zoku勇者 ドラクエⅢ編 9章
今回は番外編中心です。どうしようもない糞オリキャラ初登場回となります。今後もしつこく邪魔したりと出て来ます。お楽しみ下さい。
その1
夢の街、再出発の時
ジャミルがチャンネル探しでラジオをガチャガチャ弄繰り回す。
『はい、今週のおうたのリクエストはロマリア在住の
国王様って外道!さんから……、かぶれたイボおしりのうた……』
「……碌な放送ねえなあ……、マトモなのねえかな?」
「……ちょっと!チャンネルDBSにしておいてよ!
ラジオドラマの春が来た・春だっぺ?があるんだから!」
「何それ……」
「イイのっ!私が聴きたいのよう!」
アイシャが膨れた。本当に時々ワケ判らんジャジャ馬だなあとジャミルは思う。
この4人組はアルベルトもダウドも、勿論一番人の事言えないジャミルもそうなのであるが。
「へいへい……、お嬢様、セット致しましたようー!」
「さあ、もうすぐ時間だわ、ワクワク!」
「……面白い……のか?」
『……えー、この時間はラジオドラマを放送予定でしたが、緊急ニュースの為
番組をお休み致します、御了承下さい……』
「えー!何よそれ!!ひどーい!!」
「静かにしろよ!うるせえな!」
「ぶうーっ!」
『……本日、午後16時、移民街ドリーム・バーグにおいて、街民達が暴動を起こした様子……』
「な……!?」
「えーーっ!?」
『……尚、街民達は街の独裁者、珍を捕獲し捕えた模様です……』
「そんな……、珍さん……」
アイシャがショックでラジオの前で固まる。……遂に独裁者珍に対して
来るべき時、……裁きの時が訪れたのである。
「……等々やられちまったね……、ま、いずれこうなるとは思ってたけどな……」
「ジャミル……、行こうよ……」
「ど、何処へ……」
「決まってるじゃない!珍さんの所よ!」
「あんな奴ほっとけよ!あいつをどうするかは俺達が決める事じゃない」
「……でも……、でも……」
「げ……」
あれだけ酷い目に遭ったにも拘らず優しいアイシャは珍の身を案じており、
今にも泣きそうであった……。
「わかったよ……、分ったから……、んな顔すんなよ……
ドリームバーグへ直ぐに行こう、アル達にも言わないとな……」
「ひっく……、うん……」
(……う~、立場弱いなあ、俺……、とほほ……、アイシャめ、何でこんなに
お節介で優しいんだか、全く……)
アルベルト達にも事情を話して一行は再び移民街へと足を運ぶ事となった。
「一つ聞きたいんだけど、君達、何時風邪治ったの?」
「いいんだよ、細かい事をいちいち突っ込むな!」
「……ふうーん……」
顔を赤くしているジャミルの方を見ながらアルベルトがニヤニヤ笑った。
再びドリーム・バーグ。
街の中は以前と様子が全く違っており、彼方此方うろつく警備兵もいなくなっていた。
「ママー、よかったねえ、こわーいおじさんがいなくなって!」
「そうねえ、ふふふ」
手を繋いだ親子連れが歩いてくる。
「な、なんか……、みんな凄く楽しそう……、雰囲気随分変わったねえ……」
街のあまりの変わりっぷりにダウドも首を傾げる。
「ねえねえ、お兄ちゃん達!」
「な、何だ?」
子供がジャミルに声を掛けてきた。
「これから広場で子供のど自慢大会があるんだよー!」
「あなた方もご旅行か何かで此処に立ち寄られたのですか?ふふ、素敵な街ですわよ、此処は」
母親が笑う。ジャミル達は以前此処に来た事が有るのに街の者は誰一人として
4人の事を全く覚えていなかったのである。
「……ジャミルさん……」
聞き覚えのある声が後ろから聞こえてきた。。振り向くと、其処にいたのは……。
「その声は……、爺さんかい!?」
「ジャミルさん……、おおお……、おひさしぶり……」
「……うわ!」
爺さんがよろよろと駆け寄って来てジャミルの方へ斜めに倒れてきそうになる。
「おおおお~……」
「おいおい……、じいさん平気かよ、無理すんな、よろよろしてんじゃねえか……」
「皆様もお久しぶり……、来て下さってありがとう……」
「お久しぶりです……」
アルベルト達も爺さんに頭を下げた。
「……珍、地下牢の中……、腹ただしいでしょうが、どうぞ会ってあげて……」
ジャミル達は爺さんに案内され薄暗い地下牢への階段を降りる。
「……ジャミルさん……」
「珍……」
珍は牢屋の中で抵抗もせず静かに横たわっていた。ど派手だった服はボロボロに破かれ、
顔面血だらけ、……彼方此方殴られた跡があり痣だらけであった。
「……すげー顔だな……、原型留めてねーぞ……」
「わざわざ私を嘲笑いに来たのでしょう?フン……、
笑いたければ好きなだけ笑いなさいよ……、フフフ……」
「……負け惜しみが叩けんだから別に大丈夫か……」
珍は一しきり無理に笑っている様だったが、やがて疲れて来たのか、
その笑い声に勢いが無くなってくる……。
「……ああ……、バカをみましたよ、私は……、金さえあれば
幸せになれると思っていました……、この世の中はすべて金なのだと……、
しかしそれは間違っている事に漸く気付きました……」
「たりめーだろ!バカ!今頃おせーよ!」
「……私はこれから一体どうすればいいのでしょう……」
「……何年掛かるか俺にはわかんねーけど、街の奴らに許して貰えるまで
只管謝るしかねーんじゃねーの?」
「そんな……」
「難しいけどな……、あんだけ酷え事したんだから簡単には許してくんねーだろうけど……」
「……」
「さあ皆行こうぜ」
「……珍さん……」
アイシャが鉄格子越しに珍を見つめる……。
「へへへ、ざまーみろ!」
「……コラ!」
アルベルトが調子に乗るダウドを怒る。
「えー……、だっていい気味じゃん……」
「……ダウド!」
「わかったよお、ちぇ……」
……珍はそれきり黙り、誰の方も見ず口を開かなくなった。
「アイシャ、行くぞ……」
「え?う、うん……」
ジャミル達は重苦しい雰囲気の地下牢から外へと戻る。
皆、安心した様に大きく息を吐き、外の空気を吸った……。
珍が自分で巻いた種とは言え、余りにも酷な場面だったからである。
「でも……、あのおじさんちょっとかわいそうだね……、ねえ、おねえちゃん……」
「優しいのね……、スラリンは……」
スラリンがアイシャの顔を見上げる。……アイシャはスラリンをぎゅっと抱きしめるのであった。
「皮肉なモンだよな……、自分で作った街に裏切られるなんてよ……」
そう言って力なくジャミルも笑う。
「自業自得だよお!」
「……ジャミルさん……」
爺さんが近寄って来てジャミルの前にすっと宝箱を差し出す。
「これ……、珍から預かった、たいせつなもの、あなた達に渡してほしいと、わし、たのまれた」
……宝箱を開けてみると中に輝く黄色の玉が入っていた。
「イエローオーブ……?」
「それ昔、珍があちこちを旅していた時に手に入れた秘宝だといっていた」
「でも……、貰っていいのか?」
「これまでのお詫びの印、受け取ってほしいとのこと」
「やったー!オーブ5個目だよお!あと一つ!」
「ピキキー!ばんざーい!」
ダウドが万歳ウェーブし横でスラリンも飛び跳ねる。
「そうだね、バラモスの所まであともう一息だよ、頑張ろう、ダウド!」
「あうう~!忘れてたあ~!……オーブが全部揃ったらバラモス行き直行だったんだあ~!」
「ピキー!」
アルベルトの言葉で思い出した様にダウドがヘタレモードに入ってしまった……。
「爺さん、色々ありがとうな!」
「いえ、こちらこそ……、珍も反省してくれた……、わし、本当に嬉しい……」
「ま、気長に待てばいつか牢屋から出して貰えるさ……」
「……そうですね、珍、許して貰えるまで、何年掛かるか判らない……、
でもきっといつの日か……、街の皆と、珍、仲直りしてくれる、わし、信じます」
「私も信じてるわ!ね、ジャミル!」
「ああ!この街も、もっともっと発展出来るといいな、いい街になる様に陰ながら願ってるよ!」
「はい……、わしとドリームバーグの街の民、みんなで力を併せて
これからも頑張る……、皆さんも頑張って……、どうかお元気で……」
ジャミル達は爺さんと握手し、心からのお礼を言うとドリームバーグ、
爺さんに別れを告げ船へと戻った。
番外編 恋するタマネギ 1
番外編 恋するタマネギ・1 ~スラリンも大人です~?
珍問題も漸く解決し、ジャミル達は船内の休憩室でワイワイ賑やか
おやつタイムを楽しんでいる最中。船は自動操縦で勝手に動くので楽チンである。
「ねー、アル、このお菓子なんだろう?美味しいかなあ」
アイシャは幸せそうに美味しそうなお菓子を見つめている。
「ああ、スコーンじゃないかな……」
「へえー、そうなんだ!町でお買い物したらどうぞって、お店のおばさんが
おまけでくれたんだけど……、本当に焼きたてで美味しそうねえ!」
「ふふ、アイシャは徳があるんだよ」
アルベルトがニコニコ笑った。
「おい、アルよう!これあんまり味しねーぞ!」
野獣現る……。もうジャミルは早速スコーンに食いついている……。
「……そのまま食べても美味しいけど、結構味はあっさりだよ……、
相変わらず食い意地張ってるね、ジャミルは……」
「うるさい!」
「ほら、ジャム……、これをつけるともっと美味しいと思うよ」
「へえ……」
アルベルトがオプションで差し出したジャムをスコーンにべちゃべちゃ塗り捲るジャミル。
そしてそのまま勢いよくスコーンに齧り付いた。
「……おー!本当だ、ジャムつけたら味変わった!」
スコーンに舌鼓、口の周り中ジャムだらけになりジャミルが目を輝かせる。
「……ハア……」
「……じゃあ、オイラはチョコクリームをつけて食べてみようか……」
……ピ~キ~……
「な……?」
「何だ……?」
スコーンを口に銜えたままぴたっとジャミルの手が止まった……。
「あ、スラリン……、お昼寝から目が覚めたんだわ、連れてくるね」
アイシャがとてとて船室へと走っていく。
「それにしちゃ……」
「ねえ……」
「馬鹿に声が枯れてた様な……」
男3人衆が顔を見合わせる。やがてスラリンを抱いたアイシャが休憩室に戻って来た。
「はーい、スラリン連れてきましたー!」
「ビキ……」
「!?」
「おい……、スラ公どうしたんだよ!お前、頭のトンガリが萎れて曲がってんぞ!」
「ビキ……?」
「……えっ!ホントだわ!気づかなかった……、立たせてあげないと……、
よいしょ……、えっ?えーっ!?立たないわ……」
「ビキー……」
「ど、どうしよう……、病気かしら……」
……もっとよく観察してみるとスラリンは異様にぐったりしている……。
「んな病気あんのかよ……」
「あーーのーーーねーーーえーーー」
やけに口調がスローモーションなスラリン。話を聞いている4人も
動きが鈍足になりそうだった。
「な、なあに?スラリン、どうしたの?」
「おねえちゃーーーん、ボーーークーーーねーーーえーー」
「……う、うんっ、うんっ」
「こいしちゃったのーーー……」
「……なーんだ、恋かあ……」
原因が分り安心した様に笑うアルベルト……。
「恋ねえ……、あはははは……!?」
……ブッ!!
ジャミルが勢いよく口から吹いたスコーンはジャミルの真正面の席に
座っていたダウドの顔にモロ直撃した……。
「……えーーっ!?」
「ぎゃー!顔が顔が~!スコーンまみれだよおー!!」
「は、はあ!?スラリン……、お前何言って……」
口元を服の袖で拭いながらジャミルが喚く。
「ボクもこいするんだもーん……」
「そっか……、スラリンも大人になったのよね!」
アイシャが嬉しそうにスラリンを抱き寄せた。
「……で、相手は誰なの?」
アルベルトが興味深そうに身を乗り出してくる。
「誰だ?誰なんだよ?」
「教えて!教えて!」
ジャミルとダウドも野次馬根性むき出しである。
「もう……、しょうがないんだから!皆して!」
まるでマスゴミ状態の男共にアイシャが項垂れる。
「……サマンオサのまちにすんでたホイミスライムさんな~の~……」
スラリンは赤くなり頭のトンガリはますますだらしなく曲がる。
「サマンオサにホイミスライムなんていたのか?」
「いや?気づかなかったけど、僕は……」
「そっか、その子に会いたいのよね!」
「ピーキー……」
「ねえ……、アル……」
訴える様な眼差しでアイシャがアルベルトを見た。
「……分った、行くんだね?サマンオサに……」
「アル!」
アイシャの顔がぱあっと明るくなる。
「……ま、俺もどんなモンなんだか少しは興味あるし」
ジャミルが頬をポリポリ掻く。
「息抜きにはなると思うよお、何せこの間の偽王様騒動で町もゆっくり見られなかったし……」
「ジャミルもダウドもありがとう!」
「んじゃ、又行くか!サマンオサに!」
……そう言う訳でジャミル達は再びサマンオサへ訪れる。
「わあ~、以前と比べると町がとっても明るくなってるわ!」
「で、その……、お相手さんつーのは何処にいんだ?」
「……ピーキー……」
スラリンはトンガリをくねらせたままモジモジしている。
「……ピーキーじゃ分んねえだろが……、ほら、教えろよ、何処だ?」
「きょうかいの……、シスターさんの……おうち……」
「教会か、よし行ってみよう!」
彼も気になる様で……、アルベルトが促す。
「それにしてもいつの間に城下町へ行ったの?意外と抜け目ないんだね、スラリンて……」
「ピキ?」
スラリンの方を見てダウドが笑った。……しかし、そんな和やかな雰囲気をぶち壊す事態が……。
「……誰か……!誰か来てーーっ!!」
「何だあ?」
「ビキー!!きょうかいのほうだ!!」
「……大変っ!!」
「急ぐぞ!!」
「!?あ……、ちょ、ちょっと待ってよー!全くもう……、どうしてこう……、次から次へと……」
走って行ってしまった3人の後をダウドがしぶしぶ追った。
番外編 恋するタマネギ 2
番外編 恋するタマネギ・2 ~シスター危機一髪~
「……うう……」
「ああ……、どうしたら……、お願いします、誰か来て下さい……」
「どうしたんだ!?」
「ああ!あなた達は……!」
ジャミル達が教会へと辿り着いた直後に見た光景は床に倒れている
シスターと必死にシスターを介抱している女性の姿であった。
「動かさないで!……大丈夫、今、回復魔法を掛けますから……」
アルベルトがシスターの胸に手を当てべホイミを唱える。
「シスター様……」
「もう大丈夫……、さっきまで呼吸が荒かったけど落ち着いたみたいだ……」
「あああ……、有難うございます……!」
「このまま静かにベッドへ移そう、ジャミル、ダウド、手伝って……」
「はいよ」
「はーい」
男衆がシスターをベッドに運び、アイシャ、スラリン、そして教会に訪れていた
女性はシスターを静かに見守る……。
「それにしても……、酷い事するわね、一体何があったのかしら……」
「ピキイ……」
「……私が教会に来た時にはもう……、シスター様が倒れていて……」
「……ピキ……」
スラリンもかなりそわそわして落ち着かない様子。
「……う、ううう……、此処は……」
意識の無かったシスターが漸く目を覚ました。
「……シスター様!!」
「わ……、私は……」
「この方達が助けて下さったのですよ、本当に良かった……」
「一体何があったのですか……?」
アルベルトがシスターに状況を心配そうに尋ねた。
「……ハッ……、そ、そうだわ……、お願いです、あの子を、
あの子をどうかお助け下さい……」
「ピキッ!?」
「あの子って……」
ジャミルが訪ねるとシスターは下を向いて顔を曇らせ、ゆっくりと話しだした。
「ホイミスライムのスラミィです……、私の夫は偽の国王によって
無実の罪を着せられ、……そして処刑されました……、
絶望しかけ、生きる希望を失っていた私の前にふとあの子は現われました……、
あの子はモンスターなのに人の言葉を理解出来る様で……、いつも側に居てくれて
夫を失った私をいつも励ましてくれたんです、とても気持ちの優しい子なんです……」
「シスターさまあ!!」
「……まあ!」
「ボクもスライムだけどみんなとおはなしできるんだよー!」
「スラリンたら……、驚かせちゃ駄目よ!」
意識が戻ったばかりのシスターをあまり刺激しない様、アイシャが注意する。
「ピーキー……」
「……そのホイミスライムに何かあったんだな……?」
「……何者かに突然襲われ……、私は後ろから棒の様な物で頭部を殴られました……、
恐らく教会の寄付金が目当てだったのでしょう……」
「まあ……、何て事を……!」
「酷いわっ……!」
「薄れゆく意識の中でうっすらと覚えているのは……、
数人の男達の笑い声と……、あの子の悲鳴……」
「!!」
……思い出したのか、シスターは目に涙を浮かべ、シスターの
表情を見たアイシャが口に手を当てる。
「私はあの子を神様の思し召しと思い、実の自分の子の様に大切に思いながら
どんな時も支えあい、共に暮らしてきたのです……、もしもあの子に……、
何かあったら……、もしもの事があれば……」
「……シスター様……」
シスターが顔を覆ってわっと泣きだした……。
「ジャミル……、アル、ダウド……」
「ああ、判ってる……」
「行こう!」
「だよお!」
アイシャの顔を見てアルベルトとダウドも強く頷く。
「シスターさん、後は俺達に任せとけ!こう見えても俺達は冒険者なんだ、必ず……」
「……ピーーキーーイーー!」
「……あら……?」
「スラリン!!」
スラリンが丸くなって飛び跳ねながら外へ飛び出して行ってしまった。
「……こ、こら!待てスラリン!!」
慌ててスラリンを追ってジャミルも外に飛び出して行く。
「シスター様、大丈夫ですよ、必ずスラミィちゃんを連れて帰ります!」
「……どうか……、お願い致します……」
「さあ、僕らも行くよ、アイシャ、ダウド!」
「ええ!」
「う、うん……」
「ああ、神様……、どうか皆様をお守り下さい……」
「待てっての!何一人で興奮して鼻息荒くしてんだお前は!!」
(て、言うか……、鼻があるのか……?)
「ピキィィー!!」
「ジャミル!」
「おー、皆!丁度良かった!コイツ何とかしてくれよ……」
「ピキッキィ!!」
「……スラリン、気持ちは分るけど……、後は僕らに任せてスラリンはシスター様の処で
待っててくれるかい?今回は少々危ないかも知れないんだよ……」
スラミィの誘拐犯はもしかしたら4人と一緒にいるスラリンも狙って来るかも知れない。
そう考えると此処でシスターと待っていた方がいいとアルベルトも皆も考えたのであるが。
「ピキー!みなみのほうからスラミィちゃんのニオイがする!!」
(だから……、鼻があんのかよ……)
「……ん~と、南って言うと……」
ダウドが考え込む。
「確かラーの鏡があった洞窟の方よね、……もしかしてそこにスラミィちゃんが……!?」
「とにかく行ってみるか!」
「ピキっ!!」
「スラリンは駄目だったら!本当に今回は危ないのよ!お願い……、判って……」
「……ジャミルう、おねえちゃん、おねがい、ボクもスラミィちゃんたすけにいきたいの……」
「スラリン……」
「ピキィ……」
「……分った……」
「ピキ!?」
「その代り、何があっても絶対に俺達から離れるんじゃねえぞ、分ったな?」
「ピキっ!ジャミル、うんっ!」
スラリンがジャミルの顔を見て目を輝かせ、ぴょんぴょん飛び跳ねる。
いつも洞窟などにスラリンを連れていく場合、スラリンはモンスターの所為か
普段は同系のモンスターには狙われる事は少ない。……だが今回は
欲にまみれた心無い凶悪な人間が相手である。……何が何でもスラリンを守らなければならない。
「アイシャ、スラリンしっかり抱いてろよ!」
「分ったわ!」
「……仕方ない、行こう!」
「うう~……、結局いつも騒ぎに巻き込まれるんだよね……、とほほ……」
項垂れるダウド。この話で騒動が起きない筈はないのであるからして。
4人と1匹は再びサマンオサ南の洞窟へと急ぐのだった。
番外編 恋するタマネギ 3
番外編 恋するタマネギ・3 ~基地害3兄弟登場~
4人は再度南の洞窟へ……。洞窟の前に立つジャミル。思い出した様に言葉を漏らす。
「……ここって嫌な事思い出すな……、ケツ噛まれたり……、な」
「それは君だけだから……」
「……」
アルベルトに突っ込まれジャミルが押し黙る。
「ピッキピキー!!スラミィちゃーん!!」
「コ、コラ……!静かにしてろよ!」
「スラリン駄目よ、いい子だから……ね?」
「……ピキー……」
「こんな広い洞窟の中、また探し回るんだあ……、うう~……」
ダウドががっくり肩を落とす。
「とにかく奥へ進んでみよう……、まだ行ってない場所もあるかも知れない……」
アルベルトが先に歩き出し、4人は洞窟の中を進み始めた。
「……」
「ん?スラリンどうした?」
「ニオイがどんどんちかくなってる、スラミィちゃんのニオイと……、
なんだかとってもいやなニオイ……」
「敵が近くにいるんだわ!」
「皆、戦闘準備しとけ!」
アルベルト達が頷く。……と、変な声が……、洞窟の奥の方から聴こえてきた。
「のねー、のねー、なのね~♪」
「?」
「……何だ?……」
「ジャミル、あれ……」
ダウドがそっとジャミルの肩をつついた。
大きな地底湖の傍で変な顔の男が3人集まり騒いでいる。
……男は3人とも同じ様な顔をしており、誰が誰だか見分けがつかない……。
「やったのねー、アニキー、今日は大収穫なのねー!」
「ホントなのねー!お金もいっぱいなのねー!」
「ついでにホイミスライムまで捕まえちゃったのねー!」
「でもはぐれメタルじゃないと価値ないのねー!」
「いいのねー!こんなモンでもサーカスにでも売り飛ばせばそれなりに金になるのねー!」
「ガハガハガハ!」
側には鳥籠に入れられぐったりしているホイミスライムの姿があった。
「……あいつら!」
「ジャミル、行こう!」
「アル、……ああ、判ってる……!」
「のねのねのねのねー♪ー」
「……いい加減にしなさいよ!!」
「ピキィィィィ!!」
スラリンを抱いたアイシャが男達の前に姿を現す。
「のねー!?かわいい女の子なのねー!アニキー!!」
「ウヒョー!!こんな所まで何しにきたのねー!ボクとデートしにきたのね!?」
「あ、アニキ!抜け駆けずるいのね!」
「のね!」
「……その子を返して!」
「あ、なーんだ、そう言う事ね……」
「返せって言われて返すアホが何処にいるのね!!」
「ついでにお前もサーカスに売り飛ばしてやるのね!!」
「覚悟しろーっ!なのね!!」
「……バギ!!」
「ぬわー!?のねーーーーー!?」
アイシャの後ろからアルベルトが魔法で男の一人をおもいきり吹き飛ばした。
「子分A、大丈夫なのね!?」
「うう……、いたいのねーえ……」
「アル、ありがとー!!」
「……とりあえず、一番軽めのにしておいたんだけど…」
アルベルトが苦笑いする。
「一体何やってるのね!だらしないのね!」
「あいつ魔法使うのねー、こわいのねー、ほら、しっこが洩れたのねー」
と、言ってる間に……。
「この子返して貰うからね!!」
隙を見つけダウドが素早くスラミィが閉じこめられている鳥籠を回収する。
「……あ!なのね」
「……何やってるのね!お前ら二人ともバカなのね!」
「だってー……、アニキー……、なのねー……」
「ナイスだ!ダウドっ!!」
「えへへ~、ヘタレでもやる時はやるんだよお~!」
今日は活躍出来、ジャミルに褒められダウドもご満足らしい。嬉しそうに頭を掻いている。
「スラミィちゃーん!!」
「……ピ……」
助けに来た4人をじっと見上げ、スラミィがか細い声を出す……。
身体は彼方此方殴られた跡に傷だらけで見るも無残な姿であった……。
「……酷い、本当に酷いわ……、許せない……」
「やべえな、大分弱ってる……、アイシャ、後は俺達に任せて、
お前は先に2匹を連れてシスターさんの所へ戻るんだ」
「……でも……」
「大丈夫だから……!」
「……そうはさせないのね!!ボクらを怒らせると、どういう事になるか思い知るのね!!
見よ、カネネーノネー3兄弟の力……!!やるのね!子分B!!」
どうやら、この3馬鹿は兄弟らしいが。本当に3人とも同じ顔をしているので、
直にみると誰が誰なのか全然分からない。
「……レッドスネークぅぅぅカモォォォーン!!なのねー!!」
子分Bと呼ばれた男がどっから持ってきたのか薄汚い縦笛を吹いた。
「この笛吹いたらどうなると思うのね……?」
……変な3人組の一番上のカシラらしき男がイヤらしい笑みを浮かべた。
「!?な、何だ……?」
子分Bが笛を吹くと同時に蛇の様な荒縄がうねうねとジャミル達の前に躍り出た。
「……いっ!?い……、痛てっ!!」
「……うっ!!」
「な……、何これっ!?」
「ピキっ!?」
「ジャミル、アル、ダウド!!」
荒縄はジャミル達3人の身体を固く締め付ける。
「皆!!」
「……アイシャ!バカっ!何してんだよ!……逃げろ、早くっ!!」
「おほほのほー♪なのねー」
「……アニキ……、男をSMレイプしたってちっとも面白くないのね……」
「やっぱり女じゃないとつまらんのね……」
「じゃあ、こっちにするのね」
「……アイシャっ!!」
子分Bがアイシャに目線を移し再びピロピロ笛を吹く。
アイシャははっとし、咄嗟に抱いていたスラリンを手放し思い切り遠くに放り投げた。
「……スラリン!逃げてぇぇーーっ!!」
「ピキィィィっ!?」
「……あっ!?あ、ああーんっ!!」
その瞬間、荒縄が伸びて来てアイシャの身体を捕える……。アイシャまで捕まり、
ジャミル達は4人揃って全員拘束されてしまう事態に……。
「おほほほほー!つーかまえたのねー!おなごゲーット!!」
「なのねー!」
「のねー!」
「……アイシャを放せよ……!この変態集団野郎!!」
「オイ、口の聞き方には気を付けるのね……、坊主……、なのね……、
子分B、ほれほれ、んっ!」
カシラが子分Bに向かって顎をしゃくると同時に子分Bがアイシャに向かって再度笛を吹く。
「……きゃあああっ!!……あんっ!あっ、ああーんっ!!
……痛っ……!痛い……!!いやああああっ……!!」
荒縄はアイシャの身体にぐいぐい食い込み、身体を尚もきつく締め上げアイシャを苦しめる。
「……アイシャーっ!!ち、ちくしょーっ!!……くそーっ!!」
「おーほほほ!若い女の喘ぎ声……、たまらんのねー!!」
「……よだれじゅるじゅるー!なのねー!!」
「ボクらに逆らうとどうなるか分かった!?のね!」
「フーン!いい気味なのねー!バーカ!!」
「……ちくしょーっ!どうすりゃいいんだよーっ!」
縛られて何も出来ない状態のままジャミルが足をバタつかせる。
「……うわーん!オイラ達どうなるのーっ!!」
「お前ら全員纏めてサーカスに売り飛ばしてやるわい!!
覚悟しろー!なのねー!!」
「……だから何時の時代だっつーの!……何なんだよ!全然身動きとれねえ、……クソッ!!」
「……あの笛さえどうにか出来たならもしかして……、でもこれじゃ……」
アルベルトが馬鹿兄弟を睨み、悔しそうに歯噛みする……」
「アーッハッハッハハッハッハ……!!ア……、アゴ……、笑い過ぎてアゴが……、
アゴが外れたのねーっ!!」
「アニキー!!なんてかわいそうなのねー!」
「アニキー!!ないちゃうのねー!」
「……アホか……」
「ピキキキーーッ!!」
「!?」
「……スラリンっ!!駄目ーーっ!!」
アイシャが叫ぶ。スラリンが体を丸めてカシラの頭に体当たりし、
敵の群れに突っ込んできたのである。
「……痛いっ!な、何なのね!?このタマネギは!!」
しかし、速攻ですぐ子分共に捕まってしまうのであった。
「……スラリン!ダメよっ!早く逃げて!!」
「ピキー!!おねえちゃんやみんなをいじめるなーーっ!!」
「んまー、随分と勇ましいスライムなのね……、しかも言葉を喋るなんて……、
これは高く売れそうなのねー!」
番外編 恋するタマネギ 4
番外編 恋するタマネギ・4 ~スラミィ救出~
「……ピッ!?ピキィィィーーっ!!」
「面白いのねー!」
「おもろいのねー!」
子分達がスラリンの頭のトンガリを掴んで面白がってぐるんぐるん振り回す。
……見ている事しか出来ない状態のアイシャは堪らなくなり子分共に大声を出す。
「やめて!!やめてよ!!お願い!!スラリンに乱暴しないで!!」
「……やかましい小娘なのね!!お前らもう一回お仕置きしてやれなのね!!」
カシラが子分共に再びアイシャを辱めに遭わせよの命令を出したその途端……。
「おおっ!!」
「な、何だ……?」
スラリンのトンガリがにゅ~っと突然伸びカシラの股間を直撃した……。
ジャミル達は……あっけにとられ目が点になる……。
「ひぇぇーっ!なのねー!!」
「ひぇぇーっ!なのねー!!」
子分Bは慌てて笛を地面に落としてしまうのだった。
「あ?なのね」
「ピキ?」
「……痛い痛い!おまたいたたー!!なのねー!!」
「アニキー!!」
「アニキー!!」
「ピキー!ジャミルうー!」
カシラは大変な事になり、子分共も大騒ぎ。その隙にスラリンが
笛に体当たりしジャミルの方へ向けて笛を跳ね飛ばした。
「……あ、何するのねーっ!このバカーーっ!!」
「よーし!スラリン良くやったぞ!!」
ジャミルは唯一自由の利く両足で笛を思いっきり踏んづけた。
「……こんにゃろ!こんなモン壊れちまえ!!」
笛は粉々に割れ、ジャミル達を縛っていた荒縄は途端に緩くなり自由が効く様になる。
「……ハア……」
「ほどけた~……、あー、どうなる事かと思ったよお!」
「アイシャ!大丈夫か!?」
「……ジャミルーっ!」
アイシャはジャミルに駆け寄るとジャミルにぎゅっと抱きついた。
「アニキ……、これちとマズイのね……」
「ずらかろう……、なのね……」
「……仕方ないのね……、この場は退散……」
「イオラ……!!」
「きょわー!?なのねー!!」
……3馬鹿は退散しようとするが、既に時遅し。……後ろを振り向くと
詠唱準備を終えたアルベルトが凄い形相の黒い笑みを浮かべ突っ立っていた。
「……ひぃぃぃぃーっ!!」
「……させないよ……、うふ、うふふ……♡」
「ひぇぇぇーーっ!!怖いのねーーっ!!」
「ションベンジョージョーなのねっ!!」
「うふふ♡うふふ……、うふ、うふふ……」
「出た……、腹黒モード……」
「せーの、……バギマ……!!」
「きょわわわわわわわー!!」
「目ぇ回るのねー!!」
「頭おかしくなるのねー!!」
竜巻に巻かれぐるぐるドラム式洗濯機の如く高速回転するバカ3人。
「いい眺め……、うふふ……」
(やっぱりこいつは実は大ボスより危険なのかも……)
「何?ジャミル」
「何でも……」
「おねえちゃーん!」
「スラリンーっ!!」
アイシャはスラリンをぎゅっとハグしスラリンの無事を喜んだ。
「……無事で良かった……、でも……、ここの処はそろそろ引っ込めてね……」
「ピキ?」
顔を赤くしているアイシャにスラリンが不思議そうな顔をする。
「……こ、殺されるのね……、逃げ……ヒイーッ!!」
しかし、ジャミルが3人組の前に素早く回り込んだ。漸く形成逆転である。
馬鹿兄弟を追い詰めニヤニヤしながら指をポキポキ鳴らす。
「さーて、……どうしてやるかなあー……」
「おたすけをー!!なのねー」
「同じくー!!なのねー」
「↑上に同じー!!なのねー」
「……んな謝り方があるか!!」
ジャミルは背中の鞘からドラゴンキラーを抜くと3人組の服と
髪の毛を躊躇せずスパスパ切り刻んでしまった。
「……ひえー!!つるっぱげー!!なのねー!!」
「……ひえー!!スッポンポンー!!なのねー!!」
「……ひえー!!さむいのねー!!」
「……この程度で済ましてやるんだから感謝しろ!!
命があるだけでもありがたいと思いやがれ!!」
「もう……、ジャミルったら……」
「ち、ちくしょ~……、覚えてろなのね!次にあった時はタダじゃすまないのね!
お前らさっさと逃げるのね!!」
「ガッテンダ!!」
「ガッテンダ!!」
「……あ!」
3人組は地底湖に飛び込みそのまま姿が見えなくなってしまった……。
「……流されて行っちゃったみたいだけど、平気かな……?」
ダウドが心配そうに湖を覗き込む……。
「今の時期は水が冷たいぞー……、多分……、ま、知ったこっちゃねえけど……、
その内どっかに流れ着くさ……」
「アルベルトー!スラミィちゃんなおしてあげてー!」
スラリンがぴょんぴょん飛び跳ねる。
「あ、そうだ……、よし、待ってて!」
「ピ……」
アルベルトは急いでスラミィを閉じ込めていた鳥籠から解放し、
直ぐにべホイミを連呼で掛けた。
「スラミィちゃん、何とかなりそうかしら……?」
「うん、何とか間に合ったみたいだ……、可哀想に……、ホイミスライムなのに
自身の治療も出来ないほど身体が弱ってたんだね……」
「ピ……、ピィーーッ!!」
回復魔法で治療したもらったスラミィはふよふよと宙を飛び回り、
元気になった姿を皆に見せたのであった。
「ピキー!スラミィちゃーん!!」
「おー、元気になったじゃん!」
「良かった……」
「それじゃそろそろ戻ろうか、シスター様が心配してるよ、きっと……」
「長居は無用だな!」
「……やっと戻れるよおー……、今日はもう疲れた……」
4人と2匹は急いでサマンオサへと急ぐのであった。……流石にもう此処には来る事も
ないであろうと思いながら。只管サマンオサへと走る。
「ピィィィーー!」
「……その声は……、スラミィ!ああ……、スラミィなのね!」
「ピィーーー!」
スラミィの鳴き声と、元気な姿を確認し、シスターは喜びで涙を流す。
二人は再会を心から喜び、硬く抱き合うのであった。
「皆様も本当に無事で良かった……、ああ、神様……!!本当に有難うございました……、
……皆様方には本当に何とお礼を申し上げたらいいのか判りません……」
「いや、いや……」
ジャミルが笑って軽く手を振る。
「そうだわ!何も出来ませんがこれからお礼にパイを焼こうと思いますの、
良かったら召し上がっていって下さるかしら?」
「パイを焼くんですか?面白そう!あの、シスター様、
私にも是非お手伝いさせて下さい!」
「あら?アイシャさん、いいんですか?助かりますわ」
「ハイ!」
「やっぱり女の子だねえ、アイシャも」
アルベルトが一人でうんうんと頷く。
「……けど、変なモン入れなきゃいいけど……」
「何か言った!?ジャミル!!」
「……いえ……、何でもないです……」
「プッ……」
相変わらずアイシャのお尻に敷かれてばかりで立場の弱いジャミルにアルベルトが吹いた。
そして、アイシャとシスターはパイ作りの為、二人で嬉しそうに厨房へと移動した。
「?そういやスライム共がいねえな……」
「さっき2匹で仲良く外行ったよお!」
「……何?と、言う事は……」
「駄目だよ、ジャミル……」
ジャミルの考えている事を察したのかアルベルトが諭すが……。
「なんだよ、カッコつけんなよ!!オメーだって本当は野次馬根性アリアリの癖によ!」
「また悪い奴らが戻ってくるかもしれないしね……、目、はなしたら危ないよ?」
「……」
「そう言う事だ、俺らはただ見守っててやるだけだ、あくまでもイチャツキぶりを
観察したいとか、そういうんじゃないぞ?」
「……」
野次馬男3人組は2匹を見守ろうとこっそり外へ……。
番外編 恋するタマネギ 5
番外編 恋するタマネギ・5 ~ケンカの原因~
「ピーッ……」
「ピキー!ピキーピキーピキー!」
2匹は教会の裏手に回りやり取りをしている。……見つからない様、
後を追い、スライム達の恋模様……?をこっそりと遠くから見守る護衛???の皆さん。
しかし、発展しているのか難戦しているのか、今一良く分からない状況。
「……スラリン……、スライム同士の時は普通にモンスター語で喋るんだあ……」
「あー!何言ってんだかさっぱりわかんねー!!」
「よく聞き取りにくいね、さすがに……」
「ピキー!ピキキキキキー!」
「……ピーッ……、ピィー……、ピー!!」
「ピキーーー!!」
「あ!」
何が起きたのか……、スラミィがスラリンを突然ドンと突き飛ばし
スラリンはかなり遠くまでふっ飛んで行ってしまう。
「ピキー……」
スラミィはそのまま教会の中へ戻っていってしまい、後には
倒れてのびているスラリンとジャミル達3人の姿だけとなった……。
男衆は慌てて倒れているスラリンに駆け寄る。
「……これはもしかして……、失敗したと言う事ですか……?アルベルトさん……」
目が点になったままジャミルがアルベルトに尋ねる。
「ぼ、僕に聞かれましても……」
「わー!スラリンしっかりー!!」
ダウドがスラリンを助け起こすがスラリンはショックだったのか目を回していた……。
「……ピキ……」
……
男衆も大人しく教会へと戻る。……やがてアイシャとシスターが共同作業で作った
美味しそうなフルーツパイが焼き上がり、気まずい雰囲気のままお茶の時間になった。
「さあ、皆さん沢山召し上がっていって下さいね、お代わりも沢山ありますから」
「えへへ!シスター様に教えて貰って私も頑張っちゃった!」
「おいしそうだねえ~!」
「うん、頑張ったね、アイシャ!」
美味しそうな匂いにダウドとアルベルトもお皿を覗き込む。……しかし。
……ジャミルは険悪な雰囲気になりつつあるスライム2匹をちらちら横目で見ている。
事情を知らないアイシャとシスターは嬉しそうにパイを切り分けている。
「……あら?スラリンとスラミィちゃん、どうしてそんなに離れているの?
もっと近くに寄ればいいじゃない!」
「……アイシャ!」
アイシャのお節介病が発動しそうになり、慌ててジャミルがアイシャを引っ張る。
「な、何よ……?」
「ちょっと……」
「えーっ?何、何、何よー!!」
ジャミルはアイシャを外へ連れ出し、さっき見てしまった一部始終を話した。
「……そうだったの、そんな事が……、に、したって覗き見するなんて!
3人共悪趣味なんだから!!もう!!」
誤魔化す様にしてジャミルが舌を出した。
「いいわ、私が何があったのかスラリン達に聞くわ」
「お、おい……」
「だって、スラリンあんなに頑張ったのよ!?このままじゃ可哀想じゃない!!」
アイシャはズンズンと教会の中へ戻って行った。
そんな逞しい姿のアイシャを黙って見つめているジャミル……。
「……女の子って……、強ぇぇーなあ……」
苦笑しながらジャミルも後を追うのであった……。
そして、相も変わらずスライム2匹は距離を置いたまま。
……それを見たアイシャは溜息をついた。
「……私が頑張んなきゃ……、よしっ!」
拳を握りしめて気合を入れ、アイシャは2匹の側へと近寄って行く。
「スラ……」
その途端……、思いも掛けない事態が起きる……。
「ピィィーッ……」
「ん!?な、何だい……」
スラミィはフヨフヨと宙を飛び、ジャミルの側へ寄って行ったのである。
……異様に色っぽい目つきをして……。
「ピキッ!!」
「!?」
「ピィィィーッ……」
「うわ!お、おい……」
パイを口に銜えたままボーっとしていたジャミルは慌てて銜えていたパイを床に落とした。
「ピィィィーッ♡」
「おーい!何なんだよ!おいおいおい!こ、こら!やめれ!!」
「……あ、そういうオチね……」
「成程……」
ダウドとアルベルトが揃って頷く。……どうやらスラミィはスラリンでは無く、
……ジャミルの方に興味を持ってしまった様だった……。
「ピィーッ♡」
スラミィがジャミルにすりすりすり寄る。
「よせーっ!俺にはそんな趣味ねえったら!」
「ピ?ピ……、ピィーッ!」
「あ!ボクのパイ!」
スラミィはよそってあったスラリンの分のお皿からさっさとパイを回収し、
ジャミルの分のお皿へと移した。
「ピィーッ♡(沢山お召し上がりになって♡)」
「……人の話を聞いてくれ!!頼むから!!」
「……良かったわねー、ジャミル、モテモテじゃない……」
アイシャが笑った。しかしその目は冷ややかである……。
「……アイシャあー!助けてくれよー!」
「あらあら……、ジャミルさん、ウチのスラミィをお嫁さんに貰って頂けるの?」
シスターも嬉しそうにニコニコ笑う。
※騒動の再現フィルム
「ピーッ……(ダメです……)」
「ピキー!ピキーピキーピキー!(なんで、なんでぇー!スラミィちゃん、
ボクのこいびとになってよー!ボク、スラミィちゃんのことだいすきなんだよー!)」
「ピ…ピーピーピーピィー……(私にはもう心に決めた愛しいお方がいるのです……)」
「ピキー!ピキキキキキー!(そんなのかんけいないよー!ねえボクとデートしてよー!!)」
「ピーッ……、ピィー……、ピー!!(あなた……、私の話を聞いていますか……、
私には……、愛しいお方がいると言っているでしょう!!)」
「ピキー……」
再現フィルム終わり。
ジャミルはイラついて困った様に溜息をつき、テーブルを指で
トントンと叩くとスラミィを横目で見た。
「……あのな、俺は人間……、お前はモンスターなんだ、言ってる意味……、判るか?」
「ピィ?」
「……一緒には……、なれねんだよ……」
「ピィーッ!?」
「まあ、それは当たり前だけどね……」
「ねえ……」
と、アルベルトとダウド。
「ピ!ピィーッ!!ピィー!!」
「それに……、俺には……」
「!!」
ジャミルはアイシャをぐいっと自分の側に引き寄せると、頬に軽くキスをする。
「まあ……、お若い事……、いいですわねえ……」
「ピィッ!!!」
目の前で何やらやり始めた二人にシスターはぽーっとする。
「な?」
「……も、もう……、ジャミルったら……、いきなり何よ……」
頬をさすりながらアイシャが顔を赤くする。
「ピ……、ピ……、ピィィー!!」
「あらあら、お二人はとっても仲がよろしいのねえ、素敵な事ですわ」
シスターが笑った。
「ピ……」
「スラミィ、あなたの気持ちは良くわかりますよ、けれど我儘を言ってはいけませんよ」
「……ピキッ!?」
ジャミルは今度はスラリンを掴んでテーブルの上にドンと置くとスラミィと目を合わさせる。
「今回、一番頑張ったのはこいつだよ……、お前の為に一生懸命だっただろ?分るよな……」
「ピィ……」
「ジャミル……、そうよ、スラリンはスラミィちゃんを助けたくて本当に頑張ったの、
あんなに怖い思いをしてまで……」
「ピ……」
スラミィは俯き、ジャミル、アイシャ、……そしてスラリンの顔を交互に見る……。
「……ピィィーーッ!!」
「ピキッ!スラミィちゃん!!」
「ジャミル!スラミィちゃんが外に行っちゃったわ!」
「ホラ、早く行けよ……」
ジャミルが指で軽くスラリンを突いた。
「ピキ?」
「……わかんねー奴だな!早く行ってやれっつってんの!」
「ピキッ!!」
スラリンは丸い体をぼよんぼよんさせながら転がる様にして外へ飛び出して行った。
「……たく、世話の焼けるヤツラだな……」
「ふふ、人の事言えない癖にさ……、どうしようもないんだから……、
世話が焼けるのはそっちだって同じじゃないか……」
アルベルトがからかう様にしてジャミルの方を見てくすっと笑った。
「……アル、何か言ったか!?」
「なんにも~!」
「ハア、これで一段落つくといいね……、うーん、今日も疲れたよお……」
お代わりのパイも全て平らげてしまい、お腹も一杯のダウドが大きく欠伸をした。
「そうね、私達もそろそろ船に戻らないと……、ね、ジャミル?」
「ああ……」
(……あいつら別れの前にちったあ進展すりゃいいけど……)
……状況が全く進展しないまま、スラリンとスラミィに別れの時が近づく……。
番外編 恋するタマネギ 6
番外編 恋するタマネギ・6 ~またあおうね~
場所変わって再び、スライム2匹・外、教会裏。
……2匹はまるで西部劇の様に互いにじっと見つめ合う。
「ピキ……(スラミィちゃん……)」
「ピィ……(あなたも……どうせ行ってしまうのでしょう……?)」
「ピキィィィ……」
「ピィィィ……(お別れは……大嫌いです……)」
「ピキ!(スラミィちゃん、あのねあのね!)」
「ピ……」
「ピキーッ!(ボク、いまはジャミルたちといっしょにたびしてるけどいつかぜったい
また、スラミィちゃんのところにあいにくるよ!!)」
「ピィィィ……」
「ピキキー!ピキキキー!!(だってボク、スラミィちゃんのことだーいすきだもん!)」
「ピィー……」
「ピキッ!ピキー!(だからこれはかなしいさようならじゃないよ、またあおうねの
やくそくのさようならだよ!!)」
「ピ……、ピィィィィ……(スラリンさん、ありがとう……)」
……実にストレートで単純なスラリンの愛情表現ではあったもののスラミィには
スラリンの気持ちが漸く気持ちが伝わった様だった。
「……どうにか上手く纏まったみたいな雰囲気だね……」
「うん、良かったわ……」
「あーあ……、スライムでさえ春が来てるのに……、オイラは……」
ダウドが下を向き、悲観に暮れる。いつもの事である。
「ま、100年後ぐらいにはどうにかなるんじゃね?」
「……ま、極度のバカップルにはなりたくないけどお?」
「うるせーな!!この……!!」
「ちょ、声大きいってば!!しっ!」
「……んむーっ!」
「ジャミルったら……、邪魔しちゃ駄目よ……、スラリン達に聞こえちゃうでしょ……」
「んー……」
アルベルトに口を塞がれ、アイシャにも注意され……、ジャミルが顔をしかめた。
「……皆さん、本当に有難うございました……」
シスターも教会から出て来てジャミル達4人に深々と頭を下げた。
「いえ、さ、騒がしくて申し訳ないです……」
アルベルトも慌ててぺこぺこと頭を下げた。
「アハハハハ……」
「えへへへへ……」
「あの子と出会って2年……、本当の実の娘の様に育てて来ましたが
そろそろあの子の本当の幸せを考えてあげなければならない時期に
なったのかも知れませんね、……いつの間にか大人になったのね……」
……シスターは愛おしい娘の成長を感じとり、そっと目頭を擦るのであった。
「いやーまだまだ、先長いかもよ?何せさあ、ウチのスラ公の方がさ、頭が幼稚園でどうて……」
「?」
「い、いい加減で……、そろそろお暇しないと……、ね?皆……」
「……アハハハハハ……」
「……えへへへへ……」
「もがっ!もがっ!」
(……バカ……)
又アルベルトに抑え付けられ、もがいているジャミルをアイシャが横目で見た……。
……そしてスラリンとスラミィが別れ際にもう一度、またあおうねの
約束を交わし、4人はサマンオサを後にしたのだった。
……数日後……、船内、休憩室……。
「だーかーら!絶対やり方間違ってるって!塩入れ過ぎだろ!?」
「これでいーのっ!ちゃーんとシスター様の作り方見てたもん!ジャミルのバカ!」
「何だとー!?誰がバカだっ!!このジャジャ馬っ!!」
「ピキー?おねえちゃんとジャミルなにしてるのー?
またきゅうけいしつでけんかしてるのかなあー?」
「んー?アイシャがパイを焼こうとしてるみたいなんだけど、ジャミルが横から
茶々入れてあの通りさ……、スラリンも邪魔しない様にね、巻き込まれるから……」
「ちゃちゃー?おちゃー?ジャミルがおちゃいれるのー?」
「……」
アイシャはお菓子作りは結構成功する方なのだが、心配性のジャミルが
邪魔をし、カマをふっかけて騒ぎになりそうであった。
「あ、いたー!アルー!オセロしよー、オセロー!」
其処へダウドが甲板に現れる。
「この本読んでから……」
「駄目だよおー!アルは一旦本読みだすと絶対止まらないんだもの、早くー!勝負っ!」
ふんふん鼻息を荒くするダウド。どうしても勝負したいらしい。
「……はあ、しょうがないなあ……、折角の僕の大切な読書タイムが……」
アルベルトは仕方なしに本を閉じると、階段を降りて休憩室まで移動する。
……スラリンは甲板に残り、そのままぼーっと海を眺めていた。
「……こんどはいつスラミィちゃんにあえるのかなあ~……」
そして、また休憩室。
「ほぷしっ!あ……」
「!!きゃーっ!!クシャミ……、ジャミルのクシャミがーっ!!……クリームの種にーっ!!
いやーっ!!んもうーーっ!!怒ったんだからーーっ!」
「わ、わざとじゃねえんだ……、出物腫物、所構わず……」
「ジャミルの……、バカーーーーっ!!」
「ピキー、カモメさん、カモメさん」
「ハイ、なんでしょうか?(カモメ語)」
「サマンオサのスラミィちゃんへことばのおてがみをおねがいします」
「ハイ、ハイ(カモメ語)」
「ジャミルのバカはあいのことば。です、ボク、ちゃんとおべんきょうしました」
……また余計な知識を学習してしまったらしきスラリン。
「はい、わかりました、ジャミルのバカはあいのことば。ですね(カモメ語)」
「ジャミルのバカーーーーっ!!」
「……ちょっと二人とも、いい加減にしたら……?船壊れるよ……」
zoku勇者 ドラクエⅢ編 9章