小岩井ロックフェスタ
暗黒の青春を過ごした私。闇の中にぽっかりと浮かび上がる満月のような真夏の記憶。
北東北が束の間の暑さに浮かれる八月、私は妹と小岩井農場を訪れた。そこで行われる、大規模なロックフェスタを観に行ったのだ。
二十二歳。引きこもって四年目。日々何をして過ごしていたのか覚えていない。
ロックフェスタは、全国的に人気のあるアーティストが何組も出演する大規模なものだった。広いまきばに大きなステージが組まれ、その前の草地に、ロープでブロック分けされた観客席が設けられている。当然椅子などなく、皆シートを持参していた。
私たちのブロックは後ろの方だった。舞台はとても遠い。大きなモニターでアーティストの表情は見えるが、それはテレビで見るのと変わらなく思えた。当時流行りの厚底サンダルの上で、私と妹は背伸びをした。
各バンドごと個性があった。ギターにドラム、ベースに花形のボーカル。激しい演奏は鼓膜を震わし、皮膚をも痺れさせ、腹にまでずんと突き刺さるようだった。うねる歓声、会場一体の手拍子、振り回されるタオル。
空は底抜けに青く、猛烈に暑い。私と妹は、持参してきたドリンクをすぐに飲み干した。新しいペットボトルを買おうとしたが、信じられないほどの長蛇の列が出来ていた。
私と同世代の、こんなにも大勢の若者たちは、一体どこからこの辺鄙なまきばまで集まって来たのだろうか? 友達同士、恋人同士、おそらくは私と違って学校に行ったり働いたり、まともな暮らしをしている子たち。
彼らはのどかに微笑んでいた。カラフルな流行りの服を着て、首にタオルをかけ、日焼けに鼻の頭を赤くしていた。
やがて壊れたように照り付けていた日は傾き、黄昏が影を落とし、夜の帳が降りた。まだ熱気冷めやらぬ舞台の上で、トリの大物バンドが歌い始める。星降る牧場に響く少ししゃがれたボーカルに聴衆は酔った。派手にのりを示すこともなく、心地よく歌に身を任せて体を揺らしていた。
アンコール曲が終わる頃、帰路への長い列に就く。
満天の星の下、長蛇の列の人ごみに紛れて、私は知らん顔で歩いた。当たり前の幸せな若者の振りをした。今日だけは自分に免罪した。
「言葉は儚い
消えないように傷つけてあげるよ」
了
小岩井ロックフェスタ