zoku勇者 ドラクエⅢ編 10章

その1

幽霊船探検!

「……やっぱり、この先、話を進めるにはあの岬を通るしかないよ……」
 
アルベルトが地図を見ながら岬を指差す。突然おかしな声が聞こえ、
岬を通ろうとした船が無理矢理引き戻された場所である。
 
「だって……、あそこ変な声するし……、頭も耳も痛くなるし……、通りたくないよお……」
 
「変な声か……、そういや聞き取りにくい声でエリックって聞こえたな……」
 
「ジャミルもなの!?私もよ……」
 
「僕も聞こえた……」
 
「ひーっ!怖いよぉぉぉー!!」
 
「きっとあそこの岬で何かあったんだな……、それさえ解れば……」
 
「誰か知ってる人いないかな……」
 
「……う~ん……」
 
あれこれ考えているうちに日は暮れ、夜になってしまう。
更に夜も更け、皆が寝静まった頃、ジャミルは一人で起きて
甲板に出て海を眺めていた。
 
「……しかし便利な船だ……、勝手に動くんだから……」
 
「ジャミル」
 
「アイ……、何だ……、オメーか……」
 
声に振り向いてがっかり。ダウドだった。
 
「アイシャが起きてきたと思った?残念でしたー、オイラでーす」
 
「……早く寝ろよ……、タダでさえ疲れると愚痴が出るヘタレなんだからよ……」
 
「うるさいよお、ジャミルだって起きてるじゃん」
 
「俺はダウドと違って色々悩みがあんの」
 
「朝ごはんの事?」
 
「……」
 
「それともおやつかな?」
 
「……早くねろっつーの!!」
 
「……ちぇ、わかったよお……、そんなに怒らなくてもいいじゃん、ふんだ……」
 
ダウドは口を尖らせてしぶしぶと船室に戻って行った。
 
「……たく、俺だって玉には考える事ぐらいあるんだぞ……」
 
ジャミルが溜息をついた。
 
「……オーブもあと一つ、あと一つで確実にバラモスんとこまで行けちまうんだ……」
 
……静かに波の音だけが聞こえる。
 
「ま、やれるだけやってみるか、辿り着けたらな……」
 
 
……
 
 
次の日の朝、ジャミルはトーストを3枚齧り、目玉焼きとサラダをおかわりした。
 
「全く、風邪が治ったと思ったら……、すぐこれだよ……」
 
この間熱で魘されていた時とは段違い、しっかり食欲を取り戻した
ジャミルを見てアルベルトが呆れる。
 
「いいのっ!俺の生きがいなんだから!」
 
ジャミルが幸せそうにトーストを齧った。
 
(私は、ジャミルのそういう明るい所が大好きなんだよ……)
 
アイシャがくすっと笑った。
 
「……どうやったら岬を通れるか、方法考えておいてね……」
 
「アル、判ってるよ……、でも……、どうすりゃ……」
 
 
「うぎゃーー!……ジャーミールうううーー!!」
 
 
ジャミルがまたトーストに噛り付いたその時……。甲板からダウドの声が響き渡る。
やれやれと思いながら仕方なしにトーストを銜えたまま甲板に行くと……。
 
「……ジャミル!来て来て!!早く!!大変なんだよお!!」
 
「何だよ、どうしたんだ?」
 
「早く来てー!!早く早くー!」
 
「だから何やってんだよ、お前……」
 
ジャミルが行ってみるとダウドはかなり慌てている様子。
 
「ふ、ふざけて……、この船乗りの骨を回して遊んでたんだよお……、そしたら……」
 
ダウドが海の方を指差す。……確かに見た事の無いボロボロの船が一隻近づいてきた……。
 
「何だ?あの船……、まさかあれが幽霊船なのか……?」
 
「急に骨が勝手にくるくる回りだして……、あの船が近づいてきたんだよお!」
 
「う~ん、行ってみるっきゃねえか……」
 
「……ひいい~っ!オイラ嫌だよお~!」
 
……ダウドは速攻で拒否するが無視してジャミル達は自分達の船を
横付けし、幽霊船に上陸してみる事にした。
 
「スラリン、いい子で待っててね」
 
「ピキー!」
 
一番行く気のないダウドにスラリンを預け、今回は3人だけで行動する事にした。
 
「……気を付けてね、なるべくお早いお帰りを……」
 
「ピキー!いってらっしゃーい!」
 
ダウドとスラリンに見送られながら3人は幽霊船内部へと侵入する。
 
「幽霊さんかかってきなー!」
 
「何だかちょっとドキドキするね……、それにしても、凄い貫録のあるお舟ねえ……」
 
「宝モンがあるといいよな!」
 
「……そんなに簡単に見つからないよ……」
 
「ケッ!夢がねえなあ!アルは!!」
 
「……はあ、ジャミルが夢見過ぎなの、少しは現実を見たら?」
 
「……何だとう!?この腹黒っ!」
 
「ちょっと待って!アイシャが……」
 
……二人が討論しているちょーっと!……の、間にまたいなくなったらしい。
 
「……うー……、チョロチョロすんなって何回言ったら……、あのジャジャ馬め……」
 
「静かに……!何か聞こえる……」
 
船室らしき扉の前でアルベルトが立ち止まる……。
 
「は?だってこの船、もう無人の筈だろ?……人なんかいる筈がねえよな、
つーことは、いよいよ幽霊とご対面か!?」
 
 
♪それいけやれいけへいへいほー、あらしのうみでものりこえろ~
 
 
しかし、確かに扉の中から声がするのである。しかも集団音痴な歌声が聞こえる……。
 
「幽霊の音痴集団か……」
 
「……う~ん、僕らよりも先に誰かが入り込んでると言う事もありえ……」
 
 
♪へいへいほ~、ほいほいへ~……
 
 
「くっくくく……」
 
「駄目だよ……、黙ってなよ……」
 
「分ってるけど、クククク……、も、もうダメ……、我慢できねえ……、あはははは!」
 
「……ジャミルっ!!」
 
「何すんだよ!放せよ!くすぐってーな!」
 
「……何してるの?ジャミル、アル……」
 
「は……」
 
「アイシャ……」
 
気が付くと、バトルを始めた二人の目の前にいつの間にかアイシャが突っ立っていた。
 
「……おいコラ!何処行ってたんだよ!」
 
「静かにしてってば!」
 
「ちぇ……」
 
「えへへ、ちょっと探検……」
 
「だから……、勝手に一人で行動しちゃ駄目だよ……」
 
「ごめんなさい……、新しい場所ってつい嬉しくって……、なんだかワクワクしちゃうの……」
 
「でもやっぱり単独行動は駄目だよ……、気を付けてね……」
 
「うん、ごめんね……、でもやっぱり冒険て楽しいね!うふふ!」
 
ちょこんとアイシャが謝る。元気でその可愛らしい姿に……、
やっぱりアルベルトもついつい本気で怒れずどうしても甘くなってしまうのである。
 
「でも、こいつら何してんだ?ちょっと覗いちゃえ!」
 
ジャミルがドアの隙間からちらっと中を覗くが……。
 
「?」
 
「な、何か見えた…?」
 
「おかしいな……、やっぱり誰もいねえ感じだ……」
 
「確かに中から歌声はするのに……」
 
「あーん、気になるわあー!」
 
「……よ、よーしっ、開けるぞおーー!」
 
……ジャミルが思い切って扉を開けてみると、……やはり中には誰もいないのである。
 
「マジでどうなってんだよ……」
 
「ジャミル……、上……」
 
「は?」
 
「今度は上だよ……」
 
 
♪それいけやれいけへいへいほーあらしのうみでものりこえろ~
 
 
……先程の集団音痴歌が今度は甲板の方から聞こえてきた……。
 
「うわ、マジで下手糞な歌……」
 
「どうなってるの!?どうなってるの!?キャー!!」
 
アイシャが甲板目掛けて走り出す……。
 
「……だから!勝手に動くなーーっ!!」
 
慌ててアイシャを追ってジャミルも走って行く。
 
「……ふうー……」
 
……甲板に行くと数人の男達がオールで船を漕いでいた……。
今度はちゃんと人の姿が確認出来たが……、どう見ても幽霊には見えないのである。
 
「おい、本当にどうなってんだ?乗り込んだ時には確かあんな奴らいなかったよな?」
 
「あの人達って……、やっぱり幽霊なのかしら?」
 
「けど、あいつら足があんぞ……」
 
「……あっ、大変!私達の乗ってきた船が……、無くなってる……」
 
「何!?」
 
「ここは幽霊船の筈……、僕らの乗って来た船が無い……、うーん……、もしかして……、
この船が沈没する前の時代にタイムスリップでもしちゃったのかな……」
 
「……んな、アホな!!」

その2

悲しき船の記憶

「……其処に誰かいるのか!?」
 
一番前でオールを漕いでいた男がオールを漕ぐ手を止め、
他の船員も一斉にジャミル達の方を振り返る……。
 
「……まままま!まずいっ!」
 
3人は急いでその場を逃げようとしたがあっさり捕まる……。
 
 
……
 
 
「おいお前ら、こんな船に乗り込んでどうするつもりだったんだ?此処は流刑船だぞ……」
 
「え……」
 
「うそ……」
 
「もしかしてこの船乗っ取るつもりだったのか?だったら面白れえな!がはははは!」
 
男達は集団で声を揃えて笑った。ジャミル達3人はちらっと目線を合わせる。
 
「でも船長、こいつらどうします?無断で船に乗ったんですぜ?」
 
「そうだな……、定番の……、簀巻きで海に放りこんでやるか……?」
 
「……嫌っ!!」
 
アイシャが脅え、ジャミルの後ろに隠れた。
 
「もういいじゃないですか、船長……」
 
……人の良さそうな、綺麗な顔立ちの青年がジャミル達の前に立つ……。
 
「この子たちも反省してるみたいだし……、でも、君達……、
幾ら悪戯とは言え度が過ぎるよ……、もう二度とこんな事はしては駄目だよ……?」
 
(俺は小学生か……)
 
「甘えなあー、おめえは相変わらず……」
 
結局、ジャミル達は青年に免じて許して貰える事になったのだが……。
 
「もうすぐ、休憩で船が一旦港に着くから……、そうしたら降ろして貰えるよ」
 
「……」
 
「ねえ、あの兄さんなんて言う名前だい?」
 
ジャミルは少し一休みしているおっさんに庇ってくれた青年の事を訪ねる。
 
「エリックの事か……?」
 
「……エリック?」
 
「何処かで聞いた事が……」
 
 
「……あーーーっ!!」
 
 
3人が一斉に声を揃える。岬で聞こえた不思議な少女の声はエリックに会いたいと
小さなか細い声で言っていた。もしも岬の声の少女が探しているエリックが此処にいる
エリックだとしたら……、此処で岬の声の主と、エリックとの関係が何か分るかもしれなかった。
 
「……コラ!!ガキ共!!てめえら静かにしてねえと本当に海に放り込むぞ!!」
 
船長が3人に向かって怒る。
 
「本当にいい奴だよ、あいつは……」
 
「?」
 
「何処で人生がとち狂っちまったのか知らんが、あいつは無実の罪で
此処に送られたらしい……、かわいそうにな……」
 
「何でまた……、酷えな……」
 
「あいつは余分な事は喋んねえからこっちもあまり詳しい事は聞かねえけどよ……」
 
「……エリックさん……」
 
アイシャがエリックを見た……。
 
「でもな、アイツのお蔭で俺達は救われたのさ、エリックの真っ直ぐな心を見てるとな……、
もしも生きて此処を出られたら……、今度こそ真っ当な人生を送りてえなーって……」
 
「すみません、少し交代して下さい、手が痛くて……」
 
エリックが此方にやってくる。おっさんは快く漕ぎ手をエリックと交代した。
 
「ああ、いいよ、休め休め」
 
「ねえ、ジャミル……、流刑船て言うから、もっと怖い人達
ばっかりなのかなーって思ってたけど……、そうでもないのね……」
 
「そうだな……、イメージと大分違うな……、この流刑船の奴ら、
幾ら何でも呑気過ぎるなあ~……、何だこりゃ……」
 
……極悪人ばかりが送られる様な通常の恐ろしいイメージと違い、
この流刑船は本当にクルーもいい人ばかりの変わった船の様である……。
 
「やっぱり僕らは……、この船が沈む前の時代に来ちゃったみたいだね……、
……不思議だね、そんな事があるのか本当に考えたくないけど……」
 
「だとしたら……、おい、やべえぞ、早く元の時代に戻んねーと……、
この船の先の未来が幽霊船なら……、俺らも海の底に沈んじゃうんじゃね……?」
 
「ええーっ!?ど、どうしよう……!!」
 
「……落ち着いて二人とも、まずは落ち着こう……、必ず元の時代に
戻れる方法が有る筈だから……、多分……」
 
落ち着こう、落ち着こうと言っているものの、ややアルベルトも不安げな声である……。
 
「多分……?」
 
 
「オリビア……」
 
 
「うーん?何見てんだ?」
 
「わあっ!?」
 
……一休みしているエリックの処に早速ジャミルがお邪魔。……茶かし始める……。
 
「ペンダント?あ、写真入ってんなあ、どれどれ?」
 
「……これは僕の……、恋人の写真だよ……」
 
「……恋人お!?」
 
「……こ、こら!声が大きいよ……!」
 
エリックが慌ててジャミルの口をぱっと塞いだ。
 
「す、すいません、どうもプライベートを……、駄目じゃないか!もう!
たくっ、お邪魔虫っ!……糞虫っ!!」
 
アルベルトが慌ててジャミルをぐいぐい引っ張る。
 
「だってよお……、てか、最後のは余計だっ!!」
 
「ははは、エリックう、又彼女の写真見てたな!」
 
「にくいねえ、この!」
 
船員達もオールを漕ぎながらエリックを茶化す。
 
「……あわわわわ!」
 
「わ、悪ィ……」
 
「いいんだよ、いつもの癖でね……」
 
そう言ってエリックは淋しそうにペンダントを眺めた。
 
「僕はもうもしかしたら……、彼女の所には戻れないかも知れないのに……」
 
「エリック……」
 
「そんな事ないわよ!」
 
アイシャがエリックの前に立った。
 
「え……?」
 
「諦めちゃ駄目よ、信じなきゃ……、大切な人の所へ絶対に帰るんだって……」
 
「で、でも、アイシャ……、エリックの未来は……」
 
「……ジャミル」
 
そう言いかけたジャミルをアルベルトが突く。
 
「信じて、願いはきっと届くわ……、あなたの恋人さんだって
エリックさんが帰ってくるのをきっとずっと待ってる筈よ!」
 
「そうだね……、お嬢さん有難う、僕は大切な事を忘れ掛けていたよ……、
絶対に生きて彼女に又会うんだ、その信じる気持ちをね……」
 
「そうよ、エリックさん!」
 
「信じなきゃね……、僕の大切な人が待つ場所にきっと……、きっと戻るんだって!」
 
「何か臭くなってきたな……」
 
聞こえない様にしてジャミルが呟いた。
 
「ジャミル……」
 
「ん?どうしたよ、アル?」
 
「空が……、雲行きが怪しいんだよ……、それに風も何だか強くなってきたみたいだ……」
 
ジャミルもアイシャも空を見上げる。……それはあの日、4人が岬を通ろうした日と
全く同じ様な真っ黒で不安定な空であった……。
 
「……船長!!大変です!!」
 
「何だあ!?」
 
 
「……嵐が来るーーっ!!」
 
 
「……ジャミル……、アル……!!」
 
アイシャが二人の手を強く、……ぎゅっと握りしめた。
 
「大丈夫さ……、平気だよ……」
 
アルベルトもアイシャを安心させようとするが……。
 
しかし……、次の瞬間、流刑船は瞬く間に竜巻と大波に飲み込まれ
船もバラバラになり、乗っていた船員達も全員海に投げ出される……。
そして、ジャミル達3人もあっと言う間に冷たい黒い海へと飲みこまれた……。
 
 
(アル……、アイシャ……、う、うっ……)
 
 
ジャミルは必死で二人を探そうとするが……、水があまりにも冷たく力が入らない。
 
(……苦しい……、息が……くそっ……!)
 
気を失い掛けたジャミルの耳に死に際の船員達の悲鳴と絶叫、
……断末魔が聞こえてくる……。
 
 
……死ぬのは嫌だよー!!助けてくれー!!
 
怖いよー、こんな所で死にたくないよーー!!
 
 
……オリビア……、約束……、守れなくて……、ごめんね……、
でも……、最後に……、もう一度だけ……、君に……
 
 
(……エリック!?……それにオリビアって……、まさか……、
その名前があんたの大切な人の……)
 
 
姿はみえど、暗い海の中から微かにエリックの声も聞こえてくる……。
 
 
……僕はやっぱり……、君の元にはもう……、帰れないみたいだ……
 
 
(……駄目だ!諦めんな!!あんたは生きて恋人の所に帰るんだろう……!?)
 
 
……ジャミルは必死で心の中でエリックの声に呼びかける。
 
 
……オリビア……、せめて……、君だけは……、どうか幸せになっておくれ……
 
         ……さよう……なら……
 
 
……其処でエリックの声と言葉は途切れジャミルの意識も遠くなっていった……。


カルロスとサブリナ

「……」
 
「ジャミル!」
 
「……は、はっ!?」
 
「良かったー!目を覚ましたわ!!」
 
「此処は……、俺達の船!?」
 
やっと目を覚ましたジャミル。……回りを見るとアルベルトもアイシャもちゃんといた。
勿論、ダウドとスラリンの姿も。皆、ちゃんといる。3人は幽霊船の中で
冒険していた筈であるが、元通りの自分達の船の中にしっかり戻って来ていた。
 
「アル……、アイシャ……」
 
「……ジャミル!」
 
アイシャがジャミルに泣きながら飛びついた。
 
「怖かったー……!もう二人に会えないかと……、ぐすっ……」
 
「オーバーだなあ!ったく……」
 
「でも本当に怖かったんだから!お水沢山飲んじゃったし、……船員さん達が
苦しんで……、叫んでいる声が海の中でいっぱい聞こえたの……」
 
そこまで言ってアイシャはジャミルから手を放した。
 
「……助けてくれーって……」
 
「……」
 
「で、でもびっくりしたよおー!オイラちょっと昼寝してて目覚まして、そのあと、
休憩室でカップめん食べて、んで、甲板に行ってみたら3人共倒れてたんだよ!
本当、びっくりしたよー…」
 
「……そうかいそうかい、俺らが海で溺れ掛って大変な目に遭ってる時に……、オメーはよっ!」
 
「!?アタタタ!何だよおっ!」
 
……ジャミル、ダウドを破壊締めに掛かる。
 
「ねえ、ジャミルぅ、それ、なあに?」
 
スラリンが床に転がった小さなペンダントを見つける。……写真もしっかりと中に入っていた。
 
「これは……、エリックさんのロケットペンダントだ……」
 
アルベルトが俯いた。
 
「何でまた……、此処に?」
 
ジャミルがペンダントをそっと拾い上げた。
 
「やっぱりあの幽霊船は……、俺達に沈没する直前の船の記憶を見せてくれてたんだな……」
 
「ねーねー、本当に何があったのさあ?」
 
……ジャミルはダウドに幽霊船での出来事を話し、説明する。
 
「そうだったんだ、そんな不思議な事が……、や、やっぱりオイラは
行かなくて良かった……、ほっ……」
 
「何だ……?」
 
「い、いや、何でもないよお……」
 
「これでやっとはっきりしたな、多分……、あの岬の声の主が
エリックの恋人のオリビアなんだろうな……」
 
「そ、それじゃあ……、オリビアさんも、もうこの世にいないって事……?どうして……」
 
そこまで言ってアイシャが口をつぐんだ……。
 
「とりあえず今日はもう船留めて休むか、暗くなってきたしな……、
アイシャもアルも疲れたろ?」
 
「あ、あのね……、私また……、ポルトガに行きたいなー、なーんて…」
 
「は?何でまた……」
 
「そろそろ新しい水着が……、欲しいなあー、なーんて……」
 
「お前な……」
 
暗かったムードを急に天ボケアイシャが一転させる……。
 
「……いいんじゃないの?ここん処せっぱつまってたし、玉には息抜きしないと
ストレス溜っちゃうよ?」
 
「アルぅ♡」
 
やはりアイシャには甘いんだか何だか、アルベルトがフォローを入れた。
しかし、内心はポルトガにいる殿下に会いに行きたかったのである。
 
「オイラも行きたーい!あそこには美味しい魚料理のお店があるんだよおー!
ガイドブックで再確認して調べたーっ!」
 
「ピキー!ボクもポルトガってみてみたーい!」
 
「ホラ、スラリンも行ってみたいって!いこいこだよお!」
 
「……判ったよ……」
 
「ジャミル……?元気ない?」
 
ダウドがジャミルの顔を覗き込んだ。
 
「もう色々あり過ぎで混乱して疲れてんだよ……」
 
「ジャミルっ!元気出して!らしくないわよっ!?」
 
「イテテテ!」
 
「ジャミルが元気ないの嫌だよお!」
 
「私も!」
 
「ピキー!」
 
アイシャ、ダウド、スラリンまでジャミルに纏わりつき始めた。
 
「分ったから……、おぶさらないでくれ……、お前ら子泣きじじいか……」
 
「オイラじいさんじゃないよお!」
 
「ひどーい!」
 
「あ、アイシャは子泣きばばあか……、イ、イテテテテ!何だよ!!」
 
(良かった……、元気になってくれて……)
 
アルベルトがくすっと笑った。
 
「アイシャ!頭叩くな!コラやめろ!!」
 
「これ以上頭悪くなったら大変だからその辺にしておいてあげなよお、アイシャ」
 
「……おめーもうるせんだよ!馬鹿ダウド!!」
 
 
そして、手っ取り早くアルベルトのルーラで一行は再びポルトガへと訪れる。
 
 
ポルトガ
 
 
「何か久しぶりだね……」
 
(はああ……、殿下殿下……、ああ、ナイトハルト様……)
 
「うん、ついこの間なのにね、すごく懐かしい気がするよお……」
 
時間はまだ19時なのであちこちの店は開いている。
集合場所を宿屋に指定して4人は好き勝手な行動に走る。
ダウドとスラリンは魚料理を食べに行きアルベルトはナイトハルトに挨拶に行く。
 
そしてこの2人は……。
 
「アイシャ!まーだ決まんねーのか!早くしろよ!」
 
「いいじゃない!ゆっくり見させてよ!どれにしようかな?
水玉も可愛いし……、あ、これリボンが付いてる!」
 
以前にアイシャが勝手に水着を買いに行った洋裁店で新しい水着を選別中。
アイシャの水着選びに付き合うジャミルはいい加減飽きてきた様だった
 
「ねえ、ジャミルはどれがいいと思う?」
 
「んなモン俺にはわかんねーよ!」
 
「……何よう……、女の子の気持ちなんかちっとも分ってくれないんだから……、ぐす……」
 
「ア、アイシャ!これにしろ、これ!」
 
焦ったジャミルは適当に水着を指差す。
 
「ど、どれ?」
 
「これ……」
 
「どれ?白い色かな?これ、え……」
 
 
ふ・ん・ど・し!
 
 
「……ジャミルのバカーーっ!!」
 
「間違えたんだよ!イテテテテ!」
 
「……あらあ?この間水着買ってくれた子?」
 
二人の声を聞き付け、店長らしき女性が店の奥から出て来た。
 
「あ、こんにちは……、お久しぶりです……」
 
アイシャも店長に挨拶。店長はアイシャの事を覚えている様だった。
 
「今日は彼氏も一緒なのね?ふふ、いーわあ、若いって!」
 
「え……、あ……、あの……」
 
顔を赤くして慌てる二人。
 
「そうだ!彼氏も一緒に水着探せばいいじゃない!夏に向けてのお手伝いするわよ!」
 
「お、俺はいいよ……」
 
「遠慮しないで、ホラ、こっちにいいのいっぱいあるわよ」
 
「はあ……」
 
「君はトランクス派?それともブリーフ?」
 
「……はあ……」
 
結局ジャミルは店員に押し切られ約1時間近く店に滞在する羽目になった。
 
 
「……ふい~……、疲れた……」
 
「何か食べようか、お腹空いたね」
 
2人は適当な飲食店を見つけて入り寛ぐ。
 
「こうやって玉には二人だけでご飯食べるのも中々いいよね……」
 
「ああ……」
 
また2人とも何故か顔が赤く……、フォークとナイフを仕切に特に意味もなくいじっている。
 
「……」
 
「ちょっと!それ、私のソーセージ!」
 
「あ、ああ……、悪い……、間違って食っちまった……」
 
「……じゃあ、ジャミルのミートボール貰うからね!」
 
アイシャも椅子から立ち上がり、ジャミルの分のお皿のミートボールを
一つ、フォークで突っついた。
 
「あ……」
 
「いただきまーす!……んーっ!おいしー!」
 
片手をほっぺに当ててほわほわ、アイシャが幸せそうな表情をする。
 
「んじゃ、俺もソーセージもう一つ……」
 
「あーっ!また食べた!」
 
「こんにちは……」
 
「いらっしゃいませ」
 
店にまた客が入って来た。気の良さそうな青年で猫を抱いている。
 
「すみません、いつものを……、お願いします」
 
「はーい、オーダー畏まりました……」
 
「常連か……、だからペット同伴でも大丈夫なのか?」
 
「ジャミル、口にフォーク銜えないの!お行儀悪いわよ……」
 
ジャミルがアイシャに舌を出した。
 
「も~……」
 
やがてメイドが青年の所に食事を運んでくる。
 
「サブリナ、お腹空いたろう、さあ……」
 
猫は嬉しそうにニャーンと一声鳴き、一緒に持ってきて貰ったご飯を食べ始めた。
 
「随分可愛がってんなあ、おいおい」
 
「おいしいかい?良かった……」
 
青年が愛おしそうに猫を撫でると猫もゴロゴロ喉を鳴らした。
 
「あの食事、人間が食ってるモンと同じだな……、贅沢な猫だなあ」
 
「ジャミル!あんまりジロジロ見ちゃ駄目よ……」
 
「だって何かすげえよ……、異常な愛情……」
 
「ジャミル!」
 
「へいへい……」

その3

もう一つの悲劇

暫くは大人しくしていたもののジャミルは青年と猫が気になってしょうがない様子。
 
「……サブリナ……、愛してるよ……」
 
「!?」
 
ジャミルは青年が小声でぼそっと喋ったのを聞いてしまい……。
 
「……あ、愛!?プ、プププププ!もごっ!?」
 
アイシャがジャミルの口に残りのソーセージを押し込む。
 
「……もうっ!静かにしてないと……、駄目っ!!」
 
「ふぁ、ふぁひすんだほう……」
 
「ご馳走様でした」
 
騒いでいる間に食事を終え、会計を済ませ青年と猫が店を出て行ってしまう。
 
「あーあ、行っちまった……」
 
「入るよー!!」
 
「また別の客……!?」
 
「いらっしゃいませー」
 
青年と入れ替わりで今度は別の客が入って来るが、何と……。
 
「あいつ……、どっかで……?」
 
客の頭からは角が4本生えている……。
 
「イシスの……女王様!?」
 
「いや、ありゃ角が2本だったから……、多分違うと思う……」
 
「よっこいしょっと!」
 
客はジャミル達の隣のテーブルに座り食事の注文を始める。
 
「ご注文は……」
 
「ステーキ15皿と生ビール16本、それからデザートに……」
 
「うわ……」
 
ジャミルが顏をしかめる、その注文量に二人はびっくり仰天するのであった。
 
「おい!そこの兄ちゃん達!!」
 
「え、え、え、俺ら!?」
 
「全く、イチャイチャしてんじゃないよ!だらしがないねえ!」
 
「はあ……」
 
「あたしはねえ、あんた達みたいなバカップルを見てると虫唾が走るんだよ!」
 
「じゃあ見んな……」
 
「何だい!?」
 
「い、いいえ……、何でもないです……」
 
「大体何だいあんた!男の癖に筋肉が付いていないじゃないか!
そんなんで彼女を守れると思ってんのか!?」
 
「だから本当に何なんだ……」
 
「お待たせ致しました」
 
メイドさん達が大量の食事を運んでくる。
……数人で運んで来ても量が多いのでかなり大変そうではあるが。
 
「悪いけどテーブル代えるよ、こっちにしてよ」
 
「え……」
 
角女はジャミル達のテーブルに移動する。……ジャミルは角女の角を珍しそうに眺めていた。
 
「あのう……、あなたは……?」
 
アイシャがおそるおそる聞いた。
 
「あたしはシフ3号だよ」
 
「……」
 
ジャミルがちらっと角女の顔を見た……。
 
「何じろじろ見てんだよ!おい!!」
 
「……イテテテテ!!」
 
角女がジャミルの背中をばしばし叩く。
 
「幾らあたしが魅力的だからって、まだボウヤには早いよ!!ハハハハハ!!」
 
「……誰もんな事言ってねえよ…」
 
「何か言ったかい!?んー!?」
 
「な、なんでもな……、いたたたた!」
 
その後、角女は注文した料理とデザートとビールを残さずすべて平らげた。
 
「ジャミル、そろそろ行こうよ……」
 
「ああ……」
 
ジャミル達は会計を済ませ店の外へと出る。……外ではびゅうびゅうと
木枯らしが吹き荒れている。
 
「うーっ、寒くなって来たなあ……」
 
「本当ね……、又風邪ひかない様にしようね……」
 
「ん?」
 
「どうしたの?」
 
「さっきの……」
 
ジャミルが猫を抱いた青年が道端に座っているのを見つけたらしい。
 
「おーい!」
 
「もう!ジャミルったら……」
 
「あ、先程の……、お店にいた方達ですよね?どうも……」
 
「こんなとこで何してんだ?」
 
「サブリナが寒がっているので温めてあげているんです」
 
「ニャー」
 
「わー、かわいい♡」
 
アイシャがサブリナに触ると喉をゴロゴロさせサブリナがすり寄ってきた。
 
「おかしいですか……、僕……」
 
「え!え、え、え……、いや、そんな……」
 
ストレートに言われた為、流石のジャミルも対応に困ってしまうのであった。
 
「おかしいですよね……、いいんですよ……、笑ってもらっても……」
 
青年はそう言って俯き、……やがて言葉を漏らす。
 
「サブリナは……、僕の彼女は本当は人間だったんです……」
 
「なっ!?」
 
「……えええ~っ!?」
 
「彼女は……、バラモスの呪いによって……、猫にされてしまったのです……」
 
「な、何で……」
 
「……」
 
青年は俯いたままでそれ以上何も喋りたくなさそうだった。
 
「……すまねえ……、事情を知らなかったとは言え……、
俺……、酷え事言っちゃって……」
 
「いいんですよ……、少なくともあなた達には僕達の事を理解して貰えた……、
それだけで充分です……、嬉しいです」
 
青年がジャミル達の方を見て漸く笑った。
 
「ニャー」
 
サブリナも一声嬉しそうに鳴いた。
 
「……もしかしたら……、バラモスの野郎を倒せば呪いが解けるかも……」
 
「そんな……、無理ですよ……、誰がそんな危険な事をしてくれると言うんですか……!?」
 
「俺達さ!」
 
「……えっ……?」
 
「私達がバラモスをやっつけるの!」
 
「あなた達は……、一体……」
 
ジャミルは青年に自分たちの素性を話すと、青年は暫く呆然としている様子であった。
 
「まあ、とりあえずは任せとけっちゅーこった」
 
「うふふっ」
 
「な、何かおかしいか?」
 
「だって……、最初ジャミルってば勇者なんかやだやだ
言ってたのに今やる気満々なんだもん」
 
「しょうがねえじゃん……、頑張んねえとこの話は終わんねえからよ」
 
「でも……、今のジャミル凄くかっこいいよ……」
 
ジャミルの方を見てアイシャが顔を赤くする……。
 
「そ、そう……?いやーまいったなあ!はっはっはっは!」
 
「もー!すぐ調子に乗るんだから!」
 
「……神様って……、本当にいるんだね、ねえ、サブリナ……」
 
青年がサブリナを抱きしめ涙を流す。
 
「ニャアー……」
 
「……サブリナの家は先祖代々、誘惑の剣という不思議な力を
持つ剣を守ってきました……、ところがその剣の力を悪用しようと
バラモスが剣を奪いサブリナも猫にされてしまったのです……」
 
青年は漸く思い口を開き、サブリナの身に起きた悲劇をジャミル達に
話し始めてくれたのだった。……段々とジャミル達に心を開いてきてくれた証拠だった。
 
「……たく!あっちでこっちで迷惑掛けやがって!
とんでもねえ野郎だな!バラモスは!!」
 
魔王の事言えない。あんたもそうです。
 
「ごめんね、サブリナ……、僕がもっと強かったら君を守ってあげられたのに……」
 
「そう自分を責めるなよ……、世の中にはどうしようも出来ねえ事もあるのさ……」
 
「……」
 
「私達に任せて、今はサブリナさんの傍にいてあげる事が大事よ」
 
「ニャー」
 
愛おしそうにサブリナが青年の顔を舐めた。
 
「そうですね……、あなた達を信じます!どうかサブリナを助けて下さい……!!」
 
青年の名はカルロスと言い、カルロスはジャミル達と
別れるまで何度も何度も頭を下げた。


エリックとオリビア ~詩人の語り~
「ねえ……、ジャミルは……」
 
歩いていたアイシャが急に立ち止まるとジャミルの手をそっと握った。
 
「ん?」
 
「もしも私が……、猫にされたらそれでも好きでいてくれる……?」
 
「たりめーだろっ!バカ!……デ、デコピンするぞ!?」
 
「ジャミル……」
 
アイシャは嬉しそうな顔をするが、慌ててすぐに額を押えた。
 
「どんな姿になったってアイシャはアイシャじゃねえか、イノシシになろうが
マントヒヒになろうがゴリラになろうが……、イ、イテテテテ!」
 
「嬉しいんだけど……、どうしてそう言う例え方しか出来ない訳!?」
 
「あ、雪だ雪!遂に降って来たなあ!これ積もるぞー!」
 
「もう!すぐ誤魔化すんだから!」
 
「しかし、何か本格的に寒くなってきたな……」
 
「もう寄り道しないでそろそろ宿屋に戻ろ、アル達が待ってる」
 
2人は宿屋目指して歩き出す。辺りも真っ暗になってきて静かである。
 
「ふう、本当に寒いね……」
 
「アイシャ、ちょっとこっち来いよ」
 
「……なあに?」
 
「いいから!」
 
「きゃっ!?」
 
ジャミルがアイシャを胸元に抱き寄せた。
 
「あったかい……」
 
「寒くねえだろ?」
 
「うん……」
 
二人は寄り添って、ゆっくりと宿屋まで歩いていく。到着する頃にはもうすっかり雪景色。
宿屋に行くとテーブルで寛いでいたダウドがスラリンと真っ先に飛び出して来た。
 
「おっひゃえりなひゃーい!!」
 
「ピキー!おねえちゃん!おさかなおいしかったよー!」
 
スラリンがアイシャにジャンプして飛びつきアイシャもスラリンをハグ。
 
「ただいま!よかったわねえ、スラリン!」
 
「お、おい……、ダウドの奴……、何かすげー酒臭いんだけど……」
 
「少し酔ってるんだ……」
 
「にへらあ~……」
 
アルベルトも二人を迎えるが、笑っているものの、顔が困っている。
このダウドの赤い暴けた表情を見ると、どうやら又何かあったのは分るが。
 
「ええ?何でまた……」
 
「他のお客さんが面白がってウォッカを飲ませちゃったのさ」
 
「今度はこっちが悪酔いしてんのか……」
 
「すけふぇえ、こんふぁおひょくまふぇはひひてたほかな?」
 
「……何言ってるかわかんねーよ!」
 
一発ポカリとダウドの頭を殴るジャミル。
 
「ふふ、随分賑やかですねー、羨ましい」
 
カウンター越しに宿屋のおかみさんが笑った。
 
「こんばんは……、一曲いかがですか?」
 
「あ、あんたは確か……、ノアニールの村で……」
 
竪琴を抱えた詩人がやって来る。……そう、ノアニールの村で出会ったあの詩人である。
 
「お久しぶりですね、旅の方は順調ですか?私もあちこちの町から町へと渡り歩き
ここ、ポルトガへと辿り着きました」
 
「それがさあ……」
 
 
……
 
 
「そうですか、あなた達もあの岬へ……」
 
「そこ通らなきゃ先進めねえしよ……、無理に通ろうとすれば船は
戻されちまうしで困ってんだ……」
 
「……あの岬にはとても悲しい伝説があるのですよ……」
 
 
ある村に二人の若い男女がいた。 名をエリックとオリビア。
 
2人はどんな時でもいつも一緒だった。 エリックとオリビアは永遠の愛を誓い合う。
 
しかし金持ちで村の長でもあるオリビアの父親は
二人の仲を決して快くは思っていなかった。
 
ある日父親はエリックが村の宝を盗んだと罪を着せ
エリックは無実の罪で流刑船へと送られてしまう。
 
別れ際に二人は約束をした 必ず生きて戻ってくると……。 
オリビアもずっと信じて待っていると……。
 
しかし……、願いは叶わずこれが二人の最後となった……。 
 
エリックは乗っていた流刑船が嵐に会い彼はその嵐で死んでしまう。
 
オリビアはエリックの死を知らず信じて何年も何年も待ち続けた……。
 
父親はエリックを只管待ち続ける娘の姿を不快に思い……。
 
エリックはもうすでに罪を償い、遠い異国の地で
新しい恋人と幸せに暮らしているらしい……、と言う嘘をオリビアに伝える。
 
エリックを只管待ち続け、待つ事に疲れ果て嘘を信じてしまったオリビアは
ショックを受けとても悲しんだ……。そして……。
 
エリックを思っていたオリビアも自ら岬に身を投げその命を絶った……。
 
 
「……」
 
「岬に現れる少女の霊と言うのはきっと……、オリビアの事なのでしょうね……」
 
「悲しいよ……、悲しすぎるよ……、エリックさん……、ぐすっ……」
 
「ア、アイシャ……、泣くなよ……、頼むから泣くな……」
 
「ど、どうも、すみません……、お嬢さんを泣かせてしまって……」
 
「……うう、オイラも悲しいーっ!びぃーっ!!」
 
「ピキーッ!」
 
……酔っている所為かスラリンのトンガリを掴んでダウドも大号泣する。
 
「ふんふん……、ジャミルの苦手な物はアイシャの泣き顔と……、プッ……」
 
ジャミルの弱点参考用にとアルベルトがメモを取る。
 
「またアイシャさんが泣いております……、えー、今のお気持ちをば一言……、ジャミルさん」
 
「……急にマイクなんか持ってくんじゃねええっ!!てか、酒くせーよおめーはっ!!」
 
ダウドにキックを噛ますジャミル。ダウドは頭から床に突っ込み転倒して倒れて伸びた。
 
「プ……、あはははははは!」
 
「でも、すぐ元気になる……、か……」
 
 
……次の日、一行は意を決し、再び例のオリビアの岬へと向かった。
オリビアの霊にエリックが既にもうこの世にいない事を伝える為である。
……死人を説得し、話を聞いて貰うなど、中々難しい事だとは思うが、それでも
何とかオリビアと話をするしかなかった。
 
「……いいか、振り落とされねえ様に何処かにしっかり捕まってろよ……」
 
「う、うん……、僕は大丈夫だよ……」
 
「私もよ!」
 
「怖いよおー!」
 
「おねえちゃん……」
 
心配そうにスラリンがアイシャを見上げる。アイシャはスラリンを
脅えさせない様にそっとハグする。
 
「大丈夫、大丈夫よ……」
 
「いくぞ……」
 
「ひいーっ!!」
 
船が再び岬を通過しようしとした、……その時……。
 
 
……うう……、エリック……、何処……、あなたは何処にいるの……?どうして……
 
 
「うわ!きたぞっ!!」
 
再び悲しい歌声が聞こえてきて船が押し戻されそうになる……。
 
「オリビア……、さん……?」
 
アイシャが静かにオリビアに声を掛け、そっと名を呼ぶ。
 
 
なぜ知っているの……?私の名前を……
 
 
押し戻されそうになった船が止まった。……4人は取りあえず
一安心するが、ほっとしてなどいられない。
 
「オリビア……、もうやめろよ!こんな事するのは……!エリックが悲しむぞ!!」
 
 
エリック……、そう……、そうよ……、私は彼に裏切られたのよ……
 
 
「な、何を言っているんです……!?」
 
ふらふらしていたアルベルトが立ち上がり、やっと声をあげた……。
 
「怖いよおー!!」
 
「ピキー!!」
 
ダウドとスラリンは抱き合って震えて怯えている。
 
 
彼は……、エリックは……、私を裏切った……、必ず帰ってくると信じていたのに……、
信じて待っていたわ……、何年も何年も……、なのに……どうして…!!
 
 
「それはあなたの誤解なんです!!」
 
「そうだぜ!話をちゃんと最後まで聞けよ!エリックは……」
 
 
あなた達に……、一体私達の何が判ると言うの……!!
 
 
「……きゃあーっ!!」
 
「アイシャ!!」
 
船が再び大きく横に揺れアイシャが甲板に倒れそうになるが
直ぐにジャミルがアイシャを支え、助け起こす。
 
「……大丈夫か?」
 
「うん、私は平気よ……」
 
 
……何も知らないくせに……、私達の事なんか……、何も……!!
 
 
「うーーるーーせーーー!!」
 
 
……な、何……?
 
 
「あーあ……、等々ジャミルが切れちゃった……、オイラ知ーらないっと!!」
 
「……いい加減にしろてめえ!さっきから黙って聞いてりゃ……、
ウダウダウダウダ、うるせーんだよ!!」
 
「ねえ、オリビアさん……、あなたはエリックさんがどうなったか……、
真実をちゃんと知らないんでしょ……、だから、私達……」
 
 
……お父様から聞いたのよ……、エリックは私を裏切って……、他の女の人と幸せに……
 
 
「結局……、あんたはエリックより……、あんたの親父の言葉の方を信じたんだな……」
 
 
……意味が判らないわ……
 
 
「……エリックさんは……、亡くなったんですよ……」
 
漸くこの言葉をオリビアに伝え……、アルベルトが下を向いた……。

その4

エリックとオリビア ~再会~

そ……、そんな……!!どうして……!?
 
 
「エリックさん達が乗っていた流刑船が嵐にあったの……、
船員さん達も……、エリックさんも……、皆……」
 
 
何であなた達に……、そんな事が分るの……
 
 
「彷徨っていた幽霊船の中で船の記憶を見たんです……、エリックさんの死もこの目で……、
エリックさんの最後の願いは……、オリビアさんに幸せになって欲しいと……」
 
「俺が許せないのはあんたがエリックを信じてやらなかった事だよ……、
あんたらずっと一緒だったんだろ……?なのに……、何でだよ……」
 
 
……おお……、エリック……
 
 
「……自分一人が不幸だと思ってんじゃねえ!エリックがどんな思いで
暗い海で死んでいったか……、あんたに判んのか!?」
 
「……ジャミル……、もう……、いいじゃない……」
 
アイシャがジャミルの手をそっと握った。
 
「けどよ……」
 
「判るの……、オリビアさんの気持ち……、辛かったんだよね、あなたも……」
 
「……」
 
ジャミルは暫く考えていたがやがて思い出した様にズボンのポケットを探った。
 
「ジャミル、それは……」
 
「ああ……、エリックのだ……」
 
ジャミルがオリビアに向かってペンダントを翳す。
 
「受け取れ……、エリックの気持ちを……!」
 
 
……エリック……!エリック……!!
 
 
辺りに優しい光が溢れ出し周りを包み込んでいく。
 
「見える……?」
 
「ああ、俺にも見えるよ……、あの二人の幸せだった頃が……」
 
そして……。
 
「……ジャミル……、あれ誰?宙に浮かんでる……」
 
寝ぼけ眼でダウドが目をこする。目を凝らすと確かに其処にいたのは……。
 
「……もしかして……、エリックなのか……?」
 
「ええーっ!?あの人があーっ!?」
 
ダウドがオーバーリアクションでおったまげた。
 
 
オリビア……、やっと会えた……、もう離さないよ……、二度と離すものか……!!
 
ああ……、エリック……、会いたかった……!!私……、あなたの事を誤解していたの……、
本当にごめんなさい……!!でも私……、あなたの事を思わない日は一度だって……なかった……
 
 
二人は手を取り合い、くるくる回り……、そして硬く抱き合う。
長い間引き離されていた悲しき恋人達が遂に漸く再会を果たす。
 
 
エリック……!!
 
オリビア……!!
 
 
「……エリックさんのペンダントを通じて……、二人は再会出来たんだね……」
 
二人の姿を見守っていたアルベルトがしみじみと呟く。
 
「……うん、良かった……、良かったね、ね……、ジャミル……」
 
「ああ……」
 
涙を溢したアイシャをジャミルがそっと側に抱き寄せた。
 
 
      ……ありがとう……
 
 
二人はジャミル達に礼を言い天へと昇天した……。
 
「……もう2度と離れちゃ駄目だよ……、生まれ変わってもずっと一緒にいて……、ね?」
 
明るくなった空を見上げて涙交じりにアイシャが呟いた……。
 
「よかったあー!これで一件落着だねえ、♪うーん、岬もやっと通れるよおー!」
 
「ピキッキー!やったー!」
 
嬉しそうにダウドが甲板を踊りまわっている。ついでにスラリンも真似し、飛び跳ねて喜んだ。
 
「……たく……、何もしてねーくせに……」
 
「そ、それは言わないでえー!!」
 
「……?あ、あれー?れれれー?」
 
急にジャミルが勢いよくその場にひっくり返り、ぶっ倒れた……。
 
「……ジャミル?」
 
「どうしたのっ!」
 
アルベルト達が急いで駆け寄るが、ジャミルは顔が真っ青で痙攣を起こし掛けていた。
 
「……心配すんな、いつものだからよう……」
 
「あ、ああ……、判ったよ……」
 
真面目でシリアスに耐えられないジャミルが限界で貧血を起こしたのである。
……ジャミルはそのままぶっ倒れたまま船室のベッドへと運び込まれた……。
 
 
……
 
 
そして、漸く岬も無事越え、落ち着いた一行はとりあえず今日は
岬の近くに船を留め、一夜を超す事にした。
 
「……はあー……」
 
アイシャは船室でベッドに座り頬杖をついてずっと考え事をしていた。
 
「……素敵だったなあ、エリックさんとオリビアさん……」
 
エリックとオリビア、大人の恋愛にずっと心がときめいてドキドキしている。
 
「私もいつかはジャミルと……、大人の雰囲気が漂う二人になれるのかなあ……?」
 
 
アイシャ……、愛してるぜ……、ずっと離さないからな……
 
ああ……、ジャミル……、私もよ……
 
 
「……なーんて……、きゃーっ!!きゃーっ!!うふふふっ!」
 
「ピキー?」
 
枕をばしばし叩いて一人で興奮し妄想するアイシャをスラリンが
不思議そうに眺めていた。その直後の事だった。
 
 
「……ジャーミールーううう!!」
 
 
廊下にダウドの絶叫が響き渡り、一体何事かと、アイシャは慌てて船室を飛び出る。
 
「……ダウド?」
 
「あ!アイシャあ!聞いてよおー!!」
 
「どうしたのよ?」
 
「オイラのおやつのヤッチャンいかをジャミルがぜーんぶ食べちゃったんだよお!」
 
「や……、やっちゃん……?」
 
「ねえ……、ジャミルがこっちに逃げて来なかったかい?」
 
「ど、どうしたの……、アルまで……」
 
「やられたんだよ……、ポルトガで買った限定版のポッキーを……、全部食べられた……」
 
「……」
 
「あ、いたっ!」
 
「……やべっ!」
 
「待てえーっ!!ジャミルーっ!!」
 
「オイラのヤッチャンいか返せーーっ!!」
 
「ピキー!ボクもおいかけっこするー!」
 
……スラリンまで加わり、アルベルトとダウドはジャミルを追掛けて
船内の廊下をドタドタ駆け回る……。ジャミル本人は懲りておらず、
又休憩室に入ったかと思いきや、今度は塩煎餅を銜えて頭ポリポリ、
休憩室からのっそり出て来た。そして、アルベルトとダウド、二人が
いないかキョロキョロ確認、欠伸をし、スタコラ逃走する。
……まるで白黒の喜劇映画の様な光景だった。
 
「……」
 
アイシャが夢見る大人のムードの二人には一体何時になる事やら。
これではまだまだ遠い様である。
 
「……ふーんだ……」

勇者サイモン その行方

次の日、漸く岬を越えた4人は小さなほこらの有る島を見つける。
 
「あ、ほこらだね……」
 
「よし、行ってみっか!」
 
4人とスラリンはほこらへと入る。……ほこらの内部は牢獄へと続いていた。
 
「なんか……、やけに淋しそうなところだねえ……、牢屋がいっぱいあるし…」
 
周囲を見て歩きながらダウドが不安そうな声を出す。
 
「……嫌な臭いもするわ……、何なのかしら……、臭いわ……」
 
「あ、バレた?」
 
 
「……」
 
 
「悪ィ……」
 
暫しの間沈黙が流れる。ジャミルが頭を掻いた。
 
「あのねえ……、君はさあ……」
 
アルベルトがいつも通り、スリッパの準備をしようとした、その時。
 
 
……此処は淋しいほこらの牢獄……
 
 
「……ひゃあっ!?」
 
「おい……」
 
突然ダウドがジャミルにしがみ付く。……どうやら此処の牢屋で亡くなった人の
魂なのだろうか、が、おり、ぽつんと一言言葉を漏らし、……そして消えた。
 
「……あ、あれ!見て!」
 
アイシャが何かを指差さす。話題が反れアルベルトのスリッパ攻撃から逃れ安心するジャミル。
 
「今度は何だい、どうしたんだよ……」
 
「あそこの牢屋の中に……」
 
「は?あ……」
 
アイシャが指差した牢屋の中に大人の男の骨らしき屍が横たわっていた。
 
「どうしてこんな事を……、酷い……」
 
 
勇者ジャミルよ……、待っていたぞ……
 
 
「え?え?え?だ、誰……?」
 
 
私はこの屍の主、サイモンだ……
 
 
「!」
 
突如、牢屋の中に入り口付近で現われたのと同じ、無念の魂がぽっと現れる。
この牢屋の屍の主、……サイモンである……。
 
 
「まさか……、あんたが!?」
 
サイモンの魂がジャミル達に話しかけてくる。牢獄へと送られたサイモンは
やはりもう力尽きて既にこの世にはいなかったのである。
 
 
私の屍の側を調べよ……
 
 
サイモンに言われるまま、屍の側に有るベッドの下を調べると錆びた剣が置いてあった。
 
「これか……?」
 
 
そうだ、……そのガイアの剣を火山の火口に投げ入れるのだ……、私の無念を晴らしてくれ……
 
 
「なあ、あんたは何で……」
 
 
私は昔、お前の父親と良き友でありライバルだった……
 
 
「おい……」
 
困った様にジャミルがアルベルト達を見た。
 
「パ……、パラレルだから……、パラレル……」
 
 
お前の父親と共に誓い合ったのだ……、一緒にバラモスを倒そうと……
 
 
「ほへ……」
 
 
しかし心変わりしたサマンオサの王によって私は国を追放され……、此処に閉じ込められた……
 
 
「ほへ……?」
 
 
あの頃は楽しかった……、共にオルテガと過ごした日々を思い出す……
 
 
「ねー、ねー、ジャミルの父親ってポカパマズって言うんじゃないの……?」
 
「……偽名だよ、偽名……、身分を隠してたんだよ……」
 
「……おやじ……、親父……、おやじ……、うーん!……わかんねえ~っ!!」
 
……ふとジャミルの頭に髭の生えた見知らぬおっさんとサイモンが
お花畑で手を繋いで走っている変な光景が浮かんできた。
 
「気持ち悪ーーーっ!!」
 
「どうしたのさあ、ジャミル!しっかりしてよお!」
 
「でも、どうしてあなたはジャミルがオルテガさんの息子だって分ったの?」
 
 
顔がそっくりだからだ……、君は本当にオルテガに良く似ている……
 
 
「……うふふ……、うふふ……、うふ、うふふ……」
 
ジャミルが変顔になり、発狂しだした。
 
「それは僕の……、特技なんだけど……」
 
「少し落ち着いてよお!!ジャミル!!」
 
「今、オルテガさんは何処にいるんですか?」
 
 
……バラモスを追って……、行方はわからない……、噂ではネクロゴンドの火山に落ちたとも……
 
 
「そうですか……、教えて下さってどうも有難うございます……」
 
アルベルトが丁寧に頭を下げた。
 
 
それではこれで私は消える……、後は頼んだぞ、勇者達よ……
 
 
サイモンの魂はそれだけ言うと牢屋からふっと消えた。
 
「……」
 
此処にはもう用はない。ジャミル達は祠の牢獄を後にし、船へと戻った。
亡くなったサイモンの冥福を祈りながら……。
 
 
……
 
 
「アイシャ、ジャミルは?折角お茶も淹れてあるのに……、冷めちゃうね」
 
船へと戻ったジャミル以外の3人はネクロゴンドに着くまでの間、
休憩室でお茶タイム。今日のおやつはシンプルなプレーンクッキーである。
 
「……アル……、それが……、戻って来るなり部屋に入ったきりよ、
呼んでも出てこないのよう……、暫く一人にしてほしいって……」
 
「そう……、珍しいね……、おやつも食べたくないなんて……、
何があっても食べる事だけは欠かさないのに……」
 
呟きながらアルベルトがクッキーを口にほおり込む。
 
「何落ち込んでんのさあ?オルテガさんの事?お父さんがいたんだからいいじゃない?」
 
「ピキキー」
 
「いや、滅茶苦茶な設定に苛苛してるらしい……」
 
「……」
 
「おねえちゃん、こんどはボクがジャミルみてくる」
 
「スラリン、駄目よ……」
 
「ピキ?」
 
「……今はそっとしておいてあげよ?」
 
「うん……」
 
 
その頃のジャミルはと言うと……。
 
「バラモスの野郎と戦う前までに腹ごしらえして体力つけておかねえと……」
 
単純なアホなのでもう立ち直っていた。
 
「ジャミル……、入るわよ……?」
 
心配したアイシャが再度様子を見に来るが。
 
「……こ、こら!ノックぐらいしろ!!」
 
「……」
 
アイシャが船室のドアを開けると、大量の焼き芋を一人でがつがつと
食べているジャミルの姿が。見てしまったアイシャは一瞬固まる……。
やはり食べる事に関しては心配要らなかったらしい。
 
「何……、このお芋の山……、一人で食べてたの?もうっ、こんなに食べたら
また爆発するじゃないの!もう、一体何処でこんなに……」
 
腰に手を当て、アイシャがジャミルにめっ!する。……おなら大爆発の心配をしているらしい。
 
「……苛々したら猛烈に腹減ったの……」
 
「とりあえず元気になったのね……?」
 
「はい……」
 
「じゃあ、いこ、準備しなくちゃ、もうネクロゴンドの火山付近に着くみたいよ……」

その5

ネクロゴンドへ!

船を留め、4人は魔王バラモスが君臨している地、
ネクロゴンドへと上陸する。決戦の時、いよいよ近し……。
目の前に立ちはだかる大きな火山を目の前にした4人……。
 
「それにしても大きい火山だね……」
 
「うん、今にも噴火しそうだよお……」
 
「……うん、怒った時のアイシャそっくりだな……」
 
「……何よーっ!!」
 
「イテテテテ!」
 
「いいから……、早くガイアの剣を入れて……」
 
又アイシャを構うジャミルにアルベルトが注意。アイシャに殴られたジャミルが
口を尖らせ火口にガイアの剣を投げた。
 
「あ、道が……」
 
火山が噴火し、近くの川が埋まって通れる道が出来る。
 
「いよいよだね……」
 
「行ってみようぜ……」
 
4人は出来た道の先へ向かおうとするが、その道のりはとても険しかった。
大ボスが君臨している地と言うだけあり、フィールドに散らばる雑魚敵の強さも半端ではない。
トロルにやられ、ダウドとアイシャが揃って棺桶に入ってしまった……。
 
「うわ、やべえなっ、この状況!」
 
「……一旦戻ろうか!?」
 
トロルは2匹。しかし、攻撃力もHPもかなり高い強敵。残ったジャミルとアルベルトは、
たった2匹のハゲデブに追い詰められていた。
 
「そうするか、仕方ねえ!」
 
二人はアイシャとダウドの棺桶を引っ張って逃げようとするが……、回り込まれてしまった。
 
「うう~っ!回り込むなあーっ!デブの癖にーーっ!」
 
敵が自分達よりランクが上の場合、デブだろうが何だろうが
逃走に失敗するリスクは高いんである。
 
「……あ、ああーーっ!」
 
「アルっ!!」
 
逃走失敗時のペナルティ。アルベルト、トロルにターンを奪われ痛恨の一撃!
アルベルトまでやられ、等々その場はジャミル一人に……。
 
「ピキーっ!ジャミルーーっ!」
 
後、その場にいるのはぴょこぴょこ飛び跳ねているスラリンだけ。
トロルがジャミルに向けて再び拳を向ける。ジャミルは覚悟した様に目を瞑った。
 
 
……
 
 
「にゃあ~」
 
「……」
 
何かがペロペロジャミルの顔を舐めている。くすぐったくてジャミルは
思わず目を開ける……、と、其処は……。
 
「あれ?……俺ら確か、トロルにやられて全滅した筈じゃね?……何で?」
 
気が付くとテントの様な場所におり、側に猫がいる。猫は目を覚ました
ジャミルの顔を見て一声、また、にゃあと鳴いた。
 
「お前かい?俺の顔舐めたの、起こしてくれたのか?」
 
「にゃあ~ん」
 
「おお、起きたかい……」
 
「ピキー!」
 
「スラリン!それにあんたは……」
 
髭もじゃの小さなおっさんがスラリンを抱いて座っていた。
ホビットらしかった。猫はおっさんを見るとおっさんの側に行き、スリスリをした。
 
「ジャミルー!このおじさんがみんなをたすけてくれたんだよー!」
 
「皆……、そうだ!アル、ダウド、……アイシャは!?」
 
「心配すんな、アンタのお仲間も無事だよ、世界樹の葉をすり潰して飲ませたからな、
時期に目を覚ますだろう、ほれ、兄ちゃんの処にお戻り」
 
確かに、確認すると仲間達もテントの中で静かに眠っていた。まだ目は覚まさないものの、
おっさんのお蔭で一命を取り留めたらしい。
 
「ピキー!」
 
スラリンはおっさんの手から離れるとジャミルの腕の中に飛び込む。
スラリンと入れ替わりで今度は猫がおっさんの腕に戻って行った。
 
「そうか、おっさんが俺達を助けてくれたのか、有難う……」
 
「ああ、あんな危険な所に来るムボウモンが久々に出てくるとはな!
お前ら揃って倒れて伸びてたからな、びっくりしたぞ、ははは!
……わしゃ、普段はネクロゴンドより遥か北の地の、ほこらに住んどんるんだよ、
偶々、今、魚を取りに、猫と一緒に小舟で旅して遠征してる最中でな、火山の所に
新しい道が出来てるでねえかい、んで、ちょっくら行ってみたら……、あんたらが倒れてた、
言う訳さあ……、ははは」
 
どうやらこのホビットのおっさんは愛猫と旅をしている最中に、
倒れていたジャミル達を見つけた後、小舟に乗せてくれ、
わざわざ自分のテントまで運んできてくれたらしい。
 
「……えへへ、本当にありがとな、おっさん……、助かったよ……」
 
ジャミルが照れ臭そうに笑って頭を掻く。と、アルベルト達も漸く目を覚ます。
他のメンバーは最初、見慣れない場所でいきなり目が覚めびっくりしていたが。
 
「そうだったんですか……、僕らの為に……、本当にありがとうございます!」
 
アルベルトがお礼を言うと、アイシャとダウドもがばっと頭を下げる。
真似をしてスラリンもトンガリを下げた。
 
「いやいや、そんなに畏まるな、傷が癒えるまでゆっくりしていけ」
 
4人は親切なホビットの好意に甘え、体力が回復するまで少し休ませて貰う事にした。
 
「うう~、それにしても……、敵強すぎだよおー!」
 
いつも通りダウドが愚痴り出す。しかし、今回はダウドの吠えたくなる
気持ちも痛い程ジャミル達は感じていた。それでも乗り越えなければ、この先に、
魔王バラモスの元まで辿り着く事は出来ないのだから。
 
「そうか……、あんたらは魔王バラモスを……、……わしも昔はオルテガ様と言う
勇者様のお供をし、冒険したんじゃよ、……懐かしいのう……」
 
「え……?」
 
「……オルテガ様はネクロゴンドの火山に落ちて亡くなったらしいが……、
わしには信じられんよ……」
 
ホビットのおっさんの口からぽつりと出た言葉。どうやらこのホビットのおっさんと
オルテガも知り合いで顔なじみらしかった。
 
「にゃあ~~ん、ごろろろ!」
 
「ネコちゃん、おいで!」
 
「ピキー!ボクもー!」
 
アイシャと猫とスラリンがにゃんにゃん遊び始めた。癒される光景ではあるが、
何時までもおっさんにお世話になる訳にはいかず、4人はそろそろ出発を決める。
 
「行っちまうんだなあ……、そうだ、わしらが住んどるほこらから南の場所に、
岩が4つ並んでいる個所の真ん中に世界樹の葉が落ちておる、
あんたらの気絶状態を回復させた葉……、とても不思議な葉なんじゃよ、
ほれ、今日はわしが持参しとる一枚を渡しておこう……、但し、直に拾う場合は
一枚しか拾えないからな……、わしゃ拾って貯めておいたんだあ、今度又
必要になったら其処へいつでも拾いにくればいいぞ」
 
「おっさん、す、すげー助かるよ!」
 
「……凄く貴重な葉なんだね、大切に使わせて貰わなくちゃ!」
 
4人はホビットのおっさんに再び小舟に乗せて貰い、自分達の船まで送って行って貰った。
おっさんは4人を送り届けた後、手を振って自身の小舟でテントまで戻って行く。
ジャミル達もおっさんに手を振ってさようならとお礼を言う。本当に親切なおっさんであった。
 
「……さて、又頑張んなくちゃな……、助けてくれたおっさんの為にも!」
 
4人は今度は慎重に……、決して無理をせず、スラリンを連れて
一歩一歩、魔の地へと進んで行く。そして等々、ネクロゴンドの洞窟へ……。
 
「何だか……、今までの洞窟と雰囲気が全然違うね……」
 
辺りを見回しながらアルベルトが呟く。
 
「敵もきっと今までより倍強いんでしょうね……、怖いわ……」
 
スラリンを抱きしめながらアイシャも呟いた。
 
「オイラもツイッターで呟きます……、ボソッ……、こわいこわいこわいこわ……」
 
            ゴツン!!
 
「……いったああああーっ!!何で殴るのさーっ!!ジャミルのばかーっ!!」
 
「……よしよし……」
 
アルベルトがダウドを慰め、コブの出来た頭を撫でた。
 
「こんな時にヘタレてふざけるなっ!」
 
「オイラはただこの場の雰囲気を明るくしようとしただけなのに……、
なんだよお!!ジャミルのゴリライモーっ!!」
 
「うるせー!!誰がゴリライモじゃ!!このヘタレブロッコリー頭!!」
 
「ブ……、ブロ!?ひ、ひどーい!!」
 
「ジャミル……、よしなさいよ……、ダウドだって皆の為に頑張ってくれてるのよ?」
 
「大体君だってダウドの事言えないでしょ……、すーぐ話を関係ない方に持ってくし」
 
「う……、うっ!」
 
後ろを向いてダウドがザマミロと言った。
 
「さ、先進むか!」
 
「……また誤魔化してる……」
 
「だよお~……」
 
皆にジト目で見られる中、ジャミルは鼻歌を歌いながらさっさと先に歩く。
奥へ進むと上の階への階段を発見する。
 
「今回は地下から上へ上がって行く形式みたいだね……」
 
「そーみてーだな」
 
一行は1階へと上がった。
 
 
1階
 
 
「うわ……、何か凄そうだねえ……、もうオイラ目が回り草……」
 
「やたらだだっ広いじゃん……」
 
「とにかく先へ進もう……」
 
「……わあっ!?」
 
ダウドの悲鳴。目の前に往く手を阻むモンスターの出現。
 
「……ひょ、ひょ、ひょ!」
 
「踊る宝石だよ……!」
 
アルベルトが丁寧に敵さんの名称を説明。
 
「さっすがー!人間ポ〇モ〇図鑑!」
 
「あ、あれ……?あらら?あららー!?きゃー!?」
 
「おい……、アイシャ……、お前何やってんの……?」
 
何やらアイシャが突然踊りを踊りはじめる。これでは踊るアイシャになってしまう。
 
「わかんないのーっ!!体が勝手に……、きゃーっ!!」
 
「あ?あれ……、俺も……?えーっ!?何なんだよ!
おいおいおいおい!!わわわわ!!」
 
アイシャに続き、ジャミルまで踊りを踊り始め、踊るジャミルに……。
 
「ねえアル、あの二人は何してんの……?踊り踊ってるけど……」

zoku勇者 ドラクエⅢ編 10章

zoku勇者 ドラクエⅢ編 10章

スーファミ版ロマサガ1 ドラクエ3 クロスオーバー 年齢変更 オリジナル要素・設定 オリジナルキャラ 下ネタ

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-02-18

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work
  1. その1
  2. その2
  3. その3
  4. その4
  5. その5