秋の骸骨
季節の移ろい
びゅん。びゅん。強い風が吹きつける。弱々しい力で、なんとか枝にしがみついていた枯葉は、容赦なく吹き飛ばされ、空を舞う。いくつもの枯葉が空を漂い、地面にそっと舞い落ちる。枯葉の雨だ。いや、枯葉の嵐だろうか。侘しい茶色の枯葉が、みずみずしい青空で踊っている。華麗なステップを踏んでいる。くるり。くるり。どんどん、枯葉が吹き飛ばされる。どんどん、秋が吹き飛ばされる。なんとか形を保っていた秋が、無慈悲に、崩されてゆく。美しい秋の景色が、寂しい冬の景色へと移りゆく。
僕は、時の進みは止めることができないという事実を、まざまざと見せつけられているように感じた。時というのは、不可逆的に、ただ流れ続ける。この世界の摂理。この世界の決まり。この世界の掟。今この瞬間に、刻一刻と、葉が散ってゆく、僕は老いてゆく。時の歩みは、いずれ僕に死をもたらす。時というものは、残酷なように思えた。だが同時に、僕は時を美しいと思った。花は枯れるから美しい。桜は散るから美しい。鉄は錆びるから美しい。星はブラックホールになるから美しい。
身にまとっていた葉を失い、木は、枝だけの寂しい姿になる。コンクリートが砕かれ、鉄の柱が現れる。服を脱がされ、裸になる。筋肉を削がれ、骨になる。骸骨だ。葉を失った、枝だけの木は、秋の骸骨だ。冬に見る、あの木々は、秋の骸骨だったのだ。
積み重なった枯葉を踏む。ざくっ、と音が鳴る。枯葉のクッションは、踏み心地がいい。僕は枯葉を踏み続ける。ざくっ。ざくっ。楽しい。音が、美しい。僕は、ずっと枯葉の上を歩いていたい。枯葉の上で踊っていたい。そうしたら、なんて楽しいのだろう。
僕は、雪を踏むのも好きなことを思い出した。誰にも踏まれていない、真っ白で、やわらかい、あの雪を踏みつける。やわらかい雪が、ぐぐぐ、と圧縮される。ぼふ、と音が鳴る。僕は、その感触と音で舞い上がる。だから僕は、雪道を歩くとき、道の端にある誰にも踏まれていない雪を、あえて踏んづける。ぼふ。ぼふ。雪を踏んでいるとき、僕は幸せだ。
地面に積もっていた枯葉も、風で舞い上がる。つむじ風で、螺旋状にぐるぐると回る。ぐるり。ぐるり。枝を離れた枯葉は、されるがままに、風に運ばれる。地面を転がると、からからと、乾いた音を鳴らす。から。から。
秋を終わらせる、そんな風だった。この風がやめば、冬なのだと思った。僕は、風に飛ばされる枯葉を眺めていた。枯葉の嵐を眺めていた。誰にも止めることができない、時の進み、季節の移ろい。僕は、秋に別れを告げた。
秋の骸骨