年生の頃でした。
 初めてあった時、ダイスケは言いました。
「君は、なんの星が好きかい」
 僕は、よくわからなくて、こう答えました。
「星に種類なんてあるのかい」
 ダイスケは、ふふっと笑って言いました。
「あるよ」


 ダイスケは星が好きでした。
 ダイスケは、僕にたくさんのことを教えてくれました。
「月が光るのは、太陽の光があたっているからなんだ」
「天の川は、僕たちの住む銀河の星星なんだ」
「地球から一番近い星まで、光のスピードでも4年かかるんだ」
 それから僕は、ダイスケと星が好きになりました。
 図鑑を読むと、僕たちの太陽系には、地球を含め8つの惑星があると書いてありました。
 その中でも僕は、金星が好きでした。
 金星は、地球の兄弟のような星だと、図鑑に書いてありました。
 金星は、地球と同じくらいの大きさなのです。


「ダイスケ、僕は金星が好きだ。地球の兄弟なんだって。ダイスケはなんの惑星が好きかい」
 ダイスケはいつものように、目を輝かせて答えました。
「僕はね、火星が好きなんだ。火星はね、人が住めるかもしれないんだって」
「それとね」
 ダイスケは続けました。
「今度、日食があるんだ」
「日食って」
「太陽と月が重なるんだよ。一緒に見ようね」


 日食の日、ダイスケと僕は太陽グラスを持って、待っていました。
 天気予報は晴れ。太陽が空に浮かんでいました。
「いよいよだね」
 ダイスケは時計と、日食の時間を書いたノートを見て言いました。
 太陽メガネで見ると、太陽の端っこが食べられたように、へこんでいました。
 僕たちは無言のなか、太陽を見続けました。
 いよいよ、空が暗くなりはじめました。
「ねえ」
 突然ダイスケが話しかけてきました。
「なんだい」
 僕は日食に夢中でした。
 いよいよ、空が黒くなりました。
 皆既日食です。
「すごいよダイスケ、昼なのに、空が暗いんだ」
「でもね」
「なんだよダイスケ」
「僕、転校するんだ」
 空は再び明るさを取り戻しはじめました。
「引っ越すのかい」
「遠くへ」
「ふーん」
 空は再び青くなって、僕たちの目は、涙をこぼしました。
「眩しい」
「眩しいね」


 それから、ダイスケは転校しました。
 図鑑をそっと開くと、僕たちの銀河と隣の銀河は近づいているのに、他の銀河は全部遠ざかっていると書いてありました。
「遠くって、どこへ行くんだい」
 独り言が、僕の部屋に響きました。
 その日、僕は不思議な夢を見ました。
 夢の中で夜空を見上げると、ほうき星がありました。
 ダイスケが隣にいて、言いました。
「僕はあのほうき星へ行くんだ」
 僕は言いました。
「次はいつ会えるか分からないね」
 ダイスケは言いました。
「違うよ。昔の偉い人が見つけたんだ。75年後にまた会えるって」


 目が覚めると、次の朝でした。
 夏休みが終わり、学校には、誰も座っていない机が一つ増えました。
 僕の中のダイスケがどんどん小さくなって、ダイスケの中の僕がどんどん小さくなるのが、あまりにも怖く感じられました。
 それから、僕があまりにも落ち込んでいるので、お父さんが流れ星を見に公園へ連れていってくれました。
「流れ星に願い事を三回いうと、願いが叶うんだって」
 願い事、僕の願い事はなんだろう。
 ダイスケと、ずっと一緒にいたかった。
 けれども、その願い事は、邪なことのように思えました。
 ダイスケには、新しい土地で、元気に暮らしてほしい。
 これが模範解答なのです。
 子どもの僕にも、その願いが正しいことは、分かります。
 でも、僕の心はどうなるのでしょう。ダイスケの心はどうなるのでしょう。忘れるのが正解なのでしょうか。では、なんのためにこの感情があるのでしょうか。
 僕とお父さんは寝転がって、流れ星を探していました。
 僕がちゃんと馬鹿だったら、模範解答通りの回答を、流れ星に願うことはなかったでしょう。
 光の筋がすっと夜空を通って、僕は三回願いました。
 その願いは呪縛のように、僕とダイスケを永遠に突き放しました。

流れ星

流れ星

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-03-11

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