zoku勇者 ドラクエⅢ編 7章

その1

アイシャvs女海賊ボス

「はあ……、今度は海賊スか、国王とか、俺、何か色々スカウトされんなあ~……」
 
「だめぇーっ!!だめったらだめぇーっ!!」
 
ムキになってアイシャがジャミルの前に立ち、両手をばっと広げた。
 
「……何だいお嬢ちゃん、あんたもこの坊やが好きなのかい?」
 
「大好きだもん!べーだ!それに私達、もう好き同士だもん!!」
 
「……ア、アイシャ……、落ち着け……」
 
「……」
 
空気に耐えられないアルベルトとダウドが顔を赤くする。
 
「ピキー?おねえちゃん、おこってる……」
 
スラリンが不思議そうな顔をする。何故彼女が急に
怒りだしたのかは当然理解出来ていない。
 
「そうだったのかい……、でも、だからってこの子を好きになっちゃいけない
理由なんかないだろう?恋愛は自由なんだからさ」
 
「ええーっ!?」
 
「お、おい……」
 
「……あたしはあんたに惚れちまったんだよ……、ジャミル……」
 
「……な、なっ!?」
 
「お頭あ!!」
 
「……どうだい……、?あたしの胸はサ……」
 
「わ!」
 
女ボスがいきなり服を脱ぎ始めた。ジャミルの顔の前まで巨乳を近づける。
 
「お頭あ!やめて下さあーい!」
 
「……そこの発展途上国のお嬢ちゃんよりよっぽどいい身体してるだろ……?」
 
「!」
 
「ダウド!見ちゃ駄目だよーっ!!」
 
「え?え?え?」
 
アルベルトが必死でダウドの両目を隠す。……4人は大パニックになった……。
 
「やめろーっ!んなモン見たくねえーっ!!」
 
「照れなくたっていいじゃないのさ……、ん……、もう……、ウブだねえ、……坊や…、
男の子なんだもの、興味ない筈ないだろ?……ねえ……」
 
「……て、照れてねえっ……あうぎゃあーーっ!!」
 
女ボスが嫌がるジャミルの体を無理矢理捕まえる。
 
「フフ……、これを覚えたらやみつきだよ……?フフフ……」
 
「や……やめ……うぷぷぷぷぷ!」
 
顔を胸と胸の間に挟まれてしまいジャミルは息が出来なくなり慌てる。
 
「やめてえーっ!このオバンーっ!!」
 
「……オバン……?」
 
アイシャの大声に女ボスが反応し、やっとジャミルを放した……。
 
「……平気かい?」
 
「あー、苦しかった……」
 
アルベルトがジャミルの表情を覗うが、顔は赤く、……少し鼻血が出ていた……。
 
「私だってねえ……、私だって……!」
 
「……こらーーっ!よせーーっ!!やめ……うわーーっ!!」
 
錯乱アイシャによる……、まな板おっぱいポロリ、ジャミルへ第2攻撃発動……
 
ピーーーーーーーーーーッ……
 
 
暫くお待ちください、……只今電波の試験中……
 
「胸はちっちゃいけど……、愛はいっぱいだもん!」
 
「……あーあ……、ジャミルが大出血で鼻血吹いて倒れちゃった……」
 
意外とダウドは動じず冷静であった……。しかし。
 
「ダウドサーン……」
 
「!アルう!?」
 
「ミーもコーフンシテハナヂダシテシマッタヨ~……」
 
「な、何かアルも興奮して混乱してるし、しかも又人格変わってるし……」
 
「オパイがイパーイイパーイオパーイ、ア、メデテエナと、コーリャコリャーノコーリャコリャ」
 
「いつものアルじゃないよお!!!ううう……」
 
「ほう、貧乳小娘……、あたしに立てつく気かい!?」
 
「立てつくもん!」
 
「ほおー……、上等じゃないか……、ちょっとツラ貸しな……」
 
「受けて立つわよう!」
 
「ちょっとジャミルう!起きなよお!!みんなおかしくなってるよおー!」
 
「ふにゃ……」
 
ダウドがジャミルの頬を叩くが、ジャミルは倒れて床に伸びたまま動かない。
 
「あーもーっ!!馬鹿っ!!倒れてる場合じゃないよお!」
 
「♪ヒンニューオパーイランラランララーン」
 
(……この人が一番おかしい……)
 
「ねえ、かいぞくのおじちゃん」
 
「なんだい?、ボーズスライム」
 
「みんなおかしいからきにしないほうがいいよ」
 
「……そうだな……」
 
今日のこの場に至っては、ダウドが一番真面かもしれなかった。
 
 
そして、騒動明け、次の日。
 
 
「ねえ、ダウド、ちょっと話……、あ……」
 
「……うわあーっ!」
 
アルベルトがダウドに話し掛けようとするが、ダウドは又一目散に逃げて行ってしまう。
 
「……おかしいな……、僕……、またダウドに避けられてる……?」
 
「あ~っ……、昨日は散々な目に遭った……」
 
「よ!ジャミル、お早う!」
 
「おはよー!ジャミル!」
 
男3人が寝泊まりさせて貰った部屋にアイシャと女ボスが顔を出す。
……騒ぎの張本人女2人は和解したらしくもうケロッとしている。
 
「あたし、あんたの事はもう諦めるよ」
 
「……はあ……」
 
「こんなに可愛い彼女は滅多にいないよ!大事にしてやんな!」
 
「えへへ~」
 
「何なんだ……」
 
この二人はあの後一体、どんな勝負をしたのか……、それは等本人達しか分からない謎である。
 
「それはそうと、あたし達で出来る事があったら協力するよ、出来るだけの事はしてやるから」
 
「んじゃあ、オーブって聞いた事ねえ?」
 
「全部で6つの玉なんだけど、それを集めるとバラモスの所へ行けるらしいの」
 
「う~ん……、オーブねえ……」
 
「おーい、アホダウドー、ブツ持ってこーい」
 
「は~い」
 
ジャミルは海賊達に今手元にある数のオーブを見せた 。
 
「こんな様な玉なんだけどさ、なんか情報知らない?」
 
「お頭あ、昔盗んで来たブツの中に似たような玉がなかったスかね?」
 
「ああ、あったかも知んないね……、ちょっと地下倉庫を見てきな」
 
「へーい、見てきやーす!」
 
暫く立って……。子分が宝箱を抱えて部屋まで戻って来た。
 
「お頭あー、ありましたぜ、これです」
 
「どれどれ?」
 
子分達が持ってきた物はやはりオーブだった。ジャミル達のオーブと反応し輝き出す。
 
「あ、光ったわ!」
 
「うん、赤いからレッドオーブだね……」
 
「よし、その玉はあんた達に譲ろう」
 
「いいのかい?」
 
「それがなきゃバラモスの所へ行けないんだろ?」
 
「……あ、ありがとう」
 
又、交換条件で、何か要求されるのではとジャミルは一瞬脅えたが、
今度はその心配もなさそうであった。
 
「いいっていいって、その代わり、絶対バラモスの野郎をぶっとばしてくるんだよ!
負けたら只じゃおかないよ!」
 
「ああ!!」
 
「良かったねえ、これでオーブも3つ目だね!」
 
「ピキピキ!すごーい!」
 
ダウドとスラリンが嬉しそうに一緒に笑った。
 
「よーし、この調子で残りのオーブも見つけんぞ!!」
 
「おおーーっ!」
 
「ふふ、本当に元気なお子様達だこと……」
 
エイエイオーで気合いを入れる4人を見て、ボスはくすりと微笑んだ。

その2

ダウド、おかしくなる

「ジャミル、あんたにちょっと聞きたいんだが」
 
「何だ?」
 
「女のあたしが海賊やってるなんて可笑しいと思うか?」
 
「いや……」
 
「はっきり言っとくれよ!あたしは嘘が嫌いでね!」
 
「いや、本当だよ……」
 
「何!?」
 
「今は女でも相撲取りになれる時代だから……、なろうと思えば……」
 
「そ、そうかい……?」
 
ジャミルは無茶苦茶に答えを纏め返答するが、それでもボスは嬉しかった様である。
海賊の女首領と言う立場、色々と葛藤と苦労も多かったのかも知れない。
 
「さて、そろそろ行くか!」
 
「ジャミル、ちょっとお待ちよ、あたしが知ってる旅の情報を教えるよ」
 
「ん?……本当かい?助かるよ!」
 
船への移動の際に、自分に出来る最後のアドバイスとして、
ボスはジャミル達に色々と情報を教えてくれた。
 
「ああ、こっから先、ずっと南へ行くとルザミって言う小さい島があるんだ、行ってみな、
それから、これは最近仕入れた情報だが、スーの南に不思議な笛が隠されている塔が
あるらしいよ、何でも、吹くと探し物の在処が分る笛らしい、アンタ達の探し物は
オーブだろ?もしかしたら、その笛とやらが助けてくれるかも知れないよ、良かったら其処も行ってみな」
 
「わかった!有難う」
 
「……いいんですか?食糧までこんなに頂いてしまって……」
 
申し訳なさそうにアルベルトが恐縮する。
 
「いいんだよ、一か月ぐらいはそれで持つだろ」
 
「何から何まで有難うございます……、本当にお世話になりっぱなしで」
 
「わーい!フルーツ、フルーツう♡」
 
「肉ぅー、肉ー!!」
 
「おやつ、おやつー!!」
 
(……たく……、本当に……、あいつらは……)
 
「あ、ど、どうも……、騒がしくてすみません……」
 
「はは、元気があっていいじゃないか」
 
「ハア……」
 
「ボウズ達、気を付けて行けよ!頑張れ!」
 
「また何時でも遊びに来いよ!元気でな!」
 
海賊達もジャミル達にエールを送り、一行を見送る。
 
「んじゃまたー!!」
 
船は海賊の砦を出航し、再び大海原へと繰り出すのであった。
 
「次はどっから行くか……」
 
「探し物のお手伝いをしてくれる笛って言うのも気になるわね……」
 
「オイラはテドンだけは絶対やだ!」
 
「そんな事言ったって……、いずれは回らなきゃならないよ?」
 
「絶対……  や・だ  ! !皆死ね矢です!い矢・矢・矢!」
 
「……」
 
怖いのが大嫌いなダウド。余りの我儘ぷりに他のメンバーも唖然……。
どうしてもテドンは嫌らしい。
 
「今日は嫌に強気じゃねえか……、ダウド……」
 
「それじゃあ他の所から回ろ?」
 
「そうだね、テドンはいずれ又、時期を見て回ろう……」
 
「だな、……どっかのバカがうるせーかんな……」
 
ジト目でダウドを見るジャミル。しかし、ダウドは横を向き平然としていた。
 
「ねえねえアルベルト、おぱーい、いぱーいってなあに?」
 
……其処へ場の空気を乱す、スラリンの知りたがり攻撃が発動する。
 
「?」
 
「……このっ!どうしてお前は要らん事をベラベラ喋るんじゃ!このクソスライム!!」
 
「ピキー?くそってなに???ほかほかのおいしいたべもの?」
 
「だ~っ!もう~!!」
 
「スラリン、一緒に遊ぼう、絵本読んであげる」
 
「ピキー!あそぶうー!」
 
アイシャがスラリンを船室へ連れて行き、その場は何とか収まるが……。
 
「ふ~……、助かった……」
 
「ねえ、ジャミル……」
 
「さーて、俺も少し寝るかな」
 
「オイラもー!」
 
「???」
 
ジャミルとダウドは一人首を傾げるアルベルトを置いて、
自分達もそそくさとその場から逃走する。とりあえず、次の目的地の意見は纏まり
此処から一番近いルザミとやらに行ってみる事になった。そして、次の日の早朝。
又お客さんが4人の船へとやって来る……。
 
「おーい!」
 
「何だ……?……ゲ!また来た!」
 
「どうしたんですか、海賊さん達ー!」
 
「大事な事を言うのを忘れてたんだよ、はは、だから又追掛けて来ちまったワケさ」
 
「纏めて言えし、それにもっと早く言……」
 
「どうかしたのかい?」
 
「い、いいえ、何でもありません……、本当にわざわざ僕らの為に
報告に来て頂いて、ありがとうございます……」
 
「……ういっ!」
 
またアルベルトにケツを抓られるジャミル。
 
「昔、海へ出た時に彷徨っていた幽霊船を見た事があるんだよ」
 
「幽霊船?」
 
「船乗りの骨を持っていたからだと思うんだ」
 
「……ひひひ!ヒイーーッ!」
 
何だか、又話がホラーチックな方向に流れそうで、ダウドが混乱している。
 
「そいつを持ってると船が現れるのか?」
 
「ああ、骨はグリンラッドって言う地に住んでる爺さんにくれちまったから
興味があったら訪ねてみるといい」
 
「ああ、判った、……けど、まーた爺さんかあ~……、はは……」
 
「本当にわざわざ有難うございます」
 
「いやいや、玉には息抜きの冒険も必要だろ?」
 
海賊達はわざわざそれだけ伝えるとアジトに戻って行った。
本当に人の良い海賊達であった。
 
「幽霊船か……、ちょっと面白そうだな」
 
「うふふ、宝物があるかも!又冒険の場所が増えたわね!楽しみね!」
 
「?ダウド、どうしたの……」
 
アルベルトがダウドを突っ突いた。……ダウドは顔面蒼白状態で
顔と頭から煙が出ていた……。
 
「ゆーれいゆーれい……、絶対やだやだ……、やだ……いやだああああーーっ!」
 
「もしもーし、ダウド君?」
 
「ゼーハーゼーハー……」
 
「な、何……、ホラー映画の怨霊みてえなツラしてんだよ……」
 
「や~ん、ダウドこわーいっ!」
 
「これは当分無理そうだよ、ジャミル……」
 
「ったく、仕方ねえなあ……、これじゃ幽霊船も当分先になりそうだな……」
 
「……フウ~ッ!!!ハア~ッ!」


続・ダウド、おかしくなる

ジャミル達はルザミ目指して船を走らせる。正確に言うと目的地まで
船が勝手に移動してくれるのだが。本当に優秀な船である。
そして今回も船内での騒動は起る。
 
「いやー、勝手に目的地まで動いてくれるからホント楽だわ、この船」
 
ジャミルはふんふん呑気に鼻歌を歌いながら甲板で釣りを楽しんでいた。
 
「やーん、ジャミルー」
 
「どうした?アイシャ……」
 
「ダウドが怖いのー、何か変なのよう……」
 
「……は?」
 
「昨日パ二くってからどうもおかしいんだよ……」
 
「ピキー!ダウドへんー!」
 
アルベルトも気にし始め、スラリンまで騒ぎ出す。
 
「♪おいらはだうどーふだんはへたれーおいらーが怒れば円月斬ー……」
 
「……何やってんの?お前……」
 
「作曲家になろうと思って……」
 
「!?どっから持ってきたんだよ!ドラムなんか!」
 
甲板に巨大なドラムセットが設置してあり、ダウドがそれを叩いて演奏していた。
……んな物、さっきまでは全く置いてなかったのであるが……。
 
(回を追うごとに……みんなどんどんおかしくなってきてると思うのは僕だけだろうか……)
 
あんたも立派にです。
 
「俺にも叩かせろよ、面白そうじゃん」
 
「あ……、触っちゃらめえーっ!」
 
「いいだろ、ケチ!触らせろよっ!このバカっ!」
 
(……もうこの馬鹿アホ二人組はほっといてと……、手に負えない……)
 
「アイシャ、僕……、先に夕食まで休むね」
 
「あ、アル……」
 
 
           バキッ
 
           
甲板の床が抜けてアルベルトが下の階に墜落した。
 
「……そこ最近腐ってきたから気を付けてって言おうとしたのに……」
 
……普段から、殿下の船だから、船だから!丁寧に扱えと、他のメンバーにうるさく
注意していたアルベルト。自分が一番最初に船を破損した第1号人になる……。
 
……それから約二日ほどで船はルザミに到着。甲板の意味不明の
ドラムセットは放置されたままである。
 
 
ルザミ
 
 
「ここはルザミ、忘れられた島です……」
 
のっそりと、町の入り口にいたお姉さんが静かに4人に挨拶し、出迎えてくれた。
戸惑いつつも、4人もお姉さんに挨拶を返すと町の中へ。
 
「島も小さいけど村も小さいね……、家なんか殆ど見当たらないし……」
 
「こんなとこなんの用があんの……?つまんないよ……」
 
「なんだ?暴走してドラム叩いてたダウド君、つまんないなら幽霊船行くか?」
 
「じょ、情報収集だよ!、ねっ!」
 
また話がややこしくなるのでアルベルトが中に割って入った。
 
「お主……」
 
「ひえっ!?」
 
いきなり変なおっさんが現われジャミルの前に立った。
 
「わしは預言者だ、お前達が来るのをずっと待っていた……」
 
「へえ、そりゃどうも……、わざわざご苦労さんです」
 
「魔王バラモスはネクロゴンドの山奥にいる、火山の火口にガイアの剣を投げ入れよ、
さすれば道が開く筈だ……」
 
「……で、そのガイアの剣つーのは?どこ?」
 
「すまん、そこまで知らん」
 
「あ、そ……」
 
本当に其処までしか知らないらしく、預言者はそそくさと逃げた。
 
「おねえちゃん、ぼくおなかすいた」
 
「うん、もう少し我慢しようね、スラリン」
 
「ガイアの剣はサイモンと言う方が持っているそうですよ」
 
「あなたは……?」
 
アルベルトが訪ねる。
 
「私は通りすがりの者ですが、風の噂で聞いた事があります」
 
「サイモンさんを探せばいいのね」
 
「……セサミストリートにいなかったっけ……?」
 
「……」
 
「どうして君はすぐそうやって……、話を関係ない方に持っていくのかな……?」
 
「……あー腹減ったー!飯飯、メッシー!!飯の匂いがするー!」
 
食べ物を探してジャミルが何処かへ突進していった。
 
「まるで餓えた野獣だよお……」
 
4人が狭い村の中を散策していると民家から厳つい顔のおばさんがにゅっと顔を出した。
 
「おや、珍しいね……、こんなとこに見知らない人達が来るとは……」
 
「あ、どうも……」
 
「折角だから寄ってきな!ひっひっ!ご飯ぐらい出すよ、
あ、勿論お金は要らないよ、ひっひっ!」
 
そう言ってくれているので、4人は行為に甘えておばさんの家で食事を頂く事に。
しかし、タダより高い物はない。別にお金を取られるわけではなかったが、
この言葉が4人の心に後後沁みるのである。
 
「はい、スラリン、あーんして……」
 
「あ~んっ」
 
「ジャミル、実は羨ましいんでしょ…?」
 
「ダウド、このフォーク鼻の穴ん中に入れてやろうか……?」
 
「うそでーす!すいませえええーん!キャーッ!!」
 
「プッ……」
 
「もう~……」
 
「あんたら随分賑やかだけど、こんな場所に何しに来たんだい?まさか旅行?」
 
「いや、色々情報を集めてんだよ……」
 
「???」
 
 
……
 
 
「へえ……、あんた達がねえ、勇者さん達なのかい」
 
おばさんはジャミル達の旅の話にすっかり夢中になっていた。
 
「あ、そうだ」
 
おばさんはいそいそと台所に行き、4人にコーヒーを振舞う。
 
「サービスだよ、ほれホットコーヒー飲みな」
 
「あんがとな、おばさん」
 
「いい匂いがするー♡いただきまーす!」
 
アイシャがコーヒーを口に入れる。他の3人もコーヒーを口に入れた。
 
「……」
 
「……」
 
「ぐげっ……」
 
「う、うわ……、に、にが……、お、おええ……」
 
「ダウド!折角入れて貰ったのに……、失礼じゃないか!」
 
「……だってー……、う……、苦くて……」
 
「じゃあ……、アル、お前飲めや、俺の分も……、遠慮しなくていいぞ」
 
「え……」
 
「私のもあげるねー」
 
「……え……」
 
「オ、オイラのもー、どうぞ」
 
「……ええ……」
 
ジャミル、アイシャ、ダウドの3人が一斉にカップをアルベルトに向け差し出す。
 
「あーっはっはっは!やっぱり兄ちゃん達にはまだきついかねえ!いいんだよ、無理しなくて!」
 
「……ごれ……ブラッグ……?」
 
「そう、とびきりきついやつ」
 
「胃がー!胃に来るー!おおおおおおお!」
 
「……おばちゃんひどいわあーっ!」
 
ムキになって涙目になり、アイシャが必死で訴える。
 
「はは、悪かった悪かった、口直しに甘いクッキー食べないかい」
 
「あ、甘いモン……、甘いモン……」
 
ジャミルがクッキーを齧るが、何と今度は……。
 
「……うっ!あ、あまっ!」
 
「そりゃそうさ、種ン中に砂糖一袋ブチ込んだ、超スーパー・スイートクッキーだよ!」
 
「うええええええー!口ン中があまーーーーー!喉が焼けるーーーー!」
 
「あーっはっはっは!若い子をからかうと楽しいねえ!うーん!」
 
「……ジャミル……、平気……?」
 
アイシャが心配し、ジャミルに声を掛けるが、彼女も涙目で辛そうだった。
 
「……うげ……、もー、らめれーす……」
 
アルベルトは4人分のブラックコーヒーを一気飲みした為、既に気絶していた。
 
 
「はあ~……」
 
フラフラになりながら4人は民家を後にする。
 
「またおいでー!」
 
嫌味ったらしくおばさんが一向に手を振った。
 
「……二度と来るかっ!」
 
「……料理の方は味普通だったけど……、酷いよお~……」
 
「こんな辺境の地にもあんな大物がいたなんてね……」
 
「たく、なんなんだよ!あのババア!」
 
「……普段お客が来ないから……、ストレス解消にああやって
玉に来る客をからかっているのかもね……」
 
ハンカチで口を押えながらアルベルトがぼやいた。
 
「おねえちゃん、だいじょうぶ……?」
 
アイシャに抱かれたスラリンが辛そうな表情のアイシャを見上げ心配している。
 
「うん、大丈夫よ、……でも、口の中が苦いわあ~……」
 
「……畜生、まだ胃がキリキリする……」
 
「!アワワワワ……」
 
と、ダウドが急にジャミルの後ろに隠れた。
 
「どうしたんだよ」
 
「へ、変な人が……、いる……」
 
「?」
 
 
「……ブツブツ……、ブツブツ……、それでも地球は回っているのです……」

その3

それでも地球は回ってる

……ウロウロと、ブツブツ文句を言いながら路上を徘徊していたその人物は。
髪の毛はぼさぼさ、顔には無精髭、纏っているローブは薄汚れで汚い身なりのおっさんであった。
 
「おっさん、何してんだい……、大丈夫か?」
 
「……私はおっさんではありませぬ!まだ20代です!くわあーっ!!」
 
「わ、悪かったよ……」
 
ジャミルが慌てて謝る。どうやら彼はまだ若い青年らしかった……。
 
「でも、こんな所でぐるぐる回って何をしているの?」
 
「……」
 
変な青年が回るのを止め、自分の目の前に現れたアイシャをじーっと見つめた。
 
「あの……」
 
「……かわいい……」
 
「え、え……?」
 
「お嬢さん、お名前は……?」
 
「ア、アイシャです……」
 
「アイシャさんですか、可憐でお美しい……」
 
青年がアイシャの手を取りぎゅっと握り締めた。
 
「あー!何やってんだよっ!!てめえ!」
 
ヤキモチ屋のジャミルが騒ぎ出した。
 
「これから良かったら家に来ませんか?お茶くらいなら出せます」
 
「え、えーっと……、ど、どうしよう……?」
 
アイシャは困って男衆の方を見る。
 
「んじゃあ、お言葉に甘えて寄らせてもらおうじゃねーの!」
 
「あの、あなた方には言ってないんですけど……」
 
「いこーいこー!レッツゴー!」
 
「……もう……、ジャミルったら……」
 
「れっつごー!」
 
スラリンも真似をする。
 
「ダウド、僕達も行く?」
 
「ん?う、うん……」
 
暫くして歩いて行くと町の中央に汚いボロ小屋が見えて来た。
……例えるとまるで掃除の行き届いていない公衆便所の様な……。
 
「あそこが私の家です」
 
「……げ」
 
「さあ、行きましょう、あ、あなた方は別に入りたくないのでしたら
入らなくて構わないですよ、アイシャさんは行きましょうね」
 
「え、ええ……」
 
「行くよ、行きますよっ!行くに決まってんだろ!ほれほれ、お前らも
お邪魔させて貰おうぜっ!」
 
「ジャミル、幾ら何でもちょっと図々し……、あ……」
 
アルベルトが言い終わらない内に、ジャミルは当事者の青年よりも早く
勝手に家の中へと入って行った。何だか又機嫌が悪い様である。
……青年にアイシャに触られたくないのか、何だかかんだか。
やっぱりこのバカップルって何となく似てるなあ~と、ダウドは心でこっそり思う。
どうしようもなく意地っ張りでヤキモチ焼きな処とか、そっくりだなあと。
 
「何か、あの方図々しいですね、嫌、図々しいを通り越してますが!?」
 
「ハア、……ど、どうもすみません……」
 
「です……」
 
青年は残りの男衆、アルベルトとダウドに軽蔑の目を向けた。
 
「ごめんなさい、ジャミルが本当に申し訳ありません……」
 
「!わわわ、アイシャさんはいいんですよ!謝らなくて!
嫌だなあ~、もう、ははは!」
 
「はあ……」
 
青年はアイシャにだけは気を遣う。見ていたダウドは面白くなさそうな様子。
 
「あんだよお、アイシャにだけは随分態度が違うなあ!」
 
「ははは、仕方ないよ、ダウド、さあ、僕らもお邪魔させて貰おう……」
 
ブスくれるダウドを宥めつつ、アルベルト達も家の中へ……。
 
「うわ、くさっ!……何だこりゃ!?」
 
家の中には錯乱したゴミが散らかり辞書や地図、大量の本やノートでいっぱいだった。
 
「ここんとこ忙しくて、かれこれ2週間は風呂に入ってないので……」
 
「はえ!?」
 
「待ってて下さいね、今お茶を……」
 
「駄目よ!その前にお掃除しなくちゃ!」
 
「いいんですよ、どうせまたすぐに散らかりますから……」
 
「そんなんじゃ女の子にもてないわよ!」
 
「……うっ……」
 
「ほらほら、ジャミル達も手伝って!」
 
「じゃあ僕は此処のゴミを片付けようかな」
 
「面倒くせー!バーカ!」
 
「オイラ掃除嫌い!」
 
ジャミルとダウドが口を揃えて文句を言う。
 
「アル……、この二人ゴミ袋に入れて粗大ゴミに出してきて……」
 
「うそでーす!すいませーん!」
 
「お掃除しまーす!」
 
漸く掃除が終わったが時間は2時間近く掛かってしまい、
辺りはすっかり真っ暗に。掃除が終わるのをずっと待っていた
スラリンはすっかり眠ってしまっていた。
 
「疲れたあ~……、やっと終わったよお……」
 
「よくもまあこれだけのゴミ溜めたよな……、尊敬するよ……」
 
「皆さんどうも有難うございました、見違えるように綺麗になりましたね……、はあ……」
 
「ね?綺麗になると気持ちいいでしょ?」
 
「……全くです……、でも、もっと綺麗なのは……」
 
「え?」
 
「あ!どさくさに紛れてまた……!」
 
「今日くらい我慢しなよ……」
 
「……う~!!」
 
掃除開始から2時間近く立ち、時刻は夜の10時に。
 
「でもこんなに汚くなるまで部屋ん中で何やってたんだ?」
 
「研究ですよ、日々研究!」
 
「研究?」
 
「私はこの島に来る前までは天文学者をしていました」
 
「学者ぁ?」
 
「えー、凄いのね!」
 
「ははは、……まあ……」
 
アイシャに褒められ、青年が顔を赤くする。……が、次の瞬間、直ぐに顔を曇らせた。
 
「……ですが、訳あって島流しにされ、以来ずっとこの島に住んでおります」
 
「何か悪ィ事でもしたのか?」
 
「……自分の考えを譲らなかったからですよ、地面は丸くてぐるぐる回っていると言う事が
長年の研究の末、解ったのです、しかし……、信じてもらえず島流しにされました……」
 
「酷いわ……」
 
「ピキイ、かわいそう……、ひどいことするんだね……」
 
スラリンも既に目を覚まし、アイシャの膝の上。アイシャと共に悲しそうな顔をする。
 
「いいんですよ、元々根が人嫌いなんで……、静かな処ですので人もあまり来ませんし
此処に流されてむしろすっきりしてます」
 
「まあ、俺は頭悪ィし難しい事は全然分んねえけど、あんたが
そう思うんならそれでいいんじゃねえの?」
 
「……ジャミルさん……」
 
「何だよ……」
 
「……あなたはいい人です……、お友達になりましょう!ぶ、文通しませんか!?
ジャミルさん……、ジャミルさん!……ジャミルさぁぁぁん!」
 
「……うわーーっ!!」
 
今まで、ジャミルを軽蔑していた青年。ジャミルの言葉に態度を一変し、
ジャミルに飛び付いて来た。
 
「……やめろっつーの!気持ち悪ィな!!」
 
「そんな事言わないで下さいよー!」
 
「アル、あの人……、アイシャの事はもうやめたのかな……?」
 
「うーん……、ホモ毛があるみたいだね……」
 
「ピキー?」
 
「……」
 
……横でアイシャが面白くなさそうな顔をしていた。そして、
ジャミル達は青年と別れルザミを後にする。


アープの塔~不思議な笛を手に入れろ

次はスーの南に有ると言う塔に行ってみる事にした。海賊達から聞いた情報では
此処には吹くと自分達が今、探している物の在処が分る不思議な笛が眠っているらしい。
女ボスが言うにはその笛があればもしかしたら残りのオーブを探してくれる
助けになるのではないかと言う事。4人にとっては、ナジミ、シャンパーニ、
ガルナに続く、4度目の塔挑戦となる。
 
「でも、……笛が的外れだったらたらどうするのさあ~……、変なアイテムだったら……」
 
相変わらずダウドは悲観的で文句ばかり言っている。
 
「ま、そん時ゃそん時だよ、何なら止めてテドンに……」
 
「キャー!行きます、行きまーっす!塔探索、レッツ・ラごー!」
 
「おい……」
 
テドン……、の3文字が出てきた途端、ダウドは態度を変える。
どうしてもテドンには回りたくないらしい。
 
「ダウドったら……」
 
「ハア、此処は別に行かなくてもいいんだけど……、テドンは村だし、
回る必要があるからね、……これはダウドを説得するの大変かもね……」
 
困った顔をするダウド以外の3人を見て、スラリンがきょとんとした顔をする。
スラリンにとってもメンバーに加入してから4人と初めての一緒の探索冒険となる。
 
「スラリン、私達から絶対離れちゃ駄目よ、危ないからね!」
 
「ピキー、おねえちゃん、わかったー!」
 
「……おめえもだよ……」
 
スラリンに対してお姉さんぶるアイシャにジャミルがぼそっと言葉を漏らした。
 
「何っ!?何か言ったっ!ジャミルっ!!」
 
「……なんでもなーい(棒読み声)」
 
「プッ……」
 
「何してるのー!早く行こうよおーー!」
 
先に歩いて行ったダウドが手を振って皆を呼ぶ。やたらと張り切っている。
 
「へえへえ、また、ガルナの時みたいに後で泣きっ面掻くなよ……」
 
外壁側をぐるっと回って進み、中央の扉のある場所まで辿り着く。其処に……。
 
「だ、誰かいるよ……」
 
アルベルトの言葉に正面を見ると、扉の前に……、腰まである長い青髪を伸ばした、
ぼーっとした令嬢ぽい娘さんが突っ立っていた。娘は目の前の扉をしきりに見つめている。
 
「ひ!?……も、もしかして……、……ゆ、幽霊っ!?」
 
「んなワケねえだろ、足がちゃんとあんだろ……」
 
さっそく脅えてボケるダウドにジャミルが突っ込みを入れた。
 
「あの、何してるんですか……」
 
「ピキー?」
 
アイシャが聞くと、扉を見つめていた娘がゆっくりとこちらの方を振り向いた。
 
「……此処は呪われし塔、……あなた達、呪いを食らいたくなければ今すぐに
此処からすぐに立ち去りなさい……」
 
「な、……何だと?」
 
「えーーっ!?呪いの塔なのおーっ!?」
 
こういう事に真っ先に敏感で反応するダウド。娘の言葉を聞き、早くも脅え始めた。
 
「慌てんなってんだよっ!……一体何の呪いなんだ?」
 
「もしかして……、この塔で亡くなった人の呪いとか……」
 
「……ひいい~~!!」
 
ジャミルとアイシャの言葉に娘が反応し、にっこりとほほ笑んだ。
 
「……此処は、アープの塔と言います、……アー!プウ~……の塔です、
最上階まで登った者はおならが止まらなくなると言う曰くつきの呪いの塔です……」
 
「おい……、嘘つくなよ……」
 
「嘘です……、けれど、塔の名称はアープと言うのは本当です」
 
娘はジャミルの顔を見ると再びにっこり微笑む。
 
「……あの、僕達、遊びでこの塔に来たのではな……」
 
アルベルトが眉間に皺を寄せ、娘に注意しようとしたその時……。
 
「あっ……」
 
「……あぶねえっ!!」
 
娘の左右からモンスターが娘目掛けて襲い掛かって来た。族系モンスターの
マッチョな覆面マントのエリミネーター、鳥顔に足が付いている変な鳥系モンスターの
アカイライである。ジャミル達の加勢は間に合わないかも知れないとそう思った瞬間……。
 
「よいしょ。」
 
娘は片方の手で、拳を使いエリミネーターが斧で斬り付けてくる、その直前に
エリミネーターをボカリと殴り飛ばし、エリミネーターはその場に倒れる。
 
「おいこらせ。」
 
……そして、もう片方の足で器用にアカイライのデカい顔面をキックし、遠くに蹴り飛ばした。
 
「ふうう~、今、何か来ましたかしら……、何も来ませんわね……」
 
娘はそう言いながら倒れているエリミネーターを尻目に扉を開け、奥に進もうとする……。
 
「……ちょ、ちょっと待てっ!!」
 
先程まで、一体何が起きたのか分らず……、事の成り行きをぼけっと眺めていた4人。
漸く一人、我に返ったジャミルが慌てて娘を呼び止める。
 
「なんだべや?」
 
……娘はジャミルに呼び止められると奇妙な返答で返事を返した。
 
「……なんだべやじゃねーだろっ!アンタ一体何モンなんだよっ!」
 
「何モンも何も……、暇なのでこの塔をお散歩しているのです、じゃあ……」
 
……ジャミルの大声に、暫く放心状態であったアルベルト達も漸くはっとし、
急いでジャミルの側へと駆け寄る。
 
「アンタ、絶対何か冒険者職業についてんだろうっ!……じゃなきゃ、普通の一般人が
こんなとこウロウロ呑気に散歩するかよっ!」
 
「いや、私はただの……、お嬢様です……、おう、そなたは普通のお嬢様が
塔を冒険してはいけないと申すか、どうなのだ?チンコロイモ男、言うてみい」
 
艶々の美しい髪と綺麗な顔立ち、そして身に着けているフォーマルワンピース。
ただのお嬢様、そう言っている彼女にそう言われれば、確かにそうかも
知れなかったが……、先程のエリミネーターを一撃で殴ったあの拳……、
おまけにどんどんおかしくなる変な言葉使い……、どう考えてもジャミルにはこの娘が
ただのお嬢様とは思えなかったので……。
 
「てか……、誰がチンコロイモ男だっ!」
 
「この人、初めて会ったばっかなのにジャミルの事良く分かってるねえ~、凄いなあ……」
 
 
ぼかっ
 
 
「……うわああ~んっ!アルうううーー!ジャミルが殴ったあああーーっ!!」
 
「よしよし……」
 
ダウドの頭をよしよしするアルベルト。
 
「まあ、私はある目的があり、この塔に来たのは事実です……、コホン、……えーと、
このアープの塔には吹くと世界中に眠る金銀財宝の場所が分る笛が眠っていると……」
 
「えっ……!?」
 
「な、何だ……、と……?」
 
娘は急にしおらしくなり普通の言葉使いになったかと思いきや、
自分がこの塔に訪れた目的を淡々と話した。娘の言葉に驚きを隠せない4人。
しかし、ジャミル達が海賊の女ボスから聞いた話では、この塔には自分達の探し物を
探してくれる笛が有るという話であった筈だが……。
 
「う~ん、海賊さんの教えてくれた情報が違ったとか……」
 
「で、でも……、財宝の在処を探してくれる笛なんて凄いじゃん!
……オイラ、自分達の探し物よりそっちの方がいいよお!」
 
「ダウドっ、駄目よっ!私達の今探し求めている物はオーブなんだから!」
 
「ピキー、ボク、あんこのおだんごたべたい……」
 
……海賊の女ボスが教えてくれた情報と変な娘が教えてくれた微妙に違う話。探し物と財宝……。
どちらが本当の笛の情報なのだろうか。そしてジャミルも腕を組み、財宝とオーブを
頭の中で天秤に掛け始める……。それにしても、突然現れたこの奇妙なヘンテコお嬢は何者……。

その4

アープの塔~スラリンとおかしなお嬢様

「……そう言う訳で、あなた方には私の邪魔をしないで貰いたいのです……、
塔に有る笛を手に入れるのはこの私なんでごんす……、お迎えでゴンス」
 
「……」
 
「ジャミルっ!」
 
ぼけーっと考えていたジャミル、アルベルトの大声で我に返る。……娘が呪文の詠唱を
始めていたからである。まさか魔法まで使うとは思わなかった4人。時既に遅く、4人は
ラリホーの魔法を掛けられその場に全員倒れていた……。
 
「ふう、これでよし……、これで私の邪魔をする者は……」
 
「ピキイ……」
 
「あら……」
 
……娘は唯一魔法が効かなかったスラリンをじっと見つめた。
スラリンは倒れてしまい、動かない皆の側でオロオロしている……。
 
「あなたは魔法が……、そうね……、モンスターだから効き難かったのかしら……」
 
「ピ、ピキイ~……」
 
 
……
 
 
「ジャミル、ジャミルっ!」
 
「う、うう……」
 
「起きてよっ!大変なのようーーっ!」
 
ラリホーで眠らされていたジャミル。……今度はアイシャの大声で漸く目を覚ました。
 
「何だ?俺、確か魔法で……、お、おいっ!お前らは平気かっ!?」
 
「アイシャが一番最初にラリホーが切れて目を覚ましたみたいなんだよ、僕もどうにか今……」
 
「オイラもだよお……、ジャミルが起きたの一番最後だったみたいで……」
 
油断し過ぎた……と、ジャミルはふら付く頭を抑えながら立ち上がる。
あの娘、腕力は半端では無かった処か、魔法まで使いこなすのである。
 
「……畜生、あいつ、俺らを眠らせた隙に笛を横取りする気満々だな、そうはさせるかよっ!
世の中んなに甘くねえって事を思い知らせてやらあ!」
 
「ふ、笛の事も大事だけど……、スラリンがいないのっ!何処を探しても!」
 
「……あんだと?」
 
ジャミルはそう言いながらアイシャの方を見た。確かに……、いつもならアイシャに抱かれ、
アイシャの側をくっついて離れないスラリンの姿が見えない。
 
「ど、何処にも行く筈ないもん、……きっとあの変な人が連れて行っちゃったんだよお!」
 
「ダウド、落ち着いて……、とにかく、もう一度スラリンを探そう……」
 
「スラリン……」
 
ダウドの言葉を聞き、アイシャが不安そうな表情をした。しかし、変なお嬢様は
あくまでもこの塔にある笛が目的の筈。……もしもジャミル達が倒れている間に
彼女がスラリンを黙って連れていったのだとしたら。もうワケ判らん事態に
ジャミルの頭はメダパニ状態。
 
「もうっ、勝手にスラリンを誘拐するなんてっ!頭にくるわっ!」
 
「でも、まだあの人が連れて行ったと決めつけるのは……」
 
「アルっ!だってスラリンには私達から絶対離れちゃ駄目って言ってあるのよ!
ダウドの言う通り何処にも行かないわよっ!可愛いからスラリンを連れて行っちゃったに
ぜーったい決まってるわっ!」
 
「……うん、何考えてるか分からない様な人だったもんね、……まさか!お腹が空いて
スラリンを食べようとして連れて行ったのかもしれな……、あう!」
 
「とにかくだ、さっきの変な女を探しながら先に進もうや、スラリンも探しながらな、
もしかしたらやっぱり何処かで迷子になってるのかも知れねえかんな……」
 
余計な事を口走るダウドの口をジャミルが塞ぐ。今はこう言ってアイシャを
不安な気持ちにさせない様にするしかなかった。
 
 
……そして、ジャミル達が再び動き出した頃。塔の最上階へと続く階段の手前。
 
「さあ、ポチ、笛の匂いは分るかしら?……探しなさい」
 
「……ピキ、ボク、いぬさんじゃないよ、スライムだよ……」
 
「いいのよ、さあ、こっちを見なさい、……そうよ、あなたは犬よ、犬なのよ……、
わんわんわん、わんわんわん……、効け効け、今度は成功しろ、成功しろ……」
 
「ピキ~……」
 
……娘がスラリンの目をじーっと見つめる。……途端にスラリンの目が
ぐるぐるおめめになり、スラリンの視界が回り出した……。
 
「ボク、うしさん……、ンモ~、ブウ~……」
 
「あ、あら、……催眠術は効いたけど間違えて牛ブタにしてしまったわ、もう一回……」
 
 
……糞野郎!何処だコラーーっ!!
 
 
「あの声……!もう追い付いてきたのね、……嫌らしい連中だわモス!」
 
「ピキ~……、ピキ……」
 
ドタドタと凄い足音がし、怒鳴り声が聞こえた。どうやらジャミル達が間に合いそうである。
そして、ジャミル達の声を聞き、催眠術らしき物を掛けられたスラリンが一瞬、
元に戻りそうになるが……。
 
「あなたは元に戻ってはノーメン!……そうね、凶悪なモンスターになりなさい、
何がいいかしら、そうね……、あなたはばくだんいわ、ばくだんいわになるの……」
 
娘が再びスラリンの目を見た途端、……またスラリンの様子がおかしくなる……。
 
「ボク、ばくだんいわ……、ばくだんいわ……、ピ~キ~……」
 
ばくだんいわ。それはまだジャミル達が遭遇していないモンスター。……攻撃に耐え、
只管じっと耐えているが、追い詰められるとメガンテで自爆する最狂モンスターである。
 
「今度は成功……、こいつは完全に身も心もばくだんいわになった、いいわ、
そのまま敵味方諸共、爆発してしまえひょほ」
 
娘はそう言いながら、最上階への階段へと駆け上がり、又意味不明な
語尾を言葉の最後に付け逃走する。其処に漸くジャミル達4人が追い付く。
スラリンの無事な姿を見たアイシャは……。
 
「……スラリンっ!無事で良かったっ!」
 
「……アイシャっ、駄目だっ!スラリンに近寄ってはっ!」
 
「え……?ええええっ!」
 
スラリンに飛びつきそうになったアイシャを咄嗟にアルベルトが制した。
 
「アルっ!どうして止めるのっ!?」
 
「目つきがおかしいよ、よく見てごらん……」
 
「ど、どうして……」
 
アルベルトに言われ、アイシャも恐る恐るもう一度スラリンの様子を覗うと……、
確かに純情でない顔つきに……。いつもの可愛いまん丸目では無く、
じっと誰かを睨んでいる様な本当に可愛くない逆三角目玉になっていた。
 
「ボク、ばくだんいわ……、ちかづいたらばくはつ……、どーん……」
 
「ばくだんいわ、オイラでも知ってるよお、最新版全世界恐ろしいモノ大全集に乗ってた、
何もしないでいれば大人しいけど、突いたりするとメガンテを唱えて自爆してくるらしいよ……」
 
普段はあまり本に興味なさそうなダウドでも、変な雑誌は玉にチェックしているらしい。
 
「で、催眠術に掛けられてばくだんいわに成り切ってるってのか?……あの変な女にか?
……術を掛けられたってのか?おいおい……」
 
「多分……」
 
「だけど、成り切ってるだけで、本質はスラリンに変わりないじゃないのよ……」
 
アイシャがそう言うとアルベルトは黙って首を横に振る。
 
「それが……、凶悪な魔術催眠術を使い熟す者もこの世の中には
存在するんだよ、術を掛ける時に思い浮かべイメージした本当のその者に
生り変ってしまう……、恐ろしい術を……、スラリンのあの目つき、
身体全体から放出しているオーラ……、間違いないかも……」
 
 
「……えええーーーっ!?」
 
 
「……ガルルルル~……」
アープの塔~綱渡り場の修羅場

「スラリン……、お願い!元に戻ってっ!私よ、アイシャよ!皆もちゃんといるのよ!」
 
「ピキガル……」
 
「アイシャ、よせっ!下手に刺激したら駄目だっ!」
 
「だって、だって……」
 
アイシャは目の前のスラリンにどうしたらいいのかオロオロ。又泣きベソを
掻きだしたアイシャにジャミルも困り果てる……。
 
「アル、取りあえずこっちもラリホーを掛けて眠らせてみたら駄目か?」
 
「……う~ん、難しい処だね……、スラリンはモンスターだから効き難い場合もあるし……、
でも、何とかやってみるよ……、だから、アイシャも泣かないで……、ね?」
 
「うん……、アル、お願い……」
 
アルベルトに励まされアイシャも漸く落ち着きを取り戻した。ジャミルもダウドも
……アルベルトの魔法が効いてくれる様、ただその場で見守るしかなかった。
 
「頼む……、どうか、効いてくれ魔法よ!……ラリホー!」
 
「ガルーー!……ピ……、キー……」
 
「おおおっ!」
 
「アル、凄いよおー!」
 
どうにかアルベルトのラリホーは成功した様で、スラリンはその場即座に眠る。
しかし、先程の娘がラリホーを掛けた時にはスラリンだけは眠らせる事が出来なかった。
けれど今度は成功した様子。
 
「ふう~、な、何とか……、大丈夫だったみたいだ……」
 
「アル、有難う!……スラリンっ!……良かった……」
 
アイシャは急いで眠ってしまったスラリンに駆け寄り、そっとハグする。
 
「だけど……、今はスラリン眠ってるけど、これって根本的に何も解決してないんじゃ……」
 
ダウドが不安そうに状況を察する。確かに一時的にスラリンは眠っているが、
掛けられた催眠術はまだ解けたわけではないのだから。
 
「だからこそ、さっきの変なお嬢さんを取っちめなきゃ、術は掛けた本人なら
解ける筈だからね……」
 
「んじゃ、尚更糞女を追掛けねえとな、……スラリンが目を覚まさねえ内にな!」
 
「急ぎましょ!スラリンにこんな酷い事して絶対に許さないわ……!」
 
アイシャは爆弾と化したスラリンを再びぎゅっと抱きしめるのであった。
 
……そして、塔の最上階……。
 
「あうち……」
 
最上階では、その場に呆然と佇む娘がいた。
 
「……誰かが私の事を糞女と申した、……許せナス……、糞女と申したのは誰だこの野郎」
 
娘は顔中に血管を浮かせその場に立ち往生していた。先に進むかどうか考えているのである。
最上階の場は、ガルナの塔の時と同じ様に、綱渡り地獄であった。
周囲に張り巡らされた綱。其処を渡るらしい。しかもガルナの塔の時の倍の広さである。
 
「あのモンスターを使ってあの人達を足止めしようとしましたが……、早くしないと
此処まで来てしまいますわね、何せあの方達、異常な感じでしたし、ただの変態さん
達ではなさそうでしたし、仕方ないです、此処で立っていてもしょうがないですし……」
 
娘はブツブツ言いながらも器用に綱を渡って行く。……そして、
綱を渡っている途中である閃きを思いつく。
 
「……とにかく、先に私が渡ってしまわねば……、一番厄介そうなのは
やっぱりあの元気なお兄さんデスかしら~?」
 
それから暫く立って、お騒がせ4人組もどうにか塔の最上階まで辿り着く……。
 
「……ハア、アイシャ、スラリンの様子はどうだ?まだ眠ってるか?」
 
「大丈夫よ、まだ魔法は切れないわ……」
 
「そうか、でも早く何とかしてあの糞女をとっちめねえ……」
 
「……ああああーーっ!?」
 
「おい、ダウド、今度は何だよ!?」
 
早速聞こえてきたダウドの悲鳴。頼むから勘弁してくれやとジャミルは思うのだが……。
 
「ガルナと同じ様に綱渡りコースだね……」
 
「……うそ……」
 
アイシャもアルベルトも張ってあるアミダくじの様な綱を見て騒然。
ジャミル一人なら何とか余裕であろうが……。
 
「よし、今回は俺が一人で行って宝を取ってくる、アイシャはスラリンを頼むな……」
 
「ジャミル……」
 
アイシャは心配するが、ジャミルはこんなの屁でもねえよと言う様に笑う。
綱の向こう側に岸場は幾つか有り、宝箱もうっすらと見えている……。
ダウドは今回は自分は渡らなくていいのかと思い、ほっとするが……。
 
「気を付けてよ、ジャミル、ドジなんだからさあ~……」
 
「うるせー馬鹿ダウドっ!オメーに言われたくねえっての!」
 
内心ではジャミルを心配している。……こんな時、どうして自分は意気地のない
ヘタレなんだと……。その間にもジャミルはどんどん綱を渡りはじめる。
ジャミルが綱の中央まで辿り着いたその時……。
 
「……シャキーン……」
 
「っ!お、お前はっ!」
 
「!!」
 
先に南西の向こう側の岸まで辿り着き、隠れて様子を覗っていた娘。……4人の前に姿を現す。
 
「これ以上来ちゃ駄目、……この塔のお宝は私が頂くの……、
ちなみにこれは笛ではなかった……、博愛リング、チョーいらね」
 
「何だよ……、何考えてやがる……、まさか!」
 
娘はくすりと笑うと呪文の詠唱を始める……。アルベルトも感づく。
あれは炎系の呪文の詠唱だと……。
 
「ジャミル!急いでこっちへ戻って来るんだっ!彼女はメラミで綱を燃やす気だよっ!」
 
「ご名答ス、あんた、頭いい……、でも、もう遅いです」
 
「……わわわっ!」
 
娘の放ったメラミは既にジャミルの足元まで到達し、ジャミルがいる足場の綱を燃やしてしまう。
 
 
「……うわあああーーっ!!」
 
 
「ジャミルーーーっ!!」
 
アイシャが叫ぶ。その時にはもう、綱が無くなり足場を燃やされたジャミルは
下の階へと落下していた……。
 
「これで邪魔者消えた、後は残りのお宝を徴収するだけ……」
 
「なんて事をっ……」
 
「……許さないよおおお!」
 
アルベルトもダウドも向こう岸にいる娘を強く睨んだ……。アイシャは
放心状態であったが、やがて決意した様に立ち上がる……。
 
「アル、ダウド、私、この下に飛び降りる、ジャミルを助けに行ってくるわ、
大丈夫、きっとジャミルは無事よ……」
 
「……アイシャっ!?」
 
「また駄目だよお!無茶したらっ!!」
 
アルベルトとダウドもアイシャを止めようとするが、アイシャは眠っている
スラリンを抱いたまま黙って首を横に振った。
 
「ううん、いざないの洞窟でも、皆、私が亀裂に落とされた時に危険を承知で
飛び込んで助けに来てくれたでしょう?……私だってジャミルを助けるわ!」
 
「アイシャ……」
 
アイシャはアルベルトの瞳を見つめると再び口を開いた。
 
「ごめんなさい……、私、笛よりもジャミルの方が大事なの……」
 
「うん、アイシャの事だからそう言うと思ったよ、そうだね、笛の力を借りなくても
この先も大丈夫だしね……、僕らには最初から縁のない必要の無い物だったのかもね……」
 
「はあ、此処まで来て……、でも、仕方ないよね、オイラ達にとっては
笛なんかよりもジャミルの方がずっと大切だもんねえ!」
 
「アルもダウドも有難うっ!」
 
「うん、じゃあ……」
 
「行きますか……、だよお!」
 
3人は強く頷く。そして向こう側の岸にいる娘の方を見た。
 
「話が長いよ……、んで、話は終わったんのんかよ?」
 
娘はごろんと横に寝転がる。もはや最初の時の様な
清楚な令嬢のイメージも既に消え失せて無くなっていた。
 
「……もう、笛はあなたにあげるわ、だから今すぐスラリンに掛けた催眠術を解いてっ!」
 
娘は待ってましたとばかりに起き上がる。そして顔を赤くし、突然しおらしくなる……。
 
「分ればいいんですのよ、分れば……、分って頂ければ私も
あなた方にこんな酷い事はしなくてよ、そのケダモノを私の方に向けなさい、
催眠術を解いて差上げますわ……」
 
「本当に大丈夫かしら……、って、スラリンはケダモノじゃないわっ!」
 
アイシャは不安に駆られつつも、眠っているスラリンを
南西の岸にいる娘の方に向けた。……娘は岸の向こう側から仕切に
スラリンに向かって何やら手を振り回し、催眠術を解いている様子。
 
「……そーれ!ケダモノ、元に戻れ、戻れ……」
 
「ピキ……?おねえちゃん……?」
 
「……スラリン?……良かった……、元に戻ったのね……」
 
「ピキー?」
 
アイシャは漸く元に戻ったスラリンを抱きしめ涙を溢す。スラリンは何が起きたのか、
何故アイシャが泣いているのか良く分かっていない様であったが。
 
「さあ、あなた方は此処に用は無い筈です、……ほれ、さっさと下の階に落ちなさい、
大切なお友達が待っていますわよ……」
 
娘は最初の時の様にアイシャ達を見てにっこりほほ笑む。しかし、今の3人には
その微笑みが邪悪で不愉快に見えて仕方がなかった。
 
「言われなくても分かってるよお!アル、アイシャ、スラリン、ジャミルを助けたら
こんな塔、もうさっさと出よう!」
 
珍しくダウドが率先し、威勢よく喋る。相当頭にきている様である。
 
「そうだね、僕らはジャミルを助けたらすぐに此処を出ます、
御心配なさらず……、ゆっくり探索して下さい……」
 
「べーだ!さ、行きましょ、皆!」
 
「あらあらあら……」
 
……そして3人と1匹は堂々と先程ジャミルが落ちた先へと飛び込むのだった……。
 
「まあ、本当に野蛮人……、何かもう慣れっこってカンジ?……けど、私にだって、
やらなければいけない使命があるのですわ……、例え憎まれても……、ね……」

その5

アープの塔~今回の結末

「……ジャミル、大丈夫……?」
 
「ピキイ~……」
 
「……アイシャ……、それに……、アル、ダウド、スラリンも……」
 
下に落とされ、気を失っていたジャミルが目を覚ました。気が付くと
自分の側にはいつもの騒がしい仲間達がいた。どうやらジャミルが
墜落した場所にも足場がどうにか有り、其処に落ちたらしかった。
 
「お前ら、来てくれたのか……、て、てっ……、無茶しやがって、ホント、アホだなあ~……」
 
「ちょ、何その言い方!ジャミルに言われたくないよお!」
 
「本当だよ、可愛くないなあ~……」
 
「うるせーうるせーっ!……たくっ!節介野郎共めっ!」
 
「お互い様っ!」
 
「だよおーだ!」
 
ジャミルはダウドとアルベルトから顔を背ける。……顔を赤くして。
それを見たアイシャはくすりと笑う。本当は嬉しいのにどうしても素直になれない
ジャミルのいつもの照れ隠しだという事もちゃんと分かっているから。
 
「それにしてもここ狭い場所だねえ~、ぎゅうぎゅうだよお~……、
うっかりすると落ちちゃいそうだあ~……」
 
「大丈夫だよ、リレミトがある、さあ、早く此処の塔から脱出しよう、
あの厄介なお嬢様の邪魔をしたらいけないからね……」
 
苦笑いするアルベルト。確かにオーブの在処探しを手助けしてくれる
笛ならそれは有難いが、別にどうしても必要な物ではない。
大変であったが、これまで見つけたオーブも自分達の力で探し当てたのだから。
 
「でも、ジャミル、みんな……、ここ、たからばこがあるよ?」
 
「……何?」
 
「ええっ?」
 
スラリンが4つの宝箱を発見する。早く塔から脱出しようとしていた4人。
しかし、落とされた階にも宝箱がちゃんとあったのである。
 
「ど、どら……」
 
ジャミルが慌てて宝箱を開け……、後の3人もドキドキしながら見守る。
宝箱の中身は、ゴールド、命の木の実、ちいさなメダル、そして……、謎の笛。
 
「う~ん、またこのメダルか……、まあいいとして、命の木の実はアイシャ、
お前使えよ、HP低いからな、あとは……」
 
ジャミルは最後に残った異様な奇妙な造形の笛に注目している。……仲間達も、勿論。
 
「もしかしてこれが……、この塔の目玉の宝だって言う笛なんじゃ……」
 
「そ、そうよ!だとしたら……、私達、あの人より先に笛を手に入れられたって
言う事になるわっ!」
 
「ピキー!」
 
「わあー!じゃあ、落とされて良かったんだねえー!」
 
「……俺は正直気分が良くねえが……、まあいいや、取りあえず
笛もうっかり手に入れられちまったんだし、もう此処には本当に用はねえな、はは……」
 
ジャミルの言葉に頷く後の3人。……しかし……。
 
 
……だーめえええーーーっ!!じゃあああーーー!!
 
 
「!?」
 
突如頭上から甲高い声が響き渡る。……またあのお嬢である。
4人が上を見上げると……。時すでに遅し。声と共に4人に向け
べギラマも4人に向け発射される。4人は崩れた足場と共に更に
下へと落下するのだった……。
 
「あいててて……、俺、まーた落とされたわ、畜生……」
 
痛む腰を抑えながらジャミルが立ち上がる。他の仲間も皆無事だが、
相当機嫌が悪い様である。
 
「もうー!本当になんなのっ!幾ら何でも酷いわっ!」
 
「ピキピキピッキー!」
 
「本当だよお!……も、もう完全に頭きたっ!オイラ何が何でも
この笛渡さないよ!そう決めたよお!道具管理係のオイラが
管理しておくからっ!ジャミルもアルもいいよねっ!?」
 
「ああ……、けど、その笛持ってる限りあの女何処までも追い掛けてくんぞ……」
 
「はあ、本当にしつこい人なんだね……」
 
陰険な娘の嫌がらせ攻撃に流石のジャミルもうんざり。相手にしたくない様子。
アルベルトはアルベルトで、自分達が落とされた階の場所の確認をしている。
 
「此処は2階みたいだ……、逃げようと思えば直ぐに逃げられるけど……」
 
「そうはイカのマンタキです」
 
「……お前っ!?」
 
4人の前に再び現れる性悪お嬢。出会った時から素性も分からず、名前も名乗らず……。
性悪お嬢は4人にじりじりと詰め寄ってくる……。
 
「早く笛をよこしなさい、……さあ……」
 
「いやだよおっ!卑怯な事ばっかりしてっ!絶対にこの笛渡さないよお!」
 
「そうよっ!」
 
「ピッキー!」
 
ダウドとアイシャは笛を渡すのを拒むが……、しかし、ジャミルは……。
 
「もう、笛渡しちまえよ、ダウド……」
 
「どうしたのっ、ジャミルっ!!……こ、此処までコケにされてこのまま
引き下がるなんてオイラ嫌だよお!」
 
「お前、意外とプライドあったんだな……、けど、もうコイツとはうんざりだ、
さっさと本当に縁を切らせて貰うよ、じゃねえとこっちの身が持たねえ……、
これ以上お前らにまで危険が及ぶんなら俺はこんな笛要らねえよ……」
 
「うるさいよお!……でも、ジャミル……」
 
「ダウド、ジャミルの言う通りだよ、さっきも言った通り、その笛は
僕らにとってはきっと必要のない物なんだよ……」
 
アルベルトがダウドの肩に手を置いた。その表情は複雑そうではあったが、
本当にこれ以上、このワケ判らん危険なお嬢を相手にしていては自分達の身が
持たないと悟った上での結論である。
 
「私も了解よ……、またスラリンにおかしな事されたら嫌だもの、……ねっ?」
 
「ピキー!」
 
アイシャがスラリンをちょんと突く。アイシャもやっと納得した様子。
 
「……も、もういいよお!こんな笛っ!早くもってけどろぼー!」
 
ダウドが笛を娘の前に等々ブン投げる。笛を見た娘はにこりと笑い、笛を拾おうとするが……。
 
 
……ドドドドドド……
 
 
「こ、この音……、何の音だよお?」
 
「これは……」
 
突如塔に日々渡る地鳴りの様な騒音。……音の正体は……。
 
「おい、アル、あれって……」
 
ジャミルが息を飲み、騒音のした正面方向を見つめる。
 
「……ビッグホーンだっ!!」
 
娘の背後からヒツジ系のモンスター、ビッグホーン4体が娘目掛け
土煙を上げ物凄い勢いで今にも突進しようとしている……。
 
「……ほへ、……あ、ああああ!?わ、私に向って……、
この糞羊集団がアアッ!あああああっ!!」
 
「やべえっ!!」
 
ジャミルが叫ぶ。流石にあのスピードでは娘も避け切れず、ビッグホーンに
追突されてしまう、誰もがそう思った……。
 
「……ジャミルーーっ!」
 
「ほ……、ほへ……?」
 
アイシャがジャミルに向かって大声を出す。……間一髪、ジャミルがビッグホーンの群れに
追突されそうになった娘を抱え、救ったのであった。ビッグホーン集団は
そのまま何処かへ走って行ってしまう。
 
「……あなた、何故私を……?」
 
「何故も何も……、アンタが危ねえと思ったら咄嗟に身体が動いた、それだけの事だよ……」
 
「……おめえ、アホですか?私、笛目当てで散々あなた方の邪魔をしましたのに……」
 
「アホは余計だっ!たく!」
 
ジャミルは埃と泥を払いながら立ち上がり仲間達の元へさっさと戻る。
連中はわーわー燥いでいる。……娘はそんな4人の楽しげな様子を呆然と眺めていた。
 
「ほら、その笛必要なんだろ?早く持って行けよ」
 
「……あ!ああ~、笛、ぺしゃんこ……、私の笛、こんなになったでおます……」
 
ジャミル達も娘の方を振り返る。地面には先程のホーンの群れに潰されたのか、
笛がエライ事に……、無残な姿になっていた。
 
「何だか可哀想ね……」
 
「ふん、いい気味だよお!欲かくからだよお!」
 
「う~ん、僕らにとっても、……あの人にとっても……、手に入れたらいけない物
だったのかも知れないね……、もしかしたら……」
 
アルベルトが呟くが。ジャミルはそんなオーバーな大した笛じゃなかったんじゃねえのと思う。
今となっては、財宝を探してくれる笛だったのか、それとも……、自分達にとって
必要なオーブ探しの手助けをしてくれる笛だったのか。今となっては誰にも分らない。
 
「さ、俺らも本当に行こうぜ、あーあ、本当に今日は疲れちまったよ……」
 
「うんふふふ~ん、でも、お嬢様ハンターは諦めない、うんふふふ~!」
 
「おい……」
 
先程まで笛の残骸を見つめ、ボーっとしていた娘、再びすっくと立ち上がり、
フラフラと……、何処かへ歩いて行こうとする。
 
「今度は……、伝説の黄金の種、探すのでおま、……埋めたら金塊の木が育つ、んふふふ~……」
 
「そ、そんなのあるの……?聞いた事ないけど……」
 
「さあ~……?」
 
まーた、ワケ判らん娘の言動に苦笑いするアイシャとアルベルト……。
 
「あ、アンタら、また今度私の邪魔したらメでございますわっ!よおーーっ!!」
 
「しねえってんだよっ!いいから早く何処か行けっ!」
 
「んふふ~、んじゃまた、何処かでお会いしましょうでございます、では……」
 
「……」
 
娘は最後に。しおらしく4人に挨拶をするとその場から去っていく……。
漸く娘の姿が塔から消えた時には4人は疲れ果て……、その場に揃って座ってしまっていた。
 
「最後までなーにやりたかったんだか、素性は分かんねえし……、
ま、まーたとんでもねえのと遭遇しちまったなあ~……」
 
「……で、でも、この話のパターンだといずれまた何処かで遭遇……」
 
「怖い事言わないでよっ、ダウド!」
 
「彼女の目的が明確にはっきりしない以上……、い、いずれ補足の為に出てくる可能性が……」
 
「……アルまでっ!もうっ、やめてったらああーー!!」
 
……アープの塔にアイシャの絶叫が響き渡る。
分かっている事は、彼女は財宝目当ての自称、お嬢様ハンターだという事。
今回はこれでどうにか済んだが……、素性、名前、彼女の本当の目的……、の
解明の為、いずれ何処かでまたきっと遭遇する筈である。


テドン編~ジャミルと少女

「さーて、次はと……」
 
「テドンやだーーっ!!」
 
船に戻るなり、思い出した様に炸裂するダウドのヘタレと我儘。
 
「おめえな……、いい加減にしねえと……、海に叩き落とすぞ!?」
 
「まあまあ、ジャミルも落ち着いて……」
 
アルベルトもジャミルを宥めるが。
 
「ピキー、ねえねえ、おねえちゃん、ボク、おうたをつくりました~」
 
「なあに?スラリン、歌?」
 
アイシャとスラリンの楽しそうにお喋りする声が聞こえる。
 
「仲がいいねえ、二人は……」
 
見ているだけなら微笑ましい光景の二人にアルベルトもにっこりするが、直後……。
 
「♪ジャミルはばか~、ダウドもばか~、アルベルトもばか~、でもジャミルはもっとばか~」
 
「……」
 
「……うるせーこのウンコっ!何処が歌なんだっ!しかも何で俺が2回も出てくんだっ!!」
 
「ピキー?」
 
「ピキーじゃねええっ!!」
 
「もうっ、ジャミルったらっ!そんなにムキになって怒らなくてもいいでしょっ!!」
 
「何で僕まで巻き添え喰らって入ってるんだろう……」
 
「どうせオイラなんて……」
 
……4人がワーワー揉めている間に、既に日は暮れかかり、
結局、テドン付近まで船は近づいてしまっていた。
 
「テドンはこの辺だよな……」
 
「うん、間違いないね……」
 
「……キヤヤヤヤヤーー!!」
 
「ダウド、俺らはテドンに上陸するけど、お前嫌だったら船に残ってていいぜ……」
 
「え……、じゃ、じゃあ……、それじゃオイラ一人になっちゃうじゃない……」
 
「そう言う事だ、さ、行こうぜ、皆……」
 
「ううう~っ!一人になるのも嫌だよおーーっ!置いてかないでえーっ!
オイラも行きますよおーーっ!!」
 
我儘ダウド、結局、皆の後を追い、テドンへ一緒に同行する事に……。
 
「おっ、いらっしゃい!お客さんだね!」
 
「!?」
 
「君達、見かけない顔だねえ、何処から来たんだい?」
 
「ジャミル……」
 
アイシャが無意識にジャミルの手を取る。呆然とするジャミル達……。
確かにこの村はバラモスに滅ぼされたと聞いた。しかし、村人はちゃんと皆生きており、
村の中も別に普通に民家が並んでいる状態で何も変った処は見当たらず……。
 
「……ふう、なーんだ、魔王に殺されたなんて、みーんなうそっ……」
 
ジャミルが慌ててぱっとダウドの口を押さえた。
 
「どうなってんだよ………、訳わかんねえ……」
 
村には普通に人々が互いに行きかい皆お喋りをしている。
……通りの方から魚の焼けるいい匂いがしてきた。
時間的に何処の家も、もうすぐ夕ご飯なのだろう。
 
「やっぱり嘘だったんだよお!あーあ、心配して損した!」
 
「……うーん……」
 
アルベルトも首を傾げる。……考えても仕方がないので、もう暫く村の中を見て回る事にした。
 
「ねえ、ジャミル……」
 
「ん?」
 
アイシャがジャミルを突っついた。
 
「あそこ……、何か揉めてる……」
 
見ると、小さな女の子が少年達に何か必死に叫んで訴えている。
 
「返して!返してよ!」
 
「やだねー、おいノッポこれ川に捨ててこい」
 
「へーい!」
 
「返してーっ!」
 
「うるせんだよ、ブスっ!」
 
「あ!」
 
少年の一人が女の子の腹にケリを入れた。
 
「何やってんだよ!」
 
ジャミルが女の子に乱暴した方の少年の頭をポカリと殴った。
 
「いってーーっ!」
 
「……大丈夫?」
 
アイシャが女の子を助け起こす。女の子は苦しそうにお腹を抑え、やっと声を絞り出した……。
 
「うう……、いたい……、おなか……」
 
「……コラーーッ!」
 
ダウドがガキ共を夢中で追っ掛けて行った。
 
「……たく、あいつ自分より弱いモンだから……」
 
「お願い……、ペンダントを……、取り返して下さい……」
 
「ペンダント?……あ!」
 
ノッポと呼ばれた少年がペンダントを持ってダッシュで今にも逃げようとしている。
 
「はあ、どうしようもねえ奴らだな……」
 
「ヒ?……ヒイーーッ!?」
 
ジャミルはノッポを追掛ける。ノッポは必至で逃げようとしたが、
俊足ジャミルの足の速さに敵う筈がなかった。
 
「放せーーっ!」
 
ジャミルに首ねっこを掴まれたままノッポがバタバタと暴れる。
 
「放してやるからそのペンダント返せ」
 
「返すよ、返すよーーっ!」
 
ノッポは慌ててジャミルにペンダントを投げた。
 
「ほら、大事なモンなんだろ、しっかりもっとけ」
 
ジャミルが女の子の手にペンダントをぎゅっと握らせた。
 
「あ、ありがとう……」
 
「もーっ!女の子にこんな酷い事するなんて!許さないわよ!?」
 
腰に手を当ててアイシャが少年達を叱咤する。
 
「ちくしょーっ!覚えてろーっ!」
 
少年達は慌てて逃げて行った。
 
「ジャミル、この子大変だよ!」
 
「どうした?まだ腹が痛てえのか?」
 
「いたい……、ううう……」
 
「顔が真っ青だよお!家まで送ってあげた方がいいよお!」
 
「ほら、俺が家まで送って行ってやるから、もう少し我慢しろよ?」
 
「うん……、私のお家、靴屋さんなの、お父さんが仕事をしています……」
 
「へえ、靴屋なのか……」
 
「はい……」
 
先程まで苦しそうだった女の子はジャミルの言葉に嬉しそうに返事を返す。
少し、お腹の痛みがひけてきた様であった。ジャミルは女の子に自宅までの
道を尋ね、おぶって家まで連れて行く。
……玄関まで赴き、ジャミルがこんちわと挨拶をすると父親が血相を変え、
部屋の奥から慌てて飛び出して来た。どうやら仕事中だった様である。
 
「フィラ!どうしたんだ!またいじめられたのか!?」
 
「うん、でも今日はこのお兄ちゃん達が助けてくれたの……」
 
ジャミル達がぺこりと父親に頭を下げた。
 
「……ああ、何処の何方か存じませんが有難うございます!」
 
父親もぺこぺこ頭を下げる。
 
「礼はいいよ、早くこの子を休ませてやんなきゃ」
 
「べ、ベッド……、シーツシーツ!」
 
父親が慌ててドタドタと慌しく部屋に入って行った。
 
 
……
 
 
「フィラ、大丈夫か……?」
 
「うん、もう平気……、お腹痛いのも大分落ち着いたから……」
 
「もう少し寝かせておいてあげた方がいいと思いますよ」
 
アルベルトが毛布を掛け直してやる。
 
「フィラ、ゆっくり休みなさい……」
 
「うん、お父さん……、お兄ちゃん達もありがとう……」
 
女の子は静かに目を閉じた。側で見守っていたジャミル達もほっと一安心。

zoku勇者 ドラクエⅢ編 7章

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スーファミ版ロマサガ1 ドラクエ3 クロスオーバー 年齢変更 下ネタ オリキャラ オリジナル展開

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-02-10

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二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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