恋した瞬間、世界が終わる 第74話「思い煩うゴジラ」
「君は、あの“ココ”なのかな?
それとも、別なココなのかい?」
男は真に迫るような眼差しで、あの娘にそう訊ねました
「ココを知っているんですか?」
わたしは注意深く、男がココを知る理由をまず確認したいと思いました
「ああ、知っているよ」
そう短く返したあと、男は云いました
「君が、ココと共同で行った物語制作について話してほしい」
この見知らぬ男は、どこまでの込み入った事情を知っているの?
わたしとココとの繋がりを知る人物を頭の中で羅列していきました。
迷ったあと、ひとつ、聞いておかなければならないことがありました。
「……GIのことも知っているんですか?」
「ああ」
ーーGIのことーーそれから思い起こされることーーそれは体ーー体の外側から、触覚としての体のざわめきーーGIに喚起された欲求が駆け抜けるーー器官としての体を潜り抜けて、あの黒いオートクチュールのドレスを身につけたわたしが何処かにいるーーマンションの地下の教会のような場所で、わたしとGIは接吻をしているーー記憶が、“新”淵にまで達しているーーGIの肌ーーあの右手ーーわたしの身体の奥に欲求がまだ疼いているーー聴いた覚えのある曲ーービリー・ホリデイの“I'm a Fool to Want You”ーーダメになる前に、話さなければならないーー
わたしはココとの物語を話すことにしますーー
「アイディアや方法は、具体的に様々な物語を作りながらもそこから喚起されるものを重要視して、模索されていきました」
「それらの中の結末では、ハッピーエンドとバッドエンドで書き分けられたね」
「はい。でも、せっかくのアイディアたちも、長くは続かず、ほとんど採用されないままでした」
「ただ、作り替えられて、ビルドアップさせていったよね?」
「はい。使い回しではありません。トランスフォームというよりも、ココはそれらを成長させていこうとしたのです」
「行き着くところまで?」
「たぶん、そうです」
「ココは、その物語の原型を“誰に”預かったのだろうか?」
「それは…」
白い服の女の人が思い浮かびました
「思い煩うゴジラみたいなものでしょうか?」
タクシーの運転手が会話に入ってきました
「なんだって?」
「何言ってるの?」
冷たい視線の中を掻い潜る運転手
「世界を必死に庇(かば)おうとするゴジラの姿です」
「庇う?」
運転手は、ガサゴソと運転席の周囲を手で探っていました
「何を探しているの?」
わたしは運転手の挙動には少しの不安があるので、まず確認のための質問をすることを心掛けてみました
少しの間があり、わたしの不安は増したので、改めて確認をすることにしました
「何をしているの? そこにスイッチでもあるの?
ゴジラでもいるのかしら?」
「ああ、ゴジラ!!」
「え、ゴジラ!?」
ゴジラの起動スイッチでもあるのかしらと思ってみたあと、さすがにそんなものはないよね…と、思い直すも、何かしらの不安が残っているわたしと、あの娘と、男が何かを察したように張り詰めた瞬間ーー
「とりあえず、みんなでビデオでも観ましょうか?」
そう言うと、運転手はカーオーディオの操作を始めました
「……ビデオ? こんな時に?」
わたしは、ひょっとして面白くない頃のゴジラを観るのかなと躊躇う
「まあ、ビデオデッキがあるところまで行かないと」
見知らぬ男は、どのゴジラを観ることにも何の躊躇いもない口調
「あのう…ゴジラって、面白いんですか?」
あの娘は、ゴジラをかつて古代シュメールに存在した怪物と云っても納得しそうな尺度のないものである口調。
でも、ギリシャ神話には怪物が出てくるのよね…神話の方が現実離れして、わたしたちの物差しでは測れない世界観があるから、古代ギリシャ人ならゴジラを空想に思わずに受け入れて敬って、神殿でも作るのかしら? 戦うのはテュポーンかしら?
「それがここにあるんですよ、お客さん」
「古代シュメールにゴジラの神殿が!?」
「何を観るんですか?」
思ったよりも現実的な尺度のあの娘が訊ねました
「メトロポリスです」
恋した瞬間、世界が終わる 第74話「思い煩うゴジラ」
次回は、3月中にアップロード予定です。