楽園にて

 ヨウとスズは、隣の国同士に住んでいました。
 ヨウとスズは、小学校で習いたての字で、文通を始めました。
「ヨウへ。はじめまして、スズです」
「スズへ。はじめまして、ヨウです」


「ヨウへ。今日も飼い猫のミミーは元気です」
「スズへ。私の飼い猫のムイムーも元気です」
 手紙のやりとりは、何十回も続きました。


「ヨウへ。スズはヨウが好きです」
「スズへ。ヨウもスズが好きです」
 二人は、国を超えた恋人になりました。
 手紙のやりとりは、更に何十回も続きました。


「ヨウへ。近いうちに会いましょう」
「スズへ。国境で会いましょう」
 しかし、二人の住んでいる国同士が、戦争を始めました。


「ヨウへ。今日も爆弾が降ってきました」
「スズへ。今日はミサイルが飛んできました」
 戦争はどんどん苛烈さを増しました。


 ヨウは飼い猫のミミーに、スズは飼い猫のムイムーに託しました。
 二匹の猫は、遠くへ遠くへ行き、戦争のない楽園で出会いました。

「ヨウへ。さようなら」
 戦争で、スズの街は消えました。
「スズへ。さようなら」
 戦争で、ヨウの街は消えました。
 

 二人の望みは潰えても、二匹の猫は、楽園でずっと一緒に暮らしました。

楽園にて

楽園にて

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-03-07

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