わすれる

ぜんぶ無駄だ
どうせ全てわすれる

いまから3分後の時刻覚えようか
1時間後にはわすれてる

木曜日はジャージが要ることも、
何年生になっても覚えられなかったもん

わすれることのかなしいのは、自覚
覚えてられなかった自分を、おぼえること

思い出さなければいけないことが、きらいだった
わすれたことを、より克明におぼえてしまうから

わたしは、ときどきわたしをわすれたくなった
わすれる代わりに、一人称を捨てた

「うち、」

たった二文字、一瞬、それっぽっちで、
わたしを、こわして、「うち」にしてくれた。

「俺、」

たった二文字、一瞬、それっぽっちで、
わたしよりも、たくましい「俺」に代われた。

わたしのからだはひとつ
だから、脳みそは何一つわすれてなどいない

メモリーの責任の分配は完璧だった
ただ、わたしのすべての時間は確実にからだに刻まれていた

既知より未知の方が、
記憶より知識の方が、輝いてみえたし、

人はわすれる生き物だなんて言葉、
わすれた後にしか遣われないね

しんだあなたの呼吸のそばで眠りたい
それから、五感だけ残してしにたい

わたしは真空空間でしにたい
わたしはわたしを冷凍したい

わすれる

わすれる

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-03-03

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted