「初恋」
水色の日傘白指で包んで
夏の日射し
昼のこと
あなたは道を歩き去った
胸の高さまで掲げた
榠樝を真っ赤な指で包んで
いたわしいその細指が
如何して初紅葉のそれみたく色づいているのか
あなたのワンピイスは白い雨の色
滴る露で
花の薫りを咽せかえるほど濃くする色
あまやかで
繊細な
いじらしく嬲られる舌と唇の
赤より溢れる息の色
肉を切られて紫陽花の
もとで死んだ白蛇の躯の色
あなたのワンピイスは、かなしい濡色
夕焼空を厭うあなたは
赤子の首ほどな榠樝を胸にそぞろに押しあてて
あなたは道を歩いて行った
あなたはもう見えない
そのお顔を見ることも
叶わぬままに
「初恋」