未断尾の羊のしっぽ〜『羊の瞞し』あとがき〜

未断尾の羊のしっぽ〜『羊の瞞し』あとがき〜

 拙作『羊の瞞し』は、私が書いた小説の中では最長の物語で、総文字数は二十二万文字ぐらい……とずっと思い込んでいたのですが、改めて数えてみたところ、約237,500文字でした。空白、改行等のカウンターの仕様による差異にしては大き過ぎる誤差なので、ずっと勘違いしていたようです。
 いずれにせよ、星空文庫での文字数表記の合計だとこの数値になりました。
 これは、原稿用紙ですと594枚、「54字の物語」だと約4,400作分になります。これだけの文量にも関わらず、最後まで読んでくださいました皆さまに、心より感謝いたします。本当にありがとうございました。

 本作は、簡単に言えば「ピアノ調律師の成長譚」です。しかし、楽器業界やピアノ調律師の世界の専門的なしきたりなどにも触れながら、業界が最も激しく変化した1990年前後の時代背景をメインにした物語でもあります。少し裏事情にも触れておりますので、実際の関係者が読むと、きっとネガティヴな感想を抱く人も多いと思います。
 そのピアノ業界ですが……実は、大して広い世界ではありません。そして、それほど周知された世界でもありません。例えば、国内のピアノメーカーを幾つご存知ですか? という問いに、五社以上答えられる方はどれぐらいいるでしょう?
 車のメーカーなら、ブランド名やチューニングメーカー、トラックや重機、二輪を除き、自動車だけに限定しますと、トヨタ、ホンダ、日産、マツダ、三菱、スバル、スズキ、ダイハツの八社しかありません。おそらく、誰もが耳にしたことのある企業ばかりではないでしょうか。
 幾つ知っているか? と聞かれた時、誰でも数社答えられるでしょう。もし、一〜二社しか思い付かない人がいても、答を聞けば、「あぁ、知ってる!」となるメーカーばかりだと思います。そもそも分母は有名企業八社ですから、高い割合で周知されていると言えるでしょう。

 ピアノのメーカーだと、ほとんどの方は、ヤマハ、カワイ……えぇと、あとは何があったっけ? となるのではないでしょうか?
 少し詳しい方でも、ディアパーソン、アポロ、アトラス、ボストン……ぐらいで限界かもしれません。それ以上ご存知の方は、マニア認定されるでしょう。

 でも、分母も少ないのでは? と思うかもしれませんが、実は、そんなことありません。高度経済成長期の日本には、なんと二百五十社ぐらいもピアノメーカーがありました。自動車メーカーの比ではないのです。爆発的にピアノの需要が増えた時期があり、沢山のメーカーが生まれたのです。
 そんな折、具体的には1960年代の前半ぐらいに、業界最大手のヤマハが世界で初めてピアノのライン製造に成功し、大量生産を可能にしたことにより、風向きが変わります。安価で良質なピアノが量産されるようになったのです。業界二位のカワイも直ぐに続きました。
 しかし、それ以外のメーカーには、そこまでの資本も技術力もありません。手工業に近い形態で、一台一台、丁寧に作っていたのです。なのに、皮肉なことに、大手二社のライン製造の方が精度も高く、品質のムラもなく、仕上がりも良かったのです。しかも、安価なのです。必然的に、ほとんどの小規模メーカーは閉鎖や倒産に追い込まれたのです。
 その中でも生き残ったメーカーも数社あります。アポロやアトラスは、ヤマハやカワイほど大規模ではないにしろ、数年遅れながらライン製造に近い技術を確立し、そこそこの量産は可能になりました。(アトラスは1986年に事実上の倒産となりました)
 逆に、当時はヤマハ、カワイに次ぐ規模だった富士楽器製造は、この過渡期を乗り越えられず、1968年に閉鎖されました。「BELTON」という素晴らしいピアノを作っていたのですけどね。
 一方で、シュベスターやイースタインといった手作りによる高品質なメーカーは、それはそれで生き残りました。(イースタインは1990年に倒産)
 他にも、シュバイツァーや日立(あの日立です。ピアノも作っていました)など、ヤマハやカワイなどから部品を卸してもらい、独自のデザインで組み立てていたメーカーもあります。自動車でいうチューニングメーカーのような形です。現在は、シュバイツァーだけ存続しておりますが、ほぼピアノは製造しておらず、実質的には修理工場として稼働している感じです。
 また、ヤマハやカワイなどと提携し、独自ブランドのピアノを作っていたメーカー(とは言えないでしょうが)もあります。これはOEMとは違い、販売店などがメーカーに専用のブランドを(裏事情もありまして)立ち上げてもらったような感じです。エテルナ、ミキ、カイザーなど、一時期は実に沢山ありましたが、残念ながら現在は一つも残っておりません。
 もう一つ生き残ったパターンとして、ディアパソンが上げられます。詳細は省きますが、早い話がこれこそOEM製造に近い形態に上手く移行し、実質の製造を他社に委ねながら生き残ったメーカーです。(現在は、カワイが製造しています)
 OEMと言えば、新興ブランドのボストンは最初からOEMとして誕生しました。スタインウェイが設計しカワイに製造を委ねたブランドなのです。
 新興ブランドと言えば、なんと2019年に国内に新しいピアノメーカーが誕生しました。遠州楽器制作株式会社という会社が創設され、「ENSCHU」というブランドのピアノの製造が始まりました。このメーカーを含めても、現在は国内に十社もないと思います。しかも、ヤマハとカワイ以外はほとんどの方には知られておりません。ピアノ産業なんて、その程度の小さな世界なのです。

 すみません、話が思いっ切り逸れました。
 これだけ沢山のメーカーが製造しても全く追い付かないぐらい、経済成長期の日本はピアノの需要が溢れておりました。あっという間に、日本のピアノ普及率は25%を超え、世界でもトップクラスとなりました。その後も売れ続け、一時期は30%を超えるまでになりました。しかし、ピアノの歴史から見ると、日本には伝統的なピアノ文化なんてものはありません。
 ピアノは、発明(誕生)から約二百年掛けて完成した楽器です。いや、前身楽器のチェンバロやクラヴィコードから数えるなら、更に数百年の歴史があります。その間、沢山の製造者が知恵を絞り続け、試行錯誤を繰り返し、色んな機能やアイデアが開発されては淘汰され、ピアニストや音楽家の要望に応えようと努力と研究を積み重ね、ずっと進化し続けて、ようやく完成された楽器なのです。
 日本にピアノが入ってきたのは、ほぼ完成されてからです。進化の途上など知らずに、いきなり完成品を知り、それをあっという間に理解し、わずか数十年後には大量生産に結び付けたのです。
 余談ですが、1828年に創業した「ベーゼンドルファー」は、現存する世界最古のメーカーの一つにあげられますが、ベーゼンドルファーが現在までの二百年弱の間に製造したピアノは、約六万台と言われています。
 一方で、1897年創業のヤマハは、現在までに約六百五十万台ものピアノを製造しました。最盛期には、年間二十万台も造っていたのです。もちろん、造っただけでなく全て売れていたのですから、逆に言えば、ピアノ文化なんて根付いていなかった国なのに、わずか数十年でそれだけの需要が生まれたのです。そして、世界有数のピアノ普及率にまで上りつめたのです。
 ただ、ピアノを沢山造るだけでは「ピアノ文化」なんてものは生まれません。木材をはじめとした原材料の調達ルートの開発も必須です。それらの加工技術も飛躍的に進化しました。
 何より、量産出来たところで売らないと話にならないわけですから、その為にはショップを中心とした販売網も必要です。更に、売っておしまいというわけにもいきません。演奏の指導はもちろんのこと、発表の場も必要です。教材や指導者の養成、レッスン室、カリキュラム……など、様々な環境も整えないといけません。また、調律を含めたメンテナンスと特殊な技術を要する配送は、専門家に委ねるしかありません。つまり、そちらの養成も必要なのです。
 短期間で恐ろしい台数を販売する傍らで、それらの環境の整備も急ピッチで行った結果、日本はあっという間に「ピアノ大国」になれたのです。しかし、システマチックなレッスンや「定期調律」という制度、運送屋と販売店(若しくはメーカー)の癒着、特約店制度など、他国にはない歪な習慣も蔓延ることになったのです。それもまた、日本の「ピアノ文化」の一つの側面でしょう。
 世界的に見ても、他の産業と比べても、一つの「文化」がこんなに短期間で広く浸透した事例はないかもしれません。それだけ、日本のピアノ文化は異常であり、脅威でもあります。「狂気」と評した人もいます。
 そんな世界に身を置くようになった私ですが、こういった日本独自の「ピアノ文化」の背景を小説に落とし込みたいと思い、拙いながらも書いてみた作品が本作になります。

 さて、ここからがようやく「あとがき」っぽくなります。
 本作のアイデアは2014年頃から頭にありましたが、実際に書き始めたのは2016年の一月です。書き終えたのが七月。丸々七ヶ月も掛けて書いたことになります。
 その前年には宮下奈都さんの「羊と鋼の森」が出版され、2016年の「本屋さん大賞」も受賞しました。とても烏滸がましい話ですが、悔しい! と思ったのです。何故なら、「羊と鋼の森」も調律師の成長譚だったからです。先を越されてしまった……と、私のことなんて全く眼中にもないでしょうけど、正直にそう思ったのです。

 しかし、その悔しさは一過性のものでした。と言うのも、これは断じて批判ではありませんが、「羊と鋼の森」は、一見リアルであるようですが、リアリティを感じなかったのです。矛盾した言い回しですが、「現実的」なことは書いてあっても、私には「生々しさ」に欠けたのです。
 専門的な技術の話でも、「ちょっとそれは違うでしょ?」って突っ込みたくなるシーンもありましたが、一番の違和感は、登場人物全員が善人だったことです。
 ピアノ業界に限らず、音楽の世界は独特の人種の集合体であり、「良い人」は(私以外では)決して多くはありません。他社との競合はおろか、社内競合も当たり前です。隙あれば顧客は奪い取り、また守る為に必死に営業活動を続けるのです。
 もちろん、会社や個人によっても形態は様々なので、あの物語のような皆がリスペクトし合う理想的な会社もあるのかもしれません。が、そんな甘っちょろいことで経営が成り立つかいな、という本心も拭えません。

 拙作でも取り上げましたように、調律師の仕事は単なる技術職ではないのです。そこを無視した成長譚に固執すると、確かに内省的で静謐な美しい物語を書き易くはなりますが、現実に沢山介在するドロドロとした人間関係や恨みや妬み、憎しみなどに蓋をしてしまうことになります。
 こうなると、私にとっては(言い方は悪いでしょうが)、リアリティではなくファンタジィに近付くのです。そう、書いてある調律師の世界はリアルなのに、リアリティを感じなかった理由は、主人公の成長譚という物語の主幹が綺麗事のファンタジィに終始したからでしょう。
 繰り返しますが、「羊と鋼の森」を批判するつもりは毛頭ございません。むしろ、調律師の世界を取り扱ってくださったことはとても嬉しく思っておりますし、読み物として、とても上品で良質で大好きな本です。そして、小川洋子さんにも似た内省的で静かな文章表現は、憧れでもあります。

 一方で、私が書こうとしていた調律師の物語は、全く違うアプローチで構想しておりました。
 音楽界の美しさや華やかさの裏にある、ネガティヴな感情や打算のぶつかり合い……如何に顧客を騙し、同業者を陥し入れ、虚栄を張り、信用を取り繕うのか……こういった、言わばアンダーグラウンドにスタンスを置くことにより、よりリアリズムが追求出来るのでは? と考えていたのです。
 そういった意味では、実在する悪徳業者を模倣した「ピアノ専科」、そして、大手メーカーの大手特約店「興和楽器」という二つの会社は、調律師の裏の世界を表現する舞台として現実的で必然的なチョイスだったと思います。
 社員、嘱託、フリーという調律師の三つの形態にもそれぞれメリットとデメリットがあり、それぞれの立場により、調律師としてのステイタスやポリシーが違ってきます。梶山、榊、宗佑、篠原といった登場人物は、何れもそれぞれの立場に基いたスタンスを貫いており、その為に犠牲にしているものもあるのです。また、彼等はリアルな私の世界にもモデルとなる人物が存在するぐらい、生々しい存在なのです。
 唯一、響だけは100%架空の存在で、皆のメリットを上手く融合させると、理想的な調律師の在り方が見えてくるのでは? という私の願望も込められております。

 と長々と書きましたが、こういった視点で調律師の物語を書きたいと思い立ったのが、2014年頃なのです。ボヤボヤしている内に、宮下奈都さんの名作が世に出てしまい「悔しい」に繋がりましたが、間違いなく「絶対に書き上げてみる!」という、強い動機にはなりました。

 さて、ここからは本作についての解説のようなお話になります。

◉作中に出てくる社名について

 物語に登場する会社やメーカーは全て架空ですが、前述しましたようにピアノ史や社会背景、歴史的な流れは殆んどが事実に基づいております。
 言うまでもなく、KAYAMAはヤマハを文字っております。余談になりますが、イタリア語では「H」は「アッカ」と読むのですが、実際にはほぼ使わない子音でして、イタリア人は上手く発音出来ないのです。
 また、「Y」(イプシロン)もイタリア語ではほぼ使いません。その為か、「YA」「YU」「YO」の発音も苦手のようで、「イヤ」「イユ」「イヨ」と、一瞬「イ」が入る感じになるのです。なので「YAMAHA」は「(イ)ヤマー」とか「(イ)ヤマッカ」と発音されるのです。この「(イ)ヤマッカ」を少しアレンジして、「KAYAMA」と命名しました。
 でも、ヤマハの体質をそのまま移行させたわけでもありません。その辺りは、ストーリー展開に沿った多少のフィクションも交えております。

 ピアノ専科も、実在する悪徳業者を文字っており、詐欺の手口も部分的に真似ております。いや、真似ているとは言え、作中ではほんの一部をやんわりと中和させておりまして、実際の業者はもっと悪どいことをやっています。また、本作では取り上げておりませんが、買取業者もなかなかえげつないことをやっております。その辺は、またいつか機会があれば。
 
 ドイツのアクションメーカー、ランネルは、実在する世界最大手のアクションメーカー、RENNER(レンナー)社を文字っています。レンネルにしようと思ったのですが、イタリアではレンナーのことを「レンネル」と発音していましたし、そのままに近過ぎるかなとも思い(もっとも肯定的な使い方しかしていないのですが)、少しだけ変えてみました。

 また、宗佑が修行したシュベヒテンという手造りのメーカーは、現在も存続するSCHWESTERを模しております。これは、シュベスターと読みまして、本記事の前半に「生き残ったメーカー」としてさりげなく名前を出しています。ただ、作中のシュベヒテンは倒産したことになっておりますが、SCHWESTERは現存する日本最古の手造りピアノメーカーとして、現在も完全受注生産で良質な楽器を生み出しておりますことを追記させて頂きます。

 世界最高のメーカーとして登場したクルツマンは、おそらく皆さまの予想通りとは思いますが、Steinway&Sonsを意識しております。


◉ピアノ曲

 途中に何度かピアノの演奏シーンを挟みました。使用した音楽は、特に好きな曲という訳ではなく、その場のイメージに合わせて採用つもりです。全て、音楽史に残る曲ばかりです。

※参考までに、使用した曲を挙げておきます。
・ショパン/ノクターン20番
・バッハ/インベンション(詳細は書いていませんが、「一番ハ長調」の想定です)
・シューマン/トロイメライ
・シベリウス/樅の木
・グリーグ/アリエッタ
・シューベルト/即興曲(有名な二番ではなく、三番のイメージです)


◉備忘録を兼ねた反省点

・文字数多過ぎ
 公募に出す時は二十万文字まで(実質は五百枚まで)という規定により、十五万文字ぐらいの物語を想定していましたが、かなり抑え込んでも十九万文字ぐらいに膨らんでしまいました。結果、かすりもしなかったのですが、その原因として、書き切れていないことが自分では気になっていたので、それのせいだ! と思うことにして書き足したところ、この文字数にまで膨れ上がりました。ということは、構想の段階でミスっていたってことですね。

・第三章の間延び感
 改めて読み直したところ、この章は三割ぐらいカット出来そうな気がします。特に、初めての実践に悪戦苦闘するシーン、いくらなんでも長過ぎましたね。五章、六章も削れると思っています。

・誤字、脱字、誤変換等
 これは一度徹底的に見直したい。公募に出す時にかなりやったつもりだけど、その後、大幅に書き足した部分は雑にチェックしただけなので、結構あることは分かっています。まぁ、そのうちに。

・木村のキャラ
 結構気に入っている人物で、本当はもっと活かせるポジションにいたはずなのに、キャラを確立出来ず、セリフすらないままでした。(ちょっと動かしてみたかった)

・第一章のデリヘル
 もう、これは知識がなさ過ぎて、いっそのこと書かない方が良かったのかも、と思っています。響のキャラにも合わないし。スズムラ先生からの御指南通り、現実と違い過ぎて、苦労して書いた割には詳しい人にとってはリアリティがなかったでしょうね。実は、書いた時は、この巨乳姉ちゃん、何処かで使おうと考えていたのです。

・技術者としての梶山
 彼の優秀な面も、もっと書いておくべきだったと思います。ああいう優秀だけどイヤな調律師は、現実に沢山いるのです。私の身近にも何人かいるので書きやすい人物ではありますが、イヤな部分を中心にスポットを当ててしまいました。身近にいる人が、皆んなイヤなヤツなんです。

・榊の年齢
 これは大失敗です。深く考えていなかったことがそもそもの失敗だけど、成り行き上、特に意味はなく木村と同期ってことにしてしまいました。しかも、第三章の最終話で、梶山がクビになった木村のことを「四十近くにもなって奥さんと子どももいるのに……」と言っちゃったので、榊もその時点で三十代後半になります。響が入社一年目なので二十歳、つまり、榊は響より二十歳近く歳上ですね。なのに、ずっと一回りぐらい歳上のイメージで書いていました。(オイッ!)
 でもって、最終章での鰻屋さんのシーン。これは第一章、第一話のファミレスのシーンから数ヶ月後です。ここで、響の年齢を四十七歳って書いちゃってるので、榊は六十五ぐらいなのです……イメージが全く合ってないですね。

・時系列
 榊の年齢だけでなく、時系列と登場人物の年齢を、一度全てチェックしないといけないかも。大きな間違いはないと思うのですけど、細かい計算は全くしていないので、やっぱりこういうところはプロットとまでは言わないにしても、メモ書きぐらいは残しておくべきですね。

・法律
 最終章の法的な考察は、一応詳しい方に教わったり自分で調べたりもしましたが、明らかに勉強不足ですね。デリヘル以上におかしな部分があったと思います。何より、それがどこなのかも分からないのです。

・時代設定
 コレが一番ヤバいミスでして……。修正せずにそのままにしていますので、ひょっとしたら気付かれた方もいるかもしれませんが、とんでもない矛盾が一つあります。響が事件を起こす年代は、大まかに1990年代の始め頃と想定しております。これは、ピアノ業界がものすごいペースで不況に陥り、中古ピアノが急激に普及した時代です。そうじゃないと、ピアノ専科の急成長はあり得なかったのですから、ここは譲れない設定なのです。
 となると、第二章の最後、専門学校を卒業した響に美和が途切れ途切れのメールを出すのですが、この時は1985年ぐらいになるのですよね……携帯電話すらないやんっ! まだ「メールは250文字の制限があり……」とか書いていましたけど、メールどころか携帯電話すらほぼない時代でした。

・唯一自分を褒めてあげたいこと
 第一章のショールームでの会議のシーン、ここでピアノ専科の社員として杉山、草薙、木村が出てきますが、ここを書いている時にはこの三人が後から出てくる予定は全くありませんでした。杉山の窃盗癖とか草薙の虚言癖は、その場で適当に書いたことです。木村がピアノ専科の黎明期から榊の右腕として支えていたというのも、その場の思い付きです。
 特に、杉山を新人調律師として登場させたり、富樫と杉山を繋げたり、後からショールームでの会議に繋がるエピソードを盛り込んだのですが、全て書きながら思い付きで繋げたのです。なので、少しは「おぉっ!」となっていただけたのなら、してやったりなのです。と言うか、ならなくても自己満足高めです!



◉登場人物の名前

 実は、本作の登場人物の名前には、もちろん全て架空ですけど、あるルールがあります。ストーリーとは全く関係のない、単なる私の一人遊びです。お気付きになられた方はいらっしゃいますか?
 考えてみたい人は、最後に答を書きますのでお気を付けください。


 ということで、一旦ここで締めさせていただきます。
 専門用語満載の長い物語ではありましたが、死ぬまでに書いてみたかった業界の裏話を盛り込んだ小説ですので、私なりに達成感は大きい作品でもあります。公募では玉砕しましたが、自己満足感は高めのお気に入りの作品です。
 こんな長いお話に最後までお付き合いくださいまして、本当にありがとうございました。



 では、名前の謎についてです。そんなに大層なことでもなく、つまらない一人遊びです。

 最初から登場した順に、苗字だけを書き出してみますね。ヒントとして活用してください。

・松本 ・榊 ・杉山 ・草薙 ・木村 ・漆原 ・梶山 ・綿矢 ・菊池 ・篠原 ・柳井 ・荻村 ・芦田 ・竹原 ・冨樫 ・木下 ・梨本

 抜けている人もいるかもしれませんが、分かりましたでしょうか?

 正解は、松、榊、杉、草、木、漆、梶、綿、菊、篠、柳、荻、芦、竹、樫、木、梨……と、全ての苗字に植物が含まれていたのです。気付いた方はいらっしゃいますか?
 本当にどうでもいい、物語とは全く関係のない言葉遊びでした。

未断尾の羊のしっぽ〜『羊の瞞し』あとがき〜

未断尾の羊のしっぽ〜『羊の瞞し』あとがき〜

  • 随筆・エッセイ
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-03-10

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