『MOTHER』

焼きたてのマドレーヌ
玄関先のアスファルトに雨

『MOTHER』

ポツポツと降り出したそれには
ちゃんと匂いがあるのよ
今日のおやつはマドレーヌなのに
晴れじゃないのは残念だけど

甘いものは好きじゃない
だけどマドレーヌは好き
バターの香りが家中に広がって
幸せな気持ちになるから

子供でいられる時間が
とても短いなんて
誰も教えてくれなかった
永遠に続くとすら思えたのに

良くない夢を見て
良くないものに憧れて
いつかリボルバーを握るとか
子供の空想は果てしないね

アタシはきっと悪い男を
好きになってしまう気がしてた
それと同時に真面目で面白みのない
優しいだけの男を選ぶ気もした

人より大人になるのが早いこと
どうして誰も教えてくれないの
ずっと立ち止まっていたかった
手を繋がれてあの場所で

人を愛することを知らない時代が
一番幸せだったと錯覚するように
夢見がちに恋した日を懐かしむ
映画の中にだけ愛はあった

「またバターの香りに騙されたい」