私の猫はふてぶてしくて愛おしい(0:1:1)
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『私の猫はふてぶてしくて愛おしい』
作:メイロラ (監修:はらわたぽめち)
◆あらすじ
寄り添って生きていた独りぼっちと一匹ぽっち。
でも、種族が違うからずっと一緒にはいられず……
残された飼い主と、先に逝った猫のお話。
※この作品を私の親友とその愛猫に捧げます。
◆◆◆登場人物
●リッキー 不問
なぜか関西弁で喋る葉子の飼い猫(故猫)
※関西弁はなんちゃってで可。他の方言への変更も可。
●葉子(ようこ)女
貧乏くじを引く天才、生きることが下手すぎる女。
いつも明るいようで、リッキーにしか心を許せない。
大人の顔色を窺って育ったせいか、なんでも笑いにしてごまかそうとする。
上演時間 約25分
◆◆◆
葉子:あ、もうこんな時間か、はぁ……寝なきゃ……あんまり眠くないけど
(ふとんを開けると、中に猫が寝ている)
葉子:ん? もー、リッキーったら、また私の布団で寝てー。
猫ベット買ってあげたのに、なんで私の布団のど真ん中、占領するかなー、まったく……
あーあ、また私がすみっこか……よいしょっと……じゃ、おやすみ……
(間)
葉子:(飛び起きる)……ってちょっと待って!
(ベットを飛び出して、まじまじと寝ているリッキーを見る)
葉子:え、なんで? なんでリッキーがいるの?
え、え、ちょっと待って、整理させて
……えっとえっと……あれ?
リッキー:(あくび)なんやうるさいな。
葉子:ええ!
リッキー:猫が寝てるのがわからんのか……まったく
葉子:え、え……(混乱)
リッキー:なんや
葉子:いや、なんやじゃなくて……え、え?
リッキー:まあまあ、おちつきおちつき。ほら深呼吸。
葉子:すーはーすーはー……
リッキー:落ち着いたか?
葉子:ひっひっふーひっひっふー……よし、落ち着いた……って、なるかーい!
ねぇ、なんでリッキーがいるの!?
なんで、リッキーが喋ってるの!?
なんでリッキーがいるの!?
あとなんで関西弁?
リッキー:ほんま、相変わらず、やかましいやっちゃな。
今から説明するからそこ座り。
あ、喋りにくいからワイも座らせてもらうで。どっこらせっと。
(おっさんのような座り方をする)
葉子:え……座るって「そう」座るの? 猫なのに「そう」座れるの?
リッキー:細かい事はひとまず置いといて、や。まず、なんでワイがここにおるんかって話やんな?
葉子:うん、だって、リッキーは……
リッキー:ああ、死んだな。
葉子:うん……確かに、私、看取ったよね? 葬儀も埋葬も終わってるし、なんなら、ほら、そこ……リッキーの写真の前に遺骨もあるし。
……え? え? どういうこと?
リッキー:まあまあ、落ち着き。今日でワイが死んで何日になるか覚えとん?
葉子:えっと48日?
リッキー:せや、明日で49日。でも、ここにワイがおるゆうことは、成仏できとらん、ゆうことや。
葉子:え、そうなの?
リッキー:まー、葉子は勘はええからな。ワイがまだここにおるのは感じとったやろ? これまでも、なーんとなく。
葉子:うん、おもちゃの位置が変わってたり、明らかに猫の足音したり……いるんだなーとは思ってた。
リッキー:せや、ワイはまだここにおる。けどな、あの世の担当者がいうには、49日以内に成仏せんと、何かと都合悪いねんて。
葉子:エッ、そういうものなの? 死んだことないから知らなかった。
リッキー:でや! ワイが成仏できん原因が、お前や、葉子! ビシ!
葉子:ビシ!じゃないって! ちょっと人を指ささないでよ。
いや、指じゃなくて、前足か……足で人を指すのはいいの? あれ?
リッキー:だから、細かい事はええねんて。相変わらずボケてないと死ぬ女やなあ。
けどな、ボケとる場合とちゃうねん。葉子、お前は飼い主として、ワイを成仏させる責任がある、わかるか?
葉子:……まあ、なんとなく状況はわかって来た。
にしても、リッキーって人間の言葉しゃべるようになっても、やっぱりふてぶてしいよね。
せっかく久しぶりに会えたのに、こう、感動の再会、みたいな……ないの?
リッキー:せやから! 時間ないねんて! まず葉子!
葉子:は、はい。
リッキー:バレとるで。
葉子:は?
リッキー:(小声で絞り出すように)飽きるねん……
葉子:え、なんの話?
リッキー:メシがカリカリばっかりやん!
葉子:ギクッ。そ、そんなことはないよ、猫缶もあげてた、じゃん?
リッキー:嘘つけ。皿にカリカリたっぷり盛ってから、猫缶をすこーしトッピングして、ええ感じに誤魔化したつもりなんやろうけど、ワイ思っとったで?
「ほとんどカリカリやん!」って!
食べてみてもやっぱり「口の中全部カリカリやん!」って!
葉子:ぐぬ
リッキー:もう嫌やねん! 飽きんとんねん! 頭おかしなるわ! 寝ても醒めてもカリカリカリカリ……(葉子がさえぎるまでずっと言う)
葉子:だって、だって! 仕方ないでしょ! 安いんだもんカリカリって! 栄養バランスもいいし!
リッキー:そういう人間の都合は、猫にはわからん。
葉子:ぐぬぬ、都合のいいときだけ、猫の特権ふりかざしてぇ……でもでも、ちゃんと完食してたじゃん?
リッキー:食べてやってたんや。感謝して褒めろ。
葉子:あーはいはい、えらいえらい。
リッキー:なでろ。
葉子:あー、はいはい……よしよし、この耳の下好きだよね。よしよし……
リッキー:……あーそうそう、そこそこ……あー気持ちええわ。そーもうちょっと下……ああ………
葉子:……あのー、すっかりなでられるのを堪能してるけどさ。……心残りってそれ?
リッキー:……いや、今のはむしろついでや。こっからが本題。
葉子:え、ついで? その割にはえらい熱入ってたけど……
リッキー:細かい事は置いといてや。葉子。
葉子:はい。
※この辺からシリアスな空気とコメディが混在します。
リッキー:(一拍置いて)ワイは死んだんや。
葉子:え? うん、やだなーわかってるよ?
リッキー:嘘や。
葉子:え?
リッキー:わかってない。
葉子:……いや、わかってる、よ? 一応。
リッキー:バレてるて。受け止め切れてないやろ?
葉子:……
リッキー:わかるて、ワイは葉子の猫やからな。
今でも毎朝、ワイの写真に手合わせて、猫缶供えて、水換えて、それはありがとうや。
葉子︰いやいやそれほどでも……へへ。
リッキー︰ちゃんと聞け。でもな、葉子の目が死んでんねん。
ワイがこの家で、葉子に撫でられながら死ぬ瞬間、お前、なんてゆうたか覚えとるか?
葉子:えっと……
リッキー:とぼけるな。
葉子:確か……「今までありがとう。私、もうリッキーがいなくても大丈夫」
リッキー:いっぺんどついたろか?
葉子:なんで!?
リッキー:嘘つきは泥棒猫の始まりやで? 全然大丈夫とちゃうやん。
葉子:いやーだってさぁ、リッキーを安心させようとして、必死だったというかなんというか?
リッキー:知らんわ。言うたことは守らんかい。
葉子:さーせん、わかってるよ?
(少しの間)……わかってるけど、リッキーがいないことが、思ってた以上に、堪えた……的な?
リッキー:せやろな。
葉子:家に帰ってきても、おかえりもなく「ご飯」って言ってくるリッキーがいない。
寒いときだけ膝に乗ってくるリッキーがいない。
なでろって、手にすりついて要求してくるリッキーがいない。
リッキー:葉子、それただの悪口や。
葉子:あ、ほんとだ悪口だ! まあでも、私はそんなリッキーのふてぶてしい態度に癒されてたからダイジョウブダイジョブ。
リッキー:……もうええて。ワイの前でまで、無理におちゃらけやらんでええ。
まったく、葉子、お前という奴は、本当に生きるのへたくそやな。
『生きるのへたくそ選手権』ってないんか? あったら、ぶっちぎりで優勝できると思うで?
葉子:え、そうかな? そんなに褒められると照れちゃうな!
でもさー、そこまでじゃないよ? もっと苦しい人いっぱいいるし。私、大丈夫だし。
リッキー:……そういうとこや。
葉子:え?
リッキー:いつもいつも自分のこと後回しにするのやめや。
葉子が「ただいま」って帰って来るたびに、ワイ思っとったで?
今日も他の人の苦しみとか悲しみとか、代わりに背負って帰ってきたんやなって。
真っ黒い人間の感情をいっぱい吸って、自分はぼろ雑巾みたいになって……アホちゃうか。
葉子:えー? そんなことない、と思うけど……うん、多分。
リッキー:あるんや。葉子の猫のワイがいうんやから間違いない。ほんま、ええかげんにしーな。
いつになったら自分の幸せ考えるんや。
元野良ネコのワイに言わせるとな、他の猫に、餌、譲ってたら飢え死にすんねん。
ワイにもよこせ!って自分からいかんと。それはな? 悪い事やちゃうねん。
葉子:いやいやー! 私、猫じゃないし。ちゃんと食べてるから大丈夫だよ。
リッキー:嘘つけ。
葉子:え?
リッキー:あんまり食べてないやろ? よー寝れてもない。ワイが死ぬずっと前から。
葉子:ははーバレてた? でもほら、まったく食べてないわけじゃないし、寝るときは寝てるから大丈夫、大丈夫。
リッキー:ひゃっぺんどつくぞ。
葉子:え? ひどい!
リッキー:葉子の体、限界とうに超えとる。病院いけや。なんのための健康保険やねん。
葉子:猫なのに難しい言葉知ってるね?
でもなー、今の仕事忙しいしなぁ。どんどん人辞めていくのに、代わりの人雇ってくれないし。
休みの日は、お父さんの手伝いと、おばあちゃんの介護でほとんど潰れるし。
そもそも、お給料のほとんどをお父さんに預けてるから、治療費がないっていう、はははー!
すごいね、私、八方ふさがりだ! やだ、今気が付いた、パーフェクトじゃん!
ははは……でも、しかたないしかたない。
大丈夫大丈夫。ほら、私生きてるもん。これまでもなんとかなったし、なんとかなるって。
リッキー:本気で顔面ひっかくど。
葉子:えー? さっきから飼い主に向かって、ひどくない?
リッキー:ひどいのはどっちや。ワイが病気になったときは、仕事休んで連れてってくれたやん。
猫に健康保険なんてあれへんから、治療費たっかいんに、どっかからお金借りてきて、病院連れて行ってくれたやん?
葉子:それはだって……連れていくし、なんとするよ。私はリッキーの飼い主だもん。
もっと大きな病院に連れて行けば、助かってたのかも、って今でも思う。ごめんね、連れてけなくて。
リッキー:アホか! ワイをいくつや思てんねん! 21やで!?
人間やったらびっくりするレベルで超後期高齢者や。
流石に寿命やって! それでもワイ頑張ったやろ?
葉子がワイがおらんとダメそうやったから、おちおち死んでられへん思た結果、こんな長生きしてんで?
葉子:うん、そうだね。わかってる。
リッキー:いや、わかってへん。ワイは葉子を引きずって病院連れていかれへんねん。
ただ、さっさと行けや!って思う事しかできん。
だから成仏もできんとここにおる、この意味わかるか?
あの世の担当者が言うにはな、49日過ぎても成仏できんかった猫は、化け猫になるらしい。
ほら、テレビであった「祟り神(たたりがみ)」? あんな感じや。人格ならぬ猫格(ねこかく)をなくして漂うだけの存在になんねん。
葉子:………
リッキー:怖い事考えてるやろ?
葉子:え? ううん! 考えてないよ! 怖い事なんて。
リッキー:葉子……
葉子:でもさ、あの「祟り神」? よく見たら愛嬌あると思わない?
リッキー:ほらやっぱり……
葉子:私は、リッキーが化け猫でも、祟り神でも、気にしないよ? ちょっと肩とか重いかもしれないけど、その分餌代かからなくて差し引きゼロ、みたいな?
リッキー:葉子! ええかげんにせい!
葉子:……
リッキー:アカン。ワイがいやや。
葉子:私は、なんでもいいから、リッキーに居て欲しい。
リッキー:ダメや。
葉子:……
リッキー:そうはしてやれん
葉子:ねぇ、リッキー、じゃあさ……
リッキー:アカン!
葉子:……
リッキー:それだけは却下や。
葉子:まだ何も言ってないよ。
リッキー:言わんでもわかる。ワイと一緒に来たいんやろ?
葉子:うん。
リッキー:ダメや。葉子はまだ幸せになってないやん。ワイやのうて、猫やのうて、人間の誰かと幸せになり。
葉子:(うつむいて少しの間)やだよ……人間、こわいもん。リッキーと一緒がいいよぉ……
リッキー:わかっとる。よーわかっとる。本当に本当によーわかっとるんや。
残酷なことゆうてんのも、よーわかっとる。
葉子:……ちょっとさ、疲れちゃって。
映画とか本とかではさ、こういうどん詰まりの人間って誰か助けてくれるんだけどね。
私のところには来ないみたい。
みんな「いつでも相談して」って言う癖に、いつもなぜか私が愚痴や悩みを聞く側になってるんだよね。
「生きていればいつかいいことがあるよ」とか「気にしなければいいよ」とかみんなみんな口ばっかり。
リッキー:「止まない雨はない」とかやろ? 今、降ってる雨をどうにかしてくれ! ちゅう話やな。
葉子:そう。よくわかるね?
リッキー:いつも聞いてたやん。葉子、ワイの前でしか泣き言言わへんから。
葉子:え、あれ聞いてたの? いつも爪研いだり、おもちゃで遊んだり、ゴミ箱漁り始めたり……まったく聞いてないと思ってた。
リッキー:猫聞きの悪い。聞いとったわ。……だから、わかっとる。全部。
葉子:うん……だから……やっぱりリッキーと一緒に逝っちゃダメ?
リッキー︰ダメや。
葉子:やだよお、置いてかないで。人間の中で私を一人にしないで。
リッキー:やからアカンて。ワイはな、幸せやった。葉子の猫になれて、だから葉子にも幸せになって欲しいんや。頼むから分かってくれ。
ダメや。絶対に。
(間)※葉子は泣いていてもいい
葉子:……ねぇ、そういえばさ、聞きたかったんだけど。
リッキー:なんや。
葉子:初めて会ったの、公園だったよね?
まだ私子供でさ。家に帰りたくなくて、集まって来た野良ネコ達と遊んでた。
でもさすがに帰らないとまずい時間になって、帰り始めたら、リッキーだけが付いてきたじゃない? あれ、どうして?
リッキー:餌くれるんかな?と思ったんや。
葉子:え、それだけ?
リッキー:まあ、あと……同じ匂いしたんやな。コイツも独りぼっちなんやな、って。
ワイの母猫な、餌、探しに行ったきりもどってこんかってん。
葉子:そうだったんだ。
リッキー:でもほら、ワイってかわいいやん?
だから、飢え死に寸前で、通りかかった子供に、拾われてな。
で、何年かその家で飼われてたんやけど……引っ越し先が動物飼えへんとかでな……また、あの公園に捨てられてん。
葉子:そんな……。
リッキー:段ボールに入れられてな
「ごめんな。絶対、ええ人に拾われるんやで」
って、当時の飼い主が、ボロボロ泣きながらゆうとったな……。
その後、車で遠ざかっていくのを、見えんくなるまで、ずっーと眺めてたんを今でも、よー覚えとる。
葉子:何それ勝手すぎる! リッキーを何だと思ってるの!?
リッキー:似とるやろ?
葉子:え?
リッキー:葉子の親に。
葉子:……うん、似てる。私の母親もさ、最後に私を抱きしめて泣きながら
「弱いお母さんでごめんね、幸せになってね」って。
1人でスーツケース引いて遠ざかっていくのを、ずっと見てた。
泣いて縋ろうとは思わなかったな。子供心に、無駄だって、わかってたし。
はは……本当に、似た者同士だったんだね、私たち。
リッキー:一緒にすんなや。ワイは野良ネコとしてしぶとく生きとったし、ちゃっかり葉子の猫に収まったから、えらいやろ?
葉子も、ワイみたいに、しぶとく、ふてぶてしく生きい。
葉子:はは……できるかな?
リッキー:やるんや。
葉子:……自信ないなー。
リッキー:そや、せっかく来たんや、ワイの写真の前に供えてある猫缶、くれや。
葉子:え、食べるの? 今、幽霊みたいな状態なのに、食べられるの?
あ、でも今さっき、普通に触れたよね? どうなってるの?
リッキー:まあまあ、細かい事は置いといて、や。はよはよ……
葉子:いいけど……どれがいい?
リッキー:決まっとるやろ。
葉子:はいはい。『贅沢極みサーモン』だよね。ちょっと待って……
(猫缶を猫皿に出す)はい。
リッキー:(ベットから降りて)いただきます……がふがふ……
葉子:(黙って見守っている)……リッキー。
リッキー:はーうまかった。やっぱメシはこうでないと。
葉子:ごめんね、カリカリばっかりで。
リッキー:もうしゃあないから許したるわ。はぁ……くうたら眠うなってきたな。よいしょっと……
葉子:え、ちょっと私の膝で寝るの?
リッキー:なんやアカンのか。
葉子:いや、いいけど珍しいね、寒くもないのにリッキーが私の膝に乗るの。
リッキー:寒いやん。
葉子:そんなことないと思うけど。素直じゃないな。
リッキー:飼い主に似たんやな。
葉子:確かに。
リッキー:けど、一つ、嘘ゆうた。
葉子:ん? 何?
リッキー:ワイが成仏できへんのは、葉子のせいやない。ワイの問題や。
葉子:え?
リッキー:ワイかて悩んだんや。でも、葉子のためにもワイは成仏せなあかんおもてな。
せやから、今日で成仏するて、最初から決めとったんや。
葉子:そうだったんだ。
リッキー:どうせなら最後に文句言うたろ思うてな。
葉子:うそ。私の事心配してくれたんでしょ?
リッキー:さあ、どうやろう? ……というわけで、葉子。
葉子:なに?
リッキー:ワイ、先逝くわ。あの世で待っとる。
葉子:うん、わかった。
リッキー:すまんな、とは言わへんで?
葉子:え?
リッキー:ワイ猫やから。葉子と同じだけは生きられへん。それは仕方ないことや。
葉子:わかってる。
リッキー:葉子に『生きてたらいつか幸せになれる』なんて、薄っぺらい事、ワイは言えへん。
葉子:うん
リッキー:けどな、ワイが葉子に会えたように、葉子にも大事に思うてくれる人が現れへんとも、まだ決まってないんや。
だから、生きてや。しんどいやろうけど。
葉子:うん
リッキー:葉子が今まで、ワイと他の人間に向けて来た優しさを、ほんのちょっとでええ、自分に向けたってな?
葉子:……うん。そうだね。ごめんね、心配かけて。ありがとう。
今度こそ、本当に、がんばる。リッキーがいなくてもがんばる。
リッキー:ちゃうねん、がんばらんでええねん。
葉子:がんばらないことをがんばるのか……ややこしいね。
リッキー:ほんまやな、でもやるんやで。ワイとの約束や……ああ、眠うなってきた……
葉子:うん、おやすみ……
リッキー:(あくび)
(間)
葉子:あれ、朝……リッキー? ねぇリッキー!? ……はぁ、そっか夢だったのか……
葉子:……あ、猫缶一個、なくなってる……この食べ方は、リッキーだよね……
葉子:はぁ……今日は、仕事、休むか。
【完】
私の猫はふてぶてしくて愛おしい(0:1:1)