「春宵」

 雲を掴みて墮ちる者
 雲すら掴み損ねて墮ちる者
 あゝ何方にも白い羽があったものを
 太陽に魅せられたと言うでもなし
 気まぐれに遊んで居たでもなし
 ただひとり
 春宵のかほりに搖られて眼覚(めさ)めただけで
 春宵は雪どけの川
 春宵は白い大地
 春宵は青いしろめと黄色なくろめ
 春宵はあいびい絡まりし肌
 春宵は血まぶれの(かざし)
 春宵は幾重にも積まれた身体
 干涸らびたセメントの白目は
 息絶えても口を疑惑に金魚の口

 春宵は一番星の夜
 頭には星一点を
 座る土には
 墓、墓、墓を

「春宵」

「春宵」

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-02-06

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