待ち合わせ
諸岡はまたお姉さんにバイクを持ってかれたらしく、この暑さの中歩いての移動を余儀なくされた。
水面に揺蕩う月のようなあいつは、未だ定刻に来ることを覚えない。
「いい運動になったけどね。ほんと」
素直に、生きる。まさしく。
メニューをぼんやり眺めながら、僕はあの日あいつの隣に居たチワワのような女の子を思い出していた。
頭がずきずきと痛む。なぜ昨夜、僕は眠らなかったのか。
「幸太なんにすんの?」
「んーどうしよ」
さっきから、何も頭に入ってこない。
諸岡は最近はまったバンドの曲を一日一曲ずつ聞いている。
まるで人から良さげなチョコを貰った時みたいに。
失恋の曲は、割と好きだ。
恋らしい恋は、したことがないけど。
あのチワワが去った日、あいつは初めて僕たちの前で涙を流した。
諸岡が僕の目の前で、カタキを見るような目をしながら、チーズのかかったフライドポテトを食らっている。
素直に、生きる。まさしく。
好きなふりはできないし、嫌いなふりなどもっとできない。
嘘つけなくはないけど、わからないことはわからないと言う他ない。
賢いふりはできない。強いふりもできない。
嘘つけなくはないけど、怖いものは怖いのだから。
「来ねぇなー」
特別意味はなく、目的もなく
ただ数々の素晴らしい出来事を
胃の中で溶かしている毎日
はばたいて、おちていった
はばたいて、おちていった
地面に叩きつけられた
しばらく経つと
のそりと起き上がって
駅から少し歩いたとこにある
赤い看板のファミレスで
エビフライを食べていた
待ち合わせ