「初恋」

 水色の日傘白指で包んで
 夏の日射し
 昼のこと
 あなたは道を歩き去った
 胸の高さまで掲げた
 榠樝(かりん)を真っ赤な指で包んで

 いたわしいその細指が
 如何して初紅葉のそれみたく色づいているのか
 あなたのワンピイスは白い雨の色
 滴る露で
 花の薫りを咽せかえるほど濃くする色
 あまやかで
 繊細な
 いじらしく嬲られる舌と唇の
 赤より溢れる息の色
 肉を切られて紫陽花の
 もとで死んだ白蛇の躯の色
 あなたのワンピイスは、かなしい濡色

 夕焼空を厭うあなたは
 赤子の首ほどな榠樝を胸にそぞろに押しあてて
 あなたは道を歩いて行った
 あなたはもう見えない
 そのお顔を見ることも
 叶わぬままに

「初恋」

「初恋」

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-03-07

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