春の短歌
春立てば枯れ草の中花咲けり視線の低い君といればこそ
電線と雲しかなかったわが空に君の教えし腰赤燕が
雪の日は黒い手袋つけて行く私の闇が埋もれないよう
昼過ぎに雪は雨へと変わりたり新しき恋の一つもしたし
秀和といふ名の父を和坊と呼ぶ人置きし手の中の菓子
母ちゃんと同じ動きだ容器ごと納豆回して混ぜる仕草は
荒れ果てた空き家の隣に新しいマンションの建つ東京の端
ジジイ共のヤフコメほどの反応も得られぬ演説 日本沈没
コーヒーがただのお冷やに変わるころ君からのライン「ちょっと遅れる」
殴りかかる俺を大外刈りで投ぐ父は施設の車椅子で笑む
輝かしい未来に向かって歩き出す先生あなたもそう言われたの?
大根と豚バラ煮込んで待っている変わらぬ母の口元にしわ
あの部屋であなたと育てた青い花朝顔じゃなく薔薇だったのね
逃げ出してあくびとともに飲み込んで忘れるねこのひげは日に照る
この息が触れるくらいに近づいて何も言わないあとはいらない
沈黙の時間を埋めるフリックの音ひとつせぬスマホの画面
来る春は人を選ばず神棚の榊みどりに小さき花咲く
神棚の榊に小さき花咲けば切り花とても生きていると知る
今もまた君に会う訳探してるもう戻らない愛と知りつつ
粉塵を巻き上げたような頭虫沈みかねつる日にぞきらめく
四十年檻に飼われたコンドルは隙間を通る雀見もせず
蛍光灯さえも届かぬこの腕を伸ばして僕は月を撫でたい
わが手にはいつ咲いたのか毒の花握り潰してもまた生えてくる
いつの日か俺も食べるのか青空に鉄条網の先のアメリカ
ミャンマーで起こった虐殺なんかより隣の席の奴がムカつく
西向きの窓に埃が積もってるあなたのいない夜も吸い込め
春の短歌