zoku勇者 ドラクエⅢ編 16章

※中ボスの出現の順番が一部逆になっています。

その1

ジャミルと、……婆さんと……

 宿屋
 
「あーあ……、ジャミル達、早く戻って来ないかな……、
つまんないよお……」
 
「なーお……」
 
只管ジャミルを待つダウド。其処に猫がとてとて部屋に入って来た。
 
「あ、猫だ……、シャム猫だ、ここの宿屋の子かな?おいで」
 
「なーお」
 
シャム猫はスリスリ、ダウドにすり寄って来るが。
 
「ちょ……、口臭いなあ……!この猫……、
や、焼きイカの臭いが……」
 
「うぎゃーお!」
 
シャム猫は怒って部屋から逃げて行く。
 
「本当はオイラだって……、街に行きたかったのになあ~……、
チラッ……」
 
散々悪酔いして暴れたアルベルトは既に床についていた。
 
「いい気なモンだね……、全く……、普段とガラッと
変わっちゃうんだからさあ……、しかしお酒の力って凄いなあ……、
こんなに違うんだから……」
 
そう言う自分も一度だけポルトガで酒乱になったのを覚えていないのだった。
 
「zzzz……ぐうー!」
 
「どうせ今頃二人してイチャイチャしてるんだろうな……」
 
 
「あんっ……、駄目よ……、ジャミル……」
 
「今夜ぐらい……、いいだろ……?」
 
「あんっ……、だ、駄目……、ああん……、ああああ……」
 
 
「何が駄目なんだ?」
 
「……ひいいいっ!?」
 
いつの間にかジャミルとアイシャが戻って来たらしく、
部屋の入口に立っていた。
 
「な、何びびってんだよ……」
 
「あー……、びっくりした……、お帰り……」
 
「ただいま、ダウド!」
 
「あ、アイシャもお帰り!」
 
(さっきの独り言……、聞こえてないよね……、あはは……)
 
「?ダウド、どうかしたの?」
 
「ん?な、何でもないよ…えへへ…」
 
どうにかこうにか誤魔化すダウド。
 
「とりあえずさ、明日一旦ここの大陸を出て、船で
南の小島に行ってみようぜ」
 
「南?何かあんの?」
 
「私達の求めている物がこの大陸の南にある島にあるんですって、
占い師さんに教えて貰ったの」
 
「地図で見ると……、此処だ、ガライが精霊のほこらと
勘違いして教えた場所だな」
 
「ふうん……」
 
「取りあえず俺は寝る!」
 
そう言ってジャミルはそのままベッドに転がり寝てしまった……。
 
「もう……、でも、私も何だか眠いわ……、じゃあそろそろ
部屋に戻るね、これ、ダウドとアルにお土産のお菓子よ」
 
「有難うーアイシャ!明日アルにも渡しておくね!喜ぶよお!」
 
「お休み!宜しくね!」
 
アイシャはダウドに手を振り別部屋に戻って行った。
 
「お休みー!ん~ふふふ!」
 
ダウドはアイシャから貰ったお土産のお菓子のチョコを
一つ摘まむと嬉しそうに口にほおり込んだ。
 
次の日。
 
「お早う、ジャミル」
 
「……此処……、どこだい……、宇宙……?」
 
「寝ぼけてないで頭すっきりさせなよ、ダウドもアイシャも
二人とも起きてロビーで待ってる」
 
アルベルトはもうすっかり酔いが醒めていた。
 
「僕、昨夜は食事の後、すぐに寝ちゃったのかな……、
記憶にないや……」
 
「アル」
 
「ん?」
 
「……お前、昨夜の事、本当に何も覚えてねえのか?」
 
「どうして?僕、何かした?」
 
「いや……、覚えてねえなら別にいいんだ……」
 
「え……?」
 
「ジャミルー!おはようー!」
 
アイシャが部屋に入って来た。
 
「あー……」
 
「ほら、鎧着けなくちゃ!光の鎧!」
 
「まーたこれ着けんの……?」
 
「駄目よ!ルビス様から頂いた伝説の鎧なんだから!」
 
「ハア……」
 
「……」
 
「おい……、着替えるから……、二人とも出てってくれよ……」
 
「え!?あ、ごめん!」
 
「支度が終わったら下に来てねー!」
 
「……伝説でも何でも……、やっぱり鎧は嫌いだ……」
 
 
そして、in、南のほこら……。
 
 
「此処のほこらで……、ほこら回りも最後よね……」
 
アイシャがちらっとほこらの中を覗き込んだ。
 
「中入ってみる?」
 
「ん」
 
中に入ると老人がいた。
 
「こんにちは」
 
アイシャが老人に声を掛けるが、返事をしない。
 
「……」
 
「聞こえてないのかしら……」
 
「耳が遠いのかな……」
 
「おい、じいさん!」
 
「は……?」
 
ジャミルの大声に振り向き、老人が漸く反応を示した。
 
「なんや、兄ちゃん……、わいはじいさんちゃうで、
婆さんやで……」
 
「聞こえてんのかよ……、別にどっちでもいいよ……」
 
「……兄ちゃん……、あんたいい顔しとるのお~……、
ポッ……」
 
「はあ?な、何だよ……、この婆さん……」
 
何だか嫌な予感を感じたジャミルだった。
 
「ここは聖なるほこらや、雨と太陽が合わさる時、
虹の橋が出来るんやで、太陽の石と雨雲の杖、それから
聖なる守り……、持っとるか?」
 
「持ってるよお!」
 
「ちゃんと持っとる……、と言う事は…お前さん達、
勇者一行じゃの……?」
 
「そうだけどさ……」
 
「なら、話は早いわ、どれその3つをよこせ」
 
「ええ!?」
 
「太陽の石、雨雲の杖、聖なる守り……、この3つを掛け合わせて、
ゾーマの城に渡れるアイテムの虹のしずくを作ってやるわ」
 
「本当か……!?」
 
「但し……」
 
「……?」
 
婆さんがジャミルの前に立つ。……ジャミルは再び何だか
悪寒を感じ、少し後ずさりした。
 
「兄ちゃん……、わいにキスしてや」
 
「はあ!?な、何言ってんだよ……、冗談はよせよな……、
婆さん……」
 
「若い男の子のエネルギーは力になるんですわ、作るのに
大分魔法力を使いますのや……」
 
……そう言いながら、婆さんは色気を出し、上目使いで
ジャミルを見ている……。
 
「うわあ……、こんな処でもモテモテだね、ジャミル……」
 
「うるっせえな!バカダウド!だ、大体……、若いなら
俺じゃなくてもこの二人だっていいだろが!」
 
シャミルが必死で抵抗し、アルベルトとダウドも
道づれにしようとする。
 
「あ、あーっ!」
 
「……何で僕らも引き合いに出すのっ!」
 
「いやや、わいはあんたじゃなきゃいやや、……嫌なら
虹のしずく作らへんで……!?」
 
「くっ……、こ、この婆……!」
 
「虹のしずくの為だものね……、仕方ないよね……、
おばあちゃんならいいか……」
 
「……アイシャあー!!」
 
「はよう……♡はよう……♡ちゅっ……」
 
……婆さんは唇を突き出し、ジャミルに迫ってくる……。
 
「う……、う、お~ええ~……」
 
「むちゅっ♡ちゅーっ……」
 
「……みんな、ジャミルを押さえろっ!」
 
「ア~ル~う~……!!」
 
「ジャミル、……ごめんっ!!」
 
「おーい、てめーらふざけんなよ……!!」
 
「今ですッ、おばーさんっ!もっと顔近づけて!!」
 
「こうかのう……?」
 
「……もっとっ、もっとですッ!!」
 
「……ぶチュう~う~……♡」
 
 
           …………… ちーん …………
 
 
「ほい出来たで、虹のしずくや、これをリムルダールの
北西にある岬に翳すんや、ゾーマのいる島に渡れる筈やでえ、けど
何故か指輪だけは消えへんで手元に残ったがな、返すわな、ほい」
 
「おばあさん、どうもありがとうだよお!」
 
「いやいや……、やっぱり若い子のエキスはうまかったでえー!」
 
「けど、ジャミル……、大丈夫かな……」
 
「……ジャミル……」
 
ダウドが心配そうに、倒れて痙攣して伸びてしまった
ジャミルを見る。アイシャも申し訳なさそうにジャミルを心配する。
 
「皆……、今日はこの後……、相当機嫌悪くなると思うから
……大変だと思うけど、覚悟しよう……」
 
「お、思い切って……、ステーキでも食べに連れて行けば……」
 
目を覚ませば恐らくジャミルは大噴火するであろう、
非常事態の回避方法をダウドはアルベルトに提案するのだが……。
 
「そんな余裕に使えるお金無いよ……」
 
……あっさり却下され、自然のままに成り行きを見守る事となる……。


後には引けない

虹のしずくを手に入れ、船に戻ったものの……、思ったよりも
事態は深刻であった……。
 
「ジャミル……、怒ってる……?」
 
「……ああーーっ!?」
 
ダウドがおずおずとジャミルの機嫌を確かめるが、
ジャミルはモロ糞ブチ切れ、……ハイパー怒りMAX状態で
ダウドにガンを飛ばした。
 
「ひっ……!いい加減で機嫌なおしてよお~……」
 
「うるせーー!!このデコハゲ糞ゆでダコ!!」
 
「……びえ~っ!アル~っ!!ジャミルがオイラの事
タコってゆったあ~!!」
 
(……まいったなあ……、キレると極端に毒舌が
パワーアップするからなあ……)
 
今回は流石にいい考えが思いつかず、対処方法に悩むアルベルト。
 
「ジャミル……、あの……、その……、ごめんね……?」
 
「……ふんっ!」
 
……アイシャの方を見ず、そっぽを向くジャミル。
 
「……あ?ありゃあ……、アイシャが話し掛けても
こりゃ相当重症だよお……」
 
「アル……、……どうしよう……」
 
オロオロしながら涙目になってアイシャもアルベルトに
助けを求めた。……仕方なしにアルベルトはもう一度、
ジャミルを宥めようと声を掛けてみる。
 
「ねえ、いつまでもそんな……、フグみたいに膨れてないでさあ……」
 
 
……グゥゥゥ~っ……
 
 
「あうっ……」
 
「あはっ、ジャミルったら……!」
 
「お腹空いたんだね……」
 
「ち、違っ……」
 
「甲板で皆でお昼にしよう?私、何か作ってくるね」
 
「あ、僕も手伝うよ……」
 
アルベルトとアイシャが休憩室へと準備をしに下に降りていく。
 
「……」
 
そして……。お昼を持って甲板にアイシャとアルベルトが
再び姿を現す。
 
「はい、ジャミルどうぞ、サンドイッチだよ」
 
「サラダも作ったよ!」
 
「紅茶も淹れたよおー!」
 
「あ、ああ……」
 
「もうすぐ事実上、本当の決戦だからね、しっかり食べて
体力をつけておかないと……」
 
(……なーんか……、上手く丸め込まれた様な気がする……)
 
意地を張るも、食欲には勝てない情けなさで何となく
複雑な気分になったが……、取りあえずジャミルは
サンドイッチを口に入れた。
 
「……美味いな……」
 
「ふふっ、アルと二人で頑張っちゃったもん!ね?」
 
「うん、おかわり沢山あるから……」
 
美味しい手作りサンドイッチですっかりジャミルの機嫌も
収まってしまう。昼食も食べ終え腹ごしらえの済んだ4人は
リムルダール地方へ戻り、いよいよ決戦の場へと……。
 
「……で、どうすんだ?」
 
「どうするの……?」
 
「どうするのかな?」
 
「……3人して僕の方見ないでよ……」
 
「この虹のしずくっつーのを岬に放りなげりゃいいのか……?」
 
「わっ!バカっ!」
 
アルベルトが慌ててジャミルから虹のしずくを引ったくった。
 
「何すんだよ!返せっ!」
 
「落ち着いて行動しないのは君の悪い癖だよっ!」
 
「うるせーなあ!」
 
「ねえ……、虹のしずくが光ってるわ……」
 
「あ、本当だ……」
 
「う……、うわっ……」
 
虹のしずくはそのまま強い光を放ち、輝きは空へと舞う。
 
「見て……!光が虹の橋になったわ……!」
 
「きれいだねえ……」
 
「……雨と太陽が合わさる時……、虹の橋が出来る……、
か、なるほどね……」
 
「この虹の橋渡りゃ、もうゾーマの城は目の前っつー訳だな!」
 
「平気かな……、もし途中で橋が消えたりしたら……」
 
「もう……、ダウドったら……!そう言う縁起でも
無い事をすぐに考えないの!」
 
「だってぇぇぇぇ~……」
 
不安になるとつい、余計な事を考えてしまい、ダウドは
うじうじていたが、ジャミル達3人はもう最終決戦へ
気持ちはやる気満々、闘志満々状態。
 
「いやだなああ~……」
 
「……よし、行くぞお前ら!ゾーマん処へ殴り込みだあーっ!!」
 
「おおーーっ!!」
 
「おー……」
 
約一名、声がやけに消極的な方がいらっしゃいます……。
4人が漸く虹の橋を渡り終えた……、その先に……。
 
「もう少しだな……、この地にゾーマが……」
 
「……あれはっ!」
 
「ひ、ひいいっ!?」
 
「モンスターよっ!」
 
往く手を阻む、……大量の凶悪モンスター達が集結していた……。
 
「……ひいっ!?モ……、モンスターの大群だよお……!」
 
「いっぱいいるわね……」
 
「さすが親玉ん処だな……、簡単には通しちゃくんねえか……」
 
 
『コロセ……、コロセ……、ユウシャタチ……、ブッコロセ……』
 
『コロセ、コロセ……!』
 
『ユウシャドモヲコノサキトオスナ……、コロセコロセコロセ……!!』
 
 
「あううーっ!何か言ってるーっ!!」
 
「ねえ、ジャミル……、私、今日は剣で戦うわ!」
 
「あ?」
 
「ねっ?」
 
そう言ってアイシャはサブリナに貰った誘惑の剣を取り出した。
 
「少しでも……、MP節約しなくっちゃ……」
 
「だけど、大丈夫なのか?」
 
「平気よ……」
 
アイシャはそう言ってジャミルに微笑みかける。
 
「そうだね……、ゾーマとの決戦が控えているんだものね……」
 
アルベルトも草薙の剣を取り出す。
 
「二人とも……、無理するんじゃねーぞ……!」
 
「わー!怖いよ怖いよ、怖いよおおおー!!」
 
「……ダウドは賢者の石で回復担当!余裕あれば攻撃に回る!」
 
「わかったよお……」
 
ジャミルに指示を受けてダウドがしぶしぶ返事をした。
 
『コロスコロスコロスコロス……!ミナコロス……!
ニンゲンミンナテキ……!コロス……!!』
 
『ニンゲンドモ、スベテマッサツ……、ゾーマサマ、ゴメイレイ……』
 
「行くぞ……!!」
 
「了解っ!!」
 
4人は敵の群れに突入する。突撃隊長ジャミルが先頭に立ち、
モンスターを次々斬り捲る。
 
「あらよっと!」
 
「きゃっ!ジャミル素敵!!」
 
「いやーん♡オイラも惚れちゃうー♡」
 
「強くなったね……」
 
「へへっ!」
 
得意げにジャミルが鼻を擦った。
 
「あ、ああ……、みんな!油断しちゃ駄目だよお!」
 
珍しくダウドが皆を注意する。
 
「おっと!」
 
しかしモンスターの大群は次から次へと襲い掛かってくる。
 
(……お願い、サブリナさん……、誘惑の剣よ、私にどうか……、力を貸して……!)
 
アイシャが誘惑の剣に祈りを込め、静かに剣を握りしめた、その途端。
 
『グギャッ!?』
 
『???』
 
「な、なんだあ……?」
 
誘惑の剣が強い光を放ち、モンスター達を包み込む。
……途端にモンスター達の様子がおかしくなった。
 
『ウへへ……』
 
『ウッヘッへッヘ……』
 
「何か……、モンスターの野郎が興奮しだしたぞ……」
 
 
『ゲフゥーーッ……、ヒンニュウ……』
 
 
さて、モンスター共の目には一体何が映って見えたのだろうか……。
 
「えっ……」
 
『……ハダカ……、ハダカ……、スッポンポン……、ゲフウーーン♡』
 
「……きゃー!えっちぃぃーーーっ!!」
 
『グ……、グォフ……』
 
「バカバカバカバカーっ!!キィーーーッ!!いやーーっ!!」
 
『……げふうーーん…♡ぐふっ……』
 
混乱したアイシャが全てモンスターをドスドス刺し終えた……。
 
 
……
 
 
「……ふぇぇぇ……、ひっく、ひっく……」
 
「泣くなよ、アイ……」
 
「……ひく……」
 
「やべえ……!俺もだ……!うわぁーーっ!!」
 
「きゃああーーっ!!」
 
この間の温泉でのジャミルへの大胆な行動は何処へやら……。
やはり皆のいる前では……、すっぽんぽんは嫌らしい……。
 
「こんなとこじゃ嫌ーっ!!駄目ーーっ!!見ちゃ駄目ええーーっ!」
 
「は、早く……!その剣しまってくれーっ!!」
 
「……だから、誘惑の剣……、なのかな……」
 
「うん、惑わすんだよね……」
 
……後ろを向いてアルベルトとダウドがこっそり話す。

その2

助っ人、カンダタ!?

「……やっぱり私……、魔法の方が相性いいみたい……」
 
「だな、ま、この後の為にMPは取っておけよ、この場は
俺達で何とかすっからよ」
 
「大丈夫……?」
 
「……うわ!ま、また来たよおお!」
 
「チッ!今度は空から来やがった……!」
 
「キメラ集団の大群だっ!」
 
「きゃ!向こうからも……、トロル軍団がいっぱい来るわ!」
 
「四方八方から……、大変だな、こりゃ……」
 
「どうあっても僕らを通さない気だな……!?」
 
4人は再びバトル体制に入る。気力を振り絞り、
必死に戦うが、幾ら倒してもモンスター達が消える
気配は一行になく、増え続けるばかり。
 
「……べホマズン……!!」
 
モンスターの数が半端でなく大量の為、賢者の石や
べホマラーでは回復が追い付かなくなり、やむを得ず
ジャミルのべホマズンにも頼らねばならぬ状況にもなってしまう……。
 
「はあ、やっぱこれやると……、結構MPに響くなあ……」
 
「大丈夫かい……?」
 
「ああ、けど、祈りの指輪……、まだ残ってるか……?」
 
「確かあと数個は残ってた筈……、でも、いつ壊れるか
判らない貴重アイテムだから多用は厳しいよ……、
僕の方もこの後に備えてあまり回復魔法は連発出来ないし……」
 
「だよな……」
 
「!今度は動く石像が来たよお!!」
 
「……だーっ!いい加減にしろよ!何匹いやがんだよっ!!」
 
「大ボスの前に、これじゃ僕らが先に力尽きてしまう、
何とかしないと……」
 
「オ、オイラ、もう……、死にそう……」
 
「みんな……、頑張ろう……!」
 
アルベルトが皆を励ますが、やはり常にMPとは睨めっこである。
 
「……やっちゃおっかな……、ギガデ……」
 
「駄目だよっ!そんなに大型魔法に頼っちゃ……!
ルビス様に言われた事忘れたの!?」
 
アルベルトが必死で暴走しようとしたジャミルを止める。
 
「だって、きりねえよ、こいつら!」
 
「何とか……、突破口が掴めれば……」
 
 
……ギャアッ……!!
 
 
「!?な、何だ……?」
 
「……こんな雑魚共に何分掛かってやがんだ、テメーらは……!」
 
「……カンダタ……?」
 
「カンダタさん……!!」
 
4人が一斉に口を開いた。何と……、4人の危機に助っ人に入ってくれたのは
あのカンダタと子分達だったからである……。
 
「どーもー!お久しぶりです、アイシャさーん♡」
 
3人の子分達がアイシャに向かって一斉に口を揃えた。
 
「まあ!子分さん達も……!?」
 
「な、何で……?」
 
「新しいカモを探してたまたまこっちに来たら、弱っちい馬鹿共が
モンスターと戦ってるのが見えたもんでよ、ちょっと力を貸して
やるかと珍しく思ったワケよ」
 
「……馬鹿に馬鹿って言われたくねえよ……!この赤いきつねと
緑のたぬき豚!!」
 
「なんだとう!?この糞馬鹿アホ野郎ドアホ!!」
 
「……親分ーっ!喧嘩してる場合じゃねーっすよ!」
 
「ジャミルもよ!」
 
「……ふんっ!」
 
「う……、く、くそっ……!また……!」
 
「……アルっ!?」
 
ジャミルとカンダタが言い争いをしている間にも、又別の
モンスターがどんどん現われる。
 
「ハア……、さすがにこれ以上……、オイラ無理だよお……」
 
皆を励まし続けたアルベルトもさすがに息が上がってきたらしい。
回復の間に攻撃にチョロチョロ入ってくれているダウドも疲れが……。
 
「……チッ……!クソモンスターめ!!」
 
「おい、待て!」
 
「あ……?な、何だよ……!?」
 
カンダタがモンスターの群れに突っ込もうとしたジャミルを止めた。
 
「ここは俺達に任せとけ、テメーらはこのままゾーマの城まで突っ走れ」
 
「はあ!?何言ってんだよ!!」
 
「うるせえ!グダグダ言うな!!」
 
「俺達が囮になるッスー、その間にジャミルさん達は
ゾーマの城まで行って下せえ」
 
「無理よっ……!!」
 
「あー、走んなくても大丈夫か……」
 
「……無茶言ってんじゃねーよ!てめーらだけで
持ち堪えられるわきゃねーだろ!!」
 
しかし、カンダタ達はジャミル達の言葉を無視。
更にある無茶な行動へと移る。
 
「おい、お前ら手伝え、こいつら全員を持ち上げて
ゾーマの城までブン投げるぞ」
 
「へえーい!」
 
「へーい!」
 
「へへーい!」
 
「へ……?」
 
「……うわーっ!何すんのさあ!!」
 
「きゃーっ!きゃー!?」
 
「ちょ、ちょっと……!カンダタ!?」
 
「よーいしょ、よいしょ、」
 
「よっこらしょ」
 
「しょっと!」
 
カンダタと子分達はジャミル達4人の身体をひょいと
持ち上げ、何処かへと運ぼうとする……。
 
「よし、ここらでいいか、方角よーし、……目標まで距離よーし!」
 
「……どう言うつもりだよ、カンダタ!!」
 
「うるせー黙れ!テメーらに借り作ったまんまじゃ
こっちも気がわりィんだっ!!」
 
「カンダタ……」
 
「カンダタさん……」
 
「……死ぬんじゃねえぞ、クソガキ……、いいか、
てめえを泣かすのはこの、世界一の大盗賊カンダタ様よ……、
よーく覚えとけ……」
 
「うるせーよ緑パンツ」
 
「……こ、この……、馬鹿ガキ……!!」
 
「親分ーっ、早くしねーと…!」
 
「チッ……、よーし、クソガキ共ー!さっさと向こうへ飛んで
いきやがれーーえええ!!」
 
「よーいしょ!」
 
「こーらしょ!」
 
「ほいっと!」
 
 
「……うわああああああああーーーっ!!」
 
 
カンダタ達に投げ飛ばされた4人は宙を飛び……、
見事にゾーマの城内部へと落下していった……。
 
 
ゾーマの城
 
 
「……いってええー……」
 
「う……」
 
「みんな……、大丈夫かい……?」
 
「あうー……、大丈夫だけど…」
 
「いたた…まさか……、本当に飛ばしてくれるなんてね……」
 
「ちょっと空飛んだねえ……」
 
「うー……、とんでもねえ事すんなあ……、あのデブ……」
 
「カンダタさん……、子分さん……」
 
「……行こう、アイシャ、ジャミル、ダウド……、僕達は
やらなきゃいけないんだ、前に進もう、危険を覚悟で
僕らに道を作ってくれたカンダタ達の為にも……」
 
「……とっととゾーマ倒してさあ、もう帰ろうよお!」
 
「まあ、あいつらなら大丈夫さ……、きっと……」
 
「うん、そうね……」
 
「んじゃ……、いっちょ行きますか、最後の戦いへ……!!」
 
アルベルト達もジャミルの言葉に強く頷いた。

その3

勝利をこの手に……!編

ラストダンジョンへ……

「……つ、ついに来る処まで来ちゃったんだね……」
 
辺りを見回しながらダウドがぶるっと身震いする。
 
「に、しても静かだな……」
 
「でも、なんだか……、モンスターの気配が全然しないよお……」
 
「本当に平気かしら……、カンダタさん達……」
 
「早くゾーマ倒しちまわねーとな……」
 
「あっ、ねーねー!」
 
ダウドが何か見つけたらしくジャミル達に手招きする。
 
「どうしたい」
 
「玉座……」
 
見ると側には空っぽの玉座がぽつんと置いてあった。
 
「ゾーマの奴……、逃げたんじゃあるまいな……」
 
「まさか……」
 
「……な、ワケねえよな……、ダウドじゃねえんだから……」
 
ダウドの顔を見つつ、ジャミルが苦笑する。
 
「なんだよおー!」
 
「でも……、もしかしたら、ありえない話でもないよ……、
あの大量のモンスターはゾーマを逃がす為の時間稼ぎだった
可能性も無くはないよ……」
 
アルベルトが困った様に頭を掻いた。
 
「……えーい!こんにゃろ、くそっ!」
 
ジャミルが腹正しげに玉座を蹴とばす。……すると、アイシャが
何かを見つけたらしく、直ぐに反応する。
 
「ジャミル……、この下に何かあるわ……」
 
「え?」
 
「階段だ……」
 
「ほんとだあ!」
 
どうやら玉座の下に隠し通路があったらしい。
 
「わー!俺ってスゲー!」
 
「……じゃあ……、この先にゾーマがいるんだね……」
 
「よし、行くか!」
 
4人は薄暗い地下室へと降りて行き、いよいよゾーマの元へと進む。
 
「♪ふっふふう~ん」
 
「ダウド、今日は何だかご機嫌だねえ……」
 
「だって、もうすぐ怖ーい大魔王退治から解放されると思うと、
オイラもう嬉しくて!」
 
「あ、モンスター……」
 
「ひいいいっ!?」
 
「……うっそだよー!」
 
「ひどいよお……、ジャミルう……!」
 
「バーカ!オメーがもうちょっとしっかり真面目に戦ってくんねえと……、
全員途中でお陀仏だかんな!?」
 
「……君もだよ、ジャミル!」
 
ダウドに説教するジャミルだが、しかしすぐに逆にアルベルトに注意される。
 
「何で俺もなんだよ!」
 
「そそっかしいし、すぐ調子に乗るから、ジャミルは……」
 
「……ぶうーっ……」
 
「もう少しだから皆で頑張ろうね!」
 
「ああ……、そうだな!」
 
アイシャの言葉に男衆3人が頷く。
 
暫く通路を進んでいくと何処かで見た様な光景に出くわす。
 
「これって……」
 
「回転する床……、だよね……」
 
「何でここにもあんのおー!」
 
……ルビスの塔の倍の広さの床がジャミル達の行く手を拒んでいる。
 
「周囲はでけえ穴だらけだし、こりゃ前みたいに滑って遊ぶ
余裕なんか無さそうだ……」
 
「……元々遊ぶとこじゃないってば……」
 
「俺が先に行く!皆、後から付いてこいよ」
 
ジャミルが率先して先頭に立ち、床の上に乗った。
 
「オイラ達、後ろにいるんだからおならしないでよ、ジャミル!」
 
「何だよ!!」
 
不安そうに他のメンバーもジャミルの後に続き、床に乗った。
……そして、回転する床で苦戦し、行き詰る事、数時間経過する……。
 
「や、やっと……」
 
「渡れたわね……」
 
「……はあ、何回穴に落ちたんだろうか……」
 
「……もーやだっ!!オイラ帰るうううう!!」
 
そして、炸裂する、怒りダウドの愚痴、文句、……叫び。
 
「帰れば……?また回転する床通って……、はい、お客さん
お帰りはあちらー!!」
 
「あっ、うそうそ……!怒んないでえー!ジャーミールーう!!」
 
ごろにゃん状態でダウドがジャミルに抱き着く。
 
「……!?」
 
「アイシャ、どうかしたか?」
 
「……何かが足を引っ張るの……!きゃっ!?」
 
地中から手だけのモンスター、マドハンドが飛び出し
アイシャの足を掴んでいる。
 
「うわっ……!手が……、手が……、いっぱいだああ!ひいいいっっ!」
 
「だからっ、ビビるなっての、ダウドっ!」
 
ジャミルが素早くマドハンドを叩き切りアイシャを解放した。
 
「……いくよ、イオナズン……!!」
 
アルベルトが魔法を当てマドハンドを一掃する。
仲間を呼ぶ暇も与えず、爆発に巻き込まれ、マドハンドは
跡形もなく消滅してしまった。
 
「すげえな、綺麗に消えたな……」
 
「早く片付けないと……、仲間を呼ぶからね……」
 
「アイシャ、大丈夫か?」
 
「うん、平気よ、ジャミルもアルもありがとうね!」
 
「……良かった……」
 
「はーい!オイラ回復してあげまーす!賢者の石ー!」
 
「あ、ありがとう、ダウド……」
 
「♪えへへっ!」
 
「……俺ら怪我してねえっちゅーに……」
 
ジャミルが口を尖らせる。
 
「ま、まあ……、そう言わずに……」
 
「わーい!オイラも役に立ったあー!」
 
ぴょんぴょん喜んで飛び跳ねるダウド。みんなの役に
立てる事が本当に、何より嬉しいのである。
 
「……ハア……、ま、いいか……」
 
「じゃあ、先に進もうか……」
 
「……おい……、貴様ら……!!」
 
「ひっ!?」
 
「何だこの声?」
 
何処からか……、野太い音声のスローな濁声が響き渡る。
 
「誰!?誰の声だよお……!?」
 
見ると……、先へ続く扉の前に巨大な石像が2匹仁王立ちしている。
 
「……カタカナで喋らねーのな……」
 
「我ら大魔神!ゾーマ様をお守りする城の門番!!」
 
「……動く石像と違うのか……、そういや、身体の色が動く石像と
大分違うな……、改悪版か……」
 
「……貴様ら……、さっきはよくも……!」
 
「はい……?」
 
「僕達……、何かしたっけ……」
 
4人は一体何の事か分からず、顔を見合わせる……。
 
「……ふざけるな!貴様らは我らの頭の上に降って来たではないか!!」
 
「空から奇襲を掛け我らを気絶させて城に侵入するとはいい度胸だ……!!」
 
「ちょ、ちょっと待てよ……!」
 
「私達……、今、初めて……」
 
「問答無用!!」
 
「……わかった」
 
状況を理解するのが早いアルベルトがポンと手を打った。
 
カンダタに投げ飛ばされた4人→そのまま大魔神の頭の上に
落ちる→大魔神気絶した→4人共気付かない、そのまんま中へ
侵入→→おわり。
 
「……俺達って石頭なんだな……」
 
「あはは、すごいねえ!」
 
「笑い事じゃないわよ……」
 
「すっきりしたから先へ進もう」
 
「けど、あんたらも凄いね……、わざわざ此処まで先回りして
追い掛けて来たんか……?それはそれで……、まあいいや……、んじゃ」
 
「……マドハンドが此処まで召喚し、呼び寄せたのだ……」
 
マドハンドはアルベルトに消滅させられる前に、既に大魔神達を
この場所にちゃっかり召喚して配置しておいたのである。
 
「あ、さっきの……、なるほどね、わかった、んじゃね」
 
「待てぇいっ!」
 
「やっぱり……、駄目……?」
 
「貴様ら……、このままでは済まさんぞ…!」
 
「……はあ……、忙しいのに……、やれやれ……」
 
「MP節約しなくちゃだから短時間で決着をつけないと……」
 
「ダウド、回復任せたぜ!」
 
「うん!」
 
「アイシャは無理をしない事、分ったな?」
 
「大丈夫よ!」
 
「いくよ、ジャミル、……バイキルト!」
 
「うりゃっ!!」
 
攻撃力がアップしたジャミルはあっという間に一匹目の
大魔神の胴体を切り落とす。胴体を切り落とされた大魔神は
ただの石像に戻ってしまった。
 
「ウーン……、カ・イ・カ・ン!」
 
「……ジャミルってば、詰まってたウンコがやっと
出た人みたいだよお……」
 
「アル……、スリッパ貸してくれる……?」
 
「う、うん?」
 
「……ダウドの頭叩くから……」
 
「わー!冗談だよお!アイシャ怖いっ!!目がマジだよおお…!!」
 
「……おのれ……、小僧がっ!小生意気な……!!」
 
もう一体の大魔神がジャミルを睨み、憎々しげに歯噛みする。
 
「ま、この程度なら俺一人でも何とかなるか……」


……嗚呼、オルテガ

……ドスッ!ドス!!ドスッ!!ドスッ……!!
 
「……うわっと!」
 
「きゃあっ!やだっ!」
 
「やめてよお!倒れちゃうじゃないかあ!」
 
「……!!」
 
……怒った大魔神が地団駄を踏み、ドスドス暴れ、
グラグラ地面が揺れる。
 
「……暴れりゃいいってモンじゃねーぞ、たく……、
エアロビなら余所でやれ!余所で!迷惑なんだよっ!虚像デブ!」
 
……他の場所でやられても迷惑だとは思うが。
 
「うるさい!貴様など踏みつぶしてやるぞ小僧!!」
 
「……臭ぇ足向けんなーっ!!」
 
「うおおっ!?」
 
速攻で大魔神の足を斬り落とすジャミル。
 
「いいぞジャミルっ!」
 
「すごいよおー!ジャミル!」
 
後ろでアルベルト達が声援を送る。
 
「雑魚めがーーっ!」
 
下半身を失いながらも大魔神がジャミルを攻撃しようと
残った拳で鉄拳を繰り出す。
 
「うぜーんだっつーの!!」
 
「おおおおおおっ!?」
 
そして2体目の胴体もあっさりと斬り倒し、地響きを立て
石像に戻った大魔神も床に崩れ落ちた。
 
「キャー!やったあーっ!」
 
アイシャもぴょんぴょん跳ねて喜ぶ。
 
「う……」
 
「ジャミル……!?」
 
しかし……、突然ジャミルが腹を押さえてしゃがみ込んだ。
 
「どうしたの!?どこか怪我したの……!?」
 
心配してアイシャがジャミルに駆け寄る。
 
「……ダ、ダウド!賢者の石、石!」
 
「あわわわわ!」
 
「エネルギー切れ……」
 
「は?」
 
「腹減っちまってさ……」
 
「……はあ~……、良かった……」
 
アイシャは安心してほっとする。
 
「こんな事もあると困るから……、はい、お昼の
サンドイッチの残りよ、余分に持ってきておいて
良かったわ……」
 
アイシャが紙に包んだサンドイッチをバッグから出し、
ジャミルに渡す。
 
「わ、悪ィ……」
 
そう言ってジャミルはサンドイッチに夢中で被りついた。
 
「ん~っ!うま~っ!!」
 
「慌てて食べちゃ駄目よ……、飲み物はないんだから……」
 
「けど……、よくこんな場所で食べる気になるよね……」
 
「時間と場所を選ばない人だから……」
 
……と、言いつつも、やはりジャミルはアホではないと
パッとしないと思うダウドとアルベルトの二人なのだった。
 
「ふー……、あー!やっと落ち着いた!」
 
そう言いながらジャミルは鎧の上から丸くなったお腹を擦る。
 
「大丈夫?お腹いっぱいになった?」
 
「欲を言うと……、甘いモンが……」
 
「……ゴホン!」
 
アルベルトが横目でジャミルを見つつ、咳払いした。
 
「いや……、何でもねえ……」
 
魔法の鍵の扉を開け、4人は更に奥へと踏み込んで行く。
 
「うーん、先へ進めば進むほど……、雰囲気がどんどん
怖くなるねえ……、嫌な感じ……」
 
「ちくしょー、帰ったら死ぬほどデザート食いまくってやる……!」
 
「みんな、最後まで気を抜かない様にしよう……!」
 
「ええ……、私も何だか不安になってきちゃったけど……、
頑張るわ!」
 
「ミルフィーユと……、ラズベリータルト食って、定番の苺ショートは
絶対はずせないっしょ、後はと、やっぱモンブラン……」
 
「……」
 
 
         パンッ!!
 
 
「そろそろスリッパも取り替えないと……、外観ボロボロだ……」
 
「……じゃあ叩くなよ……!!」
 
頭を押さえてジャミルが怒鳴った。光の鎧を着けて
いようがいまいが……、中身はいつものジャミルで、
結局は頭を叩かれる羽目になるのである……。
 
「じゃあ……、頭叩かれない様に……、いい加減に
精進してね……♡」
 
顔は笑ったままで血管を浮かせアルベルトがジャミルに迫る。
 
「すいませんねえ……」
 
……と言いつつも心の中でアルベルトに舌を出す
ジャミルであった……。
 
「あ……、あれ……!」
 
「何だ?アイシャ、どうかしたのか?」
 
「あそこ……、誰かモンスターと戦ってるの…!」
 
「んー?どこだ……?」
 
見ると、橋の中央で巨大なモンスターと見知らぬ男が乱戦していた。
 
「や……、やまたのオロチぃ……!?」
 
「いや……、多分違うと思う……」
 
「色が紫だしな……」
 
男の方はかなり筋肉が付いており、屈強な戦士らしかった。
しかし、その体は血と傷だらけでボロボロだった……。
 
「くっ……」
 
男が苦しそうに声を呻き声を上げる……。
 
「戦おう!僕らも加勢しなくっちゃ!!」
 
「よしっ!」
 
4人が男を救出しようと走り出そうとした、その時……。
 
 
「……ぐあああああああーーーッ!!」
 
 
間に合わず男はモンスターが吐いた炎にあっと言う間に焼かれてしまい、
身体はみるみる黒焦げになりその場に倒れる……。
 
「……そんな!」
 
無残な光景にアイシャは言葉が出ず、思わず目を伏せる……。
 
「くそっ……!、皆、おっさんを頼……、あ、あら……?」
 
「ギャース!ギャース!」
 
オロチ似のモンスターは八つの頭を振り回し、宙を飛び
逃げて行こうとする。
 
「……テメー逃げんのかバカヤロー!!」
 
「ギャース!」
 
「相手してやるっつってんのがわかんねーのか、アホンダラ!!」
 
負けじと王者の剣を振り回してジャミルが暴れ、
モンスターを追掛けようとするが……。
 
「ジャミル、駄目だよっ!一人で突っ走っちゃ……!堪えて……!」
 
アルベルトがジャミルを押さえて制止する。
 
「……畜生……」
 
ジャミルが悔しげにぐっと唇を噛みしめる……。
 
「そうだ……、おっさんは……?」
 
「……」
 
アルベルトはジャミルの顔を見て黙って首を
横に振るのだった……。
 
「……はあ、……はあ……、ううう……」
 
「回復魔法がもう……、効かなくて……」
 
「賢者の石も……、もう駄目みたい……」
 
ダウドも悲しそうに力なく肩を落とす……。
 
「おっさん、大丈夫か……!?しっかりしろよ……」
 
「そこに……誰かいるのか……?私はもう……、
目が見えないのだ……」
 
「……しっかりして……!死んじゃ駄目よ……!!」
 
アイシャも男の手を取り、必死で励ますが、男の体温は
どんどん下がり、身体は徐々に冷たくなっていった。
 
「……私の名は……、オルテガ……、アリアハンより……、
大魔王討伐の旅に出た者だ……」
 
「!!」
 
「……もし……、そなた達が……、アリアハンに寄る事が
あったなら……伝えてほしい……」
 
「……」
 
「……私には……、血の繋がらない息子と娘がいるのだ……、
ファラ……、ジャミル……、ああ、ジャミル……、ジャミルは
大きくなっただろうか……」
 
「お、おっさん……」
 
「ジャミルの方は……、本当に不思議な子だった……、
子供のいなかった私の目の前にある日突然現れたのだ……」
 
「突然て……、アンタ……」
 
アルベルトがジャミルを見た。
 
「出会った時の第一声が……、腹減った、何かくれ……、
だった、本当に変った不思議な子だった……」
 
「……腹減ったって……、アンタ……」
 
またアルベルトがジャミルを見た。
 
「真面目なんだかふざけてんだか……、わかんないよお……」
 
「これも神の思し召しと思い、二人の子を実の我が子の様に
大切に育てて来たのだ、……本当に楽しい日々だった……」
 
「ジャミルが……?神の子……、プッ……」
 
「……」
 
……横目でアルベルトを睨むジャミル。
 
「……オホン!ご、ごめん……」
 
「ファラの方は……、時には母親代わり、又……、姉としてよく
ジャミルの面倒を見てくれた……、ふふふ、かなり気は強い子
だったが……、う、ううっ……!!」
 
再びオルテガが苦しみだした。4人は急いでオルテガの状態を確認する。
 
「オルテガさん……!!駄目……、駄目よ……、目をあけて……」
 
アイシャがオルテガの手を握り、必死で名を呼び続け、
励まし声を掛ける。
 
「……息子に……、ジャミルに……、伝えてほしい……、世界を
平和に出来なかった父を……どうか……、許してくれ……、そして……、
ありが……とう、……と……」
 
そして……、オルテガは静かに息を引き取った……。
 
「……」
 
アルベルトがそっとオルテガの手を取ると胸の前で組ませた。
 
「……酷いよ……、こんなの……」
 
アイシャは只管嗚咽し泣き続ける……。

その4

4人の絆、誓い

「……」
 
それまで黙っていたジャミルが急に立ち上がった。
 
「……ジャミル?」
 
「行こうぜ皆……、ゾーマの所へ……」
 
「ジャミル……」
 
アイシャがジャミルを切なそうな表情でじっと見つめた。
 
「……何かよくわかんねーけど……、すっげーイライラする……、
とことん暴れてやんねーと気が済まねえんだ……」
 
そう言ったジャミルの瞳は怒りで燃えていた……。王者の剣を
持つ手も震えている。
 
(……ジャミルが……、本当に……、本気モードになってる……)
 
(うわあ……、ジャミルかっこいいよお……)
 
「……あの八頭クソ化けモンも……、ゾーマもっ……!
絶対許さねえぞっ!!」
 
「あ!ジャミルっ!」
 
「……だああああっ!」
 
一目散にジャミルが走り出した。
 
「待ってってば!ジャミ……」
 
 
            ゴンッ!!
 
「ル……」
 
「……いっつ~……」
 
勢い余ってすっ転び転倒して地面に額をぶつけた
ジャミルが倒れて延びていた……。
 
 
「……大丈夫……?」
 
アイシャがジャミルのおでこにバッテン傷テープを
貼ってやるが、……コブが突き出て間抜けな餅状態に……。
 
「本当にシリアスが似合わない人だねえ……、君って……」
 
「うるさい……」
 
「アホ……」
 
「だから!ダウドに言われたくねーってば!!」
 
「もう少しで……、本当にゾーマの所にたどり着くのね……」
 
「ああ……、多分この先だ……、もう嫌な気配がビンビンすらあ……」
 
額のコブを摩りながらジャミルが呟く。
 
「……ジャミル……、私達4人はいつも一緒よ……」
 
アイシャがジャミルの手を握りしめた。
 
「アイシャ……」
 
「ジャミルは独りじゃないんだから……、ねっ……?」
 
アルベルトもダウドも揃って頷いた。
 
「戦いましょう、最後まで……」
 
「ああ、そうだな……」
 
ジャミル達4人は手と手を重ね合わせた。
 
「何が何でも絶対ゾーマを倒すぞっ!そんで4人で帰るんだっ!!」
 
「おーーっ!!」
 
(でも……、やっぱりオイラは怖いなあ……、なーんて言ったら
叩かれるでしょうか……、とほほ……)
 
「……行くぞっ!」
 
ジャミルが気合を入れて先頭に立ち、その先の階段を降りて行く。
そして……、部屋の奥に祭壇の有る最後の戦いの場所へと……。
 
「……あ、あんな遠くに祭壇があるよお……」
 
薄暗い部屋の中、物音ひとつせず、不気味なほどシーンと
静まり返っていたがそれをぶち壊す怒りのジャミルの罵声が
部屋中に響き渡る。
 
「……ゾーマっ!いるんだろ!?出て来いよ!!」
 
しかし返事は帰ってこない……。
 
「出て来いっつーんだよ!このウンコ野郎!!」
 
そして、次の瞬間……。
 
 
    ……我が生贄の祭壇へ……、よくぞ来た……、愚かな勇者達よ……
 
 
「……きゃー!キタキター!ラスボスキター!!きゃわー!!」
 
逃げようとするダウドの襟首をアルベルトがしっかり捕まえる。
 
 
……我こそはすべてを滅ぼす者……、すべての命を我が生贄とし
絶望で世界を覆い尽くしてやろう……
 
   
「何言ってるのよ!私達はあなたになんか絶対に
負けたりしないんだから……!!」
 
「そうさ、光は必ず闇に打ち勝つ……!明けない夜は
ないんだっ!!」
 
(……蕁麻疹が出てきた……、やべえ……)
 
「そーだ、そーだっ!」
 
……と、言いつつもしっかりジャミルの後ろに
隠れているダウド。しかしゾーマは声のみで姿を現す
気配がない。
 
「???どっかにテープレコーダーでも隠してあるんじゃねえのか?」
 
「何してるの!ジャミル!!」
 
「……」
 
 
……屑共が……減らず口が叩けるのも今の内だ…… 
……ジャミルよ……我が生贄となれ……!!出でよ
我が下部達よ……!!
……こやつらを滅ぼしその苦しみを我に捧げよ……!!
 
 
「……死ね、勇者共……、これ以上……、先には進めさせんぞ……」
 
 
……第一の刺客……バラモスブロスだ……精々足掻いて死ぬが良い……
 
 
「バラモス……、まさか……、復活したってのか……!?」
 
「色違いモンスターだ、だからバラモスとは違うよ……、ブロスだし……」
 
「あああ……、わわわわわ……!!」
 
「今更うろたえんじゃねえっ、ダウド!!」
 
「だってええ~……、ううううう~……」
 
「……ダウド、しっかり回復頼むよ……」
 
「アル……、わかったよお……」
 
「大体、カバの攻撃パターンなんか、前戦ってっから
判ってんだよっ!」
 
呪文を唱えさせない様、速攻でジャミルがバラモスブロスに
斬り掛り、王者の剣での攻撃でバラモスブロスに大ダメージを与える。
 
「……ぬうわっ!!」
 
「ッシャっ!」
 
ジャミルがガッツポーズで拳を握りしめる。しかし、
バラモスブロスも負けてはおらず、激しい炎を4人に
向かって吐いてくる。
 
「死ねっ……!!」
 
「……アルーっ!!」
 
「フバーバっ!!」
 
アルベルトが防御魔法を張るが……、バラモスブロスの破壊力は
半端ではなく光の鎧を着けているジャミル以外のメンバーに強烈な
ダメージを与えた……。
 
「みんなっ!大丈夫か!?」
 
「平気よ……」
 
歯を食いしばってアイシャが立ち上がった。
 
「……何とか……、僕の方も……」
 
「痛っ……、す、すぐ回復するからね!」
 
しかしバラモスブロスは立て続けに今度はイオナズンを唱え、
ダウドに回復させる隙を与えず4人を爆発に巻きこもうとする。
 
「……わっ!早いよお!これじゃ賢者の石でも間に合わない……!!」
 
途端にジャミルの勇者の盾が輝き始めた……。
 
「……みんな……、下がってろ……」
 
「えっ……、ジャミルっ!!」
 
ジャミルがとっさに勇者の盾を翳すと……、一瞬で
バラモスブロスの攻撃魔法を打ち消す。
 
「……凄い……」
 
「ふう……」
 
「もっと最初っから使ってよお!」
 
「……忘れてたんだから仕方ねーじゃん……、てか、
人に助けて貰っといて文句言うな!!」
 
「ジャミルもダウドも喧嘩してる場合じゃないでしょ!」
 
又喧嘩をおっぱじめそうになるアホ二人にアイシャが怒る。
 
「っと、やべえ!早くケリつけちまねーと!」
 
諦めの悪いバラモスブロスは尚もしつこく魔法を繰り出そうとする。
 
「……仕方ねえ……、一発食らいな……、ギガデインっ……!!」
 
ジャミルの放った電撃魔法がバラモスブロスの体を貫き……、
バラモスブロスは雄叫びをあげ絶命する……。
 
「あう~……、やっぱMPの減り半端じゃねえぞこれ……、
だからあんまり使いたくなかっ……」
 
「……ジャミルっ!」
 
ふらっと倒れそうになったジャミルをアルベルトが支える。
 
「わりい……、俺、貧血ってなった事ねえんだけど……、
こんな感じなんか……?」
 
「祈りの指輪だよ、すぐこれはめて……」
 
わずかに残っていた祈りの指輪も……、すでに残りが
1個だけになってしまっていた。
 
「アル、サンキュー……」
 
ジャミルのMPも半分回復した処で最後の祈りの指輪が
崩れて壊れた。
 
「でもこれで……、俺の方……、もうあんまり魔法が
使えなくなっちまった……」
 
「大丈夫だよ、魔法の方は僕らがいる……、心配しないで……」
 
「任せて!まだまだMPは沢山あるんだから!」
 
「……悪ぃな……、アル、アイシャ……」
 
「オイラもいるよお!回復はお任せー!」
 
「皆……、ありがとな……」


バトル、バラモスゾンビ

……第一の刺客は何とか倒す事が出来たのであったが……。
 
 
……小生意気な……、では、こいつはどうだ……?お前達にとても
会いたがっていた者だぞ……?感動の対面を果たすが良い……
 
「ううっ!?」
 
「ああっ……」
 
「……グ……グ……、グゥゥゥゥ……」
 
 
……さあ、バラモス……、思う存分勇者達に復讐するが良いぞ……
 
 
「こっちはまさか……、俺達が倒した方のバラモスなのか……?」
 
 
……そうだ……怨念モンスターとして我が地獄の淵より
蘇らせた……お前達を殺させる為に……
 
 
「怖いよおお……、ううう……、バラモスづくしなんて……」
 
ジャミル達の目の前に現れたのは骨だけになり怨念ゾンビと化した
バラモスの姿だった……。
 
「しかし…まあ、随分スリムになったね、お宅……、
ラ〇ザッ〇でもやってんの?」
 
「……グゥゥゥゥゥっ!!」
 
「ひゃっ!?マジやべえ……!冗談通じねえし……!!」
 
「ヴ……、グゥゥゥ……、コゾウ……キサマダケハ……ユル……、サヌ……」
 
バラモスゾンビは怒りの目を向け、ジャミルを本気で殺しに
掛ろうとしている……。
 
「ありゃ、憎まれてんね、俺……、ま、仕方ねーけど……」
 
「シ……ネ……!」
 
「……来いよ!いつでも相手してやらあ!!」
 
「ゴアッ!!」
 
「……おっと!危ねえっ!」
 
ジャミルはさっと避けるが、バラモスゾンビは鋭い爪を
繰り出し連続攻撃してくる。
 
「コロス……!コロシテクレル……!!オマエタチモ
ムクロニシテクレル……!!」
 
「肉弾戦オンリー馬鹿みたいだな……、なら、こいつは
攻撃魔法の心配はねえか……」
 
「……こんな処で立ち止まっていられないのよ……!
えいっ、ドラゴラム……!!」
 
そう言うとアイシャはドラゴンへと姿を変えバラモスの頭上に
飛び炎のブレスを放つ。アイシャの放ったブレスがバラモス
ゾンビを包み込む。
 
「いいぞアイシャ!火葬場だ!成仏させてやってくれ!!」
 
「だから……、それ夫婦喧嘩でやられたら大変だよお……?」
 
「何だ?ダウド……」
 
「何でもないですよお……」
 
「そろそろ纏めに入るか……、頼むぜ、アル……」
 
アルベルトがこくんと頷きジャミルへ補助魔法の詠唱を始める。
 
「バイキルト……!!」
 
「今度こそ消えな、バラモスっ!!」
 
「……キエルノハ……キサマダ……」
 
炎に包まれたままバラモスがジャミルをぐっと睨む……。
 
「負け惜しみ言ってんな!カバっ!!」
 
「……シネエーーーーッ!!コノカラダゴト……キサマモ
ヤキコロシテクレルワーーーッ!!」
 
最後の力を振り絞りバラモスゾンビがジャミル目掛け突進してくる。
 
「うるせーー!こんの……、くそばかーーっ!!」
 
ジャミルの会心の一撃が決まり、あっと言う間に骨だけの
バラモスゾンビの体を切り刻んだ。
 
「……マタシテモ……コンナ……コゾウニ……クツジョク……、
ガハッ……!!」
 
……哀れバラモスは二度目の敗北を味わい、骨は床へと
バラバラに崩れ落ちた……。
 
「ジャミルっ!」
 
ドラゴン変身を解除し元の姿に戻ったアイシャがジャミルに飛びつく。
 
「……今度こそ……、フィラと皆の仇……、討てたんだよな……?」
 
「うんっ、うんっ……!」
 
涙交じりに震え声でアイシャがジャミルに返事を返した。
 
「……も~……、真面目になっちゃ駄目だよお、ジャミルってばあ~……」
 
「うるっせえ!バカダウド!」
 
「ふふっ、さあ先へ進もう!真の敵が待つ、この先へ……!!」
 
「ああ!!」
 
 
         ……ギャース!!
 
 
しかしもう一匹……、オルテガを殺した8つ頭のモンスター、
キングヒドラがのしのしと暗闇から4人の前に姿を現す……。
 
「あ……」
 
「忘れてたけど……、こいつもまだいたんだな……」
 
 
……ギャース!!ギャース!!ギャーギャーギャー!!ギャース!!
ギャーギャーーーーー!!
 
 
「……だあーっ!!八つの頭で同時に鳴くんじゃねーーっ!!やかましいわーーっ!!」
 
「くっ……、もう少しなのに……!」
 
アルベルトがぐっと唇を噛んだ。……ゾーマの元まであと
もう少しという時に又も4人は邪魔をされ、妨害を受けたのだった。
 
 
……ギャーーース!!ギャーース!!ギャーーー!!
 
 
「……やまたのおろちの類似品だか何だか知らねえが、
邪魔する奴はヌッコロス……!!」
 
しかし、王者の剣を構えようとしたジャミルをアルベルトが止めた。
 
「ジャミル……」
 
「な、何だよ、アル……」
 
「ここは僕らに任せて……、ジャミルは先にゾーマの所まで行くんだ……」
 
「は、はあ……!?何言ってんだよ!お前らだけに
こんなの任せられるか!それにこいつは……、オルテガの
おっさんを殺したんだぞ……!?……俺だって……、
おっさんの……、親父の仇……、討ってやりてえよ……!!」
 
ジャミルがぐっと拳を震わせてキングヒドラを睨んだ。
 
「でも……、君のお父さんの最後の言葉は何だった?
……思い出してごらんよ……」
 
「……アル……」
 
「もしも此処で今皆倒れたら……、もう終わりなんだよ……」
 
「……」
 
「私達なら平気よ、ねっ?アル、ダウド!」
 
「う、うん……」
 
気弱げにダウドが返事をするが、本当は平気じゃ
ないよおお~……、と思っているがよもやこう返事を
返させずにはいられない状況になっていた。
 
「いや……、アイシャはジャミルに付いていてあげてよ……、
じゃ、ないと……、ジャミルは多分、無茶するだろうし……」
 
「えっ……!」
 
「……んだよっ!?」
 
「んじゃあ……、アルとオイラ二人だけかい……?
はー、しょーがないなあ……」
 
「……やっぱり無理だ……!出来ねえよ……」
 
「アイシャも言ってたでしょ……?こんな処で立ち止まってる
訳にいかないって……」
 
「でも……、アル……」
 
「僕らなら大丈夫、必ず後から行くよ!」
 
「……」
 
「ね、僕らを信じて、ジャミル……」
 
「分った……」
 
ジャミルは暫く唸っていたが、やがて頷き、アルベルト達を見た。
 
「その代り……、何が何でもぜーったいこっち来いよ!?
勝たなかったらお前ら二人纏めてヌッ殺すかんな!?」
 
「……はい、はい……」
 
「んーと……、それじゃ、これお守り……、回復にアイシャが
持ってた方がいいよお……」
 
ダウドが賢者の石をアイシャに手渡す。
 
「ありがとう、ダウド!」
 
「……よしっ!行くぞ、アイシャ!!」
 
「うんっ、ジャミル!!」
 
ジャミルはアイシャの手を掴むとキングヒドラの横を通り抜け
ゾーマの居る祭壇目指してダッシュで走り出した。
 
「……一体……、ン十年前の青春映画でしょうかねえ……」
 
「あはは……」
 
 
ギャ?ギャ、ギャギャー!ギャース!ギャーッ!!
 
 
慌てて二人を追おうとするキングヒドラだが、アルベルトが
率先して前に立ちはだかり阻止する。
 
「……おっと、お前の相手は僕達だっ!」
 
「僕達かあ……、嫌だなあ……、もう、とほほ~のほ~……、
もうおかずのピーマンもゴーヤーもカイワレも残さないから許して~……」
 
 
「……ちくしょう……」
 
アルベルトとダウド、二人から大分距離が離れてしまった処で
ジャミルが立ち止まり足を止めた。
 
「……バカだよ……、どいつもこいつも……、カンダタも
あいつらも……、大バカさ……」
 
「ジャミル……」
 
「……くそっ……」
 
「……大丈夫……、大丈夫だよ……、ジャミル……、
二人を信じよう……、ねっ……?」
 
アイシャはジャミルを安心させる様にそっと身体に
寄り添った。……その途端……。
 
「……んっ!な、何だ……、この黒い影……!」
 
「やっ……、やだ……!気持ち悪い……!」
 
謎の不気味な黒い影がじわじわと迫り、二人の足元に
近づいてくる。
 
「やべえ……!アイシャ、に、逃げろっ!」
 
「だ、駄目……、動けな……!?……きゃ、きゃああーーっ!」
 
「アイシャ……!?うわああーーっ!!」
 
黒い影は瞬く間に二人を飲み込み何処かへと連れ去るのだった……。

その5

ダウド、立ち上がる

「……アル……、今、向こうで二人の悲鳴が聞こえた様な……」
 
「ジャミル、アイシャ……」
 
……ギャーース!ギャーース!!ギャーーッ!!……
 
一刻も早く二人の元へ駆けつけたいと思うアルベルトとダウド。
しかし目の前には巨大なキングヒドラが立ちはだかり往く手を
阻んでいる。
 
「は……、早くしないとっ!ジャミルとアイシャがっ!
嫌な予感がするよお!」
 
「だけど、こいつを早く倒してしまわないと僕らも
先に進めないよ……!」
 
ギャースッ!!ギャーー!!ギャーー!!
 
「あ……、うわあっ!!」
 
「ダウドっ!!」
 
キングヒドラは真っ先にダウドを狙い、首を伸ばしダウドに
噛み付き攻撃してきた。ダメージを受けたダウドは面食らって
その場にうつ伏せに倒れた。
 
「……ううう……」
 
「ダウド、大丈夫かい!?」
 
「血が……、痛いよ……、やっぱり無理だよお……、
嫌だよ、もう……、こんな凶悪怪獣オイラには倒せないよ……、
ぐすっ……、何でこんな……」
 
アルベルトが急いでダウドを助け起こし、べホマを掛けるが、
ジャミルとも離れ離れになった所為か、弱気モードに戻ってしまい、
しゃがみ込んでダウドがベソをかき始めた……。すっかり元気も
無くなってしまっている。
 
「……ダウド……、戦う前から諦めてたらもう其処で
負けだよ……」
 
「アル……」
 
「さあ、立って……、一緒にキングヒドラを倒そう……、
約束したよね?必ず勝ってジャミルとアイシャの元に行こう、
そして4人で帰るんだ、絶対にゾーマを倒してね……、僕達、
負けられないよ……」
 
アルベルトがダウドに手を差し伸べる。その手をダウドもそっと掴んだ。
 
「……ん、わかったよお……、オイラ、頑張る……、
この炎のブーメラン……、ジャミルがオイラに
託してくれたんだ……、よしっ……、負けないよお、絶対に!」
 
ダウドが立ち上がって涙を拭き、炎のブーメランを
ぐっと握りしめる。そして再びキングヒドラの方に向き直った。
 
……ギャーーースッ!!ギャーーー!!
 
「オロチの時と同じ様に……、また急所が本体の何処かに
あるのかなあ……?」
 
「恐らくね……、其処さえ見つかれば有利になると思うよ……」
 
「……よーしっ、えいやっ!」
 
「あ……」
 
ダウドがキングヒドラに向かって炎のブーメランを飛ばし、
思い切り投げ付ける。
 
……ギャ……ギャ……ギャ……ギャ……? 
……ギャースッ!! ……ギャ……ギャ……、ギャ……!
 
「当たった!左から5番目の首が本体だよお!!
アル、魔法!魔法!」
 
「……わ、分った……」
 
急にハッスルし始めたダウドに苦笑しつつ、アルベルトが
高LV魔法の呪文の詠唱を始めた。
 
「……当たれっ!当たれよおお!……このっ、アホっ!
バカっ!えいっ、えいっ!」
 
アルベルトが全力で詠唱をしているその間にも本体を狙って
ダウドがブーメラン攻撃をしまくる。
 
……グギャーーーース!!
 
キレたキングヒドラが一斉に八つの首を向けダウドに襲い掛かる。
 
「……マヒャドっ!」
 
アルベルトが素早く本体の首と頭を凍らせた。
 
「アル、ありがとうっ!」
 
弱点を凍らされたキングヒドラは途端に他の部分の
首の動きが鈍くなる。
 
「厄介だから……、ついでに他の部分も封じてしまおう……!」
 
首部全域にもマヒャドを掛けそして……、キングヒドラの
氷漬けが出来上がる……。
 
「うわあ……、札幌雪祭りに出したいくらい
見事に凍ったねえ……」
 
背伸びしてキングヒドラを眺めるダウド。
 
「さあ、ダウド……、止めは君が……」
 
「え?オイラ……?」
 
「うん、ジャミルの代わりに……、頼むよ……」
 
「わ、わかった……、オルテガさんの仇はオイラがとるよお……!」
 
「バイキルト!!」
 
「……粉々になっちゃえええーーっ!オイラだって
やる時はやるんだああーーっ!!」
 
ダウド力強く投げたブーメラン攻撃は見事……、凍った
八つの頭をすべて粉砕する。
 
「やったよおー!アルー!オイラにも出来たー!!あはっ!」
 
「うん、頑張ったね、ダウド……、お疲れ様……」
 
「ありがとう、アル……、オイラに勇気をくれて……」
 
アルベルトとダウドが互いに笑顔で握手を交わした。
 
 
一方のジャミルとアイシャは……。
 
「此処……、何処だ?俺達……、別の場所に連れて来られたのか……?」
 
「何だか空気が息苦しいわ……、何なのかしら……」
 
「本当だな、真面に呼吸が出来ねえみたいだ……、クソっ……」
 
「……ジャミル……」
 
「アイシャ……、大丈夫だ、俺の手を絶対離すなよ……」
 
「うん……」
 
二人は離れない様にそっと手を繋ぐ。しかし、周囲は暗闇。
……一体自分達は今何処にいるのかも分からず……。
まるでどんどんブラックホールに吸い込まれていくような……。
そんな恐ろしい錯覚に陥って行く。辛うじてお互いの姿を
確認出来るのだけが救いであった……。ジャミルは何が何でも
アイシャを絶対守らねば……、そう思い、警戒する……。
 
 
「……ようこそ……暗黒の空間へ……」
 
 
「ゾ、ゾーマ……?」
 
「!!」
 
遂にゾーマが姿を現し……、暗闇からゆっくりと……、
ジャミル達に近づいて来た……。


再会、暗闇を越えて……

「……この暗黒の空間では儂の闇の力を何倍にも
高める事が出来る……」
 
ゆっくりと……、静かにゾーマが二人に近づいて来る。
頭部には気味の悪い目玉の付いた兜を被り……、
見た目だけなら一見普通の老人の様であるが、本当に
恐ろしい力を秘めているのである……。
 
「ゾーマっ!出やがったな!!」
 
「……ジャミルよ……、お前は何故にもがき……、
生きるのか……?」
 
「んなこたあ、わかんねえよ!俺は俺の生きたい様に
生きてくだけだ……!!」
 
「滅びこそが我が喜び……、死にゆく者こそ美しいのだ……」
 
「……悪趣味な人ねっ!誰だっていつかは死ぬのよ!
だけど……、皆、今、この瞬間を精一杯生きてるの!
あなたなんかに邪魔させない!!」
 
「生意気な小娘めが……」
 
……頭部のもう一つの目玉がアイシャを睨みつけた……、
様な気がした。
 
「もうとっとと終わりにしようや、アイシャ」
 
「ジャミル……」
 
「こう言うアホは相手にするだけ時間の無駄さ、なっ?」
 
「うん……」
 
「小僧……、貴様、中々良い面構えをしておるな……」
 
「は?」
 
「どうじゃ?我に従うなら……、世界の半分をお前に
与えてやっても良いぞ?」
 
「……俺の一番嫌いな事知ってる……?……他人から
指図される事だっ!」
 
「ジャミルっ!」
 
ジャミルがゾーマに斬りかかった!……だが……。
 
「……!?う、うわっ……!!」
 
しかし、見えない強い力でジャミルはあっさりと身体ごと、
弾き飛ばされる。
 
「ジャミルっ!……大丈夫……?」
 
急いでアイシャがジャミルの側へ駆け寄る。
 
「……いって~っ……、頭打った……」
 
「残念じゃのう……、貴様なら儂の良い配下になれた物を……」
 
「お断りだっつってんだよ、じじい!」
 
頭を摩りながらゾーマを睨みジャミルが呻く。
 
「……やべえぞ、アイシャ……」
 
「えっ……?」
 
「あいつの周り……、見えない結界で守られてる……、
近づかない方がいい……」
 
「で、でも……、どうすれば……」
 
「さあ、ジャミルよ……、我の腕の中で息絶えるが良い……」
 
「……ホモかよ、おめーは!!┌(┌^o^)┐」
 
「……こないでっ!メラゾーマ!!」
 
ジャミルを守ろうとアイシャが魔法で応戦しようとするが
ゾーマには全く効いていない。
 
「……よせ、アイシャっ!」
 
「マヒャドっ!」
 
「……フフフ、何をしておるのだ?」
 
ゾーマは不敵な笑みを浮かべる。
 
「……私だって……、ジャミルを守りたいのっ……!
イオナ……」
 
 
「アイシャ!やめ……あ……、あーーーーーーーーーーーーーっ!!」
 
 
暴走したアイシャの魔法はジャミルを巻き込んで
大爆発を起こした……。
 
「……ごめんなさーいっ……!ジャミルが側にいたのにーっ!」
 
「コントやってんじゃねーっつーの!全く……」
 
「あ……、頭爆発しちゃった……、治さないと……」
 
いそいそと賢者の石を掛けるアイシャ。
 
「……フフフフ……」
 
「ニヤニヤ笑ってんじゃねえ、じじい!」
 
「お遊びは此処までだ……」
 
「来んな……!向こう行けよっ!!」
 
(……ルビス様……、お願い……、私達を守って下さい……)
 
アイシャが静かに祈りを込めた、その瞬間……。
 
「……ヌッ……?」
 
「きゃっ!?」
 
「うわ、何だ!?」
 
突然ジャミルの鎧の懐が輝き始めた。
 
「あ、ああ……、これか……」
 
「ジャミル……、それって……」
 
「ああ、光の玉だよ……、何となく、守ってくれそうな
気がしてさ……、此処に入れといたんだよ」
 
「もう~、ジャミルったら……、何処にやったのかと
思ってたけど……」
 
ジャミルはいそいそと鎧の懐から光の玉を取り出す。
 
「グッ……、お、おのれ……」
 
「ん?じじい、どうした?」
 
「何だか抵抗してるみたい……」
 
……光の玉でゾーマの闇の衣を剥ぎ取る事が出来る筈……、
ルビスのその大切な言葉をジャミルは咄嗟に思い出す……。
 
「……光の玉よ……、ゾーマの闇の衣を剥ぎ取れっ!!」
 
ジャミルは一心不乱にゾーマに向かって光の玉を翳す。
 
「……ぐ……、ウウウウウウ…!!」
 
ゾーマが呻きだし、暗かった周囲に光が漏れだす……。
その光のあまりの眩しさに思わず二人が目を瞑ると……。
 
「……」
 
「あ、あれ……、ここ」
 
「元の場所だわ……、あそこ……、祭壇があるもの……」
 
「!?……、ゾーマ……」
 
「……きゃあっ!?」
 
二人が見た光景は……、闇の衣を剥ぎ取られ絶叫し、
苦しむゾーマの姿だった……。
 
「……見るな、アイシャ……!!」
 
「……!!」
 
ジャミルはアイシャを抱きしめ、……アイシャは脅えて
震えながらジャミルにしがみ付く……。
 
 
「……ダウド、急いで、早く……!!」
 
「そんな事言ったってえ~……、もう走れないよお~……」
 
「もう少し……、だか…らっ……!?」
 
……ゾーマの壮絶な叫びが2人の元にも確かに
聞こえたのである……。
 
「な、何……、今の雄叫び……」
 
「……ジャミル……」
 
「うわあ~っ!!ジャ、ジャミルーっ!!」
 
走れないと言いながら、ジャミルの危機を感じたダウドは
慌ててすっ飛んで行ってしまった。
 
「ちょ……、待ってよ、ダウドーっ!!」
 
慌てて後を追うアルベルト。
 
 
「……おのれ……、小僧……、よくも……」
 
「これでお前を守る結界は無くなったワケだ……、
こっからは遠慮なくいかせてもらうぜ?」
 
「ジャミルっ!」
 
「おー!待ちくたびれたぜ!!」
 
「アル、ダウド、無事だったのね!!」
 
「アイシャも……、無事でよかった……、二人とも
怪我はないかい?」
 
「とりあえずは今ん処は大丈夫だ……」
 
「私もー!」
 
「……うわああーん!じゃみるううー!!」
 
「わあっ!?」
 
ジャミルに再び会えた嬉しさのあまり思わず
飛びついてしまうダウド。
 
「……無事でよかったよおおお~……、変な雄叫びが
聞こえたから……」
 
「わ、分ったから……、あ……、光の鎧に
鼻水たけやがったな……、このバカダウドーっ!!」
 
「……ぐしゅっ……」
 
「良かった……、また皆会えて……、もうバラバラは嫌よ……」
 
「アイシャ……、うん、そうだね……」
 
こうして困難を乗り越え、4人は無事再会を果たしたのだが……。
 
「ク、ククっ……」
 
「81……」
 
「……じじい!何笑ってやがる!」
 
ダウドを小突きながらジャミルが慌てて叫ぶ。
 
「……結界があろうがなかろうが……、儂の強さには関係あらぬ……、
例えお前達が100人束になって掛かってきたとしてもだ……」
 
「……」
 
「……フゥ~ッ……」
 
「きゃーっ!アル、どうしたの!?」」
 
「……変な想像して倒れんな……!たく……、失礼な奴だなあ!」
 
「ご、ごめん……、でも、良くわかったね……」
 
「……むーっ!」
 
「……プププ……」
 
「笑うな!バカダウド!!」
 
「いた……、いたいよお~……、ジャミル……」
 
「……何時までもふざけおって……、さっさと死ね……!
屑共めが……!!」
 
「あ、やべえ……、来る……!!」
 
ゾーマが4人に向けて凍える吹雪を放つ。アルベルトが
フバーバで防ぐがゾーマの放つ凍える吹雪はこれまでの相手と
桁違いで威力半端無く、ジャミル達を容赦なく傷つけるのだった……。
 
「……いーたーい……、よおお……」
 
「……ううっ……、くっ……」
 
「俺だって光の鎧着けてるけど、このザマだもんな……、
いっつ……」
 
「今回復するわ……、待ってて……」
 
アイシャが賢者の石を翳し4人の傷を癒していく。
 
「やっぱり……、傷全部はなおんないね……」
 
「べホイミの全体掛けだからね……」
 
「……滅びよ……」
 
「う、うわ……!?ま、また……!!連続ううう!?」
 
「勇者の盾よ……、我らを守りたまえ……!!」
 
「……無駄だ……」
 
「え……?」
 
「……マヒャド……」
 
けれど……、勇者の盾の輝きよりも早く……。
 
「……ジャ、ジャミ……」
 
 
「……う……、嘘……だ……ろ……?」
 
 
ゾーマの高速マヒャドが一瞬で光の鎧を貫き……、
ジャミルの右胸に……氷の刃が突き刺さる……。

zoku勇者 ドラクエⅢ編 16章

zoku勇者 ドラクエⅢ編 16章

スーファミ版ロマサガ1 ドラクエ3 クロスオーバー 年齢変更 オリジナル要素・設定 オリジナルキャラ 下ネタ

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-03-10

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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  1. その1
  2. その2
  3. その3
  4. その4
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