ネガティブは酒の肴になりますか?(1:1)
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『ネガティブは酒の肴になりますか?』
◆登場人物
ホッシー(男) 本名は多分星崎とかその辺。なぜかとてもネガティブな性格。
まさか自分を好きな女性がいるとは思ってない。酒好き。
リナ(女) ホッシーの飲み友達 酒好き。大雑把な性格。
うっすらホッシーのことが気になっている。
上演時間 約10分
◆◆◆
(バーで男と女が飲んでいる)
リナ:ねぇねぇ、ホッシー。一億円当たったらどうする?
ホッシー:え? 多分、当たらないような気がしますよ。僕クジ運悪いですし。
リナ:だから、例えばの話じゃん? 飲みの席のたわいない話題じゃん?
ホッシー:ああ、なるほど。
リナ:で、当たったら何したい?
ホッシー:当たったら……そうですね。犬を飼いたいですね。
リナ:犬好きなの?
ホッシー:はい、好きです。 でも1人暮らしですし。
あ、でも飼うとなると、世話をしてくれる人も雇わないといけませんね。
……ああでも、そうなると、きっと犬は、その世話をしてくれる人に懐きますよね?
僕が触ろうとすると、嫌がって噛みつきますよね……?
……あー、一億円当たったのに、どうして僕は、こんな目に遭わないといけないのでしょうか?
リナ:(笑いながら)そこでガチで凹めるのがホッシーよね。まだ、宝くじ、買ってもいないのに。
ホッシー:そんなに笑いますか? あ、もしかしてこれをやらせたくて、宝くじがどうのって聞きました?
リナ:そう。あ、マスター、もう一杯。あ、適当におススメで。
ホッシー:そんな面白いことを言ったつもりはないんですが。
リナ:ホント、ホッシーって飽きないわ。
ホッシー:そうですか?
リナ:うん面白い。酒の肴に最高。
ホッシー:ええと、つまり、リナさんは「僕が面白いから」お酒に誘ってくれてるってことですね?
つまり、裏を返すと、面白くないと、もう誘ってくれないと言う事になり……
リナ:始まった始まった。
ホッシー:つまり僕は、面白いことを言い続ける必要があるわけで……面白い事、面白い事………ダメです、何も思いつきません!
ああ、僕は唯一の飲み友達を失うわけですね? ああ、寂しいなぁ……。
リナ:私、なんにも言ってないのになぁ。だから、そういうところが面白いんだって。
ホッシー:そうなんですか?
リナ:(マスターに)あ、ありがとうございます! (飲む)あー、お酒、美味しい!
ホッシー:お酒がまずかったことなんてあるんですか?
リナ:ないね。
ホッシー:ないですね。お酒は常に美味しいですよね。まあ、お酒からは、なんとも思われてないでしょうが。
リナ:別に思われる必要ないじゃん。むしろ何か思われてたら飲みにくい。
ホッシー:なるほど、それもそうですね。
でもですよ? 私たちみたいな酒好きは、毎日、お酒のことを考えているのに、相手になにも伝わってないと言うのも……
リナ:なんかめんどくさそうだから、その話いいや。
ホッシー:そうですか? わかりました。後で考えをまとめて資料にして送ります。
リナ:……一体、何が送られてくるの?
もういいや、なんか違う話……そだ、私以外に、飲み友達って本当にいないの?
ホッシー:いそうに見えますか?
リナ:見えない。
ホッシー:ですよね。決して人間が嫌いなわけではないんです。
が、どうにも自分から誘うのが苦手で。
だって、人から誘われると断りにくいじゃないですか?
「げ、こいつから誘われた。『また、飲みに行こうね』って社交辞令を真に受けたのかー、うざー。本当は行きたくないけど、断るのもめんどくさいし
『いいですね、予定があえばぜひ行きましょう』って返しとくか」
……ってなるかもしれないじゃないですか?
そう思うと誘うのが怖くて怖くて。
リナ:(笑いながら)普通そこまで考えないって。
ホッシー:考えないですか?
リナ:考えてそうに見える?
ホッシー:見えませんね、リナさんいつも「今日20時からいつもの店」で僕を呼びつけますもんね。
リナ:来てくれるじゃん。
ホッシー:そりゃ来ますよ。飲みたいし。
リナ:飲むのは家でも飲めるじゃん。
ホッシー:もちろん家でも飲みますよ? でも、僕だってたまには『人間と』飲みたいんです。大抵の用事は後回しにします。
リナ:後回しにしてきたの?
ホッシー:今日は後輩に押し付けてきました。
リナ:それはありがとう。
ホッシー:いえいえ、こちらこそ。
(お互い酒を飲む)
リナ:……でさ、人間は嫌いじゃないんだよね?
ホッシー:はい。
リナ:彼女は? いらないの?
ホッシー:いえ、いらなくないですよ? でも、できそうに見えますか?
リナ:見えないねぇ。
ホッシー:でしょう? 自分でもまずいなとは思ってるんです。
でも、デートとかに誘うとなると……ほら、人間って誘われると断りにくいじゃないですか……
リナ:うん、そのくだりはさっき聞いたからもういいや。
ホッシー:すみません。
リナ:じゃできたと仮定しよう。
ホッシー:いや、きっとできないんじゃないかなー?
リナ:だから、仮定の話だって言ってるでしょ。飲みの席でのたわいもない話題だってば。
ホッシー:ああ、そうか……ええと、彼女ができたらですね……うーん。
リナ:そうそう、できたら。
ホッシー:できたら……あー! ごめんなさい!
リナ:(笑いを堪えつつ)何を謝っているのか聞こうか?
ホッシー:多分、僕は、気が付かない内に、彼女の機嫌を損ねるようなことをしてしまうと思うんです。
で、いつの間にか彼女は怒っている……でも、理由を聞いても言わないんです。
でも、こういうとき放っておくと、より怒るんですよね?
……ああ、もう僕はどうすればいいのか……?
リナ:うーん、なんかそんな歌の歌詞があった気がするけどさ。その前に、なんでいきなり怒らせてる場面から入るかな。
ホッシー:(無視して)で、彼女から「もう疲れた」とかメッセージくるわけです。
あ、まずい! って思うわけですけど、でも僕はどう返したらいいか分からず、翌日になりますよね? で、数日経ちますよね?
で、一週間くらいで、長文のお別れメッセージが届く……。
リナ:実体験?
ホッシー:はい
リナ:はぁ……すぐに会いに行けばよかったのに。
ホッシー:そう! 今思えば、そうなんですよ。でも、その時は思いつかなかったんです、なぜか。
リナ:そういえば、私も、最初は、ホッシーに嫌われてるのかなー?と思ったもんね。
返信に早くて1日、だいたい3日くらいかかるしさ。
ホッシー:申し訳ありません。なるべく早く返信しないといけないとわかってはいるんですが。
リナ:知ってる。何を送っていいかわからないんだよね?
ホッシー:はい、変なことを送って、よけい嫌われたらどうしよう、って思って。
リナ:じゃさ、そんなホッシーのことを理解してくれる彼女ができたとして
ホッシー:なかなかできないと思いますけど。
リナ:だから仮定の話だってば。何回やるのこのくだり。
ホッシー:すみません。
リナ:で、その彼女との幸せな場面は想像できないわけ? 一緒に、やりたいこととか。
ホッシー:んーーやりたいこと……やりたいこと……
リナ:エッチなこと以外で
ホッシー:……なんで分かったんですか?
リナ:一応、男かなーと思って。
ホッシー:わかりました、エッチなこと以外ですよね……うーん……ご飯を一緒に食べる?
……ああでも、僕、お洒落な店とか知らないんだよなぁ……。
リナ:適当にイタリアンとかでいいじゃん。
ホッシー:適当な!?イタリアン!?ってなんですか!? どこにあるんですか!?
僕にわかるわけないでしょう!
いや、探しますよ? 探しますけどね? 駅からの道のりとか、雰囲気とか、空調はちゃんと効いてるかとか、好き嫌いないかなーとか考えている内に、当日が来る前に疲れ果ててしまうんですよね。
リナ:本当にホッシーだなぁ。適当でいいのに。
ホッシー:それは出来る人の意見ですよ! ほっといてください!
……あ、すみません、マスターおかわり!
……いいんだ、僕には酒があるから。
リナ:確かに酒はいいけどさ? 生身の女もいいよー? 触れるし。嗅げるし。おっぱいあるし。
ホッシー:それをあなたが言うんですか、一応女でしょうリナさんも。
リナ:まー、私、中身おっさんだからさ。
ホッシー:は? 何言ってるんですか? 冗談ですか? 笑うべきですか? しまった笑えない……
リナ:冗談じゃないし、笑わなくていい。
ホッシー:え? だって、リナさんのどこがおっさんですか。僕には美しい女性にしか見えません。
リナ:……へぇ?
ホッシー:はい。
リナ:じゃ、私、実はホッシーのこと好きなんだって言ったら?
ホッシー:え? ……あ! ありがとうございます! お金払った方がいいですか!?って言います。
リナ:おい! 言いながら本当に財布を出すな!
ホッシー:あ、すみません。つい。でも、女性に好きとか言ってもらえることなんて、なかなかないので。お礼した方がいいのかなって。
あ、僕もリナさんが大好きです。いつも一緒に飲んでくれて、嬉しいです。
リナ:ふーん? じゃ、付き合う?
ホッシー:あ、はい! もちろん! もう一軒行きますか? 前回と同じ店でいいですか?
あ、予約した方がいいですかね? えっと、スマホどこいった……?
リナ:(深いため息)はぁーーーー……
ホッシー:あ、あれ、なんか失礼がありました?
リナ:大失礼。
ホッシー:ええっ! すみません!
リナ:もー、よくわかってないのに条件反射で謝らないの。
ホッシー:あ、はい、すみません!
リナ:……
ホッシー:……
リナ:あのさ、
ホッシー:はい
リナ:私、今、結構幸せなんだよね。
ホッシー:はい?
リナ:人生でさ、一緒に飲んでで楽しい相手ってそんなにたくさんいないと思うの。
ホッシー:確かに。
リナ:今、こうやって、ホッシーを呼び出して、美味しくお酒が飲めてる。
ホッシー:はい。
リナ:それって、すごいことなんじゃないかなって。
ホッシー:それは、僕もそう思います。
リナ:だよね……だからいいんだけどさ
ホッシー:はい
リナ:ちなみに、私に彼氏ができたらどう思う?
ホッシー:え?
リナ:なによ?
ホッシー:(真剣に考えて)……とりあえず……2ヶ月くらいは引きこもります。
リナ:そっか。
ホッシー:はい。
リナ:じゃあ、いいや。マスターお代わり。
ホッシー:あ、僕もお願いします。
リナ:お酒来たら、乾杯しようか
ホッシー:なににですか?
リナ:そこはホッシーが考えて。なんか気の利いた乾杯の台詞を。
ホッシー:……リナさん
リナ:なに?
ホッシー:僕をいじめて楽しいですか?
リナ:うん、すごく。
【完】
ネガティブは酒の肴になりますか?(1:1)