楽園にて
ヨウとスズは、隣の国同士に住んでいました。
ヨウとスズは、小学校で習いたての字で、文通を始めました。
「ヨウへ。はじめまして、スズです」
「スズへ。はじめまして、ヨウです」
「ヨウへ。今日も飼い猫のミミーは元気です」
「スズへ。私の飼い猫のムイムーも元気です」
手紙のやりとりは、何十回も続きました。
「ヨウへ。スズはヨウが好きです」
「スズへ。ヨウもスズが好きです」
二人は、国を超えた恋人になりました。
手紙のやりとりは、更に何十回も続きました。
「ヨウへ。近いうちに会いましょう」
「スズへ。国境で会いましょう」
しかし、二人の住んでいる国同士が、戦争を始めました。
「ヨウへ。今日も爆弾が降ってきました」
「スズへ。今日はミサイルが飛んできました」
戦争はどんどん苛烈さを増しました。
ヨウは飼い猫のミミーに、スズは飼い猫のムイムーに託しました。
二匹の猫は、遠くへ遠くへ行き、戦争のない楽園で出会いました。
「ヨウへ。さようなら」
戦争で、スズの街は消えました。
「スズへ。さようなら」
戦争で、ヨウの街は消えました。
二人の望みは潰えても、二匹の猫は、楽園でずっと一緒に暮らしました。
楽園にて