zoku勇者 ドラクエⅢ編 11章
その1
スラリン大奮闘
ジャミルとアイシャは狂気のダンサーの様に踊り続ける。
「不思議な踊りだよ!あれで躍らせてMPを吸い取……、え?あーっ!!」
……遂にアルベルトも巻き添えを喰らったらしく、踊るアルベルトと化した。
「誰か止めてーっ!!やだーっ!!恥ずかしいよーっ!!」
「冗談じゃねえぞーーっ!!」
「何で僕まで……、ううう……」
極端にMPの少ないダウドだけ無事らしい。ダウドはどうしていいか分からず、
自分の目の前で踊りを踊る3人をぼーっと眺めていた。
「ダウドーっ!!テメー見てねえで何とかしろーっ!!」
「何とかしろと言われましても……」
「ピキー!わーい!みんなダンスおどってるー!ボクもおどりたーい!!」
相変わらず状況を理解しておらず、呑気に跳ねているスラリン。
「……」
「あれ……、私……、何だか……、頭がぼーっとしてきたわ……」
「まずい……!アイシャのMPが全部抜き取られ掛かってる……!」
「ど、どうすりゃいいんだよ!このままじゃ俺らも……」
「……ダウド……頼む……君しか……うう…」
MPが段々吸い取られていき、アルベルトも力尽きそうになる。
「う……、うん……!」
ダウドが鞭をぎゅっと握りしめる。
(大丈夫だよね……、オイラだって玉にはっ……!うん!!)
「たぁーーっ!!」
ダウドは目を瞑って鞭を思い切り振り回す。
「お、おい……、それじゃ危ね……、うわーーっ!!」
滅茶苦茶に振り回した鞭は味方の方にもべチべチ当たる。
「うらうらうらうら!!うおりゃぁーーーっ!!」
ダウドの適当鞭攻撃は会心の一撃になり踊る宝石に見事にヒットした。んが。
「ふう……、み、みんな……、平気……?」
面食らった踊る宝石はやっと踊りをやめ、ジャミル達を解放すると逃げていった。
「平気だけど……」
「あれー?みんな傷だらけじゃん……、どうしたの?」
「……オメーがやったんじゃねえか!!」
「あれえーっ???」
2階
「でも、ダウドのお蔭で本当に助かったよ、有難う」
歩きながらアルベルトがダウドにお礼を言った。
「え、えへへ……」
「おい、アイシャも平気か?」
「うん、ダウドが助けてくれたからMPを全部取られなくてすんだのよ、ありがとうね」
「え、えへへへへ!」
「はあ、サンキューな、ダウド、でもあまり無理すんなよ?」
「うん、ありがと!ジャミル!」
「……ダガ、ココカラサキハモウ……、トオサン!!」
「!?」
また汚い声がし、前方を見ると6本の腕を持ったガイコツ、地獄の騎士が行く手を塞いでいる。
「……またかよ!あーもー!」
「きゃー!!怖いよおー!!」
先程までヒーローだったダウドはもう丸くなって怯えていた。
「シネ!!」
「……な、何だ!?う……、くせんだけど……、口臭?」
地獄の騎士が4人目掛け、焼けつく息を吐いたんである。
これを真面に喰らえば身体が麻痺して動かなくなってしまう恐ろしい特殊攻撃である。
「息止めて!!吸っちゃいけない……!!」
と、アルベルトが注意したのにも係らず吸ってしまったアホが一人。
「……あれれれ?おかしいらー???なーんらからららしびれれきらー???」
「!ダウド!!……この馬鹿っ!!」
ダウドを助けようと慌てて飛び出したジャミルも息を吸ってしまう。
「し、しまった……!俺も体が……!……ううう……」
「ジャミル!!ダウド!!」
アイシャも慌てて呪文を唱えようとするが、地獄の騎士の方が動き素早く、
詠唱よりも早くアイシャの背後へと回り、剣を突きつける。
「……あっ!?」
「アイシャ!!」
「おねえちゃん!!」
「シネ!!バラモスサマにサカラウオロカモノメ……!!」
アルベルトも速攻で地獄の騎士の正面へと回り、草薙の剣で攻撃をディフレクトした。
「……この子に手を出したら承知しないぞ!!」
「ソウデスカ……」
「は?」
「ナラミンナマトメテクライヤガレ……!!」
「うわあああーーっ!!」
「きゃあーーっ!!」
地獄の騎士が再び焼け付く息を吐く。息を喰らったアルベルト達は麻痺して倒れてしまう。
「ヨシオシマイダー!イクゾー!!wwwwデッデッ、デデデデデデ…」
地獄の騎士は身動きが取れなくなってしまったジャミル達に向かって剣を振り下ろそうとした。
「……く、くそっ……、ここまでか……!?」
「やめてよー!!おじちゃん!!」
「……オジチャンダト……?」
スラリンが小さな身体で身を挺し、地獄の騎士の前でそれを阻止したのだった。
「駄目だ……、逃げろ……、く、スラリン……!!」
「どうしてこんなことするのー!?やめてよー!!」
スラリンがぴょんぴょん飛び跳ね、地獄の騎士を説得しようと飛び跳ねるが、
当然聞く筈がなかった。
「みんなバラモスにだまされてるんだよー!もうこんなことやめようよー!!」
「ソウカ……、オマエハモンスターノブンザイデ……、バラモスサマニサカライ、
ニンゲンノテシタニナリサガッテイルノカ……」
「ちがうよー!てしたとかじゃなくてボクとみんなはおともだちなんだよー!」
「バラモスサマハゼッタイナノダ……、バラモスサマハタダシイ……、バラモスサマハ
マチガッテナドイナイノダ……!!」
「お、おじちゃん……?」
「……シネエーッ……!」
「ピキキキーッ!!」
ファイアーー!!
「……あれ……?」
「キャーッ!アッツーイ!!キャーキャーキャー!!」
「ピキ?」
「おい、スラリン……、お前今何したの……?」
「あ、ジャミルう、もうしびれないの?」
「ああ……、何か急に治っちまったさ……」
「スラリン、大丈夫?」
「あ、おねえちゃーん!」
「もうっ、……無茶するんだから……!!」
アイシャがスラリンをぎゅっと抱きしめた。
「ボク、ひがふけたの!ぼおおーって!すごーい!!」
「スライムは成長すると火が吹ける様になるんだって……」
ジャミルを見ながらアルベルトが言った。
「……そうスか……」
「あはは!スラリン凄いわあーっ!」
「ピキー!」
「……さっきはよくもやったなああ!!よくもよくも!!」
負傷した地獄の騎士をキレたダウドが蹴っている。
「おい……、あんま調子に乗るなよ……」
ジャミルが注意するが……、調子に乗ったダウドはまだ蹴り続けている。
「……ウガガガガガーーッ!!」
「きゃーっ!!たすけてぇぇぇーっ!!ジャミルぅぅぅーっ!!」
結局は地獄の騎士に頭から噛み付かれたのだった。
「……やれやれ……」
「行く……?」
「世話の焼けるアホだなあ……」
地獄の騎士を何とか倒した一行は更に上の階へと進んでいく。
最後のオーブ
「……」
一番後ろで歩いていたアイシャがぴたりと立ち止まった。
「どうかしたのか?」
「水の流れる音がするわ……」
「え?ど、どこ?オイラ喉が渇いた……」
「もっと先に進んでみようか……」
暫く歩くと橋が見えた。確かに川が流れている。
「川だ……、この音だったのか……」
「洞窟の中にこんな場所があったんだね……」
橋を渡り更に奥へ進むと光が見えて来た。この洞窟の終わりが
近い事を象徴している光だった。
「出口が近いぞ!……急げっ!!」
4人は出口目指し、光の方へと走り出す……。だが、又も行く手を妨害する敵達が現れる。
今度はガメゴンロード、フロストギズモの大量集団オンパレード。
「あー、邪魔だなっ!けど、此処を突破すりゃ後もう少しなんだっ!
……野郎共、行くぞーっ!」
「私、野郎じゃないわっ!もう!……スラリン、バトルが終わるまで
安全な場所に隠れていてね!」
「ピキー!ボク、やろうじゃないわっ!」
アイシャが怒りながら呪文の詠唱を始め、スラリンはアイシャの愚痴を
真似しながら安全な場所へと移動。
「オイラも野郎じゃないわっ!」
「……お待ち、そんなんで誤魔化せると思っとんのかい!」
「あああー!ジャミルのアホーーっ!」
どさくさに紛れ、逃走しようとしたダウドの肩をしっかりと掴み、押えるジャミル。
「みんな、真面目にやろうよっ!……ベギラゴンっ!!」
アルベルトのベギラゴン、フロストギズモ集団に炸裂。やはり敵にとって苦手な攻撃魔法が
バカスカ当たるのは爽快である。
「よーしっ!私もよーっ!魔法の準備はばっちり!」
「一緒に片付けてしまおう、アイシャ!」
「オッケーよっ、アル!」
フロストギズモはアルベルト達に任せ、ジャミルはガメゴンロードを担当する事にした。
こいつは守備力が高く、殆ど魔法が通用しない。なので、打撃攻撃のクリティカル、
会心の一撃が出る様、運を任せるしかないのである。
「俺らはこっちだ、行くぞ、ダウド!」
「……あんまり行きたくないけど……」
「ああ~んっ!?」
「行きますよっ、行きますっ!!」
ガメゴンロードはやはり最初のターンでスクルトを使い守備力を大幅に上げてくる。
「とにかく、叩け叩けだ、それしかねえ!後は斬るべし斬るべし!」
「……ええーっ!?」
ダウドが呆れる中、ジャミルはドラゴンキラーを構えてガメゴンロードに突っ込む。
とんでもない友人を持つと苦労するよお~……、と、思いながらダウドもどてどて
敵の中へと走って行った……。
……
「……はあ~……、やっと抜けられた……」
敵もどうにか全滅させ、4人は無事洞窟の外へ……。
「ああ、光が眩しい!キャー、生きてるってステキ!」
手を胸の前で組んでオーバーにダウドが言う。
「あんまり喜んでいられる状態じゃないかも…」
アルベルトが溜息をついた。
「どうしたんだよ」
「これ以上の道が見当たらないんだ……」
「本当だ……、行き止まりか?」
行く手には険しい山々が連なっている。
「ねえ、みんな……、 あのお城……」
アイシャが息を飲み、目の前に聳える古びた城を見つめる。
「あれは……」
「バラモス城だ……」
高い山脈に囲まれた不気味な城が聳え立っている。
4人は複雑な思いで今はまだ手が届かない城を見上げた。
「この山脈を越える手段が出来れば……、いよいよ決戦なんだね……」
「ああ……」
「絶対負けないんだから……!!」
「……ひいーっ!!」
「ピキ……、バラモスいなくなれば……、ボクのおとうさんとおかあさんも
ちゃんとかえってくるのかなあ?」
「そうよ、一緒に探しましょうね、スラリンのお父さん達をね」
アイシャがスラリンを抱っこし優しく微笑んだ。
「ピキー!」
「あ、ほこらだよお……」
「見つけるの早ええな……、気が付かなかった」
4人はほこらの中へと入る。ほこら巡りもこれで何回目になるのか。
本当に沢山のほこらをこれまで4人は回って来た。
「誰かいる……?」
「おおお?おおおおお!!」
中に入ると変なおっさんが飛び出してきた。
「こんな危険な場所まで来るとは……!あなたは雅に真の勇者様…!!」
「ハア……」
その危険な場所にわざわざ住んでるおっさんは何なんだよ……と、思うジャミルだったが。
「勇者様に差し上げます!!シルバーオーブと稲妻の剣でございます!!」
「おー!かっこいいじゃん!サンキュー!!と、これが最後のオーブだな!!」
「やったーっ!!」
「何と!?それではすぐにレイアムランドへ向かいなされ!!」
「レイアムランドお!?」
「ああ、夢で教えてくれた声の通りだ」
魔王バラモスは険しい山に囲まれた地、ネクロゴンドに君臨しています、
残りのオーブを揃え不死鳥ラーミアを蘇らせるのです……
不死鳥……ラーミア……?
全てのオーブを揃えしその時、レイアムランドへと向かいなさい
「オーブが6つ揃えば不死鳥ラーミアって言う鳥が復活するらしい……」
「そうです!!バラモス城はこの先の高き山々を越えた先にあります……!!
しかし、その為には伝説の不死鳥ラーミアの力を借りるほか方法はありませぬ!!」
はーはー息を切らしておっさんが喋り終えた。
「じゃあ、その鳥さんに乗ってお空を飛んで行けばいいのね?」
「ピキー!とりさーん!こけこっこー!」
「そーです!!」
「よし、じゃあレイアムランドへ急ぐぜ!!でも、おっさん、この剣本当に貰っていいのか?」
「勇者様に使って頂いた方が剣もきっと本望ですよ!!」
ジャミル達はおっさんに礼を言ってほこらを後にする。
4人に残された冒険も後僅か……。
(……もうすぐだ……、もうすぐだぜ……、バラモスさんよ……)
来たる決戦の時に向けてジャミルの気持ちも昂るのだった。
そして、全てのオーブが揃い、これでレイアムランドへ向かい
不死鳥ラーミアを復活させれば全て順調に上手くいく……、4人はそう思っていた。
……だが、オーブが全て揃い、少々油断し、気を抜いてしまった4人に
又とんでもない災難が降り掛かるのである。
その2
……オーブに危機!?
漸く全てのオーブが揃い、後はレイアムランドに向かい不死鳥ラーミアを復活させるだけ。
一つの大きな仕事を乗り越えた……と、4人は思っていた。だが、すぐに安心して油断し、
必ず騒動に巻き込まれるのがこのPTのお約束と要ともなっていた。
「ダウド、今までのオーブはちゃんと保管してあるだろうな?アイテム管理係なんだからよ」
「大丈夫だよお!オイラ、お宝収集に関してはうるさいんだからねっ!」
船内での夕食時、今日はオーブが全て揃った事を記念し、休憩も兼ねてお祝いパーティの最中。
いつもの食事よりも、ほんの少しだけ、ちょっと豪華なディナータイムを楽しんでいた。
ちなみに、今日は全員で分担して手伝いながら夕食を作ったんである。
「この鮭のムニエル、バター風味で美味しいわあー!」
「ピキー!」
スラリンにおすそ分けしながら料理を食べて燥ぐアイシャ。
「だよな、こうやって普通に食ってると、バターじゃなくて、
本当はマーガリンなのも忘れるなあ……」
「こ、こらっ!余計な事言わなくていいんだよっ!」
「……あいてっ!この腹黒めっ!」
「低価格材料でもなんでも、おいひー、おいひーよおお!」
「もう、ダウドったら、オーバーねえ、うふふ!」
「……」
そんな賑やかな彼らの夕食のやり取りの会話を……、船の外でじっと聞いている謎の人物が……。
「はあ~、食った食った、世の腹はポンポンじゃ、うふ、幸せ~……」
夕食が済むなり、船室のベットへと即ダイブするジャミル。
「また……、そうやって食べた後、直ぐにゴロゴロすると牛になるよ……」
「違うよ、アル、ブタだよお……」
「うるせー!バカダウドっ!!」
「ジャミル達はお部屋に行ったわね、さあ、スラリン、私達は夜の水浴びに行きましょうね」
「ピキー!いくー!」
「……」
アイシャはスラリンを連れ、船の外に出て、船から離れた距離の海の方へ。
……そんな一人と一匹の後を窺いながらこっそり付いていく謎の怪しい影。
……
アイシャとスラリンが水浴びに船を出てから一時間が経過し……。
ジャミルはあのまま本当にゴロゴロしたまま眠ってしまっていた。
アルベルトも本を読み掛けのまま、机に突っ伏し、いつの間にか寝ている。
本当にお疲れモードなのである。ただ、ダウドだけは休憩室で一人、
眠らずスナック菓子を食べ、ボーっと休んでいた。
「はう~、こうやって何もしないでいるのって……、幸せだよお……」
「……はう~」
「はうっ!?……ア、アイシャっ!?」
気が付くと……、いつ戻って来たのか、アイシャが休憩室の入り口に突っ立っていた。
「いやだなあ~、帰って来たのなら帰って来たって言ってよお~、あはは……」
「えーと、オーブはあるです?」
「……え?」
戻って来るなりアイシャは突然奇妙な事を口走り、ダウドは首を傾げた。
「ちゃんと保管してるってばあ~、ンモ~、アイシャまで
オイラの事そんなに信用出来ないワケ?」
「そんな事はどうでもいいんです、さあ、オーブをお見せってのよ!」
「……アイシャあ~……、わ、分ったよお、そんなに言うなら取ってくるよお~……」
ダウドはいそいそと船室へ。……この時点でアイシャの様子がおかしかったのに
全然気付かずの盲点であった。何かが起ろうなどとは全然予測もしてないしー!?……だった。
「ハア、持って来たよ……、ちゃんと数確認してよ、きちんと6個ある筈だよお……」
「ありがとうごぜえます、ダンドさん」
「は……、はいい!?……ア、アイシャっ!!」
……アイシャはオーブの入っている宝箱をダウドから引っ手繰ると
休憩室を飛び出して、物凄い勢いで廊下を走って行く。慌てて後を追おうとするダウド。
漸くダウドもアイシャの様子がおかしいのに、感づき始めていた……。
「……いないっ!?ど、何処へいっちゃったのっ!?」
アイシャは確かに甲板へと続く階段を駆け上がって行ったのである。
しかし、ダウドが甲板に上がった時は、アイシャの姿など何処にも見えず……。
「ピキー……」
「スラリン!?」
アイシャはいないが、眠そうな顔をしたスラリンが甲板に上がってくる。
ダウドは慌ててスラリンに話を聞こうと駆け寄るが。
「ダウド、おねえちゃんさがしてるの?……おねえちゃんならもうおへやですやすやだよ……」
「……えええっ!?」
ダウドは慌ててスラリンと共にアイシャが寝ている船室へ。
確認を取ると確かにアイシャはもうベッドで眠っていた。
「……すや~……」
「何がどうなってんのお?……さっきのアイシャは一体……」
「ピキ~……」
「私ですが、おさしぶりぶりぶり」
「えっ?」
「……」
ダウドの後ろからダウドの肩を誰かがちょんちょんと突く。
後ろを振り返ると、其処にいたのは……。
……アーーーーーーーッ!!
「……な、なんだなんだっ!!」
「!?」
船内に響き渡る只事でないダウドの悲鳴に眠っていたジャミル、
アルベルト、アイシャまで目を覚ました。一番近くで悲鳴を聞いた
アイシャが真っ先に廊下に飛び出ると、ダウドが泡を吹いて
ひっくり返って倒れていた。
「ピキー!ダウド、ダウドっ!」
「どうしたの、これっ!何があったの、ダウド、しっかりしてよっ、ねえったら!!」
「……あ~う~……」
「どうしたんだっ!!」
「ジャミル、アル、大変っ、ダウドがっ!」
ジャミルとアルベルトも駆けつけ、ダウドの状態を確認するが……。
何かとても恐ろしい物と遭遇してしまった様な……、そんな引き攣った
表情をしていた……。
「ダウド、おい、しっかりしろよ、おいったら!」
「……ジャミル、取りあえず僕らの船室へ運ぼう……、ん?」
アルベルトが周りを見ると、オーブの入った宝箱が放置してある。
盗まれたのかと思いきや、中を開けるとオーブはそっくりそのまま入っていた。
「何でこんな所に出しっぱなしに……」
「何かあったのか?」
「うん、何故かオーブの入った宝箱が廊下に……、さっぱり分からないよ……」
「とにかく、こいつを部屋まで連れて行かないと……、やれやれ……」
この時、アルベルトはオーブが既に偽物にすり替えられていた
事実と状態に全然気が付かなかったのである……。
そして、アイシャに化け、ダウドが顔を見て気絶し、遭遇した人物とは……。
アープの塔で会った、あの破壊屋お嬢であった……。
真相と新相
「……あれ?」
「ダウド……」
ダウドが目を覚ますと、船室のベッドの上。ジャミル達が心配そうにダウドを見守っている……。
「あれ?あれえ?オイラどうしたの……?」
「どうしたのじゃねえだろうが、全くよう……」
「だ、だって、オイラ、アイシャに……、あ!」
「きゃ!?」
ダウドは思い出した様にベッドから飛び降りるとアイシャに詰め寄る。
「オイラ、アイシャに頼まれたんだよお!オーブを見せてくれって!いきなり!
……それで、アイシャにオーブを見せたら物凄いスピードで廊下を走って行っちゃって、
それで、それで……」
「え、ええーっ!?わ、私……、そんな事頼んでないわよ、だって、水浴びから
帰ってきて直ぐにお部屋で寝たもの……、ね、スラリン?」
「ピキ……、うん……」
「うそだうそだよおお!だってだってえええ!」
「おい……」
錯乱するダウドにジャミル達も困り顔。アイシャもオロオロしている。
彼女は本当にオーブの件は覚えがない。……何故なら……。
「夢でもみたんだろ、きっと……、お前、のほほんとし過ぎてボケてる時あるからなあ~……」
「な、何だよお!……ジャミルまでオイラの事信じてくれないのっ!も、もういいよお!」
あ、ゆ、夢って言えば……!ああああっ!!」
「ダウド……?」
「きゅう~……」
先程の……、自分の後ろに立っていた変なお嬢の姿を思い出し、
再びダウドがひっくり返って倒れた……。
「取り合えず、朝までこのまま休ませてあげよう……、ゆっくり寝てもらって、本当に
長い夢を見ていたんだよ……って、事で納得して貰おう……、無理矢理でも……」
ジャミルとアルベルトはダウドを再びベッドまで移した。
「アイシャ、お前も本当にダウドの件は覚えがねえのか?」
「本当だったらっ!……で、でも……、水浴びしてて、気が付いたら何だかぱっと
ベッドの上……、だった様な気がするのよね~……」
「はああ!?」
アイシャまで……、何だか微妙な話になっている。一体何があったというのか。
「とにかく、今日はみんなもう休もう、疲れているんだよ……、オーブも取りあえず
無事だったんだから……、さ……」
そう言う事で、今日の事はオーブに何事もなかったので、これで良しという事で
無理矢理アルベルトが話を纏める。……これで良しという事に全然なっていない
事を4人は全然気が付かず。……何故なら……。
「ふふふ、オーブ、オーブ、……ほんもの、うふふ……、はあ、
説明のお時間でごわす、少々長いけど聞いてね、ふふ~……」
「変なお嬢は奪った本物のオーブと共に船の地下倉庫に隠れていた。
……あの時、アイシャの後を付けていたのもお嬢である。
彼女はアイシャ達が水浴びをしている最中に魔法で彼女の姿を奪い、
ニセの幻影を作り上げ、厄介な付添いのスラリンを眠らせた後、幻影を船へと送ったのである。
実に高度な魔法技術であった。……この魔法を使われた本人事態は
意識が無くなってしまうんである。変なお嬢は本物もルーラで無理矢理船室へと
送り返した。んで、アイシャはそのまんまぐーすかと寝ていた……、と、言う訳。
ちなみに、スラリンはボケているので、ダウドの前に姿を現した時のお嬢の姿には気が付いていない。」
「……コラ、説明のセリフ、私、変なお嬢じゃない、美しいお嬢に……、あ、あああ……」
……やがて、朝がやってくる。破壊屋お嬢は船に乗ったまま……。
既に、レイアムランド付近へと近づいていた。無論、オーブの事も4人は気が付かないまま……。
「むす~……」
「何だよ、オメーまだ機嫌わりいのかよ、しつこいなあ……」
朝食時、ダウドは相変わらず不機嫌。自分の話を信じて貰えないからである。
……お嬢の件も話したが、勿論笑い飛ばされた。特にジャミルには
こんなとこにいるワケねえだろうが!……と。やはり、夢を見ていたんだよ!
……では、ダウドは納得しなかった。今回はしつこい。
「な、何だか……、ダウドがずっとこっちを見ているのだけれど……、
困ったわあ~、私、オーブを見せてなんて、本当にそんな事頼んだ覚えが……」
「ダウドも……、もういいじゃないか、さあ、朝ご飯にしよう、……今朝は
ダウドの分はスペシャルにしておいたよ、……特大オムレツ4皿分、作っておいたからね……」
「♪わあっ!」
朝食当番のアルベルトがダウドの席の前に大きなオムレツを4皿分置いた。
これだけでダウドはすっかり機嫌を直す。……単純な男である。
「いただきまーすっ、……で、でも、こんなにオイラ、食べていいのっ!?」
「うん、沢山食べなよ……」
「えへへ、それじゃ、……うーんっ!でりしゃーすっ!!」
「ちぇっ、ずっけーの……」
「ピキー……」
ダウドだけスペシャルな朝食を平らげるのをジト目で見ているジャミルとスラリン。
「が、我慢して……、漸く話が反れそうなんだから……」
冷や汗を掻くアルベルト……、と、何となくバツが悪そうなアイシャ。
「私……、本当に何もダウドに頼んでないのに……、ぐすん……、……もぐっ!?」
落ち込むアイシャの口に自分の分のオムレツの一欠けらを無理矢理ジャミルが押し込んだ。
「……も、もうっ……」
「美味いだろっ、へへ!」
「美味しい……、ふふ、……ジャミルったら……」
ダウドの機嫌も治り、やがて船はどんどんレイアムランドへと近づく。
オーブはニセモンのまんま……。
「……ここまで長かったけど……、もう少しだな……、バラモスの所まで……」
「うん、ちょっと怖いけど……、皆がいるから頑張れるわ……」
「ダウドは平気かい?」
アルベルトが念の為にダウドの意志の確認をする。
「…今更逃げられないし……、もうここまで来ちゃったから……、
でも逃げられるのなら逃げるかも……、あーうー」
やっぱり今一ダウドは煮え切らない。
「……そろそろレイアムランドだよ」
アルベルトが地図で確認する。
「どこどこ?……って、まーた雪だらけじゃねーか!!」
レイアムランドはグリンラッドと同じく大陸が雪で覆われていた。
「仕方ないよ、行こう……」
ジャミル達は船から降り、雪の中を歩いていく。……その後を付いていく怪しい変人の
姿に4人は未だ気づかなかった……。
その3
ラーミア復活……しない
「寒いなあ……、しかし……」
「魔物に見つからない様、急いで歩こう……、必要以上のバトルは避けたい処だしね」
「分ってるよ……」
ジャミルがアルベルトの方を何となく見ると……、明らかに
鼻から垂れている鼻水を隠している様だった。
「……」
「何、ジャミル……」
「何でもねえよ……」
暫く歩くと神殿が漸く目の前に見えてきた。
「……助かったー」
あまりにも寒かったため、4人は急いで駆け足ダッシュ、神殿内部へと入る。
「……うわっ……」
「大きな卵ね……」
奥に6個分の台座があり、更に真ん中にもう一つ台座があり、
巨大な卵が置いてある。この台座の上に6つのオーブをそれぞれ乗せるのだろうか。
「何かこの卵光ってるよお……」
「どれどれ?」
と、言ってジャミルが卵に触ろうとしたその時……。
「……ようこそ……」
「……ようこそ……」
「うわわわわっ!?」
突然、一番奥の台座の後ろから二人の女性がぬっと姿を現した。
「いらっしゃいました…」
「いらっしゃいました…」
「……いるならいるって言えよ……、あーびっくりした……」
「すいません…」
「すいません……」
「……」
服装からすると二人の女性は巫女さんぽかった
「いえ、こちらこそ……、突然お邪魔してしまって申し訳ありません……」
アルベルトが丁寧に挨拶する。
「いえ……」
「いえ……」
「で、あんた達はここで何してんの?」
「……ジャミルっ!!」
「……いてててて!あ……、あなた達は……、ここで何をなさっているのでございマスか?」
「……私達は……卵を守っています……」
「……私達は……卵を守っています……」
「ザ・ピーナッツみた……、い、いててててて!!」
「もう……、ジャミルったら……」
「ピキー、おねえちゃん、ジャミルのおみみ、あんなにひっぱったらのびちゃうよ」
主に注意する人、アルベルト、注意される人、……ほぼジャミル。
何時でも何処でもジャミルは礼儀知らずでマイペース。
「6つのオーブを台座に捧げし時……、不死鳥ラーミアは蘇りましょう……」
「!」
「はいはーい!俺達オーブ持ってるよ!!ダウド、ほら」
「よいしょっとお」
ダウドが肩から下げていたカバンから宝箱を出す。……正確に言うと、
中身は偽物……を、宝箱を開けて、6つ、取り出した。
「……これは……オーブ……?」
「……これは……オーブ……?」
「……」
いちいちハモってステレオ状態で話す二人にジャミルは少しイライラし始めていた。
が、巫女さん達の言葉の語尾に?マークが付いていたのが少々気になったが……。
「私達……」
「私達……」
「この日をどんなに…」
「この日をどんなに…」
「待ち望んでいた事でしょう…」
「……卒業式の呼び掛けじゃねーか……」
ジャミルが愚痴を洩らす。
「……さあ、早くオーブ?を台座に……」
ジャミルはすべてのオーブを台座に収める。
「この卵さんからラーミアが生まれるのね……」
「オイラおっきな目玉焼きを作るのかと思っちゃった!」
「ダウドっ!」
「ご、ごめんよお……、ジャミル……」
「俺は巨大オムライスの方がいい!!」
パンッ!!
「今日はオマケでもう一人叩いちゃった♡気分がいいなあ……」
テヘペロ状態でスリッパをぶんぶん振り回すアルベルト。
「さあ祈りましょう」
「さあ祈りましょう」
ジャミルの頭の中にモスラのテーマが流れた。
「……時は来たれり今こそ目覚める時……、大空はお前の物……、さあ高く舞い上がれ!!」
……しかし。通常なら此処で卵にヒビが入ってラーミアが誕生するのだが……。
「ど、どうしたんだよ……」
「舞い上がりません……」
「卵が割れません……」
「はあっ!?」
珍しく巫女さん達がハモらず、別々の言葉を言っている……。
只事ではないと、ジャミル達も卵の乗った台座の側に駆け寄るが。
「……こんな事ってあんのかよ……」
「あの、……言いたくないけど……、その……、卵の中の……、あうう!」
「縁起でもない事言っちゃ駄目だよ、ダウド!」
「だってええ~……」
アルベルトに注意され、ダウドがそれ以上の言葉を慎んだ。
「ラーミアさん、一体どうしたの……、私達、あなたに会えるのを楽しみにしてるのよ……」
「ピキ~……」
アイシャが優しく卵に触れると……、アイシャの言葉に答えるかの様に卵が又光った。
「この子は大丈夫よ、早くお外に出たがってるのは確かなんだけど……、でも……」
「あっ……」
「あっ……」
「……こ、今度はどうしたんだ?」
巫女さん達が再びハモリだす……。台座の上のオーブの確認をし、真っ青な顔を……。
「このオーブは……」
「このオーブは……」
「……」
「偽物です……」
「……なんですとーーーっ!?」
今度はジャミル達4人が一斉に声を揃えた……。漸くオーブが偽物と言う
事実に気づいたのであるが……。
「おいおい、待てよ……、俺らが今まで苦労して集めたオーブは……、
全部偽物……、だったっつー事かいっ!!」
「嘘よ、こんな事って……」
「何て事だ……」
「ぎゃー!酷いよおおおーー!」
……4人が絶叫。どうやらそう言う方向に考えが纏まってしまったらしい……。
「もしかして……、オブ、オブ……、オ、オーブの集め直し……?ねえ……」
ダウドがジャミルとアルベルト、交互の顔を見る。ジャミルは困り果て、
アルベルトは黙って目を瞑り腕組み……。アイシャはスラリンを抱いたままオロオロ。
「……その必要はございません事よ……」
「誰だっ!?」
神殿内に突如響き渡る謎の声……、そしてハイヒールの音……、誰かが台座に
向ってこつこつと足音を立て、此方に歩いてくる……。
「……お、お前はっ!!」
「何故なら……、本物のオーブは、既に私の手の中にあるからですわ……」
お嬢、本気出す?
「お前はっ!アープの塔でっ!!」
「や、や、や……、やっぱりっ!あの時オイラが船で見たのはっ!
ま、幻じゃなかったて事!?……あわわわ!」
ダウドは言いながらジャミルの後ろに隠れる。それを見た変なお嬢は
自分の持っていた杖を一振り……、円球を出し、ふわふわと空中に浮かべた。
円球の中には盗んだ6個のオーブが……。
「これをよく見るが良いぞですわ、マサイの野蛮な戦士共……、
てか、私、フルネームがもう完全に変なお嬢になっているのす……、
真面目に書きなさい、書いてる奴……」
「……誰がマサイの戦士だっ!って、あれはっ!」
「オーブだわっ!本物のよっ!」
「説明して下さい、ちゃんと一からっ!何がどうなっているんですかっ!!
……どうしてっ、何故あなたがオーブを持っているんです!!」
アルベルトのセリフに変なお嬢がびしっと持っていた杖の先を4人に向ける。
「じゃあ、手っ取り早く……、前回の回から説明を引っ張って来ましょう、よいしょ」
美しく、可憐なお嬢は奪った本物のオーブと共に船の地下倉庫に隠れていた……。
↑
前前回の説明適用……。
「お分かり頂けて?アンタの後を付けて、偽物を作り上げ、油断させてこいつを騙して
オーブも偽物とすり替えたの、馬鹿なあなた方は本物と偽物の区別もつかなかった
らしいですわね、一体今まで何を集めていらっさったのかしら?おばかさん!」
「私、私……、あ、後を付けられてたの?……ど、どうしよう……」
「はあ、漸く分ったよお、……あの時、オイラにオーブを見せろって騒いでた
アイシャは偽物だったんだね……、ごめんね、アイシャ、疑う様な言い方して……、
てか、分らなかったオイラがアホ過ぎたね、本当にごめん、アイシャ……」
「ダウド……」
「全くだな、アホだな、おめえ……」
「何だよおっ!アホジャミルっ!!」
「ま、俺らもアホだけどな……、確かにな、こんなあっさりオーブを盗まれるとか……、
しかも、偽物とすり替えられてさ……、けど、一番アホなのは……」
ジャミルが暫く沈黙になるが……、やがてある人物の方に視線を向けた。
「てめえだっ!得体の知れない変人野郎!!」
「んまっ!……私は野郎ではないですわっ!……私は世界中のお宝を集める、
お嬢ハンターデスわあっ!!」
「充分変人だっ!いきなり突拍子もなく突然出て来て人の船に張り付いて監視なんか
しやがってからにっ!一体お前の目的は何だっ!!いえっ、この野郎!!」
「フン、私の目的はただ一つ……、アンタ達を倒して、伝説の不死鳥、
ラーミアは私が復活させます、大空を物にするのはこの私……、あちょーーーー!」
「うわ!?」
「……きゃああーーっ!?」
お嬢ハンターは問答無用で杖の先からヒャダルコをアイシャに向け、放出。
……ジャミルは咄嗟にアイシャを庇い、魔法を避けさせた。
「ちっ、ちっ、ちっ、……ちっちーん!ですっ!」
「ハア~、間一髪……」
「ジャミル、有難う……、ごめんね……」
「……二人とも大丈夫かい!?」
「ああ、アル、平気だよ……、それにしても恐ろしいな、アイツ、マジで……」
「やっぱり只者じゃないのかな、……呪文の詠唱も無しであんな
高度な魔法を使いこなしてる……」
ジャミルもアルベルトも……、魔法を外し、悔しがっているお嬢ハンターを見つめる。
(……ちっ、気に入らないですわ~、あんの小娘、ふんふん!)
「あのさ、オイラの感かもしれないけど、あのお嬢おばさん……、
何かアイシャに恨み持ってる……?」
「え、えええっ!?」
アイシャが困ってお嬢の方を見る。……確かにアイシャの方を睨んでいなくも……、ない。
「だってさ、……偽物をアイシャで活用したり、さっきだってアイシャをターゲットにしてたし、
……オイラの考え過ぎかなあ~……」
「コラ、ダウド!変な事言うな、アイシャを脅えさせんな!」
「だってえ~……」
「ううう~……」
「ピキ~、おねえちゃん、へいき?」
アイシャは必死で考える。自分が恨みを買う理由だとしたら。アープでお嬢に
小生意気な口を聞いた事しか思い当たる出来事がない。
「あの、その話とは関係ないのだけれど、あなた、次は伝説の黄金の種を探すんじゃないの?
それがどうしてまた目的がラーミアに代わったの?……それにどうして私達の船まで来たの……?」
「……うるさいうるさいうるさいうるさくないーーっ!!」
「きゃあああっ!?」
「アイシャっ!相手にすんな、こっち来てろっ!」
「ふええ~ん……」
ジャミルが慌ててアイシャを下がらせる。アイシャが話し掛けた途端、お嬢はモロキレだした。
……やはり何故かアイシャが気に入らない様子。
「あの、私達は……」
「どうすればいいのでしょう……」
先程からずっと放置されっぱなしの二人の巫女さん。困った様にジャミルを見ている。
「あ……、とにかく此処はやばい、何処かに……」
「……駄目だジャミルっ!」
「あっ!」
「頂きです!」
アルベルトが叫んだ瞬間、既に遅くお嬢は巫女さん達に既に杖から魔法を放出。
……今度は巫女さん達がお嬢の魔法に捕えられてしまう。
巫女さん達は魔法の中で苦しみ、もがいている。
「……ああああーーーっ!!」
「な、何て事するのっ!もう許さないんだからっ!」
「だから何だと言うのです、変な小娘が……」
アイシャは怒りでお嬢を睨む。しかし、お嬢はそんな物、屁でもないですわと言う余裕の表情。
「くそっ、油断し過ぎたっ!」
「ジャミルっ!ああーっ!み、巫女さん達の様子が変だよお!」
「……私達は……」
「……私達は……」
「アークマージです……」
お嬢は何と今度は前回スラリンに使った催眠術魔法を今度は巫女さん達にぶつけたらしい。
……巫女さん達は身も心もすっかりアークマージへと変わってしまっていた。
「おーいっ!……ま、またやったなっ!今度は何にしやがった!」
「僕らがまだ遭遇した事のないモンスターだよ、本で名前だけは見た事が
あるから……、凶悪な高LVのモンスターにされたんだと思う……」
「……んぎゃあああっ!」
「ダウドっ!落ち着くのっ!!」
「は、はいーーっ!!」
珍しくアイシャがヘタレモードのダウドを一括。ダウドはびっくりし、ピタッと動きを止める。
……尚、アイシャも相当キレている様子……。
「おねえちゃんもこわいよ……」
「怖いですわよ、アークマージさんて……、いおなずーん!をぼんぼん使ってきますの……、
あなたたちなんか丸焦げローストチキンですわよ?さ、やってしまいなさい、お二人とも」
「はい、私達……、やります」
「はい、私達……、やります」
……アークマージと化した巫女さんは4人にどんどん、どんどん、
にじり寄ってくる。そして、変なお嬢も……。
その4
オーブを取り戻せ!……バトル、変なお嬢
「畜生っ!どんな敵だって負けて堪るかっ!お前ら戦闘準備開始ーーっ!」
「駄目よ、ジャミル!巫女さん達を攻撃する訳にはいかないわ!」
「あ、あーー!クルーー!!」
ダウドが叫ぶ中、二人の巫女さん達は間髪入れず、イオナズンを4人に向け放出。
防ぎようがない為、4人は覚悟した様に歯を食いしばる。……アイシャはスラリンを
ぎゅっと胸に抱きしめたまま。
「……ピキーー!!」
「……?あれ、何ともねえ……」
「どうしたんだろう……」
「本当ね……」
しかし、爆発も何も起らず……、ジャミル達はきょとんとする。
ダウドは既にひっくり返って倒れていた。仕方なしにジャミルは
伸びているダウドを揺さぶって声を掛ける。
「ダウド、何もなかったからよ、おい……」
「あれ?……ホントだ、何で?」
「俺が知りてえっつーの……」
言いながらジャミルは巫女さん達の方を覗うと……、巫女さん達は何故かオロオロしている。
「しかしMPが足りません……」
「しかしMPが足りません……」
「はあ?」
ジャミルは今度はお嬢の方を見る。……お嬢も何だか困っている様子。
「言えないのです、……間違って低級ベビーサタンにしてしまったなどととととと!はっ!」
お嬢が振り向くと後ろに腕組みをしたジャミルが突っ立っていた。
顔は笑っているが……、ひくひく顔の筋肉が引き攣っている。
「何なんですか?あなた、お、お、お、乙女のワタクシにまさきゃ、ボウリョクヲーーー!!
フルウデスカーー!?アキョキョキョヨーー!!」
「ジャミルっ!!やめ……」
アイシャが叫ぶが……、次の瞬間、錯乱暴走お嬢はその場にばたっと倒れた。
……魔法も使う間も与えず、錯乱している間にジャミルがすかさず腹パンチで
気絶させたのである。
「ジャミル、巫女さん達の方も取りあえず大丈夫だよ、ラリホーを掛けたから……」
アルベルトにラリホーを掛けられた巫女さん達。すっかり爆睡して倒れていた。
「よしっ、助かるよ、んじゃあ、巫女さん達が目を覚ます前に……、まずはこいつだな……」
「……キャウ~ン……」
お嬢は縄でぐるぐる巻きに拘束され……、身動きが取れない状態になっていた。
「さあ、ちゃんと話せ、オメーが一体何をやりたかったのかをよ……」
「ふんっ!デスわあ!」
「……こいつ……」
「ジャミル、駄目よ……、えーと、私達、まだちゃんとあなたのお名前も知らないの……、
巫女さん達も元に戻して、全部お話ししてくれれば縄も解いてあげるから……、ね?」
「……お黙りっ!お前には何も話したくないですっ!癪に障る小娘っ!」
「きゃ!?」
やはりお嬢はアイシャにだけは異常に物凄い悪態をつく。
一体どうして自分はこんなにこのお嬢に嫌われているのだろうかと、
どうしても考えても原因分からず、アイシャは落ち込みだし、涙ぐむ……。
「……いい加減にしろっ、てめえっ!」
「ジャミル、もういいよ……、私、もう何も言わないね、ごめんなさい……」
「アイシャ……」
アイシャはすっかりしょげてしまう。ジャミルはそんなアイシャを見ているのが
堪らず、一体どうしたもんかと頭を抱えた。
「最初っからそうすりゃいいんですのよっ!そうねえ、その小娘がどっか行ってれば
全部ちゃんとお話し致しますが、如何?もう悪い事も致しませんわ!
何故なら……、やめて、本日の私のMPはもうゼロよ!……なのですから!
勿論、オーブもきちんとお返し致します、……ほろほら、ああ、何て私っていい人……、
って、自分で言ってててて、何だかジンマシンが出ル、ル……」
「こいつ……、おい、マジでもうMP残ってねえんだな、本当だな……?
しかし、変なヤツだなあ……」
「本当よ、本当!ひらほら、えいっ!……どうです、このうるさい糞小娘に
ぶつけられるメラさえも今日は出ませんのすよ!ご安心なされ!」
「な、何か……、アル、このお嬢様、何だか段々悪魔みたいな人に見えて来たよ、オイラ……」
「ダウドもかい……、実は僕もなんだよ……」
二人が小声で話をしている処に……、黙っていたアイシャがすっくと立ち上がる。
そしてジャミルに声を掛けた。
「ジャミル、私、神殿の外でスラリンと待ってるね、全部終わったら又声掛けてね……」
「……あっ、おいっ、アイシャっ!」
「えへへ、私は大丈夫よーっ!」
アイシャはスラリンを抱え、ダッシュで神殿の外へ。しかし、外は猛烈に寒い。
元気な声を出してはいるが、内心は流石にアイシャもグリンラッドの時の様に
雪だるまを作って遊ぶ程の元気もなかった。
「ジャミル、今はアイシャの気持ちを尊重しよう……、オーブも取り返さないと……」
「分ったよ、アル……」
アイシャの様子が心配なジャミルだが、今はオーブも一刻も早く取り戻さねばならない。
……仕方なしにジャミルはお嬢から話を伺う事にした。
「えーと、まずは私のこの縄を解きなさい、全てはそれからです」
「分ったよ、本当に大丈夫なんだろうな……」
お嬢は縄から解放される。と、すっかりご機嫌になった。そして、突然、
関係ない事をベラベラと喋り出した。
「えーと、まずは私もあなたに少し聞きたい事がありましてよ、……何?アナタは
ああいう野蛮な小娘がタイプなんですの?……少し趣向を変えた方が宜しいのではなくて?」
「な、なっ!?かかかか……、関係ねえだろっ!何なんだっ、いきなりっ!!」
「んまあ~……、お野蛮、ばばんばばんばんばん」
ジャミルは顔中から湯気を放出、真っ赤にし、お嬢に対してムキになる。
早く話を進めて欲しいアルベルトは困って呆れるが……。
「あの、早く巫女さん達を元に戻して欲しいよお、でも、君……、今日は
もうMPゼロって言ってたけど……、大丈夫なの?戻せるの?」
「お黙りっ!影の薄い困り顔めっ!心配しなくても、私のMPが無くなれば
奴らに掛けた催眠術も自動的に解除されるってんだよっ!!ええーーっ!?」
「……ひえええーーっ!!」
お嬢、ダウドに啖呵を切る。ダウドは怯え、アルベルトの後ろに隠れてしまう。
「ダウド、此処はジャミルに任せて……、僕らは暫く見守ろう、癪に障るけどね……」
「……あううう~……、アル、この際だからオイラもちょっと突っ込んでいい?
アープであの人、魔法を使うのに、普通に詠唱時間掛ってたじゃない……、今回は
詠唱無しで凄い魔法使うの?」
「いいから、……君はっ!」
「……えううう~……」
「と、とにかくだっ、まずはオメエも早くオーブをちゃんと返せ……」
「分ったですわ、ほい!」
お嬢は意外と素直にオーブをジャミルに全て纏めて渡す。……あまりにも素直だったので
ジャミルはきょとんとする。
「これでいいのかしら?」
「あ、ああ……、ちょっと確認……、よっ」
ジャミルはオーブの一つ、レッドオーブを試しに祭壇に置いてみる。
するとレットオーブは光り、連動するかの様にラーミアの卵も少し反応が有った様子。
「本物だな……、間違いねえな……」
「あ、ああ……、オーブが……」
「光っています……」
二人の巫女さん達も漸く目を覚ましたらしく、オーブに駆け寄る。
「一つだけ言っておきますと、……前回アープの塔であなた方に言った事も、
今回の事も全て嘘です、私はお宝ハンターでも、令嬢でも何でもありませんのよ……、
お宝なんかなーんにも、探してませんわ!塔でお前達を妨害したのも、オーブを奪ったのも
全てあんた達を困らせたいが為!構うとムキになるから面白かったのでね、
本当にいいカモを見つけましたわ」
「……にゃにい~……?」
此処でついと出た、お嬢の衝撃的な言葉。今までの事は本当になんだったのか。
ジャミル達はますますこのお嬢……、変な娘に対し、訳が分からなくなり、混乱する。
「私は世界中の糞人間共の邪魔をし、不幸に陥れるのが目的!アープの塔では
面白かったですわね、本当に!……のほーほほほほ!虐め甲斐のあるあなた方が気に入ったので
これからも邪魔してやろうと思い、こっそりと後をつけていたのですわっ!」
「な、な、な……、つまり、オイラ達、嫌がらせされてたの?……ねえ……、
それに後を付けてたって……、ど、どうやって……?」
「本当に……、頭に来た……、許せない……、でも、世界中の糞人間て……、あ……」
アルベルトが怒りでスリッパを取り出そうとした中、変な娘はジャミルに近づき、……そして。
「ちゅ」
「……!?」
ジャミルの頬にそっとキスをしたのだった。
「お、おいっ!……な、何考えてんだあーーっ!!」
「悪魔のキスですわ……」
ジャミルもアルベルトも……、ダウドも……、巫女さん達も騒然。そうしている中、
……はっとして、ジャミルが我に返った時、既に娘はヒャッハーしながら
凄いスピードで神殿から逃走しようとしていた。
「こ、こらっ!待てコラーーっ!まだちゃんとテメエの素性を話し……、ああーーっ!!」
「私は諦めなくてよ!……大きな目標が出来ましたわ!……いつかアナタを
私のトリコ、奴隷にして見せます!ま、精々頑張ってバラモスにお勝ちなさいな!!」
「……コラああああーーっ!!」
結局、……今回も、あの小娘の真の目的、素性も全く分からず、中途半端で終わったのだが……。
「はあ、お話終わったかしら……、寒いわね……」
「おねえちゃん、うえ、おそら、なにかとんでるよ……」
「……え、えええーーっ!?」
外で話が終わるのを待っていたアイシャとスラリン……。二人の目の前で確かに上空を……、
頭部が2本尖っている謎の変な物体が飛んで行った……。しかし、何が飛んで行ったのか
アイシャ達には良く確認出来なかった。
「ルールルル、ル……」
先程飛んで行った、トンガリ頭の変な生き物とは……、トンガリの片方にリボンを
着けたモンスター、……べローンと長い舌を出しているメスらしき、
ピンク色のベビーサタンである。
「ひひ、悪魔族のエリートベビーサタン、ララルはこれからも世の人間共の邪魔をし、
不幸に陥れるのが真の目的……、ル、……それにしても、人間界に
修行に行ったまま何年も戻って来ない消息不明の魔界のバカ王子は何処にいるのやらル、
うーん、これからはもっと化ける人間の女の研究もしないといかんルね、
……あの馬鹿な馬鹿男をシモベにするのはこの、ララル様なのル……、けけけ……、
本当に気に入ったル……、ひひ……、又素晴らしい虐め方法を見つけてやルー!
それまで、あばよー!ル!けーけけけけ!」
やっと……、ラーミア復活
ジャミルはアイシャとスラリンを神殿の中に呼び戻すと、先程の事を話す。
「そっか、結局、あの人は何者なのかが分らないまま終わっちゃったのね……」
「終わらないよおー!またいずれオイラ達の事、邪魔するみたいな事言ってたもん!あーうー!」
「それならそれで仕方ないよ、又来るんだったら今度こそ成敗しなくちゃ……」
「おい、……アル?」
「うふふふ~う、スリッパ乱舞の練習……、うふふふ~♡」
「……」
「あの……」
「あの……」
巫女さん達が先程から4人の方をじっと見ており、ジャミルは慌てる。
「あ、待たせちゃったね、わりィね、んじゃ、残りのオーブを……、と」
ジャミルは残り5個、全てのオーブを祭壇に捧げる。……すると、
真ん中の祭壇の卵の輝きがいっそう強くなる。
「……時は来たれり今こそ目覚める時……、大空はお前の物……、さあ高く舞い上がれ!!」
巫女さん達が再びこの言葉を口に出す。すると、卵に異変が起こった。
「あっ……、卵にヒビが……!!」
「今度こそ……、今度こそ……、ちゃんとラーミアが産まれるのね!」
「オイラなんかドキドキしてるっ!……ううう~!」
「ダウド、騒いじゃ駄目だよっ……」
皆が見守る中……、伝説の不死鳥ラーミアが……、今……、復活する……!!
「大きいなあ……」
「本当ね……」
「圧巻……、だよお……」
「ラーミア、等々復活したんだね……」
「……クゥィィーーンッ!!」
誕生したばかりのラーミアは一声声をあげると翼を羽ばたかせ、大空へと舞い上がった。
「……皆様……、有難うございました……、伝説の不死鳥ラーミアは蘇りました……」
「いいのか……?神殿の天井モロぶち抜いて飛んでったけど……」
ジャミルが親指でくいくい天井を指差す。確かに天井には巨大な穴が……。
ラーミアは天井をぶち破り、大空へと羽ばたいたのである。
「あっ……」
「あっ……」
「……」
「いいのです……、改築工事をしますから……」
「そ、そうか……」
巫女さんは一斉に声を揃え、言葉をハモるのであった。
……と、言う事で4人も神殿の外へ。外ではラーミアが待っていた。
「うふふ、私、早くラーミアに乗ってみたーい!」
「ピキー!!」
いつも通り元気なアイシャとスラリンのコンビ。アイシャももうすっかり元気になっている。
「ラーミアは神の下部……、心正しき者だけがその背中に乗る事が出来るのです……」
「……」
「ジャミル……、今内心焦ってるでしょ……」
巫女さんの言葉に何だか動揺しているらしきジャミルをダウドが試しに突っついてみる。
「ば、馬鹿言え……、こんなモン……、あ、あれ……?乗れたよ……」
「良かったね、乗れて」
「るせえっ!」
心配してくれて優しいダウドに心を込めてお礼のゲンコをプレゼントするジャミル。
「ジャミルは優しいんだもの、乗れるのに当り前じゃない、ね?」
アイシャがくすっと笑う。
「あ、あははは……」
やがて全員ラーミアに乗り終わった。……アルベルトはナイトハルト提供の
船と別れるのが切ないのか何だか。じーっと名残草しそうにさっきから
船の方をちらちら見ている。
「あのさ、この船なんだけど……、バラモス倒したら回収しに来るからそれまで
預かっててくんないかな?」
「分りました……」
「分りました……」
「皆さん……、どうか、お気をつけて……」
「さあいいぞ!飛んでくれラーミア!!」
最後の巫女さん達の言葉のハモリを耳にし、ジャミル達を乗せラーミアは大空へ羽ばたく。
やがて、神殿も小さくなり、遥か遠くになってしまった……。
「……こ、こんなに高いの……!?いやだあーっ!!ぎゃー!!落ちたら死ぬよおー!!」
「その内慣れるから平気だよ……、船酔いだって克服出来たんだから……」
「怖いよおお~……」
涙ぐみ、ぐずり始めたダウドをアルベルトが慰める。
「のろいなあ……、しかも長時間乗ってたら痔になっちまう……」
「……ジャミル!」
「だって何かすげー早ええのかと思ったら、すげーたりー……!?あわわわわ!!」
「……きゃっ!?」
ジャミルの毒舌が聞こえたらしく急にラーミアが飛ぶスピードを上げた。
「げーっ!!酔っちゃうよおー!!」
「ちょ、ちょっちタンマ!って、……あーーーーっ!!」
ラーミアは急降下で海へと突っ込みスラリン以外、全員ラーミアの背中から放り出された。
4人は頭から間抜け状態で海へと墜落する……。
「……ぷっはーっ!冷てーっ!!」
「うう……、浅くて助かった……」
「びしょびしょーっ!やーん……」
「……どうすんのさ!!バカジャミル!!ラーミアが怒っちゃったじゃないか……!!」
「バ、バカとは何だよ!」
「だってバカだもん……、いたーっ!!」
「……ダウドにだけは言われたくねえ!」
「責任とってラーミアの機嫌直しなよ……」
「おーーーい!あんたら何してるんだーい?」
釣りに来たらしきおじさんがジャミル達に声を掛けた。
「……このクソ寒いのに水泳大会かい……?若いってのはいいねえ……」
「私達……、笑い者……」
「……ジャミルっ!!」
こんな時でも肌身離さずアルベルトがさっとスリッパを振り上げた。
「わ、分ったよ……」
ジャミルは水をかき分けて歩き、ラーミアの所まで近寄って行った。
「よう、悪かったよ……」
「……キュイ……」
「駄目よ、そんな謝り方じゃ……、ほら私も一緒に謝るから……」
「機嫌直してくれよ……」
「ごめんね、ラーミア……」
「ああ……、アイシャは悪くないのに……」
しかしラーミアの怒りは収まらず、ジャミル達を見ると一声馬鹿にした様に鳴いた。
「……結構プライドたけえな、このクソど……むぐ!」
「ぼ、僕らも謝ろうか、ね?ダウド……」
「う、うん……」
「……毎度毎度力入れ過ぎなんだよ!このアホベルト!!……窒息するかと思ったい……」
「その方が静かでいいよ……」
「……何いっ!?」
「何してるの!!二人共!!」
「すいません……」
結局4人で謝る事態になってしまった。
「ねえ、ラーミア……、もうみんなをゆるしてあげて?」
「……」
スラリンのフォローでどうにかラーミアの機嫌も収まり4人は無言で再度ラーミアの背中に乗る。
「……ねえジャミル……、もし……、又余計な事言ったら……」
「言ったら……?」
「ガムテープの刑♡」
「……」
「うふふ、うふふ、うふふ♡」
「アル……、怖いよ……」
「何だい?ダウド」
「何でもないよお……」
(やっぱり……、真に恐ろしいのは……、バラモスじゃなくてこいつだ……)
と、思うジャミルなのである。
その5
決戦!バラモス編
遂に潜入!バラモス城へ
暫くラーミアで空を進んで行くと……、やがて岩山に囲まれた不気味な城が見えてきた。
「あそこだ……!地上からじゃ入れなかった場所だ……」
「……うわー!いよいよだよおー!!」
「と、その前に……」
ジャミルがスラリンの方を見る。
「ピキ?」
「またオメーは連れて行けない、……今回は敵の総巣窟だからな……」
「ピキー……、ボクまたおるすばんなの……」
「スラリン……、すぐに戻ってくるから……、いい子で待っててね……」
「今度はラーミアも一緒にいるし、独りじゃねえから平気だろ?な?」
「うん、ジャミル、おねえちゃん、わかった!みんながんばってね!!」
スラリンをラーミアに預け4人はいよいよ敵の本拠地へと突入する。
バラモス城
「……」
城に入った途端、……緊張してるのか、ダウドがぶるぶる震えだした。
「どうした?ダウド……、まさかもうヘタレたんじゃあんめえ……」
「……な、なんか急に緊張して……、トイレないかな……」
「……こんな所に親切に置いてある訳ないでしょ……」
「そこら辺でやれよ……」
「え……、え~……?」
「今更何いい子ぶってんだよ!」
「うう……」
ダウドは困って混乱し、何故か盆踊りを踊り出す。
「……私、後ろ向いて目瞑ってるから早くしてね……」
「お、丁度いいのがあるじゃん、この石像ターゲットにしてと……」
「……もう、ジャミルもするの……?呆れた……」
「戦ってる時したくなると困るから……」
ジャミルはアイシャに向かってにかっと笑うと、ドデンと置いてあった
巨大な石像目掛けてチョロチョロと用を足す。
「……クリティカルヒット……」
「ジャミルのバカ!!」
後ろを向いたまま顔を赤くしてアイシャが怒る。
「じゃ、じゃあ……、オイラも……」
(……今……、何か石像の足が動いた様な……、気の所為かな……?)
ダウドが首を傾げたその瞬間……。
「……うわぁぁぁぁっ!」
「ダウドっ!?」
今まで動かなかった石像が急に動き出し動く石像と化す。小便を掛けられた事で
激怒し、怒り狂っているらしい。
「……きゃーーっ!!」
巨大な石像はドスンドスンと床を踏んだ。その巨大な響き渡る足音にアイシャが悲鳴を上げる。
「こいつも魔物!?うわわわわわ!!」
動く石像は巨大な足でジャミル達を踏みつけようとする。
「……散り散りになるんだ!固まってると危ねえ!!」
ジャミル達は慌てて四方八方に逃げるが、巨体なのに、やはり動きは機敏で素早い。
「いやーっ!もうなんなのーっ!!」
「勘弁してよおーっ!!」
動く石像はアイシャとダウドに的を絞り追い掛け回す。
「やっぱ逃げてばっかいられねえか……、アル、補助魔法のサポート頼むぜ!」
「あっ、うん!!」
ジャミルは稲妻の剣を構えると、動く石像に切り掛る。
「たあーっ!!かっ……、かってーっ!!」
動く石像は後ろを向いたまま足でジャミルを蹴とばした。
「いっつーっ!」
「ジャミル、大丈夫!?」
アルベルトが慌ててジャミルに駆け寄りべホイミを掛ける。
「あいつ、石だけあってすっげーかてーんだよ……、まーだ手が痺れてやがる……」
「よし、守備力を下げてみよう!」
アルベルトが草薙の剣を翳す。……途端、動く石像の身体が光に包まれる。
「きゃー!!やだやだやだよおーっ!!」
「助けてジャミルーっ!!」
「……このクソ大仏ーっ!!クソして寝ろーーっ!!」
ジャミルの稲妻の剣が動く石像の右腕をスパッと切り落とし、右腕は地面にドスンと落ちる。
「やりっ!」
ジャミルがガッツポーズをとる。片腕を切られた動く石像は慌てふためく。
「ジャミルうー!!」
「怖かったー!!」
その隙にアイシャとダウドもジャミルの側へと逃げる。
「さあ、この間に他の階へ行こう!」
「ええ!?アルっ、だってこいつはどうするんだよ!」
「……今は余計な体力は使わない方がいい……」
「それもそうだな……、相手しても時間の無駄か」
4人は急いで他の階へ逃げようとした。
が……。
「階段どこだーっ!」
「ジャミル!こっちはさっき行ったってば!」
「早くしないとあいつがまた追いかけてくるよおー!!」
……城の中が広すぎて何処が何処だか分からなくなり、4人は迷子状態に……。
「あっ!階段よ!!」
「とりあえずあそこだーっ!!」
4人は急いで上の階への階段を駆け上った。流石にデカすぎで
動く石像も階段を上がって此処までは追って来れない。
「……ハアハアハア……」
「さすがボスの本拠地……、一筋縄じゃいかないね……」
「もうやだーっ!帰りたいよおー!」
「もう少しだから……、頑張ろ、ね……?」
ダウドのグズ炸裂。アイシャがダウドを慰める。
「うう~……」
「はあ、腹減ったなあ……」
……ガサガサ……
「またモンスター!?」
ジャミル達は急いで身構えるが。現われたのは何と。
「ピキピキ」
「おおっ……、こ、こりわ……」
美味しい美味しいデリシャスなはぐれメタルだった……。
「エサだ!エサエサ!!」
鼻の穴を広げてジャミルが興奮する。
「駄目だよ!今は一刻も早くバラモスの所に行かなくちゃならないんだよ!?」
「何言ってんだよ!アル!経験値稼ぎだぞ!?だから少しでも強くなっとかなきゃ!!」
「オイラいつまでもこんなとこいたくないんですけど……」
「あ……」
お約束ではぐれメタルがガサガサ逃走した。
「むっかーーーっ!!オメーの所為で逃げられたじゃねえか!!アホベルトのアホたれ!!」
「……人の所為にする気!?大体ジャミルなんかにはぐれメタルが倒せる訳ないだろ!」
「むかつくーーっ!!」
此方もこんなとこでもお構いなし、ジャミアルコンビの喧嘩沙汰揉め事発動。
「頭使わなきゃ勝てないよ!力押しでいっても駄目!あとは運、
ムキになってもしょうがないんだよ!メタルスライムの時にも言ったと思うケド!」
「……確かにアルの言う事は最もだけど……、今は喧嘩してる場合じゃないんじゃない……?」
「ダウドに言われたらおしまいだあーっ!!」
「……むかつく……」
「はっ、そう言えば……、アイシャは……?」
冷静になり、アルベルトが漸く我に返る。……気づくとアイシャが又いなくなっていた……。
「え?ま、またかよ……、って、こんな所、一人で何処にも行く筈ないしなあ……」
「どこ行ったんだろ……」
アイシャを救え!ってか、あなた何回捕まるの!
「……もしもし……?」
「うわぁーっ!?」
突然、緑色のフードをかぶったモンスターが現れた。
「……この手紙を読んで下さい……」
「は、はあ?何だよお前……」
「私はこの城に住むバラモス様親衛隊の一人、エビルマージと申すものです、では……」
エビルマージは手紙をジャミルに渡すと何処かへ消えてしまった。
「何だあいつ、敵じゃねえのか……?カタカナじゃなくて普通に喋ってたし……」
「でも、バラモス親衛隊って言ってるんだから敵だろ……」
「なんて書いてあるの?ラブレターじゃないの?もしかして……」
「……殴るぞ、バカダウドっ!えーっと……」
冗談を言うダウドを一喝。ジャミルが手紙に目を通す。
※拝啓 バラモス様に逆らう愚か者の勇者共に次ぐ。 我はバラモス様親衛隊・隊長
ライオンヘッドである。 お前達はバカだ、 見事にはぐれメタルで釣られたな。
その隙にお前達の仲間の小娘を頂いたぞ、 返して欲しくばこれ以上無駄な抵抗は
しない事だ。 さもなくば娘の命は保証しないぞ、 まあ抵抗せんでも返してやらん。
「……モ、モンスターがこんな手紙書けるのーっ!?って、言ってる場合じゃないよおーっ!!」
「アイシャ……」
手紙を読んだジャミルが呆然とする……。自分達の失態で又アイシャが危険な目に……。
「どうすんのさ!!ジャミルのばかばかーっ!!…あ、ご、ごめんーっ!!」
殴られると思ってダウドが思わず身を縮める。……しかし。
「……俺の責任だ……、俺がバカやってはぐれメタルなんかに夢中になってたから……」
ジャミルが悔しげに手紙をぐっと握りしめた……。
「ジャミルう……」
「ジャミル、行こう!」
「……え?」
「決まってるだろ!アイシャを助けに行こう!!」
「アル……」
「ジャミルばっかりじゃないよ、僕だって君を怒るばっかりで
アイシャに目が届かなかったんだから……、責任は僕にもある!」
アルベルトがジャミルの肩に手を置き、ジャミルの瞳を真っ直ぐに見つめた……。
「……アル……、よーし!アイシャを助けにいくぜ!そんで4人でバラモスんとこ行くんだっ!」
アルベルトとダウドが頷いた。強い決意で3人はバラモス城の中を再び駆け出す。
「だけどさあ、よく捕まったり、いなくなったり……、落ち着かないねえ、アイシャも……」
ダウドがちらっとジャミルの方を見る。
「……そりゃあ……、よ、ヒロインだから……、な、あいつの性格も災いしてるし……」
「ジャミル、何で君……、赤くなってんの……?」
「……」
「はいはい!わかりましたよおー!このノロケバカップル!」
ダウドがアカンベーをした。そして、また始まる、揉め事が。
「……な、何だよ!バカダウド!!」
(ダウドも強くなったなあ……、でも結局はすぐ殴られるんだけどね……)
「……この野郎っ!」
「あ~ん!アルう~!!ジャミルが殴ったあ~っ!!」
「……はあ……」
「あ、あれ……、何?」
「?」
怪しい部屋があってその扉の前に見張りのモンスターがいる。
「……シッカリミハレ……、コムスメハヒトジチダ……」
「幾らなんでも早すぎねえか……?」
「うん……、見つかるの早すぎだよ……」
「いいじゃない!あの中にアイシャがいるんだよお!」
「……気が抜けた……、畜生、反省して損した……」
「は、ははは……」
指図したモンスターは何処かへ行ってしまい、残ったのは見張りのモンスターだけになった。
「……」
3人は隠れてもう少しだけ様子を見る事にしたが……。
「……」
「ジャミル、何やってんの?」
「あー!タバコ食べてるー!」
「……いくらお腹が空いたからって……、何してるの……」
「バータレ!こりゃチョコだよ!チョコレート!」
「そんなのあるんだ……、へえー……」
「ずるいよお!一人で食べてー!!」
「わかったよ……、ほい……」
ジャミルはしぶしぶ二人にもチョコを渡した。
「しかし……、相変わらず全然緊張感の無い人だねえ……」
「……人から貰っといてそーゆー事ゆーなっつーの!」
チョコを食べながらアルベルトが含み笑いをした。……ジャミル達は
暫く様子を見ていたが特に見張りの様子には変化がない。
「……厄介なのも出て来ねえみてえだし、そろそろ行くか?」
「見張りは僕の魔法で何とかなるよ」
アルベルトが見張りへこっそりラリホーを掛ける。
「こっから届くのか?」
「うん、大丈夫だよ」
……見事に見張りのモンスターはぱたっとその場に倒れ眠ってしまった。
「……よし、行くぞ!」
ジャミル達はアイシャが捕まっているらしき部屋の前までやってくる。
「やっぱ鍵がかかってんなあ……、よし、最後の鍵で……!開いた!」
急いで扉を開くと、やはり中にアイシャがおり、アイシャは椅子に座っていた。
「……ジャミル?それにアルもダウドも……、あはっ、来てくれたのね!」
アイシャが3人に向かって嬉しそうに駈けてくる。
「アイシャ!無事だったか!!」
「よかったよおー!」
「大丈夫!?怪我は……!?」
「うん、私は大丈夫よ……」
「……ふう~……」
ジャミルは安心してその場にぺたっと座り込む。
「いきなり後ろから口を塞がれて……、此処に連れて来られたの、
でも閉じ込められただけで、後は何もされていないわ……」
「ごめんな……、怖い思いさせて…、もっと周囲に気を配ってりゃ……」
「ううん……、きっと皆が助けに来てくれるって信じてたから……」
アイシャがにこっと笑って男衆にいつもの明るい笑顔を見せた。
「ハハハハハハ!!」
「オウ!?」
「バラモス様親衛隊隊長・ライオンヘッド!!お前達は生きて返さぬ!!」
いきなり部屋の中に羽の生えたライオンの様なモンスターが出現した。
「……テメーか!アイシャを攫う様に部下に命令した奴は!!」
「うわ!モロに普通にお喋りしてるよお!」
「親衛隊の隊長に指名されただけあって、モンスターの中でも知能は高いみたいだね……」
アイシャが脅え、ジャミルの後ろに隠れる。
「……ジャミル……、取りあえず此処から出よう、こんな狭い部屋じゃちょっと……」
「そ、そうだな……」
「ひいーっ!怖いよおー!!」
ジャミルはアイシャの手を引っ張り部屋から逃げる。
「……っと!?」
部屋から出たジャミル達を沢山のエビルマージ達が取り囲んでいた。
「逃がさんぞ!!」
ライオンヘッドもひょいっとジャンプし、4人の前に立ち塞がる。
「何だよ!!どけよ!!」
「抵抗すればそいつらのマヒャドでお前達全員氷漬けだ!」
「……くっ!」
「かき氷になるのは嫌だよおーっ!!」
「一匹だけならどうにかなるけど……、こんなに数が多いと……」
アルベルトが歯噛みする。
「大人しく我らに従うのだ……、さすれば命だけは助けてやる……」
「けっ!誰が!!」
「そうか、馬鹿な奴らだ、折角生存のチャンスを与えてやったと言うに、……ならば死ね!!」
エビルマージ達が詠唱準備を始める。
「……いやーっ!!」
「……」
エビルマージ達が急に同士で顔を見合わせ詠唱の手を止めてオロオロし始めた。
「ど、どうしたんだ?こいつら…」
「き、貴様ら……!何をしている!!」
何故かエビルマージ達はアイシャの方をずっと見つめている。
「……どうしたと言うのだーっ!!」
「攻撃やめます……、実は私達フェミニストなんです……」
「はああ!?」
ジャミル達も唖然とする。
「何を言っているーっ!!早く攻撃しろーっ!!」
しかし……、エビルマージ達はライオンヘッドの命令を無視し全員逃げて行った。
「……コラーーッ!!」
zoku勇者 ドラクエⅢ編 11章