zoku勇者 ドラクエⅢ編 12章

※今回の話のオリジナル設定として、バラモスが凍てつく波動を使ってきたりしています。

その1

御対面……

「ど、どうしたのかしら……、逃げて行っちゃったわ……」
 
「……アイシャ様様ってとこだな!」
 
「?」
 
「さーてと!」
 
「……ひ、ひっ!?」
 
「どーしてくれよーか?」
 
ジャミルが稲妻の剣の矛先をライオンヘッドに付き付ける。
 
「お助け下さい!……あなた方のいう事は何でもお聞き致します!!どうか……」
 
「何だよ……、てんで弱ぇぇでやんの……」
 
ライオンヘッドは羽をパタパタさせ怯えている。
 
「……バラモスの部屋までの近道を教えろ!!」
 
「……はい……」
 
 
「でも……、本当にこんなんでいいのかなあ……、チートになるんじゃないの、これ……」
 
何だか申し訳なさそうなアルベルト。
 
「いーのいーのっ!早くバラモスの所行かなきゃなんねんだからよ!」
 
良い子は決して真似をしないで下さい……!しねーよ。
 
 
「この階段の上が……、バラモス様の部屋です……」
 
「ご苦労さん、もう行っていいぜ!」
 
ライオンヘッドはそそくさと逃げていってしまった。
 
「さてと……、いよいよバラモスとご対面の訳だが、皆、覚悟はいいか……!?」
 
「うんっ!ここまで来たんだもん!!私、頑張るわ!!」
 
「僕も大丈夫だよ」
 
「……オイラは……、え~っと……」
 
「ああーんっ!?」
 
「か、覚悟出来た……!」
 
ジャミルに迫られるダウド。やはり、まだ彼だけは覚悟が出来ていないらしい。
 
「行くぞ……!!」
 
ジャミルがバラモスの部屋の扉を勢いよく開ける。……遂に4人は
バラモスの部屋へと足を踏み入れた。
 
「……暗いな……」
 
「暗いよ……」
 
「何も見えないわ……」
 
(い、今のうちに……、オイラだけ逃げちゃおうかなあ……)
 
 
フフフフ……、ようこそ……、哀れな勇者達よ……
 
 
「!?」
 
謎の声が突然響いたかと思いきや、暗かった部屋が明るくなった。
そして、4人の目の前に浮かぶ巨大なシルエット……。
 
「……あれが……、バラモス……?」
 
目の前に現れたバラモスは……。
 
 
     「カバぁ!?」
 
 
「……何いいいいっ!?」
 
「バラモスってカバさんだったの?何かかわいい!」
 
「あれは違うんじゃないかな……」
 
「なんか全然怖くないや!」
 
ジャミル達は揃ってゲラゲラ大笑いする。
 
「……とりあえず聞けーーっ!!」
 
「はいはい、どうぞ……、聞いてやるよ」
 
ほじほじ耳くそを穿り始めるジャミル。
 
「どうぞ!」
 
ダウドがバラモスにマイクを近づけた。
 
「お前……、まだ持ち歩いてたんかい、そのマイク……」
 
「……遂に此処まで来たか勇者達よ……、この大魔王バラモス様に逆らおうなどと
身の程を弁えぬ者共が!!ここに来た事を悔やむがいい!!
再び生き返らぬ様、貴様らの腸を食らいつくしてやるぞ!!」
 
「おーーっ!!」
 
ジャミル達が揃ってぱちぱち、やんややんや拍手する。
 
「長い台詞を長々と……、ご苦労さん、カバの癖に」
 
「カバさんすごーい!!」
 
「黙れ!!我の力を思い知るがよい!!いくぞ!!」
 
「うるせーこのカバ野郎!!」
 
「オイラ、サイにも見えるんだけど……」
 
「あっ!本当だわ……」
 
「うぬう……、揃いも揃って……、この大魔王バラモス様をコケにしおって……」
 
「カバは動物園に帰れ!!」
 
「この……、サル共め……!!」
 
「いくぞカバ野郎!!」
 
「カバではないと言うておろうが!!」
 
「みんな!ちょっと下がってて!!……えーいっ!!」
 
アイシャのイオナズンの魔法が大爆発を引き起こしバラモスを包み込む。
 
「やったか!?」
 
「……フフフフ……」
 
しかしバラモスにはカスリ傷一つ付いていない。
 
「こいつも守備力が半端じゃないらしいな……」
 
「そりゃあ……、一応カバだけど大ボスだもん……」
 
ジャミルは舌打ちし、ダウドはうざったらしそう。
 
「よし!今回は魔法で……!!」
 
アルベルトがルカニを唱えバラモスの守備力を下げる。
 
「……無駄だ……」
 
バラモスの体が怪しく光る。
 
「よしっ!頂きっ!!」
 
「ジャミル!待って!」
 
ジャミルの攻撃がバラモスに当ったが……。
 
「ヌフフフ……」
 
「何だよ、当たってんのに全然聞いてねえのか…!?」
 
「バラモスに掛けた補助魔法をかき消されたみたいだ……」
 
「……何だと!?」
 
いてつく波動……、それは主に大ボスが使う特殊技。味方に掛けられている
補助魔法などの効果を一瞬にして打ち消してしまうタチの悪い、腹の立つ特殊技。
バラモスは自ら自分に掛けられた厄介なルカニを打ち消した。
 
「……もう一回やってみる……、ルカニっ!」
 
「いてつく波動!!」
 
「なんのっ!ルカニっ!!」
 
「アル……、何か段々ムキになってきてるわ……」
 
「……消えろっ!!」
 
「ルカニ!ルカニ!ルカニ!!ルカニ!!」
 
「無駄だ!!」
 
「……て~め~え~……、この野郎……」
 
「性格変わっちゃったよおお!!」
 
「……腹黒モード発動……」
 
「ジャミル、アルを止めないとよ……!」
 
「ったく……、おい、アル!」
 
「うふふ……、うふふ……、うふ、うふふ……」
 
「アル止めろよ、これ以上やってもMPが無駄になるだけだ」
 
「そ、そうだね……」
 
「……急に平常運転に戻んなよ!」
 
「え?何が?」
 
「……」
 
「面倒だけど、地道にダメージを与えて倒すしかねーな……」
 
ジャミルがもう一度稲妻の剣を握りしめた。……ダウドは倒れて死んだふりをする。
 
「……熊じゃないんだから……、それに、本当は熊と遭遇した時は、
死んだふりは逆効果なんだよ……」
 
「え、ええーーっ!……アル、そうなの?あっ!」
 
倒れて死んでいたダウド。うっかり起き上がって復活してしまう。
 
「ダウドさーん!さぼらないでねっ!お給料減らしますよ!」
 
「いた……、いたいよ、ジャミルう!いたたた!!なんだよお、報酬なんか出さない癖に!」
 
「ラ、ラリホー!」
 
「zzz……ぐうー!!」
 
「あ、あれ……?カバが寝ちまったぞ……」
 
「偶々だと思うけど……、何となく掛けてみたら効いたみたいで……」
 
ラッキーだったかなと……、アルベルトが苦笑した。
 
「よしっ!眠らしちまえばこっちのモンだな!アル、引き続き頼むぜ!」
 
「任せて!」
 
アルベルトが連呼でバラモスがなるべく早く目を覚まさない様にとラリホーを掛けまくる。
 
「……こ、これで平気なのかな?」
 
ダウドが心配そうな声を出す。
 
「ああ、暫くは目え覚まさねえだろ」
 
「ジャミル、こればっかりやってるとMPが終わっちゃうから……」
 
「ああ、このカバが起きねえうちに俺達も出来るだけ物理ダメージ与えとくよ」
 
「頼むよ……」
 
「行くぞ、ダウド!」
 
「え、えー!?オイラもー!?」
 
「後、物理攻撃はオメーしかいねえだろが!!」
 
「わかったよお……、たく、ヘタレ使い荒いんだから……」
 
「私もお手伝いするわ!ラリホーは使えないけど……」
 
アルベルトがラリホーを掛けまくり、アイシャは子守唄を歌い、
ジャミルとダウドはバラモスが寝ている間にボコスカ殴りまくる。
 
「はあ、このまま大人しく寝ててくれりゃいいんだけどなあ……」
 
……ダウドも段々慣れて来たのか調子に乗る。
 
「このカバ!バカ!!」
 
「……お前が調子に乗ると……、碌な事が……」
 
「えっ?何だい?ジャミルう」
 
「何でもねえよ……」
 
ジャミルが不安そうな顔でダウドの方を見る。……その予感は的中してしまうのである。
 
「もう少しかなあ……?」
 
ダウドがちょんちょんバラモスを突っついた。……その瞬間……。
 
「おのれえええーーーーーーーっ!!」
 
 
突然目を覚ましたバラモスはジャミル達を雄叫びで全員ふっ飛ばし壁に叩き付けた。
4人に散々コケにされたバラモスが怒り、等々本気モードに入ったのである……。


カバ、怒る、……オイラは困ったちゃん?

「……う、うっ……」
 
激痛を堪え、何とかジャミルが立ち上がるが、頭部からは血が流れていた。
 
「……ひどいよおお~……、いきなり起きるなんてえ~……」
 
「だから言ったんだっ!このバカダウド!!」
 
「な……、なにをー?何にも聞いてないよ?……」
 
「アイシャ!!」
 
「ああっ……!!」
 
アルベルトの言葉にジャミルがはっとし、前を向くと、彼女が一番
打ち所が悪かったらしく、大出血状態で床に倒れていた。
 
「アイシャ!!しっかり……!!」
 
アルベルトが血だらけのアイシャを助け起こすと、アイシャは何とか、か細く返事を返した。
 
「わ……、私は……平気……」
 
「……ひいいいいーっ!!」
 
流血を見たダウドもコテンとひっくり返り気絶する。
 
「アル、べホマをアイシャに直ぐ!!……頼む!!」
 
「任せてっ!」
 
アルベルトは急いでべホマをアイシャに掛けようと詠唱を始めるが、
しかし次の瞬間……。
 
「そうはさせぬ、思い知れ!我の力を……!!」
 
「……あ、ああっ!!」
 
バラモスが回復魔法の詠唱を妨害してきたのである。バラモスは
二人に向けてメラゾーマを放つ。アルベルトは盾になって咄嗟にアイシャを庇う。
 
「……アルっ!!」
 
「う……、うう……」
 
アルベルトは必死で歯を食いしばり耐えるが、背中に大火傷を負い大ダメージを……。
 
「大丈夫か!!」
 
「……僕は大丈夫……、でも……、これじゃ……、少し詠唱に……、
時間が掛かるかも……、ごめん……」
 
アルベルトは痛みを堪えながらそのまま蹲ってしまう。
 
「フハハハハハ!!この魔王バラモス様の力を思い知ったか!!」
 
「……こんの野郎……!!」
 
「フハハハハハ!!」
 
 
「だぁぁぁぁぁーっ!!」
 
 
「何いっ!?」
 
ジャミルは素早い剣捌きでバラモスをどんどん押していく。
 
「これ以上話を真面目にすんなーーっ!!」
 
「この小僧めが……」
 
稲妻の剣がバラモスをあっと言う間に追い詰めたと思ったが……。
 
「まいったかカバ!」
 
「……まだ言うかーっ!!」
 
「テメエだけは絶対許さねえぞ……、色々と腹立つんだよ……」
 
「……お前達……、さっきはイオナズンをプレゼントして貰ったが……」
 
「ん?」
 
「教えてやろう……、本当のイオナズンを……!!」
 
アイシャの時よりも強烈な爆風が部屋中を包みジャミルを吹き飛ばす。
 
「……うわぁぁぁぁー!!」
 
「フハ、フハハハハハ!!」
 
「……く、くそっ……!」
 
稲妻の剣を握りしめ、ヨロヨロしながらジャミルが立ち上がった。
 
「しぶとい奴め……!」
 
「……負、負けられねえんだよ、こんなとこで……、ハア……、ハアッ……」
 
ジャミルの脳裏にフィラの笑顔が浮かぶ。テドンの村で見せてくれたあの悲しい笑顔が……。
 
 
……フィラ……、お兄ちゃん達と会えた事……、絶対忘れないよ……
 
 
「……フィラっ!!」
 
「べホマ!!」
 
「……何だ?体が……!?アル……!!」
 
ジャミルが気が付くと、復活したアルベルトとアイシャの姿が……。
 
「良かった……、間に合って……」
 
「アル!もう平気なのか!?」
 
「うん、少し休ませて貰ったから、もう大丈夫!」
 
「私もアルに回復して貰ったわ!」
 
「アイシャ!!」
 
「えへへ!」
 
「……オ、オイラも……、復活しますた……」
 
「オメーはいいよ、帰れ、シッシッ!」
 
「えー!?そんな、酷いよおー!ジャミルぅ!!」
 
ダウドが慌ててジャミルに覆い被さり、ご機嫌取りを
しようとするものの、ジャミルはブン剥れる。
 
「……そんな意地悪言わないで、ね?ジャミル……、ケンカしないで……」
 
アイシャが優しくダウドを庇い、ダウドは鼻の下を伸ばす。
……ますます面白くないのか、ジャミルは頬を膨らませて横目でダウドを見た。
 
「いいかダウド、今からが本番だ、もし戦う気がねえなら今すぐ帰れ」
 
「一人でここからじゃ無理でしょ……、幾らなんでも……」
 
アルベルトもジャミルとダウドを交互に見る。
 
「……」
 
「お前らーっ!!」
 
と、忘れられていたバラモスさん、急に割り込んで来る。無視されてご機嫌斜めらしい。
 
「何?」
 
「何処までこの魔王バラモス様をコケにする気だーーっ!!」
 
「ちょっと待ってろよ!このバカダウドに今説教してんだよ!邪魔すんなよ!」
 
「しゅーん……、さすがにちょっと反省……」
 
「ふ、ふざけおって……、おのれ……!!」
 
「……もうっ!私怒ったんだから!!マヒャド!!」
 
反撃のアイシャ、バラモスに覚えたての上級氷魔法をぶつける。
しかし、バラモスがでかすぎて、身体を凍らせる事は出来なかった。
けれどアイシャの怒り魔法パワーはバラモスに確実に大ダメージを与えている。
 
「うおっ!?こ、小癪な……」
 
「いいぞアイシャ!!」
 
「じゃあ僕もっ!べギラゴン!!」
 
「イオラ!ヒャダルコ!……べギラマ!!」
 
アイシャとアルベルトはありったけの攻撃魔法をバラモスへとぶつける。
 
「おのれ!!これでも喰らえ!!」
 
しかし、バラモスも魔王としてのプライドが有り、負けてはいない。4人目掛け、
強力な火の球を投げつけてくる。
 
「……バリアーーっ!フバーバ!!」
 
「く……、小生意気な金髪小僧めがーーっ……!!」
 
「じゃあ、オイラも……(プッ)」
 
 
「……ギャアアアアアーーー!!」
 
 
「やりますた!えっへん!」
 
「……低レベル予算攻撃だな……、ダウド……」
 
「ジャミルの真似しただけだもん……」
 
「やかましいわっ!!」
 
「いたーーっ!!」
 
「またっ、もうっ!何してるのよ!!」
 
「……で、でも……、効果抜群みたいだよ……、何だか……」
 
ダウドの低レベル予算攻撃を喰らったバラモスは、相当きているのか、
のたうち回っている……。
 
「……じゃあ、みんなでやるか……?」
 
「……えーーー!?」
 
アイシャとアルベルトはレイアムランドの巫女さん状態で
声を一緒にハモらせた。しかしその重なった声は嫌そうである。当り前であるが。
 
「私は嫌っ!!嫌ったら嫌っ!!ぜーったい嫌っ!!」
 
特にアイシャの方は首をぶんぶん振って抗議する。
 
「……んな事言って……、本当はこっそり芋食ってプーとかやってんじゃねえの……?」
 
「何よーっ!!それはジャミルじゃない!!ジャミルのバカ!!」
 
「……僕も……、ちょっと……」
 
「いや、こういう奴に限って実は陰じゃブーブー屁ぇこいてんだよな……」
 
「……何いっ!?」
 
「真面目面してさあ……、一番信用出来ねえタイプ、プ……」
 
「……そっちこそ……!人間トランペットの癖に……!!」
 
「はあ!?」
 
「一歩歩けばプー、2歩歩けばブー、3歩歩けばプーブープー!!」
 
「そんなにしねえっつーーの!!」
 
 
「……おーーまーーえーーーらーー!!」
 
 
「きゃうっ!?」
 
「よくもやってくれたな……、この魔王バラモスに様にむかって……!!よくもよくも……!!」
 
バラモス、ドスンと怒りの地団駄踏み。もう無視されっぱなしの件もあるが。
 
「何よ!私はやってないわよ!!」
 
こっちにも責任を押し付けるなと怒るアイシャ。
 
「こんなカバに負けたら一生の笑いモンだぜ!」
 
「ならばこれに耐えてみよ……!!」
 
「!」
 
「きゃっ!!」
 
バラモスがジャミル達に向かって炎を吐いた。此方もバカやって油断し過ぎていた為、
フバーバを詠唱している暇があらず、アルベルトが咄嗟にとった行動とは……。
 
「……やべえっ、このままじゃ俺ら丸焦げだっ!!」
 
 
「……水よ出ろーーっ!!」
 
 
         ……バッシャアーーン!!
 
 
「……助かったけど……、アル……、お前今何したんだ……?」
 
「ん?魔法でね、ちょっと大水を出したんだよ」
 
「えー!そんな魔法も使えたんだ!すごーい!!」
 
「まあね、非常用の裏ワザ……、あはは、あは……」
 
しかし、頭から全員水を被った為、びしょ濡れである。
 
「ねえ、オイラの頭……、見て?……酷いよ……」
 
「?プ、プププププ……、く、黒焦げチリチリアフロ……!!あ~っはっはっ!!」
 
床を叩いてジャミルが大笑いする。ダウドだけ間に合わず、髪の毛が燃えて被害にあったらしい。
 
「あはははは!!腹いてーっ!!死ヌーっ!!」
 
「もう……!笑っちゃだ……」
 
「……」
 
「め……、……きゃーっははははは!!」
 
笑っちゃ駄目と言いながらダウドをチラ見し、アイシャも笑い出した。
 
「……笑うなよおおおおお!!」
 
「う……、プッ……」
 
顔を背けてアルベルトも吹き出す。
 
「……みんな……、キライ……」
 
ダウドがすっかりいじけてしまい、その場に体育座りを始める……。
 
「気にすんなよ、カリフラワー頭がモジャモジャ頭になっただけの事だろ」
 
「フォローになってないよジャミル……」
 
「……いい加減にしろ!!お前ら!!」
 
はっきり言ってもう存在感の無くなっている魔王さん、またまた横綱の様にドスンと床を踏んだ。
 
「こっちだって早く終わりにしてーんだよっ!」
 
ジャミルはもう一度体制を整えバラモスに突っ込んで行こうとした。が……。
 
「……オイラの髪返せーっ!!」
 
「バっ、バカダウド……!!」
 
しかし、ジャミルよりも早く、怒りMAXのダウドがバラモスに飛び掛かって行った。
 
 
              ばしっ!!
 
 
しかし……、いつも通りあっさり張り倒された……。
 
「フハハハハ!」
 
「うぎゃーっ!!痛いーーっ!!」
 
「ったく……!何でこういう時だけ行動が速ぇぇんだよ!」
 
「……ダウドっ!大丈夫!?」
 
アルベルトが慌ててべホマをダウドに掛けた。
 
「……びえええーっ!!」
 
「ガキじゃねんだからピーピー泣くなっ!!」
 
「ううう~……」
 
「こりゃ早い事決着付けねえと……、こっちの身が持たねえや……」
 
アルベルト達も頷く。もはやジャミルはバラモスよりもダウドの応対の方に疲れている様である。
 
「フハハハハハハ!!」
 
「……カバが馬鹿笑いしてんじゃねえよ、このカバ野郎!!」

その2

巨漢魔王の最後

「気に食わないバカ奴らだがお前達は本当に面白い奴らだ……、
この魔王バラモス様をこんなにも楽しませてくれるとは……」
 
「あーあっ!よごザンスね!楽しくって!!お楽しみ頂けてます様で何よりっ!!」
 
逆切れジャミル。楽しんでる分見物料徴収してやるとか思ったし。
 
「……今までの奴らは屑ばかりだった……、このわしを倒すなどと
ふざけた事を抜かしおって……、勇者オルテガとやらも所詮雑魚よ、
大した事はなかったぞ!!」
 
「俺の……、親父???……、なの……?」
 
「だーかーらー!この話だけだから!気にする事ないよ!!」
 
「……あなたは絶対許さないわ……!よくも……!!
フィラちゃんやテドンの村の人達を……!!」
 
死んだフィラを思い、涙を浮かべ、アイシャがきっとバラモスを睨んだ。
 
「……テドン?ああ、あの村はわしが手を出したのではないぞ?」
 
「えっ……」
 
「手下のモンスター共に命令したのだ!テドンの奴らを皆殺しにしてこいとな!!」
 
「卑怯よ……!自分は手を汚さないで……!酷過ぎるわ……」
 
「アイシャ……」
 
ジャミルが慰める様にそっとアイシャの肩に手を置く。
……アイシャはジャミルの胸に顔を埋め暫く泣き崩れた。
 
「カバのバーカ……、バカバカバーカ……」
 
ダウドがバラモスに聞こえない様に小声で呟く。
 
「……最低のカバ野郎だな!!テドンの村の人達が
おめえに一体何したっつーんだ!何も罪はねえだろ!!」
 
「反乱分子がいたからだ!勇者オルテガと手を組んでいる者があの村の中にいたのだ、
おまけにあの村は邪魔なオーブを隠し持っていたと云うではないか!!
そんな奴らは皆死んで当然だ!死ね!!小賢しい人間共め!!」
 
「……許せねえ……」
 
ジャミルが怒りを込め再び稲妻の剣を強く握りしめた。
 
「何で急に真面目になるんだよお~……、オイラこの話の
変わり身の早さにもうついていけない……」
 
「フハハ!この世界はこの魔王バラモス様が支配するのだーーっ!!」
 
「……勝手に言ってろ!」
 
ジャミルがバラモスに切り掛った。
 
「無駄だ!わしは不死身……、何いーーーっ!?」
 
……バラモスの胸に大きな切り傷が付いている。
 
「悪ィけど……、俺怒らせちまったからねー、アンタ、俺怒ると怖いよー?マジで」
 
ジャミルが床にペッと唾を吐いた。
 
「……やーん!ジャミルうー!かっこEー!!きゃ~っ!!♡」
 
アイシャが飛び跳ねてきゃあきゃあ燥ぐ。
 
「オ、オイラだって……、負けないぞ……!フレーフレー!!ジャミルうー!!」
 
……何故かアイシャに異様に対抗しポンポンをダウドが振り出したが
アルベルトがスリッパで一発叩き阻止する。
 
「……腸を喰らいつくしてやると言ったが訂正してやるぞ!
貴様らの骨も残らぬ様ギタギタにしてくれる!!泣いて喚いてももう遅いわっ!!」
 
「やれるモンならやってみろよ、気が済むまで……」
 
ジャミルは欠伸をする。……しかしその瞳は視線を反らさずじっとバラモスを睨んでいる。
 
「ジャミル!駄目よ!!」
 
「だーいじょぶ、だいじょぶ、さっき戦ってみてコイツの動きのパターンとか分ったんだ」
 
「雑魚めが……、強がりを……、これで終わりにしてくれるわ……!!」
 
「それはこっちのセリフだっ!!」
 
そう言いながら、ジャミルはバラモスから離れ、ささっと逃げる。
バラモスの怒りは頂点に達したのかジャミル一人を追い掛け
他のメンバーには目もくれなくなった。
 
「遅えぞ、カバデブ」
 
しかしジャミルは持ち前の素早さを生かしバラモスからヒョイヒョイ逃げ回る。
 
「ジャミル……、何かすごく楽しそうだよお……」
 
「う~ん……」
 
……巨体のバラモスは素早いジャミルを追掛けるのに段々疲れてきていた。
 
「く……、くそ……、ヒィー……、ハァー……」
 
ジャミルは頬杖をついてバラモスの前にちょこんと座りこみ、
首を傾げてニヤニヤ笑う。
 
「もう終わり?ホラ、メラゾーマとかやんねえの?当ててみ?」
 
「おのれーーーっ!!」
 
バラモスは渾身の力を振り絞りジャミルに掴み掛ろうとする。が、ジャミルは
待ってましたとばかりに笑みを浮かべた。
 
「ジャミル!!」
 
「……怒り蹴りMAX会心の一撃っ!!」
 
しかし、ジャミルの方が速くバラモスを蹴り飛ばしていた。
蹴られたバラモスはふっ飛ばされ、今度は自身が壁に衝突する。
 
「ウ……、ウォ……、おのれ……、絶対に許さんぞ……」
 
「……今だっ!バギクロス!!」
 
強烈な鎌鼬がバラモスの身体をあっという間に切り刻む。
 
「ナイス!アル!!」
 
「私もっ!もう一回マヒャド!!」
 
「……うおおおおおお!!」
 
アルベルトとアイシャも攻撃援護に再び加わり、魔法でジャミルをサポートしてくれる。
 
「……オイラする事ないよお……、ぶつぶつ、ま、いいか、……暇なのはいい事だよお」
 
「へへっ、二人ともサンキューな!!」
 
「凄いよ!ジャミル!!」
 
仲間達が喜び勇んで駆け寄ってきた。
 
「……まだだ、まだ終わってねえ!!油断するなっ!!」
 
「……フフフ……、フハハ……、フハハハハハ!!」
 
「可哀想に、等々カバが頭にきたな……」
 
「わしは死なぬ……、魔王バラモス様は不死身だ……!人間共を全て抹殺し、
この世界は……、このわしが支配するのだーーーっ!!」
 
「……くっ!!ああああーーーっ!!」
 
「……うぉぉぉぉ!?」
 
「ジャミルーーっ!!」
 
ジャミル怒りの渾身の一撃、……稲妻の剣がバラモスの心臓を突き刺した。
 
「……わ、儂は死なぬ……、バラモスサマハフメツ……、フ……、
フフフフフフ……、ウォォォォォォーーーーー!!」
 
バラモスは凄い地響きを立てそのまま床にどさっと倒れた……。
 
「……」
 
ジャミルが無言で稲妻の剣を鞘に納める……。
 
「ジャミルっ!やったね!!」
 
「ジャミル!!」
 
「よかったよおお……、ジャミルぅ……」
 
「……フフフ……、フ、フフフフ……」
 
「げっ!?」
 
「う……、うそ……!!」
 
「……これで……、終わったと思うな……、なぜなら……、 ……」
 
バラモスは全部喋り終えないうちに息絶える。やがて身体が徐々に
溶け始め躯になる。その亡骸は灰へと変わっていった……。
 
「何だよ……、最後まで気持ち悪い奴だな……」
 
「負け惜しみだよお!きっと……」
 
「良かった……、これで終わったんだね……」
 
「ジャミル!この剣……」
 
バラモスの死骸跡からピンク色の剣が残されていた。
ジャミルは急いで剣を拾い上げて確認をする。
 
「これは……、もしかして……」
 
「サブリナさんの……、誘惑の剣かしら?」
 
ジャミルとアイシャは顔を見合わせる。
 
「とりあえず此処を早く脱出しなくちゃ!!」
 
「あ、そうだな!!」
 
「僕の残りのMPを使おう、……リレミトっ!!」
 
アルベルトの魔法で4人はバラモスの城を脱出。
ラーミアとスラリンが待つ場所へと戻る。
 
「おかえりなさーい!!みんなー!!」
 
「クゥイイイーー!!」
 
外に出るとラーミアに乗ったスラリンが皆を迎えに待っていた。
 
「よお!留守番ご苦労さん!!おめえ、何かもうラーミアの主みてえだな!」
 
「ピキ?ボク、かっこいいのかなあ?」
 
ジャミルがスラリンを茶化すとスラリンが不思議そうにトンガリを曲げた。
 
「スラリンただいま!いい子にしてた?」
 
「ピキー!!おねえちゃーん!」
 
スラリンが喜んでぴょんっとアイシャに飛びつく。
 
「みんなすごーい!ほんとにバラモスたおしたんだねー!!」
 
「ああ、カバの癖に強かったよ、ホント……」
 
「ピキー?」


後日談

「ところで、気になってたんだけど……、その剣何だい?
もしかして、凄いお宝だったりする?」
 
お宝マニアのダウドが興味深そうにピンク色の剣を覗き込んだ。
 
「やっぱり……、この剣がサブリナさんの大切な誘惑の剣なのかしら」
 
「ねえ、何の話だい?僕も気になってるんだ」
 
「そうか、まだアル達には話してなかったよな……」
 
ジャミルはアルベルトとダウドにポルトガでの一件を話す。
 
「そうだったのか……、ならこの剣を届けにポルトガへ寄って行こう」
 
「もしかしたらサブリナさんの呪いも解けてるかもしれないわ!」
 
「……だといいけどな……」
 
「平気よ!呪いを掛けた張本人はもういないんだから!」
 
一行はラーミアに乗り三度のポルトガへと急いだ。
 
 
ポルトガ
 
 
ポルトガの町はバラモスが倒れた事の喜びでお祭り騒ぎである。
 
「たく……、どこで情報が漏れるんだか……、倒してきたばっかりなのによ」
 
「でも、皆凄く楽しそうね……」
 
町の中央には焼きたてのお菓子などを並べた市が並んでいる。
彼方此方から甘くて美味しそうな匂いが漂ってくる。
 
「持ってけドロボー!今日はみんなサービスだ!あ、本当にタダで持っていくなよ!!」
 
「そこの兄ちゃん姉ちゃん達!見てってよ!!」
 
……グゥゥゥ~ッ……
 
「あ……」
 
たまらない匂いに釣られてジャミルのお腹が鳴った。
 
「……」
 
「わ、分ってるよ……、早くカルロスんとこ行って報告と剣を届けねーと……」
 
「少し休憩しようか、折角のお祭りムードだし皆で何か食べて行こう」
 
「あう!?」
 
「私もいいよ、休憩したいしね!」
 
「オイラもーっ!!」
 
「……」
 
「ジャミルー!早くー!!」
 
「あ、ああ……」
 
(先に寄り道なんかするといつもは怒る癖に……、珍しいな……、ま、いいか……)
 
困惑しながらも食べ物の誘惑には勝てずジャミルも皆の後を追った。
4人は港近くのクレープワゴン屋で甘いクレープを頬張る。
 
「おっさん、チョコレートのやつもう一枚焼いて!!」
 
「お、兄ちゃん食いっぷりがいいねえ!気に入ったよ!!」
 
「ふう~……、ごちそう様……」
 
「アルもおかわりすれば?」
 
「いや、一枚で沢山だよ……、そんなに食べたら体中が甘ったるくなるよ……」
 
「ほどほどが美味しいのね!」
 
「ピキー!!」
 
「生クリームもいっぱい付けてくれよ!」
 
「はいよー、サービスするよー!!待っててねー!」
 
「……」
 
「な、何だよ……」
 
「ジャミル……」
 
「ん?」
 
「……太るよ……」
 
「豚になっても知らないからね……」
 
呆れ顔でアルベルトとダウドがジャミルを見た。
 
「だーかーらー!!俺太んねー体質だって何回も言ってんじゃん!!」
 
「いや……、幾ら細いって言っても限度があるでしょ……」
 
「私も太ったジャミルはイヤかも……」
 
 
「……ガーーンッ!!」
 
 
「ほれ見ろ……」
 
「いこ、スラリン」
 
「ピキ」
 
「おい待てよ!!……アイシャあ~!!」
 
「きゃっ!?」
 
「……おっと!」
 
店に来た客とアイシャの肩がすれ違いざまにぶつかったらしい。
 
「いたた……、あ、ごめんなさい!」
 
「こちらこそすみません、大丈夫ですか?」
 
「おい!何やってんだよ!アイシャ!」
 
「あれ?あなたは……」
 
「アイシャさん!」
 
「わぁー!カルロスさんだー!私達あなたを探してたのー!」
 
「カルロス?カルロスか!?」
 
意外な所で再会でビックリ。ジャミル達はカルロスとばったり鉢合わせする。
 
「ジャミルさんも……、ああ!お久しぶりです……!!」
 
「タイミング良すぎ……」
 
ジャミルはカルロスにアルベルトとダウドを紹介する。
 
「あんたら、んな処で立ち往生して何やってんの!?他の客の邪魔だよ!」
 
クレープ屋の親父が拳振上げわーわー捲くし立てる。
 
「おっと、やべえ!」
 
「丁度今、甘い物を食べたいなと思いまして……、散歩に出て来たんです、
良かったら私の家に来ませんか?積もる話もありますし……」
 
クレープ屋から離れ、少し歩くと美しい女性が此方に歩いて来る。
 
「ジャミルさん、アイシャさん……」
 
「ん?どっかで会ったっけ……?」
 
「サブリナです……、猫だった……、お久しぶりです……」
 
「えーーっ!?」
 
「良かったじゃん!元に戻って!おめでとさん!!」
 
「皆さん……、有難うございます……、本当にバラモスを倒してくれたんですね……」
 
カルロスが涙を流し、サブリナも寄り添う。その心からの二人の
幸せそうな姿にアイシャもほっとし思わず涙を溢した。
 
「良かった……、本当に……」
 
「けけ、泣き虫アイシャ!」
 
「……何よーっ!いいじゃない!ジャミルのバカ!!」
 
「ふふふっ」
 
此方のお騒がせな二人の様子を見てサブリナがくすっと笑みを漏らす。
そして、4人はカルロスの自宅へと招待された。
 
「何もない所ですけど……、どうぞゆっくりなさっていって下さいね」
 
「大っきいお家だねえー!」
 
ソファーに腰掛けてダウドが足をプラプラさせる。スラリンは皆を待っている間の
疲れが出たのか、アイシャに抱かれてお昼寝中。
ジャミル達はリビングで寛ぎながら、旅の色々な話などをカルロスに話したりと、
会話が弾んでいる処に、台所へ姿を消していたサブリナが焼きたてのケーキと紅茶を運んでくる。
 
「どうぞ、召し上がれ」
 
「うわっ!すげー、うまそっ!!」
 
「久しぶりだから……、あまり美味しくないかもしれないのだけれど……」
 
「これってサブリナさんの手作り!?うわー♡」
 
アイシャが目をキラキラさせる。
 
「パウンドケーキなの、彼の家の台所を借りて、ちょちょいっと
簡単に作ってみたんだけど、お味はどうかしら?」
 
「すんげーうめえ!」
 
「本当に美味しいですよ!」
 
「幸せー!サブリナさん、お料理上手ねえー!」
 
「おいしいよお、すっごく!」
 
ジャミル達には大好評だった。最もジャミルはさっきクレープを
ドカ食いしたのだが、それでもまだまだお腹は受け付けている模様。
 
「良かったわ……、美味く作れて……」
 
サブリナが安心した様に大きく息を吐く。

「あ、ジャミル、食べてばっかりいないでさ、大事な剣を渡さないと…」
 
「ああ、そうだったな……」
 
アルベルトに言われ、ジャミルは急いで口の中のケーキを
喉に押し込み、誘惑の剣をカルロスに見せた。
 
「これ……」
 
「それは……、誘惑の……!サブリナ!」
 
「ええ、間違いないわ!」
 
カルロスが身を乗り出し、サブリナが剣を手にする。
 
「やっぱりバラモスの野郎が隠してたらしい……」
 
「サブリナ……、良かったね……!」
 
「……この剣は特殊な剣で、女性しか扱う事が出来ないの」
 
サブリナはそう言ってアイシャを見た。
 
「あなたが貰ってくれないかしら……」
 
「えっ!?わ、私が……?」
 
「この先、もしも何かあった時、きっとあなたの身を守ってくれる筈よ……」
 
「でも……、こんな大事な物を……、受け取れないわ」
 
「どうか貰ってあげて下さい、アイシャさん……」
 
「カルロスさん……、うん……、分りました……」
 
アイシャが誘惑の剣をサブリナから受け取った。
 
「何かかっこいーよ!アイシャ!」
 
「も、もう、ダウドったら……、でも、似合うかな……、えへへ……」
 
ダウドが茶化し、アイシャが顔を赤くした。
 
 
……
 
 
バラモス討伐も無事幕を閉じ、4人は一路アリアハンへと帰国する事になった。
カルロスとサブリナも4人を見送りに、町の外まで付いてきてくれる。
 
「ジャミルさん達……、本当に有難う……」
 
「またいつでも遊びに来て下さいね、僕達、いつでも皆さんを歓迎しますよ!」
 
「ああ、またな!」
 
「さようなら、どうかいつまでもお元気で……」
 
「大切にするわ、この剣……」
 
 
ポルトガを出発し、4人はラーミアに乗り一路アリアハンを目指す。
 
「スラリン……、寝てばっかりでおきないねえ……」
 
「いいよ、うるせーから」
 
「色々あったけどこの旅も終わりだね……、長かった……」
 
「ちょっと淋しいな……、怖くて泣いちゃったし、色々大変な事もあったけど、
振り返れば辛い事も、みんな、その一つ一つが思い出に変るのね……」
 
それぞれがこの旅の思い出を振り返る中、ジャミルは一人で考え事をしていた。
 
「……」
 
「ジャミル、どうかした……?」
 
珍しくジャミルが何か考えているのが気になったらしく、アルベルトが訪ねてみる。
 
「へ!?い、いや……、何でも……」
 
「?」
 
(どうも引っかかんだよな……)
 
 
……これで……、終わったと思うな……、なぜなら……、 ……
 
 
「ま、考えてもしょうがねえか!」
 
「ねえ、帰ったら行かなきゃいけない場所が沢山あるわ……」
 
「そうだな、テドンの村と、ポポタの所と……、あとどこだっけ?」
 
「スラリンのお母さん達も探してあげなくちゃね」
 
「レイアムランドにも寄って預かって貰っているナイトハルト様の船をお返ししなくちゃ!」
 
「じゃあ、いずれは又ポルトガに来なきゃねえ……」
 
「はいはい……?忙しいネー!、……ちょっと待て……!」
 
「何?」
 
「何だよお」
 
「トイレ行きたくなった……」
 
 
「……えええーーっ!!」
 
 
突然始まった空の上のジャミルの尿意。……他のメンバーは声を揃えた……。
 
「……何でさっきポルトガにいた時してこなかったの!!
ってか、ああっ!どうせなら殿下にも報告と挨拶してくれば良かったーーっ!」
 
アルベルトが呆れて怒るのと、ちょっと後悔を始めた……。
 
「んな事言ったってよ……」
 
「ちょ、ちょっと……、ジャミル!?」
 
「はうあ~……、こ、こっから……」
 
「だめえーーっ!!ジャミルーーっ!!」
 
アイシャもギャーギャー騒ぎ出し、ラーミアの背中の上で一行は大パニック。
 
「人が見てたらどうするんだよっ、恥をかくのは結局、僕らなんだよ!?」
 
「プライドも何もねえ……!俺の膀胱の命には代えられねえ……!」
 
「これがバラモスを倒した英雄ねえ……」
 
「バカダウドうるさい!せーのっ……!」
 
「ジャミルーっ!やめろーーっ!!」
 
「駄目だよお、ジャミルーっ!!」
 
「キャー!お願い!!やめてーーっ!!」
 
 
「……投下ーーっ!!」
 
 
       ( ´Α`)( ´Α`)( ´Α`)
 
またラーミアに海に叩き落とされた4人であった……。
 
 
「……ジャミルのばかたれーーーっ!!」
 
 
……何はともあれ、長かった戦いは終わり、これで世界に再び平和が戻ったのである……。

その3

新たなる厄災編

祝賀会の日

……ジャミル……
 
   ……ジャミル…
 
ん……
 
目覚めなさい……、もう時間がありません……
 
 
う……
 
お願いです……、勇者ジャミル……、どうか……を……
 
 
       
    ジャミルううううーー!!
 
 
「……ぶわっ!!」
 
「ねー!おきなよぉぉぉ!!みんなまってるよおー!!」
 
「んーぐぐぐぐぐ……、ぐっ……、ぷはーっ!!」
 
ジャミルは顔に張り付いたスラリンを慌てて引っ剥がした。
 
「ハー……、ハー……、コラ、スラ公!てめえ人を殺す気か……!!」
 
「だってジャミルずーっとおきないんだもん……、みんなまってるよおー?」
 
「おめーその喋り方やめろよ……、ダウドみたいになってきてるし……、感染したか……?」
 
「ピキー?」
 
「全く……、帰ってくるなり寝ちゃうんだもん……」
 
フライパンを肩に担いだファラが部屋に姿を現す。
 
「ファラ……、そうか、俺ら帰って来たんだっけ……、アリアハンに……」
 
「今日はお城で祝賀会があるんでしょ?バラモスを倒したお祝いにさ」
 
「あー面倒くせーな……、疲れてんのによ……」
 
「何言ってんだい!しゃんとしなよ!ホラ、髪の毛がボサボサだよ!!
平八みたいになってるよ!横の髪の毛!」
 
「……誰だよっ!平八って!!」
 
ファラは既に部屋から逃走しており、姿が見えない。
 
「う~……」
 
唸りながら鏡の前に立つ。……鏡には疲れた顔が映っている。
 
「それにしても……、まーた久々に例の変な声が聞こえたな……、何だっつーんだ……」
 
支度が整った頃にアルベルト達が自宅へとジャミルを迎えにやって来た。
 
「ジャミルー!迎えに来たよー!」
 
「……あ~……、今いく……」
 
「まだ寝てたの……?もう!お寝坊さんなんだから、ジャミルはー!!」
 
寝ぼけ眼で部屋から出てきたジャミルを見て、アイシャがくすくす笑った。
 
「うるせーな、いいんだよ!」
 
「相変わらずだねえ、ジャミルう」
 
「お前もな、バカダウド」
 
「……あうう~……」
 
「アンタ達、来てくれたんだ、中々このおバカジャミルが起きなくて困ってたとこなの」
 
「……誰がおバカだっての!」
 
「こんにちはー!ファラー!わあ、エプロン似合うねー!」
 
「あはは、まあね……、今回の役どころだからさ、あ、でも、決して母親じゃないの、
あくまでも、このアホのお姉さん的立場なんだよ!」
 
「そうなの~!うふふ、でも、ファラが着けてる猫さんエプロン可愛いね!
今度私にも貸してね!あ、後でお料理教えてね!」
 
「あはは、そうかな……、はいはい、分ったよ、アイシャってば……」
 
そう言いながらファラはジャミルの側にいる天然アイシャを
何となく複雑そうな顔で見ていた。
 
「もてる男は大変なんだね、ジャミル……」
 
「本当だよお!よっ、この浮気性のワル男!!」
 
ぼそっと嫌味を言うアルベルトとダウドの二人。
 
「何がだっ!あ、アイシャ……、時間ねえから……、城いこ、城、な?」
 
ジャミルはアイシャを引っ張り、慌てて家から出て行った。
 
「はあ、行ってらっしゃい、夕ご飯は作っておくからね!」
 
「ピキー!いってらっしゃい!」
 
スラリンをファラに預けて、4人はアリアハンのお城へ向かうが。
……城に向かおうとしたジャミル達を沢山の人達が取り囲む。
 
「やったね!勇者のお兄ちゃん!!」
 
「おお……、勇者よ……、よくぞバラモスを倒してくれた……」
 
「もう、魔王はいないんですよね……?」
 
「凄いな!ジャミルは!」
 
「流石は勇者オルテガの息子!!」
 
(だから……、オルテガなんて、俺は、さ……)
 
「ジャミル……、元気ないね……?」
 
歩きながらアイシャがジャミルの顔を覗き込む。
 
「どうせお腹でも減ってんじゃないの?寝すぎて時間無くて朝ごはんも食べてないみたいだし、
ジャミルの事だから多分……、いや、絶対そうだとオイラは推測するね!」
 
「やかましー!つまんねー事推測すんなっ!」
 
いつも通りダウドを殴るジャミル。
 
「本当に変わんないね、君達も……」
 
「ん、この匂い……、くんくん、焼きたてのパンの匂いね……」
 
アイシャが鼻をくんくん。立ち並ぶ店から朝イチで焼きたての
香ばしいパンの香りが漂ってきた。
 
「……本当に腹減ったな、パンでも食ってくか、匂いの所為で腹が減って来た……」
 
「おい……、さっき……」
 
と、アルベルトが突っ込もうとしたがジャミルは既にパン屋へと走って行った。
 
「~♪」
 
「本当に……、これが……、バラモスを……」
 
「これが現実なんだよお、アル……」
 
「あはは、あははは……」
 
「ん?」
 
パン屋に入ろうとしたジャミルは足を止めた。店の前に金髪の少年が座り込んでいた。
歳は16歳ぐらいだろうか、少年には何故かサルだか猫の様な尻尾が生えていた。
 
「何してんだ……、お前……?」
 
「誰でもいいさ、俺の話を聞いてくれ……」
 
「はあ?」
 
「俺は、ジタン、ジタン・トライバル」
 
「FFⅨの主役の奴か?」
 
「あんたよく知ってるな……」
 
「まあな、色々と情報量が広いからな、で、何してんだよ」
 
ジャミルはジタンの隣に腰掛ける。
 
「可愛い女の子を探してたらいつの間にかこんなとこまで来ちまって、
故郷に帰れなくなっちまった……」
 
「はあ?」
 
「……探してるんだ、俺のいつか帰る所……」
 
ジタンは淋しそうな表情をしているが、故郷に帰れなく
なったらしき理由が滅茶苦茶である。
 
「まあ、元気出せや、その内いい事もあんだろ……」
 
「あんたいい奴だね……、処で、この辺に可愛い女の子
いないかい?知らない……?」
 
「はあ……?」
 
「オレ、女の子不足で身体がもう干からびそうなんだよ……」
 
「ほんっとにワケわかんねー奴だな……」
 
「ジャミルー!もう、何してるのよー!」
 
「あ……」
 
アイシャがこちらにやってくる。……アイシャの姿を見たジタンは
思わず尻尾をぴんと立てた。
 
「お!お……、女の子だああ~!!」
 
 
……
 
 
「……連れてっちゃ、駄目……?」
 
「だーめっ!!」
 
「俺、ジタン!特技は女の子をナンパする事!」
 
「全く……、何してんのかと思ったら……」
 
「馬鹿だよお~……」
 
「こんにちは」
 
「かーわいいなあ……、君、名前は?教えてよ!」
 
「アイシャです……」
 
「アイシャちゃんかあ……、ねえ、俺と今度、飛空艇でデートしようよ!!」
 
「コラ!アイシャには手ぇ出すなよ!!」
 
「ジャミルっ!!早く捨てて来なさい!!これ以上ジャミルが増えたら大変だよ!!」
 
「何の話になってきてんの……、でもアル、捨ててこいって
動物じゃないんだからさ、失礼だよ……」
 
珍しくダウドがアルベルトに注意する。
 
「と、とにかく……」
 
「ジタン……!やっと見つけた!!」
 
「え……?」
 
「……ダ、ダガー……!?」
 
「急にいなくなったと思ったら……!こんな所でまーた女の子を口説いてたのね!!」
 
……4人とジタンの前に現れたのは、黒髪ロンゲの清楚な顔立ちの美少女。
少女は腰に手を当て、仁王立ち。ジタンにめっ!で怒っている。
 
「ああ、愛しのダガー!オレのハニー!こ~んな所まで
オレを探しに来てくれたのかあ~!やっぱオレ達って、何処にいても
繋がってる、雅に運命共同体!?
 
「うわ……」
 
ジタンは寒いポーズと台詞で迎えに来たらしき黒髪の美少女を口説き始める。
 
「何がオレのハニーよ!全くっ!もう知りませんっ!」
 
「……」
 
「ほら、帰るわよ!どうもお邪魔しました」
 
「……」
 
彼女らしき女の子はジタンをズルズル引っ張っていった。
それをぼけーっとみている4人。
 
「……ああ……、行っちまった……」
 
「綺麗な人なのに……、凄い力ね……」
 
「……」
 
「……」
 
アルベルトとダウドが代わる代わるにジャミルとアイシャを見た。
 
「……何だよ……」
 
「……何……?」
 
 
「どこも同じだねえ!」
 
 
「何だとー!?」
 
「何よー!!」
 
「……あははははは……」

その4

闇の国からの使者

アリアハンの城
 
 
「おお、勇者達よ……、よくぞ魔王バラモスを打ち取ってくれた……、
この世界にも国にも再び平和が戻った……、心から礼を言うぞ……」
 
テオドール国王が4人に深々と頭を下げる。それを見たジャミルはいつもの如く、
調子に乗り出し、得意げにヘヘんと鼻を擦る。
 
「ヘッ、ま、あんなカバ、俺の手に掛かっちゃ屁でもねえ!」
 
「も~!調子に乗らないのっ!!」
 
アイシャがいつも通り怒り、側にいるアルベルトとダウドも困り顔。
 
「勇者様、有難うございます!」
 
「本当に有難う!」
 
城の兵士たちもお礼を言い捲り、ジャミルはますますデレる。
 
「まいったなあ~、ンモ~、俺っていつの間にかこんな有名人になっちゃった?」
 
「ま、こんな機会滅多にないからね、いい事かもね……」
 
「……なんだとっ!?この腹黒っ!!」
 
「もうっ、やめなさいったらっ!!国王様の前でっ!」
 
「はあ~……」
 
「ゆ、勇者様、勇者様っ!」
 
「あ、何……?」
 
先程の兵士達が再びジャミルの側にやってくる。……何やら色紙を持っている。
 
「ウチの娘が勇者様の大ファンなんですよ、サイン下さい」
 
「はああ~……?」
 
「じゃ、じゃあ……、自分も……、私の実家にいる娘の分も…」
 
「じいちゃんとばあちゃんの分も下さい!」
 
「親父と母さんのも貰わなくっちゃ!」
 
「ほへえー?」
 
「そなたは皆に愛されておるのだな……」
 
うむうむと頷き、国王が笑った。
 
「……俺が?うーん……、よく判らん……」
 
「ジャーミルうー♡」
 
「おわっ!!?」
 
今度はアイシャが飛びついて来た……。
 
「今度又、二人で何処か遊びに行こうね!」
 
「わ、分ったから……、恥ずかしいよ……」
 
「ふふ、ジャミルってば、照れなくてもいいでしょ、に、しても、
君にも一応恥じらいはあったんだね……、ぷっ」
 
「だからっ、うるせーってんだよ、腹黒!」
 
「そうだよお!いっつもいちゃいちゃしてるんだから!!」
 
「……あわわわわわ!!」
 
「お二人は仲が宜しいのですね、羨ましい……」
 
「いえいえ、普段は破壊喧嘩ばっかりで、オイラ達、その耽美に仲裁しなくちゃ
いけないから、困ってるんですよお~、世話が焼けますよねえ~……」
 
「ちょっとダウドっ!?」
 
「オメーもどさくさに紛れてなんだっ!」
 
「ははは、さあ、皆の者!宴の準備だ!!」
 
現場はますます賑やかな雰囲気になる。頃合いと思い、国王が
宴の合図を兵士達に送ったその瞬間……。
 
 
……フフフ……、呑気なものだな……、ドブ鼠共め……
 
 
「ダウド……、お前、今何か言ったか?」
 
「知らないよお!言わないよお!」
 
「おかしいな、確かに何か声が……、空耳……」
 
 
……ゴゴゴゴゴゴ……
 
 
「……何だ!?うわっ!!じ、地震……!?」
 
「きゃあああっ!!」
 
「ゆ、ゆれてるー!!ゆれてるよおおー!!」
 
「……大きいぞっ!!」
 
予期せぬ突然の地鳴りが城中を襲ったのだった……。
 
「いやっ!!ジャミルっ!!」
 
アイシャは必死でジャミルにしがみ付き、ダウドはエライこっちゃ状態で、
あっちこっち走り回る。
 
「……うわあああああーーーっ!!」
 
直後、謎の稲妻が兵士達に次々と直撃していき……、
兵士達は見るも無残な姿へと変り果てる……。
 
「兵士さん!!……いやーーーっ!!」
 
ジャミルにしがみ付くアイシャの手がガクガク震えている……。
 
「……ち、畜生……!!」
 
「お、おさまったみたい……」
 
ダウドが安心した様にその場にヘタレて座る。
 
「いや……、一時的な物かも……、まだ安心出来ないよ……」
 
「アールーうー……、やだよお~……、おどかさないでえー……」
 
「兵士さん……」
 
黒焦げになった無残な残骸を見つめながらアイシャが言葉をこぼした。
 
「……さっきまで普通にお話してたのに……、どうして……、どうしてなの……」
 
「アイシャ……」
 
 
       ……フフフフフフ……、フハハハハハハ!!
 
 
「だから、誰なんだよっ!?」
 
突如不気味な声が城中に響き渡る。
 
「な、何なの……?」
 
「笑ってねえでいい加減姿を見せやがれ!!」
 
「何か……いやーな……、予感するよお……」
 
 
……残念ながら貴様らにはまだ儂の姿を拝ませてやる事は出来ぬ……
 
 
聞こえてくる謎の声に4人は固まって戦闘態勢を作る。
 
 
……儂は闇の世界を支配する大魔王ゾーマ……
 
 
「……大魔王……、ゾーマ……?」
 
……そうだ、……儂こそがこの世界の真の支配者……、
儂がいる限りいずれはこの世界も儂の物……、闇に閉ざされるであろう……
 
「そ……、そんなあ……、じゃ、じゃあ……、バラモスって一体何だったのさあ……」
 
丸くなって怯えるダウド。
 
儂が闇の世界から送り込んだ刺客だ……、だがあのクズめ……!お前ら如きに
やられるなどと!!……余りにも腹立しいではないか……!!
 
「うわ!!ま、またかよ……!!」
 
再び地鳴りが始まり、城中が強く揺れ出した。
 
「もお~……、やだよおおお~……」
 
「ダウド!しっかり……」
 
アルベルトが倒れそうになるダウドをしっかり支える。
 
 
フフフ……、苦しめ……、苦しむが良い……、お前達の苦しみこそが儂の喜び……
苦しみは喜び……、やがて儂の世界……、闇の世界がお前達すべてを飲み込むであろう……
 
 
「ちっ……!冗談じゃねえ!!そんな世界来られてたまるか!!」
 
 
ハハハ!!喚くが良い!!この世界は儂が支配するのだーーーっ!!
 
 
「そんな事させないんだから!!」
 
 
お前達ゴミ屑がどう足掻こうがこの大魔王ゾーマ様には敵うまい……!
精々無駄な努力をする事だな!!ハハハハハハ!!
 
 
ゾーマの声は消え、地鳴りも収まり城には再び静寂が戻ったが……。
 
「おお……、何と言う事だ……、やっと平和になったと言うのに……、大魔王ゾーマ……、
……あの様な奴がおったとは……、おお……」
 
「……」
 
「おいたわしや……、王様はすっかり元気をなくされてしまった……」
 
側近の大臣も俯き、悲しそうに呟く。
 
「お前達もう下がってよいぞ……、この事はくれぐれも民には言わぬ様……、
闇の世界が来るなどと……、どうして皆に伝えられようか……」
 
気分が落ち着かないままジャミル達は城を後にする。
町の中も地震の影響で混乱していた。
怪我人は多少いたものの、幸い死人は出なかったらしい。
4人は自分達にも何か出来る事をと、地震で崩れた瓦礫の
撤去などを手伝う。……気が付いた時にはすっかり日も暮れ、
既に夕方になろうとしていた。
 
「……ど、どうするの……、ゾーマ……、倒しに行くの……?」
 
浮かない顔で怯えながらダウドが聞いてきた。
 
「でも……、ゾーマが何処にいるのかも判らないわ……」
 
「手掛かりなしってか……、ふ~……」
 
「だけど……、バラモスを陰で操っていた奴がいたなんて……」
 
「……ああ……、ゾーマが黒幕だったんだ……」
 
 
……これで……、終わったと思うな……、なぜなら……、 ……
 
 
「あのカバが死に際に言ってたのはこの事だったんだな……、クソッ……」
 
家に戻るとスラリンを抱いたファラが慌てて飛び出してきた。
 
「あっ、帰って来た!ジャミルどうしたの?浮かない顔して……」
 
「ピキー!すごかったのー!がたがたーって!!」
 
「そう言えば昼間の地震凄かったねー!どうしたんだろうね、一体……、
あたい達、丁度お茶タイムでさ……、ホントびっくりだよ……」
 
「とりあえず腹減った……」
 
ジャミルはいつもの調子でおどけてファラに笑って見せる。
 
「はいはい……、ったく、あ、今日は皆も泊まっていきなよ、
夕ご飯の用意も出来てるよ、沢山作ったからさ」
 
「ジャミル……」
 
心配そうにアルベルトがジャミルを見た。
 
「……今日はもう休もうや……、何も考えたくねえよ……」


再び旅立ちへ

夕飯時もジャミル達は落ち着かず、食事の手も何となく進んでいない様に見える。
 
「……ご馳走さん、ファラ、久々のお前の飯、美味かったよ」
 
「どうしたのさ!ジャミルもういいの?だってアンタいつも3杯ぐらい食べるじゃん!」
 
「んーと、今日はもういいや……、何か疲れちまって……」
 
(プ……、最高5杯ぐらい食べたの見た事あるのに……)
 
「ねーアルってさ……、普段は大声出してあまり笑わないけど……、
時々横向いて笑ってんだよね……」
 
「うん、こそっと……」
 
小声で話すダウドとアイシャ。
 
その夜……、他のメンバーは皆、床に着いたがジャミル一人で眠れないでいた。
 
「これでふりだしに戻っちまった訳か……、あーあ……」
 
……しかし足りない頭で色々と考え過ぎた為、結局はすぐに眠ってしまったのだった。
 
 
……ジャミル……
 
 
そして今夜もジャミルの夢の中にいつもの声の主が現れた。
 
なあ……、そろそろ教えてくれないか……、あんた一体何もんなんだ……
 
 
もう時間がありません……、私があなたに伝えられる事はこれが最後です……
 
 
最後って……
 
 
もうすぐ私の心も完全に石になってしまう……、それまでに全てをあなたに伝えます……
 
 
石になる……?それってどういう……
 
 
バラモス城の近くにギアガの大穴と呼ばれる場所があります……
其処からもう一つの世界へ向かうのです……
 
 
もう一つの……世界……?
 
 
そう……、其処は伝説の地……、そこですべてが判る筈……
 
 
其処へ行けばゾーマがいるってのか……?
 
 
ええ……、ゾーマはもう一つの世界、アレフガルドにいます……
 
 
アレフガルド……
 
 
頼みましたよ……、勇者ジャミル……、時間が来たようです……
 
 
えっ……!?お、おい……、どうしたんだ……!?
 
 
私は……、どうか私を……お……
 
 
声はそこで完全にぷっつりと途絶え何も聞こえなくなってしまった。
 
次の日の朝、ジャミルはファラがゴミ出しに出掛けた隙に
夢での出来事をアルベルト達にも話す。
 
「アレフガルド……、そんな所があるんだ……」
 
「そこにゾーマがいるのね……」
 
「で、でも……、なーんかあやしいよお~……」
 
「ダウド、ジャミルの夢に出て来た人は今まで間違った事は
言ってなかったでしょう……?何度も私達に色々教えてくれたじゃない……」
 
「でも、まだそいつが何モンなのかも分かんねえぜ?」
 
「それはそうだけど……」
 
「……」
 
4人は考え込んでしまう。
 
「とにかく……、ギアガの大穴へ行ってみようぜ、ここで座り込んでてもしょうがねえ」
 
ジャミルが椅子から立ち上がった。その時。
 
「……何?ギアガの大穴って……」
 
「ヒッ……!?ふぁ、ファラ……」
 
いつ戻って来たのかいつの間にかファラが後ろに立っていた。
 
「ス、スラリン、お散歩しよーねっ!」
 
スラリンを外に連れ出すアイシャ。
 
「んじゃ、ジャミル、オイラ外で待ってるから!」
 
「お、おい……」
 
慌ててダウドもスタコラ逃げて行く。
 
「上手く説明しなよ、そこん処は君に任せるよ」
 
続いてアルベルトも逃げて行き、その場にはジャミルだけ取り残され……、
ジャミルはファラに追い詰められる。
 
「ジャミル……、……おほんっ!」
 
「あ、あのな……」
 
「昨日からどうも様子がおかしいと思ったんだよ」
 
「ハ、ハハ……」
 
「……こらっ!何隠してんの!教えな!!」
 
「わ、分ったよ……」
 
「お願いジャミル……、あたいに隠し事しないで……」
 
「……お前に余計な心配掛けたくなかったんだよ……」
 
「ジャミル……」
 
ジャミルは城での出来事、夢の中での声の事など、全てをファラに話した。
 
「そうだったんだ……、黒幕がね……、成程ね……」
 
「ああ……」
 
「んで、やっぱり行くんだ?」
 
「うん……、ごめん……」
 
ファラは一瞬淋しそうな顔をしたが、俯きそうになった顔を上げ、
笑顔でジャミルの方を見た。
 
「分ってるよ……、アンタ変な処で正義感強いんだもん……」
 
「ファラ……」
 
「行ってらっしゃい……、あたい止めないよ、だって……」
 
「……」
 
「あんたなら殺しても死なないと思うし」
 
「……おま~な~……」
 
「くれぐれも拾い食いなんかすんじゃないよ!みっともないから!」
 
「ダウドと同じ事言わないでくれ……」
 
「あら?」
 
「あのさ、ゾーマの事は町の奴らには言うなよ?」
 
「何で?」
 
「皆、バラモスがいなくなった事で安心してんだ……、けど、奴が
下っ端だったなんて判ったら……、また皆が不安になんだろ?」
 
「優しいね、ジャミルは……、普段は野蛮でガサツな原始人だけど……」
 
「……野蛮とガサツは余計じゃ……!!あと原始人もだよっ!」
 
「ジャミルー、まーだーあ?」
 
家の外で聞こえる寝ぼけた様なダウドの声。
 
「わーったよ、今いく!」
 
「じゃあね、ジャミル……、でも、約束してよ、絶対……、必ず帰って来るんだからね!」
 
「ああ、行ってくらあ!!」
 
ファラに見送られ、ジャミルが家を出て行く。ファラはそんな彼の後ろ姿を
見えなくなるまで、いつまでも……、窓からずっと見つめていた。
 
「……あいつ、帰って来なかったら呪いの藁人形打ち込んじゃうんだから……」
 
「びえええっくしっ!!……な、何か異様な悪寒が……、又風邪でも引いたかな……」
 
ジャミル達は再びラーミアの背に乗る。いよいよ新しい冒険の開始である。
 
「久しぶりのラーミアー♡また宜しくねー!」
 
「クゥイー!」
 
アイシャが嬉しそうにラーミアの背中を撫でるとラーミアも一声鳴いた。
 
「あーあ、やーっと終わったと思ったのにィ~!」
 
ブーブー文句を言うダウド。
 
「ねえ、ジャミル、ポポタの所へ寄って行くでしょ?
ポポタ、喜ぶわよー!」
 
「ああ、約束したからな、バラモス倒したら会いに行くって」
 
しかしジャミルの表情は冴えず……。
 
「ジャミル……、元気ないね……」
 
アルベルトがジャミルの顔を覗き込んだ。
 
「んな風に見えるか……?」
 
「うん、何となく……」
 
(ジャミル……、ゾーマの事できっと頭がいっぱいなんだわ……)
 
「あ、あの……、ジャミル……」
 
アイシャが顔を赤くしながらジャミルに声を掛けた。
 
「ん?」
 
「一人で悩まないで……、私達がいるじゃない……!それはゾーマの力は
とてつもなく強大で恐ろしいかもしれないけれど……、私達4人の力を併せれば、
うん、きっと大丈夫よっ!!」
 
「何の話してんの……?」
 
「え……」
 
「……違うみたいだよ、アイシャ……」
 
「……え……」
 
「近頃……、なーんか便通が悪くって……、下っ腹がぽっこり
してきた様な気がすんだよなあ……」
 
折角のアイシャのジャミルへの励まし。一瞬にして灰と化す。
 
「だから、それは食べ過ぎだって……」
 
 
「……ジャミルのバカ!!」
 
 
「久々に聞いた気がするよお……」
 
「乙女心が分ってないね……、全く」
 
「おねえちゃん、おこった……?」
 
4人がギャースカ揉めている間にもラーミアは只管ただ、黙々と飛び続け、
やがてムオルの村へと到着。ラーミアがもし言葉が喋れれば、こんなうるせー
連中は金輪際背中に乗せたくないと口に出したかも知れない。
 
 
ムオルの村
 
 
「おお~、久しぶりだなあ……」
 
「本当、何処も変わってなくて何よりだね」
 
「ジャミルさん……?」
 
「や、どうも……」
 
「皆ー!!ジャミルさんだー!!」
 
村人達がジャミルを見つけるなり突進してきた。
 
「ジャミルさーん!!」
 
「ジャミルさん、お久しぶりです!」
 
「久しぶり……、こんちは……」

その5

ポポタと再会

「ジャミルちゃーん!!」
 
「……げ!」
 
「元気だったかーい!?おばちゃんはもう淋しかったよーっ!!」
 
いつぞやの太ったおばさんがジャミルをサバ折りで力いっぱい抱きしめる。
 
「……ぐええええーっ!!」
 
「わーい!ジャミルたのしそうー!!」
 
「ねえ、本当にそう見える……?スラリン……」
 
ダウドがスラリンを横目で見るがスラリンはきょとんとしている。
 
「ピキー?」
 
「ちょっとずるいよ、あたしにも貸しとくれよ!」
 
「何を言う、わしが先ぢゃ!」
 
ジャミルはもう方々から引っ張りダコである。
 
「勘弁してくれーっ!」
 
「おにいちゃん?」
 
「ポポタか……?」
 
其処へ、ポポタ登場。ジャミルの危機?を救ってくれる救世主現る。
 
「わーい!ジャミルおにいちゃんだーっ!やくそくまもってくれたーっ!!」
 
「はは、元気だな、相変わらず……」
 
「こんにちは、ポポタ」
 
「アルベルトおにいちゃん!ダウドおにいちゃん!アイシャおねえちゃん!」
 
「あ、この子も宜しくね、お友達なのよ」
 
「ピキー!ボク、スラリン、よろしくー!」
 
アイシャがスラリンをポポタに見せると、スラリンもトンガリを曲げてご挨拶した。
 
「わー!ちっちゃいスライムだーっ!」
 
「う~ん、悔しいねえ……、やっぱりポポタに取られちまったか……」
 
「えへへ!おにいちゃんたちはぼくとあそぶんだよ!!」
 
ポポタが笑顔でジャミルの手を取る。
 
「はやくおうちいこ!おじいちゃんもおにいちゃんたちにあいたがってたんだよ!!」
 
「よし!後で村長の家に突撃してやる!!」
 
「待ってろこんちくしょー!」
 
村人たちは揃ってドタドタ走って行った。
 
「なんか……、相変わらず面白い人達だね……」
 
「うん…すごくユーモアたっぷりと言うか……、明るいと言うか……」
 
村人達の元気パワーに付いていけないダウドとアルベルト、顔を合わせて苦笑い。
 
「いこ、おにいちゃん!」
 
ポポタがジャミルをぐいぐい引っ張る。先程からもう待ちきれなくて燥いでいた。
 
「こら!そんなに急ぐと転ぶぞ!……オウッ!?」
 
「いーんだもん!」
 
ポポタはジャミルをどんどこ引っ張って行き、そう注意するジャミル自身も転がりそうに……。
 
「おじいちゃん!」
 
「おお、お帰り、ポポ……」
 
「こんちは」
 
「おお……!!ジャミルさん達ではないですか……!!」
 
「こんにちは、御無沙汰してます、村長さん」
 
「こんにちはー!」
 
「えへ、お久しぶりでーす!」
 
アルベルト達3人も揃って挨拶する。
 
「すごいよねー!おにいちゃんたちはほんとうにバラモスやっつけたんだよー!!」
 
「おお……、ジャミルさん達……、本当にあの魔王バラモスを成敗するとは……、
あなた方はまさに真の英雄です……!!」
 
「いや……、んな事ねえよ、それに……」
 
ゾーマの件を思い出し、ジャミルの顔が曇った。
 
「さあ、立ち話も何ですから、どうぞ家の中へ……、お疲れでしょう」
 
「おはなしいっぱいきかせてね!」
 
「ん?あ、ああ……」
 
4人は又暫く、ポポタ家にお世話になり、暫しの休息を得る事となった。
 
「やはりあなた様は勇者オルテガ殿の息子さんなのですね……」
 
紅茶を注ぎながらポポタの祖父が嬉しそうに言った。
 
「あ、その事、ファラに聞くの忘れちまったい」
 
「でも、もし、そのオルテガって人がジャミルの父親なら……、
ファラって、オルテガさんと結婚した事になるんじゃない……?」
 
と、ダウドが推測突っ込みを入れた。
 
「ガチョーン!!」
 
「うん、……で、その息子が……、ジャミル……と」
 
更にアルベルトも予測してみる。
 
「この話はパラレルだって言ったじゃんか!」
 
「まあ……、それはそうなんだけど……、あまり深く考えると混乱するから……、
これはこれでこの話の設定を楽しむしか……」
 
「パラレルワールド、だものね、でも、ファラも、母親じゃなくて、
あくまでもこのお話ではお姉さん的立場だって言ってたわ」
 
「……幾らパラレルだってやっぱ設定無理すぎんぞ!!」
 
「うーん……?」
 
「お話が進めば分るよお!楽しみだなあ!」
 
「……楽しむなっ!バカダウドっ!」
 
「ほっほ、楽しそうですのう、仲良き事は美しき事と昔から言いますからのう」
 
スラリンとポポタももう仲良くなったらしく一緒に遊んでいる。
 
「ねえねえ、きのうおうちがゆれたの」
 
「そう言えば……、昨日大きな地震が有りましたのう、どうした事やら……」
 
「あ、見た処、この辺は被害が少なかったみたいだな……」
 
「……ジャミル……」
 
アイシャがジャミルを不安そうな表情でじっと見つめた。
 
(やっぱり……、爺さん達にはちゃんと聞いて貰った方がいいのかな……)
 
「うん……、あのさ、爺さ……」
 
と、ジャミルが言おうとした時……。
 
 
「ジャミルさーん!!」
 
 
「げっ!!」
 
「あー!また来たあ!!」
 
例によって村人がまたポポタの家になだれ込んできた……。
 
「いるならいるって教えてくれよ!」
 
「ホレ、団子食え!!」
 
「〇〇マー名物、焼きまんじゅうあんこ入りだ!!」
 
「ジャミルちゃーん、クッキーもあるよー!!」
 
「コラ!抜け駆けすんなす!」
 
「相変わらず……、凄いね、ジャミル……」
 
「……」
 
「チョコレート食え!」
 
「ケーキケーキ!!」
 
「ちぇっ、いいなあ、ジャミルばっかり……、お菓子沢山……」
 
本人は困っているのだが、村人達のお節介に取りつかれるジャミルを
羨ましそうな表情でダウドがじっと見ていた。
 
夕飯時。
 
「おにいちゃん……、ごはんたべないのかな……」
 
「うーん、疲れてるからじゃないかな……」
 
「あれだけ食べさせられたら幾ら何でも食えないと思うよお……」
 
……客用の部屋を借りてジャミルは目を回して腹ぱんぱんでぶっ倒れていた。
 
「……ジャミル……、平気……?」
 
「平気じゃねーよおー!腹が……、腹が破裂するーっ!!」
 
お腹ポンポコ状態のジャミルをアイシャはずっと見守りながら心配している。
 
「アイシャ、飯貰って来いよ、俺はいいから……」
 
「でも……、心配だもん……」
 
「げーっぷ!」
 
(ジャミルったら……、カエルみたい……)
 
「苦しいーっ!むっぶ!」
 
「もう……」
 
(その内……、ホントにお腹がパンクするんじゃないかしら……)
 
 
夜。
 
ポポタはジャミル達に沢山遊んでもらい疲れて眠ってしまった。
ちなみに、ウルトラマンごっこをしたのだが、ジャミルはバルタン星人に選別され、
ポポタにしこたま頭をばしばし叩かれたらしい。
 
「うふふ、かわいい♡」
 
「本当に幸せそうな顔してるね」
 
「うん、本当に子供って罪がないよお」
 
「この笑顔を壊したくない……」
 
「ジャミル……」
 
「ゾーマだか何だか知んねえけど、俺達がやるしかねえんだ、絶対倒してやる……!!」
 
「うん、そうだね!」
 
「私達が頑張らなくっちゃ!」
 
「う……、嫌だなあ……」
 
 
更に夜も更け。
 
「じいさん、ちょっといいかな……、話があってさ……」
 
ポポタも皆も休んでいる頃、ジャミルはポポタの祖父の部屋にそっとお邪魔した。
 
「ああ、ジャミルさん、構いませんですよ、今お茶を淹れますです、
今夜はハーブ茶で宜しいですかな?」
 
「悪いな、こんな夜遅く……」
 
「……凄く大事な話なんだ……」
 
 
……
 
 
「何と……、大魔王ゾーマ……、とな……」
 
「奴は伝説の地、アレフガルドにいるらしい……」
 
「伝説の地……、その様な場所が……、いやはや……」
 
「ゾーマってなに?」
 
「ポポタ!」
 
いつ起きて来たのかポポタが側に立っていた。
 
「ポポタ……、いかんよ、早く寝なさい……」
 
「おにいちゃん……、またいっちゃうの……?」
 
ポポタがちょこちょこジャミルの側に寄ってくる。
……そして淋しそうにジャミルの顔をじっと見つめた。
 
「ポポタ……、ごめんな……」
 
ポポタがジャミルの腕にぎゅっとしがみ付く。
 
「わるいやつやっつけたら……、またあそびにきてくれる……?」
 
「ああ、約束する」
 
「うん、ぼく……、いいこでまってる」
 
「ありがとな……」
 
「ぼく、なかないもん……、おにいちゃんはぜったいかえってくるんだもん……」
 
ジャミルはポポタの頭をそっと撫でた。
 
「ポポタ……、頼みがあるんだ……」
 
「なあに?」
 
「……預かって欲しいんだ……、スラリンを……」
 
「えっ!」


さよなら、スラリン

「これから俺達が行く所は敵の本拠地が有る所だ、だから……」
 
「ほんきょちってなあに?」
 
「え……、ああ、ポポタにはまだ分かんねえか……」
 
「本当の魔王が住んでいる所じゃよ」
 
「あ、そっかあ」
 
「今まで以上にどんな危険があるか分かんねえ所だ、これ以上は
スラリンを連れて行けない……」
 
「おにいちゃん……」
 
「本当に宜しいのですか……、?ポポタの良い遊び友達になってくれそうですし、
こちらこそ喜んでお預かり致しますよ」
 
「ありがとな、爺さん……」
 
「ねえ、おじいちゃん……、ぼく、もうすこしおにいちゃんとあそびたい……」
 
「今日は特別じゃぞ、ポポタ」
 
「わーい!おじいちゃんありがとう!」
 
ジャミルは一旦眠った仲間も叩き起し、ポポタの遊び相手になって
ひとしきり騒いだ。やがて……、ポポタも完全に眠ってしまった頃。
 
「みんな……、聞いてくれ……」
 
「ど、どうしたの……、やけに真剣な顔して……」
 
「オイラ眠いよお~……」
 
「いいから聞けよ!!」
 
「ハイ……、ごめんなさい……」
 
「スラリン、お前にも話がある」
 
「ピキ?」
 
ジャミルは何時になく真剣な顔でスラリンを見つめる。
それを見たスラリンは……。
 
「なあに?にらめっこ?よーし、ボク、まけないよー!へんなかおー!あっぷっぷー!」
 
「……ちょ、違うし……、……おほん……、と、お前は此処に残れ……」
 
調子を崩されそうになったジャミルは慌てて顔をきりっと真剣モードに戻した。
 
「ピキー!?」
 
「ちょっと何言ってるのよ!ジャミル!!」
 
「えー!?だ、だって……、どうしてなのさあ!」
 
アイシャもダウドも必死でジャミルに問う。特にアイシャは真剣だった。
 
「いや……、僕にはジャミルの考えてる事は分るよ……、この先、
スラリンを連れまわすのは危険過ぎる……」
 
「ピキキ……」
 
「そうね……、どんな怖いモンスターがいるのか判らないわ……、
スラリンだって今まで以上に危険な目に遭ってしまうかもしれない、だけど……」
 
「で、でも……、スラリンのお父さんとお母さんは……!?探してあげようよお!!」
 
スラリンは暫くしょげていたが、やがて何かを決意した様に頷き、4人の顔を見上げた。
 
「うん、わかった……」
 
「スラリン……?」
 
「ボクももう、いちにんまえのスライムにならなきゃね……、だから……、
おとうさんとおかあさんはあきらめるよ……」
 
「ほ、ほんとにいいの……!?」
 
「ボクもみんなみたいにつよいおとなのスライムになりたい……、だからじりつする……」
 
「そうね……、随分大きくなったものね……、初めて会った時は
あんなにちっちゃかったのにね、ふふ……」
 
アイシャがスラリンをぎゅっと抱きしめた。
 
「みんながゾーマをやっつけるころにはボク、もっとおおきくなってるよ!」
 
「うん……、そうね……」
 
「ボクもがんばるから……、だから……、みんなもがんばってね……、
ゾーマぜったいやっつけてね……!!」
 
「ああ、頑張るよ……」
 
 
次の日、ジャミル達は朝早く起きて出発する事となった。
ジャミル達を見送る為、ポポタ家大集合でポポタの両親も
仕事に行く前に4人の見送りに来てくれた。
 
「皆さま……、頑張って下さい……、わしらには此処でご無事を
祈るしかありませぬが……、どうかご無理をなさらぬ様にのう……」
 
「どうかご無事で……」
 
「お腹が空いたら食べて下さいね」
 
ポポタの母親が早朝早くに拵えた手作り巨大弁当をジャミル達に手渡す。
 
「うは、すんげえ……」
 
「わあ、おばさま、有難うございます!!」
 
「美味しく食べて貰えたら嬉しいわ」
 
「おにいちゃん……」
 
「ポポタ、朝早くからありがとな、まだ眠いだろ?」
 
「ううん、だいじょうぶ、ぼく……、おうえんしてるよ、だからがんばってね」
 
「うん、ありがとな!」
 
「……スラリンともお別れかあ……、何かさみしいよお~……、ぐす……」
 
出会った時と同じ様にダウドが名残惜しそうにスラリンをぷにぷに突っついた。
 
「ピキ、みんな……、いままでたくさんおせわになりました、ありがとう!!」
 
スラリンが深々と頭のトンガリを下げた。
 
「名残惜しいけど、そろそろ行かなくちゃ、ジャミル……」
 
「ああ、そうだな……」
 
アルベルトの言葉に頷き、ジャミルがもう一度ポポタの方を見る。
 
「やくそくっ!またあそびにきてね!!」
 
ポポタが小指を差し出し、ジャミルもその小指をそっと握った。
 
「二度目の約束……、だな!!」
 
「スラリン、元気でね、……またいつか会いましょう……」
 
「ピキー、おねえちゃんもね、げんきでね!」
 
最後にもう一度アイシャがスラリンをハグする。ポポタとも2度目の
約束を交わし、ムオルの村とも別れを告げ、4人はラーミアの元へと戻り、再び大空へ。
 
「……よし、次はテドンに寄るか……」
 
「うん、そうだね……」
 
「ねえ、ジャミルう……」
 
ダウドがジャミルを突っついた。
 
「何だよ?」
 
「アイシャ……、元気がないよ……」
 
「あ……」
 
「……」
 
スラリンと別れたのが原因らしく、妙に落ち込んでいる。
 
「よく遊んでたからな……、あいつと……」
 
「こういう時は……、ジャミル……、君が励ましてやらなきゃ……」
 
アルベルトがぽつりと呟く。
 
「え……、ええ!?」
 
「何言ってんのさあ……、好きな子が落ち込んでたら
励ましてあげるのが普通でしょ……」
 
と、ダウドにまで言われる始末。ジャミルは焦り出す。
 
「うーん……、弱ったなあ……」
 
ジャミルはこういうシチュエーションが苦手である。
 
「でも……、もう……、テドンに着いちゃったみたい……」
 
「は、はええ……」
 
ルーラでもテドンには行く事が出来ず、船では時間が掛るが、
流石ラーミアにお世話になればひとっ飛び。あっという間である。
 
「テドンに着いたの?」
 
「……アイシャ……?」
 
「行こうよ、テドンへ!!」
 
ラーミアが地上へ着地し、アイシャもラーミアからぴょんと降りた。
 
「何してるのよ!みんな!」
 
「アイシャ……」
 
「私、先に行くよ!!」
 
アイシャは先に村の中へとスタスタ歩いて行った。
 
「……無理してる……、絶対……」
 
「しっかりしなよお!ジャミル……」
 
ここぞとばかりにダウドがジャミルの背中をばしばし叩く。
 
「……何でダウドに言われなきゃならんのよ……」
 
アイシャを追い、ジャミルも急いで村へと入って行く。
 
「フィラちゃん、こんにちは……、又会えたね……」
 
アイシャはフィラの墓前に座っていた。
 
「アイシャ」
 
「あ、ジャミル……」
 
ジャミルもアイシャの隣に座る。
 
「何だか……、色々思い出しちゃうね、ここに座ると……」
 
「うん……、そうだな」
 
やがてアルベルトとダウドもやって来て、4人は村人の墓前で手を合わせた。
 
「もしも……、いつか誰かが……、この村を立て直してくれるかな……?」
 
アイシャが静かに口を開いた。
 
「うん?」
 
「きっといつか……、テドンの村が……、元の様になってくれたらなあって……」
 
「そうだね……、いつまでも死の村なんて言われてほしくはないよね……」
 
「死の村から再生の村へ……、か……」
 
「大丈夫だよお!」
 
「……おめーは何でも、だよお!だな……」
 
「な、何さ…!悪い!?」
 
逆切れ状態でダウドが怒る。
 
「うふふふっ!」
 
ジャミダウコンビのやり取りを見ていたアイシャがくすっと笑顔を見せる。
 
「アイシャ……」
 
「さ、戻ろ、ラーミアの所へ!」
 
(……やっぱりアイシャは笑った方が可愛いな……)
 
「ん?なあに?」
 
「い、いや……、何でも……」
 
 
その夜、4人は近くの島で休む事に。
もう船ではないので基本は焚火を焚いて野宿である。
 
皆が寝静まった頃、ジャミルは……。
 
「……痛っ!!……はあ~……、これで何度目かな……、指いてえ~……」
 
ジャミルが針で刺してしまった指の個所をペロッと舐めた。
 
「裁縫なんて慣れない事するモンじゃねえぜ……、はあ……」
 
ジャミルはそう呟くと隣で寝ているアイシャをちらっと見た。
 
「……でも頑張んなきゃな……、徹夜でコレ仕上げねえと……」

zoku勇者 ドラクエⅢ編 12章

zoku勇者 ドラクエⅢ編 12章

スーファミ版ロマサガ1 ドラクエ3 クロスオーバー 年齢変更 オリジナル要素・設定 オリジナルキャラ 下ネタ

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-02-25

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work
  1. その1
  2. その2
  3. その3
  4. その4
  5. その5