甘えたいほど、、、

家出をした小学五年の冬。 薄着の外は寒く、降り続く雪はとても白かった。

第一章[始まり]

気が付けば母が泣いていた。側に近寄る私に怒鳴るでもない声で「向こうに行きなさい」と言い、父と二人で何か話していた。
数分後、兄妹三人が居間に呼ばれ父の口から離婚が決まったと知らされた。
当時小学三年の私には離婚をする理由など教えられる筈もなく、ただ呆然と話を聞いていた。
父が家を出て行ってから一週間はたっただろうか、学校から家に帰ると戸棚の硝子が割れていた。
側には酒臭い母がブツブツ良いながらうつ伏せで寝そべっている。
「ママ?危ないよ」心配して近寄る私を母は手であしらった。
その手で硝子を割ったのか、血で染まっていた。
こんな母を見たことが無かった。
いつも家族仲良く笑っていたのに、、、。
夏には小さい車にこれでもかっていう程荷物詰め込んで、ラジカセからは母の好きな『チャゲ&飛鳥』や『米米クラブ』を皆で歌いながらキャンプに行った。
反対車線を走る車の色を数えてみたり、父と一緒に魚釣って、死んでたけど野生のイルカも見た。
冬には家の横に雪で大きなお城を作って遊んで、動物の形した雲を見つけては『映画ゴッコ』と寝そべって怒られてた。
いつも家族の笑顔があった。暖かい家庭で、確かにそこには幸せが沢山あった。

母が酒浸りになってから何度目かの夜、テレビを見ていた私達姉兄の後ろから「あんな男居なくなってせいせいしたよ!!」「死んでしまえ!!」と怒鳴り声と共にグラス、灰皿、包丁が私のすぐ横を飛んで行った。
当時高校一年の姉が止めに入り、兄と私はただ呆然と立っている事しか出来なかった。

その週末のこと、フレンチトーストを母が作ってくれていた。
酒が入っていないと本当良き母である。
そんな母と姉が何か揉めていて、その後泣きながら姉が飛び出して行った。
「ねぇちゃんどおしたの?」と聞いてみたけれど「すぐ帰って来るよ」とだけ言われた。
夜になっても姉は帰って来なかった。
代わりに祖母と叔母が家にやって来て、母と一時間程深刻そうに話していた。
話が終わると母が「お姉ちゃんもう帰って来ないからね」と言った。この日から母と兄と私の三人での生活が始まった。

学校も夏休みに入った。
母は家で酒を飲むのをやめた。
その頃から頻繁に『友達』という男の人を家に連れて来たりしていた。
その人と母と三人でご飯に行ったり、公園に行ったりしたこともあった。その時の母は楽しそうで私も嬉しかった。
母の外出の回数が増え、夜遅くまで帰らない日も続いた。
その都度「ご飯買って食べて」と渡されるお金。なるべく使わないように、安いお弁当を買って来て食べたりしてた。
母が家に寄り付かなくなる少し前には、ガスが止められていてコンロが使えなかったしお風呂にも入れなかった。

夏休み半ば。母が帰ってこなかった。二日が過ぎても四日が過ぎても帰ってくることが無かった。
貰ったお金も底をつき、唯一食べれる物が卵だけになった。
電気コンロで卵焼きを作り空腹を満たす日が続いた。
一緒に住む兄ともあまり会話をしていなかった。

母が消えて一週間が過ぎた時、祖母と叔母が家にやって来た。
連絡が付かなかったので心配して様子をみに来たらしい。
母が帰って来ないと伝えると二人は少し話し込み、その日から私と兄は叔母の家に住むことになった。
次の日引越しをする為荷物をまとめに家に来た。
色んな親戚が手伝いに来ていて、私の物を勝手に持っていく。
「それ私の!」と言うと「もう必要ないでしょ?」と持っていかれてしまった。
物凄く悲しい気持ちでいっぱいになる。今にも泣いてしまいそうだったけど、ぐっと我慢した。

母の箪笥の中身を整理していた時、奥の方から無くした私の長い茶色の財布が出てきた。その財布にはお年玉も一緒にいれてあった筈なのに、中身は空っぽたった。祖母の家から盗まれた貯金箱、兄や姉の無くなったお年玉や財布。盗んだのは全て実の母親だった。


第二章[いじめ]

従兄弟の家に住み始め数日が経った。もう夏休みは終り学校が始まっていた。
変な噂になるのが嫌で、友達に何も言わず笑顔を作り学校に通っていた。
担任の先生には叔母から話があったらしく「力になるから先生になんでもいいなさいね」と言ってくれた。それでも小さい町なので両親が居ないと言う噂はあっと言う間に広まった。
同情してくれる友達。ヒソヒソ噂話を楽しむ同級生。それでも私は笑っていた。

叔母の家に帰ると色々手伝いをした。居候らしく少しでも迷惑をかけないと。以前までは年の近い従兄弟が居たので、家族ぐるみで出かけたりしていたので叔母の事を結構慕っていた。
だが平穏な日は直ぐに壊れた。

叔母の家に来て一、二ヶ月はたっただろうか。夜の八時位に叔母から居間に呼ばれた。冷たいフローリングに正座させられると、少し怒ったような感じで「今親が現れたらどうするの?」と聞かれた。
「わからない、、、」と答えると「あんたは本当母親そっくりでイライラするよ!!!」といきなり怒られた。
その後も「あんたの両親は借金を私らに押し付けて逃げたんだ。ロクでも無い親なんだよ!そんな親の事がまだ好きなのかい?」等と一時間以上も言われ続けた。一方的に責められ泣きそうになった。私が一体何をしたと言うのだろう。そんな話が毎晩続けられた。

クリスマスが来て一つ下の従姉妹と共にプレゼントを買ってもらえる事になり、デパートに見に行った。叔母から「五百円以内で学校で使える物にしなさい」と言われたので、文房具をお願いした。
従姉妹の絵理子に対しては好きな物を買って良いと言っていた。少し反発すると「居候なんだから当たり前でしょ?」と言われた。

常に実の子供と私に対する差が激しく、何か言うと居候だからで片付けられた。そんな中でも三つ上の兄は上手くやっているようだ。
お正月に貰ったお年玉も全て没収され、私のする行動にいつも目くじらを立てる叔母。

小学四年生になった頃から、少しずつ学校での私の生活態度が悪くなっていった。
授業中に抜け出したり、机を蹴り飛ばしたり、男子生徒を殴ったり。全てが嫌になって来ていた。

ある日従兄弟の長男が遊びに帰ってきた。あまり話した事が無い。すでに成人して居て自衛隊で働いていた。
夜ご飯を食べて居てる時に叔母から酷い事を言われ睨んだ。
その瞬間長男が「お前の態度なんなのよ!」と胸ぐらを掴まれ殴られ、近くにあったソファーに投げられた。叔母が「私が我慢すれば良いんだから」と止めに入った。この時から叔母の私に対する扱いが酷くなった。

ある日少しは仲の良かった絵理子が私の言葉を全て無視するようになった。と言うより家族全員が私を無視した。
何日か目に問いただすと「お母さんに明日香(私のこと)の事シカトしなさいって言われたの、、、」と言われた。
この時にもうこの家を出て行こうと決めた。

学校も殆ど授業に出なくなり、カウンセラー室に居た。たまに校長先生が心配そうに様子をみに来て居た。大人も子供も人間なんて信用出来なかった。
私に対する言葉が全て嘘に聞こえる。
唯一心の許せる親友二人とは色々語っていたが、やはり心の何処かでは疑っていた。

四年生になった今でも夜の説教は続いていた。
両親の話し、借金の話し、私に対しての否定と軽蔑。もう聞き飽きた。そんなに憎いのならばいっそう殺してくれれば良いのに。
私が壊されて行く、、、。


第三章[解放]

小学五年に上がった。家庭でも学校でも自分の居場所はなくなっていた。
ある日、中学生になっていた兄が叔母と口論していた。
拳を握りしめて今にも殴りかかりそうだった。
話が終り兄は私に何も言わず出て行ってしまった。
敵地の中の唯一の家族。
私にはこの家に一人で居ることは耐えられない。
兄が居なくなった分今まで以上に叔母からの嫌がらせが増した。

また気がつけば冬になっていた。何も変わらない日常。汚い大人達。幸せな家族。両親、、、死んでしまえば良いと思った。
毎日何故私を産んだのか?何故私はこんなめに会うのか?どうやったら叔母が死んでくれるのか?と永遠と考えていた。
腕には無数のリストカットの跡。死にたい。死にたい。死ねない。

学校に行くと流行っていたお菓子を同級生が見せびらかしてきた。おこずかいを貰っても文房具しか買わせてもらえない。
私は始めて叔母の貯金箱からお金を盗んだ。そのお金で流行っていたお菓子を買った。
そのお菓子がばれてそのお金はどうしたんだと問い詰められた。
私は自分が元々持っていたお金だと言い張ったが、顔を思いっきり叩かれ「やっぱりあの女の娘だね!盗んだんだろ?この家から出ていけ!」と怒鳴られた。
「言われなくても出て行くよ!こんなところ!!クソババアが!!!」と真冬なのにジャンバーも着ないで家を飛び出した。後ろから追いかけて来るのではないかと全速力で走り続けた。

青い空から真っ白い雪が降り続く。『今までの辛い過去も全て一緒に洗い流してくれないかな、、、。寒い。なんで私ばっかりこんな目にあうの?神様なんて信じない。不公平だ。人間は不幸と幸せは平等だとか言うけれど、不幸ばっかりだ。。。』
とめど無く涙が溢れてきた。拭いても拭いても顔は濡れてぐしょぐしょになった。
無我夢中で走り続け、気がつけば祖母の家の前まで来ていた。
チャイムを鳴らすが応答がない。
お金も行く場所もなく玄関の前で祖母が帰るのを待った。
一時間が経っても二時間が経っても帰って来ない、辺りはもう真っ暗になってきていた。
冷えと、空腹で意識が朦朧とする。
玄関の前で寝っ転がった。
「このまま死ぬのかなぁ、、、」
また涙が溢れてきた。
眠たい目を擦りながら薄れていく意識の中、遠くから鼻歌が聞こえた。

祖母がビックリしてこちらを見ていた。私にはもう動く気力も残っていなかった。
祖母に抱えられる感じで家に入った。姉と兄もその後帰宅した。
何やら三人で話している。祖母が「家に帰りなさい?」と言ったが「帰らない。あの人に逢いたく無いし帰りたくない」と、ずっと首を横に振っていた。

その後祖母は電話で叔母と話したようだ。電話を終えた祖母がこちらに来た。
「明日香、今日からばぁちゃん家に住むことになったからね?」とだけ告げて居間に戻って行った。
私はあの地獄からやっと解放された。

甘えたいほど、、、

甘えたいほど、、、

自分の今までを書いて行きたいと思って書き始めました。 文章を書くのが下手で、また漢字の間違い、意味が違ったりする部分も沢山あると思います。 それでも暖かく読んで頂ければ幸いです

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更新日
登録日
2013-01-16

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